この世界で伝えられる事を探して   作:かささぎ。

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思ったよりもシリアスに出来なかった……だと
キャラの皆さんがシリアスになるムードを許してくれませんでした。
お気に入り、感想、誤字報告ありがとうございます!何度か見直していますが、何でこの誤字を見逃すってものばかり……見直してなかったから更にあるんですけどね。

賛否両論あるかもしれませんが、どんな意見でも待っています。




12話 帰省

 

 

「ただいま」

 

 

やっと島田家に着いた。時間は既に22時を過ぎ、当初の予定より大幅に遅れての到着だった。

 

 

「聞いてた時間より随分と遅かったわね、お帰りなさい湊」

 

 

家政婦と共に母さんが出迎えてくれた。もう夜も遅いのに待ってくれていたのだろうか。

 

 

「しばらく見ないうちに身長伸びたかしら?」

 

「そうだね、3センチは伸びたよ。いやー卒業までには180は欲しいね」

 

「ふふ、ずっと一緒にいるのも良いけれど、たまに顔合わせるのも息子の成長が一気に感じられて良いものね」

 

 

そう言って母さんは微笑む。いやーほんと息子が言うのもなんだけど、めちゃくちゃ若くて綺麗だわ。

 

 

「愛里寿は流石に寝ちゃってるわ。帰ってくるの待ってたわよ」

 

「……電話掛けても出てくれないんだけど」

 

「やっぱり年頃なのよねぇ〜、素直じゃないのよ。まぁ、積もる話もあるけれど、今日は移動で疲れたでしょ。ゆっくり休みなさい」

 

「うん、そうさせて貰います」

 

 

そこで母さんとは一旦別れる。自分の部屋に荷物を置き、二つ人形を取り出す。一つはケイと会うため長崎へ行った時、もう一つはカチューシャ達と会うために青森へ行った時に買ったものだ。

 

ハウステンボスをイメージしたボコと大自然相手にボコボコになったボコの二種類だ。こんな種類があるとはボコって意外と人気あるんじゃね?と思いつつ、家政婦さんに頼んで愛里寿の隣に置いて貰っておく。誕生日とクリスマスプレゼントの分だ。け、けして機嫌を直してもらう為に買ってきたんじゃないんだからね!

 

そして自分の部屋に戻り、ベッドへと倒れる。そこで頭の中に響くのは、カチューシャ達と別れた後に出会った女の子——ミカから言われた言葉だ。

 

 

 

 

 

 

 

「そこに君の心は込められているのかい?」

 

 

胸に何かを打ち付けられたような衝撃が走る。カンテレを鳴らしながらいきなり現れた女生徒は俺にそう告げた。

 

 

「……君は、誰だ?」

 

 

上手く言葉を発せない。心臓が激しく鼓動している音が頭に響く。誰だ、と問うているが、俺はこの子を知っている。ノンナさんもだったが(カチューシャは置いておく)やはり全体的に小さく、幼くなっている。それでも、その独特な雰囲気を持つその子が誰かわかった。

 

 

「いきなり声を掛けて申し訳ないね。……うん、私のことはミカって呼んでくれ」

 

 

継続高校のミカであった。原作では劇場版からの登場であり、他の隊長と比べても劣らない程の特徴、何より劇場版で試合の流れを変えたと言っても過言ではない程の活躍をした選手である。

 

そして、課題の一つにも含まれているが、取り敢えず今は置いておこう。だいぶ落ち着いてきたが、それでもここで彼女と出会うなんて予想外にも程がある。

 

 

「ミカさん、ね。俺の事は湊でいい。それで心が込められてるのかいって、どういう事かな?」

 

「そのままの意味なんだけれどね、付け加えるのなら」

 

 

君の歌っていた曲に、君自身の心は存在するのかい?

カンテレを鳴らしながら彼女はそう言った。

 

 

「……何を言っているか、分からないぞ」

 

「実は私もなんだ」

 

「何だよそれ、余りにも無責任じゃないか?」

 

「でもね、君が歌っていた曲の中に、君自身が大いに欠如してると感じたのさ」

 

 

言葉にする事は難しいのかも知れない。それでも彼女の言っていることは、俺自身には痛い程分かっていた。

 

俺が歌うのは、どんなに有名だった人の曲でも、ブレイクした曲だったとしても、他人の曲なのだ。他人が自問自答を繰り返し、言葉を紡ぎ、思いを込めて作り出された曲の中に、俺が入り込む余地なんてないんだ。

 

 

「……俺が歌っている曲は借り物なんだよ。もしかしたらそれが原因だと思う」

 

「ふむ……確かにそれもあるんだろうね。けどそこだけの話ではないと思うよ」

 

「……何が言いたいんだ?君は」

 

「その質問に意味があるとは思えない。何故なら」

 

 

それは君自身で見つけることだからね。

 

彼女はキメ顔でカンテレを流しながら言い切った。……無茶苦茶腹が立つ。いや、正直何とも言えない頭に引っかかってた何かの正体がほんの少しだけ、感じ取れたかも知れない。けど、ミカの顔見てると言ってやった感が半端ない。

 

 

「あ、でも好きか嫌いかと言えば、嫌いじゃないよ、君の歌は」

 

「好きでも嫌いでもないじゃないか。褒めてるか貶してるのか分からないぞ」

 

「察しが悪いね、褒めてるんだよ」

 

 

あー!めんどくせぇ!顔が幼くなってる分、ちょっとやってやった感、所謂ドヤ顔ってやつが更に頭にくる。可愛いんだけどね!?

 

 

「おーい!ミカ早く帰るぞ〜。プラウダは出港していったからもう安心だ」

 

「分かりましたルミ先輩、戻ります」

 

 

遠くからミカの先輩の声が聞こえてきた。こっちを見ている。

 

 

「あ、ミカがナンパされてるぞ」

 

「いや、話しかけられたの俺の方ですから」

 

「ミカがナンパしてんの!?」

 

 

ルミ先輩と呼ばれた人が近寄ってくる。

……ん?この人どっかで……あ!大学選抜の人だ!継続だったのかこの人。

 

 

「話しかけるだけでナンパになるのでしたら、ナンパ師で世の中一杯ですよ、ルミ先輩」

 

「いや〜ミカが男と話してるのすごい珍しかったからさー」

 

「……それで、ミカさんは俺に何の用ですか?」

 

 

ドヤ顔もそうだけど、自分の胸の内を言い当てられて、ちょっとトゲのある言い方になってしまった。

 

 

「用がないと話しかけてはいけないのかい?」

 

 

カンテレの音が響く。ルミ先輩は苦笑しており、俺はあっけに取られた。

 

 

「い、いや……いけなくはないけど、何の用もないのに知らない人に話しかけるってどうなんだ?」

 

「いや〜悪いね!うちの後輩が。なかなか癖のある子なんだよ」

 

「は、はぁ……」

 

 

……正直今凄くミッコとアキを尊敬してる。この人とずっと一緒にいるってほんま精神が。飽きなさそうだけど……。

 

 

「さて、そんじゃミカ帰るよ」

 

「分かりました」

 

「……そう言えばさっき「プラウダは出港して行ったから、もう安心だ」なんて言ってましたけど、何やってたんですか?」

 

「「……………」」

 

 

二人とも黙り込む。……まさか、

 

 

「なんか悪い事を「ミカ!ダッシュ!」

 

「ルミ先輩のせいですよ」

 

二人は一気に駆け出しやがった。黒じゃねぇか!あー、こっちは荷物あるし追いかけらんねぇ!

 

 

「おっと、君最後に一つだけ」

 

 

ミナトは何の為に歌ってるんだい?

 

そう言って彼女達は去って行き、すぐ近くにあった戦車で逃亡していった。なんて逃げ足の速い……。

 

その時俺は固まっていた。あまりの逃げ足の速さもそうだけど、ミカの最後の一言が更に胸に突き刺さっていたからだ。打ち付けられて突き刺さるとか、ミカさんちょっと攻撃力半端なくないですか?

 

そんな変なことを考えてしまうほど、動揺しきっており、暫くそこに立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

いつの間にかに寝ていたようだ。相当疲れてたのか。このまま寝ていたい。

 

 

「……何の為に歌ってるって、この世界には無い曲を色んな人に知ってもらう為だ」

 

 

そう、これは変わらない事。自分自身に嘘を付いてるなんて無い。俺の知ってる曲を、励まされ、感動してきた曲を知ってもらいたいんだ。けど、

 

 

「……あー何でこんなにも記憶に残るんだ。頭から離れん」

 

 

このまま寝ておく訳にもいかない。のそのそと起き上がる。取り敢えず着替えるかと思った時に、

 

 

「お兄ちゃん!!」

 

 

愛里寿が部屋に飛び込んできた!

そのまま俺の方へダイブしてくる。

 

 

「ボコありがと!これすっごいレアなんだよ!」

 

 

やべぇ、うちの妹が可愛すぎて死にそう。これまでの人生で何回死んでるんですかねぇ……

 

 

「気に入ってくれて何よりだ。送るのも良かったんだけど、やっぱり直接渡したくて……誕生日はすまんな」

 

「ううん、いいの!あの時もボコのグッズ送ってくれたでしょ?」

 

「いや、まぁそうなんだが……とっておきだったからな」

 

 

愛里寿さんの声久し振りに聞きました。とても元気そうで良かったです。あぁ、浄化される。

 

 

「愛里寿、久し振りに声を聞けて良かった。元気そうで良かったよ」

 

「……!」

 

 

その瞬間、愛里寿は嬉しそうな顔から、むすっとした顔になり、そのまま部屋を出て行ってしまった。嬉しかったんだろうなぁー、その勢いで俺の部屋まで来たんだろうなぁー。今の言葉でずっと連絡してなかった事、口を利いてなかった事を思い出したんだろうなぁ。

 

あー死にたい(絶望)

 

 

 

俺も着替えてリビングに行くと、母さんと愛里寿が待っていた。

 

 

「そろそろご飯も出てくるわよ。久し振りに家族揃ってのご飯よね〜」

 

「うん、そうだね。……愛里寿」

 

 

愛理寿に話しかけると、プイッと顔をを逸らされる。それはそれで可愛いけどやっぱりショックだわ。

 

 

「はぁ……愛里寿、湊のこともう怒ってないんでしょ?聞いたわよ?今朝だってプレゼントに大喜びで湊の所まで飛び出して行ったって。下手な意地張ってたら、折角湊が帰って来てるのに何も話せず帰っちゃうわよ?」

 

「……」

 

 

母さんがもう見てられなかったのか、愛里寿を諭すように話しかける。

 

 

「ほら、報告したい事もあるんでしょ?聞いて欲しい事もあるんでしょ?なら家族皆がいる今が一番仲直り出来るチャンスよ」

 

「……はい、分かりました。お兄様、ごめんなさい」

 

 

おぉ、おぉぉ、愛里寿が俺にまともに話してくれた!

 

「いや、いいよ。そもそも俺も色々黙って勝手に決めてたからさ。それ考えたら悪いのは俺だよ、こっちこそごめんな……」

 

「……うん、後でお兄ちゃんの歌聴きたいな。全然聴けてなかったから」

 

 

その瞬間に少し固まってしまう。けど、愛里寿が聞きたいって言ってくれたんだ。

 

 

「別に構わないさ、さぁご飯食べようか」

 

「……」

 

 

何か視線を感じると、母さんがこっちをじっと見てる……え?なんで?

そうして一緒にご飯を食べる。久し振りの家族と食べるご飯はかなり美味しかった。しかも今回は全部家政婦さんじゃなくて、母さんも手伝っていたらしい。美味しいって言ったらすごい笑顔になってた。

 

因みに、愛里寿からの話は戦車道関連で、この一年で愛里寿が評価されて、なんと来年から飛び級で大学生になり、大学の戦車道選抜チームのしかも隊長を任される事になったらしい。

知ってはいたけどこの時期なんだと思いつつ、冷静になって考えると、あれ?俺より学歴半端なくね?と結構なショックを受けた。とは言っても、嬉しさの方が勝っているのは間違いなかった。

 

 

「高校生に飛び級だったらお兄ちゃんと一緒に通えるのに……」

 

 

愛里寿が言い、悶えた。なんて……なんて破壊力なんだ!しかしその後の

 

 

「一緒に通えたら、お兄ちゃんに付き纏う人たちをセンチュリオンで……」

 

 

うん、聞かなかった事にした。母さんも流石に予想外だったのか、何処からか取り出した扇子で口元を隠していた。母さん、目をキョロキョロさせてるし、動揺してるのバレバレですよ。……何となく高校への進学、しかも元女子校に行くと知った時の怒りの原因が分かった気がする。

安心しろ、愛里寿。俺の高校には車を暴走させる奴らや、干し芋ばっか食ってる奴らしかいないから。

 

ご飯を食べ終わった後も、ほかにも戦車道の試合での結果や、ボコについてだとか色々話した。これまでの会話していなかった期間を埋めるように。ただ一つ心配なのが……

 

 

「愛里寿、友達とは遊んだりしてないのか?」

 

「えっ……」

 

 

愛理寿は固まってしまった。……やっちまったぜ!

いや、話の内容に全く友達と遊んだ〜とか無いからまさかと思ったが……

確かに誤解されがちな子で、戦車道がかなりと言うか、日本でも屈指の実力と才能を持ち、その上可愛いから、異性は勿論、同性の友達でさえいなか……少なかったのだが、出来ていると思ったのだ。

 

 

「うん、仲良くお話する……よ?」

 

 

うわーやめてー!心配させないようにと気丈な振る舞いしてるけど心に来るー!

 

 

「そっか……飛び級しちゃうけど、きっと大丈夫。周りは年上の人ばかりだけど気負う事はないよ。何かあればすぐ連絡をしなさい。お兄ちゃんすぐ行くから」

 

「うん……」

 

 

大丈夫だ、愛里寿。むしろすげー慕われるようになるから。

 

と、こんなそんなで愛理寿との語らいの時間も過ぎていった。日も暮れて夜になると、突然母さんから呼び出しを受けた。

 

 

「失礼します」

 

「どうぞ」

 

 

ノックして母さんの部屋に入り、促されて椅子に腰掛ける。

 

 

「何か用でしょうか?」

 

「あら、何か用が無いと息子を呼んではいけないのかしら?」

 

 

母さんは笑ってる。うーん……何考えてんのかな?

 

 

「大洗へ行ってどう?楽しい?」

 

「そうですね、少なくとも飽きる事は無いですね」

 

 

大洗での過ごし方を聞かれていった。ライブの事は勿論、自動車部での暴走や整備について、生徒会での手伝いなど、いろんな事を話していく。

 

 

「そう、楽しそうで良かったわ……自動車部になんて入るなら戦車道を続けて欲しかったけれど」

 

 

若干のジト目で此方を見てくる。母さん、なかなかいい視線ですね、込み上げるものがあります。

 

 

「まぁ、将来について選択肢は多い方がいいですから。整備についても練習を兼ねて……」

 

「あら?音楽に関して卒業後もやっていくと思ってたわ」

 

「約束は高校3年間までですから」

 

「ふーん……」

 

母さんはまたも扇子を取り出し、口元を隠しながら此方を見ている。うー、視線が……

 

 

「例えば歌手だとか、プロになるとか無いの?」

 

「……そうですね、なれるのならばいいかもしれませんが」

 

「なるほどね」

 

 

何がなるほどなのだ。……確かにプロとかも考えた時はある。やるならば全力で、とここに生まれてからはそうしてきたからだ。けれど俺が歌う曲は他人の曲、それを自分のものの様に扱う事は出来ない。ちょくちょく、作曲にも挑戦はしてるけれど、納得のいくものが作れる気がしない。

 

母さんは考えた様子で、部屋には少しの間静寂が訪れる。

 

 

「ねぇ湊、何か悩んでいることがあれば聞くわ」

 

「……」

 

「愛里寿から歌を歌って欲しいと言われた時、様子がおかしかったから、何かあったのかしらって」

 

 

全部見抜かれてんじゃねぇか!けど顔に出すな。ここまでしてもらってて、これ以上迷惑かけられない。

 

 

「いえ、特には。学校生活も、それに音楽に関しても問題は無いですよ?さっきから話していた通りです」

 

「そう……じゃあもう夜も遅いし寝なさい。年末年始は挨拶で忙しいけれど、なんとか時間作るから三人で初詣行きましょう」

 

「いいですね、俺にも手伝える事があれば何でも言ってください」

 

「貴方は愛里寿と遊んであげてなさい。普段物凄く寂しがっているんだから……口には出さないけれどね」

 

「分かりました、ではもう寝ます。お休みなさい」

 

 

そう言って、部屋に戻る。……何とかやり過ごせたかな?しかし、頭にこびりついて離れないミカの言葉が歌に関係する度に蘇る。

 

明日は愛理寿の勉強を見つつ、ボコ見たり、そして歌を聞かせてやるんだ。と自分に言い聞かせて、思考を打ち切り眠りについた。

 

 

 

 

 

「はぁ……あの子は……」

 

 

親に隠し通せると思ってるのかしら?けれど、何に悩んでいるのか分からない。歌に関してなのは確かだけれど、あの子話さないと決めたら話して来ないから……

 

 

「全く、誰に似たのかしら」

 

 

思わず口に出してしまった。取り敢えず、まだ大丈夫そうではあるけれど、いざという時に動ける様にしとかなきゃね。愛里寿は勿論、湊も私の息子なのだから。

 

 




「用がないと話しかけてはいけないのかい?」チラッチラッ

久し振りの島田家です。やっぱり愛里寿は可愛いなぁ!
しかし、大学選抜チームの飲み会での始めての友達発言には、何とも言えない気持ちになりましたね……

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