※後書きにお知らせあり。
「ハァッ!」
跳びこんでくる8体のノイズ。攻撃する順番を瞬時に見極め、双刃を持って次々に切り裂いていく。
最後の8体目は突き刺し、それを後方へ投げ飛ばす。勢いよく投げ飛ばされたノイズは後方から奇襲してきた別のノイズとぶつかり、共に地面に倒れる。
「ドドド、黒龍剣!!」
その隙を逃がさず、グラファイトは大技を空中に向けて叩きこむ。無数の剣戟は空に散らばっている球体に次々にぶつかり、大きな爆発を引き起こす。また迎撃と同時に攻撃もしており、爆発物を飛ばしていたノイズにも剣戟が迫る。回避することは間に合わず、奴らは球体と同じ運命をたどって爆発した。
だが、グラファイトが気を緩めることはない。その理由を示すかのように、爆発によって生まれた土煙の向こうに無数の影が出現し始める。その数はちょうど、先程倒したノイズの数と同じくらいだろう。
「……随分と懐かしい光景だ」
土煙が晴れ、先程から変わらない光景が写る。グラファイト、と言うよりはギャラルホルンを中心にして、その周囲にノイズが高密度でひしめいている。
そしてその様子を見るグラファイトの視界の端には、【フェイズX】と表示されたパネルが浮かんでいた。
「進化した俺である以上、こいつらは敵ではない……が!」
今度は同時に襲い掛かる数を倍に増やして、次々にギャラルホルンに襲い掛かるノイズ。それを察知したグラファイトはギャラルホルンを足場に跳躍し、そのすべてを迎撃していく。
時に切り裂き、時に突き刺し、時に蹴り飛ばす。いつぞやの時は違い、今のグラファイトはプロトガシャットの力でパワーアップしている。事実その時も、この形態になってからは楽勝だったのだ。これほどのノイズを用意したところで、彼を倒すことは叶わないだろう。
だが、この戦闘において重要な事はそこではない。フィーネはグラファイトをこの場に押さえつけるために、ギャラルホルンという完璧に近い囮を用意したのだから。
「ギャラルホルンの力は、完全聖遺物だからこそ。こいつらの攻撃をまともに食らえば……」
力を維持できる保証はない、その予想がグラファイトの脳内をちらつく。そしてそれを暗に示すかのように、ノイズはギャラルホルンを執拗に狙い続けていた。
ノイズの迎撃を行いつつ、頭の中で対策を立てようと思考を始める。この場にはグラファイトしかいない以上、苦手だとしても自分1人で考えるしかないだろう。
現在、グラファイトが取れる手段は主に3つある。
1つ目、移動能力を用いて脱出する。これは最初にフィーネも言っていたことであり、この方法でなら脱出することは容易だ。だがギャラルホルンを放っておくことになり、そこにノイズの攻撃は殺到するだろう。この選択をとること等、グラファイトにはできなかった。
2つ目、終わるまでノイズを倒し続ける。以前は既定の回数、ノイズを倒し続ければシュミレーションは終了した。だがそんなこと、フィーネが予想していないとは考えにくい。何かしらの対策をしていると考えるのが妥当なので、優先度は低めだ。
3つ目、ギャラルホルンを持ってこの場から脱出する。いくら広大な草原でも、元はそこまで広くない部屋だ。出口さえ発見できれば、ギャラルホルンを持ってそこから脱出することができるだろう。後は安全な場所にギャラルホルンを保管すれば、いつも通り戦えるようになるはずだ。
「……これ以上は考えるだけ無駄だな」
一旦思考を止め、辺りを見回す。周囲にはノイズの姿しかなく、出口は見えそうにない。
当たり前だが、グラファイトは3つ目の選択肢を実行しようとしている。彼の目的を達成するにはギャラルホルンは必要であり、フィーネの用意周到さを考えると終わるのを待つのは賢明ではない。達成の難易度は一番高いが、やるしかなかった。
もしこの場にかつての仲間がいれば、グラファイトが時間を稼いでいる間に策を考えてくれただろう。そしてその策がどんなに難しいものだとしても、彼はそれを実行し、達成するはずだ。
だがこの場には、グラファイトしかいない。策士がこしらえた計略の網を、彼1人で抜け出すしかないのだ。
「上等だ。……たとえガングニールがなくとも、この程度の雑魚など全て捻りつぶしてやる!」
自らを鼓舞するようにそう叫び、双刃を構えて迎撃の構えをとる。それに呼応するかのように攻撃を開始したノイズの波に向かい、グラファイトは再び双刃を振るった。
「これでフィニッシュだ!!」
「この一撃、受けてみろ!!」
ーーDRAGOKNIGHT CRITICAL FINISH!ーー
ーー天ノ逆鱗ーー
炎を纏った槍と、巨大化させた剣。それぞれの獲物で奏と翼は超大型ノイズに突撃する。その勢いは衰えることなくノイズの胴体を突き抜け、二人が通った後には巨大な穴が二つ空いていた。
「おりゃあああぁぁッ!!」
「吹っ飛べ!」ーーBILLION MAIDENーー
大空で超大型ノイズが爆発する音をBGMに、勢いよく振るわれた響の拳が地面にぶつかり、衝撃波でノイズを吹き飛ばす。そしてクリスが放つ弾丸の大雨がその隙を逃さず、ノイズの肉体を食い破った。
「オマケだ、こいつも持ってけ!」ーーMEGA DETH PARTYーー
ダメ押しとばかりに放たれた数多のミサイルが、残っていたノイズを1つ残らず吹き飛ばす。土煙がようやく晴れた時、彼女たちの敵は1体も残っていなかった。
「これで一段落、と。……あの野郎、諦めたか?」
変身は解除しないが、槍を肩に担いで緊張を解く奏。しかしその表情はどこか納得していないようで、空を眺めながら考え事をしていた。
「奏……?」
「あ?……あぁ、なんでもねぇよ。この身体の便利さを、改めて実感していただけさ」
その様子を見た翼は、疑問に感じて奏に問いかける。それを聞いた彼女は軽く手を振ってから、その手を見つめつつ答える。
先程の戦闘、移動時間を加味すると奏は30分以上この鎧を纏っていた。以前はシンフォギアを纏った場合、LINKER込みでも数分間が限界だったのだ。それが今ではこの通り、正規適合者である翼たちと遜色ない継戦能力を手に入れていた。
「ッ!……奏は、その身体になってよかったというの?」
だがその言葉は、翼に悪い意味で伝わったようだ。悲しそうに目を伏せ、先程よりも小さな声量で再び問いかける。
翼は以前から、奏を人間から逸脱させてしまったのは自分のせいだと考えている。その仇をとるために必死に鍛え、グラファイトの正体を知ってからは奏を取り戻すことを決意していた。だが肝心の奏はグラファイト側に付き、彼女の元には戻らない。洗脳されている可能性も考えられたが、奏の言動が本人そのままだったので、その可能性は低いと結論付けていた。
昨日の戦闘こそ思う存分ぶつかり合ったが、逆に出し切ったことで寂しさが込み上がってきたのだ。それによって密かに不安になった所に発せられた、先程の言葉。
響がクリスにじゃれついている為二人から離れており、この場に奏と翼しかいないからこそ、彼女は心の不安を素直に口に出していた。
「そうだな。……よかったもなにも、この身体になることを望んだのは私だし」
「……それ、どういうこと?」
その問いかけに込められた感情を察し、奏は無意識に呟いてしまう。その言葉を聞いた翼は驚愕して詰め寄るが、そこで自分の言ったことに気づいた彼女は慌てて口を開いた。
「っと、待て翼。このことは、まだ話すわけにはいかないんだ」
「どうして? グラファイトに脅されているの?」
「いや、違う。……まあこの内容は指令室に筒抜けだし、いいか」
チラリと翼が持つ通信機を見て、電源がオンになっていることを確認する奏。そして彼女に近づき、響たちに聞こえないよう耳元で口を開いた。
「旦那たちだって気づいてんだろ、内通者のことをさ?」
「ッ!?」
「詳しいことはまだ何も言えない。でもこの件がひと段落したら話に行くよ……それじゃダメか?」
なぜ奏が二課内にいるであろう内通者のことを知っているのか、翼は驚きつつ疑問を抱く。その言葉は二課司令室にも届いており、そこにいる面々もまた、翼と同じような感情を抱いていた。
『……奏君、聞こえるか?』
「おや、旦那」
そして数秒後、通信機から弦十郎の声が聞こえる。それに対し前と変わらぬ返事をした奏の声を聞きつつ、彼は口を開いた。
『なぜ君がグラファイトと共に行動するのか、俺たちにはわからない。なぜ内通者のことを知っているのかもな』
「ハハハ……そいつはまだ秘密」
『だが1つだけ言えることはある。奏君、君の部屋は今もそのまま残してある。……一段落したら、必ず顔を出すんだぞ』
「ッ……あいよ」
弦十郎の穏やかな声を聞き、奏は少し言葉に詰まりながら返事をする。
そして振り返り、響とクリスの方に向かって歩きだす。翼はその後を追いかけるが、彼女の背中が嬉しそうに揺れているのを見逃さず、その用を見て微笑んでいた。
「よぅ、お前ら平気か?」
「えへへー……あ、奏さん! はい、私は平気へっちゃらです!」
「だから離せって!……って、あぁ。余裕に決まってるだろ?」
未だにじゃれついている二人に奏が声をかけると、各々違った反応を見せる。響は奏の姿を見てうれしそうに声を上げ、クリスはそっぽを向きながらぶっきらぼうに返事をする。ただその頬が赤らんでいることから、照れ隠しであることは誰の目にも明白のようだ。
「ならいいさ。……で、クリス」
「なんだよ?」
「単刀直入に聞くが、これからどうする?」
「…………」
奏の問いかけに対し、無言で考え始めるクリス。その様子を見て、やっぱ何も考えていなかったかと彼女は少し呆れた。
戦う理由は決まったし、これからやることも先ほど考えて決まった。だが問題点として彼女は家無しであり、このままでは野宿生活になってしまうのだ。あくまで昨日はグラファイト達の拠点に宿泊しただけであり、あそこに住み着いているわけではない。この問題は早急に解決する必要があった。
「フィーネと戦うってことは言わなくてもわかる。が、体調を万全にできなきゃ出せる力も出せないぞ?」
「うぐッ」
「なら二課においでよ、クリスちゃん! 師匠、いいですよね?」
『あぁ、むしろ大歓迎だ』
クリスが宿なしであることを知り、喜々として声をかける響。二課ならば彼女をノイズから守れるし、宿に食事もつく。弦十郎の許可が必要だが、絶対に許可してくれるという確信が響にはあった。そしてその予想通り、通信機越しに彼は許可を出す。
だがその言葉を聞いて、クリスの顔は微妙なものだった。真正面から拒絶することはしていないものの、まだ許容することはできないという表情だ。
「あー……そいつは断らせてもらう。あたしはまだ、大人を信じることが怖い」
「クリスちゃん……」
「信じれない、とは言わないんだな」
「……まぁな。パパとママは夢を見て戦場に行き、結局死んだ。あたしは前まで二人を無謀な夢想家だと思ってたんだけど、今は何か意味があったんじゃないかと思ってる」
奏が静かに問いかけ、クリスは3人に背を向けて空を見上げながら答える。両親のことを思い出すその表情は切なげで、以前のように怒りは含まれていなかった。
「そう言うの、一度しっかり考えてみたいんだ。なんでそう言うことをしたのか、誰かの言葉じゃなくあたしの言葉で考えてみたい」
「…………」
「んで、だ。もしあたしの中で結論が出て、その時でも受け入れてくれるってんなら……考えてやるよ」
「ッ……やったー!!」
「のわッ!?」
照れくさそうに頬を掻き、決して響の方を見ずに話すクリス。そして最後の言葉を聞いた彼女は表情を明るくし、クリスに飛びついた。既にシンフォギアは解除していたため引きはがせず、二人は再びじゃれあいを始める。
「離せっての! あたしたち、こないだまでやりあってたんだぞ!?」
「関係ないよー! クリスちゃん、私待ってるからね!」
「あぁもう、お前本当の馬鹿!!」
「ま、あの様子なら大丈夫だな」
「そうね。……で、やっぱり奏が?」
「あぁ、とりあえず落ち着くまでは私が面倒みる。グラファイトに許可ももらったことだしな」
二人の様子を眺めつつ、言葉を交わす奏と翼。その表情はとても穏やかで、まるで後輩を見守る先輩のようだった。
「……そう言えば、グラファイトは今日いないのね。てっきり私たちと戦いに来ると思っていたのに」
「何も知らないのか?」
「なにが?」
「……いや、なんでもない」
奏の言葉を聞き、翼はずっと抱いていた疑問を投げかける。それを聞いた彼女は、翼がグラファイトの行方を知らないことを知って眉を顰める。
グラファイトはフィーネの拠点を襲撃したはずだ。敵の本拠地である以上何かしらの防衛機構があるはずだし、それと戦闘すれば二課が察知できるだろう。
(まさか戦闘をしなかったってか?……なんか妙だ)
はぐらかすように翼に返事した後、奏は内心そう思いつつ二人が落ち着くのを待っていた。
≪See you Next game……≫
※クリスちゃん、ほぼ立ち直る →原作OTONAの役割を、奏さんが丸ごと奪いました。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
シップスさん、エターナルドーパントさん、蝙蝠男さん、hibikilvさん、ウルト兎さん、ガガギゴさん、sevenblazespowerさん。感想ありがとうございました!
ほたて()さん、hibikilvさん。評価ありがとうございます!
hibikilvさん、誤字報告感謝です。助かりました。
※更新についてお知らせ:
諸事情により、次の更新が大幅に遅れる可能性がかなり高いです。理由は活動報告にて述べますが、おそらく8月までの間、更新できて1回でしょう。