事の始まりとなったのは1か月前。
叔父様に呼ばれた私たちは、昼食を終えた後に指令室に集まっていた。
「よし、みんな集まったな」
「司令、今日はどうしたのですか?」
「その事なんだが……緒川」
「はい」
叔父様に呼ばれ、隣にいた男性――緒川慎次が一歩前に出る。彼は私たちの視線が集まったのを確認すると、右手に持っていた資料の束を私たちに渡す。
それを受け取って中身に目を通していく。その内容を把握していくうちに、私の感情は驚きで満たされていった。
「これは……」
「おいおい、マジかよ……!」
「うーん、良いリアクション! その顔が見たかったのよねー」
驚きのあまり言葉が出ない私と、声が少し震えている奏。その様子を見て、了子さんは満足そうに笑っていた。
「そこに書いてある通りだ。1か月後に行われるツヴァイウィングの大型ライブ。そこで完全聖遺物【ネフシュタンの鎧】の起動実験を同時に行う事となった」
ツヴァイウィング。それは私と奏、二人で活動しているボーカルユニットで、特異災害対策機動部二課に所属している私たちの【表の顔】とでも言えるものだ。
結成のきっかけは1年前。ノイズとの戦闘を終えた後、奏が自衛隊の人に感謝を述べられたらしい。その時に、歌を聴いてもらう事で誰かを勇気付けられる事を知ったらしく、奏が私たちに発案したのだ。
最初こそ難しいんじゃないかと思っていたが、叔父様や緒川さん、了子さん等のサポートのおかげで今もこうして活動を続けている。緒川さん曰く結構人気が出ているとのことらしい。
「ライブと同時に、ですか」
「あぁ。ネフシュタンの鎧を起動させるには、生半可な量のフォニックゲインでは足りない」
「そこで今度行われるライブ。そこで二人の歌に特殊な機器を介することでフォニックゲインを増大させ、それを用いて起動させよう。と、いうわけなの」
「なるほど、確かにライブの時の方がテンション上がるからな」
叔父様が説明し、了子さんが補足する。それを聞いた奏は納得していたし、私もその意見には同意だった。
「では叔父様、ライブの間私たちは何をすれば?」
「今まで通り、全力でライブを楽しんでくれ。それだけで必要なフォニックゲインを確保できるはずだ」
「はい、わかりました」
「おぅ、まかせときな!」
結局のところ、私たちはライブをこなせばいいらしい。その後、起動実験に関する話し合いをし、私たちは訓練へと戻った。
そしてライブが行われるまでの1か月間。その日まで私たちは時に訓練、時に歌の練習、時にノイズとの戦闘をこなしていった。
――1か月後。私たちはライブ会場の控室で待機していた。
「翼さん、奏さん。ライブ開始まであと20分ほどです。もう少ししたら準備に入りましょう」
「はいよー。……にしても、あれだな。やっぱ開演するまでのこの時間が苦手だ」
開演時刻が近づき、私が緊張している横で奏はいつもの様子で背もたれにのしかかる。
「こちとらさっさと大暴れしたいって言うのに、そいつもままならねぇ」
「そうだね」
「ん?……もしかして翼、緊張とかしちゃったり?」
「……当たり前でしょ」
確かにこの時の私はかなり緊張していた。了子さんも今日は大事な日だと言っていたのだ。緊張しないわけがなかった。
その様子に気づいたのか、奏が更に声をかけようとしたところでドアが開く。そこには叔父様がおり、私たちの様子を見に来たようだった。
「奏、翼。ここにいたのか」
「司令!」
「旦那じゃないか! 様子でも見に来てくれたのか?」
「まあな。分かっていると思うが、今日は――」
私たちの様子を見て大丈夫だと判断したのだろう。叔父様は励ますことはせず、今日の実験に関する念押しをしようとする。しかしそれを奏が途中で止め、強気な笑みを浮かべる。
「分かっているから。大丈夫だって」
「……フ、分かっているならそれでいい。このライブの結果が人類の未来をかけている、って事をな」
そう言い終わった後、叔父様の携帯が鳴る。彼は私たちから離れ、携帯で誰かと話をしている。あの様子を見る限り、おそらく了子さんが準備完了の連絡を入れたのだろう。
「じゃあ、俺はもう行く。起動実験に関しては俺たちに任せて、お前たちはステージで思いっきり歌って来い!」
「はい、全力で挑みます!」
「あぁ。ステージの上は任せてくれ!」
「おぅ!」
お互いに激励の言葉を交わし、叔父様は控室から出ていく。その様子を見送り、私は今一度気合を入れようと目を閉じて――――
「まじめが過ぎるぞ、翼」
「…………奏」
奏にデコピンを喰らい、何をするんだという気持ちを込めて彼女を軽くにらむ。 その行動に対して奏は気にせず、笑顔で私の頭に手を置いた。
「私の相棒は翼なんだから。翼がそんな顔してると、あたしまで楽しめない」
その言葉を聞き、私は目を丸くする。私はそんなにひどい表情をしているのだろうか?
……今日は大切なライブの日。起動実験は大事だが、私たちはツヴァイウィングとして、観客の人たちを楽しませなきゃならない。
そのことを忘れてしまう程、その時までの私は緊張していたのだ。
「……うん。私たちが楽しんでないと、ライブに来てくれた皆も楽しめないよね」
「わかってんじゃねーか」
ウリウリと頭を撫でられる。それが急に恥ずかしくなり、急いで手を打ち払う。どうやら絶妙な力加減をしてくれたようで、髪形の崩れはないみたいだ。
気を取り直して、立ち上がる。それを見てもう大丈夫だと思ってくれたのか、奏ではそれ以上は何もせず立ち上がる。そして二人並んで控室の出口へ向かう。
「奏と一緒なら、なんとかなりそうな気がする。……行こう」
「あぁ。私と翼、両翼そろったツヴァイウィングなら、どこまでも飛んで行ける!」
「どんなものでも、超えてみせる……!」
そしてライブは始まった。私たちが歌い、ライブに来てくれた人たちと一緒に会場は高揚していく。このままいけば、順調に起動実験は終了。私たちのライブも大成功に終わると思っていた。
――――しかし、物事がすべてうまくいくとは限らない。この時私は、そのことを痛感させられた。
突如会場内になり響くアラーム。それに私が驚いていると、突如奏が別の方向を凝視した。
「…………来る」
「奏?」
「ノイズが、来る!」
そして突如襲来してきた、ノイズの大群。必然的に会場は大混乱となり、パニック状態と化していた。
「翼、戦うぞ! 今この場で奴らと戦えるのは、槍を持つ私と剣を持った翼だけだ!」
「でも、司令からは何も……!」
「Croitzal ronzell Gungnir zizzl――」
私がシンフォギアを纏うべきか迷っているうちに、奏はためらわずシンフォギアを展開してノイズの前に躍り出る。そして右手に持つ槍をふるい、ノイズを薙ぎ払っていった。
「おらぁ!!」
「奏! Imyuteus amenohabakiri tron――」
奏に遅れないよう、私もシンフォギアを展開して続く。二人一緒にノイズの大群、その中心にとびかかる。そして背中を合わせ、襲い掛かるノイズを迎撃していく。
「翼!」
「わかった!」
ーーSTARDuST∞FoToNーー
ーー逆羅刹ーー
お互いに技を放ち、周囲のノイズを薙ぎ払う。一時的に敵は消えたが、次々と周囲にノイズが現れる。
「おらおらおらぁッ!」
「せい、はぁッ!」
とにかく目の前にいるノイズを倒していく。一ヶ所に固まっていると追いつめられる危険性があるため、走りながらノイズを打ち倒す。移動先からノイズが襲いかかってきたので私は剣を、奏は槍を振るう。
「吹き飛べッ!」
ーーLAST∞METEORーー
奏が放つ一撃が、前方のノイズを一気に消し去る。しかし未だにノイズの数は減っておらず、私たちは再び背中を合わせる。
「ふぅ……奏、大丈夫?」
「当たり前だろ?」
「そう。……それより、気づいてる?」
「ノイズがやたら多いことか?」
「うん。もしかしてこのノイズ、起動実験の聖遺物を狙っているんじゃ……」
なぜこんなにノイズが襲い掛かってくるのか、その理由を考えているうちに、あの日受けた了子さんの講義を思い出したのだ。そこで奏にそのことを尋ねてみる。
それに対し、奏はシンプルに答えた。
「なんにせよ、だ。私らはまず目の前のノイズどもをぶっ潰なければ旦那のところにも行けない。そうだろ?」
「……うん、そうだね」
奏が私に問いかけてくる。確かにその通りなので私は頷き、獲物を構える。先ほどまでの会話の間に、周囲にノイズが集まってきたようだ。
「行くぞ!」
「うん!」
そして再びノイズの大群に突っ込むために力をためる。そして私たちは同時に全速力で飛び出し、ノイズの集団、その一角を崩そうとして――――
「激怒竜牙!!」
――――その声が聞こえた瞬間、全力でその場を離脱した。
しかし数瞬間に合わず、突如上空より飛来してきた十字の剣戟はノイズの集団に直撃し、大爆発を起こす。それを目の前で受けた私たちは吹き飛ばされ、それぞれ離れた場所に落ちる。
「ぐ、何が…………!?」
何が起きた、そう思いながら前方の土煙を見る。それは徐々に晴れていき、はっきりと見えるようになった時。その場にいる存在は、ただ1つだった。
「…………なんだ、あいつは?」
その姿は一言でいうなら異様。人型だが龍を模した緑色の全身鎧をまとい、牙を模した双刃をその手に握っている。そして静かにたたずんでいた奴は、ある方向をじっと見ていた。
「ッ、お前は……」
「…………」
その視線の先にいたのは、立ち上がったばかりの奏だった。互いに睨み合っていたが、息を合わせたかのように同時に走り出す。奏は槍を、乱入者は双刃を。走る勢いを殺すことなく振りかぶり――
「フンッ!!」
「はぁッ!」
――そして互いの視線の先にいたノイズを、その手に持つ武器で切り払った。そしてそのまま互いを無視して戦いだす。
奏が奴とすれ違う寸前、奏が何か言っていたような気がするが場所が遠いので聞こえない。それよりも奏の援護をするため、私もすぐさま彼女に駆け寄る。
「翼!」
「奏、あいつは一体……?」
「あぁ、あいつはアンノウンだ」
「アンノウン!?」
奏の一言に、私は驚く。アンノウンといえば、了子さんの講義で出てきた謎に包まれているノイズのはずだ。それを聞いて改めて乱入者の姿を見る。その姿は確かに、あの時のカメラ映像で見た輪郭と一致していた。
なぜ奏がアンノウンを知っているのか? なぜ当たり前のように共闘しているのか? もしかして奏はあの時、アンノウンと出会っていたのではないか?
様々な疑問が頭の中に浮かぶが、まずは現状を把握するために必要なことを聞くことにした。
「奏、もしかしてアンノウンと会ったことがあるの?」
「……まぁな。と言ってもあの時、気絶する直前にチラッと見た程度なんだけど」
「そう……じゃあ、今のアンノウンは味方?」
「いや、私たちの味方というよりノイズの敵だ。今あいつがこっちに攻撃してこないのは……っと!」
奏は解答を中断し、飛んできたノイズを打ち落とす。どうやら大部分がアンノウンのほうに行っているのか、周りにいるノイズの数は先ほどよりずいぶんと少ない。
「とにかく話はあとだ! まずはこいつらを全員……ガッ!?」
「奏!?」
奏は再びノイズの集団に飛び込もうとする。しかし、突如動きが止まり、膝をつく。
「なにが……ッ、時限式はここまでかよ」
「ッ!」
まずい、直感で奏の今の状態を知った私は奏を守るためにノイズの前に立ちはだかる。先ほどの言葉から推測するに、おそらくLiNKERが切れかけているのだ。
奏は本来、シンフォギアを起動できるほど適合値は大きくない。しかしそこに、了子さんが作った制御薬LiNKERを投与することで、一時的にシンフォギアを動かしているのだ。先ほど彼女が言っていた時限式というのは、このことを指し示していた。
今の状況を打破するために思考しようとした瞬間、さらなる不幸が襲い掛かる。
「キャアアアアアアアアアアア!!」
「なに!?」
「ッ、逃げ遅れたのか!」
客席だった場所。ノイズとの戦闘で崩れてしまったそこの足元で、女の子の悲鳴が聞こえた。ノイズが襲撃してきたため、ライブの参加者たちはみんな避難しているはず。しかし突然のことでパニック状態になっており、あの子のように逃げ遅れた者がいたのだ。
「うおおおおおおおおッ!!」
「奏!」
声が聞こえた直後、奏が立ち上がってその方向へ走り出す。先ほどまでの動きに比べると鈍いが、それでも十分な速度で少女のもとへたどり着き、襲い掛かろうとしていたノイズを吹き飛ばす。
「ああ……ハァ、ハァ……」
「駈け出せ!!」
「ッ!!」
目の前にノイズがいた。その衝撃からか少女は声が出ない。そこに奏が怒鳴ることでようやく意識をとり戻し、会場から離れるために走り出した。しかしその少女に狙いを定めたのか、周囲のノイズがいくつか少女へ襲い掛かる。
もちろん奏がそれを許すはずもなく、少女の後ろに立ってノイズを迎撃する。しかしやはり動きが鈍く、槍で攻撃を受け止めるのが精一杯のように見えた。
「くぅっ!」
「奏ッ!」
手助けするため、駆け寄ろうとする。しかし突然私たちの間にノイズが出現し、分断されてしまう。
「ック、邪魔だぁぁぁッ!!」
ーー蒼ノ一閃ーー
手に持つ刀を大型化させ、斬撃を飛ばす。道が開き、急いで奏の元に行こうとするが、一歩遅かった。
「こんのぉぉぉぉぉ!!」
奏は余力を振り絞り、全力での槍を振るう。それは次々にノイズを薙ぎ払っていき――――
「……えっ」
「ッ、あ…………?」
最後のノイズとぶつかり合い、その矛先はバラバラに砕け散った。LiNKERの制限時間が訪れたのだ。
武器が壊れたことも十分まずいことなのだが、そこにさらに不幸が重なる。砕け散った槍の破片、その一部が守っていた少女の胸元に突き刺さってしまったのだ。
奏はこの数瞬の間に起きた出来事に思考停止していたが、少女の胸元から噴き出る血によって正気に戻る。
「はぁぁぁぁぁぁッ!!」
そこで私はようやく二人のもとにたどり着き、周囲のノイズを切り裂く。その隙に奏は少女を抱きかかえ、呼びかける。
「おい、死ぬな! 目を開けてくれ!」
「う……ぁ……」
少女の意識は朧気で、目の焦点もあっていない。それでも奏は必死に少女に呼びかけ続けていた。
「生きるのを、諦めるな!!」
「は……い……」
最後に少しだけ意識が戻ったのか、少女がかすれた声で返事をする。しかしその直後意識を失い、ぐったりと倒れる。このままここにいれば、間違いなく少女は死んでしまうだろう。
「……翼、この子を連れて脱出してくれ」
「奏!? 何を言って……!」
「いいから行け! このままじゃこの子は間に合わない、私じゃ間に合わないかもしれないんだ!!」
「っ!」
奏の言うことは正しかった。このままここにいては少女は死ぬ。かと言って奏が治療できる場所まで少女を運ぶ場合、間に合わない可能性がある。ならば一番速度が速い私がこの少女を運ぶ、それが確実な手段だろう。
しかしそれは、奏をこの戦場に残すということになる。今の奏がここに残った場合、命の危険性が高いのだ。そんなこと、私には選ぶことができなかった。かと言って少女を見捨てることもできるわけがない。
「……10分で戻る。だから、それまで耐えて!」
「っへ、任せておけ!」
その言葉を背に私は少女を抱きかかえ、その場から離脱する。そしてノイズを迎撃しつつ、最速でライブ会場に設置してある司令室を目指して走る。
結局私が選んだのは、最短距離で少女を安全な場所まで移動して誰かに渡すというものだった。奏の状況がまずい以上、少しでも早く戻る必要がある。そのためにも戦闘行為も必要最低限にして走り抜けていった。
「……あーあ、ずいぶんと見栄張っちゃったな。これは中々骨が折れそうだ」
「…………」
「さぁ、ノイズ共。あいにくと私は時限式なもんで、そう長く戦えない。けど、この場を死守することくらいはしてやらぁ!!」
「……戦う才能はあれど力を扱う才能はない、か。あいつとは真逆だな」
ライブ会場から出て、周りにノイズがいないことを確認し、通信機を使う。
最初のほうこそ雑音が走っていたが、やがて向こうとつながった。
『……さん、翼さん! 聞こえますか!?』
「藤尭さんですか!? よかった、私がいる場所に人をよこしてください!」
『何かあったんですか!?』
「逃げ遅れた少女が重傷を負っています! そして私が安全に運べるよう、奏が会場で戦い続けています!」
『ッ、わかりました! 今すぐ人員を派遣します』
通信が終わり数分後。車がかなり速い速度で私の近くまで走ってくる。そして目の前で止まり、中から男性が出てきた。
「翼、怪我をしているのはこの子か!」
「叔父様!?……そうです、後はお願いします!」
「わかった!……って、おい、翼!?」
少々無責任なような気がするが、それを気にする余裕は今の私にはなかった。叔父様が少女を受け取ったことを確認した私は、瞬時に飛び出して会場に戻る。
できる限りの速度を出し、できる限りノイズを無視し、道をふさぐノイズを最低限殲滅する。その間も速度を緩めることはせず、最高速を維持し続ける。
「頼む、間に合ってくれ……!」
そして私が会場を離脱してから10分後。会場に飛び込んだ私の視界に映ったもの、それは――――
「――――――え?」
地面に横たわり、ピクリとも動かない奏。
「……遅かったな」
そして、矛先が砕けた槍を持つアンノウンの姿だった。
その光景を見た瞬間、私の中の何かが切れた。
「きさまあああぁぁぁぁぁぁッ!!」
ーー天ノ逆鱗ーー
巨大化させた剣を投擲し、アンノウンに向かって蹴って加速させる。何も考えずがむしゃらに放った一撃は瞬時に着弾し、土煙が周囲を覆う。手ごたえを感じることができなかった、おそらく避けられたのだろう。
「……ふん、やるか?」
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
アンノウンが何か言ってるが、そんなもの私には関係ない。地面に突き刺さった剣を瞬時に元の大きさに戻し、連続して振るう。しかしアンノウンはそれを冷静に対処、双刃を用いてそのすべてを受け流される。
そしてそのうちの1手で鍔迫り合う。私は全力で剣に力を込めているというのに、アンノウンは余裕のある状態で拮抗する。
「どうした、その程度で俺を倒せるとでも?」
「うるさいッ! お前だけは、お前だけは絶対に許さない!!」
「……愚者が、獣では俺には勝てん!!」
その言葉の直後。剣をかち上げられ、腹部に強烈な蹴りが入れられる。モロに入った私は吹き飛び、壁に激突して倒れる。ただの蹴りだというのに、私はその一撃で満身創痍となっていた。
「ッガ、グゥゥ……!」
「つまらん。今のお前と戦う価値など無い」
そう言い放ち、アンノウンは私に背を向ける。絶対に逃がさない、その思いだけでどうにか上体を起こした私はアンノウンに手を伸ばす。
「待て……それは、奏のものだ…………!」
「ならば強くなれ。そして俺と戦い、勝ち取って見せろ。……さらばだ」
そう言い残して、アンノウンは消えた。周囲にノイズはおらず、人は私たちしかいない。ボロボロの体に鞭を打って、這いずりながらも奏に近寄る。
「奏、奏ぇ…………」
ずるずる、ズルズル。まるで芋虫のごとく遅い動作だが、確実に私は奏に近づいていく。
そしてようやくたどり着き、奏の表情をこちらへ向ける。彼女はまるで眠っているかのように穏やかな表情だ。
「あ、あああぁぁぁ…………」
口元から流れる血と腹部の大きな傷がなければ、の話だが。嫌な考えを必死に拒絶し、奏を抱き起す。すると奏はうっすらと目を開け、私を見て微笑んだ。
「……翼」
「奏!!」
「忘れんな……翼が笑顔でいる限り、翼は翼だ」
「なにを言って……!?」
奏の言葉に対する反応をしているうちに、私は目を見開いた。私が抱きかかえている奏の身体が、うっすらと透明になっているのだ。
なんだこれは。今まで聞いたことのない状況に私が焦っている中、奏は構わず言葉を紡ごうとする。
「だからさ……」
「そんなこと後で聞くから! 今は早く治療を!」
「良いから聞けって……何があってもさ、自分自身を、見失っちゃ、駄目……だぞ……」
「奏!?」
――――そう言った奏は静かに目を閉じ、彼女の肉体は細かい粒子となって空へ飛んでいった。
「あ……え……?」
「うそ、うそだ…………奏?……かな、で」
「かなでえええええええええええぇぇぇェェェェェェェェェェェェェッ!!!!」
≪See you Next game……≫
※今回は特にありません。何かありましたらご連絡していただけると幸いです。