紅蓮激唱シンフォギア   作:zelga

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第26話 『翳りなきSunny』

 

「デュランダルは覚醒し、二課の連中は俺の正体に気が付いた」

 

 

木々が生い茂る森林の中を、グラファイトは歩く。

 

 

「俺が倒すべき存在も定まり、目的を達成する手段も向こうから現れた」

 

 

かろうじて獣道と呼べる狭い隙間を、グラファイトはずんずん進んでいく。その心情を表しているのかのように足取りは軽快で、普段よりもペースが速い。

 

 

「……あぁ、順調だ。俺の正体も判明し、奴らが思う存分戦える大義名分も与えてやった。後はアメノハバキリが復活し、ガングニールが覚悟を決めるだけ」

 

 

木々を抜け、川のほとりに出る。そこから川に沿って移動を続け、暫くすると目の前の光景が一変する。この先は崖であり、川の水は滝となって下へ落ちている。その底は見えず、水は途中で霧となって下の風景を隠していた。

 

そしてグラファイトは迷わずそこから飛び降り、霧の中を突っ切る。そして数十秒間の浮遊の後、危なげなく着地した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――故に、ここからはセカンドステージだ。お前にもそろそろ、動いてもらう」

 

 

そう言いながらグラファイトは視界に映る建造物――荒れ果てた大地の中心に建つ大型のドーム、それを目指して再び歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ…………」

 

 

リディアン音楽院、その運動場。その敷地内にあるトラック内を、響は走っていた。走り始めた時はまだ薄暗かったが、今では太陽が完全に顔を出している。一度休憩を挟んだとはいえ、彼女は既に1時間以上は走り続けていた。

 

なぜこう迄走り続けるのか、それは数日前に起こなわれたデュランダル移送作戦が関係している。

 

 

(あの時、暴走したデュランダル。怖いのは制御できない力じゃない。私がそれを躊躇いなく、あの子に使おうとしたことだ)

 

 

あの日、響はデュランダルを握った瞬間から意識が朦朧となっていた。作戦終了後に了子から話を聞くと、自分はネフシュタンの鎧を纏った少女に襲い掛かったらしい。

 

響自身、彼女と戦う気など毛頭なかった。しかし、あの時彼女が聞いた声――

 

 

 

――スベテヲコワセ!!――

 

 

「……ッ!」

 

 

頭を振り払い、それを振り払うようにペースを上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響が目を覚まして最初に見た光景、それはすさまじいものだった。薬品工場の建物はほぼ崩壊し、もはや工場としての機能は維持できないだろう。そして周囲には後処理のためか何人かが作業しており、眼の前では了子が誰かと通話していた。

 

 

『――了解、移送計画を一時中断し撤収の準備をさせます。……あ、響ちゃん。目を覚ましたのね』

『あ、はい。あの、これは…………』

 

 

通話を終了させ、振り向いた了子は響が目覚めたことに気づいて声をかける。それに返事をしつつ、響は周りを見ながら思わずつぶやいた。

 

 

『これがデュランダル、あなたの歌声で起動した完全聖遺物よ』

『私、が……?』

『まぁ暴走していたし、しょうがないとしか言えないわね。……でも、これでも幸運なのよ?』

『これで、ですか?』

 

 

了子が話した内容、その言葉を響が理解するのには時間がかかった。たとえ爆弾が爆発したとしても、これほどの被害は上手ないだろう。だと言うのに、これが幸運?

 

 

『どういう、ことですか』

『圧倒的なエネルギーの無限生成、それがデュランダルの力。それが制御できずに暴走したのだから、私は少なくともこの工場は全部吹き飛ぶと思っていたわ』

『――――え?』

 

 

その言葉を聞いて、響の思考が固まる。了子は軽く言っているが、それは了子やネフシュタンの少女、下手すればそれ以上の命を奪いかねなかったと言っているようなモノだ。

 

響はあの時意識が朦朧で、ある意味正気ではなかった。だとしても自分が人を殺そうとした、その事実は変わらない。

 

 

 

――この、人殺し!!――

 

 

『ッ、ちがう……私は、そんなつもりじゃ……!』

『……響ちゃん?』

『違う……違う……ちが、う…………ッ』

『響ちゃん!?』

 

 

【人殺し】、そのワードは響にあの過去を思い出させてしまう。当時を思い出し、その時浴びせられた罵声が彼女の頭の中で反響する。

 

響は両手で耳を塞ぎながら、うわ言の様に【違う】と口にする。そして異変に気づいた了子が声をかけるも、彼女は再び意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(私が、いつまでも弱いせいで……!)

「――――――?」

 

(このままじゃ駄目だ。ゴールなんかで止まっていちゃ、私はまた守れなくなっちゃう……!)

「――――――き!」

 

(遠く、もっと遠くへ――――!!)

 

 

 

「響、ストップ!」

「…………え?」

 

 

ハッと正気に戻り、自分がいつの間にか立ち止まっていることに気づく響。そして右手に感触を感じて振り返ると、そこには一緒に走っている女性――未来が自分の手を握っている光景が映っていた。

 

 

「……未来?」

「ハァ、ハァ……やっと考え事やめてくれた。さっきからずっと呼んでいたのに、全然反応してくれなかったんだよ?」

「あ、ごめん……えっと、どうしたの?」

「いくらなんでも張り切りすぎ。さっきからペース上がりっぱなしで、そのままじゃ倒れちゃうよ?」

「大丈夫だって。ほら、今もこんなに元気…………うひゃっ」

「響!」

 

 

自分が元気であることを示すため、その場で両手を上げてバンザイのポーズを響はとる。しかし一旦落ち着いたことで、今まで感じていなかった疲労感が一気に押し寄せてくる。軽くめまいがして体勢を崩すが、未来が素早く駆け寄って支えることで倒れずに済んだ。

 

 

「あー……ちょっと、無茶しちゃったかも。あははは…………」

「…………」

「う……未来、ごめんなさい」

「よろしい」

 

 

響は笑って誤魔化そうとするが、それを見た未来はじー……と彼女を半目で軽くにらむ。お互いの顔は近く、間近で無言の時間がしばらく続く。そして、そう時間がかからないうちに響の方が折れた。彼女の謝罪を受け取り、未来は呆れと慈愛が混ざった表情で彼女を支えなおす。

 

いくら鍛えているとはいえ、スタミナを考慮せずに無謀なペースで数時間もの間走り続けたのだ。それを自覚してしまった今、響は身体が鉛のように重く感じていた。

 

 

「もぅ……今日の走り込みは終わり。お風呂入ろ?」

「はい、そうします……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁー、極楽ゥ…………」

「ふふ、そのままじゃトロトロになっちゃうよ?」

「今はトロトロになってもいいー……」

 

 

走り込みを中止した二人は、部屋に戻って一緒に風呂に入る。疲れ切った体に温かいお湯が染み渡り、響は文字通り溶けそうになっている。その様子を見て未来はクスクス笑い、さりげなく肩を当てることで彼女がお湯の中に沈むのを防いでいた。

 

 

「未来ー」

「なーに?」

「日曜日なのに、ごめんね。朝から付き合わせちゃって」

「ううん、大丈夫。私も中学時代を思い出せて気持ち良かったー」

 

 

響の言う通り、今日は日曜日。そして午前中だけとは言え、今日も学校はあるのだ。なのに朝早くから結構な密度の走り込みにつき合わせてしまったことを詫びる。それに対し未来は目を閉じつつ、両手で伸びをしながら返した。その様子から、言葉に嘘はなさそうである。

 

 

「うそぉ……さすが元陸上部」

「誰かさんと違って、ちゃんとペースを考えていましたからねー?」

「うぐっ…………未来の意地悪」

「ウフフ、ごめんごめん」

 

 

片目だけあけて響を見ながら、未来は揶揄うような口調で話す。図星をつかれた響は少し顔をしかめ、拗ねるようにお湯に深くつかりながらジト目で未来を見返す。いじらしい態度に未来は微笑みながらすぐに謝り、冗談であることをわかっていた響はすぐ浮き上がる。

 

そして再びお互いの肩が触れる位置になった二人は、窓から見える外の風景をゆっくり眺めていた。

 

 

「ねぇ、響」

「なにー?」

「少し、リディアンに入学してから変わったね。前は何か1つのことを頑張ったりとか、あまり好きじゃなかったでしょ?」

「そうかな? 自分では変わったつもりはないんだけど……」

「そうだよ。……あれ、ちょっと筋肉がついたんじゃない?」

「え、そうかな?」

 

 

未来に指を刺され、響は自分の腹部を見る。以前とあまり変わっていないように見えるが、運動部に所属していた彼女にはわかる物なのだろうか。

 

 

「ほら、ここ……って、あー! よく見たら傷ついているじゃないの!?」

「へぇあ!?」

 

 

恐らく弦十郎との鍛錬の際についた傷、それはとっくに完治していて傷跡もほとんど残っていない。しかしわずかな異変に未来は気づき、慌てて傷のある個所をつかんだ。

 

先ほど言ったとおり、件の箇所は腹部。わき腹付近ともいえるそこを突如つかまれた響は思わず声を上げる。むず痒い感覚に響は身をよじらせているが、未来はそんなのお構いなしに触り続けた。

 

 

「どうしたの?……うわ、ここにもある。ここにも、ここにも……」

「あーはははは! やめてとめてやめてとめてやめて!」

「フフ、ここにも、ここにも!」

「わーーーー!!」

 

 

 

 

 

「ねぇ、今度フラワーでお好み焼きおごってよ」

「んぇ?」

 

 

しばらくの間二人はじゃれ合っていたが、始業時間が近づきつつあることに気づいて風呂から出る。

 

そして脱衣所で着替えている時、未来が響に提案した。それを聞いた響は不思議そうな表情で聞き返す。

 

 

「日曜に付き合ったお返しということで……どう?」

「うん、もちろんいいよ」

「よし、契約成立!」

 

 

楽しみだなー、見るからに上機嫌な様子で制服を着る未来。しかしその様子を見ている響は不思議そうな表情を浮かべていた。

 

 

「……ねぇ、本当にいいの? フラワーなら時々だけど一緒に行ってるじゃん」

 

 

響の質問、それには自分の無茶に付き合ってくれた未来へのお礼がそれでいいのかという疑問が含まれていた。

 

フラワーのお好み焼き、それが頬が落ちるほど絶品であるということは二人の共通認識である。だからこそ二人が外食する際、真っ先に候補に挙がっているのだ。と言っても基本的に家事が特異な未来が食事を自炊するため、その回数は少ないのだが。

 

だから未来から要求されている報酬、それはあまり特別感を感じないものだった。なので思わず響は承諾した後に聞いたのだ。

 

 

「い・い・の。フラワーのお好み焼きが食べたい気分なんだし……響と一緒に食べたらもっと美味しくなるんだもん」

 

 

だが、そんな考えは余計なようだ。未来の照れつつも純粋な笑顔を見て、響は自然とほほ笑みながらそう思った。

 

 

「……わかった、明日の夕方なんてどう?」

「うん!……あれ、今日は何か用事あるの?」

「うん、そうなの。最近一緒にお手伝いしている人から頼まれ事されちゃって……って、もうこんな時間だ」

「あ、本当だ。ちょっと急ごっか」

 

 

未来の声に同意し、響も急いで制服に着替える。そして未来が用意しておいた軽めの朝食をとり、二人は寮から出て学院に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに、これ…………」

 

 

その数時間後、とある病室の前に立った響。深呼吸をしてその部屋に入った時、彼女が見たのは衝撃の光景だった。

 

 

「ま、まさか……そんな……!」

 

 

その部屋は、荒れ切っていた。足の踏み場もない程部屋の主の所持品が散乱し、コーヒーが入っていたであろうカップは倒れて中身がこぼれている。見舞いに来た人が置いていったのだろう花は枯れ、普通はこのような惨状になるとは思えない。

 

思わず手に持っていた鞄を落とし、フラフラと部屋に入る。肝心の部屋の主の姿はなく、不気味な静けさを放っていた。

 

 

 

 

 

――この光景はまるで、ここで誰かが争ったかのようで。

 

 

「ッ、翼さん――――!」

 

 

 

 

 

≪See you Next game……≫

 

 

 




※今回は特にありません。何かありましたら連絡していただけると幸いです。


ここまで読んでくださりありがとうございます。
悪維持さん、sevenblazespowerさん、無銘さん、シップスさん。感想ありがとうございました!
ああああああさん、評価ありがとうございます!
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