紅蓮激唱シンフォギア   作:zelga

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第37話 『Emotion&Ruthlessの狭間!』

 

 

「…………」

 

 

自身の研究室。昨夜から夜通しで作業をしていた了子は、驚異的と言える集中力で画面を凝視している。

 

キーボードを叩く手は残像が見えるのではないかと言うほど素早く、それでいて正確だ。この速度は作業開始時から衰えることはなく、むしろ時間を重ねるごとに早くなっていった。

 

 

「…………」

 

 

視線はせわしなく動き、キーボードを叩く手は止まらない。そしてある程度言った所で手は動きを緩め、人差し指でエンターキーを一度だけ叩いた。

 

 

『100%:COMPLETE』

「……フゥ」

 

 

どうやらひと段落したらしく、了子は息を軽く吐く。そして時計を横目に見て、自分が徹夜で作業を行っていたことに気づく。

 

1徹程度なら何度も経験しているので支障はないはずだ。しかしこれから行うことを考えると、体調はできるだけ万全にしておきたかった。

 

 

「……コーヒーでも淹れるか」

 

 

それも特別濃いのを、ブラックで。これで意識を覚醒させた後、要となるあの場所へ向かおう。

 

そう考えた了子は機械の電源を落とす。そして席を立ち、コーヒーメーカーがある部屋へ向かうため歩き出し――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『櫻井了子だな?』」

「ッ!?」

 

 

――扉を開けた時、そこには本来いないはずの男性の姿があった。その男性は軍服に防弾チョッキを付け、右手には小銃を握っている。そして話す言葉は日本語ではなく、英語だった。

 

 

「誰……きゃっ!」

「『動かないことを勧める。ここにいるのは、私だけではない』」

「……!」

 

 

了子は急いで扉を閉めようとするが、男性がそれよりも早く右手に持つ小銃の引き金を引く。数発の弾丸が彼女に襲い掛かり、右肩を食い破る。

 

その衝撃で了子は後方へ跳ばされてしまい、男性は扉を開けて声をかける。そしてその内容を証明するかのように男性の背後から2人の男性が現れ、また他にも何人かが窓を突き破って侵入してくる。その全員が武装しており、どう考えても穏やかな目的ではなさそうだ。

 

 

「『手前勝手が過ぎたな。聖遺物に関するデータは、我が国が有効活用させてもらう』」

「『……散々あの子に関する研究をさせておいて、掠める準備ができたら用なしってわけね』」

「『セレナ・カデンツァヴナ・イヴはわが国唯一にして世界最高レベルの完全適合者だ。たとえ切れ端であろうと、日本に渡せるものではない』」

「『徹底してるわ』……グッ!」

 

 

了子がそう呟いた瞬間、話しかけていた男性――リーダー格の男は再び引き金を引く。弾丸は彼女の両足を貫き、この場から逃がすことなく、確実に仕留める準備を整えていた。

 

 

「『さらばだ』」

「……ッ」

 

 

男性は銃を構え、その銃口は了子の頭部に照準を定める。それを見た彼女は顔をしかめ、かろうじて動く左腕に力を込める。

 

それに素早く気付いた男性は了子が何か行動する前に仕事を終えようと、引き金にかける指に力を入れ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでです」

 

 

――その言葉が聞こえると同時に、男性の身体が崩れ落ちる。

 

薄れゆく意識の中、男性が力を振り絞って振り向く。するとそこには見覚えのない男性が、静かにこちらに銃口を向けていた。

 

 

「あなた方の動向を監視していましたが、これ以上は看過できません」

「緒川、君……」

 

 

男性――緒川はそう言い切ると同時に引き金を引く。倒れていた男性は彼の言葉を最後まで聞き届ける前に、その意識を暗闇へ落としていった。

 

 

「『隊長!』」

「『撃て、撃てェ!!』」

「掴まって!」

「きゃっ!?」

 

 

襲撃者たちの銃口が火を噴く直前、緒川は了子を抱きかかえてその部屋から離脱する。直後、その場に数多の弾丸が降り注ぎ、衝撃による煙が辺りを包み込む。

 

 

「どうして、ここに……?」

「あまり話さないで、じっとしていて下さい。……すみません、このタイミングでアメリカから兵が秘密裏に送られたのを察知し、彼らを監視していました」

「……もっと早く助けてくれてもよかったのに」

「えぇ、僕もまだ詰めが甘い。まさか彼らが、こうも直線的かつ短略的な手段でくるなんて……」

 

 

そう話しつつ、緒川は襲撃者に気づかれないよう部屋を脱出する。そして現場から少し離れたところにある部屋に入り、了子をゆっくりと下ろした。そして懐から治療用具を取り出し、応急処置を始める。幸運なことに(・・・・・・)重傷だが致命傷はなく、弾丸も体内に残らずに全てが貫通していた。

 

その甲斐もあってか、消毒し薬を塗って包帯を巻くだけの簡易的なものとはいえ、数分もしないうちに処置が完了する。道具を素早く片付けた緒川は立ち上がり、了子はだいぶ痛みが和らいだことで安堵のため息を吐く。

 

 

「弾丸は貫通しているようですね……よし、できました」

「ありがとう。……でも、これからどうするの?」

「了子さんはここで安静にしていてください。僕は特異災害対策機動部二課のエージェントして……二課の敵を始末します」

 

 

了子からの問いに緒川はそう答え、ゆっくりと立ち上がった。普段からは想像もつかない気配を漂わせる彼を見て、彼女は頬に一筋の汗を流す。その様子を気にすることなく、彼は装備の確認と補充を進めていった。

 

 

 

 

 

――『おい、あいつらはどこだ!?』――

――『こっちに逃げたのは間違いないはずだ、探し出せ!』――

 

「……さて、と」

 

 

マガジンの交換も終わり、装備の確認も終える。準備を整えた緒川は纏う雰囲気以外何も変わらず、落ち着いた足取りで部屋を出る。

 

そして声がする方へと歩みを進めていき、扉の前に立つ。そして扉に手をかけ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『撃て!!』」

 

 

――その直後、扉の向こう側から多数の銃口が火を噴いた。弾丸は次々に扉を貫き、その先にある壁にも穴を開ける。

 

 

「『ハッハー、ざまあみろ!』」

「『やったか!?』」

「『まだ油断するな』」

 

 

そう言いつつ、男性達は銃口を下ろす。1マガジン撃ち尽くしたのだ、普通の人間なら助かるハズがない。

 

そう考えている間に、ゆっくりと煙が晴れていく。その視線の先には穴だらけになり、最早残っている箇所の方が少ない扉が彼らの視界に映る。少なくとも動く存在は確認できなかったので、男性3人の内1人が様子を見に部屋を出た。

 

 

「『……待て、奴の死体がない。ジャケットだけだ!』」

「『何言ってんだ、そんなわけ……!?』」

「『ッ、なんだ!?』」

 

 

その報告を聞き、部屋の中にいた二人が扉に向かおうとする。しかしその途中、まるで何かに縛り付けられたかのようにその動きが止まる。

 

いや、彼らだけではない。確認をするために向かった者もまた、2人と同じように動きを封じられていた。

 

 

「残念ですが、そちらは身代わりです」

「ガッ!?」

「ウグッ!」

「カハッ!」

 

 

影縫いによって生まれたその隙を逃すはずもなく、天井から降り立った緒川は素早く3人の背後に回って手刀を打つ。鮮やかながらも力強い一撃を喰らった3人は意識を失い、前のめりに昏倒した。

 

襲撃者はおそらく少数精鋭。リーダー格の男(・・・・・・・)は既に殺し、今3人(・・)の無力化に成功した。

 

 

「あと4人(・・)。……少々、急ぎますか」

 

 

その言葉を残して、緒川はその部屋から立ち去る。次の獲物を探し出すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄れた意識が浮上し、微睡みながらも目を開ける。

 

窓からは太陽の光が差し込み、備え付けの時計を見ると長針は7時をさしていた。

 

 

「……まじか」

 

 

そう呟き、クリスは上体を起こす。本当は軽く寝てから夕食を調達しようと思っていたが、まさか12時間以上もぶっ続けで寝ていたとは。

 

そこまで考えたところで、クリスのお腹がキューと鳴る。慌てておなかを押さえて周囲を見るが、どうやら奏はこの部屋にはいないようだ。

 

 

「……ふぅ」

「お、やっと起きたか」

「ッ!……なんで起こしてくれなかったんだよ」

「起こしたさ。でも全然起きねえし、あんな気持ちよさそうに寝られたら逆に起こしづらいっての」

「うぅ……!」

 

 

奏が答え、ヤレヤレと手を振る。それを聞いたクリスは先程のとは別の理由で赤面し、布団をかぶって顔を隠す。

 

 

「ま、気にすることはないさ。朝メシあるから、落ち着いたらこっち来てくれ」

 

 

その様子を見た奏は笑顔を浮かべて言い、寝室から姿を消す。数分後、落ち着いたクリスがリビングに顔を出すと、ソファに腰かけた彼女がコーヒーを飲んでいた。

 

 

「ほれ、コンビニで買ったやつだけど」

「おっと」

 

 

その言葉と共に、袋に入ったパンがクリスに向かって投げられる。それをキャッチしながら奏の隣に座り、袋を開けてパンをかじる。そして牛乳も同時に飲みつつ、全部飲み込んでから口を開いた。

 

 

「疲れは取れたか?」

「ん、バッチリだ。あたしが寝てる間、なんか動きはあったか?」

「いや、特に……ってわけでもねえか。昨日の夜は翼のライブがあったんだけどさ、こっそり見に行ってたらノイズが現れやがった」

「なっ!?」

 

 

サラッと告げられる出来事に、クリスは驚く。パンを食べようと口を開いた状態で固まった彼女を見て、奏は手を振りながら口を開いた。

 

 

「いやいや、出現箇所はライブ会場じゃねえって。ノイズ自体も私と立花で対処したしな」

「2人だけなのか?」

「あぁ、流石にライブ放り出して向かうわけにもいかねえだろ」

「……まぁ、そうだな」

 

 

ノイズの規模も小さかったしな、そう言って奏はコーヒーを飲み干す。

 

まさか自分が寝ている間にノイズが出現していたとは、少々後悔したが先ほどの言葉を思い出すに自分を起こすのにも時間がかかるので、それだと本末転倒だろう。そう考えたクリスは何とも言えない表情をしながら、朝食を食べ切った。

 

 

「で、提案なんだけどさ。フィーネの屋敷に行くんだろ?」

「当たり前だろ? それがどうしたんだよ?」

「私もついて行く。……ちょいと確認したいことがあってな」

「別に止める理由はねぇけど……何かあったのか?」

「ま、色々とな」

 

 

疑問に思ったクリスが尋ねるが、奏は言葉を濁して煙に巻く。そう答えつつ片づけをしていく彼女を見て、もしやグラファイト関連かと思ったが、別に聞いたところで自分にはあまり関係がないと判断することにした。 

 

 

 

 

 

「んじゃ、そろそろ――!」 

 

 

片付けも終わり、奏がクリスに向かう旨を伝えようとするが、その言葉が途中で止まる。それをクリスが訝しげに見るが、彼女はその視線を気にすることなく寝室に走り出す。

 

寝室に入り、ベランダに通じる窓を開ける。そしてフェンスに手を付け、とある方角に向かって目を凝らした。

 

 

「この感じ……!」

「おい、どうしたんだよ!」

「今すぐ準備しろ、ノイズが来る!」

「ッ!」

 

 

寝室の中からクリスが声をかけ、奏はそう返答しつつ部屋に戻る。そしてグラファイトから借りている道具一式を手に取って、険しい表情のまま扉を開ける。その気配から冗談ではないと判断したクリスも、待機状態のイチイバルを確認してから後に続く。

 

階段を駆け上り、屋上に出る二人。二人の視界にノイズは映っていなかったが、それからほどなくして警報が町中に響きだした。

 

 

「まじで来やがった……!」

「仕掛けてきやがった……行くぞ、クリス!」

ガッチョーン……

「わかってるっての!」

 

 

声をかけながら奏はバグヴァイザーをバックルに装着し、ガシャットを手に持つ。それに答えつつ、クリスもまた胸元の結晶を握りしめた。

 

 

ドラゴナイトハンター、z!

「変身!」

ガシャット!――BUGLE UP! ド・ド・ドドド黒龍剣! ドラ・ドラ・ドラゴナイトハンター……ガングニール!!

Killter Ichaival tron――

 

 

共に戦装束に着替え、奏は素早くバグヴァイザーのボタンを同時に押す。その様子を見て何をするのかクリスは察し、今回はイチイバルを纏っているのでかなりマシだと判断して彼女の肩に手を置いた。

 

 

「しっかり掴まってな、スタートダッシュかましていくぞ!」

「おぅ!……って、場所わかんのかよ!?」

「大丈夫だ、昔から勘は良いんだよ!」

CRITICAL BLAZE!

 

 

その言葉と共に屋上から飛び降り、昨日と同様ガングニールを使って二人は現場へ飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コツコツと、緒川は静かになった廊下を歩く。数分前までは男性の怒号や銃声が鳴り響いていた空間だったが、今では物音ひとつしない。

 

そして了子を隠した部屋の前に立ち、ノックをする。回りくどい方法から緒川だと判断したのか、彼女が動く気配はない。それを確認し、ゆっくりと扉を開けて部屋に入った。

 

 

「……終わったの?」

「はい、この通り」

 

 

そう答え、緒川は両手に持った男たちを下ろす。彼らは武器を奪われ、1人を除いて縄で縛られており、身動きが取れない状態となっていた。その様子を見た了子は苦笑し、口を開く。

 

 

「……まだ10分も経ってないんだけど」

「伊達に二課のエージェントはしていませんよ。それよりも、怪我はどうですか?」

「えぇ、見た目はすごいけどそこまで重傷じゃないわ」

 

 

しばらく包帯生活は避けられそうにないけど、了子はそう言いながら肩をすぼめる。

 

だがこうして二人は生存し、目の前にいる襲撃者7人(・・)の無力化にも成功した。何とか危機は脱したのだ。

 

 

「なんにせよ、緒川君が無事でよかったわ。今すぐ弦十郎君に連絡して、援軍を要請しましょう」

 

 

 

 

 

「いえ、それには及びません。あのタイミングで介入したのも、意味はありますので」

「え? またどうし、て……?」

 

 

了子は聞き返そうとするが、その途中で視界が揺らぐ。貧血による立ちくらみかと考えたが、明らかにそれとは違うことを彼女の頭脳は素早く判断していた。これは間違いなく、意識を失う前兆だ。

 

 

馬鹿な、この程度で私が倒れるはずはない。揺らぎ続ける意識の中、彼女はふと考える。

 

 

緒川慎二、彼が二課の裏の仕事を担うエージェントであることは了子も知っている。普段は温和な彼だが、単独で敵と相対する時はまるで刀のような鋭い気配を纏うことも。だからこそ先ほど感じたのは、彼の中でのスイッチの切り替えだと思っていたのだ。

 

 

 

 

 

――じゃあなぜ、私はその気配を感じ取れた?

 

その答えは、了子を見ている緒川が全く取り乱していないことから推測できるだろう。

 

 

「先ほどの治療薬に、仕込ませてもらいました。効果が出るまで少々時間がかかりますが、無味無臭で決して気づかれないしびれ薬です」

「なん……で……?」

「……風鳴司令はあなたを信じているようですが、僕はそう言うわけにはいかないんですよ」

「ッ! まさか……!!」

 

 

答えは導き出せたが、一手……いや半手遅かった。

 

 

「話は二課で聞かせてもらいます。それまで、ゆっくり休んでいてください」

 

 

そう言った緒川は、了子が何か行動を起こす前に素早く近づく。

 

そして、彼女のうなじに向かって手刀を振りかぶった。

 

 

 

 

 

≪See you Next game……≫

 

 

 




※襲撃者が7人に →原作だと5人だったが増員された。セレナの研究データを日本に渡したくない米国政府の意向が主な原因。
※NINJA、若干冷徹化(?) →お人好しだらけの二課で1人位はスイッチのON/OFFができる人物がいた方がいいんじゃないかと考えたのがきっかけ。そこで1期でOTONAに「お人好し……って言いたいんだろ?」と察知されていたのを思い出し、かつエージェントでもあるNINJAが適任。

ここまで読んでくださりありがとうございます。
無銘さん、通りすがりの錬金術師さん、クロトダンさん、瑛松さん、sevenblazespowerさん、suspenseさん、シップスさん、。感想ありがとうございました!
邪神イリスさん、評価ありがとうございます!

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