かなり頑張ったけど納得がいかない。
けどこれ以上は書けないと思いあえなく。
「まずは相手の動きを見ましょう」
チーム全員にそう問いかけたのは西住みほ。プラウダとの戦力差は歴然。準決勝のレギュレーションにより、試合へ投入出来る戦車数は十五両。プラウダは勿論数を揃えてきているが、大洗は六両のみ。単純な戦車の数だけでもその差は簡単に覆せるものではない。
加えてカチューシャ自体の指揮能力の高さと、指示を的確にこなす事の出来る腕を持った各人員。そして戦術としては、誘い出した相手を包囲し殲滅していくカウンターを得意としている。
慣れない雪中戦と戦力差、試合形式がフラッグ戦である事から、開始とともに勝負を仕掛け一気に仕留める電撃作戦……超短期決戦を狙うのも一つの手だが……
それは失敗した時のリスクが高すぎるどころか致命傷だ。むしろその時点で負けだと覚悟した方がいいまである。
故に、不利になろうとも慎重に各個撃破を行い、戦況によっては有利となりうる長期戦に臨もうとしたみほだったが……
「ゆっくりもいいが……ここは一気に攻めるのはどうだろうか?」
「ふぇ?」
この一言から、チームメイト達から畳み掛けるように声が上がる。
(……これはどうするべきだろう……それは私も考えたけど……)
リスクは先程も挙げた通りだ。だが今のこの状況でそれを否定するのもどうだろうか?
この中に慎重に行くべきと唱える者がいれば、話し合う余地はあるだろう。だが、満場一致で一気に攻め立てようと言う意見だ。
確かに勝った勢いはあるだろう。幸いに雪の上を走る時間は十分に取れ、各操縦手も滞りなく運転できる状態だ。カモさんチームはまだ不安なところがあるが、適宜アドバイス及び走行経路の指示を逐一行い、フォローしていけば何とかなるだろう。
何よりこの士気の高さだ。蛮勇、とも取れなくもないが、ここで変に押さえ己だけの意見で作戦を実行すれば間違いなく勢いは無くなるだろう。
時としてチームを抑える必要はある。それは間違いでは無いが……戦術としては一理あり、それに対する勢いもまた感じる。ならば止めるべきでは無いのかもしれない。
「……分かりました。では一気に攻めます!」
「いいんですか!?」
「えぇ、長引けば雪上での戦いに慣れている相手の有利になる可能性がありますから」
そう、むしろその可能性が高いだろう。状況次第では有利になる……と先程は述べたが、実際のところ有利になる確率は正直低い。
それに……
「みんなが勢いに乗ってるんだったら!」
自信をみんなが持っている。そんなみんなを信じて私は作戦を練り、指示するのみ。
そう考えたみほ。選んだ作戦は超短期決戦。だが……
だが、それを予想していないカチューシャではなく、むしろそう来るのであれば好都合とさえ思っている相手だった。
何故なら、カチューシャは試合前に宣言した通り、短期戦を挑まれようとも長期戦になったとしても、ただ真っ正面から叩き潰すだけなのだから。
「……こりゃまずいな」
「そうね、
「うーん……建物の中に閉じ込められちゃった」
「……ちょっと、ケイと凛ちゃん近い」
「んー? No problemよ、ミナト!」
「逆に問題あるのかしらね? 湊さん」
「いやケイもダージリンも後ろにいるじゃん、お仲間。何で俺達の後ろの席に座ってんの」
ナオミ達にアッサム達。そこはそこで仲良く話してる様だ……アリサが突っかかり気味だけど。
母さんから愛里寿と共に撫でるだけ撫でられた後、試合開始のブザーとアナウンスが鳴り響いた。
会場は静まり返り、試合の行く末を見逃さんとした視線を観客達は、モニターへ釘付けとなり、見守っていたが……
展開としては鮮やか……というよりかは『まさかここまで上手く決まるとは思わなかった』と言わんばかりに、プラウダ側のカウンターが決まってしまった。
次々とプラウダの戦車を戦闘不能へ追い込んでいた大洗、その裏ではプラウダの策略にハマったわけだったが……
観客席が静まっている中、試合が始まってからちょいとばかし機嫌がよろしくない愛里寿に話を振る。
「愛里寿ならどうしてた? 大洗の立場だとしたら」
「……」
「あら、愛里寿が拗ねちゃったじゃないの。後ろの可愛い子達と仲良さそうにしてて、寂しいんだと思うわ」
「いや、そりゃ仲はいいけど……」
「それに、それの子とも仲いいからよ〜。今日はお兄様とみほさん応援するんだって意気込んでたし」
「お、お母様! 」
愛里寿が顔を赤らめながら母さんに抗議の目を向ける。くそかわ、はい愛里寿は俺にとっての満点の星空……じゃなくて。
気づけば凛ちゃんが母さんと愛里寿の分の紅茶を注ぎ渡しており、母さんがお礼とお褒め言葉を言っていた。あれ? いつの間に仲良くなってんだ?
後ろで何やら話をしてるケイと凛ちゃんを置いといて、再度愛里寿へ問いかける。
「……私だったら、敵が逃げていく方角と地形から誘われていると判断して、深追いはしないかな。追うとしても、せめて囲い込まれる前の雪の坂を降りる直前まで。あれを降りた時点で、囲まれる前に逃げだせたとしても、的になっちゃうから。そもそも……」
「愛里寿、続きは後で教えてあげましょう。しかし湊、これからどうなると思う?」
「あー……」
感心しながら聞いてたのに、愛里寿の解説を遮る母さん。急にどうしたのかと思ったが、横目で西住親子を見ていて、納得がいった。
どうなると思う……か。
現在、囲まれた大洗はその場から離脱したものの、古い教会へ逃げ込む事で難を逃れた。その過程で一両も欠けなかったのは、不幸中の幸いだった。しかし危機を乗り越えたとは言い難い。寧ろ再び囲まれ、逃げる場所など無く、プラウダは大洗に対して降伏勧告をしたようだ。三時間……という制限時間を言い渡して。
そして『似たような場面』を俺は知っていた。
「……分からない。分からないけど……大丈夫だ、あいつらなら大丈夫さ」
「……ふむ、要領は得ませんけど、貴方は彼女達を信じてるのですね」
「はぁ……帰るわ。こんな試合を見るのは時間の無駄よ」
……西住師範が立ち上がり、この場から立ち去ろうとする。俺も思わず反論しようとしたが、やめた。それはすぐ近くのもっと適した奴がすると思ったから。
「待って下さい」
「……まほ?」
「まだ、試合は終わっていません……そしてみほもまた、諦めてなどいません」
「その通りよ、今我が子が戦わんとしていて、もう一人もまたそれを見届けようとしているわ。……どうしますか?」
「……」
西住と母さんの言葉を受け、師範は再び座り目の前を見つめる。チラッと西住と目が合う。あぁ、一言多いだけでこんなにも違うとは……『似たような場面』を知ってはいる。けど『確かに違う』……今まで気付けるタイミングが山ほどあった筈なのに。それに気付いた、いや向き合えたのは本当に……
「きれいな夢を、見たんです」
「……夢、と言うと?」
いきなり語り出した俺に対し、西住は相槌を打ってくれて……その場にいるみんなは静かに聞いてくれていた。
「あぁ、とてもきれいな夢だったんだ」
河島先輩から……会長達から衝撃的な事実を知らされた。それは、大洗学園が……ではない。この学園艦そのものが廃艦となる話であった。
その話を聞いて、全てを察する事が出来た。何故あんなに会長達から、戦車道を半ば押し付ける形で任されたのか。負けたら何か罰ゲームを言い渡されていたのか。度々勝つことを念押しされていたのか……そして、あの日何故呼ばれたのか。
湊先輩の言う通り、とても優しくて……良い人だなってやっと納得できました。私だったら来たばかりの人にそんな事言えないよ……あの日に話そうとしてくたのも伝わりました。けど私の事を想って、言い出そうにも言い出せなかったんだなって。
少なからずもっと早く言ってくれればと思う気持ちがない事は無い。けど、それでも内容が重くて……逃げ出してきていた私が、前を向けるようになり、それを笑顔で歓迎してくれていたこの人達が、そんな重すぎる話を出来ないのも凄く理解できた。
……私だって終わらせたく無い。三年生達だけじゃない、ここにいるみんなとの戦車道を。離れ離れになりたくない、ここにいるみんなと……もっともっと、続けていたい。このメンバーで好きになれた戦車道を、私が見つける事が出来たこの夢を!
湊先輩は知っていたのだろうか? と思ったが、それは無いと言っていた。会長達は誰にも言って無かったらしい……だったら、試合も終わって、学園艦も終わり、なんて事言えないし……言いたくない、
けど、カチューシャさん達が与えた『三時間』と言う猶予はとても長くて。みんなも最初は顔を上げて、前を向いてくれていたけど……今ではその顔は俯いていた。
やはりこの長い時間、慣れない寒さと荒れ始めた気候、閉塞されたこの場所は徐々にみんなの気分を、士気を下げていく。
どうすればいい、まともに作戦も立てられていない。どうしたら勝てる? その前にみんなを盛り上げて再び顔を上げてもらう為には? ……こんな時に湊先輩が居てくれたらと、思ってしまう。恋しいあの人が、頼りになるあの人が……
全員が悩み、空気が不安に包まれた時、沙織さんがあっ! と声を上げた。
「そう言えば!」
そう言って沙織さんは急いでⅣ号と向かい、中から封筒を持ってきた。
「沙織さん、それは……?」
「これ、島田先輩から! いざという時の為にって。どうしようもなくて、みんなが落ち込んでたらって!」
湊先輩から?
私達は集まり、その封筒の中に入ってるものを取り出した。
あの時のみほの姿を思い出すだけで顔が熱くなる。思わず目尻に水が溜まり……そして、心がどこか晴れた気分になる……曇ってないと思ってたんだがな、気付かないうちに心と目が曇ってたみたいだった。
あのきれいな夢を聞き、その夢を語ったみほを見た瞬間、すぐに家に帰り今のこの思いを何かに残したかった。すると思い浮かぶのはやはり歌。メロディーに言葉を乗せる……これが俺の思いを表す物に適してると思った。
……知ってはいた。心に染み付いてもいた。それでもやっぱり……尊敬できる人たちの歌ってすげぇなって。
俺は知らず知らずのうちにここは『ガールズ&パンツァー』という……『原作』通り世界だと思い込んでいた。
それは一理ある。確かに俺の知っている事ばかりが起き、知っている名前が、会ったこともないのに知っている人がいる。知っている行動と同じような行動を取っている。確かにそうなのだろう。
愛里寿から言われた『今のお兄ちゃんは流されすぎている』これもまた、そうなのだろう。だって『そういうものだよな』と思ってたら、無条件でそう考えてしまっていた……距離感だってそう思ってしまっていたのだから。
けど、あの日のみほを見て……これがこの世界の形なんだ、と思ったんだ。原作とかそんなの関係ない。『今』を生きている人なんだって、俺の知っている『西住みほ』でありながら、俺の知らない、見ようとしてなかった『西住みほ』なんだって。
確かに前兆はあった。みほの姿を見て些細なことでも『心配』になった。前を向けたみほを見て心から『安心』した。……笑顔でいたみほを見て、とても『嬉しかった』んだ。
……あぁ! 認めよう! 俺は西住みほがどうしようもなく好きになってしまった。好きで好きで堪らなくなった。笑顔も困り顔も、たまにしてくるジト目も、恥ずかしそうにお握りを作ってくれる事も、戦車に乗る時の凛々しい顔付きも、ボコを嬉しそうに見る姿も、その全てが愛おしい。
ならば『原作』という名の『似たような世界』の知識をも利用しよう。それが違ったって良い、だってここは俺の『知らない世界』なんだから。
『……あー、あー聞こえてるかな? 聞こえてる前提で話していくぞ』
封筒にあったのは音楽プレイヤーだった。そこに音声として一つのデータが入っていたので、再生する。すると湊先輩の音声が聞こえてきた。
『これを聞いてるってことは……まぁどうしようもならない状況ってことで良いんだよな? カチューシャも強いし……みんな浮き足立っていたからなぁ……おっと、みんな揃って待機してる状況をなんで知ってるのかって? んーそのなんだ? そんな予感がしたからって事で。そんな事はどうでも良いんだ』
いや、どうでも良くないと思うんですけど……
『そんな状況になった時にみほは、みんなの安全を案じて降伏も辞さないと思う。そうなれば多分みんな知ってしまうだろうさ。恐らく河島辺りから暴発しちゃうだろ? 大洗学園艦そのものが廃艦になってしまうんだぞ! てな』
えっ!? 湊先輩知ってたの!? 会長達を見ても表情は驚きで染まっている。
『なんで知ってるのかって? 馬鹿野郎、俺がどんだけ生徒会の仕事を手伝ってたと思うんだ。いきなり生徒会の仕事量が増え、俺に内緒で生徒会の三人だけで行動したりすることが多くなって、援助金等のお金の動きが変わって、突然角谷達が戦車道を始めると言い……みほを強引に勧誘してただろ? まさか……とは思ったけど大体想像はつくさ……まぁもしかしたら廃艦じゃなくて縮小とかかもしれないけど……』
『……みほ、すまなかった。あんな事を言いつつ、お前の事を想うならはっきりと角谷達へ話を促してもよかった。重荷を背負わせたくないと言えば聞こえはいいが……だからこう思ってもいいんだぜ。「そんなの聞いてねぇよ」ってな!』
湊先輩の笑い声が響く。河島先輩はいつものように抗議していて、会長は額に筋を浮かべていた……湊先輩、そんな軽く考えれませんよ……
『と言っても、みほはとても優しいからそうは思えないんだろうけどさ……
さて、話を変えよう。そんな事実を知って、けど状況はきついまま……俺に出来ることは、いつも通り歌を歌う事だけ。当日は寒くなりそうだし、天候も悪化するかもしれないから、みんなの気分も盛り下がるかもと思ってな』
そう言って湊先輩は一拍置いて続けた。
『……みほ、先日はありがとう。俺に付き合ってくれて。お陰でやっと……本当の意味でで本気になれると思う。そして、お前の夢を聞いて思ったんだ。きれいな夢に混ざりたいって、あの時の抜け殻の様ようだったみほにはもうさせたくないって。その想いをそこにいるであろうみんなに託したい。
だから……想いを込めた二曲と、
バビロン 天使の歌
そして、心絵』
という訳で
The pillowsから、バビロン 天使の詩
ロードオブメジャーから、心絵
この作品を書こうと思ったきっかけの一つが、このプラウダ戦の局面のみほに対してバビロン天使の歌が似合うと思ったっていうのがあります。
もう一つ、最後まで迷ったのですが、三曲に纏めたかったので溢れてしまった曲があります。せっかくなのでここに残しておきます。
宮崎歩から、Brave Heart
さて、ここで二曲は書きましたが、残り一曲は次で。