※※注意※※
『蒼の薔薇』のメンバーが好きな方はご注意下さい。
特にイビルアイ好きな方はご注意下さい。
イビルアイ好きな方はこの話を無視した方がいいかもしれません。
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"八本指"
それは王都リ・エスティーゼに存在する巨大な犯罪組織。
巨大過ぎて恐れるものは何一つないと呼ばれた程である。
だが……
"八本指"にもたった一つだけ恐れるものがあった。
それは……
深夜
王都リ・エスティーゼ とある屋敷前
「急げ!」
男は"八本指"の幹部であった。謎の老執事と戦い、圧倒的な差で敗北してしまった。その後は覚えていないが牢屋にいたことから衛兵に引き渡されたのだろう。だがそんなことは全く問題はなかった。男は衛兵に金を渡して脱獄し表向きは尋問中に獄中死したことになっている。こういったことが出来るのも"あの馬鹿"とのコネのおかげだったりする。馬鹿様様である。
しかし男にとって大事なのはそんなことではなかった。予想外のことが起きたとはいえ"業務"を止めてしまったからだ。男が恐れているのは同じ"八本指"ではない。もっと"上"の存在である。だからこうして部下たちを集めて止まってしまった"業務"を続けさせている。
「急げ!」
そう言って男は部下を急かす。しかし部下の動きは変わらない。何故なら既にこれ以上ないくらいには急いでいたからだ。だが男はそれを理解していないわけではない。しかしこれから自分たちに迫る脅威のことを考えたらそう叫ばずにはいられなかった。部下たちが急いでいるのは理解しているのだ。何故ならそれが自分と同様で自分たちを"愚かな存在"と嘲笑する圧倒的な存在を知っているのだ。男は生きたまま顔の皮を剥がされた。
その後のことは思い出したくもない。
("八本指で六腕に所属する貴方に問題です。八に六を足すと幾らになりますか?")
男は答えた。そしてその答えの数字を決して忘れることは出来ない。忘れようとしても消えることのない記憶。全身から吐き気がこみ上げる。だが男はそれを何とか抑えこむ。
「……」
かつて"幻魔"と呼ばれた男…サキュロントは自身の顔に触れる。そこには確かに皮があった。
「全員撤収を急げ!」
だから彼ら……"八本指"がその場からの撤収を急ぐのは当然であった。それが"あの悪魔"の恐ろしさが現実のものであると改めて認識させられるからだ。
だが……
「………良い夜っすね。悪いことをするには丁度良いっすね」
全ては遅すぎたのだ。
そこには場違いな恰好をした女が立っていた。メイド服を纏い仮面を被っている赤毛の女。その声は"八本指"の者に声を掛けるには不自然な程に明るかった。
「お……お前、まさか…」
「ヤルダバオト…様からの伝言っす。"あなたたちのおかげで王国は腐敗させることが出来た。感謝致します。しかし世界をも腐敗させることは叶わなかった。だから速やかに自害せよ"とのことっす」
「…た…助けてくれ。お…俺たち…"八本指"はあの老人のせいで"六腕"を全滅させられて!!」
「それと意味は知らないっすが"君たちのおかげで悪魔像を発見できた。おかげで…"」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
サキュロントは腰にぶら下げた剣を抜くと女を切りつけようと飛ぼうとした。
「………<
真夜中の王都、その街中で一つの大きな火柱が立った。その炎に燃やされる一人の男。炎を身を捧げているようにも思える。遠くからならば死者を弔うための巨大な蝋燭の様に見えるだろう。
(せめて安らかに眠るといいっす。生きていたらもっと辛い思いをしただろうから……)
「さて……」
「恨みはないっすけど……許してほしいっす」
全てが終わりその場を後にしようとしたルプスレギナは身体の動きを止めた。
(気配が二つ……)
「そんな所で何をしているんだ」
ルプスレギナが気配の方を向くと立っていたのは二人の女だ。一人は筋骨隆々で男と見間違える程の女だ。その大きな両腕には
「どちら様っすか?」
「俺はガガーラン、こっちはティアだ。王国でアダマンタイト級冒険者をやっている。よろしくな」
ガガーランと呼ばれる女はウォーピックを構えると笑う。
「アダマンタイト?何っすか?それ」
「……へぇ。だったら教えてやろうか?」
目の前の女たちは武器を構える。だがルプスレギナはそれらを無視して歩き出す。
「おい!どこへ行くんだ」
「用は済んだので帰ろうと思ってるっす」
「行かせる訳ねぇだろ!生きたまま人間を焼くような奴をよ」
「……アレらは"八本指"の奴らっすよ。何か問題があるっすか?」
「"八本指"?……じゃあお前は何者だ?」
ガガーランは少しだけ相手への認識を改めた。しかし同時に怪しんだ。何故"八本指"を襲ったのかを。
「いい加減にしてほしいっす。予定した時間に間に合わないっす」
「いいから答えろ!」
「……やりたくないけどやるしかないっすね。さっさと殺るしかないっすね」
◇◇◇◇
◇◇◇◇
どれだけの時間が経っただろうか。ガガーランとティアはかなり長い時間が経ったように思えた。
「はぁ…はぁ…くそ!何て強さだ」
「ガガーラン、大丈夫?青い血出ていない?」
「出ねーよ。今だけは出て人間辞めたい気分だがな…。それよりお前こそ大丈夫か?」
「こっちは大丈夫。直撃はまだない」
「終わりっす!<
「!っ…右足が動かね」
ガガーランの足は疲労ゆえに限界だった。ゆえにすぐに動けず、地面からの爆風が直撃する。
(あぁ…オレ死んだな…)
もう終わりかとあきらめかけた時だった。
「あきらめるな!ガガーラン!」
「!」
頭上からの声を聞いた。ガガーランは動けない右足ではなく、まだ辛うじて息のある左足で地面を蹴った。ギリギリ爆風が頬を掠る。
(大丈夫だ!まだいける…それより……)
「遅いぞ!イビルアイ」
「ちゃんと相手の実力を見極めろ!こいつは…私たちよりも強いぞ」
その場に現れたのは仮面を被った少女だ。
「応援っすか?」
「……よくも私の仲間を虐めてくれたな。赤毛女」
「…イビルアイ、気を付けろ。この女むちゃくちゃ強いぞ」
「そんなのは分かってる。ガガーラン、ティア、早く回復しろ!ここからが本当の戦いだぞ!」
◇◇◇◇
◇◇◇◇
ルプスレギナと"蒼の薔薇"のガガーランとティア。
そこに仲間であるイビルアイが現れた。
戦闘はすぐに終わるかと思われた。
しかし……
「<
「!ちっ…」
イビルアイは強い。確かに強い。だがそれは"蒼の薔薇"の中においての話だ。
「くそ!この強さ!貴様!"蟲の魔神"と何か関係があるのか?」
「何っすか?それ」
だが依然として戦闘は"蒼の薔薇"の方が不利であった。
「そんなに話してて大丈夫っすか?」
「お前…どこでこんな魔法を…」
原因は二つ。一つはかなり実力差があること。もう一つは相性の悪さである。イビルアイの持つ魔法の一つに"ある種族にのみ特別にダメージを与える魔法"がある。しかしルプスレギナの外見からそれは使えずにいた。この魔法は人間には効果が無いからだ。
("アレ"は人間相手じゃ通用しない。だが万に一つの可能性に賭けてみるか?)
「このままじゃすぐに終わりっすよ」
ルプスレギナは焦っていた。原因はイビルアイである。イビルアイは先程から魔力を温存しているフシがある。これはルプスレギナの直感であり決定的な証拠はどこにもない。だがそんな不安からか"奥の手を持っている"と考えてしまうのも無理はない。ゆえに先程から至近距離で戦うことは避けている。もし"奥の手"が出た場合すぐにでも回避する必要があるからだ。ゆえに積極的に接近は出来ない。
「どうした?かかってこい!赤毛女!」
「挑発っすか?」
ゆえに戦闘は膠着状態が続いていた。
(不味いっすね。このままじゃ本当に予定時間を過ぎてしまう。何か手はないっすかすね)
「良いこと思いついたっす!<
"蒼の薔薇"から見てその行動は不可解だった。ルプスレギナは自分自身に魔法を行使した様に思える。火柱がルプスレギナを包み込む。
「?一体何を…?」
「…分からない」
ガガーランもティアもルプスレギナが何故そのような行動を取ったか理解できなかった。だが微かにイビルアイだけが違和感を覚える。
(何だ?この感じ……まるで…)
ハッと気付くと声を荒げて叫ぶ。
「ガガーラン!後ろだ!」
「!ちっ……透明化か!」
イビルアイの警告を受けてガガーランは後ろを振り返り、そのまま不可視化したルプスレギナを叩きつけようとした。
「あぁ……気付いたっすか。まぁでもいいっすよ!」
目の前に現れたルプスレギナはガガーランの
「がっ!」
ガガーランはその衝撃のあまり腕を離してしまった。
「やったっす!武器を確保っす!…って腕を放すっす」
だがガガーランは武器を放してすぐに再び掴んだ。それにすぐ気が付いたルプスレギナは今度はガガーランを蹴り飛ばす。巨体なはずのガガーランが吹き飛び、屋敷の壁にのめり込んだ。
イビルアイとティアはガガーランに気を取られているルプスレギナの背後から攻撃を仕掛けようと跳躍。攻撃範囲に入る。
「<
「<影分身の術>」
イビルアイはルプスレギナの首筋に槍を突き刺そうと魔法を発動。ティナは分身を作り、本体は攻撃でもう一つはカウンターされた際の盾として発動。
(これで終わりだ!赤毛女!)
「いい加減にしてほしいわ」
「「!っ」」
冷たい言葉だった。今までとは異なる程の
イビルアイの魔法で作成した槍は粉砕され、ティナの分身は一撃で消されてしまった。
「!」
イビルアイはすぐさま<
「イビルアイ、一体何が?」
「あの赤毛女がガガーランの持つあの武器を使ったんだ」
「アレだけ強い魔法詠唱者でありながら、武器も使えるの?反則じゃない?」
「同意見だ。だがそんな無駄口を叩く暇は無さそうだぞ」
(もしや…あの赤毛女。"リーダー"と同じ"流星の子"だったりするのか……)
そんなことを考えていると鼻と口から垂れる液体の感触があった。かなりのダメージを受けたようだ。そうこうしている内にルプスレギナが片手でウォーピックを掴みながら歩いてくる。
(不味いな。このままでは全員やられてしまう)
「さて…終わりっすよ
イビルアイは避けた。だがティナは先程のダメージがあったせいか動けずにそのまま爆風を受ける。爆風の衝撃でティナの身体が空高く打ち上げられる。
「ティナ!」
「さて……これからが本当の戦いっすよ」
◇◇◇◇
◇◇◇◇
爆発。イビルアイは避ける。
「はぁ…はぁ……どれだけ戦えるんだ?こいつの魔力は底なしか?」
二度目の爆発。イビルアイのマントを燃やす。
「間に合わな……」
三度目の爆発。イビルアイはよけきれず爆発をその小さな体に受けた。衝撃、逆流、吐血。イビルアイの身体はそういったものに支配された。だが……
(炎に対する耐性を上昇させるマジックアイテムを装備していなければ危なかった。もし無かったら死んでいただろう)
イビルアイは微笑む。自身はまだ大丈夫。まだ戦えると確信したのだ。
「笑う余裕があるっすか?」
爆発、爆発、また爆発。
イビルアイはかろうじて避けていく。
「くっ!」
だがついに爆発がイビルアイの右足に直撃。激痛をイビルアイに襲い掛かる。爆風がイビルアイの身体を吹き飛ばし仮面を砕く。その際に口元が見えた。そこにあったのものを見てルプスレギナは目を見開く。勝利への道が見えたからだ。
(さっき見えたものが見間違いで無ければ"これ"は防げないはずっす)
ルプスレギナはイビルアイに接近し首を右手で掴む。
イビルアイは反撃しようとルプスレギナの顔に目掛けて魔法を詠唱しようとする。
しかしそれよりも早くルプスレギナの詠唱の方が早かった。
「<
ルプスレギナが右手を開く。そのまま何の抵抗も無くイビルアイは崩れ落ちた。
それはガガーランとティアが目を覚ましたのと同時であった。
目の前の光景が信じられなかった。自分たちのチームで一番強かったはずの女が何の抵抗も無く地面に落ちようとしている。その時間はあまりにゆっくりに感じた。一枚の花弁が地面に落ちるように儚かった。そしてイビルアイは力を失ったように地面に倒れた。
(俺たちは夢を見ているのか?)
砂埃が舞う。
「"アンデッド"……」
(砕けた仮面から見えた素顔。そこで見えた特徴的な歯。あれは恐らく……)
「吸血鬼……それがこの女の正体だったっすね」
「イビルアイ!!!!」
ガガーランは衝動的に叫んでいた。その衝動のまま壁を破壊し地面に両足を着いた瞬間駆け寄る。
「ガガーラン!」
その言葉でハッとする。少し声がおかしいが間違いなくティアの仲間の声だ。声の方向を見ると全身が焼けていて辛うじて立っている状態だった。いつもは結んでいる髪も焼けてしまって焦げてしまっている。
「…すまねぇ」
二人は互いの顔を見合わせた。
「おい。ティア」
「ガガーラン、私も同じこと考えてる」
「そうか……じゃあ何も言わなくていいな」
それは疑問ではなく確認だった。
「うん。リーダーには迷惑をかける」
二人が互いの顔から目を離すと赤毛の女に目を向け武器を突き付ける。
「俺たちの命も持っていけよ。ただしテメーも道連れだ!!」
そう言ってガガーランが拳を大きく振り上げて跳躍。ガガーランと同じタイミングで走り出したティアは回り込み挟撃しようと武器を振り上げた。それを見たルプスレギナは笑った。それは嘲笑ではなく微笑みだった。
(仲間想いっすね。せめて……)
ルプスレギナは両手をそれぞれに向けるようにして広げ魔法を詠唱しようとする。
その瞬間だった。
「!」
ルプスレギナの顔目掛けて何かが飛んできた。ルプスレギナはそれをウォーピックで防ぐ。
「紙?」
それは紙の様であった。持っているウォーピックに張り付く。
ルプスレギナは危険なものを感じてすぐにウォーピックを投げ飛ばした。
瞬間、ウォーピックに強烈な電撃が溢れだす。
「うぉー!危なかったっす!」
口では軽口を叩くルプスレギナであったが内心はかなり警戒していた。アレだけの電流をもし受けていた場合、かなりのダメージを受けていたことだろう。
「さて、アレはそこの貴方の仕業っすか?」
そう言ってルプスレギナが見たのはガガーランたちの真上だった。
ガガーランたちも上からやってくる大きな影に気付き後ろに跳んだ。
そこに一人の少女が舞い降りた。
「貴方ぁ…カルネ村に偵察に来てた女ぁ」
そこから現れたのはメイド服を着た少女だった。シニョンと髪に無表情な顔。ただし容姿は非常に整っていた。
「お久し振りっすね。エヌティマちゃん」
「……誰?」
ティアの問いかけは当然のものであった。こんな血なまぐさい場所には不釣り合いな恰好で出現した存在に思わず警戒心をむき出して問う。
「私は魔導国のエヌティマぁ。貴方たち"蒼の薔薇"を助けに来たのぉ」
「……魔導国が?何でまた……」
ガガーランの疑問も当然のものだ。こんな状況で他国の者が国に属さないはずの冒険者を助けに来てくれるなどあまりに都合が良すぎる。どう考えても異常事態である。もしかしたらメイド服を着ているという共通点があるし二人がグルなのではと考えてしまう。そうだった場合はイビルアイが戦えない状況では逃亡することさえ不可能だろう。
「話は後ぉ。その仮面の女はまだ生きている。そいつ連れて早く逃げてぇ」
「ティア……エヌティマとかいう女は信用できると思うか?」
「……今はイビルアイを助けるのが最優先」
「…そうだな。今の内に行くぞ!」
ガガーランは急ぎイビルアイの元へと駆け寄ると肩に担いだ。ティアはガガーランの武器を拾う。その間にルプスレギナとかいう女からの攻撃は止んでいる。どうやらルプスレギナとエヌティマはにらみ合ったままであった。
「すまねぇな。アンタ」
そう言ってガガーランは走る。ティアはその背後を護衛する様にして去っていく。
◇◇◇◇
◇◇◇◇
「……ルプスレギナだっけ?……私とやるのぉ?」
エントマには奥の手があった。それは自身の主であるアインズ・ウール・ゴウンから授かったアイテム。
(最悪の場合ぃ…このアイテムを使わないといけないかもぉ…)
「いや…私は急いでるっすから。必要ないなら戦わないっすよ」
「…逃がすとでもぉ?」
「逃げるが勝ちっす!」
ルプスレギナがそう言うとエントマの目の前から突然と姿を消した。
「これは!?完全に不可視化する魔法ぉ」
(でも気配は既に無い。もしかして…逃げられた?…みたいぃ)
エントマはその場を警戒していたがルプスレギナがそこに再び現れることはなかった。そのタイミングで<
<エントマか?>
<はっ。アインズ様>
<そちらはどうなった?>
<"蒼の薔薇"の救助は成功しました。しかしルプスレギナには逃げられてしまいました>
<構わない。最優先事項である"蒼の薔薇"の救助は成功したのならば問題ない。ルプスレギナは放っておけ>
<かしこまりました。後はいかがいたしましょうか?>
<実は大至急頼みたいことがある。今から言う場所にすぐに向かってくれ。頼んだぞ。エントマ>
ルプスレギナvs蒼の薔薇 でした。