紅蓮激唱シンフォギア   作:zelga

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第39話 『Bossを追跡せよ!』

 

 

「――カ・ディンギル、ですか?」

『あぁ。慎二、何か心当たりはあるか?』

「いえ、僕にも心当たりはありません。……ですので、少々調べてから戻ろうかと」

『……そうか、頼んだぞ』

 

 

弦十郎との通信を終了させ、緒川は了子を抱きかかえて部屋を出る。そして廊下を歩き、一番奥の扉まで移動する。

 

 

「…………」

 

 

扉を開け、緒川は目的の部屋――最奥の研究室に立ち入る。そしてソファに了子をゆっくり下ろし、彼女の様子を確認してからパソコンの前まで移動する。確実に一撃を加えた上に薬の効果も強力なものだ、彼女は少なくとも日が昇っている間は目覚めないだろう。

 

 

「さて、ハッキングはそれほど得意ではないのですが……」

 

 

そう言いつつも手を素早く動かし、セキュリティを突破しようと試みる緒川。そして数分も経たないうちに成功したらしく、画面には大量のファイルが表示されていた。

 

ファイルのうち1つを開け、その中身に目を通し、見終わったら閉じて次のファイルを開く。行っていることは単純な閲覧作業なのだが、その速度が尋常ではない。次々に目を通していき、画面を埋め尽くしていたファイルの数は急激に減少していった。

 

 

 

 

 

「…………これは」

 

 

突如手が止まり、緒川の視線は1つの資料に集中する。それは一見全く関係のない報告書に見えるが、よく見ると所々に違和感がある。そこが気になった彼はしばらく見つめ、懐から手帳を取り出して書き込んでいく。

 

一通り書き込んでいったかと思えばしばらくそれを見つめ、改めて書き込んでいく。それを何度か繰り返した後、彼の手帳には画面の資料とは違う内容が書き込まれていた。

 

 

「やはり暗号でしたか。さて、この内容は……ッ」

 

 

ひと息ついて、改めてその内容を確認していく。最初は真剣な表情で見つめていたが、それは徐々に驚愕に上書きされていく。

 

そこに書き込まれていたのは、予想通りガ・ディンギルに関する資料だった。その概要や性能、そして目的が記されているのだが、それこそが彼をここまで驚愕させるに至るには十分すぎる内容だったのだ。

 

 

「これは……少々まずいですね」

 

 

そう呟きつつ、緒川は思考する。資料の内容が本当だとしたら、ガ・ディンギルを起動させるわけにはいかない。だが場所が分からない以上、対策の取りようもないのだ。

 

だが先程までとは違い、緒川はガ・ディンギルの性能を知ることができている。そこから予測することはできるはずだ。

 

 

(ガ・ディンギルの名前の通り、巨大な塔型の建造物であることは間違いない。だがそんなもの、ここ数年で確認できていない)

 

 

カモフラージュをかけられていたとしても、この規模のものを隠しきること等ほぼ不可能なはずだ。だが弦十郎からの報告を聞く限り、間違いなくそれはほぼ完成して、どこかで起動の瞬間を待っているのだ。

 

 

(塔なんて目立つ物、それを誰にも知られずに建造するには……)

 

 

地下に伸ばすしかない、そう緒川は結論づける。上に伸ばしたところで隠せないのなら、下に伸ばした後で全体を押し上げてやればいいのだ。

 

そして、そんなことが可能な場所と言えば――――

 

 

「ッ、そう言うことですか!」

 

 

頭の中でばらばらだったものが繋がり、緒川は目を見開く。そして急いで通信機の電源を付け、弦十郎と繋げる。

 

 

「緒川です、聞こえますか?」

『おう、なにかわかったか?』

「ガ・ディンギルの正体が判明しました」

『なに!?』

「はい。物証はこれから送りますが、カ・ディンギルとはおそらく――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あぁ、本当に厄介だ」

「ッ!!」

 

 

その声が背後から聞こえた瞬間、緒川は瞬時に振り向く。そしてそれと同時に衝撃が襲いかかり、全身を機器に叩きつけられた。

 

 

「素晴らしい策だったな、緒川慎二。イレギュラーである青二才のアンクルサム共すら私を欺くための駒とし、糸に絡めとられるその瞬間までボロを決して出さない」

 

 

その言葉と共に、緒川の正面にいる存在は手を光らせる。それを肩口に当てるとバリバリと言う音が迸り、同時に傷口がふさがっていく。

 

 

「いやはや、おかげでしてやられてしまった。本当に――――」

 

 

完治したのを確認し、今度は全身を光らせる。そしてそれが収まった時、目の前の存在の姿は一変していた。

 

髪の色は茶色から薄い金色へ、そして身に纏うものは白衣から黄金のボディースーツへ。そして緒川を吹き飛ばした肩パーツ兼鞭は彼女を守るように周囲を浮遊している。

 

 

 

 

 

「――もしあと1日事を起こすのが早ければ(・・・・・・・・・・・・・・・・)、私はなすすべなくお前たちの手に落ちていただろうよ」

「了子さん……あなたがフィーネだったんですか」

 

 

緒川の言葉を聞き、目の前の存在――フィーネは黄金色の瞳で心底愉快そうに彼を見つめていた。

 

 

「なぜ……。あなたは今日は身動きどころか、目覚めないようにしたはずです……」

「それはただの人間に限った話だろう? 今の私は完全聖遺物と融合している、そのような道理はまかり通らんさ」

「ネフシュタンの鎧……!」

 

 

そう話しつつ、緒川は身をよじらせて姿勢を立て直す。ダメージは軽くないはずなのだが、彼はふらつくことなく両足をしっかりと踏み締めていた。

 

 

「さて、私は質問に答えた。次は貴様の番だ……何がきっかけだ?」

 

 

その様子を見つつ、余裕の表情を崩さずにフィーネは問いかける。それに対し、緒川は警戒を維持しつつ答えるために口を開いた。

 

 

 

 

 

「きっかけは、デュランダル移送作戦を行った日です。あの日僕と風鳴司令は、秘密裏に彼と接触していました」

「……グラファイト、か」

 

 

フィーネにとってのイレギュラー、その最たる存在の名を彼女はつぶやく。それを緒川は否定せず、言葉を繋げていく。

 

 

「そこで一度戦闘になったのですが、その時に彼が僕に言ったんですよ」

 

 

 

――俺が手に入れた、デュランダル封印に関する運搬方法の計画書。そこに記されていたデュランダルを一人で搬送する人間、それが貴様か!――

 

 

 

 

 

「…………」

「もちろんデュランダル移送計画の中に、僕の名前は記されていません。そしてデュランダルを移送すると言う密命もまた受けていません」

「そこから違和感を抱いた、か。……やはり、グラファイトは手傷を負ってでも始末すべきだった」

 

 

忌々し気に顔をしかめ、吐き捨てるようにフィーネは話す。それを見ながら、緒川はもう1つの違和感を話す。

 

もう一つ気になったこと。それは緒川の名前を弦十郎が言った時、グラファイトがわずかに反応を示したということだ。その様子は、まるで思っていたのと名前が違ったかのようだった。

 

 

「僕と苗字が同じで、デュランダルの移送を任せられる程政府からの信頼が厚い人物……それは考え得る限り1人だけです」

 

 

その名は、緒川総司。風鳴一族に代々仕える緒川家の頭領であり、彼の兄にあたる人物だ。

 

 

「その事にたどり着いた後、僕は誰にも勘付かれない状況を作って兄と接触しました。そして、本当の計画を聞きだしました」

 

 

緒川総司が話した本当のデュランダル移送計画、それは二課が表立って敵を引きつけ、総司自らがデュランダルを記憶の遺産まで移送するという計画。

 

だがそれはあくまで第1案として総司だけに提示されたものであり、本案ではない。そして提案者でもある広木大臣が暗殺されたことで、念のため計画を変更するとの通達が、政府だけが知る通信手段であった。故に彼は関わる必要がないと判断し、緒川が聞きに来るまで誰にも打ち明けていなかったのだ。

 

 

「もしこの計画が実行されていた場合、デュランダルの位置を割り出すことは困難だったでしょう。だからこそあなたは広木大臣の殺害を手引きし、協力者である了子さんが計画を改竄した」

 

 

……と、思っていたんですが。そう締めて、緒川は改めて構えながらフィーネを見る。まさか了子とフィーネが同一人物であるとは、しかも今のを見る限り変装と言うわけでもなさそうだ。

 

そこまで考えたところで、ふと通信機を見る。先程まで手に持っていたそれは鞭の直撃を受け、上半分が粉々に砕けていた。これではもう二課と連絡を取ることはできないだろう。

 

 

「状況を理解したようだな。……さて、運命の時まであまり余裕がない。大いなる計画に歪みを生まれさせるわけにもいかんのでな」

「ッ、止まってください!」

「撃つか? どちらにせよ貴様の運命は覆らない。それでも足掻くと言うのなら、その引き金を引くが良い」

 

 

そう呟き、フィーネは踵を返す。それを見た瞬間、緒川は銃を構える。その気配を背後に感じたフィーネは立ち止り、そう話す。それを聞いた緒川が彼女の纏うものを確認し、動きが止まるのを確認する。

 

やはり人間なんてその程度か、そう考えたフィーネは歩みを再開する。そして扉に近づき――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ほぅ」

 

 

その歩みをもう1度止めて、意識を後方に向ける。そこにいる緒川の手に持つ銃の銃口からは、煙が出ていた。

 

 

「あなたを二課……ガ・ディンギルの元へは向かわせません! この命に代えてもです!」

「……フフ」

 

 

影縫いによって動きは制限されているものの、フィーネは無理やり体を動かして振り向く。そして両手を上方へ翳すと、それに従うかのように2本の鞭が上空に昇っていく。

 

 

「良くぞ吠えたな、人間。ならば……望みどおりにしてやるッ!!」

 

 

その言葉と共に振り絞った力を開放し、全力で振り下ろす。迫りくる鞭を見ながら、緒川は小銃と小刀を両手に構えて迎え撃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつで……しまいだ!!」

 

 

――MEGA DETH QUARTET――

 

 

限界ギリギリまで溜められた力が開放され、巨大なミサイルが1発ずつ超大型ノイズに向かって発射される。さらに同時に発射されたミサイルポッドからは小型ミサイルが大量に射出され、両腕に持つガトリング砲と共に空中の鳥型ノイズを撃墜していく。

 

邪魔がいなくなったことで遂にミサイルは超大型ノイズに届き、大爆発を起こす。大ダメージを受けた超大型ノイズの身体は粉々に砕け散り、炭素の粉となって空気中にばらまかれていった。

 

 

「やった……のか?」

「ハッ、たりめーだ!」

「ッ、やったー!」

 

 

三者三様ながら、その感情は一つ。強敵を倒したことによる、歓喜だ。

 

 

「やったやった、やったよクリスちゃーん!」

 

 

戦いが終了したのを確認し、三人とも変身を解除する。そしてその感情の勢いのまま響はクリスに跳びかかり、正面から抱き着いた。

 

 

「勝てたのはクリスちゃんのおかげだよー!」

「あーもう、だから抱き付くなって!」

 

 

嬉しそうな表情で抱き付く響に対し、抱き着かれたクリスは恥ずかしそうに大声を上げて引きはがそうとする。この数日で最早見慣れてしまった光景に、翼は微笑みながら少し離れた場所でその様子を見守る。が、ふと空が光ったことに気づいてその方向へ視線を向けた。

 

その光は近づくにつれて少しずつ勢いが衰えていき、翼の隣に激突することなく着地した。

 

 

「よ……っと。こっちは大丈夫だったみたいだな」

「奏。……うん、あの子が頑張ってくれたから」

 

 

降りてきた奏にそう答え、翼は再び二人の方を見る。そこではクリスが一度引きはがして響に何か言ってるが、それを聞いた響が再び顔を綻ばせて彼女に抱き着く光景が映っていた。

 

 

「じゃ、私たちも行こうぜ。……どうやら、向こうもなんかあったみたいだしな」

「……みたいだね。うん、わかった」

 

 

そう話して二人の元へ行く奏と翼。彼女の言葉のとおり、先程までじゃれていた響は現在通信機に耳を傾けており、その表情は唖然としていた。

 

 

「立花、何があった?」

「翼さん! 未来が、未来が……!」

「落ち着け、小日向がどうしたのだ?」

「学校に……リディアンにノイズが出たって! 途中で通信が切れて……私、どうすればいいか……!?」

 

 

目に見えて狼狽える響を見て、何とか翼は落ち着かせようとする。そしてその内容を聞いた奏は顔をしかめ、リディアン音楽院――正確にはその地下にある建造物がある方向を見て呟く。

 

 

「ッ、なるほど。本命は二課か……!」

「おい、それマジかよ!?」

「マジもマジ、大マジだ。急いで二課に向かうぞ皆!」

「で、でもここからリディアンまで結構距離がありますよ!」

 

 

奏が3人に声をかけるが、響がそう問い返す。実際響はヘリコプターで移動しており、それでも数分かかっていたことから徒歩の場合にかかる時間は考えるまでもないだろう。

 

 

「なぁ、ガングニールをでかくして4人乗りにすることはできねえのか?」

「無茶言うな、2人乗りが限界だよ」

 

 

クリスがふと思いついて奏に提案するが、にべもなく即答される。いくらガシャットの力を用いて変形させているとはいえ、柄の部分を伸ばせるかはわからないし、ここからだと距離に対して燃料が足りないだろう。

 

そう聞いたクリスも期待はしていなかったようで、そうか、とだけ返す。そして最早徒歩以外の手段はなさそうだと思った響たちは焦りながらも移動を開始しようとする。

 

 

 

 

 

「……それに、問題はないさ」

 

 

だが、奏だけはその場を移動せずにニヤリと笑って話した。

 

 

「奏、何か移動手段があるの?」

「あぁ、あるぜ。それもとびっきりの奴がな!」

 

 

そう言って、奏を指を上に刺す。それにつられて3人も上空を見るが、そこにはノイズがいなくなったことで青空が広がるだけだ。

 

 

「なんもねえじゃねえか?」

「うん、空もノイズがいなくなったことで戻ってきた鳥さんが数羽飛んでいるだけだよ」

「そうだな……む?」

 

 

3人がそれぞれコメントを残すが、ふと翼が上空を飛んでいる鳥の影を見て目を潜めた。

 

それは他の鳥と同様に4人のちょうど上空を浮遊しているのだが、あまり動きがないように見える。さらに雲が通り過ぎていったのだが、その鳥だけ姿を消したのだ。

 

 

「待て、あれは……?」

「フ、今回は材料が上等だったからな。前に翼たちが出会ったやつとは、格が違うぜ?」

 

 

翼の呟きを聞いた奏はそう得意気に話し、両手を上げて視線を上空に向ける。するとそれに呼応するかのように鳥がこちらに近づいて来る。

 

1羽、また1羽と地上に降り、残りは例の影だけになる。その影もどんどんこちらに近づいているのだが、それを見ている翼とクリスは少しずつ表情を引きつらせていく。

 

 

「オイ、まさかあれって……!」

「既に前回相まった時と同じ大きさだぞ、まだ大きくなるのか……!?」

「うわー!」

 

 

その言葉のとおり、すでに周囲の鳥より数十倍もその影は大きくなっているのだが、未だに明確な姿は見えない。だが奏の言葉からその正体に勘付いているのだろう、翼とクリスの頬には一筋の汗が流れていた。だがしかし、響は迫りくる影を見て目を輝かせている。

 

 

 

 

 

そしてそれはついに、奏の元にたどり着く。それを確認した彼女は振り向き、笑顔の響と呆れ顔の翼、呆け顔のクリスを見て口を開いた。

 

 

「リディアン音楽院までの直行便だ、乗ってくかい?」

「――――――――――――――ッ!!」

 

 

 

 

 

≪See you Next game……≫

 

 

 




ここまで読んでくださりありがとうございます。
通りすがりの錬金術師さん、sevenblazespowerさん、シップスさん、作家の観測者 主さん。感想ありがとうございました!
黒セツさん、評価ありがとうございます!
エクスプローラーさん、誤字報告感謝です。助かりました。

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