この世界で伝えられる事を探して   作:かささぎ。

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本日2話目です。どうぞ!





24話 『風の日』の『レイトショー』 (中)

 

 

みほの話を聞いてると本当に胸糞悪くなってくる。どうやら先の大会で起きたトラブル後、周囲からのバッシングが酷いらしいのだ。

 

そもそも一年で副隊長という地位が納得されていなかったらしく、西住まほの妹だから、あの西住流の直系だからだとか、影で言われていたらしい。

 

また、みほの性格もある。人見知りするタイプなのは見ればわかる。物事をはっきりと伝えられていない、おどおどしてしまうその姿に周りの人間からも色々と文句があったらしい。

 

それでも副隊長に選ばれて、勝つ、ただそれだけの為に戦車道を続けていたらしい。毎日が目の前に用意されているレールをただただ歩いていくだけ、影ながらも文句を言われ続ける日々だった。

 

そんな時に大会でのトラブルが起きたのだ。

川へ沈んでしまったチームメイトの戦車を助けようと、自身の乗るフラッグ車から降りたのだ。

 

結果その隙をカチューシャに突かれ、黒森峰は負け。10連覇という偉業を成し遂げられる事なく大会は終了した。

 

その後は西住みほは戦犯扱いされ、チームメイトや教師陣、周囲の大人その全てからバッシングを受ける。

 

中には守ってくれようとした人もいた。それでもその人自身に迷惑がかかるから、みほ自身で守ろうとする人達を制止していたのだ。

 

空気や待遇は悪いけど、私が我慢すればいいだけだと自分に言い聞かせて、ここまで来たのだ。

 

しかし、親から言われた一言で心が折れたらしい。

 

決して褒められたいから救助した訳じゃない。けど、自分は間違ってはいないと、正しかったと思っていた。けど、親から言われた事は「勝利には犠牲がつきものだ」という事。つまり、見捨てて勝利する為に行動すべきだったと叱責されたのだという。

 

 

みほの会話の中には戦車道という単語は出ていない。しかし、俺は知っているから話を聞いてそういう事があったのだと、すぐに理解出来た。

 

みほはこんな時まで、自分に関わった人達についても抽象的に話していた。恐らく元々分かってもらうつもりもなかったのだろう。けど俺は知っているのだ。知ってしまったからこそ、もう見て見ぬ振りなんて出来やしない。

 

 

 

「あはは、こんな事話しても分かりませんよね……すいません、無駄に長くなってしまって。こんな愚痴をこぼしてしまって」

 

そんな事なんてないぞ、西住みほ。君は優しすぎる。そして、一人で抱え込みすぎる。

 

「私、もう分かんないです。ここまでずっとやってきた物が本当に好きなのか。私がした事は正しかったのか」

 

あぁ、俺には愛理寿が居た。だから俺は再び立ち上がれたんだ。けど、みほには……現状誰も居ない。西住まほは確かにいる。

 

けれど、今のみほを助けるには立場が悪すぎる。……本当は立場なんて考えず手を伸ばすべきなんだが。

 

 

「私は……これから何をすればいいか分かんないんです。……本当にわかんないよぉ……」

 

……あぁ、女の子を泣かせてしまったな。話を聞いていただけだけど、それでも、泣かせちまった。

 

俺たちは初対面。俺でいう愛理寿、の存在になれる訳がない。それでも……それでも何か大切な物を、譲れない何かを見失いそうになってるこの子を引き止めないと。

 

 

俺はいつのまにか、歌う準備を完了していた。俺が出来る事なんて、たかが知れてる。歌う事しか出来ないんだ。借り物の歌だけど、先人達の想いに俺の想いを重ねて歌う事だけ。

 

だから俺は今この想いを音に乗せて伝える。伝えて見せる。

 

 

 

「……黙ってた事があるんだ、君に」

「……え?」

 

みほは顔を上げる。涙でぐしゃぐしゃになっている。けどその姿を見て馬鹿になんて出来やしない。みっともないなんて、誰にも言わせなどしない。

 

「……西住みほさん。黒森峰副隊長である貴女に、一人の戦車道ファンとして言いたい事があります!!」

「ッ!!」

 

俺は叫ぶ。みほは驚き、此方を怯えた目で見つめる。いきなり大声でを上げたからか……それとも戦車道を知っていた人間に、何を言われるのか分からなくて、怖いのか。

 

 

「……貴女の判断は間違ってなんかない!あの姿に救われた人は必ずいる!だから!

 

自分を否定してあげないでくれ!間違ってたなんて言わないでくれ!……好きだった筈のものを、嫌いになんてならないでくれ!

 

今はまだ難しいのかもしんないけど、胸を張ってくれ、少なくとも俺は戦車道をやってる貴女の姿に、貴女の勇気に惚れている!」

 

 

やべぇ、言いたい事がまとまらない。けど自分の想いを伝えるには直球ど真ん中ストレートだ!

 

「時間をかけてもいい!距離を取ってもいい!……だから、これまでの自分を嫌いになんてならないでくれ!」

 

 

ふとみほの顔を見ると真っ赤になっている。……やばい、怖がらせすぎたか?いきなり叫んで変人だもんな俺。

 

「あぁ、それとこれが本当に言いたかった事なんだ。確かに救助に向かう君の姿は眩しいものだったけれど……

 

あんな荒れてる川に命綱も付けずに飛び込む馬鹿がいるか!もっと自分の命も大切にしろよ!そっちの方がヒヤヒヤしたわ!」

 

 

みほの口がパクパクしている。よし、このまま畳み掛けるぞ。

 

 

「取り敢えず言いたい事は言い切った。……あとは言葉にしにくい残りの想いを、ファン代表として君に伝えたい。だから聴いてください」

 

 

『風の日』

 

 

『レイトショー』

 

 




ELLEGARDEN より 風の日
超飛行少年 より レイトショー の二曲です。是非聴いてみてください。
この二曲で伝えたい事が違って来ます。しかし、どちらも伝えたい事なのです。最後までどちらか迷いましたが、もう二曲とも歌っちゃえ!となりこうなりました。
風の日に関しては英語の部分が一番伝わってほしいところですが、流石に西住殿には伝わりきらないかと思われます笑

それにしても、短いですね
次が長くなる……かもしれません。

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