pixivとマルチ投稿です

サントラ買ったその数日のうちに勢いだけで書いてしまった。和奏ルート挿入曲の「Without you」がモロ失恋ソングだったことから端を発するafter後の二次創作です。
もとはR-18ゲームですがこの中には該当表現がほぼ0(というかかけない...)なのでタグはつけてません

言うまでもないですが最低でも和奏ルートはafterまで完了していること前提です。やってない人は今すぐプレーしてきて(懇願)


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サノバウィッチ 歌に乗せて届く思い

…そういえば、結局なんでこの曲を選んだんだろう。

 

ハロウィンパーティを終え、俺たちのバンドは無事解散。のはずだったが結局成り行きで文化祭でもまたバンドをやろうという話になってしまった。もとより和奏と練習していたから、少なくとも前よりはうまく弾ける自信はある。

「柊史、本当に相当うまくなったな。」

春休み前、学校がいつもより早く終わる時間を利用して、俺たちはバンドの練習をしている。和奏がバイトの間は海道と二人だ。とはいえ、まだ文化祭でどの曲を演奏するのかすら決めてないから、実際のところは前の曲を練習しつつ、曲の候補選定もしている。

「まあね、一応練習は続けてるし」

「ふーん、和奏ちゃんと二人だけの練習、ねぇ」

「お前どうせ良からぬ想像しかしてないだろ」

二人だけの練習、と言われて付き合う前にここでやった様々なことを思い出してしまう。

「うっわ、顔真っ赤にしちゃって。付き合ってるならあんなことや、こんなことの一つや二つあるでしょうな」

完全に手球に取られている。しかしそこに一切の苦味や、嫌な感覚はない。単純にからかいたくてからかってるだけだ。

俺は人の感情を文字通り五感で感じてしまう。それは身の回りの人間であっても例外ではなく、海道や、和奏ですらわかってしまう。昔は恨むばかりだった能力だけども、今はうまく有効活用できないか考えられるようになった。ただ、それとは関係なく俺の感情はバレやすいらしい。

「勝手に俺たちをそういうものとみなして話をするな!」

「何だって良いけどよ、どうしてまたバンド組むって話になったんだ?」

「越路さんに頼まれて。去年の会場での盛り上がりをもう1回、みたいな話を持ちかけられたら断れなくて」

「あれはブレイブマンも確実に効果あっただろ」

思わず海道の頭を叩く。

「次言ったら容赦しないぞ」

「へいへい、とはいえ、確実にあれは会場の盛り上がりを一手に引き受けてたな」

「もう二度とゴメンだ」

そう、俺はハロウィンパーティのステージ上で和奏に公開告白をした。そしてこっぴどく振られた。しかもお互いのバラす必要すらない秘密をさんざんばらして。それなのに今付き合っている理由は、ステージを降りてから改めて和奏から告白された。一回振った相手に告白し直すというのも珍しい話だが、これが嘘偽りない真実というのだから、現実は小説より奇なり、とよく言ったものだ。

「ごめん、遅くなった」

防音室の重たいドアが開き、背丈にちょっと合ってないギターを抱えた女の子がやってくる。そう、俺の恋人でこのバンドのギターとボーカルを務める仮屋和奏だ。

「ちょうどよかった、和奏ちゃん。こいつが今顔真っ赤にしてる理由わかるか?」

「…へ?」

「ちょっと待て、それは関係ないだろ」

「ともかく、時間もあるし早く練習しよ」

ギターをケースから取り出しチューニングを始める。俺もそれに合わせて簡単に音を出してみて、再度確認をする。

「和奏ちゃん、こっそりでいいんだけど、一体ここで柊史と何をやったんだ?」

「んなっ!…もしかして柊史の顔が真っ赤の理由って」

「違う!断じて話してないぞ!ここで和奏と…」

「ほーう、ここで和奏ちゃんと?」

「ああもうバカ!そんな話を本人眼の前にしてするなー!」

俺たちが付き合い始めても、結局この2人といるときはあんまり変わってないような気がした。

 

1曲目に演奏するのは前と同じ曲「Without you」、俺も一度は練習して、短期間で無理やり形にした曲だから、今弾いてもそこそこのレベルは保たれている。2曲目は…どうしようか。並ぶ楽譜を見ていくと「大好き」「恋せよ乙女」「天使の羽とクリスタル」…心なしか、全体的に恋愛系のソングが多くないか。全部海道に用意させた俺が悪かったか。

「なぁ、曲選ちょっと偏り過ぎじゃないか?」

「それはどういう意味かな?」

「いやその、全体的に恋愛ソング寄りというかさ」

「文化祭だろ?こういう曲の方が盛り上がるに決まってるだろ」

そういう海道からは露骨なまでのクスリ臭さ…も感じたがそれ以上に顔がにやけている。どうせ俺たちに対するあてつけみたいなものだろう。

「んー、1曲目がアップテンポだから、少しスローなのを入れて、最後にもう1回アップテンポなのがバランス的に良いんじゃないかな?」

にやけた顔の海道を無視して話を続ける和奏。

「そういえばさ、1曲目を変えるって発想はないわけ?まあ確かに、今更新しい曲を3つも始めたら大変だけどさ」

そういえば、なんとなく1曲目は据え置きで考えてしまっている。確かに面倒だから、という理由はつくが、ほんの少しだが、隣の和奏から動揺が感じられた。

「いや、1曲目を固定したいってつもりはないんだけどさ。単に面倒だし」

こっちからもクスリっぽさが。たださっきとは違う、何か甘酸っぱさというか、恥ずかしそうな様子が感じられる。

「そういえばこれ和奏ちゃんの提案だったよね。曲自体そんなに有名…ってわけじゃないけど、どこでこの曲を知ったの?」

海道が質問を続ける。面倒だから曲は据え置き、というのじゃ満足しないのか、海道からは単純な好奇心から質問を続けてるみたいだ。

「えっと、えーっと、なんだったかな。昔見たギターのtab譜集みたいなのに取り上げられてたんじゃないかな。あはは。」

「原曲がそこまで有名でもないのにねぇ、わざわざバンドアレンジを乗っけるのは珍しいもんだな」

そこで海道の質問は止まった。ただ、俺もちょっと気になってきた。さっき感じた、和奏のウソっぽさはどこに原因があるのだろうか。よっぽど恥ずかしいことでもない限り海道や俺に隠すようなことはしないはずだが。まあ、あとで聞くんでも遅くないだろう

「よし、とりあえずまずは音出しやって、何回か合わせたら時間かな。」

話を打ち切り、練習に没頭する。ただ、その間もずっとさっきの言葉のウラに何が隠されているか、ずっと考え続ける事になってしまった。

「…どうしたの柊史、なんか変だよ」

「いや、ちょっと考え事」

「ふーん、まあ考えすぎる前にちゃんと話してよね」

結局。この日のうちにその答えを聞くことは出来なかった。

 

 

いつもどおりの学校、そしていつもどおりの部活。冬休みを過ぎてもオカ研は今までどおりの活動を続けている。変わったことといえば、戸隠先輩が前のように来れなくなったことと、入れ替わりで和奏が部活に入ってきたということだろうか。

「あっ和奏先輩!ちゃろー」

オカ研唯一の一年生、因幡めぐる。元はといえば相談者だったけれども、今では完全にオカ研の一員だ。

「こんにちは、因幡さん」

「あっ和奏さん、めぐるちゃん、こんにちは」

椎葉紬。魔法の影響で男装をした2年生の女の子。彼女ももともとは相談者…みたいなポジションだったのに気付いたら部活の一員だ。

「もう皆揃ってたんですか。待たせちゃってすみませんね」

ちょっとだけ遅れて、綾地寧々が到着する。この部活の実質的な部長にして、俺がこの部活に入るきっかけになった人。

「そういえば…和奏先輩、ちょっとこっちへ」

コソコソと、因幡さんが物陰に和奏を呼び寄せる

「そういえば…先輩のカップサイズって…いくつですか?」

微かに聞こえてくる、というレベルじゃない。普通に聞こえてきてしまっている。聞いてるこっちが恥ずかしい。

「…!!?」一瞬の間が空いたと思ったら、明らかに当惑している和奏の声。それもそうだ。突然後輩の女の子からカップサイズを聞かれたら普通にこうなる。

「嫌だって…この部活の先輩って基本的に大きいじゃないですか」

「まあ…確かに」

「小さい者同士仲良くしましょ」

「ねえ、それってどういう意味」

声こそ怒っているが、実際に怒っているというよりは、単にじゃれあっているような感じがする。俺に対して向けられた感情じゃないから、そんなにハッキリはわからないが。

「ねぇセンパイ?和奏先輩のサイズってどのくらいです」

ちょっと待て、なぜそれを俺に聞く。

「なぜ俺に聞く…」

「だってぇ、先輩なら知ってそうじゃないですか。いや、マジエロ先輩のことだからもしかして私達全員のサイズを」

そんな勝手に変態を見るような目で見ないでくれ。しかも和奏まで。

「ほ、保科くん、まさかそんなことして…ないよね?」

「だから、そんなことはしてないから」

「そういえば、この前被服部に渡したあの採寸データって保科くんが見てたような」

「ちょっとまってそれは冤罪だから!」

「柊史…それはあたしでも引くわ」

「だから違うって!」

突き刺さるような女性陣からの目線を一手に引き受ける。いっその事海道でも入らないかな。そしたらもう少し俺に対するヘイトも和らぐような気がする。

「本題に戻りまして、和奏先輩ってどのくらいなんです?」

思いっきりジト目で見られてる。ちょっと興奮する。

「…流石に言えない」

「ふーん、それじゃ私が確認しちゃいますね!」

っていまとんでもないことを言ってのけたなこいつ、人の彼女になにをしているんだ!

「ちょっと、やっ」

「良いじゃないですか減るもんじゃないですしー。おや、服の上からでもこれはこれは」

「ちょっと誰か!」

止めようかと思ったが、さっき疑いをかけたその仕返しと思って、和奏は因幡さんのナスがままにさせておくことにした。

「ふーむ、私と対して変わらなさそう…それなら今度一緒に下着買いに行きません?良いお店知ってるんですよ」

女の子が近くで下着の話してる。正直興奮せずにはいられない。

「さっきまであたしをさんざんおもちゃにして…覚悟は良いね因幡さん?」

「えっちょっと、和奏先輩、それ服の中!ちょっと!」

これはメチャクチャ怒ってるぞ。因幡さん、これは諦めて受け入れるが良い。

 

海道が持ち込んだ楽譜を並べて眺めていると、オカ研の部員も興味津々、といった様子で眺めてくる。

「センパイ、またバンドするんですね」

「まあ、ね。それに楽しかったし」

「今度は曲数増やすの?」

「そのつもり。ただ、柊史がまだそこまで慣れてないから様子は見ながらだけどね」

まあ、ここからあと数カ月はあるんだ。練習したらきっともう少しマトモに引けるようにはなるだろう。

「そういえば、ハロウィンパーティのときにあの曲を選んだのって誰なんですか?」

ふと、綾地さんが俺と同じ質問をする。和奏は明らかに動揺した様子だ。

「えっと、私、だったかな。特に深い意味はないんだけどね」

やっぱりだ、この話のたびにウソの香りがする。

「いえ、曲名もそうですけど、完全に失恋ソングでしたから」

そういえば、確かに。「with you」ならよくある恋愛ソングになりそうだが、「without you」とは、別れた後の曲だな

「もしかして、和奏先輩って保科センパイの前にも…」

「そんなわけ無いじゃん、私もともとこういうことにその…疎かったし」

少なくとも今の言葉にウソは含まれていない。だが、ならなぜ選曲理由を隠しているんだ。

「まあ、いい曲だからね。私もあんな曲をあれだけ元気に歌ってみたいな。」

椎葉さんは特に疑うことなく、曲自体が気に入ってるみたいだ。

「あっ、そうだちょっと用事を思い出しちゃった。ゴメンね!ちょっと今日は部活はや抜けするね」

唐突に和奏が席を立ち、帰り支度を始める。

「おや、センパイはついて行かないんですか?」

「いつも一緒にべったり、ってわけには行かないからな。和奏にだって和奏の用事があるだろうし」

流石にいつも付きまとうわけには行かない。もちろん和奏と一緒にいたい気持ちもあるが、俺の居場所はオカ研だ。

「それじゃ、また来週~」

そう言ってドアを大きく開き、和奏は帰っていった。

 

「絶対何か隠してますって、あれ」

「そうかな?いい歌だから歌った、ってだけじゃないのかな」

「紬先輩、ふつう女の子がああいう歌をうたうのは、自分の心境に重ね合わせたりスルものですよ」

「えっそんなの初めて聞いたよ」

「まあ、確かに曲とか聞くときはその心境に重ね合わせるところもありますね」

「へぇ…そういえば保科くんはそういうことあるの?」

言われて思ったが、あんまり曲の趣味とかもない。

「そもそも曲を聞かないからなぁ…」

おもむろに、携帯に着信が入る。見るとさっき帰ったはずの和奏からだ。

「ちょっとごめん、少し席を外す」

メールかと思ったらまさかの電話だ。あっちも部活中と知ってかけてきているのだから、相当大事な用事だろう。

 

「もしもし」

「柊史?もしよかったら、今日このあと家に行っていいかな」

「急にどうした」

「さっきの話、柊史にならしていいかな。って」

そうだった、確かに俺に対してはウソをついていることがバレてしまう。それぐらいなら答えておく、ってことなのか。

「…わかった」

何か大事なことを忘れている気がするが、まあ些細なことだろう。

 

電話を切ってから部室に戻り、放課後ギリギリまで部活を続ける。あの後相談者らしい相談者はほとんど来なかった。だいたいは愚痴を話に来るとか、あとは事後報告とか、そういったたぐいのものがほとんどだ。

「さてと、今日はここまでにしますかね」

「また来週―」

ドアを締めつつ、残った4人で挨拶をして帰る。俺はこのあと和奏の家近くで落ち合って、家に向かう。

 

「ごめん和奏。待たせた。」

「ううん、ごめんね突然家に行くだなんて」

多少の後ろめたさがあるのか、何とも言えない、微妙な痛みも感じる。

「それじゃ、行こうか」

手を取り、家に向かう。

「あれ、電気消し忘れてたっけな」

帰ってきた家は電気がついていた。特に何も考えず、ドアをガチャっと開ける。すると奥から

「ん、柊史、帰ってきたのか」

忘れていた。親父の帰りを確認しておくべきだった。この際だ、そのまま黙って上げてしまうか。

「お、お邪魔します」

後ろから緊張した様子の和奏がついてくる。

「ん、っておい。お前、女の子連れてくるなら事前に一言くれよ」

保科太一、俺の親父はいわゆる社畜。のはずなのだがこんな時間にいるとは

「親父がこんな時間に帰ってるとは思わなかったんだ」

「まあいいや、ええと、君は息子の彼女、ってことでいいのかな」

「あっ、はい。仮屋和奏です。よろしくお願いします。お父さん」

「お、お父さん…柊史、俺はもう今日死んでも後悔しないぞ」

もともと死んだ目だとか散々な言われっぷりだった俺が、こうやって家に彼女を連れてくるようなことになるなんて、想像はつかなかっただろうな。そう思うとたしかに親父の気持ちがわからなくもない。少なくとも今の親父は完全に感動している。

「柊史、本当にこれ上がっていいの?」

「うん、大丈夫だと思う」

「柊史、お父さん安心したぞ、こんな可愛いくて礼儀正しい子を親に紹介してくれるだなんて、本当に良かったな」

感極まって泣いているのか、そこまでされるとそれはそれで妙に恥ずかしい。

「いくらなんでも大げさだよ」

「さあさあ、上がってきなさい。とは言っても、私はもうこの後少ししたら飲み会に行かなければならないんだけどね」

「やっぱり、着替えに来たってことか」

「なんだそのやっぱり、って。お前、父さんが家にいないのを当然みたいに思うなよ?」

「まあ、正直今日も帰ってこれないんだろうなって思っては」

「はぁ…まあいい、これで今日これからも頑張れそうだ!仮屋さん、だったっけ。とりあえずお茶を用意するから、リビングにでも座って」

「はい、それでは」

そうやって俺の後ろをついて、リビングの椅子に隣り合って座る。うちはそもそもが3人家族だから椅子も3脚しかない。なんとなく和奏が座った席の隣に座ってみたが、ここは確か、父さんの席だったような。

「なんだかそうやって隣り合って座ってるのを見ると、このマンションを買った頃を思い出すなぁ」

「もともと3脚しかないのって、そういうことなの?」

「ああ、だってお前と、父さんと、母さんの3人で十分じゃないか。足りなくなったらまた買い足せばいいと思ってたしな」

「へぇ…」

「まあ、こうやって見ると、二人ともお似合いって感じでいいねぇ」

親父からは強烈なまでの喜びが伝わってくる。どれだけ俺の評価が低かったのか、それはそれで傷つきそうだ。和奏はというと、さっきから親父の発言を聞いては恥ずかしそうにこっちを見てくる。まあ、普通の反応だろう。

 

「こんな息子だけど、これからもよろしく頼むね。仮屋さん」

「はい、それでは行ってらっしゃい」

玄関で親父を見送る和奏。あの短時間で結構打ち解けてたな…なんでこうなったのか、正直俺もよくわかってない。

「柊史のお父さん、いい人だね」

「別に、ただの社畜じゃないかな」

「いつかは、あたしもあんな感じで朝会社に行く柊史を見送るのかな」

そう言われて一瞬想像してしまった。そうだな、あとはできれば子供にも見送られてみたいな、一人っ子だと寂しいだろうから二人ぐらい…

「ちょっと、何考えてるの」

「いや、見送られるなら子供とかも一緒だったらいいなって」

途端に和奏の顔が真っ赤になる。もともといい出したのはそっちだろうに。

「あっははは…うひひ…」

言われて想像がそっちに飛んでしまったらしい。一人でニヤニヤしている。

「親父も行ったことだし、改めて聞いていいかな」

「ん、ああ…ええとあの曲を選んだ理由?」

「うん。前にも言ったとおり、ずっと何かをごまかしているようだったから」

少し緊張するこの瞬間。

「…もともと柊史から何も言われなかったら、告白せずに終わらせようかな、って思ってたの」

さっきから甘酸っぱいものと、胸にずっしりとのしかかる何か得体の知れない重たいもの。きっとこれは和奏自身の自責の念だろうか。

「あれだけ練習中に、その、キスとかもしたのに、それでも告白する勇気だけが出なくて」

「…」

「でもね、ハロウィンパーティのときに柊史からしてくれて、それで初めて告白しよう、って思えたの。ずるいよね」

「だから、小学校からのその思いに蓋をする、というつもりであの曲を選んだ」

「…」

沈黙が流れる。少なくとも、この話には一つのウソも含まれていない。すべて和奏の本心だろう。確かに、俺みたいに能力があれば相手に告白して通るか通らないか、ある程度の打算はつく。結局フラれたにせよ、あれは理由があったからだ。だが、それがない和奏は俺の本心をなんとかして探ろうとしつつ、結果的に俺からのアプローチがあって初めて告白する気になれた。でもそれが普通だろう。むしろ俺みたいなイレギュラーがそれに対して何か言える立場ではない。

「和奏…!」

すぐ近くにいるのに、なんとなく抱きしめたくなってしまった。気付いたら和奏は泣いていた。それ以上何も言わず、ただただずっと抱きしめていた。

 

 

 

月日は流れ、文化祭当日。部活のメンバーも舞台袖から応援してくれている。海道、和奏、そして俺の3人はハロウィンパーティのときと同じ格好をして、また同じ舞台に立つ。ただ、あの時とは唯一違うことがあった。かつて奏でた、恋に終止符を打つための歌声は今、溢れんばかりの恋を歌っている。

 



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