「今夜、あなたにも出てもらうわ。狙いはこいつ……」
目の前の女性から、1枚の写真が手渡される。それを見た私は、頭に浮かんだ疑問をぶつけた。
「フィーネ、こいつは? 二課の連中には到底見えねえが」
その写真に写っていたのは、どう見てもシンフォギア奏者には見えなかった。龍を模した全身鎧を纏う存在、人型であることから人間だと予想できるが、それ以外はこの写真からはわからない。
「そいつの名はグラファイト。数年前から突然現れ、いくつかの聖遺物が私がとる前に奴に奪われているの」
「あんたよりも? ノイズを送っているのにか?」
「信じがたいことだけど、奴は以前まで聖遺物の加護無しでノイズを殲滅していたわ。さらにここ最近は聖遺物を扱い始め、本格的にノイズでは手が付けられなくなっている」
「な……!?」
女性――フィーネの言葉に、私は唖然とする。シンフォギアの加護無しでは戦いにもならないノイズ相手に、聖遺物なしで戦う。性質の悪い冗談としか思えなかったが、彼女の表情からして真実なのだろう。
「そんな奴が……一応聞くけど、この鎧は違うんだよな?」
「聖遺物でないことは確定ね。でもこいつについては不明なことばかり。だから今夜の戦い、あなたの目的は3つよ」
フィーネが指を3本開いた状態で私に突き出す。私が写真から彼女に視線を移すと、彼女は指を1つずつ折り曲げながら口を開く。
「1つ、グラファイトに接触し、可能なら協力関係を結ぶこと」
「…………」
そんなことできるのか? そう思ったが私は言葉にしなかった。確かに現状の私たちの目的は一致しているが、それで協力するのなら向こうから何か接触があってもいいはずだ。それがないということは、向こうにその気がないということなのだろう。
と言ってもフィーネもそのことは重々承知しているはずだ。【可能なら】と言っている当たり、彼女は内心無理だとわかっているのだろう。
「2つ、それが無理そうなら戦い、奴を排除すること。基本的にこの2つが優先ね」
「へ、いいじゃねえか。私は最初からそっちの方がいいんだけどな?」
「念のためよ、それにあなたにはこれを使ってもらうわ」
そう言いながらフィーネは後ろにある鎧を見ながら言う。私としてもそちらの方が都合がいいので、断る理由もなかった。
「いいぜ、歌う必要がないからそっちの方が私にゃ合ってる」
「あなたのシンフォギアを二課に隠匿するのも理由よ。おそらく途中から奴らは介入してくるだろうし、そこで一度拮抗状態になるはず」
そして3つ目、そう言ってフィーネは最後の指を閉じる。その言葉を聞いて、私は了承の意を込めて笑った。
「二課に所属しているシンフォギア奏者、立花響を私の元に連れてきなさい」
「…………」
拠点の廃墟。その一室に広げられた地図を見ながら、グラファイトは思案する。それは彼が今いる街の地図なのだが、そのいたるところには赤いマーカーで印がされていた。
「そしてこれが昨日奴らが現れた地点。……やはりか」
手に持ったペンで地図の一カ所に赤い点を加え、グラファイトは呟く。そして再び地図全体を見渡し、今まで自分が予想していたことを確信した。
一見まばらなようにも見えるノイズの出現位置。しかしある場所に注目してみると、明らかにそこを中心としてノイズが出現しているように見える。その場所の名は――――
「――私立リディアン音楽院、あの連中の根城となっている場所」
別の色のペンでリディアン音楽院に印をつける。そしてそこを中心として真円を描くと、ノイズの出現位置のほとんどがその中に入っていた。
そもそもグラファイトが事前に調べた情報では、ノイズ自体の出現頻度は低いはず。だと言うのに数年前から妙にノイズの出現頻度が高いように感じていた。……まぁ、と言うよりもグラファイトが行く先々に大体ノイズがいた、と言った方が正しいのだが。
つまり何が言いたいのかと言うと、グラファイトは最近のノイズは人為的に操られているのではないかと考えていたのだ。そしてその操作ノイズの出現先は遺跡やいつぞやのライブ会場、今回のリディアン音楽院周辺。これらに共通していることは一つ、聖遺物の存在だ。
「ならば今の狙いは二課にある聖遺物……おそらくはあれか」
以前侵入した際に手に入れた、二課が所有している聖遺物のリスト。その中に2つ存在していた、経年劣化や破損が見られない完全聖遺物。考えられる狙いはおそらくこれらだろう。
しかしそのうちの1つは既に現在は消失している。つまり奴らの目標は、もう1つ。
「完全聖遺物、デュランダル。もしあれが狙いだとしたら、早めに潰す必要があるな」
まだ憶測の域を出ないがグラファイトと目的が重なっている以上、おそらくノイズ側とは敵対するだろう。普通なら協力関係になるのかもしれないが、この男に限ってそれはない。
「まずは釣り出す必要がある……ちょうどいい、次は少し派手に行くか」
既に夕日は消え始め、夜が近づいている。今までと同じなら、今宵もノイズが現れるだろう。狙うならそこだ。
そう決断したグラファイトは立ち上がり、ノイズを探すために部屋を出ていった。
そして時は過ぎて、辺りが暗闇に包まれたころ。グラファイトの目の前には、ノイズが大量にうごめいていた。
「今日はずいぶんと多い。が……」
そう呟きつつグラファイトはガングニールを構える。そして一気に肉薄し、ノイズたちの目の前まで迫る。
「もはや貴様ら程度では、敵にもならん!」
そう言いながら、槍を振るう。加護を得ている一撃はノイズを切り裂き、撃墜していく。
一手遅れてノイズも反撃していくが、それももう見慣れたもの。グラファイトは最小限の動きで避けながら接近し、次々にノイズを塵に変えていく。
「戦うだけ無駄だな。最早奴らから得られるものはない」
その言葉と共に一歩下がり、獲物をグラファイトファングに切り替える。そして力を込めて、ノイズの集団に向かって全力で振り抜く。
「激怒龍牙!!」
その言葉とともに放たれた剣戟はノイズの集団に吸い込まれるように飛んでゆき、大爆発を起こす。
そして土煙が晴れると、そこにノイズは1体たりとも存在していなかった。
「…………」
戦闘は終わったが、グラファイトはその場から離脱せずにとどまっていた。彼の戦士としての勘が感じ取っていたのだろう、あまりにも呆気なさすぎるということを。
今まで通りなら、ここからさらにノイズが追加で出現していた。なのに今回はその様子はない、それはつまり――――
「よぉ、あんたがグラファイトか?」
――獲物が針にかかったということだ。
「思えば貴様らは随分と邪魔をしてくれた。その正体が気にはなっていたが……」
聞こえてくる声に返答はせず、グラファイトはある一方向を見ながら話す。一見、木々しか見えないが、その奥から歩いてくる存在を彼は感じ取っていた。
そしてそのすべてを言い終える前に、その存在は姿を現した。白銀のボディースーツに青銅の蛇を思わせる鱗で形成された肩パーツ兼鞭、そしてその顔はバイザーによって隠されていたが、声から大体の察しはついていた。
「女と来たか、それに子供だと? 冗談もいいところだな」
「……ほーぉ、言ってくれるじゃねえか?」
グラファイトの言葉が癪に障ったのだろう、少女の口角がヒクヒクと上がりながら震える。その様子を眺めつつ、彼は言葉をつなげる。
「で、今度はお前が俺と戦うか?」
「私はそうしたいんだけどな。その前にやることがある……お前、私たちと手を組まないか?」
「フンッ!」
少女への返答は、槍の投擲だった。高速で飛んでいくそれだが、少女はそれをわかっていたかのように首を傾けてそれを避ける。彼女の顔面の横すれすれを槍が通り過ぎていき、後方の木に深く突き刺さる。
「おー、危ねぇ危ねぇ…………ッ! わかっちゃいたが、やっぱ無理かい!?」
「当たり前だ、人間と手を組むだと?」
投げたと同時に飛び込んでいたグラファイトは、振りかぶったグラファイトファングを少女に向けて振り下ろす。それを少女は鞭を間に挟むことで受け止め、鍔迫り合いになる。その状態で少女は口を開くが、それに対する彼の口調は荒々しい。
「随分となめたことを言ってくれる。なぜ俺が弱い人間如きと手を組まなければならない!」
「協力関係は無理……なら!」
無理やり相手をはじき、グラファイトは双刃を連続で振るう。刺突と薙ぎ払い、更に叩きつけが混ぜられた攻撃を少女は危なげなく躱す。そして距離をとった少女は反撃とばかりに鞭を振るった。
「もうやっちまってもいいってことだよなぁ!?」
「はあッ!」
迫りくる鞭を、グラファイトは跳んで交わす。そして双刃を握る手に力を込め、それを開放した。
「激怒龍牙!!」
「そらよっ!」
放たれた剣戟を、少女は鞭を振るうことで迎撃する。ぶつかり合った瞬間に爆発するが、彼女にダメージが入った様子はない。それを示すかのように少女は不敵な笑みをグラファイトに向けていた。
自分の技を防がれたが、グラファイトは動じた様子を見せずに着地する。そしてお互いに武器を構え、一歩も動かなくなった。
「……なるほど、それが完全聖遺物の力ということか」
「へぇ……てことは、こいつの出自を知ってるんだ?」
先ほどの戦いを思い返しつつ、グラファイトは呟く。それに少女は返答しつつ尋ねるが、お互いの眼は油断がない。どちらかが隙を見せた瞬間、状況は再び動き出すだろう。
「あの時奪い損ねたものだ。……ちょうどいい、奴らのシンフォギアを奪い取る前に貴様のモノからいただこうかッ!」
その言葉とともに再び跳びあがり、槍を投げつける。少女はそれを鞭で迎撃しようとするが、同時に双刃を持って落下してくるグラファイトを優先するために横に跳んで回避する。そして槍が着地し、辺りが土煙で覆われる。
視界が遮られたことで少女は一瞬動揺するが、後ろから迫りくる殺気を感じ、ほぼ反射でその場にしゃがみ込む。するとその直後、先程まで少女の頭があった場所に双刃が振るわれ、続いてしゃがんでいる少女に振り下ろされる。
「ちぃ………………ガッ!?」
それを少女は両腕を交差させて受け止める。強い衝撃が身体に伝わり、彼女の足元が大きく陥没する。
どうにか反撃しようと画策するが、それを行う前に突如腕の負担が軽くなる。突然の事態に一瞬混乱するが、背中に衝撃が走って吹き飛ばされたことで、グラファイトに蹴られたことがわかる。
勢いを殺せず背中から着地してしまうが、すぐさま姿勢を立て直す。しかしその隙を逃すはずもなく、グラファイトは既に肉薄していた。
「どうした、その程度かッ!?」
「っ、冗談!」
そう言いながらグラファイトは走り、途中地面に突き刺さっていた槍を引き抜く。そしてその勢いのまま放たれた刺突を、少女は鞭を持って正面から迎撃した。激しくぶつかり合う二つの武器、武器としての格は少女の方が上なのだが、使用者のスペックがその差を埋めていた。
そしてぶつかり合うエネルギーが爆発し、お互いに距離をとる。数秒にらみ合ったのち、お互いに同じ方向へと走りだした。
「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!」
「おらあああああああああああぁぁぁぁぁぁッ!!」
同じ方向に走りつつ、その間も激しい攻防が止むことはない。道中あった物体はすべてなぎ倒し、高速でぶつかり合う二人。
いつの間にか最初にいた森林から離れ、少しずつ周りの風景は人の手によって整備された風景に変わってきていた。
「くらうがいい……! 激怒龍牙!!」
「ちょせぇ!!」 --NIRVANA GEDON--
周りに邪魔なものがないことを確認した二人はその場に立ち止まり、力を込める。同タイミングで放たれた二人の大技、それは中心でぶつかり合い、激しい爆発を引き起こす。
その衝撃はすさまじいものだが、知ったことかと言わんばかりに二人は武器を構えて突撃する。そしてお互いに振りかぶった武器を相手に叩きつけようとして――――
ーー千ノ落涙ーー
「ッ、来たか!」
「ちぃっ!」
――上から来る脅威を感じ取り、その場から離れた。その直後、彼らがいた場所に剣型の剣戟がいくつも降り注ぎ、再び周囲を土煙が覆う。少女はいきなり攻撃してきた襲撃者を、グラファイトはようやく来た戦士を見つけるために目を凝らした。
そしてその煙が晴れた時、彼らの前に立っていたのは、1人の少女。
「奏を失った事件の原因と、奏のガングニールのシンフォギア……この巡りあわせは、幸運と言わざるを得ないわね」
「てめぇは……!」
「……それで、お前はどうする?」
「知れた事。その2つ……共に回収させてもらう!!」
その言葉と共に少女――風鳴翼は、剣を構えて二人に突貫した。
≪See you Next Sequel……≫
※今回は特にありません。何かありましたら連絡していただけると幸いです。