漆黒の英雄譚   作:四季 春夏

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墓地騒動①--バレアレ家にて--

「ンフィーレアが攫われただと!?」

 

モモンは動揺のあまり呼び捨てで名前を呼んでいた。

 

「はい。短い金髪で刺突武器を使う女と禿げ頭で赤いローブを着込んだ魔法詠唱者(マジックキャスター)の男のニ人組です」

 

「・・・くそ!」

 

モモンは拳を作る。

 

「あっ!リイジー殿!待つでござる!」

 

ハムスケの声がする。その方向をモモンとナーベは顔を向けた。

 

そこには急ぎ足で部屋に入ってきたリイジーがいた。

 

「リイジー!」

 

「ンフィーレアはどこじゃ!?」

 

「・・攫われた」

 

「なっ!?」

 

そう言ってリイジーは『漆黒の剣』を見て驚愕する。リイジーの身体から冷や汗が出る。今のリイジーにとってそれは氷柱で身体を貫かれたような感触であった。

 

「もしやンフィーレアは・・」

 

最悪の事を想定したのであろう。

 

(俺の考えが間違っていなければンフィーレアは無事だが・・・今のリイジーにそのことを伝えても何の確証も無い希望を見せるだけだ。もし万が一、俺の考えが間違っていたら・・その時のリイジーは希望を見ていた分絶望してしまうだろう。今は何も言わないのが賢明だな)

 

「・・・」

 

モモンは『漆黒の剣』を見る。そこで気付く。

 

僅かにだが口元が動いていたのだ。

 

「!まだ息がある!」

 

モモンは再び懐から赤いポーションを四本取り出す。

 

「それは!?『神の血』!まさかお主らが・・」

 

リイジーが何か言っていたがモモンはそれらを無視して彼らに飲ませていく。

 

「!っ・・」

 

やがて『漆黒の剣』のメンバーたちの傷ついた身体が元に戻っていく。特に酷かったのはニニャであった。顔は酸で溶けており、胸には刺突武器が刺さった穴がはっきりとあった。

 

「間に合え!」

 

やがてニニャの顔はケロイド状から元の顔に戻っていく。

 

「・・・っ」

 

ニニャの瞼が微かに動いた。

 

「良かった・・・」

 

(今度こそ・・助けられた。)

 

モモンはぺテル、ルクルット、ダインの顔に目を向ける。

 

他の三人も僅かにだが表情が動いていた。

 

(彼らも大丈夫みたいだな)

 

その時の一連の行動を見てリイジーは驚愕していた。

 

(『神の血』をあんな容易に飲ませるだと・・・)

 

だがリイジーの胸中には驚愕以外の感情があった。

 

(間違いない。この者たちならンフィーレアを救い出せる・・いや!!この者たちにしか出来ないんじゃ!!)

 

リイジーは覚悟を決めてモモンに言葉を投げる。その言葉には重みがあった。自分の持つ全てと引き換えに孫を救い出せるならと・・そう覚悟を決めた。

 

「汝らを雇いたい。ンフィーレアを救い出してくれ!」

 

「ただし条件がある・・」

 

___________________________________

 

 

 

「リイジー。彼らはもうすぐ目覚める。彼らの側にいてやってほしい。その間、私たちは誘拐犯の行方を捜す」

 

「分かった」

 

リイジーはモモンの指示に従って部屋の中央に立った。

 

モモンとナーベは別の部屋に入る。そこでナーベが口を開いた。

 

「モモンさん。お願いがあるのですが・・」

 

「どうした?」

 

物体発見(ロケート・オブジェクト)千里眼(クレヤボヤンス)水晶の画面(クリスタル・モニター)巻物(スクロール)を出して頂けませんか?」

 

モモンは何故かとは聞かなかった。代わりにスクロールを取り出しながら違うことを尋ねた。ナーベがそれを受け取った。

 

「何故プレートを所持していない?」

 

よく見るとナーベの首に下げられていた冒険者のプレートが無かったのだ。エ・ランテルに戻った時にはあったはずだ。

 

「実は戦闘中に禿げ頭の男を背後からナイフで突き刺したんです。その時にポケットの中に入れました」

 

「成程な・・」

 

ナーベがスクロールを宙に飛ばす。

 

物体発見(ロケート・オブジェクト)

 

スクロールが燃え散る。スクロールを使用した証だ。

 

「・・・墓地で間違いありませんね。」

 

「やはりか。では次は俺にも見えるように頼む。」

 

「はい。千里眼(クレヤボヤンス)・・水晶の画面(クリスタル・モニター)

 

モモンとナーベの間の空間に映像が浮かび上がる。

 

そこにいたのは頭部に謎のアイテムを装備して両目から血を流したンフィーレア。それとその周囲を取り囲むようにしているスケルトンやアンデッドたちだった。

 

「不味いな。かなり数が多い。もし墓地から溢れ出したら街に被害が及ぶ。早く行かなくては」

 

「現状では情報が少ないです。そんな中動くのは・・」

 

「確かにそうだな。放っておいても何も無いかもしれない。だが今ここでその者たちを止めねば街の人々に被害が出る。そうならない為に手を貸してくれ。ナーベ!」

 

ナーベは目を閉じる。

 

(あぁ・・そうかモモンさんはこういう優しい人だったわね)

 

「勿論です」

 

(ンフィーレアの無事は少なくとも知ることが出来た。攻め込む準備は出来た。後は彼らの身が心配だ・・)

 

「彼らが起きたぞ!」

 

突然ドアが開いてリイジーが入ってきた。

 

「モモンさん!」

 

リイジーに続いて『漆黒の剣』がぞろぞろと入っていく。声の主はぺテルだ。

 

「みんな無事だったか」

 

「えぇ。リイジーさんから話は聞きました。モモンさんがポーションを渡してくれたおかげでこの通り・・っ!」

 

ぺテルが胸を抑える。恐らく回復した直後で身体が慣れていないのだろう。

 

「大丈夫か?」

 

「えぇ・・すみません。」

 

「回復した後ですまないが君たちに頼みたいことがある。引き受けてくれるか?」

 

「何でもします。仰って下さい」

 

モモンはぺテルの後ろにいる他の三人に目を向ける。全員が頷いていた。

 

「みんな今から話すことをよく聞いてくれ」

 

そこでモモンは一呼吸置くと状況の説明を始めた。

 

 

 

 


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