エミヤ(アチャ子)TOLOVEるへ行く   作:メスザウルス

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開巻劈頭

世界とは常に滅亡の危機にある。

アルマゲドン、隕石衝突、火山噴火、ラグナロク、核ミサイル、重度の森林伐採、大地震、排気ガスによる温度の上昇、氷河期。

いつの時代、いつの世界でも、何かがバランスを崩そうとするのだ。

 

そして、それは今も…

 

「ハッキリと分かりましたよ、プリンセス・ララ。 やはり貴女は、私にとって敵…!」

 

────世界は滅亡の危機に瀕していた。

 

この場にいるのは、ピンクのロングヘアーの、高校の制服を着たノーパン少女と、金の髪を持った、一目見て痴女と思う格好をしている可憐な少女。

片方は悪魔の様な翼と尻尾を生やし、もう片方は右腕から大気圏へ突き抜けるほどの長さを持った、ビームサーベル状の膨大なエネルギーを空へと振り上げていた。

 

今この状況の説明を一言でするならば、二人の少女が一人の男を取り合う修羅場である。

 

より詳しく詳細に説明するならば、金の少女はとある意思を持った黒粒子女の策略により絶望しダークサイドに堕ちてしまっており、主人公の少年とヒロインの少女が彼女の正気を取り戻そうと戦っている感動的なシーンだ。

命の危機に晒されながらも友達の為に命を賭す。

何と素晴らしい友情か、何と美しい感情か。

この世界がフィクションならばお涙頂戴の名シーンとなるだろう。

 

おかげで、世界は滅亡の危機に瀕しているが。

 

「ララ!? ちょっ!?」

 

ララと呼ばれるピンク髪の少女は、少年────結城リトを強く抱きしめた。

 

「リトが一緒なら、私……きっと100%以上の力が出せるから、それに…」

 

ララはダークネスに呑まれた少女────ヤミを見上げた。

力強い瞳はその思想を打ち砕かんと狂気に染った友を見詰めた。

己の全身全霊のエネルギーをもってあのエネルギーを相殺する。

後先の事は考えない。

そうしないとこの町も、リトも、何もかも失ってしまう。

ララは、尻尾の先端に己の力全てを収縮した。

 

「殺すのが恋なんて……認めるわけにはいかないもんね」

 

確かな意志と確かな愛。

確かな決意と確かな誓い。

自分が生まれて、この星に来て、教えて貰ったこと、学んだこと、感じたこと。

己の人生全てを持って、ララはダークネスの"愛"を否定した。

 

「……」

 

ダークネスは熱の無い瞳でララを見ていた。

そこには嘗てのライバルを見るような、暖かいものでは無くなっている。

ただの雑魚。極めて小さく、どうでもいい生物でも見ている様な酷く冷たい視線。立ち塞がる事すら烏滸がましい存在が、己に敵意を向けている。

 

その傲慢な言葉、姿、挙動。

そして何より、私のモノに我が物顔で触れているおじゃま虫に、ダークネスの堪忍袋は沸騰する。

 

(…認めない?)

 

体内で弾け暴れ回るように怒りが駆け巡り、血が沸騰するように熱くなり、言い様のない嫌悪感が背筋を舐めた。

認めないと言われた。お前の愛は認めないと言われた。お前は間違っていると言われた。

一体何様のつもりだろう。雑魚のくせに、虫唾が走る…。

ぐちゅりと口の中が苦くなる。口内で広がる不快感に、ダークネスは目元を引き攣らせた。

 

気に入らない、あまりにも気に入らない。

 

私よりも弱いくせに。

私よりも小さいくせに。

 

(その男に触れていいのは私だけなのにッ……!)

 

吐き気がした。

どんな理由があれ、虫が"私の"宝物に張り付いているのだ。気持ち悪くて仕方がない。

 

「……それ、私のなんだけど!」

 

莫大なエネルギーが、辺りに閃光を撒き散らしながら衝突した。

 

 

 

               ⚫⚫⚫

 

 

 

「───まさか打ち消すとは、やりますね。 プリンセス・ララ」

 

パチパチパチと、鋭い爪を象った手袋で心無い賞賛と感心の拍手を送る。

彼女は未だ絶望としてララの前に立ち塞がっていた。

結果的にエネルギーの相殺は成功した、"成功は"したのだ。

その代償にエネルギーを使いすぎたララの身体は縮み、戦闘能力は半分以下となってしまった。

もうダークネスに対抗する力は残っていない。腕を動かすだけでも、今では億劫だ。まるで全身に重りを付けているかのように、思うように動かない。

疲労により立ち上がることすら辛そうに顔を顰めるララを見て、ダークネスは愉悦に口元を歪ませた。

 

「ですが、私の方が強かった」

 

呟いた事実は、狂った女を愉快にさせた。

これでおじゃま虫より私の方がより優れているという証明となった。

だからもう、十分だ。

ダークネスは再び、その手に惑星を両断するエネルギーサーベルを作り出した。

 

「マジ…かよ…」

 

一気に絶望へと叩き落とされる面々を見て、更にダークネスは気持ちを高ぶらせる。

コレが愛だ、コレが差だ、コレがお前達が挑んだ世界の高さだ。

力の違いを見せつけた。否────教えてやったダークネスは、その目を見開かせ頬を紅葉に染める。

 

『そんなぁ!? あんな超高エネルギーを連続で放てるなんて!』

「うぅ…」

「ララ! 大丈夫か!?」

「う、うん…でも…」

 

ダークネスに対峙すべく立ち上がろうとするララであるが、体内エネルギーを放出しすぎた反動による疲労とデビルーク星人特有の身体収縮により、うまく身体を動かすことができない。

 

「か、身体が…」

 

「与太話している暇があるのですか?」

 

遮るように聞こえる死神の声。

黒く派手な服装に、なんでも切れそうな爪をペロリと舐める姿は煽情的であるが、殺されそうになっている側はそんな事を考える余裕はない。

 

『ララ様!! 早くお逃げに───』

「だ、ダメ…力が…入らない…っ」

 

急いで逃げようにも腕も足もガクガクと震えて立ち上がることすら出来ない。

リトが子供になったララを抱え逃げ出そうとするが、そんな事であのエネルギーサーベルを躱す事など不可能。

アレは惑星を殺す超破壊そのもの。

どこへ行こうと、この星から出ない限り逃れることは出来ない。

まさしく絶望。絶体絶命。

九死に一生もなく。このままでは彼、彼女たちの物語は幕切れとなるだろう。

 

「終わりです。 プリンセス────ララ!!」

 

ダークネスは三日月状に裂けた笑みを浮かべ、極太のエネルギーサーベルを振り下ろした。

光となった刀が、逃げ遅れた鳥達を塵へと還し、空気は焼き切れ、雲は割れ、反動により暴風が町中に吹き荒れた。

まさに世界に終焉を授けるにはこれ以上ないほどの力。

森羅万象を呑み込み、等しく殺す圧倒的な一撃を前に、力を喪った無力な少年少女達はどうする事もできない。

 

このままでは二人の命も、地球も切り裂かれ、世界は、人類は、全生物は終焉を迎えるだろう。

 

…ふざけるな。

 

一体誰が肯定できる?この馬鹿げた出来事を。

一体誰が許容する?この破滅に充ちた結末を。

 

許せない。許さない。

 

世界が許さない。この世に住む人々が許さない。

生きとし生ける全ての生物が、世界の理不尽な破滅を許さない。

諦めるな。

奇跡とは常に存在するものだ。

 

『I am the bone of my sword───』

 

歌が聞こえた。

 

世界を救済する歌が。

 

人々を救う祝福の歌が。

 

世界が静止する。空間が歪み、中から輝く赤が閃光となって突き抜ける。

一瞬だけ辺りに炎が飛び散り、それに呼応するように花弁が咲いた。

 

「なっ!?」

 

突如として現れた花弁型のシールドに、ダークネスは驚愕の声をあげる。

花弁はダークネスの巨大なエネルギー刀を受け止め、進行を防いだ。

どれほどの威力が出ているのか、風は嵐のように吹き荒れ、受け止めた衝撃波で地面が捲れ上がり、崩れ、地球が震えた。

樹々は吹き飛び、電柱は倒れ、アスファルトにヒビが入り、家は倒壊する。

 

突如として現れた奇跡。

何が起こったのか分からない。けれど、目の前で起きる出来事を否定する事など不可能。死神に殺されそうになっていた少年少女達は、ただ与えられる現実を、夢でも見ているかのようにただ呆然と眺めていた。

 

「どこの誰だか知りませんが、私の邪魔をするなら容赦しないっ!」

 

グンッ!

 

さらに太さを増したエネルギーサーベルは、一気に花弁を3枚割った。

透明な桃色の破片は空気に溶けるように消え去り、七枚あった花弁の半分が失われた。

その様を見たダークネスはニヤリと笑う。

いきなりの事で少し驚いたが所詮はこの程度。

どこの馬の骨か知らないが、今の私を止める事ができるのはデビルーク王以外にいないだろう。

それも、今では力の使い過ぎでプリンセス・ララと同じように弱体化している。

今の自分を止められるものは、全世界、全宇宙中どこにもいない。

 

「さっさと砕け散ってください!」

 

ダークネスは追撃とさらに腕を押し込んだ。

花弁は先程の思考の間にも数枚ちぎれ飛び、残すは最後の一枚となっていた。その一枚もすでに亀裂が走り、今すぐにも砕け散りそうだった。

このペースなら、あと数秒もしない内にシールドは決壊するだろう。

 

ダークネスは笑った。

 

謎の人物により結城リトと一つになる夢が遅れたが、ほんの数秒だけだ。何ら支障はない。

それに彼を殺すことはダークネスにとってビッグバンよりも大きな事、これもその過程のスパイスと考えれば、また一興。

道が困難で、険しければ険しいほど、手に入れた時の絶頂は果てしないものになるだろう。障害が多いほど、恋とは燃えるものだ。

 

「ふひっ」

 

ダークネスは歪んだ性癖と愛情の赴くまま、その果てを想像し、濡れた。

 

思ったよりエネルギーを浪費してしまったが問題はない。

弱体化したプリンセス・ララならば、この様な大業を使わなくとも通常のトランスで殺すことは出来るだろう。

せめて最後の花として原型もなく消してやろうと思っていたが仕方がない。

だからせめて、今まで私の恋路の邪魔をしてくれたプリンセス・ララは出来るだけ苦痛と快楽を与えて殺してやろう。

結城リトを甘美な殺しで自らの一部とする瞬間を見届けさせ、無残に死ぬまで、あの顔を絶望と絶頂に染めてやろう。

 

悲願の達成は目前。

眼前の障害を踏み潰し、手を伸ばすだけで届く。

ああ、待ちどうしい、待ちどうしい。

早く、早く早く、私のものに────

 

「トレース」

「────!!」

 

不意に、その声だけが透き通るように聞こえた。

なぜこんな爆音の中、そんな声を拾ったのか。

 

それは反射的に理解したから。

今まで戦場で培っていた勘が、蓄積していた経験が、自らの命に危険が迫っていると。この声を起点に何かが起こると。

 

「オン」

「チィッ!!」

 

自然に出た舌打ちとともにダークネスは右へ大きく飛んだ。

手から放っていたエネルギーサーベルは霧散するが気にしない、エネルギーはまた再チャージすればいい。

何をしてくるのか分からないが、とにかく避ける。

 

すると、ダークネスの耳元で風を切り裂く音が聞こえた。

 

「ぇ…?」

 

本能の警告音が消え、左を振り向いた彼女の目には圧倒的な量の武器が映った。

先ほどまでいた場所を通り過ぎてゆく剣、刀、槍、斧。

主な数は剣が一番多かったが、それでも圧倒的な質量が風を切り一直線に飛んで行く。

その様は、まるで万の軍勢で泳ぐ魚の様だった。

 

「────目標、捕捉」

 

数え切れないほどの剣軍が通り過ぎた後に、一つの赤い影が降り立った。

それから発せられた声は確かに人が発したとは思えないほどの、機械じみた無機質さがあった。そこには熱や心はおろか、意思すら何一つとして感じられない。

不気味だ。

酷く不気味で異様だ。

人形のようで死体のような、女を象る全てが不気味だった。

 

「……あなたですか。 私の邪魔をした"害虫"は」

 

だがそんな事どうでもいい。

今のダークネスにとっては彼以外、全てがどうでもいい。

静かで落ち着いた声色で発せられた言葉は、それでも確かな怒りを含んでいた。

 

ダークネスの目に映るは真っ赤な外装。

色の抜けた白髪。

それに比例するかのように白い雪の肌。

全てを射殺す光のない真っ赤な瞳。

背はダークネスよりは高く。おそらくプリンセス・ララと同じか、それ以上になるだろう。

 

そこにはダークネスに負けず劣らずの美女がいた。

多くの男を虜にできるほどの姿形をした、人形のような女がいた。

 

────己を殺せる"害虫"が。

 

「…」

「…」

 

お互い静寂に、1歩も動くことなく敵を見る。

嵐の前の静けさが、より殺伐とした世界を作り出していた。

 

過信はしない。

油断も慢心もしない。

こいつは私を殺せる。

なら初めから全力で行く。

ダークネスは背に生える天使の翼に力を込め、爆発にも似た勢いで謎の女に突っ込んだ。

 

「死ね」

 

髪を数百の刃へとトランスし、女の全身を切り刻むべく迫る。

全方位からの刃の嵐。

逃げ道はない、二本しかない腕で防ぐ事など出来はしない。

 

全力で殺す。

全霊で殺す。

その純白の髪を血に染めてやる。

 

神経を最大に尖らせ、筋肉の一筋の動きも見逃さない。

避ける動作をすれば速度を持って。迎え撃つ動作をすれば圧倒的物量で切り刻む。逃げ道など作らない。全て一瞬で片をつける。

 

ダークネスはララ以上の警戒心を持って女の排除に当った。

己を害する虫は、一拍の猶予も無く、完全に消し去るのみ。

 

────そんな考えは甘いと言わざる終えない。

 

有象無象にしか通じない技で殺されるほど、世界が認めた殺し屋は甘くはない。

それも必然。

彼女は英雄だ。

万人が不可能とされてきた事でも、それを可能としたのが英雄だ。人が成し得なかった奇跡を、その類まれなる才能を持って乗り越え、成し遂げてきた。

 

多くの神話で語られた規格外の存在。

ある者は龍を、ある者は不死を、ある者は神を。

 

その全てを、多くの英雄たちは屠ってきた。

 

ならば、

 

「───ッッ!!」

 

────宇宙最強くらい、殺して見せよう。

 

幾百の刃は突如虚空から現れた剣の檻により防がれた。

突如として出現した剣の盾に、しかしダークネスは怯まない。先程の剣の群集で、この女が異様な力を振るう事は分かっていた。

ダークネスは阻まれた刃を変形させ、剣の間を縫って女を串刺しにしようとする。しかし、ダークネスが如何せずとも剣の盾は砕け散った。内側より射出された捻れた剣が、女を囲んでいた剣を喰い破り、ダークネスの心臓めがけて発射されたのだ。

 

「グゥっ!!」

 

不意に、至近距離で飛来する矢に身体を捻りながら、トランスで鋼鉄にした両腕で受け流した。

矢にしては余りにも重い一撃。戦車に撃ち抜かれたような衝撃は、ダークネスの身体を揺さぶった。

この女が用いる矢はただの矢ではない、剣の矢だ。ただの矢の数十倍は重い。それが音速を超えて放たれているのだから、重いだけで済んでいるダークネスが如何に化け物か理解できる。

 

交差させた腕から火花が散り、ダークネスは女から大きく吹き飛ばされた。

 

歯をギシリと噛んだダークネスは、吹き飛ばされながらも、瞬時にエネルギー砲を複数展開、発射する。

一つでもまともに当たれば骨すら残らない超高温の砲撃が女へと殺到するが、女は冷静にひらりひらりと躱す。まるで焦る様子もなく、最小限の動きで躱された。

冷静に、淡々と、作業的に。

女の澄ました挙動はダークネスの腸を煮え返らせる結果となった。

 

沸き上がる苛立ちのまま、今度は更に巨大な砲門を展開した。

 

「溶けてッ消えて下さい!」

 

チャージ時間0.5秒。一瞬で光を集めた砲口からは、空気中の水分を消滅させる程のエネルギーが女に向かって発射されるはずだった。しかし、突如背後より飛来した剣がダークネスを襲う。

この矢は先程ダークネスを吹き飛ばしたもの。それがどんな現象か、途中で軌道を変えダークネスの背を狙ったのだ。

剣の飛来に気付いたダークネスは、髪で絡み取るように受け止めたが、刹那とは言え女から意識を離したのは愚策だった。

気を逸らされた刹那の間、瞬時に近付いた女がダークネスへと剣を振りかぶっていた。

その手に持つのは先程のような捻れた剣とは違う、切れ味の鋭い銀製の剣。女は華奢な腕でありながら、閃光を描きながら剣をダークネスへ振り下ろす。

 

ダークネスは長距離用のエネルギー砲を用意していたのもあり、この様な近距離では対応する事が出来ない。

 

「なわけないでしょうッ!ばーか!!」

 

ダークネスは瞬時に腕を極悪な大剣に変え、女を迎え撃った。

女の剣とダークネスの漆黒の大剣がぶつかり合い、重さも太さも負けている銀の剣が砕け散る。

 

(取った!!)

 

ダークネスは大きく口元を歪めた。

剣の軌道は女を縦に裂くには十分であり、もはや躱す暇など一切ない。

 

彼女はわざと女を誘い込むように遠距離武器と明らかな隙を作り、ノコノコと懐に飛び込んできた害虫を叩き斬るために、己の身を餌と置いたのだ。

この様な害虫に策を使うなど腹立たしくて仕方が無いが、己の願望を叶える為だ。苦汁ぐらい幾らでも呑んで────「壊れた幻想」

 

女が何かを呟いた瞬間、背後で何かが大きく光った。

次いで、耳が痛くなるような爆音と、脳を揺らす衝撃が、ダークネスの背中を大きく叩く。

 

「があッ!」

 

膨張した爆風がダークネスの全身を殴打し、背に生えた翼は片翼が千切れ飛んだ。女は右腕を上げ周囲に複数の剣を投影、怯んだダークネスへ向けて連続で射出する。

 

「うっ、ぐうぅぅ!!」

 

ダークネスは直ぐに欠損した翼を修復し、それを大きく広げることによって体制を整えた。痛みが脳に伝播し、耳がキーンとして何も聞こえない。

だが、飛来する剣の存在は気付いていた。

 

ダークネスは髪を球状に展開して全身を包み、結界を作成。高速で飛来する剣から身を守った。

襲い掛かる衝撃。その重みはミサイルに匹敵する。その猛撃は一撃ではなく、途切れることなく永遠とダークネスを襲い続けた。

 

幾らダークネスの結界とはいえ、そう何百と防ぎ続けられるものでは無い。即席の結界と言うのもあり、思ったよりも猶予は無かった。ダークネスは堪らず結界内でワームホールを生成し、中に飛び込んだ。

ゲートの先には己に矢を射った不愉快な女の背中。ダークネスは回避と同時に奇襲を決行したのだ。

 

「────ッ!」

 

最大まで息を殺し、気配を殺し、自分という存在そのものを殺す。それはダークネスの心臓の動きまでを停止させ、ここに完全なるステルスが完成した。呼吸も心音も気配もない、まさに己を殺すという意味を体現した姿は、例え眼前を素通りされたとしても彼女を認識することは出来ないだろう。

 

(この女は、自分の死を気付かせることなく殺す!)

 

ここまでやってくれた害虫に苦痛と言う地獄を味あわせてやれないのは残念だが、仕方がない。そんな贅沢も言ってられない状況だ。このまま心臓を貫くと同時に首を飛ばしてやる。

 

トランスした腕で心臓を、髪のトランスで首を。

さすがにこの化け物も、首と心臓を切り裂かれては生きて行けないだろう。

 

全力で振るう暗殺。

宇宙最強が行う暗殺。

ただの一撃を持って、相手の呼吸を止める。

 

ダークネスは振るった。

最高のタイミングと威力で、女の心臓と首に刃を振るった。

────スカッた

 

「はぁ?!」

 

ダークネスの暗殺は、女が霧散することによって空を切る結果に終わる。

突如女を象っていた粒子が散らばり、空気に溶けて消えたのだ。

 

意味がわからない。

意味がわからないが、あの女が自分の渾身の一撃をあっさり躱したのだという事は直ぐに分かった。

眼前で起きた不可解な現象に呆然としてしまいそうになるが、ダークネスにそのような時間は用意されていない。彼女には女が射出した剣の矢がまだ迫って来ているのだから。

 

ダークネスは即座に翼を広げ、剣の群れから逃げるように回避する。

しかし、幾ら回避しようとも剣はスピードを落とすことなく、永遠とダークネスを貫かんと飛行し続けた。

 

「うざったいですねぇ、なんですかこれはっ!」

 

【フルンディング】

 

その名は古北欧語の 'Hrot' に由来しており、これは「突き刺す」を意味している、古代イングランドの叙事詩『ベーオウルフ』に登場する魔剣。

 

その剣には『相手の血を吸うまで追う』概念が込められており、どこへ逃げようと魔力が続く限り獲物を追いかける魔剣。

英雄や宝具を知らない少女にとっては、躱しても弾いても追ってくる剣にしか見えないだろう。

さらにその剣が数百本もあり、いつの間にか姿を表した女が追加で射出し続けているのだ。幾らダークネスであろうとも愚痴の一つや二つ吐き捨てても仕方がない。

 

(なぜ、あの女の服にワームホールを繋げることができない?)

 

いくら試そうとも服の内側にワームホールを生成することが出来ない事実に、さらにダークネスは苛立つ。

あの女に秘密があるのか、それともまた別のものか。

どちらにせよ、面倒な事に変わりはない。

服にさえワームホールを繋げることができたなら、あの害虫の放つ剣なり槍なりブチ込む事ができるのにッ。

 

そう思考しつつ、飛んでくる剣を断ち切り、潰し、へし折った。

砕け散った剣は青い粒子となり、空気に溶けるように霧散する。

 

(なるほど、潰せば追ってこないと……この数を潰すのは骨が折れるますが、この後に待っているご褒美を思えば、苦ではない。

ああ────むしろ滾ってきましたっ)

 

結城リトを手に入れる

結城リトと一つになる

結城リトを、結城リトを、結城リトを結城リトを結城リトを結城リトリトリトリトリトリト───────!!

 

惚沸とした表情で、口からジュルリと唾液を垂らしながら少女は加速する。

晒すマヌケな表情とは裏腹に動きは鋭く、上手く、速くなっていく。

 

幾百、幾千の武器を高速で潰しながらダークネスは女に斬撃を飛ばした。

先ほどまで押していた錬鉄の英雄は、急激に力を増していくダークネスに防戦を強いられる。

 

「ああ、いいです! すごくッいい!! 今すぐ欲しいモノを目前でお預けされるこの気持ち!! えっちぃこともニュルニュルも好きですが、こういうものもまた堪らない! 欲しい欲しい欲しい欲しいッ!! 結城リトォ!!」

 

濡れる、濡れる、濡れる、濡れる!

 

神速に達する動きに比例して、変態と化してゆくダークネス。

あんなに冷静でクールだった彼女は見る影すらない。

男は女で変わるというが、女も男でここまで変わるものなのか。

つくづく愛の恐ろしさは常軌を逸している。

 

「はァアアア!!」

「――!」

 

ついに狂気じみた愛の力は女の腕を斬り飛ばすまでに至った。直ぐに追撃と思ったが、女が瞬時に剣を射出した為、追い討ちは出来ず距離を離された。

女の右肩から栓の解かれたワインのように赤黒い液体が溢れ、体内に循環することなく漏れ出た血液は重力に従って零れ落ちていく。

しかし痛みを感じていないのか、腕を切り飛ばされたというのに女の表情は動かない。

ここまで人形のような人間は気味が悪いが、ダークネスはそんな機械のような女を前にして困惑や疑問の表情どころかドヤ顔を決めた。

 

どうだ、入れてやったぞ。

そのスカした表情をいつまで保っていられるかなこの害虫め!

 

ふんっと鼻息を出し、真底スカッとした表情で女を見下すダークネス。

未だ変わらぬ女の顔を見て、ダークネスはニヤリと笑った。

 

「どうです? これでもまだ殺りますか? まぁどちらにせよ、邪魔をしてくれたあなたは殺すけど」

「……」

 

女は切り飛ばされた腕を一瞥すると、周囲から集まる青い粒子が、無くなった腕へと収縮していく。

やがて十分に集まった光が弾けると、女の無くなったはずの腕が再び現れた。

 

「……はい?」

 

コレには流石のダークネスも困惑の色を隠せない。

ダークネスは首をコクリと傾げ、気の抜けた声を漏らした。

傍から見れば愛らしくみえる少女の仕草だが、目のハイライトが消えていては恐怖でしかない。

誰もが認める美少女であるが故に、通常の何倍も恐ろしく感じる。

 

今のダークネスは困惑もしているが、それ以上にブちぎれていた。

 

苦労して斬り飛ばした腕だ。

数千の剣戟を躱し、潰し、ようやくできた隙をついて進んだ一歩だった。

なのにそれがものの数秒で完全回復など、どこのクソゲーなのか。

 

「フ……フフ…」

 

光の消えた瞳で、笑顔のまま固まっている彼女から呟かれる声は、限界突破した怒りや苛立ちで溢れていた。

溢れ過ぎて漏れ出し、破裂した。

限界以上に膨らんだ風船の様に、ドライアイスを入れたペットボトルの様に、金色の髪を持った彼女から純黒なオーラが噴出する。

 

ゆらりと幽鬼の様な動きで、ダークネスは鋭い爪先を女に向けた。

 

「ブチ殺す」

額に青筋を立て、それでも笑う少女は金の瞳を鈍く輝かせた。

 

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