エ・ランテル バレアレ家
そこに八人の男女がテーブルを囲うようにして椅子に座っている。
モモン、ナーベ、ンフィーレア、リイジー、ぺテル、ルクルット、ダイン、ニニャだ。
「改めて感謝します。モモンさん」口を開いたのはンフィーレアだった。
「そんな・・・私は・・」
「そうじゃぞ。モモン殿・・・儂らの気持ちを受けとってほしい」リイジー
「・・・」
「そうですよ・・モモンさん。こうして私たちが果実水を飲みあえるのもモモンさんが多くの人を助けたからです」ぺテル
「そうなのであーる。モモン殿・・」ダイン
「おかげで上手い果実水飲めてるしな・・」ルクルット
「みんなの言う通りですよ」ニニャ
「・・・そう言ってくれてありがとう」モモン
「それでは・・乾杯でもしましょうか」ぺテル
「「「「乾杯!!!!」」」」
・・・
・・・
・・・
「モモンさんはもうエ・ランテルでは知らない人はいませんよ」
「そうそう『漆黒の英雄』と呼ばれてるんだから」
ニニャの発言に同意を示したのはルクルットだ。
(『漆黒の英雄』・・・『英雄』か・・・)
『十三英雄』みたいにだろうか?
(・・・・・)
守りたい者たちは守れなかった。俺が弱かったからだ・・・
そんな奴が『英雄』だと・・?
確かに今回は助けられたかもしれない。でもそれだけだ。
俺は『英雄』じゃない。
でも彼らは俺を『英雄』と呼ぶ。
だとしたら『英雄』っていうのは・・・・
どういう者のことを指すのだろうか?
そんなことをジョッキに入った果実酒の水面を見ながら考えていた。
・・・・
・・・・
ンフィーレアとリイジーはバレアレ家の譲渡の手続きなどを済まし、カルネ村に引っ越した。『漆黒の剣』の四人はその護衛兼手伝いだ。
机の上に置かれたものを片付けていく。
「ナーベ、ありがとう」
「・・・いえ」
「少しだけ上で眠っていいか?」
「えぇ。私は少し買い物にでも行ってきます」
「あぁ。行ってらっしゃい」
「行ってき・・あっ、これを渡しておきます。好きに使って下さい。それでは行ってきます」
そう言ってナーベは外出した。ドアが閉まるとモモンはそれを見た。
「本当にありがとうな。ナーベ」
手渡されたのはハンカチだった。
(今度は助けられたんだ・・・本当に良かった)
・・・・
・・・・
小一時間ほど眠ったモモンはベッドから起き上がる。
「少しだけスッキリしたかな・・・」
サイドテーブルの上の水をゆっくり飲み干す。胃に入った水分が心地よい。
「さてこのままいてもいいが・・・」
少し前までリイジー=バレアレ所有であった・・・・つまりは知り合いの家だったのだ。所有権を得たのは確かだが、いきなり知り合いの家を得ている以上、僅かに罪悪感に似たものを感じる。
(何というか・・・眠っておいて何だが・・・まだ慣れないなぁ・・・)
「とりあえず散歩に行くか・・・」
モモンは全身鎧を装備するとドアを開けて外に出た。
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「あっ!モモンさん!」
「やぁ」
外に出た途端、エ・ランテルの街人たちがモモンに気付く。
(うおっ!!?何だ何だ?)
目覚めて外出したら、一気に視線を向けられる。驚くなという方が無理だろう。それでも驚きを見せるのは失礼な気がしたのですばやく深呼吸を一度済ませて心を落ち着かせた。
「『漆黒の英雄』だぜ。かっけぇぇっ」
まだ髭も生えていない様な青年が口を開く。
「あぁ。やべーな。まさに『英雄』だよな」
その青年の弟か友人らしい人物が同意する。
「握手してくれ」
「あっ・・はい」
そう言ってモモンは握手する。何か不思議な気分だ。
「ぷひー。モモンさん、握手してくれ!」
そう言って次に手を差し出したのは小太りの男性だった。鼻が悪いのか『ぷひー』と漏れ出る。
「えっ・・はぁ・・・いいですよ。風邪に気を付けて下さいね」
モモンは握手をする。
「ぷひー。ありがとう。気遣ってくれて」
そう言って一人の男性はその場から去っていった。
「?」(何か不思議な人だったなぁ・・・)
「俺も握手して下さい」
次に握手を求めてきたのはまた違う人だった。
「あぁ・・はい」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
握手を求めてきた最後に人に応えた後、気付いたことがある。
(あっ・・俺、ガントレットを外すの忘れてた)
(握『手』なのに・・・何やってんだろう)
「モモンさん!」そう言って一人の少女が駆け寄る。
「ん?どうしたんだい」
「どうしてモモンさんは私たちを助けてくれたの?」
少女のその問いにモモンは困惑した。その問いに対して答えを持ち合わせていなかったからだ。
私たち、エ・ランテルの皆んなのことを指しているのだろう。
(笑ってごまかす・・のは無いな。こんな真剣な眼差しを向ける子にいい加減に答えたくないな)
「・・・・・・」
「モモンさん!」
横からナーベの声が聞こえた。
「どうした?」
「冒険者組合長がお呼びです。至急冒険者組合に来てくれとのことです」
「分かった。その問いにはまた今度ね」
モモンは少女の頭を優しく撫でると、ナーベの方向へと走っていった。
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エ・ランテル冒険者組合 会議室
「失礼します」
「入ってくれ」
モモンが部屋に入るとそこには六人の男たちがいた。
冒険者組合長は『墓地騒動』の一件で『質問』された際に顔を合わせたから知っていた。
「そこの席に掛けてくれ」
「失礼します」
モモンが椅子に座る。それを見た冒険者組合の長アインザックが口を開く。
「それでは始めよう・・と言いたいところだが、モモン君、君がミスリル級になったのだし初めに自己紹介をしておこうか・・モックナック頼む」
「はい。組合長」
そこで男は言葉を一度区切ると自己紹介を始めた。
「初めまして。モモン殿。私はミスリル級冒険者チームの『虹』のリーダーをしているモックナックだ。よろしく頼む」
そう言ってモックナックは右手を差し出した。
モモンもそれに応えるために手を差し出すと互いに握手する。
「こちらこそ、よろしく頼みます。私はモモンです」
(何かいいな、こういうの。冒険者って感じするなぁ)
「同じくミスリル級冒険者チーム『天狼』でリーダーをしているベロテだ。よろしく」
「こちらこそ!」
今度はベロテと握手する。
「・・『クラルグラ』・・リーダーのイグヴァルジだ」
「よろしく」
モモンは握手の為に手を伸ばすが、イグヴァルジは手を伸ばさず握手を拒否してきた。
(?・・俺この人に何か嫌われることしたか?覚えが無いのだが・・)
「イグヴァルジ・・お前・・・はぁっ」モックナックが溜息を吐く。
そこで行われた出来事を見たアインザックが話を再開した。
「一通りの自己紹介は終わったな。今回君たちに来てもらったのは依頼したいことがあるからだ」
「依頼内容は?」
モックナックが尋ねる。
「トブの大森林に存在する『ある薬草』を採集してもらいたい」