この世界で伝えられる事を探して   作:かささぎ。

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これにて聖グロ編終了です!

書いてると予定通りに行かなくて、キャラが勝手に動き出します……
麻子の時もそうでしたが、本当書いてみると分かってきます………


30話 淑女

 

 

 

ふぅ……歌ったな。正直最初の発言で凄い野次とかきそうだったけど、そこは淑女達。冷静だったようだ。中には下を俯く人、真っ青な人もいたが、基本めっちゃ敵意バリバリでこちらを睨んでいた。

 

その時拍手が聞こえた。そこに目線をやるとカチューシャとノンナだった。二人は、特にカチューシャは満足そうな顔をしていた。

 

「なかなか痛烈な一言だったわよ。特に隊長を任せられている人物にはね」

 

そして、カチューシャは横目にダージリン。見る。顔は俯いており表情は見えない。

 

「試合ではまとめられてるのかもしれないけど、全力で勝ちに行く意思が感じられなかった部員達。その責任は隊長だけじゃないけれど、この伝統という無責任に縛り付けた言葉に倣っていたのは間違いなく隊長の責任よ!」

 

カチューシャの言葉は厳しい。けど俺やノンナ、そしてダージリンには理解できているのだろう。カチューシャは他人に厳しく、自分には更に厳しい奴だ。下への指導や関係作りなど、この一年でかなり磨かれており、その言葉には確かな説得力を感じる。

 

「さて、もう、用はないわね。帰るわよ!ノンナ!……あと、ナトーシャの帰りは私達に任せておきなさい!」

 

そう言って、会場を出る。え、この空気の中凄いっすね。俺まともに動けないんですが……あ、待って待って!片付け終わってないから!一曲しか歌ってねぇけど、続けるような空気じゃないしね!

 

カチューシャが「全く!ナトーシャは最後の最後で締まらないわね!」とか言いつつ片付けを手伝ってくれた。その時に「……さっきの歌、あとで意味教えなさいよね」と小さい声で言われた時は可愛すぎて悶えそうになった。落ち着け、落ち着け、カチューシャは親友だ。それに俺はロリコンじゃない!愛里寿コンだ!……ふぅ、落ち着いた。

 

ちなみにその瞬間ノンナさんに肩を掴まれて、肩がもげそうかと思いました。

 

 

二人とも屋外へ出る。話を聞くと次はプラウダのヘリが来て送って行ってくれるそうだ。うちの会長もそうだけどさ、君達権力強すぎない?

 

そんな時間も経たないうちに、ヘリが到着し、カチューシャ達は乗り込もうとする。えーと、このまま帰るんですか?めちゃくちゃ気まずいんですけど。凛ちゃんとか下向いてたけど、大丈夫ですかね?

 

……俺も言う事は言ったから、自業自得なんだけどね。溜息を吐きつつも、俺はヘリに乗り込もうとした。その時足音が聞こえる。

 

振り向くとそこにいたのは凛ちゃんとアッサムだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

悔しい。悔しくて堪らない。彼に言われた事が、カチューシャに言われた事が、何よりも自分が不甲斐ない。この子たちの、我がチームの皆の前に立ち、そんな事はないと言わなかった、言えなかったのだ。

 

少しでも、ほんの一瞬でも彼の言葉に、カチューシャの言葉に押されてしまった。そうかもしれないと思った。

 

そうだ、正直に言おう。私だって勝ちたいんだ。優勝して、我々が強いのだと誇りたいんだ。しかし、2人の言葉に納得してしまったんだ。

 

そして、彼の歌が脳裏から離れない。私は理解出来ていた筈だったんだ。だけど、それを伝統だとか言い訳をして見て見ぬ振りをしていた。私は気付くのが遅「ダージリン」……アールグレイ様から声を掛けられた。

 

「皆もよく聞いてほしいの」

 

周りの生徒達は、さっきの男はなんだ!と、生意気な事を言う殿方だったわねと、気が立っている。この子達は意味が分かってないのか?彼らから、なんて言われたのか分かってないのか?

 

「……淑女たるもの、常に優雅に振る舞いなさい!」

 

アールグレイ様の一言により、全員が静まった。

 

「貴女達も聞いておきなさい。……ダージリン、聡明な貴女ならもう分かっていますね?」

「……はい」

「……私達三年生はもう遅いのよ。彼の言う通り、気づくのが遅すぎたわ」

 

アールグレイ様を含めた現三年の先輩達は顔を俯かせる。

 

「けれどね、ダージリン。貴女は気付けた。気づく事が出来たのよ。プラウダの隊長やあの殿方のお陰だけれど、気付けたその事実に誇りを持ちなさい。

 

それにね、高校生として気づくのは遅すぎたけれど、ダージリン・アッサム、そしてここにいる者達の元隊長としては、こんなにも早く気づく事が出来たわ。私はそれを誇りに思うし、彼らに感謝するわ」

 

アールグレイ様、そして先輩達は私達は対して優しく微笑み返してくれる。

 

「・・・聴いていたでしょうか、OGの方々。他校の生徒に、そして淑女として我らが魅せるべき異性の殿方から、あれだけの事を言われましたわ。

 

このまま引き下がっては、聖グロリアーナの一員として、戦車道を嗜む一人として、我らが目指すべき淑女として、何よりも!

 

女が廃る!」

 

アールグレイ様は普段使われる事の無い、断定した口調でこの場にいる者全てを叱責された。その言葉に、俯いていた者、落ち込んでいた者、そして気が立っていた者達は自然と落ち着きを取り戻し、そしてその目は昨日の時点ではなかった何かを宿していた。

 

「さぁ、後は私に任せておきなさい。貴女は、行くべきところがあるでしょう?」

 

私は一気に立ち上がる。そうだ、私にはまだ証明できる機会が残っているのだ。あぁ、こんな所で立ち竦んで何をしている。

 

「アールグレイ様」

「あら?何かしら、ダージリン」

「行って参ります」

「行ってらっしゃい。あぁ、あと」

 

アールグレイ様は最後に一つ付け加えた。

 

「チャーチルの言葉にこんなものがあるわ。

 

悲観主義者はあらゆる機会の中に困難を見つけるが、楽観主義者はあらゆる困難の中に機会を見いだす。

 

さぁ、貴女はどちらを選ぶ?」

 

「……そんな事、決まっていますわ!」

 

そうして私は急ぐ。彼の元へ。そしてすぐ側にはアッサムがいつのまにか付いてきていた。

 

「お伴します。ダージリン」

「えぇ、お願い」

 

短いやり取りだったけれど、それだけで十分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、もう帰るのかしら?湊さん」

 

何事もなかったのように話し掛けてくる凛ちゃん。するとヘリの中に居たカチューシャがニヤリと笑い、そして真剣な顔に戻してヘリから出る。

 

「あら、ダージリン。ナトーシャは私が送って行くと言ったじゃない。大丈夫よ、安全運転で送り届けるから、貴女達は紅茶でもゆっくり飲んでおきなさい」

 

わぁお、カチューシャさんすっごい皮肉。まさしく口撃する気満々じゃないですか。

 

「……そうね、今回はカチューシャにお任せ致しますわ」

「……ふぅん、じゃあ何しに来たの?もうやる事終わったでしょ?」

「えぇ、その通り。ただ、貴女達にちょっと言って置くべき事がありましたの」

 

ダージリンは手を口に添え、微笑む。……なんだ、このかつてない圧迫感。凛ちゃんじゃねぇ、これが本気のダージリンなのか?

 

「こんな格言を知っているかしら?

 

偉大な栄光とは失敗しないことではない。失敗するたびに立ち上がることにある。

 

覚えておきなさい。そして、束の間の頂点で胡座かいてなさい、カチューシャ。……聖グロリアーナが貴女達を叩き落とすわ」

「ふん、言うだけならタダよ、ダージリン。何度でもこの地吹雪のカチューシャが蹴り落としてやるわ!」

 

……おぉ、この熱い展開。あれ?原作ってこんな熱かったかしら?いや、燃えてたわ確かに。

 

「それだけよ……あぁ、湊さん」

 

ダージリンが俺に声をかける。

 

「……ちゃんと私達の姿、見ててよね」

 

既に反対側を見ていた為に顔は見えなかったが、耳まで真っ赤なのが分かった。落ち着け、愛里寿を思い出すんだ!あのあどけない笑顔、はにかんだ笑顔、そしてボコ人形を手に入れた時の笑顔を!……ボコそこ代われ。よし、落ち着いた!

 

その瞬間ノンナから脛を蹴られた。ノンナさんや、さっきから察しよすぎない?

 

改めてヘリに乗り込もうとした時に、次はアッサムに呼び止められた。

 

「すいません、湊様」

「はい、何でしょうかアッサム様」

「……」

 

凄いジト目でこっちを見てくるアッサム……と周囲三人。凛ちゃん、さっきまで後ろ見てたけど、そんな急に振り向かれると怖いわ、

 

だって様付けだぞ?家族である愛里寿以外からは初めて呼ばれたわ。……ちょっとキュンときたのは内緒にしておこう。

 

「……はぁ、では本題へ入ります。貴方は……あの島田流ですか?」

「「「!?」」」

 

他の三人は目を丸くして俺を見る。……いきなりぶっこんできたなぁ。

 

「……ちなみに何でそう思ったんだ?」

「まずは名前ですね。島田という名前は確かに沢山いますが、戦車道をしている者としては気にしても仕方ありません。

 

二つ目に妹が居る、って事でしょうか?ダージリンの話でも出ていましたが、島田流の戦車乗り、そして同じく兄がいると分かっている女の子と言えばどうしても結び付いてしまいます。

 

三つ目に戦車道が好き、という事でしょうか。これは上の二つがあってこその理由となりますが、逆にその二つがあれば十分と根拠になり得る事だと思います。さらに言えば、サンダースのケイ、そちらのお二方、加えてアンツィオ高校まで足を運んでらっしゃる。流石にそこまでの人脈があれば、さらに信憑性が高まります。

 

どうでしょうか?」

 

……見事、結構な根拠だぁ……てか人の関係知り過ぎてて怖いんだけど。それに愛里寿についても調べてるとか、まぁ有名すぎるから仕方ないけど、そこまで調べる?

 

 

「なるほど……まぁ違うんだけどね!結構な人に誤解されるから仕方ないけど、島田って苗字は多いし、その内の妹がいる戦車道ファンなだけ」

「……プラウダが優勝に上り詰めるまでのサポートや相談に乗っていたとの事ですが?」

「うーん……サポートって正直した記憶ないし、相談と言っても人間関係とかそっちの面だから、実用的な事に関してはからっきしだぞ?」

「……成る程、まぁそういう事にしておきましょう」

 

え?そういう事にしておくって完璧にバレかかってるじゃないですかーやだー。俺も厳しいかなと思ってるけどさ。

 

そこで会話は終わり、今度こそ聖グロから飛び立つ。やっと終わったー帰れる……よし、取り敢えず冷泉をからかいついでにチャリ取りに帰ろう。

 

「……ナトーシャ、島田流なのかしら」

「私も気になりますね」

「はぁ……そもそも本当に島田流っていう凄い所だったら多分長男になるだろうから、こんな好き勝手できないだろー」

「……それもそうね、ま!島田流だろうと気にしないけど!」

 

そんな会話をして俺たちは帰路に着く。最後の最後で予想外な事聞かれたけど、なんとかなったかな……

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで俺の毎日は過ぎていく。自動車部や生徒会は相変わらずだし、冷泉は暖かくなってきたからか、少しずつ早く起きるようになってきた。それでも遅いけど。

 

ケイやアンチョビからは三年になればすぐに最後の大会だと張り切っているし、カチューシャやノンナは既に調整と大会に向けた練習をしている。凛ちゃんは連絡頻度が減ったけれど、相当な練習をしているようだ。

 

各チームが練習に精を出している中、それは訪れる。

 

桜も咲き始め、暖かい日差しが学園艦を照らす。活気に満ち溢れた街の中は、初めて見る生徒達……いや、新一年生と思われる子達である。訪れたのはそう、原作突入って訳だ。

 

 




と言うわけで!やっと原作へと突入します!
キリのいい話数で行けたのは良かったですね〜

感想や批評お待ちしております!

追記
様呼びのところを初めてって言ってましたが、愛里寿から呼ばれてますね、すこし訂正しております

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