紅蓮激唱シンフォギア   作:zelga

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第3話 『Identityを超えて』

 

 

彼は最後まで自分の生き様を貫き、満足して逝った。

 

しかしその生涯にはあるはずのない続きが存在した。己の願いに迷い考え、強者との出会いにより武人としての在り方を思い出す。そして彼は仲間にらしくないと笑われないよう、自らを鍛えなおそうと奮起した。

 

その誇り高き龍戦士、グラファイトは今――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、あー…………大丈夫、ですか?」

「……これが、大丈夫に見えるか?」

 

 

――――項垂れたミイラ男と化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、まずはなぜこうなったのかを説明せねばなるまい。

 

始まりはこの時より30分前。1時間余りによる口論の末、グラファイトは少女の治療を受けることにしたのだ。

 

長時間による口論により彼の頭は冷え、少し冷静になっていた。そこで言い争いをしながらも考えた結果、さっさと治療を受けてこの場を離れた方が早く済むと判断したのである。なぜならもしもの可能性が残っている以上、できる限り早く日本に戻りたいと彼は考えていたからである。

 

 

「ったく、わかった!……お前の治療を、受けよう」

「本当ですか!? やった!」

「…………」

 

 

別に涙目で迫り続ける少女に気圧されたわけではない。ないのである。

 

 

 

 

 

そして少女に(無理やり)連れてこられ、場所は変わって医務室。グラファイトはせめて道具だけ受け取って自力でそれっぽく治療しようとしたが、少女がそれを断固拒否。

 

 

「私に任せてください!」

 

 

の、一言と共にグラファイトを椅子に座らせる。抵抗するだけ時間がかかると判断していた彼は、何かおかしな行動をしない限り任せることにした。

 

 

「えっと、包帯がここで……消毒液はここ、と……」

 

 

そう、おかしな行動をしない限りは。

 

 

「では消毒が終わったので、包帯を巻いていきますね。……あれ、どうやって巻いたらいいんだろう?」

「…………」

 

 

そう、おかしな行動を――――

 

 

「あれ、姉さんはこうやってたわよね? 何でできないんだろう……なら、こうやって……」

「……………………」

 

 

そう、おかしな――――――

 

 

「あれ、あれあれあれあれ??」

「…………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数分後。先ほどの戦い、上の部屋で指揮をとっていた女性が様子を見に来たところ、その目に写ったのは予想外の光景であった。

 

 

「ごめんなさい、ごめんなさい…………!」

「何をどうしたら、これが治療行為になるんだ……?」

 

 

女性の視線の先には椅子に座り、なんともいえぬ雰囲気を纏ったミイラ男に謝り倒す少女の図があった。

 

多少は和解できているだろうか? あの子はお礼を言えただろうか? 私はなんとお礼を言えばいいか? もしかして険悪な雰囲気になってないか?

 

様々な状況を想定し、脳内でシミュレートしていた結果は彼女からサラサラと消去されていく。あまりの衝撃に思考停止したと言ってもよいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――これが最初の光景に至るまでの過程である。ではなぜこうまでされてグラファイトが動かなかったのか? 

 

その答えはこうだった。

 

 

「治療をやると言っておきながら、まさか知識なしだとは……」

 

 

グラファイトは包帯をほどきながら呟く。彼にとってのおかしな行動とは、彼自身を探るような行動だったのだ。

 

先ほどの反応を見る限り、少なくともこの少女はバグスターの存在を知らない。普通未知に遭遇した人間がとる行動は二つ。解き明かすか忘れるかだ。そして少女は彼と接触した。つまり忘れるという選択肢はとらなかったことになる。なので彼はこの治療中に少女が何か聞いてくるものだと思い、気づかれぬよう身構えていたのだ。それを行った瞬間、すぐさま行動に移れるように。

 

しかし、その結果がまさかのこれだ。普段全くやらないグラファイトですら知っている治療の基本手順を、少女は知らなかった。それどころか記憶を頼りにやった結果、包帯を途中で切らずに全身の傷を覆うというとんでもない行動をしてきたのだ。

 

彼女は怪物を抑える力を扱えるだけで、それ以外は何も変わらない普通の少女だった。その事実に途中で気づいたグラファイトは、警戒していた自分自身が馬鹿らしくなってしまった。

 

確かに人間を嫌悪してはいるが、これは流石に度が過ぎていた。そう思い、軽く落ち込んでいたのが最初に項垂れていた原因でもある。

 

 

「……で、お前はなんのようだ。こいつの様子を見に来ただけではないのだろう?」

 

 

取り外した包帯を巻きながらグラファイトは女性に問いかける。その声を聞きハッとした女性は、意識を切り替えて口を開いた。

 

 

「えぇ、私がここに来た理由はそれだけではありません。米国連邦聖遺物研究機関【F.I.S.】を代表して、感謝を申し上げます」

 

 

そう言って女性が頭を下げる。それを聞いたグラファイトは不機嫌な表情を隠そうともせず包帯を置いた。いくつか気になる単語が出たが、それよりも彼は自分の思いを口にすることにした。

 

 

「あいつと戦ったのは俺自身のためだ、お前たち人間のためではない」

「……だとしてもあなたのおかげでネフィリムの暴走は収まり、その娘……セレナの命は救われました。本当なら何かお礼を渡したいのですが、あなたはそれを望まないでしょう」

「全くだ、貴様らのような子供に戦事を押し付けるような輩からもらうものなどない」

「っ、それは!」

「止めなさい、セレナ。それしか方法がなかったとはいえ、私は貴方に死を命じたに等しいことをした。その事実から目を背けるつもりはありません」

 

 

あえて挑発するかのように言うグラファイト。それを聞いてセレナが弁明しようとするが、女性がそれを諫める。その様子に嘘偽りがないのを見抜いた彼は、愚かだがその自覚はあるのだなと少しだけ評価を上方修正した。

 

 

「まぁいい、何度も言うが礼を言われる筋合いはない。俺は俺のために動いただけであり、お前たちはその結果偶然助かった」

 

 

それだけだ、と締めくくる。包帯を外すついでに体調のチェックを行っており、問題ないと判断した彼は椅子から立ち上がる。

 

 

「もう行っちゃうんですか?」

「あぁ、俺には戻るべき場所があるのでな」

「それってやっぱり、日本?」

「……なぜそれを知っている?」

 

 

グラファイトは身構えつつ尋ねる。少なくとも今までの会話から彼が日本を目指していることはわからないはずだ。

 

彼が警戒しているのにも気付かず、セレナはあっけらかんと答えた。

 

 

「だって、あなたは日本語を話しているじゃないですか? だから日本出身じゃないかと思って」

「…………あぁ、そうだ、そうだったな」

 

 

そうだった。すっかり忘れていたがここは日本ではなくアメリカ、外国である。事実、街中で情報収集していた時は彼の中にある記憶を基に英語を翻訳していたのだ。

 

しかし戦闘による興奮、彼女たちと会話が通じることによるの違和感の無さ、彼女たちが話す日本語が流暢である事。これらにより、彼は今まで違和感なく日本語で話してしまっていた。

 

そのことをセレナに指摘され、グラファイトは内心頭を抱える。彼は基本的に争い事が専門であり、そう言った細かいところは仲間に任せてあまり目を向けてこなかった。その弊害が出てしまったのだ。

 

 

「日本へはどうやって行くんですか? 飛行機、それとも船?」

「……人間と共に行動する気はない」

「じゃあ船、というよりボートですね。けど、ここからじゃ太平洋まで車でも数日かかりますよ」

「車の運転経験はない。それに俺に睡眠は不要だ、その内着くだろう」

「…………」

 

 

地味にショックを受け、かつ考え事をしていたせいでセレナの質問に対しグラファイトは普通に答えてしまう。その返答を聞いた彼女が何かを考え始めたのを見て、質問が終わったと判断する。

 

 

「質問は終わりだな。では俺はいk「あの!」……今度はなんだ?」

「あの、もしかしてですけど……あなたは徒歩と船で日本に行くつもりなんですか?」

「……そうだ、それがなんだ?」

 

 

再び話しかけてくるセレナに対し、少し鬱陶しそうに答える。ちなみに先ほどから彼自身のことを聞く【おかしな行動】に分類できる質問を彼女がしているのだが、彼女に対して警戒を緩めていたグラファイトは無意識に答えていた。

 

そしてその返答を聞き、セレナはさらに質問を重ねる。ちなみに女性は少し離れたところで二人の様子を黙って見守っていた。

 

 

「あの、その方法だと日本に着くのに何か月もかかってします」

「そうだな、だがそれは承知の上だ」

「もし……もし、もっと早く日本に行く方法があるなら、嬉しいですか?」

「……何が言いたい?」

 

 

回りくどいことを嫌うグラファイトは率直にセレナに聞く。先ほど彼は人間と共に行動する気はないと言ったはずだ。なのにその条件を満たしたうえで早く着く方法があるというのか?

 

その言葉を含めた問いに対し、セレナは慌てながらもはっきりと答えた。

 

 

「はい、えっとですね……私と一緒に日本に行きませんか!?」

「…………待て、まずなぜその案が出たのを教えろ」

 

 

何度目かのこのパターン。グラファイトは怒りを通り越え、呆れの念を抱き始めていた。だが先程の反省から、まずは案だけでも聞いてみようと続きを促す。

 

 

「えっと、まず私は1週間後に日本へ行く用事があります。その時は飛行機に乗っていくのですが、貸し切りで私しか乗りませんし、操縦も自動運転だとマムから聞きました」

 

 

マム、というのが誰を指すのかはわからなかったが、その名を発する際に部屋の隅にいた女性を見ていた。言葉の内容に対し相槌を打っているのだから、あの女性がマムなのだろう。

 

 

「ですので、もしあなたがよろしければ一緒に行きませんか? 人間は私しかいませんし、それでも嫌なら頑張ってなんとかします!」

 

 

最後まで言い切るセレナ。それを聞き終えたグラファイトは、今までの様に怒鳴るのではなく静かに彼女へ問いを投げかける。

 

 

「一つ、聞きたいことがある」

「なんですか?」

「なぜお前は俺にここまで固執する? 俺たちには何のつながりもないというのに」

 

 

正直な話をすると、この案はグラファイトにとって悪くないものであった。人間と共に行動する気はないが、1人程度ならやるかどうかは別として我慢できるだろうし、その相手がセレナなら問題はないだろう。

 

だがそれよりも気になることがグラファイトにはあった。それはなぜセレナがここまで彼を気にかけるのか、である。

 

エグゼイドとパラドのように同一存在でもなく、彼とブレイブ、スナイプのように宿敵でもない。ましてや彼とパラド、ポッピーピポパポ達のように仲間でもない。

 

赤の他人に等しいはずの彼女がなぜここまで必死なのか、彼にはそれが気になったのだ。

 

そしてその問いに対し、セレナの答えは至極簡単であった。

 

 

 

 

 

「私は貴方に助けてもらいましたから。今度は私が、あなたを助けたいんです!」

 

 

笑顔で、セレナは言い切った。

 

ただ、それだけだった。それだけだったのだが、逆にそれだけセレナが真剣にそう思っているのをグラファイトは感じ取った。そして、彼女がどのような人間なのかを理解した。

 

 

本当に、この子はただ一生懸命なのだ。

 

皆を守るため、一生懸命に力を扱い――――

 

怪物を抑えるため、一生懸命に歌を歌い――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――そして今は助けてくれたグラファイトのため、一生懸命手助けしようとしている。

 

 

「………………」

「ど、どうでしょう……?」

「……フ、ハハハハハッ!!」

「うえぇ!?」

 

 

沈黙していたかと思えば突如笑い出したグラファイトにセレナは驚く。しかしその表情が晴れやかになっていることに気づき、ポカンとした表情になる。

 

 

「ハッ!…………いやなに、あれこれと考えていた俺自身が馬鹿らしくてな。つい笑ってしまった」

「あ、え? はい……?」

「良いだろう。お前からのその案、受け取ってやる」

「…………え、本当ですか!?」

「あぁ、だが俺は基本的に人間とは行動を共にしない。それでも構わんな?」

「っ、はい!」

 

 

内心受けると思っていなかったのだろうか、セレナは驚いた表情と声で叫ぶ。それに補足を加えつつグラファイトが答えると、彼女は花が咲いたような笑顔で返事をした。

 

 

「……ついでだな。おい、マムと言う名でいいのか?」

「私の名はナスターシャです。マムと言うのは、ここにいる子供たちからの呼び名ですね」

「そうか、まあいい。こいつが言ってることはできるのか?」

 

 

恐らくだがセレナの日本遠征計画等は彼女が立てている。そう考えたグラファイトはナスターシャに確認がてら尋ねることにした。

 

 

「えぇ、問題ありませんよ。1人分の追加なら、いくらでも理由を付けれます」

「ならば、それをやれ。こいつの案を手助けする事で、礼として受け取ろう」

「!……はい、しっかりとやらせていただきましょう」

 

 

一瞬ナスターシャは驚いたような表情をする。その反応をグラファイトは見逃さなかったが、何も言わなかった。何せこの行動は少し前の自分でも予想できなかったものだったからだ。

 

手を組む気など毛頭ないが、少しだけ人間に歩み寄る行為。これをもし仲間たちが見たら、どんな顔をするだろうか?

 

再び椅子に座り、彼は今はもう会えるかもわからない友の顔を思い出しながら、そう考えていた。

 

 

 

 

 

«See you Next game……»

 

 

 




※グラファイトが治療の基本を知っている……中の人(直喩)的に知ってそうだと思いました。
※グラファイトの性格が少しだけ丸い……これは大往生したため、多少は角が取れてもいいんじゃないかなーと思ったので。
※セレナの日本遠征……後々わかります。原作では遠征前に絶唱顔したという設定。


ここまで読んでくださりありがとうございます。
エターナルドーパントさん、無銘さん、シップスさん。感想ありがとうございました!

感想・評価等していただければ幸いです。
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