「雑魚がッ!」
最後の一体を切り裂いて、グラファイトファングを下ろす。その周囲は荒れ果て、所々陥没していた。しかし、上手い具合に廃墟に傷はついていないようだ。
「雨も上がった……なんだ、まだ日は昇ったばかりだったか」
グラファイトの言葉のとおり、雨は止んで雲の切れ目から日の光が差していた。それを見た彼は、奏達がいる部屋に跳んで戻る。
「おい、片付いたぞ」
「あいよ。こっちはようやく一息ついた、ってとこだ」
「……また寝たのか」
奏にもたれかかった状態で寝ているクリスを見て、グラファイトは呟く。奏はそれに対し、呆れた表情で口を開いた。
「完全にキャパオーバーだっての。……今日までに起きた出来事だけでボロボロだったところに、グラファイトの喝で完全にノックアウトだ。毒は全部吐き出させたけど、今までの愚痴とかすごかったんだぜ?」
「フン、鍛錬が足りん」
「本当にお前はなぁ……!」
無情に切り捨てる一言に、思わず奏は額に手を当てる。だが事前に予想できていたので、それを口にすることはなかった。
「……やっぱいいや。で、どっちかはわかったか?」
「この女だな。俺が襲う前、奴らの視線はこの部屋に集中していた。反対側にいた連中は、一手遅ければ突撃していただろうな」
「ま、そうだよな」
奏はそう呟いて、クリスの頭をなでる。それを横目に見つつ、グラファイトはある作業をしてから人間態に戻った。
「で、お前はどう動くつもりだ?」
「わかってんだろ?」
「あぁ」
グラファイトはそう問いかけるが、奏は逆に問い返す。その目から察するに、やはりクリスを放っては置けないようだ。
「だが、ここからは離れろ。俺はしばしの間ここに残り、あのノイズ共の狙いを今一度確かめる」
「わかったよ……っと」
奏はそう返し、ゆっくりとクリスをソファにおろす。そしてその横に立てかけられている槍――ガングニールを、手に取った。
「ガングニール、持ってくけどいいよな?」
「それがなくば、お前はまともに戦えないだろうが。……これも持っていけ」
「うわッ!」
グラファイトはそう言いながらバックルとガシャコンバグヴァイザーを投げる。そしてそれを奏が受け取っているのを見つつ、ガシャットを起動させる。
『ドラゴナイトハンター、Z!』
「培養……!」
そのままガシャットを身体に刺し、怪人態へ変身する。そしてその後、持っているガシャットも奏に投げた。
「っとと……いいのか?」
「ガングニールは改造した弊害で、シンフォギアとしてはまともに扱えん。……それにお前は、俺が二課の者達と戦うための人質だ。そう易々と死なれるわけにはいかん」
「はいはい、そうでした。……んじゃ、ありがたく!」
『ガッチョーン……』
苦笑いしつつ、奏はバックルを腰に巻いてバグヴァイザーを固定する。そして受け取ったガシャットを起動させた。
『ドラゴナイトハンター、Z!』
「変身!」
『ガシャット!――BUGLE UP! ド・ド・ドドド黒龍剣! ドラ・ドラ・ドラゴナイトハンター……ガングニール!!』
変身を終えた二人はどちらが言うわけでもなく外を見る。視界に映る風景は相変わらず荒れているが、その空間が突如歪む。
そして次々に現れるノイズ。先ほどの倍以上の数で出現したノイズを見て、グラファイトが忌々しそうに口を開く。
「長話が過ぎたか……おい、今すぐ行動に移せ」
「わかってるって。……行くぞクリス、起きてんだろ?」
「ッ!」
奏がそう声をかけると、ソファに寝転がる身体がビクッと跳ねる。二人の変身音が大きいのもあって、クリスは先ほど目覚めていた。ただグラファイトはもちろん、奏もある意味では顔を合わせづらくて眠ったフリをし続けていたのだ。
その様子を見て笑みを浮かべつつ、奏はクリスを片手で持ち上げてから背中におぶさる。ちょうど背面には棘がなく、腰の装飾は彼女がおぶさるのを手助けていた。なおここまでの一連の動きは流れるように行われたため、クリスは何か言う暇もない。
「そうだ、しっかり掴まっとけよ?」
「…………え?」
奏はそう言いながら、バグヴァイザーの2つのボタンを同時に押す。低い音程の待機音が部屋に響く中、状況を理解できていないクリスは疑問符を顔に浮かべていた。
「なんだ、この音?……おい、何をするつもりなんだ!?」
「ハッハッハ!」
「笑ってないで……ってぇ!? おい、答えろよぉ!」
奏は笑いながら移動し、壁に空いた穴の前に立つ。下にうじゃうじゃいるノイズを目にしたクリスは目を見開き、奏の身体を何度も叩いた。
「いや、なに。この間私が似たようなことをやったんだが、結構気持ちよくてな。クリスにも体験してもらおうかと」
「なにを……いや待て、言わなくていい! 言わなくていいからやめろ!!」
「フハハ、逃がさん」
クリスは急いで降りようとするが、身体が固定されていることに気づく。背中に圧迫感を感じたので振り向くと、彼女の身体を丸ごと覆うように尻尾が押さえつけられていた。もちろん棘は当たらない位置で調整されており、服が破けることはないだろう。
そして端までたどり着いた奏は槍を逆手に持ち直し、バグヴァイザーの紫色のボタンだけをもう一度押した。
『CRITICAL BLAZE!』
「お空の旅へご招待ってな?」
「待て待て待て! あたしはネフシュタン使って、前に飛んだことあるから!」
クリスはそう叫ぶが、奏が持つ槍の鍔――龍の頭部の眼が光り、刀身を飲み込むほど巨大化していることに気づく。
口から炎が漏れ出ている龍と、先程流れた音声。そこから答えを導き出したクリスが顔を青ざめさせる。それと同時に、彼女の方に顔を向けた奏はニヤリと笑って口を開いた。
「そいつは知ってるぜ。でも……ジェットエンジン並の出力で飛ぶ感覚は、まだだよなぁ?」
「そうだけど、それとこれとは話が別だろッ!?……そうだ、お前からも何か言って――!」
「やるなら飛び出てからやれ。ここですると消し炭で汚れる」
「わかってるって!」
「うわあああああぁぁぁぁ!」
希望が断たれ、クリスはただしがみつくことしかできなくなる。それを確認した奏は勢いよく飛び出した。それと同時にため込まれた炎が開放し、龍の口から勢いよく噴き出る。
逆手に持っていることで、炎は奏から見て後方に噴き出ている。そして踏ん張る地面がない以上、反作用の力の方が強くなるのは明白であり――――
「いやっほおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
「キャアアアアアアアアァァァァッ!!」
――数秒後……いや、2秒もかからないうちにグラファイトの視界から2人は消え去った。
改めて周囲を見渡すと、ノイズの数が明らかに減少し始めている。どうやらグラファイトの仮説は正しかったようだ。
「やはりノイズの狙いは、あの女か。……まぁいい、俺は俺の目的を果たすだけだ」
そう言って、グラファイトもその場から姿を消す。
向かう先はフィーネの拠点、目的はフィーネの打倒とギャラルホルンの確保である。
「今日、最初に現れたノイズの反応がここ。そしてイチイバルの反応と同時に消失し、そこからは彼女を追うように出現している」
地図を開き、今朝の出来事を思い出しながらペンで書き足していく。二課の資料室で作業を続ける弦十郎は、ある地点に印をつけた。
「ここで反応が途切れた……確か、廃墟だったか。ここを寝床にしたようだな」
そう呟いた後、顎に手を当てて考える。気になっているのは、反応消失のタイミングだ。あの時はノイズよりも先に、イチイバルの反応が消失する方が早かった。
ノイズの反応が消えるまでの数分間、彼女はシンフォギアなしで乗り切ったのだろうか?
「まさか……、ッ!」
弦十郎の中にとある考えが浮かぶのと同時に、建物内に警報が鳴り響く。それがノイズが出現した時の類と瞬時に判断した彼は、資料室から飛び出る。
そして走って司令室へと向かう途中、通信機が光っていることに気づく。弦十郎はそれを手にとって画面を見ると、響からのようだ。
「響君か!」
『師匠!……あれ、なにかあったんですか?』
「まだ始まったばかりで状況は俺にもわからんが、ノイズだ! 今司令室に向かっている……っと!」
『え!?』
その言葉を言い終わると同時に、弦十郎は司令室に入る。既に二課の面子は大方揃っており、各々の仕事を進めていた。
「風鳴司令!」
「おう、状況はどうだ?」
「距離60000にノイズの反応あり、街からは遠く離れた郊外です。規模は……かなり大きい模様!」
「よし、翼に連絡しろ!……聞こえたな響君?」
『はい、すぐに向かいます! ただ、あの……』
「む……そう言えば、響君から俺に連絡していたな。何かあったのか?」
『はい、えっと……。スゥー、ハァー……よし』
響にノイズの居場所を教え、向かわせようとする弦十郎。しかし彼女の歯切れが悪いことに気づき、その理由を尋ねる。
それを聞いた響は少し迷ったようだが、数秒後に意を決したように深呼吸をする。そしてその内容を、大声で口を開いた。
『師匠、ごめんなさい! 昨日戦っていたところを、友人に見られてました!!』
「なんだとッ!?」
司令室に響き渡る弦十郎の大声。その数分後、響と話し合った彼は通話を切って頭に手を置いた。
「風鳴司令、どうしたんですか?」
「あぁ……昨日の戦闘、一般人に目撃されていたらしい。しかもその人物は、響君と同じ部屋に住んでいる友人のようだ」
「えぇッ!?」
「それ、大丈夫なんですか?」
弦十郎の言葉を聞き、藤尭は仰天する。友里は冷静に聞き返しているが、まさかあの場に避難していない一般人がいるとは思っていなかったようで、驚きの感情を隠せてはいなかった。
「大丈夫じゃないな。一般人に見られたとあっては、なんにせよ事情を説明する必要がある。その為響君と共に一度こちらに来るよう指示したのだが……」
「だが?」
「どうやら既に随分と絞られたようだ。通信機越しだが、ノイズと戦っていた時以上に声に覇気がなかった」
「あの響ちゃんが……」
連日のノイズとの戦闘を終えても、少し休憩するだけで元気になる響。その彼女がヘトヘトになるほどの折檻だときいて、友里は思わず呟いた。
知らずのうちに二課での未来の評価が定まっていく中、何かに気づいた藤尭が声を上げる。
「ッ、ノイズが移動を開始。数も増大しつつあります!」
「なに、どこに向かっている!?」
「街ではありません。……これは、移動しているというよりも、何かを追いかけている?」
「ッ!!」
その言葉を聞き、弦十郎は早朝に響が言っていた言葉が脳裏に浮かぶ。
『もしかしてクリスちゃん、戻るところがないんじゃないかって……』
それを思い出した時、弦十郎は自分が冷や汗をかくのを感じた。そしてすぐさま指示を飛ばすために、大きく口を開いた。
「まずい、ノイズの狙いはイチイバル適合者……雪音クリスだ!!」
――そしてその頃、件の少女は。
「いい天気だ、さっきまで雨が降っていたとは思えねーな!」
「いやああああああぁぁぁぁッ!!」
大空を滑空していた。炎が尾を引いていることで、その姿を遠目から見たら流れ星と勘違いするだろう。
槍にまたがり、まるで魔女のような姿勢で飛んでいく奏。しかし箒の推進力は魔力ではなく炎であり、使い魔の猫ポジションのクリスは落ちたらシャレにならないので、目を閉じて全力で彼女にしがみついていた。
「おい、見てみろよクリス! いい空だ!」
「見る余裕がこっちにあると思うのか!?」
「大丈夫、お前の身体は私がしっかり支えているからさ! 横見る位なら平気だって!」
「だぁもうチクショウ! どうなっても知らないから、な……」
言うだけ無駄だ。まだ少ししか話したことはないが、クリスはそう判断する。抱きしめる力は弱めずに顔を横に向け、恐る恐る目を開く。
「――――ッ」
視界の下方は緑豊かな木々で埋めつくされ、真ん中には大きな山が悠々と映り、上方は青空が広がっている。奏がどんなルートを通っているかは知らないが、このような風景があったのか。
絶景だった。今まで何かが壊れている風景しか見てこなかったクリスにとって、生命溢れるこの光景はとても眩しいものだった。
「わぁ……!」
「お、やっと笑ったな?」
「なッ!?」
思わずこぼれてしまった笑みを、奏は見逃さない。そして指摘した直後に慌てて顔を赤らめるのを見る限り、あの表情は素直に出たものなのだろう。
「そいつはいい。笑える時には笑っておいた方がいいからな!」
「お前……さっきは泣けるときに泣けって言っておいて、今度は笑えだぁ?」
「泣くってのはマイナスを吐き出す行為で、笑うってのはプラスを増やす行為だ。クリス、お前はさっき泣きまくったことでマイナスは帳消しになってる!」
そう言ってから、奏は笑顔をクリスに見せる。それは先程見せた優しいものではなく、少年が見せるような快活で爽快な笑顔だった。
「だったら後はプラスを増やすだけだ! だから笑えよ、クリス!」
「……ふん」
その言葉を聞き、クリスはそっぽを向く。そして視線の先に映る風景を見て、知らずに再び微笑みが現れていた。
奏の言葉はともかく、確かにこの風景は綺麗だ。緑豊かな森に雄々しくそびえ立つ山、そして雲がちらほらある青空。そこにはまるで二人に並走するかのように、鳥型ノイズが羽ばたいている。
「ん?」
「どうした?」
――鳥型ノイズが、羽ばたいてる。しかも結構な数の。
「……なんか、追いつかれてねえか?」
「あー、流石にガス欠か。こりゃ落ちるのも時間の問題だなこりゃ」
「何すっとんきょんなこと言ってんだお前ッ!?」
「追いつきかけてんのは、まだ鳥型だけか。……よし、しっかり抱き着きな。着地すんぞ!」
そう言って、奏は槍の柄を下に向ける。それはつまり、出力が落ちつつも炎を噴いている龍頭が上を向くわけで――――
「またかああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
――その日、クリスは二度風になった。
≪See you Next game……≫
※CRITICAL BLAZE →デンジャラスゾンビにおける『CRITICAL DEAD』ポジションの必殺技。本来はXDUの『DRAGON∞DUSK』のように火炎放射を浴びせる技なのだが、なんか主に移動手段に使われている。
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ロンギヌスさん、無銘さん、瑛松さん、sevenblazespowerさん、シップスさん、ルーキさん。感想ありがとうございました!
通りすがりの錬金術師さん、カチカチチーズさん、蝙蝠男さん、狐霧膳さん、ユージローさん。評価ありがとうございます!