この世界で伝えられる事を探して   作:かささぎ。

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感想、お気に入り、誤字報告と評価ありがとうございます!

正直難産でした……上手く書けたか自信がないけど、これ以上の事は書けないと思いました。厳しい感想、お待ちしてます。


49話 向き合う理由

 

 

 

 

夜の船の上で俺は一人思い返していた。自動車部の皆から言われた事だ。音楽をしている時以外の自分と向き合う……か。以前は音楽、歌に取り組む想いと姿勢に対して悩んでたのに、今回はそれ以外について悩むとはな。

 

自分と向き合う……他の人には良く言う言葉だ。ただそれが自分の事となると途端に難しい、分からなくなる。はは、偉そうに言っておいてこの様か、人のこと言えねぇよな。

 

こんなマイナス思考を打ち切る様に首を振り、こんなんじゃダメだと自分に言い聞かせる。一つ一つ客観的に考えていこう。

 

まずはみほ。自動車部の奴らが言っていた事を当てはめていこう。相談に乗る事はまぁ先輩としては当たり前だよな。常に気にして何かあればフォローする……これもまぁ先輩なら。ただ常に気にする、と言う点は確かに過保護過ぎるか? 最初の頃はならいざ知らず、今は大洗の皆からは親しまれているし……

 

次に始めた事を一緒に取り組んで頑張る……これは俺自身の事でもあるし、それをみほへ頼んだ立場だったのもあるから俺がしない訳にも……ってこれは自動車部は知らないから仕方ないのかな。

そして昼ご飯は一緒に食べる事、加えて互いに手作り。うーん、これは確かに普通に考えれば、手作りを分け合ったり、そもそも弁当交換し合ったりするのは、普通の先輩後輩じゃしないよな? くそ、女性経験無いのが恨めしい……

 

最後に落ち込んでたり、寂しがってると知ったら声を掛けに行く事。これは一つ目の事と通じるな、先輩として当然だと思うが……

それとプレゼント。うーん、先輩からしても良いと思うんだけどなぁ。相手が女の子だからか? そう言う勘ぐりをされてしまうのか。

そして頭を撫でる事、膝枕をして貰った事。頭を撫でた事は無意識……だったとはいえ言い訳にならないよな。うん、これは流石に普通の先輩後輩じゃしないな。

 

「って、さっきから普通の先輩後輩って言ってるけど、普通って何だよ……」

 

全然考えがまとまらなくなってきたな。最近はみほと話す時、変に意識しちゃってるし、この前会話を切る様な真似しちゃった時は、凄い寂しそうな顔してて罪悪感が……

 

うん、俺の気持ちの筈だが分からないし整理が付かない……このまま変に悩むと前回の二の舞か。ならダメで元々、俺の事をよく知ってる人に相談すべきか? 少しでも俺がそれだ! って思える事を聞ければそれが良いし……

 

……俺の事をよく知っている、俺を俺以上に理解している……うん、パッと思いついたは良いが、良いのか? 情けなくないか?

 

いや自分の気持ちが分からなくて、くよくよ悩んでる時点で今更か、後へ変に引きずる方がまずいし。

そうして俺は電話を掛ける。多分この時間なら大丈夫な筈、ただ最近お互いに忙しくて連絡出来てなかったし、もしかしたらもう寝てるかもしれない。

 

そう考えてると、電話から相手の声が聞こえてくる。どうやら起きてたようだ。

 

『お兄ちゃん! お久しぶり、夜にどうしたの?』

 

そう、俺の事を俺以上に知っている理解者であり、自慢の妹、愛里寿だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お兄ちゃん」

『あ、何かあるか?』

 

お兄ちゃんから久し振りに電話が掛かってきたと思ったら……うん、難しい相談事を受けた。一通り話は聞いたけど、これって……

 

まず間違いなく、相手の人はお兄ちゃんの事が好きだ。じゃなきゃ手作りの弁当なんて作って来ないし、撫でられるのを受け入れたり、膝枕をしてあげたりしない。少なくとも私はそう思う。

 

しかしお兄ちゃんは全く気付いている気がしない。私の兄ながら流石に疎過ぎるんじゃないか? と思う。しかも訊いてくる内容が女性の話じゃなくて、お兄ちゃんがその女性をどう思ってるかだった。

 

いやまさか『友達からは、お前あの子の事好きなんじゃないの?って言われてな。後輩だと思ってたけど、俺はあの子の事好きなんだろうか?』って訊かれると思う!?

 

……正直、お兄ちゃんの中で相当混乱してると思う。じゃなきゃこんな事訊いてこないよ、もしくは逆じゃないかな? あの子って俺の事を好きかも、みたいな。

 

けど疑問に思う事がある。疑問と言うか、違和感?……間違ってるかもしれないし、気にしすぎなのかもしれないけど。

 

「お兄ちゃんってお母様や私の事はどう想ってくれてるの?」

『そりゃあ大切な家族だよ。高校に上がる前まではずっと一緒に居たし、俺と愛里寿は互いが互いを理解できていると思う。兄としてそこは自信がある。母さんは俺らの事なんかお見通しだろうしな……父さんもな?』

 

お父様の事は取り敢えず流しておこう……だって久し振りに会うと、抱きしめに来たりして凄くくっ付いてくるんだもん。会えるのは嬉しいけど、ちょっとくっつき過ぎてる気がする。

 

「じゃあ、好きでいてくれる?」

『勿論だ。それにいてくれる、じゃなくて今もずっとだよ。何があったとしても愛里寿と母さん、父さんの事は大好きだ』

 

即答だし……恥ずかしげもなく言ってくれるのは嬉しい。分かってたけど。こっちが恥ずかしいよ……

 

「中学のバンドメンバーの人達は?」

『あいつらの事も忘れるわけ無いぞ。今でも連絡取り合ってるし、あいつらが居てこその俺が居る事も事実だからな』

「じゃあ、好きなんだよね?」

『まぁ、そりゃあな。愛里寿はあまり知らないだろうけど、あいつら皆いい奴だよ』

 

これだ、私が違和感を覚えたのはこれだ。お兄ちゃんは昔から、他の人に対しての線引きを明確にしている人なんだ。

だから周りから何を言われようが、どんな扱いを受けようが、お兄ちゃんなりの譲れない何かを持って過ごして来た、そんな姿を私は見て来た。

 

物事に対しても同じ事を言えると思う。小さい頃は、色んな事に挑戦していたお兄ちゃんがギターを始めてからは、ギター一筋になってるし、そこでギターと他の事っていう形へ明確に分けられたんだと思う。

 

ただ……

 

「そうだよね、お兄ちゃんならそう言うと思ったんだ。だけど今お兄ちゃんは、自分の中の気持ちが明確になってない。そこが気になるところ……かな?」

『……なるほど』

「ごめんなさい、こんなあやふやな事しか言えなくて」

『いや、確かに愛里寿からしか訊けない話だった。十分だよ』

「うん……あ、あと一つ」

『ん?』

「これは何というか……さっき言った事よりかも感覚的になっちゃうんだけど」

『全然問題無いよ、言ってくれ』

「分かった、あのね」

 

そう、あと一つと言うのは大洗の人達との関係だ。先程から上がっている人だけじゃなくて、周囲にいた人、沙織さんや麻子さん達との関係。

 

「なんというか、お兄ちゃんはすんなり受け入れ過ぎなんじゃないかなと思うんだ」

『と言うと?』

「電話でしか話した事無いけど、沙織さん達と一緒に居たお兄ちゃんって、状況に流され過ぎてる感じがしたの。

勿論、お兄ちゃんにも考えがあっての事なんだろうけど、人との線引きをいつものように出来ていたら、例え人が多くても女の人だけの家に泊まったりしてないと思う……お母様もすぐに納得しちゃってたけど」

『……つまり?』

「言い表すのが難しい……うん、仕方ない、お兄ちゃんはそっちの人達との間で起きた事を仕方ないと思っちゃってるんだと思う。

全部が全部じゃないんだろうけど」

『仕方ない……か』

「うん。これがお兄ちゃんの悩んでる事の答えに繋がるか分からないけど……

私から言える事はこれくらいかな」

『あぁ、こんな夜遅くまでありがとうな』

「ううん、そんな事ないよ……お兄ちゃんも深くは考えないで、自然体のままでいいと思う。その方がその……お兄ちゃんはカッコいいから」

『はははっ! 嬉しい事言ってくれるなぁ、うちの妹は!』

 

お兄ちゃんの声が心なしか元気になった様に聞こえる。こんな事しか言えなかったけど、ごめんね。

 

あ! でも一つだけ言い忘れてた!

 

「お兄ちゃん! 話は関係ないんだけどあと一つだけいいかな?」

『大丈夫だよ、どうした?』

「今週は私も試合あるから無理だけど……来週ならお兄ちゃんや沙織さん達を応援に行けるから!

だから次の試合も勝ってね!」

『本当か!? 勝てるかどうか、俺なりにサポートはするけどみほ達次第だから……けど必ず勝ってくれると信じてるからな。愛里寿が来てくれたらみほ達も喜んでくれる筈さ』

「……そうかな? その時は精一杯応援する!」

『あぁ! よし、その前に俺も出来る限りやれる事やらないとな!

じゃあそろそろ電話切るから。愛里寿も頑張れよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……なるほど、そう言う事なんだ。

最初からずっと誰? 誰なの? って考えてたけど、やっぱり麻子さんかなと予想してた。でも違ったんだね。みほさんなんだ……一人だけ呼び捨てだもんね、『その子』は十中八九みほさんだ。

 

『その子』の事を聞かれて、上手く話を逸らせて良かった。だってその子の気持ちを聞かれたら、その子はお兄ちゃんの事を好き、って答えないといけないから。嘘はつきたくないし……それに、悩んでしまうって事は今がどうであれ、確かにお兄ちゃんの中で他の人とは違う立ち位置にいるんだ。

お兄ちゃんの訊きたかった事には、私が感じた事は全部答えられたから、問題はないと思う。

 

私は明日の練習に備え、布団に入る。さて、会うのは初めてだけど、会えたなら色々聞かなくちゃ。考えることが増えちゃったなぁ。そのまま、私は考え事をしながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛里寿との電話を終え、再び考える。深くは考えないで、自然体のままで……か。考えすぎると、周りが見えなくなるのは悪い癖かな。

 

それに、自分の気持ちが明確になっていない事……まさにみほとの事と言える。けどみほだけに言えるのか? ……いや、深く考え過ぎてるな、会えた時にでも素直に考えてみよう、それが出来るかは置いといて。

 

そして、状況に流されて、仕方ないと思ってる事。これは……多分原作を知っているからか、あのメンバーならこうなってもおかしくないと考えてるからか?

あとは……恐らく課題の事もあるんだろうな。

 

愛里寿のお陰で、ある程度絞り込めたとは思う……根本的な解決になってないけど、考えがこんがらがってた話す前と比べれば、遥かに前進しただろうと前向きに考えてみる。

 

最終的には俺が答えを出す事、ただ急いで答えを出す事でも無い。まず今は大洗の勝利の為に、みほ達が楽しく戦車道が出来る為に……今の生活を守る為に出来る事をしなければ。

 

それに案外、答えはすぐ見つかるかもしれないしな。

 

そう考えを締めくくり、俺は丁度到着した船から降りる。まずは一泊して……明日向かうのはアンツィオ高校。秋山も来るとは思うが、課題達成の為にもまずは一人で乗り込みつつ、色々調査してみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、随分と楽しそうでしたね」

「あぁ、いや……まぁ楽しかったな」

 

現在、何故かまた俺の家で、今回は俺だけ正座をしてみほ達からジトーッと見られている。いやぁ、ジト目ってなかなか……

 

「島田先輩、楽しく過ごすのはいいんですけど、前回の事もあるんですから」

「まさか偵察先で先輩殿に会うとは思いもしませんでした……」

「しかもあんなノリノリでな」

「私は先輩より、優花里さんが食べてたパスタが気になりますが……」

「そっち!? そっちなの華!?」

「……五十鈴は置いといて、確かにサンダースの件があったのにも関わらず、一人で偵察に行って申し訳なかった……があいつらなら大丈夫かなって」

「島田先輩の大丈夫は信頼できる時と出来ない時の差が激しすぎます……」

 

ケイには捕虜として捉えられた上で、解放はするけど負けたら転校してね? なんて条件付けられたからな……

 

しかし、久しぶりのアンツィオは楽しかったな。二回戦の対戦校である大洗の生徒が来てたのにも関わらず、最初は一悶着あれど結局ノリと勢いでどうにかなったし……

 

とりあえず秋山が持って帰って来ていたビデオを付け直す。最初の衝撃が強くて、思わず止めて俺への説教が始まっていた所で止めていたのだ。

 

さて、アンツィオ高校とはどんな所なのか、皆で最初から見てみようじゃないか……進学したい高校 No.1 は伊達じゃなく、本当に楽しい所だからな。




偵察でアンツィオへ!
正直、偵察……ってところもありますが。

久しぶりにドゥーチェが書けるよやったー!

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