エミヤ(アチャ子)TOLOVEるへ行く   作:メスザウルス

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心慌意乱

 

「え!? ちょっ…なに!?」

「下がれ美柑!」

 

突然の女の行為に美柑は動揺し、危険を感じたリトは美柑に離れろと促す。

 

「どういうつもりですか…」

 

モモが聞いた。これは一体何の真似だと。

事態は収束を迎えた。

ヤミは元に戻ったし、少し傷を負ったものもいるが、それでも誰一人も死ぬことなく戻ってこれた。

にもかかわらず、この女はまだ何かをする気なのだ。

 

「どうもしたもこうしたもないだろう。その少女を殺すのだ」

 

女は淡々と答えながら、ヤミを見る。

その言葉を聞いたヤミは、殺意ある瞳で睨みつけた。己を殺そうとするものは掃いて捨てるほどいた。けれど、この女は危険だ。己を殺そうとする理由が分からない上に、まだ何か隠し持っている。

女はヤミからモモへと視線を移すと、ニヒルな笑みを浮かべ嘲笑するように続けた。

 

「ああ、まさか、場が落ち着いた今、私が何もしないとでも思ったのかね? それはとんだ勘違いだ。私は負けてなどいないし、そもそも私の目的は一つだ」

 

彼女はまだ諦めてはいなかった。

目的はヤミを殺す事。その目的が達せていないなら、勝手に終わらされては困る。女は剣の切っ先を、ヤミへと向けた。

 

「そいつは危険だ。今すぐこの世から消した方がいい」

「なぜヤミさんを……いえ、そもそも、あなたは何なのですか?」

「そ、そうだ! いきなり現れて姉様を守ったと思えばヤミを殺そうとするし……お前は一体、誰なんだ!」

 

モモとナナは、そもそもこの女が何を企んでヤミと戦っていたのか知らない。いや、モモ達だけではなく、他の者たちも分からないでいた。根本にある理由を何も知らない彼女達は、そんな疑問を今更ながらに問いかけた。

 

問われた女は何を思ったのか、女は見下す様に肩を窄める。こちらを馬鹿にする態度に、ナナたちはイラついた。

 

「説明がいるのかね?」

「逆に要らないとでも?」

「ではこうは考えなかったのか? 私が答える必要はないと」

 

とぼけようとする女にザスティンは皮肉で返すが、そんなザスティンの言葉をさらに皮肉で返した。

そんな女の返しに、ザスティンは内心驚いてた。死闘を繰り広げていた時のように無機質な人形の気配はなく、今は人らしい感情と心が伝わったからだ。正直言って、先程の自分の皮肉に何も答えないと思っていた。

しかし、動揺ばかりしていられない。ザスティンは何があっても動けるように気を張り巡らさる。

 

「みて、おねえさん」

 

ザスティンと女がにらみ合っている中、メアが横から赤い女に話しかけた。

 

「ここにはまだ、小学生の子供もいる。その子の目の前で、こんなことしていいと思っているの?」

 

この場にはまだ社会も知らない子供、美柑がいる。

そのような子供の眼の前で、誰かに刃を向けるなど、してはならないことだ。

メアの責める様な言葉を聞き、女はため息を吐いた。

 

「はぁ……確かに、それを言われては耳が痛い。だが『我慢しろ』もしくは『どこかへ行け』としか言えんな」

 

「サイッテイだね」

 

女の言葉に、メアは侮蔑を込めた瞳で睨みつけた。

余りにも雑で心のない回答。

殺しを行う者に道徳を聞かせるつもりは毛頭ないが、それでも親友の同居人に対して、こうもずさんに吐き捨てられるのはいい気分ではなかった。

 

「確かに最低だが、私がやろうとしていること自体がすでに最低なのだ。それは今更というものだろう?」

「へぇ…? 自覚はしてるんだ?」

 

女の少し気まずそうな雰囲気に、どうやら外道であっても下衆ではないのかと少しだけ評価を改める。

 

「まぁ…たいして乗り気ではなかったが、そうも言ってられんからな」

「…どういう意味? それ」

 

この女の言葉からして、メアは姉を殺す理由は誰かから頼まれたのでは無いかと推測した。宇宙一の殺し屋と謳われた姉が買う恨みや憎しみは、銀河中に散りばめられている。幾らでも殺そうとする奴らは居るだろう。もしもこの女が誰かからの依頼を受けてやって来た殺し屋なのだとしたら、私は直ぐにでも依頼主を殺しに行かなければならない。

そんな贅沢も考えを巡らせながら発したメアの疑問に、女は無慈悲にも答えた。

 

「その少女は、世界に危険とみなされたのだよ」

 

世界。

それはララも言っていた、人知を超えた壮大な名前。

女はそんなものから、ヤミを殺せと言われたと語った。

 

「そいつは、世界のバランスを崩す危険性がある。いや、既に壊そうとした。故に守護者たる私が召喚されたのだよ。その少女を消すためにな」

 

無機質に話していく女に、メアはさらに険しい顔になって行く。

 

「…随分とよくしゃべるね。 さっきまでは一言も話さなかったのに」

「あのときは自我がなかったからな。 話さないのは当然だろう」

 

一歩、一歩と、女はヤミへ近寄ろうとした。

殺すために。

しかし、一人の少女が進路を塞いだことによって、その足は止まる。

 

愚かにも女の前へと立った少女────結城リトの妹、結城美柑であった。

 

美柑は女が怖いのか、カタカタと足を震わせている。

当たり前だ。相手は刃物を持っている。しかも話を聞いた限りでは、ザスティンやヤミを殺そうとした女であると言うのだ。恐ろしくて仕方がない。あの二人をここまでボロボロにしたのだ。自分など一瞬で消されるだろう。

しかしそれでも、美柑はヤミを庇って女の前へと立った。その心のままに。

何の力も持たない無力な少女が、圧倒的な存在を前に、勇敢にも立ちふさがったのだ。

 

「お……お願い、ヤミさんを殺さないで…っ!」

「おい美柑ッ! 危ないって!」

「そうです美柑! 下がってください!」

 

美柑は必死に頼み込んだ。殺さないでと。

そんな美柑に女が向ける表情は、氷結。まさに凍えるような熱のない瞳であった。温もりなど微塵もない。死体に温度が無いように、この女からも心というものば感じられなかった。

リトたちは、美柑に下がるように言う。

いま、美柑の命は女に握られているといってもいい状況だ。

女が少し手を振るうで、美柑の命は無残にも消えてしまう。

誰も守ることはできない。

守るには自分は遠く、女が近すぎる。

 

だが、そんな殺生の与奪を女に握らせてでも、美柑はヤミを守りたかった。

 

「ヤミさんが何をしようとしたのか知らない。 でもお願い、私の…私の友達なんです…っ」

「美柑…」

 

友達。

美柑の言うそれは決して軽いものではない。確かな重さと、思いが込められていた。

 

「私が止めます!何があっても…わたしっ…必ずヤミさんを止めて見せますからっ!だって…友達って、そういうものだから!」

 

それがどれだけ大切で、自分にとって欠け替えの無いものなのか。

己の目で、言葉で、行動で示していた。

 

「……」

 

その少女の覚悟に、女は何を思ったのか。

女はヤミの方を見ると、硬く閉ざしていた口を開いた。

 

「一人の少女の命と…」

「ぇ…?」

 

言葉の意味が分からず、疑問の声を漏らす美柑。しかし、その声と代わり心は女の身に纏う不穏な空気から、決していい事は起こらないと理解した。

女はヤミに向けていた視線を美柑へと戻すと、続けて言った。

 

「七十億の人々の命」

 

先ほどの冷たい表情は消え、代わりに無機物のような表情で美柑を見ていた。

その姿はどこか人形のようで、しかし、何かに疲れきった様にも見える。

さび付いて動きを鈍らせた、歯車のように。

 

「天秤にかけるのもおこがましい。そうだろう?」

 

女の言葉は、この場にいる全員に重くのしかかった。

それは確かに正しかったからだ。

何も間違った事は言っていない。理不尽な事など言っていない。ただ当たり前の事を、全員に向けて言っただけ。

故に、この場にいる誰も、女に対し反論が出来なかった。

 

残酷な数字の計算。

簡単な取捨選択。

多くの子供にどちらが正しいかと問えば、全員が後者と答えるような、簡単な問題。

すべての私欲を捨てたものだけが、本当の意味で答えることのできる、難しい問題。

 

目の前の女は、己の私欲を、すべて捨てたのだ。

ただの機械と化した女の、長い時間の中で見つけた、哀れで残酷な答えなのだ。

 

「一人だけ特別というのは、無理なのだよ」

 

ああ……と、美柑はその表情に既視感を覚えた。

それは、まだヤミがリトを本気で殺そうとしていた時。

彼女も確か、こんな顔をしていたのだ。

何かをあきらめてしまった、絶望に身を染めていた時の表情に。

 

「君のような少女はごまんといたよ。いや、少女だけじゃない。キミより幼い子供もいたし、足腰を悪くした老人もいた。誰もかれも、己の命に代えて守ろうと必死だった。ああ、確かその者たちも言っていたな。あれは確か、友達、兄弟、もしくは孫だったかな?」

 

女の鋭い視線が、少女の胸を打ち抜く。

美柑は思わず、逃げるように足を下げた。

 

「そんなものたちを、私はどうしたと思う?」

 

だが、それに比例するように女は一歩、歩を進める。

その姿は、まるで少女を問い詰めているかのようだった。

「私のどこが間違っているのだ」と。

赤い女は、勇敢にも立ち向かった少女をいじめていた。少女の心優しい思いを、何かを守りたいという輝かしい願いを、残酷な正論を持って無理やり捻じ伏せていた。

 

「皆殺しだ。文字通り、一人残らず殺しつくしたよ」

 

美柑は、女の背後に幾千と積み上げられた死体の山を幻視する。

 

「お前も同じようになりたいか?」

 

その死体は、皆一同に美柑を見ていた。

血の海の中、こちらに来いと言わんばかりの呪いが込められた赤黒い視線は、少女にとって、まさに地獄を表していた。

 

顔を青ざめ、何も言わなくなった美柑。女は興味を無くしたかのように視線を外すと、ヤミを殺すために美柑の横を通り過ぎた。

少女の中で蠢く不安と焦りは、段々と美柑の心を食い散らかす。このままではヤミは殺されてしまう。けれど、どうしたらいいのか分からない。あの女の人に届かなかった。この気持ちも、思いも届かなかった。

力が無い自分には、最早どうする事も出来ない。

少女は祈る。「誰か助けて」と。

悲痛な想いと共に捧げられた祈りは、神には届かない。

けれど、神に届かなくとも、確かにこの男には届いていた。

 

誰も動けなかった中で、一人の少年が行く手を阻んだ。

 

「どけ、小僧」

「っっ…ど、どかない」

 

英雄の足を止めたのは、美柑の兄。結城リト。

彼は蛮勇とも取れる愚かな行為であると認識しつつも、それでも両手を広げ、女の進路を塞いだ。

 

少年は諦めない。諦めてはならないと心が叫んでいた。

ヤミには死んで欲しくない。もしも死んでしまったら、俺も美柑も、みんなが涙に濡れるから。

そんな未来はごめんだった。

 

「難しいことは…よくわかんねぇけど…でもっ!」

 

相手が正しいのは分かっている。

これが間違った選択なのは分かっている。

しかし、認めてはならない。

今認めてしまえば、きっと取り返しのつかないことになるから。

 

「ヤミは!殺させないッ!!」

 

それがどれだけの人を危険に晒すのか分からないけど、それでも────

 

「お、おお、オレは!! お前は、間違ってると思う!!」

 

それでも、愚かな少年は言い切った。

愚かなのは、お前だと。

 

「……言ったはずだ」

 

だが、女にとってはどうでもいい。

どれほど勇気を見せたところで、どれだけ美しい感情を見せたところで、女の感情は動かない。そんな心は、とっくにどこかへと忘れ去ってしまった。擦り切れてしまっていた。

 

「邪魔をするなら殺すと」

 

ゆえに思いは届かない。届いているが認識しない。時には人道や人の願いに反してでも、やらなければならない事が有るのを女は知っているから。

今もなお、妹の為に立つ男に向けて、女は剣を横にふるった。

 

「リト!!」

「リトさん!!」

 

モモ達の悲痛な叫び。しかし、そんなものは意味もなさず、剣は容赦なく男の体を切り裂くだろう。

 

「あでぇ!?」

「なっ!?」

 

だが、突如として飛んできた木の棒に後頭部を打ったリトは、前かがみになりながら紙一重で剣を躱すと、女を押し倒す形で地面に転んだ。

 

「ん、っ…!?」

 

その光景は、もはや見慣れたものである。

リトの手が女の服の下へと入り込み、胸を持ち上げるように鷲掴み、さらに膝は女の股へと食い込んでいた。

 

まさか、そんなことをされるとは微塵も思っていなかった女は、多少の油断もあったのか、びくりと体を震わせた。

 

「い、いきなりかよこのケダモノ!! お前は女だと誰でもいいのか!?」

 

そんないつも通りなリトのこけ方に、ナナは顔を赤くさせながら怒鳴る。

リトもすぐに離れようとするが、女のボディーアーマーに手が挟まりうまく抜けない。

その抜け出そうとする行動が、さらに女の胸をまさぐる形となり、女はくぐもった声を漏らす。

 

「く…っ!!」

 

だが、女もやられてばかりではない。

顔は赤いものの、多少の冷静さを取り戻した女は、己のボディーアーマーを魔力に還元させ、リトの手を己の服から引き抜いた。

 

「邪魔だっ!」

「うおっ!?」

 

リトの体を突き飛ばし、皆が油断した隙をつき、剣を投影しながらヤミへと走った。

いきなりのことで驚くヤミであったが、すぐに思考を切り替え、迎撃をしようと髪をトランスする。

 

「くっ…!」

 

しかし、ダークネスによるエネルギーの消耗によるものなのか、思うように体が動かず、カクンと膝を崩してしまった。

 

「ヤミ!!」

「ヤミさん!!」

「お姉ちゃん!!」

 

ナナやモモ、メアがすぐにヤミを庇おうとするが、すでに女はヤミの二、三歩手前まで来ている。

どう考えても間に合わない距離だった。

 

「やめろぉッ!!」

「——ッ!?」

 

だが、そんな声に呼応するように、ビシリと女の動きが止まった。

 

「ば、かな…」

 

女自身も何が起きたのかわかっていないのか、固まった体を動かそうと、ぐぐぐ…と震えている。それでも己の体は、機能が停止したロボットのように動かす事が出来ない。

 

「いつっ…!」

 

女の斜め後ろで、そんな声が聞こえた。

 

「なんだ…? これ…?」

 

女は信じられないようなものを見た表情で、声のした主────結城リトを横目で見た。

 

「なぜ、貴様が…っ、それを…!」

 

小僧の手の甲にあるもの

それはとある七人の英雄の殺し合い。

その頂点に立った者だけが、奇跡を起こせる、聖杯戦争。

 

その聖杯のシステムに組み込まれている令呪は、己のサーヴァントの契約の証であり、鎖のようなもの。

それは、三度、サーヴァントへ絶対命令を出せるのだ。

 

それが今、聖杯がないにも関わらず少年の手にある。

女の中で多くの疑問が生まれた。

 

なぜだ…? なぜ聖杯もないのにもかかわらずここに令呪がある?

それに、私はあの少年と契約を交わしたわけではないし、あの少年が私を呼び出したわけじゃない。

私をここに現界させたのはこの世界の抑止だ。

魔術回路も持たないあの小僧に令呪が宿るはずが────!

 

まて、まさか…

 

(抑止があの小僧に、令呪を宿らせた…?)

 

そんな可能性が頭によぎる。

だが、抑止が一人の人間に、そんなことをするはずがない。

 

本来抑止とは、すべてのものに平等で、すべての命を等しく扱う。

ゆえに、抑止が、たかが一人の人間を生かそうとするはずがない。

それでは不平等だからだ。

一人を救うならば、それならすべての人間の命を救わなければならない。

だから、小僧一人を特別に扱うなど、到底あり得ない話だった。

 

(しかし、この世界の抑止は私の知るものではない…!)

 

あり得ない可能性。

しかし、それを否定する材料はない。

ならば試してみるかと、女は少年を見据えた。

 

「え?え?リトせんぱい、何かしたの?」

「い、いや…オレは何も」

 

突然動きを止めた私に、周りは動揺している。

赤い女はその瞬間をつき、リトの背後にただの剣を投影した。

そこに込められた神秘や魔力はほとんどないに等しいが、それでも少年一人を殺すのには十分である。

 

「リトせんぱい!」

 

それを、もっとも近くにいたメアが対処した。

腕を変化させ、女が投影した剣をはじく。

だが、それが女の狙いだった。

ガラ空きとなったリトの正面に、女が突っ込む。

 

「「「「——ッ!?」」」」

 

モモ、ナナ、ヤミ、ザスティンたちがリトを守ろうとするが、女はその者たちの前に幅のある剣を投影し、壁のように突き立てた。

 

これもただの剣だ。

アレを破壊するのに一秒とかからないだろう。

だが、それだけの時間があれば、女がリトの前まで行き、殺すことなどたやすい。

 

女は握られた剣を振りかぶった。

 

「くっ…!」

 

メアが髪を刃に変化させ、女の足を狙う。

しかし、そんな体制の悪い状態からの攻撃を躱すことは容易い。

女はメアの刃を軽く掠らせながら紙一重で避け、最短距離でリトの首へと剣を振るった。

このままでは、結城リトの頭と胴体は泣き別れすることになるだろう。

 

「わっ!?」

「——!?」

 

だが、リトはそれを驚きながら回避した。

本来、サーヴァントの攻撃をかわすなど一般人には不可能だ。

あまりにも早く重い攻撃に、反応することすらできず一瞬のうちに命を散らす。それが道理であり、帰結する結末だ。

だが、今回も少年は類稀なる幸運でその一撃を回避した。

女が剣をふるった際、彼女の足元の地面がなんの前触れもなくすこしだけ崩れたのだ。体幹が崩れた剣筋は軌道を変え、少年は髪の毛を数本切られただけで済んだ。

 

少年はたまたまとはいえ、サーヴァントという規格外の存在の攻撃を二度も回避した。しかし回避の仕方が悪かったのか、足を地面に滑らせ、反射的に何かを掴みながら地面に転んだ。

 

この場にいる全員は呆然としていた。

さっきまで脅威と思っていた女が、下半身を完全に露出させている状態で尻もちを着いているからだ。

 

そしてあろうことか、リトの顔はその女の、何も守られていない股間へと突っ込んでいる。

リトが反射的につかんだズボンと共に、中にはいていたパンツも巻き込まれる形でずり落ちてしまったのだ。

 

「むぐぐ…」

「ひっ…!?」

 

びくんっ、局部に息を当てられた女は軽い悲鳴を漏らした。

その表情は恥ずかしいのか、または別のものか。女は雪のように白い肌を赤く染め、悔しそうに歯を食いしばっていた。

 

「わ、わぁああ!?  ご、ごめん!」

 

今の自分の状態を理解し、謝りながら後ずさるリト。

 

「………………はぁ…」

 

女はリトをしばらく睨みつけた後、溜め息を吐いた。まさかこんな形で己の剣先を躱されるとは思わなかった。少し試すつもりだったが、とんだしっぺ返しにあったものだと、諦観の思いをしながら手に持っていた剣を消し、いそいそとずり落ちたものを履いてゆく。

その光景はとてもシュールと言う他ない。

 

(そうか…あの時の刃が…)

 

女は己の切られたベルトを見る

本来、女が履いていたズボンはベルトで止められており、下に思いっきりずらそうとしても下がらないはずだった。しかし先ほどのメアの刃を躱した際、ベルトを掠らせていたのだ。

だから、リトは簡単に女のズボンを下げることができた。

 

先ほどあったシリアスが、急に微妙な空気へと変わり、どうしたらいいのかわからない一同。

もう、目の前には剣の壁も何もないはずなのに、誰もそこから動けなくなっていた。




心慌意乱
意味:その場の混乱を表すこと。
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