紅蓮激唱シンフォギア   作:zelga

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第16話 『Lonely girlの想い』

 

「俺にはなく、あいつらにはある何か……か」

 

 

人一人立ち寄らない街はずれの廃墟。その中にあるボロボロのソファーに腰かけた状態で、グラファイトは右手に持つ棒状の金属を見ながら呟く。

 

それはよく見ると武器の柄で、その先端には小型化された突撃槍の刀身があった。

 

それを見ながら思い出すのは、以前これを使用した際の戦闘。手に入れたこの聖遺物の改造に成功し、人間ではないグラファイトでも扱えるようにした。その試運転のためにあの時の戦闘で使ってみたが、思っていたほどの成果は出なかったのだ。

 

 

「ノイズの位相差障壁は無効化できた。しかし……」

 

 

これだけではないはずだ、グラファイトはそう考える。事実、彼が今まで見てきた適合者たちはそれぞれ特徴があった。

 

 

 

 

 

――――西洋剣の聖遺物、アガートラーム。その適合者はいくつもの剣を遠隔操作し、それを持って視界に映るノイズを殲滅する。

 

それはきっと、一人でも多くの人を守るため。

 

 

――――剣の聖遺物、アメノハバキリ。その適合者は空を駆け、数秒の間に数十体のノイズを切り裂いた。

 

それはきっと、一秒でも早く人間の脅威を消し去るため。

 

 

―――そしてグラファイトが持っているものと同じ槍の聖遺物、ガングニール。かつての適合者は嵐のように攻め、ノイズに攻撃する隙を与えなかった。

 

それはきっと、一体でも多くのノイズを殲滅するため。

 

また現在の適合者は未熟だが少なくとも身体能力は向上し、拳に触れたノイズは崩れ去っている。

 

 

 

 

 

これらのことから考えられる推測。それは聖遺物にはノイズの位相差障壁を無効化するだけではなく、使用者の想いに応えて形態変化を起こすということだ。だがしかし、グラファイトが使用した際に形態変化は起きず、また恩恵と呼べるものもなかった。

 

 

「これが最も俺に適しているとは思えん……まさか、こいつを使った状態で経験を積む必要があるのか?」

 

 

武器は最初から強いとは限らない。それを用いて何度も鍛錬を重ねることで手に馴染み、そこで本来の力を発揮するのだ。

 

今回もその類だろう。そう判断したグラファイトは立ち上がり、敵を求めて姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『人類ではノイズに打ち勝てない。人の身でノイズに触れることは、すなわち炭となって崩れることを意味する。そしてまた、ダメージを与えることも不可能だ』

「…………」

 

 

壁の向こうから声が聞こえる。先ほどまで翼もその場所にいたのだが、発覚した事実に動揺し、心を落ち着かせるためにこうして部屋の外で息を整えていた。

 

今現在部屋の中では弦十郎と了子、友里に藤尭といった特異災害対策機動部二課のメンツ。そして先ほど連れてこられた1人の少女がいる。

 

 

『たった一つの例外があるとすれば、それはシンフォギアを纏った戦姫だけ。日本政府、特異対策機動部二課として改めて協力を要請したい』

 

 

少しも聞き逃さないように耳を澄ます。今まさに弦十郎が、少女に勧誘を行っていた。事実、現在だと二課のシンフォギア奏者は翼しかいない。弦十郎の言う通り、一般人や自衛隊ではノイズに無力なのだ。だからもし彼女が二課に加わった場合、より多くの人たちを守れるだろう。

 

 

『……立花響くん。君が宿したシンフォギアの力を、対ノイズ戦の為に役立ててはくれないだろうか?』

「――――っ」

 

 

翼はそれを理解している。しかし、納得はできていなかった。

 

だからこそ今すぐにでも部屋に入りそうになる。しかしそれを歯を食いしばることで抑える。翼が言った所で状況は変わらない。そして件の少女、響が彼女の思う通りの性格だとしたら――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『わかりました。この力で誰かを助けれるというのなら、私は戦います!』

「…………フゥ」

 

 

――こうなることは、必然だ。

 

その声が聞こえた翼はため息を吐き、壁に体を預ける。しかしすぐに体勢を整え、この場から離れるために歩き出そうとする。

 

 

 

 

 

「あ、翼さん」

「…………」

 

 

しかしプシューと言う音とともに扉が開き、そこから出てきた響が翼に声をかける。それに対し翼は歩みを止め、振り返って静かに彼女を見た。

 

 

「私も、戦うことにしました」

「…………そう」

「慣れない身ではありますが頑張ります。一緒に戦えればと思います」

 

 

そう言って響は握手をしようと手を差し出す。その手を翼は見るが、握手せずに再び前を向いた。

 

 

「あ、あの……。一緒に、戦えれば、と……」

「……あなたの力は必要ないわ」

「え?」

 

 

なぜですか、そう響は翼に問いかけようとする。しかし突如視界が暗くなり、それと同時に警報が響き渡る。緊急事態が起きていることは誰の目にも明らかだった。

 

突然の警報に響は狼狽えるが、翼は指令室へと走りだす。それを見て我に返った響も後に続き、二人が指令室に着いた時には、弦十郎たちは既に持ち場についていた。

 

 

「ノイズの出現を確認!」

「現在、場所を特定中…………出ました。座標を表示します!」

 

 

友里の声と同時に、司令室の大画面にマップと同時にノイズの座標が表示される。

 

 

「リディアンより距離6000、及び20000!」

「また二カ所か……だが片方は近い!」

「迎え撃ちます!」

「あ……!」

 

 

場所が判明した直後、翼が指令室から飛び出る。それを響は見送ったが、しばし考えたのちに表情を引き締め、司令室から出ようとする。

 

 

「待て、君はまだ……!」

「私の力が誰かの助けになるんですよね? シンフォギアの力でないとノイズと戦うことは出来ないんですよね? だったら行きます!」

「っ!」

 

 

今日、協力することが決まった響。もちろんシンフォギアを纏った戦闘訓練などした事がないので、危険だと弦十郎が止めようとする。しかし彼女は即座に言い返し、自身の覚悟を伝える。

 

それを聞いた弦十郎は、響が決してここで止まらないことを感じ取る。かと言って初心者を戦場の真っ只中に単独で送るのは自殺行為に近いので、新たな指示を出すために口を開く。

 

 

「……わかった。だが今回は翼のサポートに回れ! 一人で戦うのは危険すぎる!」

「っ、…………はい!」

 

 

響は少しの間詰まるが、返事を返して今度こそ司令室を出る。やはりこのまま見送った場合、響はもう一カ所のノイズ出現座標に向かうつもりだったのだろう。

 

それを確信した弦十郎は内心ホッとしつつ、司令としての仕事をするために意識を切り替えた。

 

 

「2カ所の様子を常に報告しろ! 了子君、あのガングニールの反応は?」

「二カ所共に反応なしよ」

「わかった。二人以外のアウフヴァッヘン波形を計測したらすぐに教えてくれ」

「了解。この間はまんまと逃げられた、今度は絶対に逃がさないわよ……!」

 

 

珍しく燃えているのか、了子はめまぐるしく機器を操作する。その様子を弦十郎は見ていたが、ふと藤尭の言葉が耳に入る。

 

 

「危険を承知で誰かの為になんて……。あの子、いい子ですね」

(……果たしてそうだろうか?)

 

 

その言葉を聞いて弦十郎は内心疑問を抱く。

 

確かに響は人助けを率先してするのだからいい子なのだろう。しかし、それが命に関わるノイズとの戦闘においても一切変わらないというのは、普通なのだろうか?

 

 

(翼のように幼い頃から戦士としての鍛錬を積んできたわけではない。ついこの間まで日常の中に身を置いていた少女が、誰かの助けになるというだけで命を賭けた戦いに赴けるというのは、それは歪なことではないだろうか……?)

 

 

「……! 弦十郎くん、来たわよ!!」

「っ、どっちだ!?」

 

 

思考に陥りそうになった弦十郎だが、了子の大声で我に返る。

 

【来た】、つまり再びガングニールのアウフヴァッヘン波形が計測されたのだろう。響はまだ到着していないはずなので、それが以前現れたそれと同一である可能性は高い。

 

そして弦十郎はどちらで反応が起きたのかを了子に聞く。それに対し、了子からの返答はすぐだった。

 

 

「距離20000、B地点! ……なにこれ、この前よりノイズの殲滅速度が速い!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ!!」

 

 

跳びかかるノイズに対し、グラファイトは双刃を振るう。切り裂きながらノイズの位置を確認し、その内の1集団に狙いを定めて、左手に持っていた槍を投げ飛ばす。

 

音にも匹敵する速度で投げられた槍は、ノイズが反応するよりも早く着弾。土煙が周囲を覆うが、グラファイトは躊躇うことなくその中に入る。そして地面に突き刺さっているそれを拾いつつ、まだ倒しきれていないノイズに拳や蹴りを叩きこむ。そしてその場から跳ぶことで土煙から脱出すると、それを狙っていたかのようにノイズが数体襲い掛かる。

 

 

「遅いッ!」

 

 

グラファイトはそれを冷静に観察し、双刃を振るって迎撃する。襲い掛かってきたノイズのすべてを打ち落とし、着地した彼は槍を構え、深く息を吐く。

 

 

「フウウウゥゥゥ…………!」

 

 

目を閉じ、グラファイトは足に力を溜める。動かない彼を見て好機と見たのだろう。残っていたノイズは全て溶けて混ざり合い、1つとなっていく。

 

瞬く間に彼よりも数倍の大きさになったノイズは、威嚇をしながら突撃する。

 

 

「――――――ッ!!」

「…………」

 

 

さらに巨大ノイズは体に付着していた部品を外し、飛び道具のようにしてグラファイトへ飛ばす。それは彼の逃げ道をふさぐような軌道をとり、その中心を巨大ノイズが走り抜ける。この攻撃、彼は避けることはできないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ここだッ!」

 

 

――もっともグラファイトに避けるつもりがあるのなら、の話だが。

 

巨大ノイズの攻撃が当たる直前、彼は目を見開いて足に込めた力を開放する。あまりの力に地面は大きく凹み、彼の姿はブレて消える。その突撃は一直線に巨大ノイズに迫り、一瞬のブレもなく通り過ぎた。

 

そして足を地面に叩きつけることで勢いを抑え、暫く地面を抉り続けることでようやく止まる。だがグラファイトは再びノイズに攻撃することはなく、槍を肩にかけて後ろを見ようとしない。

 

あまりの速さにグラファイトを見失っていた巨大ノイズはそこでようやく気付き、今が好機と口を大きく開けて襲い掛かる。

 

 

「――――――ッ!!」

「無駄だ、すでに勝敗は決している」

「ッ!?」

 

 

口がグラファイトに触れる直前、そこで巨大ノイズはようやく体に生じた異変に気づく。肉体に大きく空いた穴、そこから急激に体が崩れ去っていき、巨大ノイズが何かする前にそのすべてが塵となった。

 

 

「……やはり、足りんな。ノイズ程度では敵にもならんか」

 

 

グラファイトは右手に持つ槍を見ながら再びノイズを索敵する。そして別の箇所でノイズの集団を見つけ、そこに行こうと意識を集中させる。

 

しかし、瞬間移動する直前にノイズの数が減ったことを感じ取った。さらにノイズとは違う反応が二つ、両方ともにグラファイトにとっては既知のものだ。

 

 

「ガングニールにアメノハバキリ…………そうか」

 

 

あの二人がノイズと戦っている、それをグラファイトが感じ取った後、彼の声色が変わる。

 

今の状況、行ったところでノイズは殲滅されている可能性が高い。そして自分があの場所に現れれば、彼女は間違いなく彼と戦うだろう。そしてグラファイトの今の目的は、この槍を使って実戦経験を積むことだ。

 

ならばここからグラファイトがとる行動は、おのずと絞られていた。

 

 

「あれから2年。どれほど成長したのか、見せてもらおう……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せいやッ!!」

 

 

剣を振るい、ノイズを細切れにする。致命傷を受けて崩れ始めるノイズを横目に見つつ、巨大ノイズを仕留めるために力を込める。

 

それをやらせはしないと巨大ノイズは体の部品を飛ばして攻撃しようとするが、それが放たれる前に響が横から蹴りを入れる。勢いよく放たれたそれをもろに喰らったノイズは体勢を崩し、致命的な隙を生み出す。

 

 

「翼さん!」

「ッ、はああああぁッ!」

 

 

ーー蒼ノ一閃ーー

 

 

響の声を聞き、翼は込めていた力を開放。巨大化した剣から放たれた剣戟は巨大ノイズの中心を通り過ぎ、真っ二つにする。その直後爆発が起こり、それは戦闘終了の合図でもあった。

 

 

「翼さん!」

「…………」

 

 

爆発した方向を見ている翼に対し、響が後方から声をかける。彼女は相変わらず無反応だったが、響きはひとまず自分の想いを伝えることにした。

 

 

「私……今は足手まといかもしれないけれど、一生懸命頑張ります!」

「…………」

「だから、私と一緒に戦ってください!」

 

 

爆発も収まり、静かになった空間に響の声が響く。それを聞き終わった翼は、静かに振り向いて彼女を見た。

 

 

「……そうね」

「翼さん……!」

 

 

始めて返してくれた、賛同の言葉。それがうれしくて、響の声色と表情は明るくなる。

 

その様子を眺めながら翼は、先程から変わらぬ表情で続きの言葉を口にした。

 

 

 

 

 

「あなたと私、戦いましょうか」

「……え? っ!」

 

 

翼が放った言葉に呆ける響。しかし彼女が剣を振り上げたのを見た瞬間、横に転がってそれを避ける。

 

それを見た翼は響が体勢を整える前に近づき、その喉元に剣を突きつける。

 

 

「そういう意味じゃありません! 私は翼さんと力を合わせて……」

「わかっているわ、そんなこと」

「だったら、どうして!?」

 

 

一瞬勘違いしたのかと思ったが、翼の言葉はその可能性を即座に切り捨てる。ならばなぜ戦おうとするのか、彼女は必死に問いかける。

 

それに対して、翼の返答は単純なものであった。

 

 

「私があなたと戦いたいからよ」

「え?」

 

 

味方であるはずの自分と戦いたい。理解できないその返答に、響は頭が混乱する。

 

そしてそれに追撃するかのように翼の言葉は続く。

 

 

「私はあなたを受け入れない。力を合わせ、共に戦う仲間など風鳴翼には必要ない」

「…………」

「それでも人助けをしたいというのなら、アームドギアを構えなさい」

「アームド、ギア?」

 

 

初めて聞く単語に響は首をかしげる。その様子に翼は一瞬目を伏せるが、すぐに元の険しい表情に戻る。

 

 

「……常在戦場の意思の体現。あなたが何者をも貫き通す無双の一振り、ガングニールのシンフォギアを纏うのであれば――――」

 

 

突きつけた剣を戻し、響と距離をとる。そして数歩の距離で向かい合った状態で彼女は響に再び剣の切っ先を向け、言葉を紡ぐ。

 

 

「――その覚悟を、構えてごらんなさい」

「か、覚悟なんて、そんな……」

 

 

翼が本気であると響は感じ取ったが、如何せん初めて聞いたものを出せと言われてもどうしようもなかった。

 

だからこそ響は正直に自分の状況を伝える、それがどうなるのかも知らずに。

 

 

「私、アームドギアなんてわかりません。わかってないのに構えろなんて、それこそ全然わかりません……」

「…………そう」

 

 

その言葉を聞き、翼は剣を下ろす。それを見た響はホッとしたが、すぐにそれが間違いであるとわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――剣を下ろした翼は、一瞬で響の目の前に肉薄した。そしてその拳を握りしめ、油断していた彼女を目標にして振りかぶる。

 

 

「ノコノコと遊び半分で戦場に立たれても、いい迷惑なのよ」

「うぐッ!」

 

 

シンフォギアの恩恵か、ギリギリで顔をそらすことで響はその拳を避ける。しかし翼はそれを確認した瞬間にその手に剣を持って切り返し、峰を背中に叩きつける。そのまま衝撃で浮いた響の肩をつかんで地面に振り下ろす。

 

 

「カハッ……!」

「やはり、その程度なのね」

 

 

響は仰向けの状態で地面に叩きつけられる。一気に空気が押し出され、彼女は苦しそうに荒い呼吸している。シンフォギアのおかげで肉体へのダメージは少なそうだが、それでも今の彼女は戦闘不能だ。

 

それを見ながら翼は彼女の胴体を跨ぐように立ち、その喉元に再び剣を突きつける。

 

 

「わかった? これがあなたの限界。人助けなんて口では言ってるけど、あなたは何もできないの」

「翼、さん……」

「いい加減に夢から覚めなさい。奏のガングニールを引き継いだところで、あなた自身が変わったわけではないのよ」

「……!」

 

 

淡々と紡がれる翼の言葉を、響はただ聞くことしかできない。事情はどうであれ、間違いなくそれは事実なのだから。

 

響が大人しいのを見て、翼は最後の言葉を紡ぐ。彼女の心を、完全に折るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは戦場。中途半端な覚悟を持った人間が来ても、すぐに死ぬだけ」

 

「ヒーローごっこなら、家でやってなさい」

 

 

 

 

 

≪See you Next game……≫

 

 

 




※聖遺物、もといシンフォギアの特性 →作者の妄想による設定。ビッキーが手を繋ぐためにアームドギアがないということを知って、他の人もそんな理由があるんじゃないかと思って考えた結果、こんな設定が生まれました。


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