この世界で伝えられる事を探して   作:かささぎ。

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52話 綺麗なもの

 

 

 

 

……今何時だろ……?

 

昨日は夜遅くまでプラウダ戦の作戦を考えてたんだっけ……? ちょっと遅くまで起きすぎちゃったかな? けど、やっぱりカチューシャさん達は今までの相手とは一線を画す。勿論、ケイさんやアンチョビさんが劣ってるなんて思わない。

 

ただ、戦い方が違う。あれだけの圧を放つ彼女らにみんな怯えずに戦えるかな……うんうん、みんな何回も試合を経験してとても頼りになる人達だ。そこに心配は必要ないだろう。

 

流石に何度も寝落ちしてしまいそうになり、ベッドへ飛び込んだ彼女ー西住みほは、寝る直前まで考えた自身の思考を再びなぞる。そのまま無意識に目覚ましへ視線を移した時……

 

 

「……あ〜っ!」

 

 

そう、今日は彼女の先輩であり、現在……恋をしている相手、島田湊との約束の時間を思い出す。彼はみほの家に来ると言っていたが、既に時間は一時間程過ぎていた。三回戦の会場に近づいていた事もあり、雪が降るほどの寒さだ。あったかい布団の中が気持ちよかった事、慣れていない時間まで起きていてしまった事実が、この寝坊に繋がってしまったのだろう。

 

……決して楽しみ過ぎたから、緊張し過ぎたから眠れなかった訳ではない。そうではないのだ。

 

 

「もぉ〜! 目覚まし掛けてたはずなのに! やばいよぉ!」

 

 

ベッドから跳ね起き……起きた直後なのにも関わらず、食欲を誘ういい匂いがする。驚きの表情を浮かべてそちらへ視線を移すと……

 

 

「……ははっ、やっと起きたのかみほ。悪いな、部屋の前で待ちぼうけ食らってたら……ってその前に。着替えた方がいいかもな」

 

 

可愛いけどさ、とニッコリ笑う恋する相手が出てきた。勿論、その笑顔に見惚れてきた事は沢山あるが、今この瞬間は話が別だろう。

 

 

「な、な、なんで島田先輩既にいるのぉ〜!!」

 

 

脳がキャパシティオーバーを引き起こし、思わず声を上げてしまってもしょうがないだろう……何故なら彼女は今、乙女なのだから。

 

 

 

 

 

「謝るからそろそろ機嫌よくしてくれないか?」

 

「……勝手に女の子の部屋に入ってくる人を許せというのが難しいんです!」

 

「ほら、ちょっと前から待ってたけどさ、管理人さんから何度も見られちゃってて……話をしたらいつのまにか中に……」

 

 

朝ごはんは白菜に人参、大根から椎茸、更にはえのきと里芋などetc.etc……多くの野菜が入っており、溶き卵が最後に付け加えられた野菜たまご雑炊。冬の寒さを標的とした体が暖かくなるこの朝食は、食べ易さもあったからか驚くほど体に染み渡る。

 

食べる側にとってはとても嬉しい、体を気遣ってくれるものだったが……女の子としては悔しさを感じてしまう美味しさに、圧倒的敗北を味わうみほ。けど美味しいから食べてしまうし、島田先輩の料理なら尚更と思う自分はちょろいのだろうか?

 

 

「だからと言ってです! 」

 

「いや、本当その通りだけどさ、一時間近く外で待ってたら流石に見かねたんだろうから……俺は大丈夫だったんだが」

 

「それは……その申し訳ありません」

 

「いいって、机の上にはプラウダ戦の資料から考えた作戦をまとめたノートが置きっ放しだったから、夜遅くまで考えてたんだろ? 感謝はすれど、怒ってなどいないさ」

 

「ほんとにごめんな……って」

 

 

部屋の位置どり的に、机を見るのであればそのすぐ反対側にはベッド、つまりは……?

 

 

「……もしかして寝ていた所も見ました?」

 

「……ヤッベ……見てないよ?」

 

「……本当は?」

 

「可愛かったぞ、ボコを抱きしめて幸せそうに寝てたから起こすのが申し訳なかったんだ」

 

「やっぱり見てるんじゃないですかぁ!」

 

「どうどう……茶碗空じゃないか、お代わりあるぞ」

 

「話逸らさないで下さい! ……お代わりは貰いますけど!」

 

 

……ちなみに、島田湊を擁護する訳ではないが……以前から二人の関係を知っててもやもやしていた管理人が、最近すごくウキウキだったみほを応援する気持ちと、その理由が今日の予定……ウキウキの理由であるのが湊だった事にすぐに感づき、ちょっとしたサプライズとご褒美を兼ねて家に無理やり入れたのだが……

 

これは管理人の管理不足、訴えられても知らないぞ。

 

 

 

 

「さて、今日はどうしたい? 行きたいところとかあったら優先しようか」

 

「優先……? 島田先輩は行きたいところあるんですか? 」

 

「……そりゃ一緒に出掛けましょうと誘われて、何も考えてないと格好つかんだろ。だから一応な」

 

「〜!! じゃあ島田先輩に任せます!」

 

「……? おう、途中行きたいところ思いついたらいつでも言ってくれよ?」

 

 

朝食の後、先輩と一緒に食器の片付けをして……一度着替えるという事で、外で待ってて貰ったんですけど……最初は戸惑いました。だって既に家の中にいるんですもん。困りますよね、普通!? しかも寝顔を見られたなんて恥ずかしくて死んじゃいそう。

 

けど、先輩がご飯を作ってくれて、一緒に話しながらそれを食べて、片付けまで一緒にして……なんかもうこれ、私がこんな気持ち味わっていいのかなぁ……えへへっ。

 

しかもしかも! 先輩が私の為に今日のお出かけ先を考えてくれた! 嬉しい、凄く嬉しい。

 

 

「んじゃーまずは……」

 

 

先輩が最初の予定を教えてくれている。ちょっと不安そうだけど……ふふっ、不安そうにするんだったら……

 

 

「じゃあ! 早速行きましょう! 島田先輩!」

 

「おい! 引っ張るなって! 全く……こんな積極的な子だったかなぁ」

 

 

机から立ち上がり、先輩の袖を引きながら玄関へ……このくらいはいいよね? 手は……まだちょっと……

 

困惑しながらも苦笑している先輩を尻目に私達は外へ出る。空は太陽が顔を出して周囲を照らしており、先日から降り続けている雪が積もっていた事と相まって、とても眩しい。私はその光景が今の自分達の様に思え、足取り軽くステップを刻みながら、目的の場所へ足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

まずは大洗学園、水産科が運営する施設へ。先輩曰く、

 

 

「普通科だからそれ以外のところはあまり知らないと思ってな。自分達の学園艦の事だ、いい刺激になると思うぞ」

 

 

確かにちょっと驚いてるかも。水族館みたいで楽しい。学園艦は学園艦、海の上とはいえ直接海の生き物達を観察する機会など無く、特に転校生であるみほにはとても新鮮に映る。

 

 

「島田先輩! こっちの魚、ご飯食べたら色が変わるそうですよ!」

 

「そんな魚いんの!? ……えっと、モンツキハギ? へぇ〜普段は緑色をしてるのか、今は黒いから食後ってことか」

 

「こっちは可愛い魚がたくさんいます! うわぁ〜吸盤で張り付く魚いるんですね!」

 

「どれどれ……へっ? これ? ……可愛いか?」

 

「可愛いじゃないですか! ……フウセンウオって言うらしいです。へぇ〜! 飼育と産卵に珍しく成功して、かなり人気みたいですよ!」

 

「……なんでそんな希少そうな魚がここにいるんだよ」

 

 

この子可愛いと思うんだけどなぁ……先輩的には面白い魚とか不思議そうな魚がいいのかも。

 

他にも、戦車ではなく船の歴史や仕組み、果ては漁業について載ってる解説書が展示されてたりしましたけど……ここって見に来る人結構いるんですね。確かに凄い見応えがあります!

 

同じ学校とはいえ科が違うだけでこんなにもしてる内容が違うなんて……私はまだこの大洗を全然知らなかったんだなぁと思うと同時に、横にいる先輩は自分や周りの事だけじゃなく、他の事まで目を向けることが出来るんだなぁと、改めて良いところを見つけることができたと思います。

 

 

 

 

 

次は被服科。ここでは多くの生徒が慌ただしく常に走っていました……とても忙しそうだけど、お邪魔しても良かったのかな?

 

 

「あー……うん、ちょっとした交換条件でね」

 

 

先輩が苦笑しています。交換条件って……と思っていた矢先でした。

 

 

「島田くん! と……ッ!? 集合!」

 

 

先輩へ声を掛けた三年生の方と思われる女の人が、すぐに何人か呼んで集まっています……どうしたのでしょうか?

 

 

「急なお願いで済まない、ちょっとだけ失礼になるが、気にしないでくれ」

 

「全然良いよ! ……そっちの子は?」

 

「あぁ、今年から増えた選択科目の戦車道のそのリーダーだ」

 

 

……あれ? 先輩いつもと違いません? なんか変に固まっている様な……

 

 

「戦車道!? あの乙女の嗜み!」

 

「これは島田くんだけじゃなくてこの子にも手伝ってもらいましょうよ!」

 

「……でも、後ろには生徒会長が……」

 

「へ、変な事しなければ大丈夫でしょ」(震え)

 

 

え? 手伝うって何をですか? ……とても嫌な予感がするんですけど……

 

 

「……良い案だね。みほ、この際だからお前も巻き込んでやろう」

 

「私を置いて話を進めないでください! 何の話です? 」

 

「なーに、ちょっとしたお手伝いだよ」

 

 

……その後、被服科の先輩達から同級生、はたまた後輩まで多くの人達が集まってきて、そのお手伝いをさせられました。それは……色んな服を着てほしいとの事でした。

 

正直に言いますね……これ、ただの着せ替え人形扱いじゃないですか!

 

 

「……この子、逸材だわ。メイド服がこんなにも似合うなんて」

 

「和装メイドもなかなか……」

 

「チャイナ服もきゃわいいー!!」

 

「漆黒の服……カリスマ溢れる革命家を意識しました、満足」

 

「戦車といえば、やっぱこれでしょ! 迷彩服!」

 

 

どんどん被服科の方々がデザインされたと思われる服装が出てきて、それを着させられる私。断る事も出来ず、言われるがままに着てしまいますが……何よりずるいです。

 

 

「どれも似合ってる。みほに純粋に似合うものから、普段からではイメージ出来ないものまで、何でも似合うな……」

 

 

……本当にずるいです。

 

結局、この被服科にいる時間がとても長かったのですが、その中で私が欲しいと思った服を譲ってくれて、かなり特をした気分です……先輩にずっと褒めてもらってた事も含めて。

 

 

 

 

その後も多くの学科を見て回りました。特に工学科なんかもかなり見応えがあってとても楽しかったし……充実な日を過ごす事が出来ました。

 

最後に戦車道関連の専門店に行って……こんな時にでも戦車道だなんて、先輩ってやっぱり戦車道が大好きなんだなぁと思います。そして、この大洗学園の事も……

 

 

「みほ、今日は楽しかったか?」

 

「はい! ……でも途中の被服科なんて、もっと早く止めてもらっても良かったと思います」

 

 

……ちょっと膨れてみます。先輩から褒められているとは言え、普段はしない格好を沢山させられたのはやっぱり恥ずかしかったから。

 

 

「いやいや、みほの珍しい姿ばっかりでついつい……ちょっと見惚れてる部分もあって、止めるのが遅くなったんだよ」

 

「……ふ、ふーん、そうなんですか」

 

 

……べ、別に誉めてもらう為に被服科の出来事を話題に出したわけじゃないんですから! ……ちょっと期待してた事も事実ですけど……

 

 

「今日は俺も凄く楽しませて貰ったよ……でも、やっぱり戦車道だよな」

 

 

先輩は落ちていく日を眺めながら、突然そう言葉発した。その姿はとても力強いけれど、儚くも感じた。

 

 

「俺は音楽が好きだ。今もずっと続けていることから分かってると思う。だけど、戦車道も好きだ。母さんと愛理寿がとても大切にしてるものであり、そしてみほ達大洗メンバーと繋いでくれるものだからな……

 

みほ、今日は付き合ってくれてありがとう。そして、改めて言わせてもらう、以前はすまなかった」

 

 

そう言って島田先輩は私を真っ直ぐに見据えて、頭を下げた。

 

もう、本当に大丈夫なのに……律儀というべきか、気にし過ぎと言うべきか……うん、やる……私はやるぞ! 小さな決心を胸に秘めて、私もまた頭を下げていた先輩へ真っ直ぐに向き合った。

 

 

「……島田先輩、いえ()先輩。私、やっぱり戦車道好きみたいです……けど、それは以前の様な物ではなくて、今のメンバー……友達であるみんなとする戦車道が好きなんです」

 

 

私は本音で湊先輩へ告げる。

 

 

「私が今、私自身の戦車道をやれているのは大洗の皆さんがいるからです……そして、そんな状態の私がカチューシャさん達……プラウダ高校と戦う事になったのは、偶然ではないと根拠はないですが、そう思いました。

 

みんなのおかげで……そして湊先輩のお陰で、一年前の事はもう吹っ切れたと思います。けれど、やっぱりプラウダ高校との試合は、私にとって大きな出来事なんです。

 

私が新しい私で居られる、そしてこれからも『好きになれた自分』でいる為に、私を変えてくれた大洗のみんな……そして湊先輩と一緒にカチューシャさん達を……私の過去を乗り越えたいんです!」

 

 

先輩へいつか言おうと思っていた言葉を、今ここでぶつける。先輩は顔を上げて、私の言葉を聞いてくれている。静かに……けれど驚いた表情で。

 

 

「それに……湊先輩が初めての模擬戦の時、戦車道が本当の意味で始まると言ってくれた後に歌を歌ってくれましたよね? 今でも耳に残っています。

 

『夢を見つけるのが今は、夢だって構わない』……このフレーズを忘れられません。だってつい最近までの私の夢は夢を見つける事でしたから……」

 

 

私はあの時の歌を思い出す。そんな事が夢でいいのかと……けど、夢を探してみようと思ったら、気付けば今までよりかも周りを見る事が出来ました。そしたらいつの間にかに……

 

 

「けど、今は違います。

 

沙織さんや華さん、麻子さんに優花里さん、会長達に他のみんな……ここにいるみんな、そして湊先輩と少しでも長く戦車道をやっていたい、続けたい。

 

みんなと何気ない話をして、喜んで、驚いて、助け合って……そんな笑顔で居られる楽しい日々を少しでも長く感じていたい! それが私の夢です!

 

だから! 絶対にプラウダ高校を倒してみせます!」

 

 

言い切った。言い切ったけど、勢いで話した為にかなり恥ずかしさを覚えている。恐らく私は今とても顔が赤いだろう。

 

 

「な、なーんて……夢って言っても小さいことかも……」

 

「いいと思う」

 

 

恥ずかしかったから思わず誤魔化そうとしてしまった時、今までに聞いたことのない声色で、湊先輩が話してくれた。

 

 

「とても……とても綺麗な夢だ。些細なことだけど、純粋で……みほらしさが凄く出てる。それは……」

 

 

そこまで言いかけて、湊先輩は続けるのをやめた……湊先輩はとても羨ましそうな、憧れる様な……何かに焦がれる様な目をしていた、ように見えた。

 

気付けば湊先輩は目に涙を浮かべていた……って涙!?

 

 

「み、湊先輩!? どうしたんですか!?」

 

「ははっ、はははっ! いや何でもない、何でもないんだ」

 

 

涙が少し流れているけれど、とっても笑顔で、何かおかしい様に笑い続けている。

 

 

「みほ! ごめん! ちょっと用事が出来た! こうしちゃいられない!」

 

 

湊先輩は急に何かを思い付いた様に、そう言い告げた。

 

 

「明日のプラウダ戦、頑張って……頑張って勝てよ! 全力で応援するから! ……みほの夢も全力で応援する! むしろ、俺もその夢を一緒に見ていたいからさ!」

 

「……湊先輩?」

 

「……それと、()先輩って呼んでくれたこと……めっちゃ嬉しかったよ! じゃあな! みほ!」

 

 

湊先輩はまるで嵐の様に走り去る……湊先輩、女の子を一人置いて帰るのは点数低いですよ? ……けど、あんな楽しそうで嬉しそうな……何かが吹っ切れた様な様子を見たら、何も言えないじゃないですか……

 

……湊先輩、私の夢……いや、湊先輩と私の夢、絶対に叶えてみせます!

 

 

 

 

一人の少女が強い覚悟を胸に秘め、強く拳を握る。その覚悟が冷める気配など全く見せず、それはやってくる……そう、第三回戦、大洗学園v.s.プラウダ高校が戦う時が遂に来た。

 

 

 

 

 

 






めちゃくちゃオリジナル入れたけど別にこのくらい……いいよね?

なお、被服科の方々が作った物は
メイド服
和装メイド服
チャイナ服
黒のカリスマ
ミリタリー
他にも記念服(○周年)等ですね。


次はまだしも、プラウダ戦がかなり難航しそうですので、遅くなるかも?
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