漆黒の英雄譚   作:四季 春夏

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火を囲む七人

モモン、ナーベ、ぺテル、ルクルット、ダイン、ニニャ、ンフィーレアの七人が焚火を囲みながら座っていた。空は既に太陽が落ち闇が広がっていた。焚火のチリチリとした音と僅かな風の音が心地よく耳に響く。そんな中に七人は野営の準備を終えて夕食にありつこうとしていた。

 

「いやー!モモンさんは凄いですね。」

 

「いえ・・・皆さんならいつか出来るようになりますよ。」

 

塩漬けの燻製肉で味付けしたシチュー、固焼きパン、乾燥イチジク、クルミ等のナッツ類、それが今晩の食事であった。ぺテルの手によってシチューが各自のお椀に取り分けられる。

 

「はい。モモンさん。」

 

「ありがとうございます。」

 

(シチューか・・・)

 

モモンはお椀に入ったシチューを見る。お椀の中で揺れるそれは今の自分の心境の様であった。

 

------あなたの好きなシチューよ。-------

 

(母さん・・・)

 

モモンの脳裏に母と呼んだ人物の笑顔が焼き付く。

 

(・・・・)

 

二度と訪れることが無い日々を求めてしまう。

 

(もしギルメン村が・・『五人の自殺点<ファイブ・オウンゴール>』のメンバーが生きていたら・・・目の前にいる彼らの様に笑いあっていただろうか・・)

 

そんな夢物語みたいなことをついつい考えてしまう。

 

(ウルベル・・チーノ・・チャガ・・アケミラ・・・)

 

「・・・・」

 

「あれ?何か苦手なものでも入っていた?」

 

ルクルットがモモンに尋ねる。シチューを見るだけで食べようとしないのを見て疑問に思ったのだろう。

 

「いえ、違うんです。ただ少し昔を思い出しまして・・」

 

「昔?」

 

「昔のことですか?」

 

ぺテルが尋ねる。

 

「えぇ。」

 

沈黙が流れる。

 

「・・・・」

 

誰もが黙る。

 

(気まずいな・・)

 

「あー・・そういえば皆さんは『漆黒の剣』というチームですが、もしかして『十三英雄』の一人の『暗黒騎士』の持つ剣が由来ですか?」

 

「!っ・・えぇ。そうなんです。」

 

ぺテルが目を輝かせて答えた。

 

「『暗黒騎士』とは誰でしょうか?」

 

「ナーベちゃんは知らなくて当然か。『暗黒騎士』は『十三英雄』の一人で、悪魔の血を引くとか悪者扱いされている人物だもんな。物語では故意に隠されているしな。」

 

ルクルットのその答えにナーベは眉を顰める。

 

「あなたには聞いていません。ヤブカ。」

 

そう言われてもルクルットはいつも通り笑うだけであった。

 

「『漆黒の剣』とは『暗黒騎士』と呼ばれた人物が持っていた剣のことです。魔剣キリネイラム、腐剣コロクダバール、死剣スフィーズ、邪剣ヒューミリス。これら四本の剣が『漆黒の剣』と呼ばれているんです。」

 

「そしてそれを集めるのが俺たちの目的って訳。」

 

「はぁ・・」

 

ナーベの興味の無い反応に『漆黒の剣』のメンバーは苦笑いを浮かべる。

 

「あのー、非常に言いにくいのですが『漆黒の剣』の魔剣キリネイラムは既に持っている方がいますよ。」

 

ンフィーレアが口を開いた。

 

「えっ!?」

 

漆黒の剣たちに衝撃が走る。

 

「誰だよ。」

 

「誰ですか?」

 

「誰であるか?」

 

「一体だれが?」

 

一斉にンフィーレアに問いただす。

 

「アダマンタイト級冒険者の『蒼の薔薇』のリーダーの方です。」

 

「あー!王国の・・」

 

「これで残るは三本であるな。」

 

「あー、どうしよう。」

 

全員が意気消沈する。そんな中ルクルットが口を開いた。

 

「まぁ・・四本手に入らないのは仕方が無いとして、いいじゃねぇか。俺たちは『漆黒の剣』なんだ。それだけは絶対に揺るがねぇよ。」

 

そう言うルクルットの右手には黒い短剣が握られていた。

 

「そうだな。ルクルットの言うとおりだな。」

 

ぺテルが・・

 

「珍しくルクルットが良いことを言ったのである。」

 

ダインが・・

 

「そうですね。この短剣が私たちがチームを組んだ証、そこに本物も偽物も無いですよね。」

 

ニニャが・・

 

それぞれが短剣を見て感傷に浸っていた。

 

(良いチームだ。本当に良いチームだ。昔は俺もこうだった。)

 

「本当に良いチームですよね。確かな繋がりを感じますし、目的に向かって真っすぐだとやっぱり違いますよね。」

 

「えぇ。本当に・・あれ?もしかしてモモンさんも昔はチームを組んでいたんですか?」

 

ニニャのその問いにモモンは口を開いた。

 

「私が無力だった頃、初めて私の友人になり助けてくれたのは一人の魔術師でした。そこから弓矢を扱う森伏、盾を扱う女性、それと杖を持つ魔術師の女性で五人。チームを結成しました。」

 

「良いチームだったんですね。」

 

「えぇ。最高のチームでした。本当に・・・」

 

「いつかその人たちに匹敵する仲間と出会えますよ。」

 

ニニャのその言葉にモモンは怒りを覚えた。

 

(何故・・『五人の自殺点<ファイブ・オウンゴール>』に似た君たちからそんなことを言われないいけないのだ!)

 

「そんな日は来ない!!」

 

周囲が困惑する。モモンの声には明らかな怒気を感じたからだ。

モモンは持っていたスプーンや器を握りつぶしていた。

 

「・・すまない。私たちはあちらで食べる。行くぞナーベ。」

 

「はい・・」

 

モモンとナーベが去っていく。

 

残された五人に沈黙が流れた。

 

「悪いことを言ってしまったみたいですね。」

 

「過去に何かあったのであろうな・・・」

 

「全滅かな・・」

 

過去にぺテルはチームが一人を残して全滅したチームを知っていた。

それゆえ全滅という単語が出てきたのだ。

 

「辛いだろうな・・・仲間を失うっていうのは。」

 

普段は軽いルクルットが真剣な顔つきで考える。

 

「そうですね。あまりに軽率な発言でした。大事な人を失う悲しみは知っていたはずなのに・・」

 

「ニニャ。一度出した言葉は戻ってはこない。だからこそ人は言葉を大事に使うべきなのである。」

 

「・・・・そうですね。」

 

そう言ってニニャは落ち込む。

 

どこかで生きているであろう自身の姉に向けて・・・

 

(姉さん・・)

 

暗くなる『漆黒の剣』を見てンフィーレアが口を開く。それはその場の状況を変える為の発言であった。

 

「そう言えば、モモンさんとナーベさんの今日の戦闘凄かったですね。」

 

 

 




次回、ついにカルネ村へ

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