紅蓮激唱シンフォギア   作:zelga

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その違いはきっと、弱さを認めているかどうかだろう。



第32話 『砕け散ったRampart』

 

 

『パラド、一つ聞いていいか?』

『ん、なんだ?』

 

 

人気のない廃墟。彼らが最近根城にしているこの空間で、グラファイトは近くにいる青年に問いかける。

 

 

『なぜゲンムは復活している? 奴はお前が直接手を下したのだろう?』

『あぁ……俺があの時、デンジャラスゾンビのバグスターウイルスと死のデータを感染させて消したはずだ』

『人間は俺たちとは違い、命は1つだけのはず。……考えてはみたが、俺では結論がつきそうにない』

『そうだな……』

 

 

グラファイトの問いかけに対し、パラドと呼ばれた青年は口に手を当てて考え込む。基本的にグラファイトは戦闘担当であり、こういった知略を使う仕事は彼かもう1人の仲間に任せている。そのもう1人が現在いない以上、この分野は彼の方が適任だった。

 

 

『とりあえずわかることはある。ゲンムは人間じゃなく、バグスターになったということだ』

『バグスターにだと!?』

 

 

驚愕するグラファイトに対し、パラドは間違いないと返す。確かに、それならば死んだはずの人間が蘇っているのかは説明できる。だが彼は、どうやって件の人物がバグスターになったのかはわからなかった。

 

 

『どうやって……ッ。俺たちバグスターによって倒された人間はデータとなって元のプロトガシャットに保存される……』

『それはそのゲームのバグスターを倒すことで解放される』

 

 

グラファイトが話す言葉の続きを、パラドが口にする。それを聞いたグラファイトは、頭の片隅に置いていた知識が間違いではないことを確信する。

 

 

『それはつまり、俺たちの知らぬところでデンジャラスゾンビのバグスターが倒されたということか?』

『……いや。それよりは、ゲンム自身がデンジャラスゾンビのバグスターになったと言う方が正しいと思う』

『人間がバグスターに、か。一度死んだ以上、そのまま復活するとは思わなかったが……そう言うことだったのだな』

 

 

パラドの考えを聞き、グラファイトは自分の中で考えをまとめながら呟く。その様子を見て、彼は少し呆れつつも笑って口を開いた。

 

 

『本当そこら辺はいい加減だな、お前』

『気にしたところで俺がやることは変わらんからな。……だがパラド、そんなことが人間如きにできるのか?』

『……そうだな、ただの人間なら無理だと思うぜ』

 

 

グラファイトの問いかけを聞いて、パラドは立ち上がりながら答える。そして両手に持つ道具――ゲーマードライバーとデュアルガシャットを見ながら呟いた。

 

 

『だがゲンムは仮面ライダー……バグスターウイルスをその身に適合させた人間だ。もしかしたら、それが死んでデータになっても人格を取り戻せた理由なのかもしれないな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ッ!」

 

 

近寄る気配を察知し、グラファイトは意識を切り替える。そして迫りくる方向に予想を立てた後、ゆっくりと双刃を構える。

 

そしてその数秒後、グラファイトの背後からそれは現れた。前足の鋭い爪をもって引き裂こうと跳びかかるが、既に見抜かれていたその攻撃は空振りに終わってしまう。

 

 

「――――ッ!!」

「ふんッ!」

 

 

体を捻ることで最小限の動きで回避するグラファイト。勢い良く跳びかかったこともあって、敵は目の前を通り過ぎようとしている。その隙を逃すはずもなく、双刃を振り抜いて胴体を真っ二つに両断した。

 

致命傷を受け、敵は絶命する。しかし血が出ることはなく、死体はブロック状の粒子に分解されてその場から消え去った。それを見たグラファイトは一度息を吐き、改めて周囲を探索する。

 

 

「反応は無い……一度戻るか」

 

 

グラファイトがこの世界に来てから、すでに結構な時間が経過している。時計などこの場にはなく、彼は時間など気にせずに戦い続けていた。朝になったら襲撃すると言った以上、時間を確認するためにも一度戻った方がいいだろう。

 

そう判断したグラファイトは、この世界から出るために意識を集中させる。すると目の前にタイトルロゴ入りのパネルが現れ、彼はそのパネルの中に跳びこむ。そして再びパネルから出た時、彼の周囲は深い森林から拠点にしている廃墟へと変わっていた。雨が降っているようで正確な時間は不明だが、少なくとも夜中ではなさそうだ。

 

 

「お、帰ってきた」

「あぁ。準備は良いな、今から奴の拠点に襲撃を――――」

 

 

背後から奏の声が聞こえ、グラファイトは振り向きながら準備ができているかどうかの確認をするため口を開く。だが、その言葉は途中で途切れることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スー、スー……」

「……おい、なんだそいつは?」

 

 

振り返ったグラファイトの視線の先には、ソファに座る奏と彼女の膝を枕にして眠る少女――クリスの姿が映っていたのだ。

 

 

「ノイズに追われてたみたいでさ。どうやら、雨をしのぐためにここに転がり込んできたらしい」

「なぜお前はそれを放置していた?」

「襲撃かと思ってさ、ノイズを蹴散らしに行ってたんだよ。んで終わって戻ってきたら、ソファで眠るこの姿が」

「……フゥ」

 

 

奏から事の経緯を聞いて、グラファイトは静かにため息を吐く。彼女とは既に1年以上の付き合いであるため、これ以上何を言っても無駄だろう。そう判断した彼は、さっさと本題に戻すことにした。なおその内容でも彼女が膝枕をしている理由はわからなかったが、彼にとってそんなことは些事である。

 

 

「もういい、本題に戻すぞ。今からフィーネの拠点を襲撃する、ノコノコするなら置いていくぞ」

「あいよ……って、ん?」

「フィー、ネ……?」

 

 

フィーネと言う単語に反応したのか、クリスが身動ぎする。一度寝返りをうった後、ゆっくりを目を開ける。だがどうやら寝起きの方は良くないようで、意識の方はまだぼんやりとしていた。

 

 

「ここ、は……」

「お、ようやくお目覚めか」

「…………」

「…………?」

 

 

クリスの頭上から声が聞こえ、ゆっくりと寝返りながらその方を向く。そしてその声の主と、近くにいるもう1人を確認した。

 

 

 

 

 

さて、ここでクリスから見た二人について確認してみよう。

 

一人目、グラファイト。フィーネからは厄介な相手と太鼓判を押され、何度かクリスとは戦ってその度に辛酸をなめさせられている。その上、前回の戦いでは生身というアドバンテージがあったのにもかかわらず有効なダメージを与えられない始末だ。結論を言うと、格上と認めざるを得ないとは言え、気に喰わない存在である。

 

二人目、天羽奏。彼女について、クリスが知ることはあまりない。ガングニールのシンフォギア奏者であり、例のライブの日に死んだと聞かされている。また昨日の戦いでは彼女が現れる前にクリスは離脱していたので、復活していることなど知るはずもない。

 

 

 

 

そんなクリスの視界には、間近で微笑みながらこちらを見る奏と、少し離れた箇所で壁に体重を預けた姿勢でこちらを睨みつけるグラファイトの姿が映っている。

 

 

「おはよう、気分はどうだ?」

「…………?」

「フン、だんまりか」

「ッ!?」

 

 

しばらく呆けていたが、徐々に意識が鮮明になる。そしてグラファイトの声を聴いたことでこれが夢でないことを把握した時、クリスの行動は迅速だった。素早く身を起こし、その場から離脱しようとする。

 

 

「おおっと、残念!」

「うわっ!」

 

 

だがその行動を、奏が阻害する。上体を起こしたクリスがソファから立ち上がろうとしたのを、背後から抱きしめることで防いだのだ。

 

シンフォギアもネフシュタンの鎧も纏っていない今のクリス、身体能力はただの人間だ。何とか振り払おうと暴れるが、奏の両腕がはがれる気配は微塵もない。

 

 

 

 

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」

「ハハ、寝起きの割には元気だな」

「ぜぇ……誰の、せいだと思ってんだ……!」

 

 

数分後、そこには息も絶え絶えになっているクリスと余裕の表情で彼女を抱きしめる奏の姿がそこにはあった。尚その攻防の間、グラファイトは呆れた表情でそれを傍観していた。本当は奏ごと置いていくつもりだったのだが、起きたのならそれはそれで用がある。

 

そう判断したからこそ、さっさとフィーネの拠点に行くようなことをグラファイトは実行していなかったのだ。と言っても彼が質問したところでクリスが答えるとは思わない。だからこそ視線だけを奏に向け、その視線に気づいた彼女はクリスの背後で静かにうなづいた。

 

 

「まぁいいじゃねえか。私たちの拠点に入ってきたのはそっちなんだし、宿泊代ってことで」

「……はぁ!? ここが!?」

 

 

フィーネと対等に戦えるだけの力を持ったグラファイト、彼が率いる陣営の拠点がここ?

 

奏の言葉を聞いたクリスはそう考え、改めて周囲を見渡す。昨夜はノイズから隠れるためにこの建物に入り、ソファを見つけて何も考えずに突っ伏したのだ。廃墟にある割には埃をかぶっていないとか、眠りに落ちる寸前に誰かの声が聞こえたようなとか、今思えば違和感を抱くことはいくつかあった。だがある事情でノイズと夜通し戦闘しており、疲労で判断力が落ちていたのだ。

 

 

「そうさ。ノイズ引き連れてここに来たときは、遂に拠点バレて襲撃かと思ったんだぞ?」

「いや、それは……」

「……やっぱワケありみたいだな。なんでフィーネ側についてるお前がノイズに襲われていたのか、教えてくれないか?」

「そのようなこと聞くまでもない」

 

 

奏の質問に対し、クリスは悲しそうな表情を浮かべて沈黙する。だがその反応を見ずとも、グラファイトは薄々と勘付いていた。

 

だからこそ目をつむって姿勢を変えないまま、そう言い切った。

 

 

「大方、見限られた上に殺されかけたとでも言った所だろう?」

「ッ!」

「……グラファイト、そりゃどういうことだ?」

「奴と同じ類の人間を俺は知っている。あれは己を絶対者と信じて疑わず、仲間すら己の駒としか思わない存在だ」

 

 

その人物を思い出しているのか、グラファイトの表情は渋い。その表情から彼と件の人物の相性は相当に悪いのだと、奏とクリスは無言で察していた。

 

 

「……そして今までの言葉から、俺かガングニールを目標にした命令を受けていたのは明白だ」

「聖遺物の起動にはフォニックゲインが必要……だからか?」

「ガングニールに限っては、それだけではなさそうだがな。お前を手元に置いていたのも、奴が保持している聖遺物を起動させるためだろう」

 

 

これ以上そのことを考えるのが嫌になり、グラファイトは一度頭を振ってその思考を追い出す。そして自分が立てた予想を話すが、クリスは驚いた表情で彼を見つめていた。ほぼ確信に近いものだったが、やはり間違いではなかったようだ。

 

 

「だが現状はこのザマだ。そしてお前は奴について知りすぎている、だからこそお前を――――ッ」

 

 

殺そうとしたのだ。グラファイトは言い切ろうとしたが、その言葉を途中で止める。そして視線だけを動かして建物の外を見た。その行動を奏とクリスは訝しむが、その数秒後には同じように外を見ていた。

 

 

「……これは」

「俺たちか、はたまたこいつを嗅ぎ付けたか」

「フィーネ……!」

 

 

気配の正体を見抜き、奏は気を引き締めて呟く。それに答えながらグラファイトは壁に空いた大穴の傍まで歩き、そこから身を乗り出して外の様子を確認した。

 

そこにはノイズが次々に出現していた。今まで散発的に出現していたのとは違い、明らかに彼らがいる廃墟を中心に展開している。それはつまり、このノイズは誰かの統率を受けているということだ。

 

そしてその正体に気づいたのだろう、クリスは急いでグラファイトの隣まで行き、ノイズの集団をにらみつけて呟く。そして胸元にある結晶――イチイバルを握り、シンフォギアを展開するために口を開く。

 

 

Killter Ichaiva――――ゴホッ!?」

 

 

だが聖詠の途中でむせてしまい、クリスは激しくせき込んでしまう。それにより聖詠は中断され、展開しようとしていたイチイバルは光が収まってしまう。

 

 

「チ、やはりか。……フン!」

「クソ、なんで歌えねぇ……ッ!?」

「おい!」

 

 

それを見たグラファイトは忌々しそうにつぶやき、片手でクリスの胸ぐらをつかんで持ち上げる。苦しそうに彼女は呟き、二人の様子を見た奏は止めようと立ち上がる。しかし一瞬向けられた彼の視線に気づき、その行動を強制的に中断させられた。

 

クリスはグラファイトの腕をつかんで抵抗するが、それはあまりにも無力であった。そしてその弱い抵抗を見た彼は、彼女を静かに睨みつける。その瞳に込められている感情、それは奇しくも昨日フィーネが彼女に向けたそれと同じだった。

 

 

 

 

 

「なにしやがる!」

「良いか、よく聞け。たとえ力がなくとも、技術があれば補える。たとえ技術がなくとも、力があれば押し通せる」

「何を言って……!」

「だが戦う覚悟のない者は、何を持っていたとしても戦場では愚図以下だ!」

「ッ!」

 

 

――その感情は、失望だ。グラファイトは今のクリスを見て、失望していたのだ。

 

 

 

 

 

クリスは昨日拠点まで戻り、フィーネになぜ自分を殺そうとしたのか問いただした。信じていた彼女からの裏切り、それを受けたクリスは何が正しいのかが分からなくなるほどに混乱していたのだ。

 

 

『すでに計画は最終段階に入った。もうあなたの力に固執する必要はないし、知りすぎているあなたは邪魔なのよ……クリス』

 

 

そしてクリスからの問いに対し、フィーネの答えは簡潔だった。邪魔だから消す、ただそれだけだった。そしてソロモンの杖を使ってノイズを呼び出し、彼女にけしかける。奇襲を受けたクリスは負傷し、フィーネが本気なのだと悟って急いでその場から逃げ出した。その後夜中まで追いかけてくるノイズと戦い続け、疲労困憊の状態でグラファイト達の拠点に転がり込んでいたのだ。

 

過去に人間に対してトラウマを持ち、ようやく信じれると思っていたフィーネからは裏切られたクリス。今の彼女を構成していたものが崩れ去り、現在の彼女は何を信じればいいかわからなくなっていた。

 

 

 

 

 

「貴様のシンフォギアが起動しないのがいい証拠だな。俺は今の貴様のような軟弱者を、何よりも嫌悪している!!」

 

 

――そしてその有様は、グラファイトを大きくイラつかせていた。

 

グラファイトに対して、クリスは臆することなく戦っていた。技術こそ足りないものの、力と戦う覚悟はある。そう思っていた彼は、内心でだが彼女を評価し、将来に期待していたのだ。

 

だがその評価は、フィーネへの宣戦布告の時に崩れ始め、今この瞬間に失墜する。シンフォギアを纏えないということは、今の彼女の心は大きく揺れているということ。彼女の戦う覚悟、それを構成していたのが彼女自身ではないと知ってしまったからこそ、グラファイトは彼女に対して失望したのだ。

 

 

「自らの意思なき者など、戦う価値もない…………ハッ!」

「あぁッ!?」

「っと!」

 

 

言いたいことをすべて言い切り、グラファイトはクリスを投げ飛ばす。彼の怒号を真正面から受けた彼女は動けなくなっており、すぐさま移動した奏が彼女を受け止めた。

 

 

「こいつの処理は任せる」

「……了解。で、グラファイトは?」

「決まっている、ゴミ掃除だ」

 

 

グラファイトの言葉を聞き、奏はそう返しながらクリスの様子を見る。相当ショックだったのだろう、彼女の瞳からは涙が止まることを知らず、両腕で自分の身体を抱きしめていた。

 

無理もない、そう奏は思う。グラファイトと互角に戦っていたとは言え、クリスはまだ年端もいかぬ少女なのだ。ただでさえ不安定な時期に裏切りが重なってボロボロになっていた彼女を守る壁は、グラファイトの強烈な言葉によって完全に崩れさった。

 

いくらなんでも言い方があるだろうと奏は思ったが、同時にそれを説明しても彼は納得しないだろうとも思っていた。

 

 

「わかった、こっちは任せときな」

「あぁ」

 

 

だからこそ自分ができることは、グラファイトをクリスから離すこと。そして彼女の面倒を見て、できればフィーネに関する情報を引き出すことだ。

 

そう判断した奏は、何も言わずに送り出す。そしてグラファイトは建物から飛び降り、ガシャコンバグヴァイザーを起動させた。

 

 

「培養!」

infection! LET`S GAME! BAD GAME! DEAD GAME! WHAT`S YOUR NAME!? ――THE BUGSTER……!

 

 

空中で怪人態に変身し、双刃を全力で振り下ろす。飛び降りた勢いも加算されたその一撃は、着地点どころか周囲にいるノイズも消し飛ばす。

 

衝撃で発生した土煙の中で、グラファイトは静かに立ち上がる。そして周囲にいるであろうノイズを睨みつけ、双刃を握る手に力を込めた。

 

 

「俺は今、虫の居所が悪い。……憂さ晴らしに付き合ってもらうぞ、ノイズ共!」

 

 

そして土煙が消え去った瞬間、グラファイトはノイズ集団に突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーおー、いつもより荒々しいなーおい。……さて」

「…………」

 

 

建物の周囲から鳴り響く轟音。普段よりも1.5倍ほどの音量で鳴り響く戦闘音をBGMに、奏はソファに座ってクリスを自分の方へ向かせる。彼女の表情は先ほどと変わらず涙で濡れており、彼女自身の雰囲気も相まって捨てられた小猫のようだった。先ほどまでは抵抗しまくっていたというのに、今は奏の為すがままだ。

 

 

「たく、私もどっちかといえば戦う方が性に合ってんだが……よっ」

「…………」

 

 

そう呟きながら、奏は優しくクリスを抱きしめる。彼女の頭を胸元まで引き寄せ、引き寄せた右手を後頭部に置いた。そしてゆっくりと、何度も繰り返し撫でていく。

 

昔、母親が妹に対してこうやっていたのを思い出しながら実行していく。ふと奏の視界に空中へ跳んでいくノイズの残骸と剣戟が映るが、雨が激しくなったのも相まってその光景をクリスが知ることはないだろう。

 

やるならここだな、そう判断した奏はクリスを抱きしめる力を少しだけ強める。そして彼女の意識がこちらに向いたのを確認し、口を開く。

 

 

「今ここにあいつはいないし、声が届くこともない。……そんなもんは溜めるだけ毒だ、全部吐き出しちまいな」

「ッ!」

「泣きたくなった時には泣いちまえ。これからどうするかなんざ、その後で考えればいい」

「なん、で…………!」

 

 

そう言いながら背中をポンポンと軽く叩く。その言葉を聞いたクリスの身体は一瞬大きく震え、両手の握る力が強まる。奇しくも壁が完全に粉砕したことで、奏の言葉は彼女にしっかりと響いていた。

 

あと一押しだと考え、再び奏は口を開く。その口調はできる限り優しく、記憶の中で母親が自分を慰めていた時のように。

 

 

 

 

 

「泣いていいんだよ、クリス」

「ッ、――――――!!」

 

 

激しい雨が地面を打ち付ける音と、グラファイトがノイズを蹂躙する音。

 

二つの轟音は、少女の涙が止まるその時まで響き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ノイズ、ですか?」

『あぁ。今日の未明、ノイズのパターンを感知した。市街地から遠く離れたこともあり、人的被害がなかったのが救いなんだが……』

「師匠?」

「ノイズと同時に、聖遺物イチイバルのパターンも検知したのだ。……おそらく、ノイズと戦っていたのだろう」

 

 

これから学校へ行こうと持っていた矢先に、弦十郎から電話がかかる。未来から距離をとって受け取った響は、その内容を聞いて顔をしかめた。

 

【さようなら、クリス】。あの場にいた女性――フィーネはクリスに対して確かにそう言っていた。言葉の意味をそのまま受け取るならば、彼女はフィーネから裏切られたということになる。

 

 

「……まさか」

『響君?』

「あの、もしかしてクリスちゃん、戻るところがないんじゃないかって……」

『ッ!……確かにそうかもしれん。わかった、この件はこちらで引き続き調査を進める。響くんは指示があるまで待機していてくれ』

「はい、わかりました」

 

 

通話を終了し、響は昨日戦ったクリスのことを思い出す。彼女は歌が大嫌いと言い、人間なんか分かり合えないとも言っていた。だがその表情に浮かんでいたのは怒りではなく、悲しみだと響は感じていたのだ。

 

そのクリスが唯一信頼してたであろうフィーネに裏切られた。奏と戦ったことによる疲労で昨日は何も思わなかったが、今考えてみるとかなりまずい状況なんじゃないかと彼女の直感が警報を鳴らす。

 

 

「クリスちゃん……」

「響、どうしたの?」

「ッ!……いや、なんでもないよ!」

 

 

考え込もうとするが、リビングから未来が顔を出して声をかけてきたのでその思考を中断させる。そして覚られないよういつも通りの表情を浮かべ、彼女の方に振り向いた。

 

 

「そう?……てっきり何かあったんだと思ったんだけど」

「いやいや、そんなことないって。ボランティア先の人から連絡が来て、今日は雨が降ってるから待機していてくれって連絡が来たの」

「ふーん、そうなんだ」

「み、未来?」

 

 

響の嘘を聞いた未来は笑顔でそう返すが、明らかにその表情は笑っていなかった。その顔から嫌な予感を感じ取った響は、思わず一歩下がる。

 

 

「ねぇ、響?」

「な、なんでしょう……?」

「私、隠し事が好きじゃないのは知っているよね?」

「はい……」

「最近の響、明らかに私に嘘ついてるよね?」

「ッ!? いや、そんなことはないよ!?」

 

 

図星をつかれ、大慌てで否定する響。どう考えても怪しいのは自分でもわかっているが、証拠でも出さない限りシンフォギア奏者として戦っていることなんてバレないはず。そう考えていたからこそ、響はこの行動をとったのだ。

 

 

 

 

 

先ほどの言葉が、未来なりの最終通告だとも知らずに。

 

 

「そっか……疑ってごめんね、響?」

「うん、大丈夫。そう言う行動をしちゃった私も悪いから……」

「それじゃ学校に……あ、これ見てよ」

「なになに?」

 

 

未来が携帯の画面を見て何かに気づいたようで、響に声をかける。その誘導に素直に従い、響が携帯の画面をのぞき込むと――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブハッ!?」

 

 

――そこには、ガングニールを纏って空をかける響の写真が写っていた。

 

 

「なんで!? あそこは避難が済んで人がいないはずなのに……」

「離れたところから戻っていたからね」

「でも、あの付近はグラファイトさんのせいでカメラが使えないはず……!」

「何ともなかったよ? グラファイトさんって……あぁ、あの人かな」

「でもでも…………ア゛」

 

 

慌てて話す響の言葉を、未来は淡々と返す。そして途中で彼女はピタリと動きを止め、まるでブリキ人形のようにゆっくりと画面から未来の方を振り向いた。

 

 

 

簡潔に言おう。未来が黒い笑みを浮かべて、響をじっと見つめていた。

 

 

「えっと、あの、ですね……」

「…………」

「何と言いますか、これには深いわけが……」

「嘘つき」

「グハッ!」

 

 

真っ直ぐ放たれた言葉の刃は、響の胸を深くえぐる。そのショックで昨日の翼のように崩れ去った彼女を横目に、未来はすっと携帯電話を操作し始めた。どうやらどこかに電話をかけるようだ。

 

 

「――もしもし。はい、小日向です」

「…………?」

「……はい、響が風邪を引いちゃいまして。私は病院に連れていってから登校します。はい、よろしくお願いします」

 

 

響の目の前で、未来は学校に遅刻の連絡を入れる。もちろん響はいたって健康なのだが、どうやら風邪を引いたことにされたようだ。

 

そして通話が終わり、未来は携帯を鞄にしまう。そしてしゃがんで響と視線を合わせ、ガッチリと両肩をつかんだ。

 

 

「全部説明してね、響?」

「…………!」

 

 

立花響、15歳。彼女は今この時、崖っぷちに立たされることとなる。

 

 

 

 

 

≪See you Next game……≫

 

 

 




※序盤の会話 →時系列的にはパラドがWマイティにフルボッコにされた後。パラドの気を紛らわすために、グラファイトはこの質問をした。
※クリスちゃん、ハートフルボッコ →フィーネに続いてグラファイトによる二重否定でノックアウト。少なくとも、今までの彼女を構成していたものは微塵も残ってない。
※ビッキーの写真 →グラファイトは事前に監視カメラにハッキングをして、一定以上の距離まで近づくと機能しなくなるよう仕込んでいた。つまり、実は監視カメラ以外なら容易に姿を映すことは可能だったということ。


ここまで読んでくださりありがとうございます。
エターナルドーパントさん、社長ロスの日曜日さん、通りすがりの錬金術師さん、無銘さん、sevenblazespowerさん、瑛松さん、シップスさん。感想ありがとうございました!
社長ロスの日曜日さん、評価ありがとうございます!

まぁ、この時期のクリスちゃんとグラファイトは相性最悪です。自分の意志で決めず、誰かに答えを求め続ける姿勢、彼は気に喰わないでしょう。また彼の真っ直ぐな言葉は、良くも悪くも純粋な少女であるクリスちゃんには刺激が強すぎました。

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