紅蓮激唱シンフォギア   作:zelga

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第22話 『重なり始めるGear!』

 

「ハッハッハ、まさか電話一本で予定を反故にされてしまうとは」

 

 

街はずれの道路を走る黒い車。

 

それは1台だけではなく、等間隔をあけて前後に1台ずつ、計2台走っている。その厳重さは中心で守られている車の中にいる人物の重要度を示してもいた。

 

そしてその車の中で笑い声を上げている男性。言葉の内容から予定が潰れてしまったようだが、その表情には余裕が浮かんでいた。

 

 

「……旧陸軍由来の特務機関とはいえ、いささか放縦が過ぎるのではありませんか?」

 

 

男性に対しそう言葉をかけるのは、隣に座っている若い男性。眼鏡をかけたその表情には呆れと苛立ちが混じっている。片方の対象は男性に、もう片方はここにいない誰かに向けられているようだ。

 

その発言に対し、男性は微笑を崩さぬまま言葉を返す。

 

 

「それでも特異災害に対抗し得る唯一無二の切り札だ。私の役目は連中の勝手気ままを出来る限り守ってやることなのだ」

「突起物とは、よく言ったもので……」

 

 

男性の変わらぬ意志を受け、若い方の男性はため息をつきながら膝上に置いているアタッシュケースを眺める。本来今日来るはずだった人物に渡す予定だったものがこの中に入っている。これは政府から発行されたとても重要なものであり、だからこそ若い男性は来なかった人物に対し、あまりいい感情を抱いていなかった。

 

こうして話している間にも風景は移っていき、車はトンネルに入る。車1台半分の幅しかないものの、そこまで距離は長くはなく、20秒もしないうちに出口が見えてきた。そう遠くないうちに、再び外の風景を見ることができるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ!」

「うわぁ!?」

 

 

――突如トンネルの出口に、巨大なトラックが現れない限りは。

 

そのトラックは先頭の車が出る直前に現れ、道を完全にふさぐ形で止まる。気づいた運転手が急いでブレーキを踏みつつハンドルを切るが、間に合わずに衝突する。間隔こそ開けていたが止まれるほどではなく、2台目、3台目とぶつかっていく。

 

そしてすべての車が止まったことを確認したかのように、トラックの荷台から多数の男性が降りてくる。その全員が防弾チョッキなどの戦闘装備を付け、手には銃器を握っていた。

 

 

「『やれ』」

 

 

襲撃者のうち、隊長格であろう男性が声を上げつつ引き金を引く。銃口から放たれる弾丸は次々に車の中にいた人たちに牙をむく。運転手席にいた人たちが車から出て応戦するが、それも虚しく次々に殺されていく。

 

先頭、中央、後方。それぞれにいた護衛を打ち倒した襲撃者たちは次に狙いを定め、銃口が火を噴く。

 

 

「広木大臣!!」

 

 

その狙いに気づいた若い男性、すぐさま男性の手を引いて倒れさせることで彼の身を守った。しかしその代償として無防備になってしまい、身体に次々穴が開いていく。見ただけで分かる、即死だろう。

 

 

「ぐ、せめてこいつだけは…………っ!」

 

 

彼の犠牲で生き残った男性は、彼の膝上にあるアタッシュケースに手を伸ばす。

 

襲撃者たちの狙いは、間違いなくこの中身だろう。そう確信していた男性は、奪われる前にせめて中身を消去しようとする。

 

 

「『広木防衛大臣とお見受けしましたが』」

 

 

しかしアタッシュケースをつかんだ手に銃口がつきつけられ、その動きも強制的に止められてしまう。

 

 

「貴様らは、一体…………!?」

「『残念ですが、お答えすることはできません』」

 

 

日本語ではなく、英語を話す襲撃者を睨みながら男性は問うが、その相手は表情一つ動かすことなく淡々と答える。そして男性の額に狙いを付け、引き金を引いた。

 

銃声が響き、暫くして静寂が訪れる。もう襲撃者が引き金を引くことはないだろう、撃つ相手がいないのだから。

 

 

「『例のケースは?』」

「『おそらくこれでしょう』」

 

 

隊長格の男性が周囲に聞き、車内を確認していた別の男性が答える。その手にはアタッシュケースが握られており、その表面には乗っていた人達の血がベットリと付いていた。

 

隊長格の男性が近づき、アタッシュケースを開く。その中身を確認し、すぐさま閉じて仲間に指示を飛ばす。

 

 

「『目的の物は回収した。撤収するぞ』」

 

 

後はこれを彼女に渡せば任務完了だ。彼はそう考えつつ、先ほど出てきたトラックの荷台に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――来たな。早速だが、そいつを渡してもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 

二課の司令室。そこにいる響と弦十郎は、ともに明るくはない表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

『私のせいです、私が悪いんです。2年前も、今度のことも…………』

 

 

――翼の過去を知り、自分の無力さをかみしめた響。自分が未熟だったから、戦うことの覚悟ができていなかったから。

 

シンフォギアという力を持っていても、彼女自身が至らなかったから。自分が弱かったからこそ、あの日翼は命をかけて詠った。その代償は重く、数日たった今でも彼女はいまだに目を覚まさない。

 

 

『私だって守りたいものがあるんです! だから!!』

 

 

だからこそ響は、強くなるために弦十郎に師事を願った。彼女の想いを理解していた彼はそれを承諾。連日共に修行を行い、彼女に戦い方を教えていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師匠、了子さんと連絡は……?」

「……駄目だ、やはり繋がらない」

「そんな……」

 

 

そして響は今日も、朝から弦十郎と修行を行っていた。それは本来なら休憩を挟みつつ夕方まで行う予定だったのだが、急遽中断したのだ。どうやら何かトラブルが発生し、関わっている可能性のある了子と連絡がつかないようである。

 

 

「どうしよう、まさか了子さんが……「たっだいまー!」……へ?」

「む?」

 

 

どこか暗い空気を吹き飛ばすかのように、室内に響く声。その声に聞き覚えがある二人は揃って扉の方向を見る。

 

 

「大変長らくお待たせいたしましたー!……って、何この空気?」

「「了子さん(くん)!」」

「……? 何よ、そんなに寂しくさせちゃった?」

 

 

その声の人物――了子はこちらをジッと見る二人に対しキョトンした表情を浮かべるが、続いて放たれた大声に驚き、目を瞬かせる。

 

その様子から無事なことを確認し、弦十郎はホッと息を吐く。しかしそれもつかの間、すぐに表情を引き締めて彼女に状況を説明する。

 

 

「……広木防衛大臣が殺害された」

「えぇ、本当!?」

 

 

その内容を聞き、了子は驚愕の表情を浮かべる。その反応に対して弦十郎は静かにうなずき、正面にあるモニターを見る。

 

そこに映ってる光景。それは壊れている3台の車、銃器によって殺された人。そして爆発したのだろう、炎を纏っているボロボロのトラックだった。倒れている人間の中には、見覚えのある人物も見える。

 

 

「……犯人は?」

「目下捜索中だ。ただ、複数の革命グループから犯行声明が出されている」

「詳しいことは把握出来ていない、というわけか」

「あぁ、そうだ」

「了子さん、連絡も取れないから皆心配してたんです!」

「え?」

 

 

響の声を聞き、了子は首をかしげる。そして懐をあさり、いつも使っている連絡用の通信機を取り出す。そして履歴があったか確認しようとしばらく弄るが、やがて苦笑いを浮かべながら再び懐にしまう。

 

 

「あー、壊れてるみたいね……」

「…………アハ」

 

 

まさかの理由が発覚し、響は笑うしかなかった。しかし了子が無事だったのが分かったからだろうか、司令室の雰囲気は先ほどまでとは変わって明るくなっていた。

 

 

「……でも心配してくれてありがとう」

 

 

自分を心配していたことを知り、了子は微笑みながら二人に礼を言う。しかし切り替えるために表情を引き締め、右手に持った物を二人の前にある机に置く。

 

 

「そして……政府から受領した機密司令は無事よ。任務遂行こそ、広木防衛大臣の弔いだわ」

 

 

そう言って了子は、傷一つないアタッシュケースから取り出したチップを二人の前に差し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――深い、深い海の底。

 

いや、海というべきなのだろうか? 判別がよく着かないが、彼女は自分がこの空間の中で浮いているのを感じ取っていた。

 

しかし体は思うように動かず、仰向けの状態で少しずつ下へと沈んでいく。意識ははっきりしているので、彼女は今の状況を考えることにした。

 

 

「私、生きてる…………?」

 

 

死を覚悟で放った一撃。おかげで彼女を守ることができたが、代償に自分は随分とひどい状態になった。気絶する直前に見た彼女の真っ青な顔は、あまり何度も見たいものではない。

 

しかしこうして意識がはっきりとしているということは、自分は生き残ったのだろうか?

 

 

 

 

 

……いや、違う。

 

 

「死に損なっただけ、か」

 

 

そう呟き、沈んでいく感覚に身を任せる。このまま沈んでいく先には何があるのだろうか。冥界か、海底か、はたまた闇の中か。

 

そんなことを考えつつ、彼女は静かに目を閉じる。そのまま意識ごと暗闇へと落ちていき――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ったく、真面目が過ぎるぞ翼?―――

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

その声が聞こえた瞬間、翼は目を見開く。すると先ほどまでとは一変し、そこから見える風景は彼女にとって見慣れた場所になっていた。

 

 

「ここは、あの時のライブ会場……!?」

 

 

そう呟きつつ、翼は辺りを見渡す。荒れた土、広いドーム、夕日と分厚い雲。そのすべてを彼女は覚えていた。

 

彼女はこの光景を何度も夢で見ていたのだ。まるで何者かがあの日の光景を忘れさせないように仕組んだのかと思うほど、鮮明に。

 

そしてもしこれがその夢だとしたら、そう考えて翼はドームのセンターを見る。するとそこには1人の人間が立っていた。

 

 

 

 

 

その人物は女性で、紅い髪は腰まで届くほど長い。普段はその性格を反映して強く光っている眼は、今はとても優しげだ。

 

 

「―――――ッ」

 

 

その姿を確認した翼は、急いで彼女の元に走り出す。今まで動かなかったのが嘘と思えるほど、その動きは軽快だ。

 

そこまで離れていない距離だが、それでも翼にとってその距離はもどかしい。早く、早くと、頭の中がその思考だけでいっぱいになるほどに。

 

 

 

 

 

そして遂に彼女の元にたどり着き、息を整えながら翼は正面に立つ。その様子を見ていた彼女は微笑み、優しく翼を抱きしめた。

 

 

「相も変わらず、翼はガチガチだな。あんまりそうだと、そのうちポッキリいっちゃうぞ?」

「奏!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一人になって私は一層の研鑽を重ねてきた。数え切れないほどのノイズを倒し、死線を超え、そこに意義など求めず、ただ強くあるためにひたすら戦い続けてきた」

 

 

背中を合わせ、お互いに体育座りの状態で翼はポツポツと話す。女性――天羽奏はそれを静かに聞く。

 

すぐ近くに奏がいる。ただそれだけのことが翼にとってはなによりも嬉しく、安らげた。だから、ここでは彼女を隠すものは何もない。

 

彼女はすらすらと、自分の本音を語っていた。

 

 

「……でも、気づいたんだ。弱い私など何の意味もない、と」

 

 

先ほどまで柔らかかった表情が暗くなり、翼は顔を隠す。その様子を見て、奏は空を見上げながら口を開いた。

 

 

「戦いの裏側とか、その向こう。そこにはまた違ったものがあるんじゃないかな?」

「……?」

「少なくともあたしはそう考えてきたし、そいつを見てきた」

「それは何?」

 

 

それを知るため、翼は振り向いて奏に問いかける。しかし奏は彼女をニヤニヤと見ながら笑顔で言い切る。

 

 

「それは言えねえな。そう言うのは、自分で見つけるものじゃないか?」

「……奏は私にイジワルだ」

「まあな。それにあの時言ったじゃねえか、自分自身を見失うなって。それに今の翼は笑ってすらいない」

「それは……そうだけど」

 

 

それ聞いた翼は頬を膨らませつつ再び正面を見る。これによって奏の表情が見えなくなるが、目を閉じれば彼女の存在を確かに感じることはできていた。

 

 

 

 

 

――しかし、これはあくまで自分が見ている夢だ。

 

 

「でも、私にイジワルな奏はもう居ないんだよね……」

「そいつは結構なことじゃないか……っと」

「ッ!」

 

 

それを確かめるように呟いた翼に対し、奏は返答しつつ立ち上がる。背中の感触が消えたことがそれに気づいた翼も急いで目を開いて立ち上がろうとするが、振り向くのが精一杯で何故かそれ以上動かない。

 

いつの間にか風景は変わり、辺りはライブ会場から森林の中に変わっている。今まで見たことのない風景だが、翼はそんなこと気にせずに無理やり動こうとする。例え無駄だとしても、彼女は足掻かずにはいられないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そう、これは彼女の夢だ。まるで第3者の手が加わっているかのように、翼にこの光景を忘れさせないようにするためかのように。

 

 

 

「………………」

 

 

何度も見た、この光景が繰り返される。

 

 

「アンノウン……いや、グラファイト!!」

 

 

もし視線で人を殺せるとしたら、翼のそれは間違いなくその域に達しているだろう。しかしそれを受けてもグラファイトは臆せず崖から飛び降り、こちらに近づいてくる。その視線は一瞬彼女に向けられるが、それ以降は奏のみを定めていた。

 

 

「んじゃまたな、翼」

「ッ! 待って、奏!!」

 

 

そして奏もグラファイトに向かって歩き出す。その先にある光景を思い出し、止めようと必死に手を伸ばす翼。しかし、奏は振り返らずに歩き続ける。

 

そして奏とグラファイト、両者が向かい合った時、翼の身体が淡く光っていく。この徴候は、もうすぐ夢が覚めるということだ。

 

 

「私は嫌だ!」

 

 

今までと同じだとこの先の光景は変わらない。二人が戦い、そして奏は地に伏すだろう。そこにいくら介入しようとも結果は変わらず、声は届かない。

 

 

「私は……私は、奏に傍に居て欲しいんだよ!!」

 

 

例え無駄だとわかっていても、声が届かないとわかっていても、翼は叫ばずにはいられなかった。彼女は余力を振り絞って全力で叫んだ。

 

 

するとそれが届いたのだろうか、奏の歩みが止まる。そして少しだけ振り向き、片目だけが翼を映した。今までにない状況に驚く彼女を見ながら、奏は口を開く。

 

 

「あたしが傍にいるか遠くにいるかは翼が決めることさ」

「……私が?」

 

 

あぁ、そう頷いて奏は笑う。それを聞いて彼女に自分の想いを届けようと、翼は口を開こうとする。時間切れは近く、あと1言届けるのが精一杯だろう。

 

 

「……なら、私は――――!」

 

 

そして最後まで言い終えた翼は、満足そうに光に包まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「案外、遠くにいると思っているのは翼だけかもしれないぞ?」

 

 

 

 

 

≪See you Next game……≫

 

 

 




※今回は特にありません。何かありましたら連絡していただけると幸いです。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

これにて旧小説の部分までは投稿し終わりました。なのでさすがに1日に複数回投稿は終わりますが、更新は続けていくつもりです。
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