エミヤ(アチャ子)TOLOVEるへ行く   作:メスザウルス

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臍を噛む

(The Lord) have placed the sand for the bound of the sea by a perpetual decree, that it cannot pass it.

(神は)砂浜を海の境とした。これは永遠の定め、それを超えることはできない。

 

O Lord, correct me, but with judgment.

主よ、私を懲らしめてください。しかし正しい裁きによって

 

The heart is deceitful above all things, and desperately wicked.

人の心は何にもましてとらえ難く病んでいる

 

出典 エレミヤの書

 

 

 

 

 

 

……どうしたらいいのだろうか

今、エミヤは色んな意味で窮地に立たされていた。

 

 

現在、私は結城家のリビングへと招かれている。

 

あの後、小柄な少女────ララと合流し、リトたちは各々の家へと帰宅した。

その際、エミヤは外で霊体化になり、監視の意味も含めて外で待機しようとしたのだ。

 

だが、ここで能天気なララはエミヤに「あれ? あなたはどうするの?」と聞かれ、「私は外にいる」という種の発言をしたところ、結城リトに外に人を置くのは気が引けると、昔の未熟だった頃の自分が言いそうな事を言われたのだ。

 

もちろん断った。「先ほど殺そうとした相手を家に上げるなど正気か?」と。

こちらとしても殺気を飛ばしていただけに気まずいし、そんな者と同じ空間に居てもいい事など欠けらも無い。

 

しかし、ピンク髪の少女がニヤニヤしながら小僧に何か言うと、小僧は私に「家に入ってくれないか?こ、これは命令だ」と、少しのどを詰まらせながら言ってきた。何を小僧に吹き込んだのか知らないが、強気に見せようとする行動の意味はよく分からなかった。

それでも否と返事を返そうとした私だったが、立て続けに少女が「逆らうようなら令呪を使いますよ~?」と脅してきたのだ。今思えば私との主従を意識させようとしていたのかもしれない。

 

あの女、案外腹黒い。

 

私は令呪のことを教えたのは間違えたかと思いながらも、しぶしぶと家に上がった。こんな馬鹿げたことで令呪など使われたくない。あれは私達英霊を縛る為にあるものだが、使い用によっては身体能力をブーストすることも出来る。言わば魔力の塊だ。

いずれ必要となるかも知れん貴重な物を無意味な意地や私欲で消費したくなかった。

 

そして現在。私はリビングの部屋の端に陣取りながら無言で腕を組み、目を瞑って佇んでいる。正直言ってどうしたらいいのか分からない。

結城リトや他の者たちはチラチラとこちらを見ていて落ち着かないし、気を逸らそうにもやることも無い。居心地が悪い。こうなったら霊体化でもして無理やり外に出ようかと考えていれば、結城リトが声をかけてきた。

 

「あー…えっと…そういえば名前はなんていうんだ?」

 

「…そういえば言っていなかったな。私は……」

 

……私は、自分の名を何といえばいいのだろう?

エミヤか?アーチャーか?無銘か?

 

単純にエミヤでいいかもしれないが、問題は下の名だ。

今の私の容姿は業腹な事に女とされている。ならば男の名を口にする訳には行くまい。わざわざ必要の無い事を伝え混乱されては面倒だし、何より私が知られたくない。余りにもビフォーとアフターが酷すぎる。

 

私がこの世界に現界した時、体がいきなり女にされている事に気が付いた時は、力を無駄に使う抑止に怒りを覚えたものだ。

しかし、霊核を書き換えるほどまでに徹底的に女であれと作り替えられていながら、何故か変質した霊核に精神が伴わず、心が男のまま現界されてしまった。これも抑止の意志によるものだとするならば、なんの意図があったのか理解し難い。

 

現界して初めて思った事は、背も腕の長さも違う上に、髪が邪魔で全く戦闘に集中できないという事だった。身体が作り替えられても考える事は戦闘効率とは、やはり自分は何処か異常なのだろう。

しかし、例え私が異常であろうと、結局抑止に操られているのだから戦闘に全く問題はない。しかし気分は最悪だ。

 

今もこうして佇んでいるが、全くもって慣れない。そもそも女の体と男の体はつくりが違うのだ。

男は体格的に前進することを得意としており、女は左右への動きに長けている。いつものように歩こうと思えば違和感が出るし、腕を組めば膨らんでしまった胸が邪魔で、いつもより下の方でしか組めない。無理やり胸で腕を組むと少し息苦しい。

 

「…失礼した。私の名はエミヤシロ。 エミヤとでも呼べばいい」

 

私は適当に己の名前を捩り、それとなく女性に付けられる名で違和感が無いように名乗った。

 

「え…日本人?」

 

…いきなり失礼だなこいつは。

名前から純粋たる日本人である事はすぐに分かるだろう。

それとも、私はそう見られないまでに容姿を作り替えられてしまったのか。

そんな今の自分に軽く落ち込んでいると、ソファーに座って様子をうかがっていた美柑が「あ、」と思い出したかのように立ち上がった。

 

エプロンを身につけパタパタとキッチンへ行く姿から見るに、おそらく何か作るのだろう。

時刻がすでに六時を回っているから、夕飯か。

聞けばあの子はまだ小学生、あの年からこんな大所帯の夕飯を作るのか、えらいな。

 

そんな風に思いながら美柑を見ていると、リビングの扉が少し開き、そこから一人の幼女が入ってきた。

 

「まうー」

 

幼女はそんな奇妙な声を発し、更には頭に大きな花を咲かせていた。

 

「セリーヌ、一人で帰ってきたのか!?」

 

ナナはセリーヌの側まで行き、驚愕の声色でセリーヌに聞いた。

セリーヌは普段みんなが学校で家を留守にする時、保健室の先生に預かって面倒を見てもらっている。いくら距離は遠くは無く、何度も行き来しているとは言え、一人で出歩くなど到底許容できるものでは無い。

ナナはその事についてセリーヌに注意しようとするが、

 

「あ、セリーヌはブワッツに玄関先まで送ってくれるように言ってたから大丈夫だよ」

 

どうやらセリーヌは一人で帰ってきた訳では無いらしい。話を聞いたナナは安心し、セリーヌの頭を撫でた。

 

「まうー♪」

 

セリーヌは少し擽ったそうに、それでも嬉しそうに頭を押し付ける。

そんな微笑ましい光景を見るエミヤ。

表情は固いが、それでも視線だけは温かかった。

 

エミヤの視線に気づいたセリーヌは「まう?」と首を傾げながらエミヤへと視線を向ける。1度も見たことの無い客人だ。珍しく思ったのだろう。

身長の差からセリーヌは大きく首を上げる姿勢になるが、それでもじっとエミヤを見続けた。

いきなり見つめられて少したじろぐエミヤ。

何を思ったのか、セリーヌはエミヤにパタパタと近づき、エミヤの足に「まうっ」と抱きついた。

 

「む…」

 

突如、理由もなく己に懐いた様子を見せるセリーヌに、エミヤは怪訝な表情を浮かべる。

 

「その子はセリーヌって言うの!」

 

頼んでもいないにも関わらず、ララがセリーヌについて話し始めた。

元はプランタス星だけに自生する超稀少種の奇怪な宇宙植物であり、リトの誕生日にララが贈ったものだった。本来は恐ろしい外見をした巨大な花で、大きさは二階建てのリトの自宅を超えていたらしい。

 

その花をセリーヌと結城美柑が名付けた。外見とは裏腹におとなしい性格で、よく世話をしてくれるリトや美柑のことを慕っていたという。

後に体調不良で枯れてしまったかと思いきや、幼女化した。成長したはずなのに幼女となった原因は不明。

 

そんな説明を受け、エミヤは改めてセリーヌを見た。

 

セリーヌは「まうまう…」とエミヤの赤い外装、聖骸布をほおばっており、やはり不味かったのか「うえ~」とすぐに口から離した。

頬張った聖骸布は唾液に濡れ、そんなセリーヌの行動にナナとモモは凍り付いた。機嫌を損なえばセリーヌが真っ二つにされるのではないかと思ったからだ。

 

エミヤはそんな好奇心溢れる子供のような行動をするセリーヌに溜め息を吐く。彼女はおもむろにハンカチを投影すると、セリーヌと同じ視線まで腰を落とし、口の周りを唾液の付いた口の周りを拭き始めた。

 

「ほら、あまりこんなものを食べようとしたら体を壊すぞ。見ればもう少しで夕飯が出来上がるそうだ。それまで待っていてくれ」

 

幼い子供をあやす母親のような言動に、緊張していたモモとナナは体を緩めた。エミヤの表情は確かに困った表情を浮かべているが、その奥から慈愛に満ちた母性が伺えた。

 

「まうー、まうー!」

「おっと」

 

セリーヌはエミヤの胸に飛び込み、エミヤはそれを包み込むように受け止める。しかし、着ているボディーアーマーのせいで、セリーヌはおでこをゴツンと打ってしまい、痛そうにコシコシとおでこを擦っていた。

 

それを見たエミヤは「む…」と不満げに声を漏らすと、中のボディーアーマーを魔力に変換させ、黒のタートルネックに赤の聖骸布のみの姿になった。

 

一転して鎧の硬さがなくなり、柔らかくなったエミヤの胸元にポフッと顔を押し付けるセリーヌ。エミヤの肉感的で柔らかな肉体に顔をうずめているセリーヌは、気持ちよさそうに声を漏らした。

 

そんな甘えん坊なセリーヌにエミヤは優しく微笑むと、セリーヌの髪を優しくなでる。そこで彼女は急に周りの視線が生暖かくなっている事に気が付いた。

 

ナナとリトは意外そうな表情で、ララとモモはニコニコと笑い、美柑でさえも料理を作りながら時折こちらをチラチラと見ている。

エミヤはそんな今の自分が置かれている状況を理解すると、カァアと顔を赤らめた。

 

「セリーヌと言ったかな? 申し訳ないのだが、少し降りてもらっても────」

「まうー…?」

 

急いでそんな状況を脱しようとセリーヌを下ろそうとするエミヤであったが、セリーヌの悲しそうな瞳に「うっ…」と少したじろいでしまう。エミヤは少し無言になると、諦めたかのようになんでもないと答えた。

 

その後、エミヤは夕飯ができるまでの三十分間、セリーヌの抱き枕となるのだった。

 




臍を噛む(ほぞをかむ)

意味:ひどく後悔すること。どうにもならないことを悔やむことのたとえ。
「臍(ほぞ)」とは、へそのこと。
自分のへそを噛もうとしても口に届かないが、それでも噛もうとするほど残念でいらいらすることから。

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