本人様から苦情があれば削除します。
刀リリが書きたかった。
それだけです。
小説家になろうにて、同名で同様の小説を掲載しています。
『よし次……うっわ出ました。クソマロを超えたゴミマロ。ゴミマロ送る時間あったらネットリテラシーの一つでも覚えておけ。ネチケットだぞてめぇ』
夜も更け、日付が変わってまだ間もない時刻。人気動画サイト「Youpube」にて現在数万人の視聴者を前にマシュマロに顎を突き刺していく男が一人。
『次。
【kanari kenmochiさんに質問です】
いや百パーセント剣持だわ! ついに力すら奪われてんじゃねぇか! いや力じゃねぇ刀だよ何言ってんだよ。
【―――僕は力也君が大好きです】
なんでも力也言えば突っ込むと思ったら大間違いだぞ。虚空に取り残されておけ。―――これは読む価値もねぇゴミマロだな。これ以上は読んでやらねえぞキッズ。触れただけでも感謝しろよ。次。
【お父さんがものさしって本当ですか?】
あー、これ昔にも似たようなの読みましたね。物書きですから。こんなクソマロ送ってくるとお前の器が計れるぞ』
伝説の虚空配信から早二年。リスナーが嬉々として落とすクソマロと戦い、力と戦い、虚空と戦い、時としてはリスナーと戦い、その姿はまさしく歴戦の顎。剣持刀也はバーチャルユーチューバーの中でも特にリスナーと近い位置を保ちながら
『次。
【エルフの森がずっと燃えてますが、何処から持ってきているのですか】
なるほどねなるほど―――あー、皆さん知ってます? エルフの森がもう二年以上も燃やされているのにも関わらず何故なくならないのか……循環してるんですよ。エルフの森もクソと同じで循環しているんですよ』
マシンガントークから放たれるペテン師紛いな言葉。しかしその言葉選び方、運び方、締め方は誰もが認める一級品。たたでさえ高かったトーク力。それが二年間、顎並みに研ぎ澄まされたリスナー、マシュマロ、クソマロ、顎マロ、ゴミマロに磨き上げられたのだ。刀也と同じレベルでトークを展開できる者は、未来でも極わずかなのは間違いない。
『皆さんが森を燃やして笑う。草を生やす。その草の数だけ、エルフの森は生まれているんですよ。全ては循環するんですよ分かったか今の話聞いてクソマロ書いてる奴』
「なはははははッ! フフフ……ふひひ―――んぐッ」
その配信を見ながらお腹を抱えて笑うピンク髪の少女。刀也と同僚であり、刀也と同僚である伏見ガクとともに
「なははッ―――先輩また適当なこと言ってるよー」
笑いのツボが浅く、特に刀也に関してはツボが平地である。絶対に配信行くのは単純に人として好きだからというのもあるのだが、もう一つ理由がある。もう少しでその時間だ。
『さて、そろそろ時間だし終わりましょうかね。リリちゃんももうすぐ配信の時間ですしね』
未来の海外に住んでいるリリには、時差がある。そのためにじさんじの番組表に名前を連ねることが出来ず、ゲリラ配信が基本的なスタイルだった。しかし、それでは他の人と被ってしまうことがあり―――刀也と被るときは意図的な場合があるが―――見たい人が生で見れないという人もいたため、その状況を打破しようと刀也が考え付いたのが、他の人の配信の後に配信をするという手法。にじさんじメンバーで連携して、特に定時退社する人の後に配信を行うことで、安心して番組表に入れることができるようになったのである。勿論、ゲリラ配信も忘れない。
エンディングを聞きつつ、リリは配信の準備を始めた。時刻はもうすぐ一時。パソコン操作にもだいぶ慣れ、今日は刀也に勧められたホラーゲームを配信することになっている。あの人に勧められたということは、絶対にビビらせる自信があるということは百も承知。だが予めサーチをかけるのは流儀に反するためしないが、絶対にネタにされないようにと強い決意を持って挑む。
後三十秒で開始。すると、ピロン! とメッセージの受信の音が聞こえた。この時間にメッセージを送る人物は分かっている。メッセージをさっと読み流し、ニヤッと口を歪ませて
ぽちッ
配信開始ボタンをクリックした。
♦♦♦
少し慣れてきたタイピング。打ち込んだメッセージを送信してからふう、と一息。慣れたとはいえ一時間突っ走ったら流石の僕も疲れる。肩にかけている竹刀を下ろしてグッと一伸び。耳にかけていたイヤホンを一端置いて机の横に竹刀を立てかけて再びパソコンの前に座る。すると、丁度のタイミングで通知が届いた。それは配信開始の合図と共に、先ほど送ったメッセージを読んでくれたという合図だ。
届いた通知をクリックして「Youpube」へ。すると画面いっぱいにピンク髪の見慣れた少女が映り、陽気な笑い声が両耳から流れてきた。
『こんばんリリありがとう。こんばんリリ―ありがとう。今日はね。先輩に勧められたホラーゲームをやっていくよ』
画面端に映るは綺麗な二等辺三角形を描く僕の顎。コメントには【ァ!】や【そういうとこだぞ力也】、【顎】のコメントで溢れかえる。視聴者数は既に一万人を突破する勢い。さりげなく【こんばんリリ】と打ち込み、これから起こる展開に胸を躍らせながら画面を見つめる。画面の横では僕のコメントに反応して爆速で流れ始めるコメント欄があり、それに気づいた彼女は「フフッ」と笑みを溢してトークを展開し始めた。
『あ、先輩も来たみたいですね……そういえばこの配信始まる前にDMが届きまして』
―――しまった。今回は自分が強くこの放送を推してしまったためメッセージを送ってしまったが、少し考えれば晒されることぐらい分かるものだ。何故なら僕のDMは「フリー素材」と化しており、彼女は「妖怪晒し女」の二つ名を持っているのだから。
『えーっと。読むのもあれだしそのまま見せちゃいますね。
【今日も放送来てくれてありがとう! かなりの人が来る可能性があるかもしれないけど、いつも通り配信してくれれば絶対に成功するから緊張srずに落ち着いて配信してね! まぁ、落ち着いて配信できるならだけどwww】
これが送られてきたんですよー』
晒された。しかも疲労と時間の関係上急いだことが仇となって、「緊張せずに」が「緊張srずに」になってしまっている。まさかの一度で二度恥ずかしい展開になってしまった。当の彼女は大笑いしている。
『もうね、急いで送りましたって感じが本当に可愛くて、クーソかーわいーってなってしまいました。最後の煽りすら可愛く見えるって先輩ずるいですよね』
コメント欄には【かわいい】、【そういうとこだぞ力也】で埋め尽くされる。この状態で何か言ったとしても【無駄ですよ】の一言で一蹴される落ちが見えるが、ここはあえて先制攻撃を打つことにした。
【無駄ですよ】
と。
こうして始まる夕陽リリのホラーゲーム配信。今日行う予定の重大発表を胸に、今はただの一般視聴者として、バンパイアに襲われて心地よい悲鳴を上げてくれる彼女の放送を楽しんだ。
日付は変わらず春の陽気溢れる日曜日の朝。昨夜のリリちゃんの放送は単純に面白かった。あの面白さを何かに例えようとしても全て安直に思える、それほどの完成度だ。そして今日はゲリラ配信を行う。にじさんじメンバーには既に話を通してあり、メンバーは全員予定を空けてくれた。後は放送までに機材の調整や共謀者の二人との打ち合わせなど、やることは山のようにある。
今日の放送は僕には珍しく二十時から二時間を予定しており、そろそろしずりん先輩が「イキッター」で番組表を掲載し、リスナーがざわつく頃だろう。過去にじさんじの番組表にて二十時から二十二時の間に放送が入らなかったことは一度もない。それが今日は誰も放送を入れていないのだ。これでリスナーへの意識操作は完璧。メンバー全員に感謝しつつ、パソコンを起動する。僕のパソコンスキルは二年かけておじいちゃんムーブからおじさんムーブという進化したのか退化したのか良く分からない成長を遂げた。そして今画面に映るのは鋭い顎が特徴的な竹刀を担いで手を広げる青年―――僕自身の3Dのアバター。
未来人である彼女と間接的に動きながら対話する配信。これほど胸躍る展開はないだろう。その期待を胸に、アバターの最終調整を僕は始めた。
♦♦♦
ピロンッ!
パソコンからなる着信音に、意識が覚醒した。若干気怠い感じがあるが、そろそろ起きなければいけないだろう。ゆっくりと起き上がり、重たい瞼を開ける。時刻は十五時。親が諸事情でいないことに加えて、日曜日だということを加味しても寝すぎだろう。
私のパソコンスキルも先輩と同じく向上したとはいえ、おばあちゃんムーブからおばさんムーブになっただけだ。アバターは軽く調整するだけとはいえ、小一時間はかかる。しかも配信は過去の世界の二十時から開始のため、今から家事をしてアバターの調整をするとなると時間もギリギリだろう。にじさんじメンバーから何十件ものメッセージが届いているのを確認だけして、顔を洗って洗濯機を回し、急いでブランチ作りに取り掛かる。洗濯物を干す時間はないため、今回は乾燥機能を使うことにした。
朝は簡単に食パン二枚とサラダ。二年経って向こうとの時差がだいたい把握できるようにはなってきたため、ゆったりとしている時間がないことぐらいは把握している。それでもご飯はゆっくりとよく噛んで食べ、いざ最後の調整へ―――の前にメッセージを確認するためアプリを起動。見てみると、数百件も届いていた。
「……何かあったのかな」
何か不具合でもあったのか、嫌な思考が頭を過る。まずは先輩のメッセージから―――と開いた瞬間。目を疑う光景を目のあたりにする。何故かは分からない。だが異常事態なのは間違いなかった。しかも、向こうではなくこちら側の異常事態だ。
【リリちゃんおはよう! 今日の配信はいつにも増して面白かったよ! 今日はいよいよ三人で3D配信の#!;:」・。譁・ュ怜喧縺代→縺ッ縲∵枚蟄励さ繝シ繝峨・驕輔>縺ェ縺ゥ縺ァ豁」縺励¥譁・ュ励′陦ィ遉コ縺輔l縺ェ縺・樟雎。縺ョ縺薙→縺ァ縺ゅk縲】
「何これ……」
最初の数行以外、全て文字化けしているのだ。急いで他のメンバーのメッセージを開くも、どれも文字化けしたメッセージばかり。何かが起きていた。
すぐさま先輩にメッセージを送る。過去最速で打たれたメッセージ。しかし、正常に送れない。何度送っても、文字化けしたメッセージが送信される。
すると突然「ムカイプ」の着信音が流れた。相手は―――先輩から。普段はいじったりいじられたりの関係だが、こういう時には真っ先に近寄ってくれる。本当に頼もしい先輩だ。
通話が繋がるという若干の安堵を覚えつつ、先輩からの通話に出て―――
「もしもし先輩ですか? やっぱり先輩は―――」
『え^12-^え9wq09! れkdsvfbfjkxcmc』
「―――え……まさか……嘘でしょ……」
―――目の前が真っ暗になった。
♦♦♦
配信開始まで後一時間。しかし、今はそれどころではない。彼女からの一切の音通が途切れた。いくらメッセージを送っても文字化けしてしまい、通話もダメ。にじさんじメンバーで一のパソコンスキルを持つはじめ先輩も何もすることが出来ず、完全に手詰まりに。まずは目先のことを解決するべく、急遽ゲリラ声劇配信に変更。リリちゃんを除いたにじさんじメンバー全員参加という形でその場を乗り切ることにした。結果的に全員参加ということもありリスナーの評価は高かったのだが、一部コメントでは【皆なんか今日は身が入ってない気がする】などのコメントも見受けられた。
二時間の配信後。それどころか一日経っても音沙汰なし。「イキッター」の方でもリリちゃんの反応がないことがリスナーに認知し始められている。にじさんじのメンバーは皆途方に暮れてしまい、完全に打つ手がなくなってしまった。
夕陽リリは、未来に一人残されてしまったのだ。
理由は分からない。分かる余地もない。だが、分かっていることは一つ。やることも一つ。
僕はいつもの竹刀を肩に、立ち上がった。
♦♦♦
皆からメッセージが受け取れなくなってから三日目。最早文字化けのメッセージすら届かなくなってしまった。電波の再ハイジャックをすることもできず、向こうとは完全に通信が途絶えてしまっている。もう何度泣いたか分からない。言葉に表すことが出来ない不安、恐怖、そして寂しさが私の心に押し寄せてくる。
あまりの変わり様から、家族にも心配されてしまっている。学校にも行っていない。とても行けるような精神状態ではない。しばらく一人にしてほしい、とだけ言って三日がたってしまっている。さすがにこれ以上放置してもらうのは厳しいだろう。
コンコンコン
廊下からノック音が鳴った。
もうすぐ夕飯ぼ時間だ。足音からしても、母だろう。
「リリ。貴女宛に手紙が届いたわよ。なんか男の子がお父さんに『娘さんに渡してほしい』と言われて貰ったらしいのだけど……」
「手紙……?」
だが、聞こえてきたのは全く予想していなかったもの。今時手紙を送ってくる者などいない。それもわざわざ家に来てまで渡してくる男の友人など皆無だ。
「顎が尖っていて、竹刀を持っていたらしいわよ」
「ッ!?」
「手紙は部屋の前に置いておくから、気が向いたら読んでね。ご飯はもうできているから冷めないうちに来なさいね」
部屋から離れていく足音。もう夕飯はできているらしいのだが、今はそんなことどうでもいい。顎が尖って竹刀を持っている男の人を、私は一人しか知らない。部屋を出て目の前に落ちている手紙を拾い、封を開けようとして―――
「―――嘘……でしょ……?」
―――言葉を失った。
「やぁリリちゃん」
「先輩……?」
どうやって入ったのか、そんなことはどうでもいい。
「そうだよ。いきなり音信不通になっちゃうから皆心配していたぞ」
夕陽に照らされる廊下。そこには剣持刀也が立っている。声も姿も、見間違えるはずがない。目で先輩だと確認する度、声を聴く度に心が安心で満たされていく。目頭の奥が熱い。
「どうして先輩が……ここに……?」
なんとか絞り出した言葉。それを聞いた先輩はニヤッと笑いながら私の頭に手を置いた。
「言ったでしょう。僕は未来くらい行けるって。まさか嘘だと思ってた?」
いつも通りのテンションで話しかけてくる先輩。頭からは先輩のぬくもりが伝わってくる。もうそれだけで胸がいっぱいだ。
「嫌だなぁリリちゃん。僕が嘘をついてるとでも―――」
私はそのまま先輩の胸に飛び込んだ。
「先輩……ありがとうございます……!」
「―――いいよ。リリちゃんが無事でよかった」
先輩は優しい言葉をかけ、私の頭を遠慮がちに撫でてくれた。この三日間感じられなかった安心感。それに身をゆだねて、私はとにかく泣きじゃくった。
♦♦♦
あれから一か月後。「Youpube」の生放送ランキングの一位には、とある三人の3Dキャラが映っていた。ゲリラで行われたのにも関わらず来場者数は世界一位の八万人。リスナーからは驚愕の声が相次いでいた。
夕陽リリ失踪事件から四日後。なんと剣持刀也のチャンネルをハイジャックしたとして剣持刀也名義で夕陽リリがゲリラ配信を開始。音信不通だったわけを聞かれると、
「先輩の電波をハイジャックするのに時間をかけていた」
として、音信がなかったことを謝罪した。
その後、いつも使っていた電波の再ハイジャックに成功。通常通りのスタイルにゆっくりと戻っていった。
そして迎えた3Dアバター公開放送。万単位の視聴者とともに配信を進めていく三人は、笑顔だ。
「えっと。【次の目標はなんですか】だって。刀也さんなんかあります?」
コメントの質問に答えていくというコーナーで伏見ガクが拾った質問。振られたのは剣持刀也だが、夕陽リリもむう、と考えている。刀也は少しの思考。そして、答えた。
「そうですね。この前どっかの未来人にハイジャックをされたので、近いうちにやりかえしたいですね」
「プフ……ナハハハッ」
「そう、今笑っている奴ですよ。絶対やるからな覚悟しろよ」
相変わらずのコメント。だが、夕陽リリには分かっていた。彼は自分に起きていたことを二人だけの内緒にして、彼自身がネタになるように動いていることに。
ありがとうございます、と言いたいところではあるが、それではいろいろまずい方向になるため、感謝の気持ちも込めて、こう返した。
「無駄ですよ」
リクエストあれば書きます。
絶対に本人様には報告します。