こっそりとチラ裏に公開してみた。

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活動報告のネタです。


『ネタ』IS/Type Moon

 ーー男の話をしよう。ただの弱者ですらない、通りすがりの人でさえ持つ、自分(きおく)を持たない男は平凡(えいゆう)だ。

 

 間違いなく男は流されていた。そこに知人も友人もなく他人(じぶん)しかいない。絆という繋がりでしか自己を感じられない男は哀れにもみえるが、どこにでもあるありふれた話だ。

 

 訳も分からぬままに殺し、殺された男はどこまでも往生際が悪く、その悪足掻きは滑稽を越えて感動すら相棒(えいゆう)に与えた。己れの魂が解ける、最後の最期まで足掻き続け、他人(じぶん)を愛した絆を想った。そんな男の話だ。

 

 ◇◆◇◆

 

 岸波白野(きしなみはくの)には幼い頃からみているユメがある。とある世界の月にある願望器『ムーンセル・オートマトン』の所有権をめぐる殺しあい、『聖杯戦争』の記憶を何度もみていたのだ。

 

 その情報と情景は幼い白野(はくの)の精神を容易く侵し、磨耗していく人格は逃げ道を探すように同期しながら白野を追い詰めていく。

 

 セイバーの天然さが。アーチャーの皮肉が。キャスターの去勢拳がが。桜が。凛が。ラニが。BBが。あと嘲笑う金色もいた。味方だけでなく、敵からの影響もうけていく白野の精神は犯され、それに耐えられる人格へ急成長していく。根底の想いは変わらずとも世界は違う、それでも岸波白野はここにいると魂で叫んだ。

 

 ーー前だ。ただ前へ。半歩でも前へ。

 

 その歩みは数多の道程であり、最弱から英雄へ至る物語にも似ていた。

 

 二対二で行われる電脳世界での戦いで敗者(デリート)となる追体験だけではない。トーナメント形式の本選に出る前の退場(デリート)や、パートナーとなるサーヴァントを得る試練での死亡(デリート)までもみているのだ。

 

 最初が最難関(ラスボス)とは誰の言葉だったか。

 

 そうして優勝(偉業)を達成(デリート)し、魂が解ける実感を経て『裏側』へ落ちたのであった。

 

 そこからも紆余曲折あったのだが、精神が疲弊しているので割愛するとしよう。潜り抜けたユメを思い返した白野はテレビを見ながら呟いた。

 

「なんでさ」

 

 岸波白野は往生際(あきらめ)が悪い。一時的にムーンセルを所有した白野は、現実世界で眠る自身にアクセスした。難病で眠る自身にちょっとしたプレゼントを贈ろうとしたのだ。走馬灯が駆け巡るなかで。

 

 そのプレゼントが平行世界の白野にまで届いたのは間違いなく誤算で、どうにかしようと悪足掻きしていたら情報が溢れたのだ。

 

 結果、走馬灯も一緒にプレゼント。

 

『あかいあくま』のうっかりどころではない。白野が最弱の魔術師だといわれた所以が自身のミスで証明されてしまった。

 

 ムーンセルは平行世界を知覚した。地球や人類を観測し続けるために、ムーンセルが平行世界にまで目を向けた原因は間違いなく自身のミスである。

 

 ある意味で当然の帰結となるのか。この世界の事象の中心的人物として白羽の矢が刺さった人物が幼い白野であった。

 

 溢れる情報を許容するためにムーンセルが求めたのだろう。だからこそ、聖杯戦争の追体験となる。

 

 確かにそうだ。忘れたくない想いはあった。忘れたくない出来事もあった。忘れたくない人達がいた。それでも白野はここにいる。

 

「……まだ小学生だってのにぃぃぃ」

 

 白野はハクノンに悪態を吐きーー

 

「なんで、みさいる? と、せいばー?」

 

 ーー白い騎士が舞う姿と鳴ったチャイムに心臓が跳ね、受難のハジマリを感じつつもドアを開けた。

 

 月で型作った彩りとは違う、新たな岸波白野の物語である。

 

 ◇◆◇◆

 

 白野を訪ねた四人の女性は少しの共通点を除けば個性が強すぎてまとまりがない。悪性の泥が似合いそうな美少女、メカニカルなウサミミの美少女、姉貴と呼べば笑いながら殴りそうな美少女ときて、最後は甘ったるい尼の美少女とくればーー。

 

「ーーなにこれこわい。ラスボス系?」

「これがもう一人の王子様……」

「これが精神だけオーバースペック……」

「一発でいい。殴らせてくれ」

「うふふ。月での殺し愛以来ですねぇ」

 

 どこかで察しつつも説明を求めた白野はそれぞれの苦笑を返された。譲り合うような間に息を吐いたのは織斑千冬であり、いいから話せと睨まれたにも関わらず黙したまま微笑んでいるのが殺生院キアラだ。じっとりと熱を孕んだ視線を送り続ける沙条愛歌(さじょうまなか)。無機質な目と歪んだ口許の篠ノ之束。どう考えても地雷を掘り返す気分になる四人の女性に、自己紹介を交えた挨拶を終えた白野は呟いた。

 

「俺の女難(よめ)問題ねぇ。ここに王様がいたら高笑いだな、うん。キャスターなら去勢拳の姿勢をとるだろうし、アーチャーは皮肉が出るな。セイバーはどうだろう? 天然発言でより混乱しそうだ。どうせキアラだろ?」

「話が早くて助かるわ、岸波白野。私は貴方とは違う『聖杯戦争』を知っているの。それに貴方たちの『月の聖杯戦争』も体験したわ」

「私が頑張りましたのよ? 一時的にとはいえ、私も亜神で所有者でしたからね。貴方を探すのはこちらの方々にご協力を。ねぇ?」

 

 攻撃的な笑顔の愛歌と愛憎を隠さないキアラの言葉に身体が強張った白野の肩を千冬が叩いた。

 

「脅迫だがな。私と束も『聖杯戦争』を強制的に疑似体験させられたよ。あれは地獄巡りだったぞ。よくぞやり遂げたと思うよ、心底な。それでだがな岸波。相談があるんだ」

「束さんはムーンセルが知りたいんだぁ。この世界の月にもあるのか知りたくない? 束さんは月に行きたいぞぉ。はっくんも行こうじぇ。ばびゅんばびゅんしようじぇ」

「ああ、はい。詳しい話は中でしませんか? 玄関で済ませる話題でもないし、順番に聞きますから……。秘匿はどうしたんだ、これ。大丈夫なのか?」

 

 母親のいない岸波家は仕事人間の父親と白野だけが住む一軒家でーー二階建ての庭付き、半地下一階もあるーー昼過ぎの時間帯は白野一人で過ごしている。四人を通した居間も現代にありがちなデザインであり、よくある魔術師の家にはみえない造りとなっていた。魔術師に必須な工房は地下にあるものの倉庫と化し、『根源』へ至る研究に血と汗を流す魔術師ではない『魔術使い』の家系だと知れる。幸いにも、ここに生粋の魔術師がいないお陰で話題にはならなかったが。

 

 詳しい事情は愛歌から語られた。愛歌はとある方々から『根源の姫』と呼ばれる避けるべき対象して警戒されている存在だ。産まれながらに『根源』と繋がる愛歌は格好の研究材料であり、人体実験の素材として期待されていた。魔術師に人権や気遣いなどは鼻で笑う対象であり、沙条愛歌もまた魔術師であった。愛歌は家族以外に心開く存在はおらず、近寄る魔術師達を丁寧に解体していった。知と肉の人体解剖。そこで興味がひかれる情報を得てキアラと接触してしまう。

 

 ーー違う世界の『恋』の化物と『愛』の化物の邂逅は果たされた。

 

 殺生院キアラは『自己愛の化身』である。知的生命体ならばキアラには勝てないといわれたほどの化物であり、月の裏側で対峙した白野は身を持って知っていた。キアラの計画性のなさに救われたものの、あの時のキアラは間違いなく神であった。

 

 ーーまたキアラか!

 

 それもそのはず、キアラが月の聖杯戦争で気まぐれに暗躍した結果、元々NPCであった白野や桜、BBに自意識が産まれたといっても過言ではないのだ。白野は思う。またナニかやらかしたなと。

 

 キアラの口は軽く、よく滑った。『気持ちいいコト』にかけて一途であるキアラは『それもまたイイ』と思えば後先考えずに実行する、傍迷惑な存在だ。白野が月でやらかしたルートを知覚して追いかけてきた情報(じぶん)を愛歌の中に見つけーー沙条愛歌が『恋』を知り少女ーー化物となる前に『失恋』させて女に引っ張り上げた。それがまた『好かった』と口走るキアラの言葉は切り捨てるが、愛歌が注目したのは同じように失恋をした、自称『月の女王』のBBである。

 

 愛歌に接続されている『根源』から得た月の勝利者と月の女王の恋愛物語は、愛歌の知るどの物語よりも生々しく、これ以上ないほどにのめり込んだ。キアラは愛歌の聖杯戦争を知らない。『恋する女』の題材としてBBを取り上げ、キアラ自身が観察していた桜やBBの献身的で盲目的な愛と別れを、ほんの一瞬でも応えようとする白野の姿を教えた。『悲恋』を知った愛歌は自分もまた失恋する可能性(みらい)を知り、悲恋の物語の王子様に逢いたくなる。

 

 ーーこの人なら化物(わたし)を受け入れてくれる、かも。

 

 今は『白騎士事件』や『ISショック』の見出しが飛び交う時期であり、女尊男卑の思想が声をあげている。そんな信者と白野は相性が最悪といってよく、誰かの奴隷にされる前に出逢わなければと暗躍する決意をした。それと同時に、似たような悲恋はないか、あらゆる聖杯戦争を知覚するのを始め、意気投合したキアラの病を情報の対価として完全に治療して計画を練った愛歌は語る。

 

 ーー二人目の王子様は生身の人間。想い想われる関係を!

 

 稀代の『天災』と呼ばれる篠ノ之束と、その親友である織斑千冬は巻き込まれた。女尊男卑は一般社会の話であり、魔術は秘匿された存在だが、白野と同じように織斑の家系も『魔術使い』だった。超人染みた肉体は『強化の魔術に特化』した血筋で、愛歌の触手を避けてみせたのが仇となった。二人は『岸波白野の女難(よめ)計画』に組み込まれ、束と千冬は愛歌から教えられた可能性(みらい)に驚きーー生涯独身ーー束が渋るものの千冬は前のめりになった。

 

 千冬に危機感を植え付けることに成功した愛歌は気を良くして自慢した。恋に全力で生きた化物(わたし)の聖杯戦争と、月の裏側にあった悲恋の聖杯戦争を。もはや親友とも呼べるキアラの助力を得た愛歌の所業は悪辣となる。強制的に疑似体験を果たした千冬は腹いせに束を引っ張り込み、魔術を知らなかった天災は未知との遭遇を果たした。キアラの魔術は深層心理に潜ることができる。限られた身内しか認識しない束の世界はキアラの魔術で呆気なく破壊され、キアラに喰われそうになった時に救出された。

 

 ーー岸波白野である。

 

 乙女の秘密を解体して救出するのは白野が月の裏側でやったことだ。穴があくほどに観察した白野を再現するのは簡単だったと語るキアラを愛歌が切り捨て、千冬と同じ地獄巡りに強制参加させられた束は絶句した。電脳世界の疑似体験とはいえ、白野の潜り抜けた地獄(くうかん)は天災でさえも音をあげたのである。それから興味を持った白野の物語を愛歌と堪能した束は両手を上げて計画に賛同し、天災と化物の計画が練り上げられたが、世界の推移を現状から予測して意見が分かれた。

 

 ーー天災は身内優先。化物は王子様優先。

 

 篠ノ之束は身内が楽しそうであれば世界はどうでもよく、沙条愛歌は王子様と相思相愛になりたいので世界がどうでもよくなかった。優先順位の違いに千冬は息を吐いたが、織斑千冬は弟を育て上げることに全力である。キアラの戯れ言は三人に無視され、会議は踊る、されど進まずといった状況でキアラの舌が滑る。岸波白野に出逢ったらしたいことを延々と語り出し、改めて耳を傾ければ、キアラの妄想と欲望が全力全壊だった。堪らなくなったキアラの目に三人が映ったところで危機感を募らせた千冬が会いに行こう! そう叫んで畳み掛けた。

 

 ーー岸波白野に訊こう。奴ならば何か閃くかもしれん。

 

 頭を下げる千冬に白野は白い目を向けたが許した。キアラよりマシであったからだが、『岸波白野の女難(よめ)計画』には呆れて沈黙を選んだ。魔術師側の話が済み、黙って待っていた束は宇宙に行きたい夢を語った。愛歌とキアラの欲望よりも純真な夢は白野の笑顔を引き出し、頬を赤らめる愛歌と唾を飲み込むキアラは無視された。束の願いを聞き終えた白野が『白騎士事件』の失敗を指摘したのは純粋に心配したからである。眉を寄せる千冬に反応をしない白野が提案するのは軍事製品の発明だった。

 

 ーーISが軍事に利用されないよう、きちんとした軍事製品を世に出そう。

 

 束の目が瞬く。束の計画にあったコアの制限による抑制が必ず失敗すると指摘した白野の提案は、スポーツに収まらない兵器として発明されたパワードスーツだ。それが男女兼用になればISの台頭で混乱した社会も落ち着きをみせるはずであり、ゆくゆくはISで宇宙へ、兵器は地上でと語った白野の手を束が握って立ち上がった。はしゃぐ束の顔を掴んだ千冬が疑問点を並べれば白野が返す。ISの台頭で弟を育て上げるつもりであった千冬にスポーツで返し、ISの能力を兵器として活用する可能性を未完成の一言で切り捨てた。さらなる疑問をあげようとした千冬の悔しげな顔に冷徹な言葉が飛んだ。

 

 ーーISを軍事製品にしたいのね。

 

 愛歌の言葉で我に返った千冬は茫然とする束に謝罪と言い訳を始めたが、愛歌から鋭い質問が次々と飛んだところで白旗をあげた。千冬の両親は離婚しており、織斑の家系は魔術使いであったが、嫁にきた母親が科学系統の裏社会出身だった。悲劇の始まりは千冬の身体能力に目をつけた母親が父親には内緒で千冬のクローン、弟と妹を誕生させたことである。両親の言い争いが殺しあいにまで発展した結果の離婚であり、妹は母親が引き取り弟は残った。その父親も後遺症がたたり病死したので残る家族は弟だけになる。魔術師としては異端であるために頼れる親戚はおらず、父親の遺言でもある『一夏には魔術を継がせない』を守り通しながら暮らしていく日々に疲れていたのだ。心許せる人が束だけであったと告白され、有頂天になった束は割愛する。

 

「さてと。詳しい計画を練りましょうか」

 




 終わり。

 連載にするなら初期設定からキチンと練りましょうw

追記。
ユーザー限定からチラシの裏にこっそりと公開しました。書いた当時は強化人間だと知らなかったんや。


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