この世界で伝えられる事を探して   作:かささぎ。

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間隔を開けず投稿していくスタンス。
こっちは筆が進んでしまって、書きやすいですね。
さて、今回はこの作品で私がしたいことを書いています。
とりあえずどうぞ。


3話 『真っ赤な空を見ただろうか』

 年も明けて、来年度から高校生になる訳だが、大洗へ行くと希望したところ、案の定家族からは反対された。そりゃそうだ、来年度から共学になるとは言え、大洗学園に行く意味が分からないからだ。

 

 学力に関しては、もっと高いレベルに行けるはず、特別な学科がある訳ではないと言われた。部活に関しては、そもそも俺は音楽に励みたいと前々から言っていたのに、有名どころかそもそも音楽の歴史すらない学園になぜ希望するのかなど、ごもっともな意見である。何より愛里寿からも反対された。

 

 最初は「一緒に家に居られなくなるんだ……寂しいけど、お兄ちゃんがんばってね……」なんて寂しそうな表情をしつつも応援してくれていて、今にも心臓が張り裂けつつ、くそったれな神?をぶん殴りたい衝動に駆られるが、グッと堪えた。

 

 しかし、母さんが「女子高から共学になった直後を狙って、もしかして女の子が理由ですか?」と言葉を発した瞬間に態度が激変して、凄い剣幕で妹からあれこれ言われてしまった。流石に母さんも驚いたのかフォローに回るというなんとも言えない状況になったのだが、それから愛里寿が全く話してくれなくなった。もう死にたい。

 

 全てが正論で反対され、俺自身他からみたら口で言ってる事とやろうとしてる事に一貫性がないと分かってる。しかし事情を説明する訳にもいかない。他に案がないかとも考えてみたが、やはり大洗学園へ行く事がベストだと考える。

 

 まず、条件にある優勝と大学選抜への勝利に関しては俺がどこまで貢献できるか分からないが、手伝うに越した事はない。

 

 もう一つは、本格的な関わり合いを持つのは今から三年後になるが、条件に記載されている生徒がいる学校と関係が持てるという事だ。条件の中には明らかにその時点では手遅れなものもあるが、基本的に最悪そこからでも対応する事が出来るからだ。

 

 

「あぁ、ままならねぇな……」

 

 

 思わず言葉が出る。母さんにはずっと好き勝手やらせて貰ってきた。戦車道に関係した事をやって欲しいのにも関わらず、無理を言って来ない。音楽にしてもバンドだとか普通に考えて将来を考えたら、もっと安定しているようなことをして欲しいのだろうと思う。

 

 また、俺も音楽系の高校に行こうと予定はしていた。高校三年までなら好きにしていいと、歌を褒めてくれたこと、島田流家元としての面もありながら、一人の親として応援してくれている事が伝わって来ていた。そんな中、また突拍子も無いことを言い出した息子について、母さんはどう思っているのだろうか。なんて、色々自己嫌悪に陥りそうになった時だった。

 

 

「湊、今いいかしら」

 

 

 後ろから母さんに話しかけられた。

 

 

「どうしたの母さん」

 

「進学についてよ」

 

「あぁ、わかったよ。今行く」

 

 

 そう言って母さんの部屋へとついて行く。もう夜も遅く明日も朝早いと言うのに、会話する時間を設けてくれる親なんてどれだけいるのだろうか。

 母さんの部屋に着き、机を挟んで互いに座る。少しの沈黙の後、母さんが切り出した。

 

 

「ほんと進路について、いきなり大洗に行きたいなんて言い出した時は驚いたのよ」

 

「……そうだね、自分も逆の立場なら驚いてると思う。だけど母さん俺は、」

 

「理由は言えない?」

 

「……うん、言えないかな」

 

「親として、そんなに頼りないかしら」

 

「そんな訳ない! これは俺の個人的な問題です!」

 

「ええ、知ってるわ」

 

「え?」

 

「貴方は昔からいきなり突拍子も無いことをしでかすわね。色んなスポーツをいきなり始めたり、そうかと思ったら室内でボードゲームしたり、その他にも色々、正直かなりおかしい子だったわ」

 

「自覚してるけど、息子におかしいって言うんだね」

 

「けどね、色んなことに興味関心を持って、即行動する姿は母親としてとても嬉しかった」

 

 最終的に戦車道に落ち着いてくれれば良かったんだけど、と母さんは続ける。

 

 

「それにね、貴方が理由を話さずに行動することって、必ず意味がある事だってのもわかってるわ。ほんと何度も何度も手を焼かされて、喧嘩しただの怪我しただの、毎回心配し過ぎて倒れそうだったもの。

 

 けどそれらは愛里寿を守る為だったり、島田流を守る為だったり、そして誰かの為だったり……貴方が無意味な事を言ったり、した事はこれまでありません。だからこの進路も何か理由があるのですよね?

 

 だからお好きになさい。けれど後悔だけはしない事。そして、戦車道より優先した貴方の音楽を続けなさい。私、貴方のファンなのよ?

 

 愛里寿には私からも言っておくわ。ほんとあの娘は湊の事好きすぎるわよね〜、親としては心配になるわ。どうするのよ、好きになる男の子の基準が貴方だったら相当レベル高いわよ?

 

さ、話は終わったわ。……あーもうそんな顔して、ほら貴方の言いたいことはまた聞くから。今日はもう寝なさい」

 

 

 そう言って母さんは——島田千代さんは、話を切り上げた。ありがとうございます、と一言しか言えず、いやそれすら言葉に出来たか分からない。そのまま退出し、自分の部屋に戻る。ほんとに敵わないな、一生この人には敵わないんだと思う。やばいな、目の前が歪み始めてきた……それは全然収まる気配がない。言わなきゃいけない事なんて山ほどあるのに、声が出なかった。

 

 誰かの為じゃない。自分の為になんです。だけど絶対やり遂げて、これから先も貴女と愛里寿と一緒に過ごして見せます。

 

 こんなにも親に恵まれている奴なんていないだろ。断言する、俺の母親は最強で最高の素敵な人だ。

 

 

 

 

 

 

 大洗学園の男子生徒第一期生として入学式を終え、街に繰り出していた。将来会長になるあの子なんかそのまんま過ぎて一瞬で分かったわ。あと、首席として代表挨拶なんて任されたが、久しぶりにあんな緊張してしまった。見渡す限り女子ばかり。迫力がハンパねぇ。

 

 しかし島田流関係者ってことは、後々のことを考えて伏せておいた方がいいと思い、隠している。せめて西住みほが戦車道を再開するまでは。原作が始まってしまえば恐らくどこかでバレてしまうだろうが、それまでは何とか原作の流れに逆らわないようにしたい。

 

 正直なところ、細かい所まで覚えて居ないが……苗字でバレる?島田って苗字はそんなに珍しくないし、大丈夫だろ?

 

 

 

 

 

 

 さて、学園艦の中を歩き回る。時間は大体夕暮れ時、学校が早く終わったからか生徒の姿も多く見かける。元々住んでて知り合いも多いのだろう、地元の生徒が遠くから来た新しい友達を案内しつつ遊んでいた。

 

 神からの課題をこなすと同時に、俺のしたい事でありながら母さんからも応援され、続けていくようにと言われた音楽を、俺の形で続けようと思う。

 

 元々予定していた場所に到着し、持ってきていたアコギを取り出して準備を始める。この街に引っ越してきてから、目ぼしい場所を探し出した後に、市役所や周囲のお店の人には許可を貰っていたので大丈夫だ。

 

 そして、この大洗学園に来て最初に歌う曲は決めていた。俺は前世の俺が受けた衝撃を、感動を、楽しさのほんの一部でも感じてもらい、またそんな曲があった事を知ってもらいたかった為に歌っていた。

 

 けどそこに俺個人の思いを込める。その曲を作曲した人の気持ちを俺なりに解釈した上で、俺が伝えたい思いを、好きだと言ってくれた人に聞いてほしい。

 

大きく息を吸って、顔を軽く叩く……よっし覚悟を決めろよ俺、こっから新しい生活が始まるぞ。

 

 

「皆さん!初めましての方は初めまして!島田湊と申します!」

 

 

 何だ何だと、周囲の人たちの目線がこちらへ向く。

 

 

「見ての通り、今から何曲か演奏します! 良ければ聞いてください。では一曲目」

 

『真っ赤な空を見ただろうか』

 

 

 事情を話せずとも、俺は一人じゃない。どんな事がこれから起きようと、勇気を持って臆さず前に進んで見せる。そんな勇気をくれた家族に感謝を。そして同じ気持ちを聴いてくれた皆さんと少しでも共有できたのなら、今日のライブは満足です。

 




BUMP OF CHICKENより、
真っ赤な空を見ただろうか

知らない方は是非聴いて見てください。
キャラやそのシーンで合わせて、歌として応援していくという物語です。この作品を書くに当たって、一番最初に思いついた場面があるのですが、それを書くまで辞められません。
おかしな点、批評、感想等あればお願いします。

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