――随分と吠えるようになったじゃないか?――
「「!?」」
二人しかいないはずの空間に響く第3者の声。忘れるはずもないその声を聞いた翼は目を見開き、どこか既視感を抱く声を聞いた響は辺りをキョロキョロと見回す。
翼が響の喉元から剣を離し、立ち上がる。そして立ち上がった彼女の後方に突如細かいブロックが発生し、それが収束して生物を形作っていく。
「利益を度外視し、己が意志を優先する。……成程、今のお前は人間のようだ」
そしてすべてを構成し終わり、歩きながらこちらへ近づいてくる存在の姿があらわになる。それは龍を模した全身鎧を纏い、右手には片手で持てるサイズの槍を握っていた。
そして足音から位置を察した翼は振り返り、その姿を視界に収める。
「お前、は……!」
「――だが、あまりにも傲慢が過ぎるな。その程度の力で、英雄にでもなるつもりか?」
そう言ってその存在――グラファイトは立ち止まり、槍を翼に向ける。その槍を見た彼女は剣を強く握り、己が抱く激情を隠そうともしない。
そして立ち上がった響がその槍を見た時、纏っているシンフォギアが少し熱くなるのを感じる。違和感を感じて自分の身体を見ると、鎧が鼓動しているかのように淡く点滅している。そしてまた、それと共鳴するかのようにグラファイトが持つ槍も点滅していた。
「ほぉ、共鳴反応か。その鎧とこの槍、同一の聖遺物ならそのくらい起きるか」
「あれって、まさか…………ガングニール?」
最初から予想していたかのような台詞を言い、グラファイトは構える。それを確認した翼は跳び出し、剣を振り上げた。
「ようやく、見つけた!」
「ッ!」
上段から振り下ろされた剣と、振り上げられた槍が鍔ぜり合う。拮抗しているかのようにギチギチと二人の武器から音が鳴り、両者の距離はほとんど零に近い。
「あれから2年だ。今のお前がどれほどの力を得たか……見せてもらう!」
「あの時の雪辱、忘れはしないぞ……アンノウンッ!!」
以前と違って一歩も引かぬ様子の翼を見てグラファイトは嬉しそうに言い、翼はその名を叫びながらさらに剣に力を込める。すると翼の纏うシンフォギアの脚部及び剣の峰からブースターが起動し、前方への加速力が増加する。
それを見たグラファイトは矛先をずらし、左方向へ受け流す。彼のすぐ横を通り過ぎそうになるが、翼は峰のブースターのみを即座に解除。地面に刀身を突き刺し、それを軸として回転しつつ彼の背中を狙って蹴りを放つ。しかし彼は既に振り返っており、彼女の蹴りを両腕をクロスさせた状態で受け止めた。しかし勢いは強かったらしく、その状態のまま彼は数メートル後ろへ下がる。
そして着地した翼は剣を巨大化させて振りかぶり、グラファイトは槍を地面に突き刺し、双刃を構えてそれを迎え撃つ。
「はああああああぁぁぁッ!!」 --蒼ノ一閃--
「激怒龍牙!!」
両者の放つ剣戟は中心でぶつかり合い、激しい衝撃と爆発を起こす。煙で覆われ、響の視界から二人の姿が消える。しかし金属のぶつかり合う音が何度も響き始めたので、煙の中で二人はまだ戦っているのだろう。
そして一際強い金属音が鳴った時。煙が掻き消えるように払われ、鍔ぜり合っている二人の姿があらわになる。
「これはどうだ!」
「っ、なめるなぁ!」
グラファイトが力を込め、翼の剣をかちあげる。そして右足を挙げ、無防備な腹部に蹴りを放つ。しかしそれを察知した彼女は体を捻りながらその足をつかみ、その力を利用して後方へ投げ飛ばす。そして落ちてきた剣をキャッチしつつ走り出し、着地した瞬間の彼に切りかかる。それを彼は槍を持って受け流し、刺突と薙ぎ払いを混ぜて反撃する。
今までの攻防。グラファイトは攻撃をすべて槍を持って対処し、翼は攻撃を時には避け、時には受け流す。そして隙を見つければ両者ともに武器と体術を持って反撃していた。
「随分と成長したな、アメノハバキリ!!」
「アンノウン! 私はお前を倒し、弱い自分の過去に決着を付ける!!」
幾度となく打ち合わされる剣と槍。その様子を響はただ観戦することしかできなかった。
『――――ゃん、響ちゃん! 聞こえる!?』
「了子さん!?」
『よかった、音声は繋がっていたのね。そこで誰が翼ちゃんと戦っているの?』
「えっと、わかりません。でも翼さんは【アンノウン】と呼んでいました」
『アンノウン……カメラが急に使えなくなったからまさかと思っていたけど、やっぱり……!』
「あの人を知っているんですか?」
『話は後、今はすぐにその場から離脱して!』
「でも、翼さんが……!」
話をしている間も二人の攻防は続く。しかしわずかだがグラファイトの攻撃の時間が多く、翼の防御に割く時間が長くなってきていた。
未だ互角ではあるが、このままだと翼が不利になるのも時間の問題だ。そう思った響は走りだそうとするが、頭の中に先ほど言われた彼女の言葉が響く。
――ここは戦場。中途半端な覚悟を持った人間が来ても、すぐに死ぬだけ――
――ヒーローごっこなら、家でやってなさい――
「…………」
いつの間にか響の足は止まり、その瞳は悲しさで揺れていた。
響が今までやってきた人助け、それは翼から見ればヒーローごっこなのだろう。そして彼女は未だ、ノイズと戦うことの重さを実感できていなかった。故に風鳴翼は、決して今の立花響を受け入れない。
その事をわかってしまった響は、前に進めずにいた。
『響ちゃん! 気持ちはわかるけど……』
「……わかりました。けど、このままじゃ翼さんが」
『あら、それなら大丈夫よ』
「?」
『
その声が聞こえたのと、響の視線の先で轟音が鳴り響いたのは同時だった。
「……これは」
グラファイトは前方にいる男性を見て呟く。
先ほどまで翼との戦闘を楽しんでいた彼だが、徐々に自分が押していることに気づいていた。ならばここで一撃加えてやろうと考え、彼女が振るった剣を左手で握って止め、その隙を流さず槍を叩きこむ。
彼女は防御しようと腕を上げるが、それよりも早く槍が迫り――――
「ふん!」
――突如現れた男性によって受け止められたのだ。生身の人間が自分の一撃を止めたことにグラファイトは驚くが、すぐさま距離をとってその男と相対する。
突然の乱入者に驚いたのはグラファイトだけではなく、翼もまた男性に驚いていた。
「叔父様!?」
「おう、翼。響君を連れて下がっていろ」
「しかし、奴は私が!」
「いいから行け。……頭に血が上っていては、勝てるものも勝てないぞ」
「っ!…………はい」
翼が一歩下がったのを横目に見て男性――弦十郎は拳を構える。彼から放たれる気迫を感じ取り、グラファイトは油断など必要ない相手だと判断した。
「話は終わったか?」
「あぁ、十分だ。悪かったな、待たせちまって」
「構わんさ、お前が俺を楽しませてくれるのならな」
そう返し、グラファイトは槍を構える。
「…………」
「…………」
お互いに一歩も動かず、その場の空気が静まり返る。その並々ならぬ様子に響はおろか、翼でさえもその場を動けずにいた。
「おおおォォォォッ!」
「っ、なに!?」
数秒後、弦十郎の目が見開いて突撃する。踏み締めた足の衝撃はすさまじく、それは地面に穴が開くほど。それ故に一瞬でグラファイトの目前まで迫り、拳を握りしめて撃ち放つ。
油断こそしていなかったが、ただの人間がこれほどの速度を出すとは思っていなかったグラファイトは、反応が少し遅れて防御の構えをとる。その直後に弦十郎の拳が叩き込まれ、彼の腕に予想以上の衝撃が伝わる。
さらに追撃を加えようとする弦十郎を見て、グラファイトは即座に蹴りを放つ。それを見て彼は冷静に拳を開き、迫りくる足を受け止める。
弦十郎の拳を受け止めるグラファイトと、グラファイトの蹴りを受け止める弦十郎。お互いの攻撃の強さは、それぞれ受け止めた際に両者の足場が大きく凹んだことからわかるだろう。その状態で拮抗するが、二人の眼からは隙を見せた瞬間に攻撃するという意思がひしひしと伝わっていた。
「なんの力も使わずにここまでやる人間がいるとはな……!」
「人間なだけじゃなく、俺は大人だからな。子供たちが見ている前だと、普段よりも強くなれるんだよ!」
「っ、何を馬鹿なことを!」
到底納得できない返答に、グラファイトは怒りを含ませながら弦十郎の拳をはじく。そして槍を持って薙ぎ払い、彼が距離をとった瞬間に詰め寄って連続で刺突を繰り出す。
それを見た弦十郎はファイティングポーズを崩さぬままその刺突を避け続け、その内の一撃をアッパーで崩す。これによりグラファイトの体勢が崩れ、その隙を見逃さずに顔面に拳を叩きこむ。それはモロに入ったように見えるが、彼は数歩後ろに下がるだけで大したダメージではなさそうだった。
このやり取りを経て、グラファイトの身体が震える。ただしそれは憎しみや悲しみなどではなく、ましてや人間に攻撃を喰らったという怒りなどでもない。
「フ、ハハハハハハハハッ!!」
――彼の心を満たすもの、それは歓喜であった。
「いいぞ! 俺と互角に戦うどころか、まともなダメージを与えたのはお前が初めてだ……!」
そう言い放ち、握っていた槍を消す。そしてグラファイトも拳を握り、腰を落として堂々とした構えをとった。
奴と戦う場合、武器はむしろこちらの枷となる。そう判断したグラファイトは、体術を持って弦十郎と戦うことにしたのだ。その構えを見た弦十郎は不敵に笑い、再び構える。
「……始まる前に聞こう、お前の名はなんだ?」
「風鳴弦十郎、特異対策機動部二課の司令だ。……行くぞ、アンノウン」
「アンノウンではない。俺の名はグラファイト、龍戦士グラファイトだ!!」
奴は自分が名乗るのにふさわしい戦士である。グラファイトは弦十郎を認め、名を名乗った。そしてそれと同時に駆け出し、拳を握りしめる。それを待ち受ける弦十郎もまた、拳を構えた。
そして二人の距離がゼロになり、二人は同時に拳を繰り出した。それはクロスカウンターのように互いの頬にねじ込まれ、二人の顔が横にずれる。しかしその目は相手を逃さず、すばやく体制を整えて殴り合う。
「ハハッ、凄まじいな! どのような鍛錬を行えば人の身でそれほどの強さが手に入る!?」
「飯食って、映画見て、寝る! 男の鍛錬は、それで十分よ!!」
「そうかッ!」
グラファイトの拳は荒々しく、一撃一撃に必殺の意志が込められている。致命傷以外は無視して拳を振るう姿は、まさしく肉を切らして骨を立つを体現していた。
弦十郎の拳は洗練されており、一撃一撃が必中の意志が込められている。グラファイトの攻撃を時には避け、時には受け止め、時には受け流して無力化していく。そして隙を見つけては的確に反撃を加え、確実にダメージを加えていく。本来ならその一撃一撃もすさまじく重いものなのだが、グラファイト自身の耐久性と纏う鎧が衝撃を抑えていたのもあって大したダメージにはなっていなかった。
「とうッ!」
「無駄だ!」
グラファイトの拳を、弦十郎は顔をずらすことで避けつつ拳を腹部に叩き込む。それを膝を上げることで受け止め、勢いを利用しながら回し蹴りを放つ。彼は両手で蹴りを受け止めるがグラファイトは力ずくで足を振るい、彼の体勢を崩させる。そして着地した足を踏みしめてそのまま飛び蹴りを放つが、体勢を立て直しながら彼は正拳突きで迎え撃った。
しばし拮抗し、ぶつかり合うエネルギーが爆発する。その勢いに二人とも吹き飛ばされるが、グラファイトは体制を戻して着地しながら走りだし、弦十郎はバク転で着地しつつ走り出す。右手を握りしめた両者は全力で振り絞り、射程内に入った瞬間に振りかぶった。
「おらああああああああああぁぁぁッ!!」
「おおおおおおおおおおおおぉぉぉッ!!」
そして同時に放たれた拳は互いの顔面を捉え、轟音を響かせる。最初と同様にクロスカウンターとなった二人はふらつきながら距離をとる。弦十郎は靴が壊れているがかすり傷しかなく、グラファイトは兜の部分に罅が入っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……この靴高かったんだぞ。一体何本の映画を借りれると思ってるんだ?」
「フゥゥゥーー…………俺が知るか」
息を長く吐いたグラファイトは構えを解く。その様子を見て弦十郎は内心疑問に感じたが、警戒を解くことはしなかった。
「今宵はここまでだ、弦十郎。お前との戦いをここで終わらせるのはあまりにも惜しい」
「そうか? お前には聞きたいことが山ほどある。同行願いたいものだが……」
「人間共のところに行くなど願い下げだ……ではな、次は相応しき舞台で心行くまで戦おう」
「っ、待て!」
そう言うとグラファイトの身体が崩れ始める。ここに来たときと同様の方法で離脱するつもりなのだろう。逃すまいと翼が駆け寄るが、弦十郎が手を伸ばしてそれを遮る。
弦十郎から見て、全力を出しても勝てるかどうかわからない相手。ここで離脱し、かつ狙いを自分一人に絞ってくれるのならむしろ歓迎だった。
「……アメノハバキリ、お前との決着も必ず付ける。だが、今のお前では俺には勝てん!」
その言葉を残し、グラファイトは消え去った。数秒間弦十郎は周囲を警戒するが、何も来ないのを確認して構えを解く。
そしてこちらに駆け寄ってくる響を見つつ、目の前で座り込んだ翼にどう言葉をかけるか、思考をめぐらせるのであった。
街はずれの廃墟。その一室に細かいブロック状の粒子が集まり、グラファイトが姿を現す。そしてガシャコンバグヴァイザーを取り外して変身を解除しつつ、ソファに転がる。
「ハハハ……今日は予想以上の収穫だった」
そう呟きつつ槍を取り出す。その外観は今までと変わらないが、その内部から伝わる力がほんの少しだが強くなっているのを感じ取れる。原因はおそらく、響が纏っているガングニールと共鳴反応が起きたためだろう。
今回は戦うどころか接してもいないのでこの程度だが、もし長時間戦うことができたらこれ以上の収穫を得れるかもしれない。
「そしてアメノハバキリ……随分と強くなった」
2年ぶりの翼との戦い。以前は力もなく、何より心が弱かった彼女だが、今宵の戦いではそれらがだいぶ改善されていた。事実グラファイトと十数分間も互角の戦いを繰り広げ、1・2発だが彼女の攻撃も喰らっていた。このまま順当に強くなれば、そう遠くないうちにこの状態の自分を超えてくるかもしれない。
これらは想定していた目的であり、両方ともに十分な成果を得ることができた。これだけでも今宵戦った甲斐があるのだが、そこに更なる成果が加わっていた。
「風鳴弦十郎……ただの人間でありながら、あれほどの高みに至った存在」
あの時の戦い、お互いに様子見程度だったが十分に心躍る戦いだった。この程度であれほどの実力なのだ、本気を出して戦った場合はどこまで強くなるのか。考えただけで武者震いが起きる。
「あぁ、楽しみだ。本当に楽しみだ……!」
これならば、こいつを開放できる日も近いかもしれない。そう思いながらグラファイトは懐から真っ黒なガシャットを取り出し、月の灯りに照らされたそれを眺めていた。
≪See you Next game……≫
※今回は特にありません。何かありましたら連絡していただけると幸いです。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
無銘さん、エターナルドーパントさん、ゆっくりさん、瑛松さん。感想ありがとうございました!
KBSトリオさん。評価ありがとうございます!
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