紅蓮激唱シンフォギア   作:zelga

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第23話 『覚醒のbeat!』

 

静まりかえった街道を、グラファイトはとある建物の屋上から眺める。現時刻は太陽が顔を出したばかりの時間帯であり、人間の活動が本格化するにはまだ早い。と言っても数人程度なら普段は見かけるはずなのだが、先ほどから誰一人として気配を感じなかった。

 

 

「あの計画書通り、か。他にも奴らへ送るルートでもあったのか?」

 

 

そう考えながら、グラファイトは数日前に人間共から奪ったものを思い出す。あのアタッシュケースの中には、政府から二課へ送られるはずだった極秘データが入っていた。

 

その内容は『敵勢力の狙いは完全聖遺物【デュランダル】の可能性が高いこと』、そして『敵に奪われることを阻止するために、デュランダルを封印せよ』というものだった。

 

そしてヒロキと言う人間から二課へ、別に送られたデータ。プロテクトがかかっていたため解除に苦労したが、得られた内容はグラファイトにとって十分なものだった。

 

 

「囮を用意して注意を引きつつ、デュランダルを送る作戦……人間の割に、よく考える」

 

 

木を隠すなら森の中と言うが、今回はその類の作戦だった。テロ警戒の名目で道路を封鎖して検問を配備。護衛車を数台、さらにはシンフォギア奏者である響も護衛に含めることで、敵勢力への備えも万全の状態で一気に輸送先まで駆け抜ける。これならば手を出されてもある程度は対応できるだろう。

 

 

 

 

 

――しかしそうまでやって守る車、これは囮だ。

 

本命、デュランダル入りのケースはなんと人間1人の手で送られる。普通に考えれば不可能に近い、無謀な作戦だと思うだろう。しかしこれを政府側の人間が提案している辺り、この人間はよほど信頼されていると見える。

 

そこでこの人間のことも調べては見たが、驚くほどに情報が出てこなかった。これほどまでに出ないというのは、もはやその一家が昔からそう言う存在であるとしか思えない。

 

 

(叶うなら戦いたいものだが……おそらくこいつは影の者だ。真正面から戦えるとは到底思えん)

 

 

真正面から戦うグラファイトを武士とするなら、このオガワソウジ(・・・・・・)という人間は忍者だろう。彼なりに戦う方法をいくつか考えては見たが、どれもこれもうまくいく保証がなかった。

 

 

(……まぁいい。道中戦える可能性が低いというのなら、戦わざるを得ない状況を作り上げればいいだけだ)

 

 

幸いにも、今回の作戦はグラファイトに筒抜けである。永田町地下の特別電算室、この場所に最終的にデュランダルは届けられるはずだ。

 

道中で奪えそうにないのならば、届け先で待ち構えるだけ。待つのはあまり性に合わないものの、今グラファイトが取れる手の中での最善はこれしかなかった。

 

 

「……始まったか」

 

 

街道にある時計を見て、例の作戦が始まった事を確認する。遠くの方で囮と思わしき車が走る音を聞いたグラファイトは、その場から姿を消して移動する。彼が行く先は、計画書に記されていた最終地点。永田町地下の特別電算室、通称『記憶の遺産』と呼ばれるところだ。そこで待ち伏せをし、デュランダルを持って現れた人物を強襲する。

 

完全聖遺物の取得と、強敵との戦闘。グラファイトの目的を両方とも達成することのできるこの作戦は、彼にとって完璧と言えるものだろう。

 

 

 

 

 

――取得した作戦がそのまま実行されている、という前提条件が正しければの話だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ、了子さん!」

「えぇ、しっかり掴まってて!」

「はい!」

 

 

グラファイトが聞きとっていた音――櫻井了子の車に乗っていた響は、進行方向の道路の一部に罅が入ったことを確認して大声を上げる。同じ状況を見ており、響の声を聞いて再確認が取れた了子も返事をして、アクセルを大きく踏む。

 

一気に加速された了子の車と、同じように加速する護衛車4台。それらが過ぎ去った直後、道路の罅が大きくなり、陥没する。

 

 

『敵襲だ! まだ確認はできないが、おそらくノイズだろう!』

「オッケー、このまま突っ切るわよ!」

 

 

弦十郎からの連絡を聞き、了子は返事をしつつ更に加速させる。街中を一気に走り抜け、架道橋に入っていく。するとその道中でもいくつか罅が入り、次々に崩落していく。

 

それを見た了子は、ハンドルを切って回避していく。護衛車も続いて回避していくが、遂にその内1台が避けきれず、橋から落下してしまう。

 

 

「あぁっ!」

「この展開、想定よりも早いわね……!」

『急げ、下手に時間をかけると橋ごと落とされるぞ!』

「了解了解……覚悟しなさい、私のドラテクは凶暴よ?」

「へ、それって…………ひゃぁ!?」

 

 

トップギアにし、最大加速をする了子の車。架道橋を突き抜け、あらかじめ決められたルートを走り抜けていく。その道中、マンホールから唐突に水が吹き上がったり、それに巻き込まれた護衛車が跳んできたりしたが、それも次々に回避。

 

トップスピードのまま走り続けていることには成功しているが、状況はあまり芳しくなかった。

 

 

『このままではじり貧だ、更新したルートを送る!』

「オッケー……弦十郎君、これちょっとやばいんじゃない?」

 

 

そう言いながらナビを見つめる了子。更新された目的地までのルート上には、薬品工場があるのが見てわかった。

 

 

「この先にある薬品工場で爆発なんかされたら、いくらデュランダルでも……」

『わかっている!……さっきから護衛車を的確に狙い撃ちされているのは、ノイズがデュランダルを損壊させないよう制御されているからだろう!』

「ッ、やっぱり!?」

 

 

弦十郎からの連絡を聞きつつ、前方から迫りくる障害物をハンドルを切って回避する。

 

 

『狙いがデュランダルなら、敢えて危険な地域に滑り込み攻め手を封じるって算段だ!』

「勝算は?」

『思い付きを数字で語れるものかよッ!!』

「上等! 聞こえたわね、響ちゃん!」

「え、あ、はい!!」

 

 

弦十郎の堂々とした返答を聞き、了子は笑みを浮かべながら薬品工場へ行くためにハンドルを切る。

 

門を突っ切り、了子の車と残った護衛車、計2台が敷地内に入る。一瞬襲撃の手が弱まったかに思えたが、突如前方にあったマンホールが破裂。その下からノイズが飛び出て来て、護衛者の窓に張り付いた。

 

前方の視界が埋められたことで焦り、護衛車の運転手は急いで車から飛び出る。そしてそのまま車は工場内の建物に激突し、爆発する。その煙の中を了子の車は突っ切るが、デュランダルを壊すのを恐れているのか、ノイズ共は了子の車には近づいてこなかった。

 

 

「……あっ」

「狙い通りです! このまま行けば……あ、あ、あああぁぁぁ!?」

『ッ、南無三!』 

 

 

しかし激しい爆風を突っ切るのは流石に無茶が過ぎたようだ。車体は傾き、ひっくり返されてしまう。そしてその勢いが衰えることはなく、このままでは先ほどの護衛車と同じようにぶつかってしまうだろう。

 

 

「このままじゃ……了子さん、シートベルト外してください!」

「え、あ、わかったわ!」

 

 

了子がシートベルトを外しているのを確認しつつ、響は後方の席にあるアタッシュケースを引っ張り出す。かなり重かったものの、火事場の馬鹿力が働いたのか手元に持ってくることに成功する。こんな行動をしている間も、建物の壁は迫ってくるのだが、不思議と彼女の思考は冴えていた。

 

 

「外したわよ……て、きゃ!」

「これ持って、しっかり掴まっててください! Balwisyall nescell gungnir tron――

 

 

――そしてついに了子の車は壁に激突し、激しい爆発を引き起こす。その爆発箇所をノイズは囲み、その様子を確認しているようだが、煙の中に人間の気配は感じ取れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――あ、危なかったぁ……!」

「ギッリギリだったわねー……」

 

 

爆発した建物、その屋根に降り立った響は思わずため息を吐く。そしてシンフォギアを纏った彼女の両腕に抱かれ、かつアタッシュケースを抱えていた了子もまた、流石に冷や汗をかいている。

 

 

『大丈夫か!?』

「はい、なんとか!……了子さん、どこか安全なところはありますか?」

「えっと、あそこなら大丈夫そうね」

 

 

了子の指示に従い、響はノイズの集団から離れたところまで跳んで移動する。そして着地し、了子を下ろした。

 

 

「了子さんはこのケースを」

「オッケー、任せなさい。……響ちゃんも、やりたいことをやりたいようにやりなさい」

「……はい!」

 

 

勢いよく返事をして、響はノイズ共に向かって走り出した。

 

そしてその内1体に狙いを定めて飛び蹴りを放つ。全力で放たれたそれをもろに喰らったノイズは、後方にいた同種を複数体巻き込みながら吹き飛んでいく。そして着地した響を囲むように、ノイズは展開されていく。その全体を眺めながら構えをとろうとするが、自分の重心が普段よりも前方にずれていることに気が付いた。

 

 

「あれ、なんで……って、これか」

 

 

そう言いながら足元を見て、響は原因に察しがつく。日ごろ鍛錬を行っていた時は運動靴のため、靴底は平らだった。しかしシンフォギアを纏った彼女の足部装甲はヒールであり、それがずれている原因なのだろう。

 

 

「うん、邪魔だ!」

 

 

そう即決した響は、片足ずつ踏み込んでヒールを壊す。これによっていつもの重心バランスに戻ったことを確認した彼女は、すぐさま周囲への警戒を戻す。この行動は数秒程度で行われたものだが、その間にノイズの展開は終わっており、完全に響は囲まれていた。

 

 

「ッ、せい!」

 

 

周囲の警戒が終わり、狙いを定めた響。足を一歩踏みだして前方へ跳びだし、正面にいるノイズに掌打を打つ。そして後方から跳びかかってくるノイズを回し蹴りで吹き飛ばし、正面から襲い掛かってくる別のノイズは勢いそのままに巴投げの要領で後方へ投げ飛ばす。

 

 

「おりゃあああああぁぁぁッ!!」

 

 

そのままバク転して体勢を立て直した響はノイズ集団に向かって走り出し、正面にいる1体に掴みかかる。そしてそのノイズを掴んだまま振り回し、周囲のノイズごと薙ぎ払っていく。

 

 

「次…………ッ!」

 

 

ほぼ炭化したノイズを手放し、響は次の獲物を探して走りだそうとする。しかしその行動を即座に中断し、上空に向けて跳躍した。するとその直後、先程まで彼女がいた場所に鞭が激突する。

 

空中と言う不安定な領域。しかし響は姿勢をほとんど崩すことなく、攻撃してきた鞭をたどってその持ち主を確認する。

 

 

 

 

 

――そして見つけた人物は、響の予想通りだった。

 

 

「今日こそお前をモノにしてやる!」

「やっぱり……くッ!」

 

 

跳び蹴りの姿勢のまま響に迫り、声を荒げるネフシュタンの鎧を纏った少女。その蹴りに反応し両腕をクロスさせた状態で受け止めるが、勢いは殺せずに吹き飛ばされる。

 

何とか空中で姿勢を整え、着地に成功する響。そして迫りくる鞭に対して避けつつ対策を考えるが、根本的な力が違い過ぎて防御で精一杯のようだ。

 

 

(まだシンフォギアを使いこなせていない……! どうすればアームドギアを……?)

 

 

――アームドギア。それは翼曰く、常在戦場の意思の体現。シンフォギアを纏い、覚悟を持った奏者だけが扱えるという武装。

 

響はあの日から訓練を重ねつつ、どうにかアームドギアを発現させようとしていた。しかし未だにそれは達成されておらず、それが響に【自分には覚悟がまだ足りていないのでは?】と言う疑念を抱かせていた。

 

この瞬間もその想いを一瞬抱いてしまうが、すぐに頭からその思考を振り払う。かと言ってこの状況を脱出するには、今は少女の攻撃を防ぎ続けるしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あ?」

 

 

二人の戦う様子を眺めていた了子。ふと違和感を感じ、後方に振り向く。そこには先程持っていたアタッシュケースがあり、唐突に淡く発光しだしたのだ。

 

 

「これは……?」

 

 

了子がそう呟いている間に、光が徐々に収まっていく。そして完全に収まった時、アタッシュケースの口から煙が勢いよく吹き出される。

 

 

「この反応、まさか……覚醒!?」

 

 

了子がその言葉を言い終わるより早く、アタッシュケースが内側から破壊される。そしてその中より、とある物体が上空へ浮上していく。

 

その物体は剣状であり、両刃のそれは石造りのようにも見える。しかし幾何学的な装飾や放たれる雰囲気から、それが古代遺物であるということは明らかだ。

 

 

 

 

 

――その名はデュランダル。日本政府が管理保管している数少ない完全聖遺物の一つで、今回の作戦の要でもある。

 

 

「こいつがデュランダル……!」

 

 

浮上してきたデュランダルに気づき、目標を見つけた少女は笑みを浮かべながらも響への攻撃を緩めない。そしてその内の一撃を彼女の足元に放ち、衝撃で発生した煙が周囲を包み込む。

 

その隙に少女は建物の屋根へと跳び上がり、デュランダルの位置を確認する。そして再び跳躍し、デュランダルに向けて右手を伸ばす。彼女の目的は響はもちろんだが、あくまで本命はこちらだ。完全に手に入れることができたと思った少女は、わずかながらも気が緩んでしまう。

 

 

 

――そして幸か不幸か、それは背後から迫りくる少女を察知するのを遅らせてしまった。

 

 

「おりゃあぁぁぁ!」

「な!?」

 

 

響は背後から少女にタックルすることで、その姿勢を崩させる。それによって腕の軌道が変わり、デュランダルに届かなくなる。そして響はそのまま腕を伸ばし、デュランダルを確保しにかかった。

 

 

「渡す、ものかッ!」

 

 

そしてその手は届き、デュランダルの柄を握る。ひとまず手に入れたことを安堵し、この先のことを考える。

 

とりあえずこれは了子に預けよう。そのためにも、まずはこの場から離れなければ。響はこの時、こう考えていたはずだった。

 

 

 

 

 

「――――――――え?」

 

 

まばゆく光る、デュランダルの刀身を見るまでは。

 

 

 

 

 

≪See you Next game……≫

 

 

 




※グラファイトが手に入れた計画書……本当ならこちらで行われるはずだったが、それだと都合が悪くなると踏んだ誰かさんが計画を書き換えた模様。その結果、現時点でグラファイトは記憶の遺産でポツンと待ちぼうけ。

ここまで読んでくださりありがとうございます。
シップスさん、エターナルドーパントさん、無銘さん。感想等ありがとうございました!
ravellさん、評価ありがとうございます!



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