この世界で伝えられる事を探して   作:かささぎ。

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感想、お気に入りありがとうございます!
休みだった事、前回の分と合わせて多少書けていたことから早く投稿できました。
どうぞ!




42話 〜邂逅と進展 後半です!〜

 

 

「聞いてますか!?島田先輩!」

「聞いてるの!?ミカったら!」

「お、落ち着けって西住。どうしたよ」

「アキも落ち着いたらどうだい?せっかくの出会いが台無しになるよ」

 

俺とミカでライブをやってる時に、西住達とまさかのケイ、カチューシャ達が合流したメンバーがやって来た。丁度キリのいいタイミングだった為(恐らく待っててくれたんだろうが)、そこでライブを終了した。

見ていてくれた人達は最後に大きな拍手をしてくれて、去って行った。中には応援します!やら、ファンになりました!とか言ってくれる人が居たけれど、何も活動してないからわからないよな……と思いつつ、けどやはり嬉しいものは嬉しくて、笑顔で返答していった。

 

ミカも満足そうな顔をしていた為、俺やミカの演奏側、そして見てくれてた人達を含め、今回のライブは大成功だったと確信した。

 

……なんだが、待ってくれてたメンバーが中々滅多に見ない顔で俺達を見ていた為、ちょっと恐怖を感じていると、ミカがじゃあねと逃げ出した。

なんて奴だ!と俺も逃げようとしたが西住に改めて声かけられ捕まり、逃げ出したミカは同じ継続高校の生徒に偶然にも捕まっていた。アキとミッコと思われる二人に捕まった後、俺がミカを呼んで巻き込んだ。お前も逃がさんぞ!

 

そして現在、連行されてた途中で見つけた戦車道カフェにこの大人数で立ち寄り、話し込んでいる最中だ。

 

「全くミカったら、会場に着いたらすぐ居なくなって……探したんだよ!話を聞いたらそこの男の人とずっと楽しんでたみたいじゃない!」

「楽しんでいた、それは否定はできないね。けれど私とミナトは音楽を通して互いを理解していたのさ」

「と、此方の方は言ってますけど島田先輩、継続高校の隊長さんとはどんな関係なんですか?」

「どんな関係と言われてもな西住……」

「ミナトー、人には言えない関係なの?」

「ナトーシャ!私の左腕として隠し事は無しよ!」

「うーん……ミカはなんて言うのか、たまたま出会ったとしか言いようがないな。そんで今回は出会った際に一緒にライブをして、仲良しになったって感じ」

「……分かりました」

「貴女はそれで良いの!?」

「カチューシャさん、別に私達が聞きだす権利なんて無いし、島田先輩の事だから今言った事、恐らく本当の事ですよ」

「……そうだな、先輩は嘘つくの下手くそだからな。前々から決めてた事ならともかく、こんな急な出来事ならすぐ分かるはずだ」

 

 

何故俺は今こんな状況に追い込まれてるんだろう。横に目を移すと、呆れた顔の武部にニッコニコの五十鈴、手を合わせて此方を拝んでる秋山が居た。何だその反応は、五十鈴お前は楽しんでるな?

 

すると横から継続高校の二人から話しかけられる。

 

「ねぇー、貴方は誰なんですかー?」

「私も気になってたよ、ミカと知り合いなんだな」

「そんな一気に話してもミナトが困るだろう?ミナト、こっちはアキでもう片方はミッコだよ」

「元気そうな子達でいいじゃないか。俺は島田湊、此方にいる西住達と同じ大洗学園の三年だ。戦車道のマネージャーをしてる」

「先輩なんだね!しかも戦車道のマネージャーなんてすっごい珍しい」

「こっちにも居たらすっごい助かるんだけどなぁミカ」

「無い物ねだりとは無意味な事だよ、ミッコ」

「……あ!もしかして先輩達から聞いたミカのひとめ、〜〜〜〜ッ!ミカいきなり口塞がないでよ!」

「アキ?そう簡単に口に出してはいけない事なのは分かってるよね?」

「全くもー、恥ずかしがり屋さんなんだから意外と」

 

お前達もうちょっと静かにしろ。店員さん達からの目が怖いぞ、完全に目を付けられてるじゃないか。それにいきなりどうしたんだ西住、一気にミカを見つめ出して、顔凄い険しいぞ。

 

周りを見るとケイやノンナ、麻子は何か考えてる様子で、カチューシャは美味しそうにケーキと紅茶を頂いていた。めちゃくちゃ可愛いな、それに口元にジャムついてるぞ。そんな事を考えてたら、武部から話しかけられる。

 

「島田先輩って、ほんと〜にどうしようもないよね!」

「なんだいきなり、どうしようもないって酷くない?」

「先輩殿、申し訳ありませんが、もう少し周りへ目を向けましょう……」

「先輩ったら無自覚で……酷い人と思う一方、とても面白い展開となってきました!」

「俺ってそんなに周り見えてない?てか五十鈴、喧嘩なら買うぞ?」

「いえいえ〜、私は先輩の事応援しますね♪」

「本当に楽しそうだなお前……」

 

武部達と話し合ってる間にどうやら西住達はミカを交えて何やら話をしていたらしい。その話し合いが終わり此方へ戻ってきた。

 

「とりあえず島田先輩が良い人なんだけどこう、女の敵って事が分かりました……」

「ミナトー、もうちょっと落ち着いて行動しようよ〜……」

「島田湊、貴方に落ち着きが無いとは思っていましたが……行動力があり過ぎます」

「先輩、音楽の事になると周りが見えなくなるのは知っていたが、ついでにしている事の重大さを理解してくれ」

「中々に奇妙な人生を送っているね、ミナト。そんな所も良いとこなのかもしれない」

「え?俺ってなんでこんな言われてんの?」

 

この集中砲火である。どう言う事なの……

てかこのカフェもそうだけど、周りに女性しか居ない。学園で慣れていたとは言え、ちょっと居づらい。ほら、あそこにいる人とか、店員さんとかこっちちらちら見てんじゃん。女の子達が集まる中、男が一人混ざってるとそら気になるよなぁ。

 

その時視界の端で何かが映った。ってあれ西住まほと逸見エリカじゃん!あー!忘れてた。ここで会うんだっけ!?エリカは良いけどまほはちょっとまずい。めんどくさい事になりそう。

 

「俺ちょっと離れるわ」

「ちょっとナトーシャ!どこに行くのかしら?」

「ちょっと名前にト、がつく所。察してくれ」

「あーなるほどね」

 

そう言って席を立ってトイレに向かう。アキやミッコは武部達と、カチューシャは冷泉、他の隊長組はノンナを交えて話し合っている。……うん、原作とかなり違うけどどうなるんだまじで。

俺はトイレに行ったとして、遠目からその様子を伺う事にした。……店員さん達から声をかけられた事は内緒にしとこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それより君は羨ましいね」

「え?私ですか?」

「そうねぇ〜ミナトが側にいるんだもの。ちょっと抜けてるとこあるけど、ミホも元気付けられてるんじゃない?」

「そ、そうですね……毎日お世話になってばっかりです」

「彼の事だからチームメイトへのケアも心配する事は無いでしょう。……ああいった人材はとても頼りになる」

「皆も島田先輩に励まされてここまで来てるんです。私も何度励まされたことか……」

「まぁでも、ミナトは渡さないけどね」

「んー?ミカー?それはどう言う意味かな?」

「言葉通りの意味だよ」

「……たった二度の邂逅だけで、調子に乗られると困るのですが?彼はカチューシャの左腕、すぐ側に立つべき人間です」

「彼自身も賛同していたよ、人の関係に時間は関係無いとね。そして私は彼と共に音楽で心通わせ、音を奏でた仲だ。これは否定出来ない事実だろう?」

 

あわわわ……なんか険悪なムードになってきたよ……。ミカさんやケイさん、ノンナさんの睨み合いに入れない。もしかして本当に皆さんも島田先輩の事を?

 

「あ!面白い話してるね!ならあの島田さん良いとこを一人ずつ言っていけばいいんじゃない?」

「アキちゃん!?」

「じゃあ、はぐらかすだろうからミカの代わりに私からね!ミカはね、彼に一目惚れしたんだよ!」

「……アキ?」

 

なんと、これでミカさんは確定した。席の関係上止めに行けなかったミカさんがアキさんを睨みつける。アキさんはどこ吹く風が如く軽く流している。

 

「ミカってこう見えて本当に乙女なんだよねぇ〜。

出会った時に言い過ぎたかな?みたいな話何回もされたよ……」

「あれには参っちゃったよなぁほんと!そんな気になるなら直接確かめりゃいいのにさ〜」

「…………」

 

帽子を深くかぶって、カンテレを引いている。私でも分かるよ、あれ恥ずかしくて誤魔化してる。耳が真っ赤なんだもん、そりゃ分かるよ。

 

「……成る程、こういう流れね!なら私も引けないわ!私とミナトはね!」

 

そう言って次はケイさんが喋り出す。ケイさんは相談に乗ってもらって、チームメイト達とも仲良くなれるような今の自分で居られるようになったみたい。

 

流れでカチューシャさん、ノンナさんの話だったけど、ノンナさんは基本黙って相槌しか打っておらず、カチューシャさんしか話してなかった。所々ちょっと言葉を選んでるようだったけど、島田先輩のお陰で今のカチューシャさんとノンナさん、プラウダ高校があるらしい。

 

麻子さんは最初から飛ばしていた。朝起こしに来てもらってご飯作ってもらって、一緒に自転車に乗って登校して……

大洗の皆以外全員が驚いていた。そりゃそうだよね、私だって驚いたもの。

 

「何よそれ!完全に付き合ってるじゃない!カチューシャには関係無いけど」

「……そうですねカチューシャ。我々にとって彼は共に歩む仲間ですからね」

「ノンナ……動揺してケーキ落としてるけど……。それにしても貴女はほんとaggressiveね!素直に羨ましいわ!」

「……しかし彼にとって君はどんな立場なんだろうね?」

「鋭いんですのね〜麻子さんは妹、と認識されてしまってるんですよ〜」

「華!?」

「……五十鈴さんの言う通りだな。まぁ私としても先輩は兄の様な人だから別に良いんだが」

「もう、麻子さんったら〜」

「華楽しんでるよね!?」

「こんな時にでもぶれない五十鈴殿に私は感服致します……」

「じゃあ次は西住隊長の番だね!」

 

アキさんから話を振られた。私の番、と言っても私も皆さんと同じような感じですよ。……それに……皆さんの話を聞いていると、どうしても私だけじゃなかったんだ、と言う気持ちが芽生える。

いや、島田先輩が困ってる人を見て見ぬ振り出来ない人なのは勿論知っている。そんな優しい人だったから、私なんかの事にも気にかけてくれたんだろうし……

けど、此処にいる皆さん一人一人がほんと魅力的な人ばかりで、私なんかじゃとてもじゃないけど、島田先輩に似合うなんて思えない。

 

皆の視線が私に向く中、私がどう答えようか迷ってると一つの声が響く。

 

 

 

「あれ?……副隊長?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさかカフェの中にさっきのライブに来てくれていた人がいるとは思わなかった……

記念に〜なんて言ってサインとかしてくれと言われたけど、俺なんかのサイン要らないだろ。話を聞いたら、将来への期待です!と言われた。

サインとか流石に恥ずかしいんだけど、それにあれか、「私、昔からこの人応援してたんだよ!」って感じのタイプか。しかしながらその期待に応えられるかどうかは、今のところ予定はない。

 

思わぬ事に時間を取られたが、気を取り直して西住達の方へ向き直ると……もう出会ってるじゃん!声は聞こえないが、何やら話してる様子だ。原作でこんな長く話してたっけ?結構いるな。

 

……西住の顔色が悪くなってくる。はぁ〜、こんな事なら最初から居ればよかった。西住に悪いことしちゃったな。

実際の目で見ると全然違うな。周りに他のチームもいるからなのかは分からないが、

つい自分の保身に走っちまった。だっせぇな俺。西住まほって口下手で不器用で、意図せぬ形で言葉が伝わってしまう人だと思ってたけど、多分逸見エリカもいるからそれもあって誤解が生まれてるんだと思う。

ほれみろ、カチューシャが噛み付いてる。……だろうな、カチューシャなら絶対に黙っていられないと思った。記憶が確かなら西住まほは西住に対してあんな言葉を浴びせてた筈だ。あれだけの事があって、あれから時間もだいぶ経つというのに。……あまり険悪な関係にはなりたくなかったが、原作とか抜きにして、西住は大事な後輩であり仲間だ。そんな彼女があんな表情をしているんだ、そんなの放って置いておけるか。

 

俺は彼女達の元へ一歩踏み出す。俺も黒森峰事件の時といい、今回といい、学ばないな。最初から傍に居るべきだった。そろそろ店員さんも動き出しそうだし、西住まほには悪いが、言いたい事を好き勝手言わせてもらおうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、元、でしたね」

 

そこに居たのは、黒森峰にいた時のチームメイトである逸見エリカさんとそして……

 

「あ……お姉ちゃん……」

 

そう、私のお姉ちゃんである、西住まほだった。

逸見さんは、あの事件の時に最後まで私の事を守ろうとしてくれていた人の一人だ。お姉ちゃんでも声をかけてくれない、私自身も声をかけられなかったあの時、唯一声をかけてくれていた人。

口が凄く悪いけれど、発破をかけてくれていた事は伝わって来たし、いい人……だったんだけど、転校すると伝えた時に喧嘩しちゃって……

 

お姉ちゃんは私をずっと見つめて来てる。あぁ、何を考えてるのか分からないよ。すると、お姉ちゃんが口を開いた。

 

「まさか、まだ戦車道をやっているとは思わなかった」

 

うぅ……そんなに私が戦車道を続けてるのが不思議なの?確かにあの時は戦車道から距離を置こうと思ってた。けど、島田先輩の言葉があって、投げ出して終わりなんて事にだけはしたくなかったの。だからまた触れる機会が、周囲の人と出会いが、多くの偶然が積み重なって、またやってみようと思ってただけなのに……

 

「お言葉ですが!あの試合のみほさんの判断は、間違っていませんでした!」

「マホってば〜、ちょっとその言い方は無いんじゃないの?」

 

秋山さんの言葉に続いて、ケイさんが続ける。逸見さんが「何でこんな所にサンダースとプラウダ、継続までいるのよ……」なんて呟いていたけど、すぐに気を持ち直した様子だった。

 

「部外者は口を出さないでほしいわね」

「なら、このカチューシャならいいのよね?」

 

そこでずっと黙ってたカチューシャさんが声を上げる。

 

「ふん!常勝軍団?西住流の体現?笑わせるわ!たった一人の選手に目を向けられないチームなど、言語道断、未熟にも程があるわ!」

「!?貴女、一度勝てたからと言って調子に……!」

「エリカ、相手の言葉に惑わされ己を見失うな」

「ッ!!……はい、隊長」

「ふん!お堅いところは何も変わってないわね!」

「……今回は勝つ。そしてみほ、相手として目の前に立つのならば容赦はしない」

「…………」

 

私は何も喋れなかった。何を言えばいいか分からない。そんな私をお姉ちゃんは見てた……と思う。

 

「行くぞ、エリカ」

「ふん、精々無名校である貴女達が戦車道を汚す様な真似をしないよう祈ってるわ」

 

そして二人が此処から去ろうとした、そんな時だった。

 

「誰かと思えば、西住まほじゃないか。そっちの子は後輩か?」

「…………何故貴様が此処にいる、島田湊」

「それはこっちのセリフだよ、西住まほ」

 

そのタイミングで島田先輩が帰ってきた。……タイミング悪いよぉ〜先輩。逸見さんも彼を見つめてる。って島田先輩、お姉ちゃんとも知り合いなの!?

……それにしても島田先輩の様子がおかしい。なんというか、いつもよりも目付きが怖い。もしかして……怒ってる?

 

「隊長、お知り合いですか?」

「あぁ、こいつは島田湊……あの島田流の人間だ」

「!!本当ですか?」

「初めまして島田湊、大洗学園三年だ」

 

島田先輩が大洗学園と言った瞬間にお姉ちゃんは顔を顰める。

 

「そんな顔するなよ西住……てか見てたぞ、店内で騒ぐな、カチューシャもだ」

「そ、そっちが悪いんじゃない!というかナトーシャ、黒森峰の奴らと知り合いなの?」

「こっちの後輩は知らないけど、西住となら少しな。まぁ昔にちょっと話したことがあるってだけで。

……それで西住はほんと口下手だな」

 

島田先輩がそういうと、お姉ちゃんは彼を睨んでいる。うわぁ……島田先輩、怖いもの知らずなんだね。逸見さんも凄い顔してるし。

 

「……()()、このまま言われっぱなしでいいのか?お姉ちゃんだからとか、元チームメイトだとか、今は関係ないぞ。みほがいる今のチームの皆の事を思い出せば、何を言われようと大丈夫なはずだ。

ほら、周りを見ろ。お前と一緒に戦車に乗り、戦ってくれる友達がそばいるだろ?」

 

そう言われて周囲を見ると、沙織さんに華さん、優花里さんに麻子さんがこっちを見てくれている。心配そうな顔をしつつも、ちゃんと私を見てくれている。沙織さんなんか親指を立ててすごい笑顔だ。

 

「どうせ西住の事だから、みほに会った時に『まだ戦車道を続けていたのか』なんて事言ったんだろうけど、内心は続けていてくれて良かったって安心してるくせに」

「わかった様な口振りで言うな、島田流。……それにみほと随分と仲良さそうに見えるが、貴様みほに何をした?」

「別に何もしてねぇよ、ちょっと励ましたり、毎日戦車道について手伝ったりしてるだけだ」

「ふん、信じられんな。……もしかして、みほが大洗に行くと言い出したのは貴様が原因か?」

「そんな邪推はすんな……ほんとお前妹の事好きだよな。俺も妹の事好きだから人の事言えねぇけど。そんなに気になるんだったら、本人と面と向かって話してやれ。だから、本当に言いたい言葉を言い出せず、お互いにすれ違ったままの今の状態が続いてんだよ」

「貴様ッ……!」

「た、隊長!落ち着いて下さい!相手の言葉に乗せられてます!」

「……すまないエリカ、少々取り乱したみたいだ。さっき自分で言った事なのにな」

「いえ、滅相もありません」

「妹が大切なのは俺だってわかるさ。兄として話す事はあるけど、妹から教わった事、助けられた事だって山ほどある。

 

そしてみほ、そして周りの皆、西住姉とは短い付き合い……とも言えないくらい少しの時間しか関わってないけど、こいつ妹大好きすぎるから、さっきの言葉は水に流してやってくれ」

「本当に貴様は何様のつもりなんだ。

知った風な口を利くな」

 

真正面からお姉ちゃんと睨み合う島田先輩。

……お姉ちゃん、本当なの?そんなに私の事を……

 

「まだみほは何も言えないみたいだから、この場では俺が代わりに言おうかな……

西住、大洗は西住流でも島田流でもない。西住みほが率いる、西住みほ流だ。今はまだ荒削りな部分が多いけど、強いぞこのチームは」

「……相手が誰であろうと、我が西住流に逃げると言う言葉など無い。私達の目の前に立つというのならば、一切の手加減など無く、全力を持って望もう」

「それでこそ西住流だな。……よし、ケイやカチューシャ、ミカもいるから丁度いい。ここいらで一つ、宣言しておくよ。

……今回、優勝するのはみほ達大洗だ」

 

ちょっと!島田先輩!何言ってるの!?

わ、カチューシャさんが凄い笑みを浮かべてる。ケイさんも笑ってるし、ミカさんも微笑みながらカンテレを弾いてるよ!

 

「そうか……エリカ、もう用はない。行くぞ」

「は、はい!隊長!……島田湊、覚えたわよ!」

「はいはい……。あ、遠目から見てただけだけど、君もみほの事好きだよね。だからみほがチーム抜けた事もあって、今回強く当たってしまったんだよな」

「う、うるさい!いきなり何言い出してるのよ!?」

「みほは周りから愛されまくってるなぁってね。てかその反応で丸分かりだな、てことは、去年の事件でみほの事を守ろうとしてくれてたのは君の事か。俺がいう事じゃ無いはずなんだけど……ありがとうね」

「〜〜〜〜!!!うるっさいわね!」

「エリカ!行くぞ。あいつは口が回る。正面から相手にしても疲れるだけだ」

「……はい!アンタ達、試合で会ったらギッタンギッタンのけちょんけちょんにしてあげるんだから!」

 

そう言い残して、お姉ちゃんと逸見さんは帰って行った。そして、静寂が訪れる。島田先輩は周りを見渡して一言言った。

 

「黒森峰って、案外愉快な奴らばかりじゃないか」

 

貴方が煽ったからですよ!……あ、店員さんが島田先輩の肩を叩き一言、

 

「お客様、店内では他のお客様もいらっしゃいますので、お静かにお願いします」

「……はい、すいません」

 

どうにも最後が締まらない、島田先輩だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぅ、何とかなったな。てか一番怖かったの店員さんなんだけど。

西住姉と逸見が帰った後、そのまま席に座って、俺のケーキを食べようと思った……が既になかった。

 

「あぁ、先輩が遅かったから、私が食べておいた」

「うん、実に美味しかったよ、ミナト」

「お前達二人か畜生」

 

冷泉とミカに食べられていた為、改めて注文し直した。折角来たのに、何も食べずに帰るのはな。すると西住が話しかけて来た。

 

「あの……島田先輩、お姉ちゃんとはどんな関係何でしょうか」

「んん、そりゃ気になるか、言ってなかったもんな。簡単だよ、小さい頃に戦車道連盟の集まりがあって、俺は島田流の長男として、あっちは西住流長女として参加してた。その時に顔合わせて、少し話したくらいだ」

「そうなんですね……」

「それと西住は関係無いし、そもそも西住については、一人の戦車道ファンとして、今は大事な後輩として接してるんだ。

言ってなかった俺が悪いけど、今更そんなに気にして欲しくはないな」

「……はい、分かりました」

 

西住は幾らか楽になったみたいだし、本当によかったよかった。てか西住姉もなかなかだったが、課題の都合上西住母とも話す機会がありそうだな……やばい勝てる気がしない。

 

注文したものも来て、味わいつつ皆と話してる時に五十鈴が突然話を振って来た。

 

「そう言えば先輩、先程みほさんをみほと呼び捨てで呼んでいらした様ですが、今後は呼ばないんですか?」

 

すると周りが静かになり、西住が固まった後、思い出したかの様に顔を真っ赤に染める。おい五十鈴、折角有耶無耶になりかけてたのに掘り返すな。アキとミッコも目をキラキラさせやがって。

 

「いや、あれだよあれ。西住姉が居たから西住って呼ぶと分からなくなるだろ?それでな。

あとは大洗でも西住は上手くやれてるってところ見せたかったし、下の名前で呼んだ方がアピールも出来るかなってさ」

「ならこれからもみほって名前で呼んで行きましょう?ね?」

「いや、その西住も男に名前で呼ばれるの嫌がるんじゃないかな?」

「ケイさんやカチューシャさんとノンナさん、ミカさんも呼んでいますよね?」

「ほら、それはニックネームみたいなもんじゃん?」

 

うーん、困ったな。別に呼ぶことは良いんだけど、改まって呼ぼうとするとその……なんか恥ずかしい。ほら西住もなんか慌てて華さん華さんって言ってるじゃないか。

 

てか周囲の視線が怖いんだが何故だ。特にケイ、ミカ、ノンナは目が座ってるぞ。

 

「名前でくらい呼んであげなさいよナトーシャ」

「カチューシャ!?」

「ほら、あの子も喜んでそうだし、それで士気が上がるのならお手軽じゃない?」

「ほら、気安く呼ぶのはちょっと違わない?こういうのは」

「ダージリンの事は凛ちゃん凛ちゃんで呼んでるでしょ?」

「あれはちゃん付だし……こう、からかってる部分もあるから」

「そっちの方が酷いわよ」

「……ごもっともです……」

「ほら、カチューシャさんもこう言ってくれてる訳ですし、まずは一回呼んでみましょ?ね?」

 

くぅ〜まさかのカチューシャだった。ほらこんな雰囲気の中改まって呼ぶとか恥ずかしいだろ?おい全員こっち見んな。

西住は西住で今にも沸騰しそうで泣きそうじゃん。これ俺が泣かせてるわけじゃないからね?

 

よし、と息を吐き西住と向かい合う。西住はもじもじとこちらを伺う様に、上目遣いの形で見つめてくる。

…………うん、はっきり言おう。まじで可愛い。あれ?こんなに西住可愛かったっけ?俺の顔も多分赤くなって来てるかもしれない。おいどうんすんだ、このお見合いしてる様な空気。覚悟決めたのにもう一段階しなくちゃいけないとは……

 

ええい、ままよ!

 

「えっとだな……みほ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

華さん何言い出してるの!?……そう言えば私の事下の名前で呼んでた気がする。あまりに自然で気付かなかった。って自然って何!私!

 

どうやら華さんは島田先輩に下の名前で呼ばせたいらしい。カチューシャさんと話してる時に華さんに話しかけた。

 

「華さん!いきなり何言い出してるの!?」

「あら〜私はただみほさんと島田先輩の仲を取り持とうとしまして……」

「だ、大丈夫だよ!今のままでも!」

「いいえ、私には分かります。みほさん本当は呼ばれたいのでしょう?最近はいい感じにアタック出来てきたけれど、流石に下の名前で呼んで欲しいとは素直になれない、だから今がチャンスです!」

「待って!別に下の名前で呼ばれたい訳じゃ……呼ばれたい訳じゃ……」

 

…………ちょっとさっき呼ばれていた事を思い出してにやけてしまう私がいる。私よ、状況に流されないで!

 

「ほら、やっぱり呼ばれたいんですね〜」

「こ、これとそれとは別というか……その」

「大丈夫です!私に任せておいて下さい!」

 

華さんが胸を張って自信満々にしている。あ〜もう!待ってよ!私の身にもなって!

今の私は多分、恐らく、いや絶対に顔が真っ赤だろう。こんなの恥ずかしすぎるよだって。

 

するとカチューシャさんのまさかの言葉により、流れは名前を呼ぶ方向へ行っている。あ

あわ、あわわわわわ、待って、まだ心の準備が。

島田先輩が真っ直ぐこちらを見ている。その瞳に私が映っているのがわかる。あ、先輩顔赤いですね……ってやっぱり先輩も恥ずかしいですよねぇ!すいません!ホントすいません!

 

島田先輩が咳払いをして再度こちらを見つめてくる。私も自然と島田先輩を見つめる形となる。恥ずかしくて顔が下に向いてるけどしょうがないよね、これ。

その時、島田先輩が意を決した表情となり、私へ声をかけてくる。

 

 

「えっとだな……みほ?」

 

 

その瞬間に私は顔を上げた。さっき呼ばれた時は気付かなかったけど……やばい、ちゃんと気を確かに持たないと絶対にやけちゃう。

島田先輩が再度呼びかけてくる。

 

「みほ?嫌なら言ってくれよ?」

 

ほんとーにやばい、連続は卑怯だ。それに嫌な訳あるもんか。島田先輩ももうちょっとでいいから、こちらの気持ちに気付いて欲しい。

 

「……はい、島田先輩。私みほです」

 

……って変な事言っちゃったよぉ〜!!

華さん笑わないで!沙織さんも優花里さんも何その顔!

 

「…………え?何これ、初々しいカップル?」

 

カチューシャさんがいきなりそんな事を言ってくる。カップル!?……えへへ〜そう見えるのかなぁ……って違う!

島田先輩も顔を赤くしてカチューシャさんを見てる。そして首を左右に振り、また私に話しかける。

 

「あ〜もう、なんだこの空気!みほ、これからもよろしくな!」

「は、はい!此方こそよろしくお願いします!」

「……改めて挨拶するところとか、カップルを超えてまるでけっ」

「は〜い、マコ!これ以上はやめとこうね〜」

「……私達は何を見せつけられてるんだろうね」

「わ〜凄かったね〜!ミカも頑張らないと負けちゃうよ?」

「既に負けてる雰囲気あるけど……ってイテテ!ミカごめんって」

「ふぅ……今日のところは帰ろうかな。最後にとんでも無いものを見せて貰ったけれど」

「ホントそうよねぇ〜。私自信無くなっちゃうわよ……」

「ナトーシャ?変な事に気を抜いてたら元も子もないんだからね!?」

「カチューシャ、これでいいのですか?私としては少し……」

「これで油断してたらもはや間抜けよ!」

「そういう事ではなく……」

「お前らほんっとに好き勝手言いまくってるよなぁ!?」

「あ、先輩が怒った」

「皆さんが先輩殿とみほ殿の事からかいすぎてるからですよ……」

「私としてはこの結果に大満足なのですが」

「華はみほの為半分に自分が楽しむ事半分でしょ?

はぁ〜明日からどうなることやら……」

「先輩、落ち着け。西住さんも皆帰るぞ」

 

キリがいい所で解散らしい。皆帰る準備をして席を立っている。……正直お姉ちゃんと逸見さんに会っただけでも衝撃的だったのに、島田先輩に名前で呼ばれるなんて……改めて思い返すと笑みが止まらない。いけないいけない、こんな顔誰にも見られる訳にはいかない。

 

最後にケイさんから「一回戦ではいい勝負をしましょ!」と、カチューシャさんからは「先に勝って待ってるわよ!」とそれぞれ激励を受け別れた。継続高校の皆さんはいつのまにか居なくなっており、島田先輩が「あいつら、食い逃げやがった……」と言っていたのは触れないでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

抽選会と色々ありすぎたカフェでの出来事を終えて、学園艦へ帰る船へと戻ってきた。ミカ達め、食い逃げやがった。あいつら逃げ足早すぎる。

 

道中、西住と顔を合わせるのが何となく気恥ずかしくいたが、西住の方から何度も話しかけてきた。さっきまで恥ずかしがってたのに……なんて思ったが、話してる時の満面の笑みに何も言えなくなった。西住姉の件もあって多少フォローはしたけど、少しは気落ちしてると思ってたのに。

 

学園艦に戻った後は各人別れた。俺も部屋でゆっくり休憩した後、甲板に出てギターでも引こうかな…うーん、潮風あるしなぁ。ま、眺めるだけでもいいかな。

 

そうして気分転換に甲板へ出ると、そこには生徒会の三人と西住と秋山が居た。

 

「我々はどうしても勝たなければならないのだ」

「そうなんです……だって負けたら」

「しー!まぁとにかく、全ては西住ちゃんの肩に掛かってるんだから。今度負けたら何やってもらおうかなぁ?

考えとくね〜」

 

そう言って生徒会は此方へ歩いてくる。その後秋山が西住へフォローをしていた。

俺はそのまま西住達の元へ近付いて行こうとして、生徒会とすれ違う。

 

「……らしくないぞ、角谷」

「ん〜何が?」

「いや、何でも。大方隠し事が関わってるんだろうけどな」

「……まぁね」

「タイミングは任せるからな……んじゃお疲れさん」

 

短い会話だったが、伝わったであろう。まぁ俺も知ってる身ではあるし、人の事言えないけどな……

実際言ってしまえば、西住はのびのびと戦車道をやる事が出来なくなるだろう。今、西住にとって新しい戦車道を見つける事が出来るかの分岐点なのだ。今はまだ時期じゃない……と思う。

 

俺が近付いてくることに気づいた秋山はお辞儀をしてくる。西住はぶつぶつと何かを呟いていた。

 

「よ!今日は二人共お疲れさん!」

「先輩殿もお疲れ様です」

「……あ、島田先輩」

「西住、生徒会の奴らに何言われたかしらんが、もっと気を楽にしていけ。変に切り詰めるとそれこそドツボにハマるぞ」

「そうですけど……むー」

 

西住はこっちを睨んでくる。睨むらと言うには可愛いけど。……んー、ちょっと時間置いたけどやっぱり決まり?

 

「……みほも今日疲れてる状態で考え事しても仕方ないさ、時間がない事も確かだけど、一つ一つ考えて行こう」

「……はい!

けど、実際あのサンダース相手にどう立ち向かうのか……」

「今日会ってわかったろうけど、ケイはお前の姉さんやカチューシャとはまた違ったカリスマ……というか人を惹きつけるものを持っているからな。強敵だな」

「その上、純粋な戦車でも……」

「西住殿……」

「はい!とりあえず中に入って学園艦に着くまでゆっくり休もうか」

「そう、ですね」

「西住殿、戻りましょうか」

「うん」

 

地平線の先で輝く夕日を見納め、船の中へ戻る。……さて、念の為トーナメント表を確認したけど、細かいところまでは覚えてない……というか知らないからしょうがないが、順当に行けば原作と同じ相手になっていくだろう。

 

まずはケイ率いるサンダース。

優勝する、とか大見得切って宣言しちゃったけど、それとこれとは別の話。早速ケイとの約束通り、サンダースへ行こうかな?侵入じゃなく、正面から堂々と、ね。

 

 




まさか過去最高の長さになってしまった……
自分で書いててみほについて止まらなくなってしまいました。
あかん、妄想が……

さて、とうとうお次はサンダース戦間近となってきています。
これからはどうなっていくんでしょうね……


追記
まほとの対話、及びまほ達の元へ行く時の心理描写を追加、訂正しております!

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