お気に入り、感想ありがとうございます!
このままの勢いで先に進めて行けたらなぁと思います。
ではどうぞ!
「か、勝てた……」
「おめでとうございます」
「おめでとう、湊さん」
終盤の展開にはとてもヒヤヒヤさせられたが、傍から見ればとてもいい試合だったんではなかろうか? ……ほんと練習試合と違ってマジで冷や汗が止まらない。本人達には楽しめ、なんて偉そうに言ってるけど、見てるこっちがこんな緊張感なら、やってる当人達は比じゃないだろう。ちゃんと労ってやらなきゃな。
すると凛ちゃんとペコちゃんがニヤニヤしてこっちを見ている。な、なんだよ、なんか言いたいことでも?
「いえいえ、とても熱心に応援されていたので」
「そりゃ自分達のチームなんだから」
「ふふふ、『撃ち抜けぇぇええ!』 ですって。急に立ち上がって叫んだから驚いたのよ?」
「……別にいいじゃないか、夢中になってたんだから」
ちょっと顔を背ける。そんなこと言ってたっけ? 夢中になりすぎてて、自分の事はあんま覚えてない。
「いえ、馬鹿にしてるつもりなど全くありません。
……ただ、音楽以外にこんなに本気になって応援してる所など初めて見たので」
「……まぁな、練習試合とは違った意味で見てるこっちも緊張したよ」
「そこまで熱心に応援してる事を知ったら、大洗の方々も喜ぶでしょうね。……少し羨ましいわ」
「羨ましい? 聖グロなんか今回のサンダースみたいに、客席満員になって、熱心に応援してくれるだろ?」
「……そうなのですけれど。それとはまた違った意味でね」
凛ちゃんは涼しげな顔をして紅茶を飲む。それを飲み終えると、片付けを始める。
「ペコ、そろそろ帰るわよ。いい物を見れたわ」
「はい! ダージリン様!」
「湊さんも、そろそろ自分のチームの元へ駆けつけてあげなさいな。きっと待ってるわよ?」
「そうだな、その前に俺も紅茶頂いたし一緒に片付けるよ」
「いいからいいから、さっさと行ってあげなさい」
そう言って凛ちゃんから押し出される。うーん、無理に手伝うのもな……それに早く向かいたいのも事実、ここは甘えておこう。
「じゃあ行くわ、ありがとう二人共! 試合の解説は為になったし、純粋に観戦も楽しかった。また機会があれば一緒に見ようぜ」
俺はそのまま観客席を後にして皆の元へ向かった。
「……強かったですね、大洗」
「えぇ、これは予想以上、想定していた物より更に上とは認識を改めないと行けないわね」
「Exciting! とても有意義な試合になって楽しかったわミホ!」
「わわ……こちらこそありがとうございました!」
試合が終わり、戦車達の撤収をしつつ最初の場所へ戻った時だった。試合後の挨拶を終えた直後、ケイさんから抱きつかれた。
「す、すいませんケイさん。く、苦しい……」
「あら、Sorry! ミホ。しっかしまさか負けちゃうなんて……勝負に絶対なんて言葉は無いけれど、かなり悔しいわ」
「……あの、一ついいですか?」
「? 何かしら、ミホ」
そう、気になっていた事がある。なぜ最後に残っていた全車両で追ってこなかったのか、四両だけだったのか。
「……あぁ! その事ね。簡単な事よ、貴女達と同じ車両数で来たのよ!」
「どうして……?」
「That's 戦車道! これは戦争じゃない。道に外れたら戦車が泣くでしょ?」
ケイは笑いながら自らの戦車道を自信満々に告げる。その言葉を聞いた瞬間に、思わず笑みが出る。島田先輩が言ってた通りの人だ、とっても素敵な人。
「……って、偉そうな事を言ってるけど、どの口が言うんだって感じだよね。盗み聞きなんてつまんない事をして申し訳ないわね」
「そ、そんな、頭下げないで下さいケイさん!
ルールには使用してはいけないなんて書かれてないですし、私達もそれを利用したんですから!」
「それは貴女達が上手だったってことよ、そして勝ったのも貴女達、私達に勝ったんだから誇りなさいよね!
あ、良かったらいつでもサンダースへ遊びに来て! 歓迎するわ!」
「は、はい! 機会があれば是非行かせて貰います!」
そして握手をする……こんなまともに、清々しい気持ちで握手するなんて初めてかも……
ちょっと緊張しちゃった。
「じゃあそろそろ……」
とケイさんが行こうとした所で此方に走ってくる人物が見えた。って島田先輩!?
ケイさんも気付いたようだが……どうしたんだろう、バツが悪そうにしている。
「皆! お疲れ様! いい試合だったよ、何回もヒヤヒヤさせられたけど、特に五十鈴、最後の砲撃は実に見事だった。思わず立ち上がっちゃったよ」
私達に試合内容についてすごく褒めてくれた。確かに華さんの最後の砲撃は凄かったよ、あの土壇場で決められる人なんてなかなかいない……って華さんが照れてるけど、島田先輩も華さんばっかり褒めすぎじゃないかなぁ?
そのまま華さんや周囲の皆を褒めて行く中、沙織さんが軽く島田先輩をつつくと私の方を指差す。沙織さんは呆れた様子で、島田先輩はやや顔を引きつっている。そんな顔して私を見てどうしたの? 二人共。
するとコホンッ! と咳き込みながら島田先輩が近づいて……って近い!
「みほ、よくやった。通信傍受の件も早期に対応して、逆に利用してたしな。それに五十鈴や他の皆に聞いたぞ? 最後の最後まで諦めなかったって、みほの言葉があったから戦えたって。流石は隊長、だな」
そう言って自然と頭を撫でられる。
…………へっ? 今私、島田先輩に頭撫でられてる?
その事実に気付いたものの、体が動かない。あ、島田先輩の手大きくて、硬い。特に指先の方、ギター弾いてるからかなぁ。
「……っは!? 島田先輩がみぽりんの頭撫でてる! 自然な流れすぎて違和感なかった」
「あらあら〜、私には無かったのにみほさんにはあるんですねぇ〜」
「みほ殿がすっごく真っ赤な顔してます! 顔もニヤけきってます」
「……」
「ま、待て! ごめんなみほ? ちょっと思わずと言うか、癖というか……
妹にも戦車道の試合終わった後、よくこんな風に褒めてたから……って冷泉どうした!?」
あっ……
そう言って島田先輩は手を離す。べ、別に名残惜しくないしっ。……まぁ、今までこんな風に褒められた事も無かったけど。
「……ミナトに見せる顔ないなぁって思ってたけど、いきなりこんなの見せつけられるなんて……」
「……よ、ケイ! ケイもお疲れ様、今回は勝たせてもらったよ……って俺が勝ったわけじゃないんだが」
島田先輩はこちらから逃げるようにケイさんの方へ行く……あぁ、島田先輩、華さんは聞く気満々な様です。
「完璧に負けたわ。けれどこっちも楽しかったし、いい試合だった! さっきのミホとの会話だけど、もしかしてミナトも盗み聞きしてた事知ってたの?」
「まぁな、サンダースの倉庫内に通信傍受機があったのには気付いたが、ケイは使わないだろうなって。
けど、試合前に今日の指示者、参謀はアリサさんって聞いたから、こりゃ使用も有り得るなって事でみほに伝えておいた」
「えぇー!! 使う事自体バレちゃってたんだ、そりゃ逆に利用してくるわよねぇ。
……今回はこういう形で逆に利用されちゃったけど、使用した事については別問題よ、ごめんなさい」
ケイさんは島田先輩にも謝っている。……頭を下げる度にサンダースのアリサさん?が凄く青ざめて行くけど、大丈夫?
「俺に謝る事じゃないしなー、それにアリサさんのした事を責めるつもりもないさ。それもまた一つの手段だから。
けどまぁ……俺はケイの掲げてる戦車道の方が好きだけどね」
「〜〜〜〜ッ! ミナトー!!」
ケイさんが島田先輩に抱きつこうとしたが、難なくそれを避けていた。……飛び付くのは危ないと思います。戦車道については確かに教えられたし、本当に素敵なのでなんも言えません。
「だからやめろって……
さて、そろそろ撤収しようか。俺も皆にいち早くお疲れって言いたくて来たけど、戦車の撤収にも来たわけだからな」
「わかったわ……
それじゃあ今度こそ、ミホ! 大洗の皆! また機会があったら一緒にしましょ?
サンダースはいつでも大歓迎よ!」
そう言ってケイさんは撤収準備をしている自分のチームの元へ帰って行く。途中でアリサさんの肩を叩いていたが、アリサさんの表情を見るに、通信傍受機の件だろうなぁ……
此方も帰る準備を始めているが、島田先輩と自動車部の皆さん、大会関係者で話し合っていると思ったら、あっという間に準備完了して撤収しちゃってた。……やっぱあの人達凄いな。
私達は互いに顔を見合わせて、頷き合い帰路につく。反省点もあるけれど、ひとまず勝つことができた。今はそれを素直に喜び、その気持ちを皆と分かち合いたいな。
現在俺は走っている。こちらの作業はあらかた完了し、時間を確保できたからである。
そしてその目的地は冷泉のいる所だ。冷泉の居場所と言っても、試合場所か、もしくはヘリが待機できる場所だ。試合場所は恐らくないだろう、撤収も済んでるしな。それにそこへ向かってるうちに、冷泉達がヘリの元へ向かっていたらすれ違いになってしまう。
そして何故冷泉を探すのか、それは確かこのタイミングで冷泉に電話が来る、その内容がお婆さん-久子さんが倒れてしまうという話だ。もしかしたら、起きないかもしれない。しかし、起きたとしたなら行かないわけにはいかない。
原作じゃあ西住姉が助けてくれるんだが……俺が居るからなぁ〜。でもまほの事だから、みほの為に俺の有無関係なく、手助けしてくれると思う。しかしみほに会いたい、けど俺の顔は見たくもないってな感じで帰ってるのかも……会場に居たのを見てないから居ることすら知らないが。
だから、その場合は母さんに頼むのも辞さない。辞さないが……みほとまほの関係を見たら、不器用ながらもみほの力になりたい一心で、その友達を助ける。これも一つの鍵だと思うので、出来ればここは原作の同じ様に……
そう思ってた時、遠目にみほ達とまほ・エリカが居た。ヘリを待機させておける場所といえばここではこの場所にしかないからな、こっちに向かっていて本当に良かった。まほが居たのもよかったし、ここに居るって事はヘリも使わせてくれるんだろう。……同時に久子さんが倒れてしまってる事も確定しているわけで、それについては起きない方が勿論いいのだが。
取り敢えず、こんな理屈で動く自分が嫌になりながらも、考えても仕方ないのでみほ達の元へと向かう。
俺が来た事に気付いたのが、みほ達は驚き、エリカは睨み、まほは表情を変えずに俺を見る。
「はぁ……はぁ……ふぅ、やっと見つけた」
「島田先輩!? どうしてここに!?」
「撤収も終わったからね、お前達を探してたんだが……冷泉の身に何かあったって話と、ヘリがどうとか、知らない人と一緒にとか、色々聞いてな。取り敢えずヘリの待機場所に来たわけだが……」
「先輩……」
「あぁ、武部の顔と冷泉の様子見たら分かった。もしかしてヘリっていうのも?」
察しが良い、と言えばそうだが、これだけの情報でそこまで考え付くのは難しいと思う。けど、ここは話を円滑に進めていきたい。時間を無駄にしたくないからな。
「……うん、西住さんのお姉さんがヘリを使わせてくれるらしい」
「そうか」
俺はまほの元へ向かう。まほは以前変わらぬ無表情のまま俺を見る。迫力がやはり半端ないが、まほのお陰で冷泉は大洗へ行く事が出来る。だから俺は頭を下げた。
「冷泉の為にここまでしてくれてありがとう」
「……別にお前の為ではない。私の戦車道に従ったまでよ。それに私が居なくてもお前が何とかしただろう?」
「そうだったかもしれない。けど、実際冷泉を助けてくれるのは西住とそこの女の子だからな」
「……ふん、じゃあエリカ運転頼むわね」
「はい……分かりました」
まほは俺を見た後、そのまま立ち去る。冷泉はお辞儀をしてヘリに乗り込み、一緒に沙織もヘリへ。
「……みほ! 俺も一緒に行ってくる!」
「! 分かりました!」
「冷泉のお婆さんとは俺も知り合いだからさ、あと」
俺はみほを見ながら、みほの後ろに目を向けるよう促す。そこには立ち去って行くまほがいる。
「……話すチャンスだぞ」
「……で、でも……」
「一言でも、目と目を合わせてお礼でも言ってあげな。俺が言える立場じゃないし、助けてもらうのは冷泉だけどさ」
「……」
「大丈夫、あぁ見えてというか、いつも言ってるがもう不器用にしか見えないだろ? 俺は嫌われてるけどみほの事を嫌ってるわけじゃないから」
「……はい! ちょっと話して来ます!」
そう言って、みほはまほの元へと駆け出す。
「五十鈴、秋山、みほをたの」
「乗るなら早く乗りなさいよ! 行くわよ!」
エリカから声が聞こえる。なかなか声張ってるな。すまん、俺はどうも一言多いらしい。
「ほら、先輩殿! 早く行ってください!」
「みほさんの事は任せて下さいね」
おう、と返事してヘリに乗り込む。
俯いている冷泉の近くに座りながら、大洗へ行く。
私はお姉ちゃんを追いかける。まだそんなに離れていない、お姉ちゃんも走ってるわけじゃないからすぐに追いついた。
「お姉ちゃん! 待って!」
「!? みほ……」
少し走っただけなのに息が……
私は息を整えながら、お姉ちゃんを見る。うぅ、怖い。けど言わなきゃ、麻子さんの事についてお礼を……
島田先輩はお姉ちゃんが私を嫌ってないって言ってくれる。けど、私にはそれが分からない。不器用な奴だとか、口下手すぎるとも言ってるけど、私にとってお姉ちゃんははっきり物を言うタイプだし……
しかし、今回はそれは関係ない。私の事を嫌ってなくても、嫌っていても、麻子さんの事を助けてくれた事は事実だから、お礼は言わなきゃ。
乱れていた呼吸も徐々に落ち着き、これ以上留まらせておくのも悪い。
「お姉ちゃん、麻子さんの事でヘリを貸してくれてありがとう。 お姉ちゃん達も帰るの遅くなるのに……」
「気にしなくていい、これも戦車道と言っただろう? それに私が手を貸さずとも島田流の彼がどうにかしただろう」
そうなのかな……島田先輩もそんな事言ってたけど……
だったら言い返す言葉も決まってる。
「ううん、島田先輩も言ってたよね。実際に助けてくれたのはお姉ちゃんと逸見さんなんだよ。気にしなくていいと言ってくれたけど、私が言いたいの」
「……そうか、なら好きにすればいい」
「! うん! ……だから、本当にありがとう、お姉ちゃん!」
私がそう言うと、目を背けなかったお姉ちゃんが初めて背けた。夕日に照らされてはいるが、顔も赤くなってる気がする。……もしかして照れてる?
ふと、私は島田先輩と愛里寿ちゃんの電話を思い出した。愛里寿ちゃんの顔は見えないけれど、島田先輩は本当に楽しそうに、そして優しい顔をして話を聞いていた。そんな二人のような関係に私達もなれるのかな?
私は自然とお姉ちゃんの隣に並んでいた。それに気づいたお姉ちゃんは少しだけ驚いた顔をしている。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「……どうした」
「逸見さん帰ってるまでの時間で予定あった?」
「……いや、街を適当に散策しようと思ってただけだ」
「だったら……私の家に来ない? 久し振りに色々話したいし……」
「……いいのか?」
「うん……私ね、お姉ちゃんに何も言わずに黒森峰やめた事、大洗に転校しちゃった事謝りたいんだ」
「……」
「けど、大洗にきて本当によかったと思ってる……ほんと一杯、いっぱい話したい事あるから……どうかな?」
「……私こそ言わなければならない事が沢山ある。勿論普段なら言える筈もない、けど今は……みほの姉で居たいから」
「お姉ちゃん!!」
「じゃあ案内してくれるか?」
「うんっ!」
そして私は家へとお姉ちゃんを誘う。
どこか互いにぎこちなく、まだまだ距離感は測れないけれど。
また、昔みたいに話せるようになりたいと思う。
というわけで、次回は日常回かな?
……アンツィオ戦考えとかなきゃ……