この世界で伝えられる事を探して   作:かささぎ。

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こんにちは、
お気に入りが500を超え、驚きの連続です。誤字報告は勿論、評価点までありがとうございます。
もう少しだけ、もう少しだけ、主人公に付き合って下さい。


15話 兄と妹

 

 

と言うわけで、半年も経たずに戻ってきた地元である。言われるがままに福岡県に来たわけだが、何だよ干し芋買って来てって。街中を歩きながら探している途中だけれど、言われた時は思わず2、3回聞き返したわ。

 

まぁ角谷が休み返上してまで学校でする事があるからなんだろうけど、そんな欲しいならネットで取り寄せれば良いのにと飛行機に乗りながら思った。いやー話を受けた時は、あまりの衝撃で思い付かなかったわ。

 

取り敢えず、なんか限定物の干し芋を買い集めて、その後はGW自由にして良いって言ってたから自宅にでも戻ろうかな……。

 

しかし、今の姿を見せても良いのか?歌を歌えないなんて。母さんは音楽を続けて行きなさいと言った。愛里寿だって、俺の歌を気に入ってくれていた。なのに、現状がこの様だ。正直合わせる顔がないし、愛里寿からは聴かせてと言われそうだ。

 

今回GWに帰ることは実家には伝えていない、このまま友達に頼んで泊まらせてもらう……いや、干し芋買い集めたらもう帰るか。

 

 

そう考えてる時だった。

 

 

「お兄……様?」

 

 

ばったりと、愛里寿と出会ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜あの時の少年がまさか隊長の話に出て来るお兄様〜だとは考えもしなかったなぁ〜」

 

「ちょっとルミ、知り合いなの?隊長のお兄さんと」

 

「そうよ、私達にも紹介しなさいよ」

 

どうやら愛里寿は大学選抜チームのルミ・アズミ・メグミの3人と買い物……戦車道で必要な物を買いに来ていたようだった。愛理寿は自分で選びたいだろうし、それに合わせて他の3人が付いてきたみたいだ。

 

 

「えっと……ルミさんとも殆どまともには話していませんでしたが改めて、愛里寿の兄の島田湊です」

 

「お兄様は何でこっちに居るの?帰って来るって言ってた?」

 

 

自己紹介を軽く流され、愛里寿にとっては俺のいる理由の方がよっぽど気になるみたいだ。そりゃそうだよなぁ。

 

 

「いや、ちょっとね。うちの学校から福岡に対して用事があったみたいでね。その対応でさ」

 

「そうなんだ。じゃあこっちにはいつまでいるの?この連休が終わるまで?」

 

「あぁそれは……」

 

「私、お兄様の歌聴きたいな。聴かせてくれる?」

 

 

愛里寿がマシンガントーク並みに話しかけて来る。若干テンション上がってて、俺が帰って来てた事がそんなに嬉しかったのか?いやーそんな思って貰えるとは嬉しいなぁ!

 

 

「あー悪いな愛里寿。用事終わったら帰らなきゃ行けないんだ。すぐ帰る事になるだろうから連絡するのもなぁっと思って」

 

「そう……なんだ」

 

 

しかし、言葉が勝手に口から出て行く。おい、愛里寿に嘘をついてどうする。休みはこっち居ても良いって角谷から言われてただろ?愛里寿が落ち込んでるじゃないか。

 

 

「それもあって、今回は楽器持ってきて無いんだよ。だから歌を聴かせる事もね」

 

「えっ!……」

 

 

愛里寿は目を見開いている。珍しいな、あの愛里寿がこんなにも驚くなんて。そんなに意外だったのか?

 

 

「お兄様……これからは少し時間ある?」

 

「ん?うん、あるぞ。そんな急ぐって訳でもないからな」

 

 

愛里寿は少し間を置き何か考えた後、時間が空いてるかを尋ねてきた。まぁ用事は言って無いけど、干し芋買うだけだし、今日明日くらいでまぁ大体買えるだろ。

 

 

「じゃあお昼ご飯、一緒に食べよ?」

 

「あぁ、そんな事ならこっちからお願いしたいさ」

 

 

そう言う事で一緒に昼食を取ることにした。

 

ちなみにあの3人はずっとこっちが話してる近くで、「あんな隊長初めて見た」「私達もまだここに来て間もないけど、あの隊長可愛いわね」「いやーお兄さんのお陰でこんな隊長を見れるとは」なんて、話してた。愛里寿の魅力は分かるが、ずっと愛里寿の話してるなんてちょっと怖いぞ。

 

 

 

 

昼食中はいろいろな話を聞いた。現在は大学選抜チームって訳でなく、選抜される為の試験をしてる最中らしい。そりゃ、大学入ってまだすぐだろうしな。むしろこんな早くに選抜チームの試験がある事が驚きだわ。戦車道専門なのか知らないが、大学側本気過ぎる。

 

ちなみに愛里寿は隊長が確定していて、それは四月の頭に実力を試す為に現選抜チームと候補生チームで試合をし、愛理寿が候補生達を率いた結果、圧倒的勝利を収めたらしい。なんて末恐ろしい妹なんだ。その時からこの3人は愛里寿の事を尊敬して一緒に居るらしい。

 

 

「ちょっと席離れるね」

 

「おう」

 

 

愛里寿が席を離れたタイミングで、積極的に会話に入って来なかった3人組が一気に喋り出す。

 

 

「湊くんって絶対モテそうよね」

 

「間違いないわね、サンダースだったら女子の取り合いが半端なさそうだわ」

 

「あっはっは、何たってうちの後輩が自分から話しかけに行ってたからなぁ〜」

 

「ねぇねぇ、湊くんは彼女いないの?」

 

「いないですよ。それに仲のいい女子は少なからずいますが、そんな感じじゃないし、他の女子からは話しかけられないです」

 

「えー、そんな馬鹿な」

 

「貴方の学校の女子勿体無いわねぇ」

 

「こりゃ、ミカ喜ぶかな」

 

 

こんな会話をずっとしてた。勘弁してくれ……学校で基本1人の俺の傷を開かないでくれ……。まぁ、自動車部いるし、そんな気にしてないけどさ。すると、愛里寿が帰って来た。

 

 

「愛里寿、おそかっ……た……な」

 

「お兄ちゃん、アズミ達と仲いいね」

 

 

愛理寿さん、家モードになってますよ?てか普通に怖い。めっちゃ無表情なんだけど。ほら、大学生の方々思わず、ひぃ!?なんて声上げてるし。

 

 

「ま、まぁ、愛里寿の友達というか、戦車道仲間だろ?だったら愛里寿がお世話になる事になるしな」

 

「ふーん……あ、そうだお兄ちゃん」

 

「何だ愛里寿?」

 

「お母様が家に顔出しなさいって、丁度連絡来てそう言ってた」

 

「わ、わかった」

 

「あっ、アズミ達もお兄ちゃんも食べ終わってるんだね。じゃあそろそろ出る?」

 

「そうだね」

 

 

愛里寿、お前の新しい友達を取るわけじゃ無いから、安心してくれ。それにこの人を彼女にしたいとか考えてないから。それ以前に2人は初対面、ルミさんも似たようなもんだから。

 

3人は「島田流を怒らせると大変な事になるわね」「知ってる?あれでまだ12歳なのよ?」「ミカ、あれを超えるのは難しいぞ……」なんて言ってた。俺も島田なんですけど、それに何でちょくちょくミカの名前が出て来るのか。思い出しちゃうだろ、あの言葉を。

 

なんて考えながら、いつの間にかに家に帰る事になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「今回は随分と早い再会になったわね。それにこっち来てるのに連絡もしないなんて、お母さんは悲しいわ」

 

 

選抜(候補)の3人と別れ、愛里寿と共に家に帰って来た。ボコミュージアムに一緒に行く、という事で話がまとまり、愛里寿は機嫌を直してくれた。愛里寿ほど頭が良ければ分かっているんだろうけど、やっぱり俺が他の女性と話してると不安になるのかね。まだ小学生でもおかしく無いし、知り合いも多く出来ては居ないだろうから余計に。そこら辺は時間の問題だな。

 

そして、一番の問題は現在目の前にいる人である。およよよよ〜と手で泣く真似をしているけれど、目が真っ直ぐこっちを見つめてる。むしろ射抜かれてるような感覚だ。こ、こんなになるようなことか……?

 

 

「そ、それはすいません。こっちに滞在できる期間が少ないので、顔出す暇ないかなぁと」

 

「ま、そんな事は良くないけど、どうでも良いのよ。……後で部屋に来なさい」

 

 

と、軽く流された後に部屋に来るように言われた。……何の話だろう。

 

今回は荷物は少ないので、荷物置きはすぐに終わり、母さんの部屋に向かった。

 

 

「失礼します。……何の用でしょうか?」

 

「うーん、どう聞こうかしらねぇ」

 

 

母さんは考えてる様なそぶりを見せる。これは何を聞くか既に決まってますね。

 

 

「ねぇ、湊」

 

「はい」

 

「楽器、持って来てないのね」

 

「えぇ、時間が演奏する暇ないと思って」

 

「そう……あのね、湊。貴方自分で気付いてないのかもしれないけれど、音楽を始めてライブをするようになってからはずっとギター持ってたのよ」

 

 

え?そうだったっけ?……確かにそうかも知れない。

 

 

「私が何を言っても、いつ演奏する機会が訪れるか分からないと言って聞かなかった。旅行した時だって夜に自由時間あげると、喜んだ後に道端で歌い始めるし」

 

 

あー、そんな事もあったな。その時に凛ちゃんに会ったんだっけ?

 

 

「そんな貴方が楽器を持たずに遠出する、しかも愛里寿に聞くとそんなに急いでる訳でもないから時間は確保出来るはず。貴方なら尚更ね。

私が言いたいのは、あんなに夢中でがむしゃらに取り組んでた音楽をする為の楽器を、何で持って来てないのって思ったのよ。

愛理寿も驚いてたわ。お兄ちゃん、歌うのやめたのかなって。そう思わせる様な事なのよ、十分にね」

 

 

………………。

 

 

「ねぇ、湊。貴方は何で歌っていたの?何の為にずっと歌い続けてたの?」

 

「俺は、俺の歌う曲を広めたくて、皆に知ってもらいたくて……」

 

「……そう。そうなのね。もしそうだとしても、今はどうしてなの?何かあったのかしら」

 

「……歌えないんだ。色んな人に歌を、色んな曲を知ってもらいたくてやって来たのに、いつの間にか歌えなくなって来たんだ」

 

 

「貴方の歌う歌には貴方自身が感じられないって、何の為に歌っているのって問われて、さっき言った事は本当なんだ。けどまともに答えられなくて、答えに詰まって、それを考えるうちに歌えなくなったんだ」

 

 

「……貴方自身が感じられない、何の為に歌っているのか……確かに貴方の言ったことも本当の事かもしれない。けれど、それ以外にもあった筈よ。

それを見つけるのは、思い出す事は難しいことなのかも知れないわね。……だけどそれでいて簡単で、身近な所に貴方の求める答えはある筈なのよ。

……そうね、丁度明日は愛里寿の戦車道の試合があるわ。それを見て行きなさい」

 

 

そして、その結果を見届けた後、貴方の大事な妹に聞いてみなさい。貴方の歌の記念すべきファン1人目はあの子なんだから

 

 

 

 




次回主人公回終了。

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