エミヤ(アチャ子)TOLOVEるへ行く   作:メスザウルス

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説明回になります。



先ず隗より始めよ

「おい…どうすんだよこれ」

「知らないわよ…でもさすがはリトさん。名前も知らない女の人でも健全ね」

 

混沌とする空気。

生暖かく、何かと落ち着かない雰囲気に、ナナはたまらずモモに聞くが、そんなモモはリトのいつも通りのズッコケに感動を覚えている様子。

 

女は、はぁ…とため息をこぼすと、

 

「降参だ」

 

ゆっくり両手を上げた。

 

「…どういうつもりですか?」

 

先ほどとは打って変わっての行動に、一同は疑念の表情を浮かべる。

数秒前まではヤミとリトを殺そうとしていたのだ。その女の言動が信じられないのは当たり前だろう。

 

この女が弱ければ、まだ話は変わったかもしれない。

 

弱いものが白旗を上げたとしても、命乞いか、諦めたかで納得ができる。

しかし、それが他を圧倒するほどの強者ならば、こうもあっさりと降伏されると何か企んでいるのではないかと疑ってしまうのも、仕方がない話だった。

 

「なに、分が悪いと判断したまでだ。その少女を殺そうにも、マスターに令呪で禁じられ、マスターを殺そうにも、本人は抑止に守られていると来た。まったく…私を召喚したのは抑止だというのに」

 

まるでブラック企業の無能な上司に振り回される部下のような、疲れた瞳をする女。

そんな女の行動にザスティンは問いかける。

 

「降参、ということは、もうあなたには我々と交戦する意思はない。そう受け取っていいと?」

 

「……ああ。 煮るなり焼くなり、好きにしろ」

 

女はその問いに肯定の返事を返す。

 

「なら、私の質問に答えてください」

 

モモは、いまだに油断ならないと思っているのか、リトを庇うように立ち、女に質問をする。

 

「あなたが先ほどから言っている抑止、令呪、そして世界。これは一体何ですか?」

 

そう、先ほどからずっと女が口にしている意味の分からない名称。

モモは、これらに女の秘密があると考えた。

 

女は、腕を上げたまま、質問に答える。

 

「そうだな、まずはそこからか……先も言ったが、抑止とは無意識の集合体によって作られた、世界の安全装置だ。 本来、抑止は二つ存在し、人類の持つ破滅回避の祈りであるアラヤと、星が思う生命延長の祈りであるガイアが存在する」

 

抑止力自体はカタチのない力の渦だが、具現化する際はカタチを伴う。無意識がカタチになったものである為、発生しても誰の目にもとまらず、誰にも意識される事はない。大抵は「一般人」を後押しするカタチで抑止力は発現する。対象である要因を消し去るだけの力を得るが、取って代わる事のないように倒すため以外の力は持たされず、また当人には自分が抑止力によって後押しされているという自覚はない。そういった、結果的に滅びの要因を排除した人間が人々の目にとまると、「英雄」と呼ばれるわけである。他に人間の後押しでは手におえない場合は自然現象として発動し、滅びの要因を周囲ごと消し去る。

 

「…それが抑止だと?」

 

ふたを開けてみれば、あまりにも強大すぎるものが出てきた。

世界、というあまりにも巨大なそれを守る存在だと聞き、想像もつかない物だろうと予想はしていたが、まさかこれほどとは思いもしなかった。

 

ヤミは、そんな存在に目をつけられていることに驚愕し、それを聞いていた者達は「よく生きてたな…」と心から思った。

 

「そうだ。 だが、この世界にはアラヤもガイアも存在しない」

 

だが女は、先ほど話した存在はいないと断言した。

…どういう事なのか。自分たちは居もしない存在に命を狙われているという事なのかと、疑問を持って首を傾げるリト達を見て、女はその疑問に答えるように、言葉をつづけた。

 

「この世界には違う抑止がいる。人類の未来、運命すべてを守り、開拓する存在ミサキと、この世界すべての構成、変化、産出する存在、ヤブキだ」

 

ついにヤミを狙っていた存在の名が判明した。

一同は、ごくりと唾を飲み込み、女は「続けるぞ?」と声をかける。

意外にも自分達を気遣う優しさを感じた一同は複雑な気持ちで女を見るが、彼女はそんな視線に気付かず話し続けた。

 

「まぁ、この二人はアラヤとガイアに似たようなものであるが、本質は少し違うらしい」

「らしい、というのは?」

「私自身あまり把握していなくてね。そもそも、私が契約をしたのはアラヤだ。決してヤブキでもミサキでもない」

 

女は昔を思い浮かべるように話し、もう何度目か分からない溜め息をつく。

 

「待ってください。 ならなぜ、あなたがここに召喚されたのですか?」

 

女はアラヤと契約したと言った。

ならば、アラヤがいないこの世界で、彼女が召喚されるのはおかしい。

存在しないものに召喚されるなどという矛盾は、余りにも道理から外れている。しかし、女はそんな質問が来ることが分かっていたかのように、さらさらと答え始めた。

 

「そうだな。確かにアラヤがいないこの世界に、私が召喚されるのはおかしい」

「では───」

「だが、それが可能なのだよ。 無茶苦茶だが、不可能じゃない」

 

女はそれが起こりうる事象だと、そういった。

 

「そもそも、私は英霊として、アラヤの中の自動的な装置に組み込まれている存在だ。 英霊には英霊の座という場所があり、そこに私のオリジナル、つまりは本体がいる。アラヤはそこから私達のコピーを送り出し、人類史を守らせている」

 

私自身、正規の英霊ではないのだがね、と付け加えながら

 

「おそらく、この世界の抑止は、私をコピーし、ここに送り込んだのだろう」

「…そんなことが可能なのですか?」

「可能だ、誰もやらないがな」

 

なぜ?とナナは首をかしげる。

多くの世界から英雄をコピーしまくれば、それだけで多くの利があるのではないか。

だが、そんな考えも女は否定した。

 

「割に合わないのだよ。 自らの世界の英雄だけで、すべてが事足りる。ゆえに、何かを支払ってまで他世界の英雄をコピーするなど、無駄としか言いようがない」

 

等価交換。

それは何かを得るのに、何かを支払わなければならないという、錬金術の世界で有名な絶対の掟。

この世界は、エミヤをコピーさせてもらう代わりに、ほかの何かを差し出したのだ。何でもかんでも無償でもらうなど、虫の良い話はない。

 

「まぁ、何を支払ったのかは知らんがな。 そこは私にとってはどうでもいい。 おそらくこの世界の抑止はそれが人類を守るために必要と判断したのだろう。ならば私は、言われた通りに仕事をするまで」

「まだヤミさんを殺そうと?」

 

女の言葉に、一同は警戒する。

だが、女は首を左右に振った。

 

「言っただろう、降参だと。 今はもう、彼女に危害を加える気はない」

「今は、ですか」

「ああ。今は、だ」

 

ヤミが女を睨み、女は流す様な態度をとる。

一気に空気が冷たくなるが、モモは女への質問を続けた。

 

「それで、令呪とは?」

 

何が女の気を変えるのか分からない以上、答えてくれる今のうちに、疑問は解消しておくべきなのだ。

 

女は、それが一番億劫だというように、ここ一番の大きなため息を吐いた。

 

「それだ」

 

女は指をさした。

その先にいるのは、結城リトであった。

 

「え、え?」

 

いきなり自分が指され、戸惑うリト。

女はそんなリトの反応にやはりか、と零した。

 

「気付いていなかったのだろうがな。 小僧…結城リトといったな。お前が今、私のマスターとなっている」

「ええ!?」

「貴様の手にあるその赤い刺青のようなものはな、私との契約の証だ」

 

聖杯からマスターに与えられる、自らのサーヴァントに対する3つの絶対命令権。

英霊の座から英霊を招くにあたり、聖杯を求め現界するサーヴァントが、交換条件として背負わされるもの。

その一画一画が膨大な魔力を秘めた魔術の結晶であり、マスターの魔術回路と接続されることで命令権として機能する。

令呪は「サーヴァントに対する絶対命令権」ではあるが、逆に言えばサーヴァントには「令呪以外の命令に従う義務」というものはない。

ただし、サーヴァント自身にも聖杯を求める理由があり、マスターには令呪以外にも魔力供給や現代に現界するための寄り代といった役割があるため、共闘は聖杯戦争に参加するための必須条件となる。

単なる「命令の強制」だけではなく、令呪に宿る魔力はサーヴァントの行動を強化したり、純粋魔力に変換してガソリンとすることも出来る。令呪+マスター+サーヴァントの三つの魔力で届く範囲ならば、通常は行使不可能な奇跡を実現できるという、なかなかに応用も効くものなのだ。

 

「まぁ、今回令呪を与えたのは聖杯ではなく、この世界の抑止だがな」

 

女はそこまで言うと、また溜め息を吐いた。

 

「でも、それはあなたがリトせんぱいを殺さない理由にはならないんじゃない?ううん、むしろ殺した方があなたにとって有利になる。それに、降参なんかせずに、私たちに何の情報も与えないままの方が、より確実にヤミお姉ちゃんを殺すことができたんじゃないの?」

 

実際問題、女が令呪の仕組みや抑止について、リトたちに説明する必要はなかった。むしろそれを説明することによって、女は自身の首を絞めることになる。

 

「問題はそれだ」

 

だが、女はそれが問題だといった。

メアは意味が分からずに、首をかしげる。

 

「そもそも、私はお前たちを…いや、この街ごとすべてを消し去ることができた。 先に説明したが、抑止とはそういうものであり、そう働くようになっている」

 

女は言った。

私はまだ、本気を出していなかったのだと。

それを聞いた美柑とヤミ以外の者たちは、戦慄した。

あれほどの力を出しておいて、まだ本気を出していない?

 

ならば、この女はどれほどの力をまだ隠しているというのか?

 

それを考えた者達はゾワリと体を震わせる。

そもそも勝てないと思っていた相手の、さらなる実力。

それは一体どんな理不尽なもので、不条理なもので反則的なものなのか、想像もつかない。

 

 

女は、だが、と言葉をつづけた

 

「この世界の抑止はそれをしなかった。いや、そもそも、誰も殺さないように私を操っていた。この世界に危険と判断された、その少女であっても、決して殺そうとはしていなかった」

 

「…だから、この世界の抑止はおかしいと?」

 

「そうだ。 自らの危険を見逃し、手を加えるなど、とても抑止がする事とは思えない。この世界の抑止の意がまるで読めん。極め付きはその小僧の令呪だ。この世界の抑止は、その小僧に私を預けた。それがこの星の、人類のためになると、そう判断したのだろう」

 

ゆえに、私はその男を殺すことができん。と女は頭が痛そうに、手を額に当てた。女はその気になれば令呪という強大な縛りも、すべてを断ち切ることもできる。

だが、それは抑止の意に背くことになる。

故に女は降参した。降参するしかなくなった。

 

女が結城リトとヤミを殺すことは、抑止の意図に反するからだ。

 

女は「まぁ、そのことに気づいたのはつい先程だったがな」と付け足すように言った。

 

「だが、覚えておけ」

 

女は、殺気をあたりにまき散らし、周囲に圧をかける。

 

「もし、また世界を危険にさらすようならば、その時は必ず殺す」

 

蛇に睨まれた蛙のように、からだを動かせない。

直接殺意を向けられていない美柑も、冷や汗を流している。

 

周りは、この女の威圧一つで、完全に場を支配されていた。

 

そんな状況の中、モモは思った。

 

(なんということ…こんな見ず知らずの、馬鹿げた力を持つ女がリトさんの従者になるだなんて…)

 

モモはプルプルと震え、胸の前に握り拳を作る。

 

(まだ油断はできないけど…新たなハーレム要員ゲットね!!)

 

皆が女に恐怖心を覚える中、

モモは、歓喜に体を震わせていた。

 




先ず隗より始めよ(まずかいよりはじめよ)

意味:遠大な事業や計画を始めるときには、まずは手近なところから着手するのがいいというたとえ。また、物事は言い出した者から始めよというたとえ。


作者って、その漫画にとっては神様だと思うの。

読んでくださってありがとうございましたー

次回から日常とかに入ろうと思っておりますー。
何かあれば活動報告とかに送ってください。
感想欄でも可です。
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