この世界で伝えられる事を探して   作:かささぎ。

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本日三話目の投稿です。これにて西住みほ編終了です。……三話合計としては短かったのかなぁ。





25話 陽の当たる場所 (下)

 

 

いきなり話しかけてきて驚いた。だって誰もいないと思っていたのに、いつの間にか目の前のベンチに座っていたからだ。

 

こんな時間のこんな場所に一人でいるなんて、物好きな人だと思ったものだ。

 

……それを言ったら、私の方こそだ。こんな所で何をやってるんだろう。いや、何をやれば良いかわからずにいたら、いつのまにかこんな所に来てしまっていたんだ。

 

目の前の人が何かを話している。けれど驚いたのも最初だけ、私はすぐに自分だけの世界にいた。

 

 

どこで間違えたんだろう。何でこうなったんだろう。昔はお姉ちゃんと一緒に楽しく戦車に乗っていたはずなのに、今では一緒に乗る事などない。

 

ただ事務的に己の作業に没頭するだけ。私が思いついた事を提案すればいつも「西住流」が邪魔をする。

 

戦車道ってこんなのだったっけ……?

 

そしてそれらはあの夏の大会で大きく変わる。赤星さん達が乗っていた戦車が沈んでいったところを目撃して、居ても立っても居られなくなった。

 

気づいたら飛び出していて、沈んだ仲間達を助けなきゃって、ただそれだけを思ってたんだ。

 

乗員は全員無事だった。本当に心の奥底から安心したんだ。あぁ、また明日もみんなの顔が見れるって。こんな毎日だけど、それでも一緒にやってきたチームメイト達は、また明日も元気なんだって。

 

周りが騒がしかった。そこでようやく周囲の状況に気づいたの。黒森峰は負けた、それだけの事実が私に突きつけられた。

 

それ以降はよく覚えていない、いや思い出したくない。私を見る目が、何か疎ましいような目に変わっていた。チームメイトも、先輩達も、教師も……そして助けた乗員達も。

 

お姉ちゃんの顔がまともに見る事が出来ない。私からは何も言えず、お姉ちゃんも何も言ってくれなかった。

 

記者達は何故あんな行動をしたのかと何度も質問してくる。何故?何でそんな事聞くの?人の命が掛かっているんだよ?

 

それを言うと全員が口を揃えて私に言う。「戦車道で死亡者なんて出るわけないだろ」と。何で?何でそんな事が言えるの?私には分からない。

 

ある日お母さんから呼び出された。あぁ、お母さんも同じ事を私に聞いてくるのかな。話の内容は案の定、何でそんな事をしたのかだった。

 

お母さんには正直に伝えた。ただ、助けたかっただけだと。日頃は厳しいお母さんでも、これは分かってくれるはず。負けた事はしょうがないけど、人の命には代えられないって言ってくれるはず。

 

……そんな事は無かった。むしろ今までの中で一番信じられない言葉だった。「勝利には犠牲がつきものです」……そんな訳ないじゃん。そんなの違うよ、私がやってた戦車道はそんなんじゃない!

 

けど私は言えなかった。お母さんに、お姉ちゃんに、学校のみんなに何も言えなかった。あぁ、私の知ってる戦車道はもう無くなっちゃった。

 

砲撃の音が体を突き抜け、鼻に付く硝煙の匂い。戦車が進むあの何とも言えない振動とハッチから眺めるあの景色。幼い頃から見てきたあの感動と充実感を感じることはもう無い。

 

それからは今まで以上に機械的にただ日々を過ごすだけ。私の事を気にかけてくれる人は何人かいた。けどもういいの、私じゃなくて他の人を見てあげて。私は大丈夫だから……

 

 

そんな思い出したくない事が何度も何度も頭の中で蘇る。こんな何も感じる事の無い毎日に何を見出せばいいの?

 

何も分からない、考えられない、思い付かない……そんな時だった。

 

私の耳に入って来たのは、小さい頃から大好きで、私にとっての憧れで、慣れ親しんだとある歌。

 

顔を上げるとそこには先程の男の人が楽器を弾いて歌っている。あぁ、懐かしいなぁ。最近は聴いてなかったなぁ。ボコ自体、最後に見たのいつだっけ?

 

彼はとても楽しく、間奏部分ではボコの物真似をしている。これが意外と似ているのだ、思わず笑ってしまった。彼は構わず歌い続けていたのだった。

 

歌が終わると私に話しかけて来た。どうやら彼もボコのファンらしかった。私もいつのまにか話す事が出来た。久し振りのまともな会話だった気がする。

 

そんなにボコが好きだったら妹さんとも仲良くできるのかな?そんな事を思ってしまうくらい、自然と会話が出来ていて、楽しく過ごせていた。

 

しかしこんな時間は長くは続かない。彼から切り出して来た。話を聞きたいって、何かあったのかい?って……正直、話す理由なんてない、けど、気が付けば私は話す前提で考え始めていた。

 

この人ならもしかして……親にすら裏切られたんだぞ。こんな今日出会ったような奴に何が分かる。……けど、それでも私は話し始めていた。頭はどう考えていても。心はもう大丈夫じゃなかったみたいだった。

 

 

 

 

 

 

 

話し終えると、彼はすごい気難しい顔をしていた。彼はどんな事を考えているんだろう、何を思っているんだろう。周りの人と一緒なのかな?

 

そして、改めて口に出した事により、溢れてくる思いが口からこぼれ出す。

 

「私、もう分かんないです。ここまでずっとやってきた物が本当に好きなのか。私がした事は正しかったのか」

 

もう私の頭の中はぐしゃぐしゃだ。色々な想いが、想像が、思い出が入り混じっている。

 

「私は……これから何をすればいいか分かんないんです。……本当にわかんないよぉ……」

 

あぁ、初めて会った人の前でこんな醜態を晒すなんて……情けないなぁ、止まってよ私の涙。

 

 

 

「……黙ってた事があるんだ、君に」

 

 

……え?いきなりどうしたんだろう、彼は。

 

「……西住みほさん。黒森峰副隊長である貴女に、一人の戦車道ファンとして言いたい事があります!!」

 

 

ッ!!彼は知っているんだ私の事を……戦車道をしていた事を……あの事件の内容も全部。それだけで裏切られたような感覚に陥っていた。

 

しかし、彼の次の言葉でそんな気持ちは吹き飛んだ。

 

 

「……貴女の判断は間違ってなんかない!あの姿に救われた人は必ずいる!だから!

 

自分を否定してあげないでくれ!間違ってたなんて言わないでくれ!……好きだった筈のものを、嫌いになんてならないでくれ!

 

今はまだ難しいのかもしんないけど、胸を張ってくれ、少なくとも俺は戦車道をやってる貴女の姿に、貴女の勇気に惚れている!」

 

……え?……え?

いきなりの出来事すぎて、考えがまとまらない。彼は確かに私を認めてくれた、私を励ましてくれている。彼の声から、姿から、表情から、彼の想いが全てぶつかってくる。

 

すごく、嬉しい。嬉しいけど……え?後半なに?惚れてる?えぇ〜!そんなこと言われた事ない……今日初対面だよ!?あ、彼は私の事を既に知ってるんだっけ?

 

どちらにせよ、先程までの気分なんて吹き飛んだ。ただ今は純粋に恥ずかしい。私はこの人生でこんなにもストレートに想いをぶつけられた事が無かった。それも相まってなんて返せばいいか分からない。

 

 

「時間をかけてもいい!距離を取ってもいい!……だから、これまでの自分を嫌いになんてならないでくれ!」

 

 

あー!そんな言葉今かけないで!すっごい恥ずかしい……顔が凄く熱くなる。

 

「あぁ、それとこれが本当に言いたかった事なんだ。確かに救助に向かう君の姿は眩しいものだったけれど……

 

あんな荒れてる川に命綱も付けずに飛び込む馬鹿がいるか!もっと自分の命も大切にしろよ!そっちの方がヒヤヒヤしたわ!」

 

 

……そんな事、誰からも、一回も言われなかったなぁ。あの事件では沈んだ方を普通なら心配すると思うんだけど、周りの人達はそれすら無かった。だけど、この人は自分勝手に動いた私まで心配してくれてるんだ。

 

何かを言おうとして、口を動かす。けど言葉が出ない。

 

 

「取り敢えず言いたい事は言い切った。……あとは言葉にしにくい残りの想いを、ファン代表として君に伝えたい。だから聴いてください」

 

 

状況を確認する暇なんてなかった。彼の言葉を聞いて、既に嬉しさ反面恥ずかしさで混乱していたのだった。

 

けどこれだけは言える。この日、この場所で私は再び前を向けるようになったんだって。そのきっかけを貰う事が出来たんだって。

 

 

 

 

 

私の体に、彼の歌が、言葉が、想いが染み渡っていくのが分かる。今の私には分からないことだらけなのかもしれない。何か大切なものを落としてしまっているのかもしれない。

 

けど、はっきりと思い出せるのはお姉ちゃんと二人で初めて戦車に乗った時。行ける範囲が増えて私達の世界が広がった時。初めて砲撃をした時の大きな音と、体にじんじんと残るあの衝撃。初めは苦手だったあの独特な硝煙の匂いにハッチから眺めるあの景色。

 

まだ、時間はかかるかもしれない。戦車道を楽しめるようになるのは先になるかもしれない。けどいいんだ、だってこれは私の人生なんだもん。

 

私が思っているよりも、この世界は暗くなんてない。もっと明るくて、楽しいはずなんだって。

 

そんな事を思わせるような、思い出させるような、歌だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後めっちゃ大変だった。歌い終わったらみほちゃんめっちゃ泣き始めるし。大丈夫?って聞いても、ちょっと言葉を言おうとするだけで、何言ってるかわからんかった。こんなとこ見られたら俺捕まりそうなんだけど。

 

だいぶ泣き止んだところで、帰る事にした。もう時間も遅かったので、みほを送っていく……事にはならなかった。

 

いや、流石に送っていくのは無理でしょ。だって……西住まほか最悪西住流家元とエンカウントするんでしょ?いやー厳しい。それに初対面の人間が、家か家の近くまで送るってのも問題だらけだ。

 

と言うわけで、みほちゃんにタクシー代を握らせて帰らせた。まぁ明日帰るから気にしなくていいよって言ってるし、俺の財布より女の子を一人で帰らせる事の方がまずい……大洗に帰ってから暫くは節約かなぁ。

 

そして俺は徒歩で帰る。いい運動にもなるし丁度ええやろ!お金が無いわけじゃ無いんだからな!

 

 

 

そして翌日、サクッと身支度を終えて長崎へ出発する事にした。まぁ今回はかなり近いし、短い船旅になるだろうけど。

 

フェリー乗り場に来て手続きを行い、出発時間まで待機しておく。時間は過ぎていく、出発の呼びかけがかかり、船に乗り込んだ時だった。

 

「あ、あの!」

 

そこには西住みほが居た。彼女は息を切らしながらも、話を続けた。

 

「昨日はありがとうございました!本当に……本当に助かりました!貴方の言葉と姿を見て、そして歌を聴いて、私も自分自身と向き合ってみようと思いました!」

 

彼女は声を張る。……みほちゃんがこんな声を張るなんて、想像出来なかったなぁ。

 

「最後に……最後に、名前を教えてもらっていいですか!?私、貴方の名前聞いてません!」

 

彼女は問う。……うーん、島田って言うのは先入観があって驚かせちまうかも……それに大洗に来たら会う事になるだろうしなぁ。

 

「……縁があったら、また会えるさ!そん時に自己紹介するからー!ちゃんとした落ち着いた場でな!」

 

船は出発していく。彼女は手を振り続けている。……ははっ、戦車道の練習サボって大丈夫かよ。また周りからめんどくさいこと言われるぞ。

 

けど俺は心配はしていなかった。彼女の顔はとても笑顔だったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

勝手に一人で甲板で悶えていた。何が縁があったらまた会えるさ、だよ。恥ずかし過ぎる!

 

ついつい言っちゃったけど、これは痛過ぎる。ぐぁぁぁぁ恥ずかしい!

 

俺はフェリーに乗っている間ずっと、自分の吐いた言葉を後悔しているのであった。




みほの一皮向けた状態です!どうでしたでしょうか?
そして、ここでとあるキャラ達そのイメージ曲を。
西住まほ オンリーロンリーグローリー
逸見エリカ 才能人応援歌
赤星小梅 ハルジオン
三曲ともBUMP OF CHICKEN より
そして、この三人に西住みほを含めた四人の、互い互いのイメージ曲として、
ウェザーリポート
これもまたBUMP OF CHICKEN から

おや、みほさんは……
さてこれで今日の更新は終わりです!

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