「ふんッ!」
地上の敵を吹き飛ばした後、他の敵が飛び込んでくるのを見て上空へ跳んで回避する。それに対し敵の軍勢は次々に形態を変え、グラファイトへと襲いかかる。
「ハァァァァァァァァッ!!」
それ見てグラファイトは焦ることなく、冷静に双刃を振るう。素早く正確なその連撃は次々と襲い掛かる敵――――ノイズと呼ばれる存在をことごとく撃ち落としていく。
迎撃をしつつ着地したグラファイトは一度前転し、双刃に力を込める。すると赤いエネルギーが発生し、刀身に伝わっていく。
「これで終わりだ……! 激怒竜牙!!」
双刃を振るい、溜めていたエネルギーを開放する。放たれた十字の剣戟は残っていたノイズに襲い掛かり、大きな爆発が発生する。
それが収まり、煙が晴れた時。グラファイトの周囲に、ノイズの姿は一体も存在しなかった。
『フェイズ5、クリア。対ノイズ戦シミュレーション・レベル7、コンプリートです』
アナウンスが聞こえると同時に、周囲の風景が荒野から無機質な部屋へ戻る。それを確認したグラファイトは、先ほどまでの戦いを振り返っていた。
あのノイズとかいう敵。妙な特性があって最初こそ手こずったが、対処法さえわかれば後は雑魚同然だった。そんなわけでレベル5を瞬殺した後、難易度を上げていき、今レベル7が終わったという所だ。
(まだだ。かなり近づいてはいるが、これではまだ至ることができない……!)
しかしグラファイトの表情はそこまでよくない。あの怪物との戦いの後から赤色の鎧は緑となり、以前のような圧倒的な力を引き出すことが難しくなっていた。しかしあの時の状況から原因はおおよそ予想できており、この状況を打開するために彼はこうしてより強い敵と戦い続けていた。
『どうかしましたか?』
「……いや、何でもない。まもなく朝が来る、次で最後だ。難易度を上げられるだけ上げろ」
『はい』
少しずつ制限時間が近づいており、結果がどうであれ次が最後の戦いになるだろう。グラファイトは最終戦に向けて、意識を集中させていった。
場所は変わって操作室。セレナはパネルを操作し、難易度を変更しようとしていた。しかしふとその手が止まり、先ほどまでの戦いに思いをはせる。
(……本当にすごい。このシミュレータで出てくるノイズは本物同然の戦闘力なのに、彼は聖遺物の加護なしで戦い、圧勝するなんて)
セレナが驚くのも無理はない。シミュレータで登場するこのノイズと言う敵、実はかなり厄介な性質を持っているのだ。主にそれは二つに分けられるのだが、その内1つは特に関係ないので除外する。
もう1つの厄介な性質。それは【位相差障壁】というものだ。これによりノイズは【現世に存在する比率】を操ることができ、物理的な干渉を減少させる。つまりどうなるのかというと、この性質により一般的な兵器はほぼ無効化してしまうのだ。
しかしこれにも弱点は一応存在する。こちらが干渉できない間は、ノイズもまた干渉できないのだ。詰まる所、奴らが自分たちに接触しようとする瞬間、つまり攻撃してくる間だけはノイズに対し一般兵器も通用するのだ。そしてセレナが纏っていた鎧は【位相差障壁】を弱体化させることで、常に物理的干渉ができるような状況に持ち込む力を持っている。
そしてグラファイトは【位相差障壁】を知らず、無効化する手段など持たない。なのになぜ圧倒できたか、その理由は1つしかない。
(攻撃できる隙は一瞬。それを彼は1度も逃さず、かつ一撃でノイズを倒している)
外見が変わっていることには驚いたが、その強さは全く衰えていないように感じた。彼には彼なりの考えがあって戦っているようだが、基本的に圧倒しているので鍛錬になっているのだろうか、セレナは少し不安に感じていた。
(どうすればいいんだろう…………)
『なにをグズグズしている?』
「あっ、すみません。すぐ始めます。ステージ5:海岸、セットアップ」
考え事をしてしまい、グラファイトから催促された。セレナは思考を中断し、戦場を選択して難易度の数字を調整する。
レベル8・9では彼はおそらく満足しないだろう。そう思いその先を見ようとして、セレナはあることに気づく。
「あれ、レベル9の次が10じゃなくて【X】……?」
パネルの難易度の一覧の中に一つだけ存在する英語。他のレベル表記が数字の中、この【X】という文字は一際異彩を放っていた。しばらくセレナは考えていたが、思い当たる節があった。それはしばらく前、ナスターシャから教えてもらったことだ。
「そう言えばローマ数字でXは10を示しているんだっけ。……でも、なんでこれだけ?」
『おい、まだか!?』
「あぁ、はい! ではシミュレーション、レベル10を開始します!」
これ以上彼を待たせるのはまずい。そう判断したセレナは準備を整え、レベル【X】のパネルをタッチした。そしてシミュレーションを開始する。
なにかきっかけがあるとしたら、それは間違いなくここだったのだろう。セレナはレベルXをレベル10と判断してしまい、もう一つの意味を知らなかったのだ。
Xとは10であると同時に、未知数であることを示している。尚、シミュレータにはこれ以上の難易度は存在しなかった。
「オォォォォォォォッ!!」
『フェイズXは続行。ノイズ、追加されます!……お、多すぎます!?』
――――その結果がこれである。
手応えはだいぶよくなっていたが、それでもグラファイトの目標には届かなかった。そのままフェイズ5が終わり、元の部屋に戻ると思っていたグラファイト。しかし、周囲の風景は採石場に変わっていた。これには彼だけではなく、セレナも疑問に感じる。そして二人の眼の前に表示される【フェイズX】のパネル。
そして次の瞬間、グラファイトの周囲は大量のノイズで囲まれた。
360°、ありとあらゆる方向から次々に迫りくるノイズ。地上からはカエル型ノイズや人型ノイズが襲い掛かり、空中からは鳥型ノイズが隙を見つけて襲撃してくる。さらにその後方からは爆弾を葡萄の実のように身につけた人型ノイズが仲間であるノイズごとグラファイトを爆撃してくる。この戦場を上から見ているセレナには、彼を中心にして円状にノイズがみっちり詰まっているのを目視できていた。
一瞬でも気を抜くか立ち止まればすぐさまノイズの嵐が襲い掛かる、そんな場所でグラファイトは今、戦っていた。そんな中で彼は――――
「そうだ、もっと来い! この俺を楽しませろっ!!」
――――全力で楽しんでいた。常に思考を続け、最速で最適解を導き出す。それを素早く実行し、さらなる手を考える。少しでも遅くなれば間に合わなくなり、一度でも失敗すればそこから波状的に押しつぶされるだろう。
しかしそれこそ、グラファイトが望んでいたもの。すぐ隣に死が存在し続ける戦い。この緊張感こそ、彼が鍛錬において何よりも欲していたものだった。
「ハアァァァァッッッ!! くらえ、激怒竜牙!!」
ノイズが攻撃するその瞬間を見切り、地上と空中に必殺技を放つ。次々と撃破されていくノイズだが、その数秒後には新たなノイズが襲い掛かる。
『ノイズ、さらに増加! いくらなんでもこの難易度は……!?』
「黙れ!!」
セレナがシミュレーションを止めようとするがグラファイトがそれを遮る。その直後、上空から迫る何かを感知し、後方へ大きく跳ぶ。その直後、今までとは圧倒的に違う質量を持ったノイズが着地し、周囲を土煙が覆った。
「……ほぉ、今度のは随分とデカブツだな」
『今度はギガノイズ!? この難易度を作った人は何を考えているんですかーっ!?』
土煙が漂う中、その巨体を見上げたグラファイトは呟き、その存在を知っているセレナは頭を抱える。
こちらを認識したギガノイズは芋虫のようなその巨体をこちらに向けてたたきつける。グラファイトはそれを避け切りつける。が、あまり有効打にならないと判断して距離をとった。そこで土煙が晴れ、小型ノイズからの猛攻が再開される。
「ッ、なに!?」
迎撃していくグラファイトだが、予想外の速度で飛んできた一体の反応が間に合わず、一撃を喰らう。
何とか体をひねったため直撃は避けられたが、この隙は致命的だった。
「ガァァァァァッ!!」
次々に襲撃してくるノイズの攻撃を喰らうグラファイト。いくつかの迎撃は間に合った。しかし一度崩れてしまった以上、崩壊するのは時間の問題だった。
グラファイト、あるいはその周辺にノイズが衝突して大量の土煙が周囲を覆う。さらに葡萄ノイズの爆弾がそこに降り注ぎ、追い打ちをかけていく。
『っ、グラファイトさん!!』
「ハァ……ハァ……」
煙が晴れ、グラファイトの姿が確認できる。しかし鎧がいくつか欠けており、少なくないダメージを負っているのは見て明らかであった。
「今の、攻撃は……っ!」
再び異常な速度で襲撃するノイズ、それをグラファイトはほぼ反射で避けることに成功する。そしてその原因を彼が見逃すことはなかった。ギガノイズ、そいつの口と思われる箇所から鳥型ノイズが飛び出ていたのだ。
「奴が発射口となっていたか……!」
ならばまずギガノイズを倒す、そう判断したグラファイトは双刃を構え、突撃する。
まるでミサイルのように次々と襲い掛かるノイズを避け、一部は打ち落としてゆく。そしてギガノイズを射程圏内に捉えた瞬間跳びあがり、双刃に赤いエネルギーを纏わせる。それに対しギガノイズは力を溜め、グラファイトに猛烈な勢いで突進する。
「激怒竜牙!!」
放たれた十字の剣戟はすぐ近くまで来ていたギガノイズとぶつかり合い、爆発する。ほぼゼロ距離で爆発したためグラファイトも吹き飛び、周囲のノイズも余剰エネルギーで消滅する。
「フ、ハハハ……!」
地面を転がり、すぐさま立ち上がるグラファイト。まだ余力はありそうではあるが、かなり消耗している様子。しかしその声色は歓喜しており、感情は昂っていた。
「そうだ。もっと、もっと俺と戦え!」
そこまで言って、グラファイトはふと仲間の口癖を思い出す。そう言えば彼は楽しくなっていた時、こんなセリフを言っていた。そして今の状況はまさに、彼にとって楽しいモノだ。
「……あぁ、心が躍るな!!」
そう叫んで双刃を握りなおす。そして土煙が晴れたら再開されるノイズの猛攻に備え、態勢を整える。
――――そして懐の熱に気づき、彼は迷いなくそれを手に取った。
土煙が晴れ始め、グラファイトを囲んでいた小型ノイズが攻撃の準備を始める。さらにはギガノイズも再び現れ、そのすべてが一斉に彼に向かって突撃した。
「ハアアアァァァァァァァァァッ!!」
そしてその直後、彼を中心とした暴風に攻撃中止を余儀なくされる。何が起きたのかをセレナは確認しようとし、彼が今どんな状態なのかを知る。
「アァァァァァァッ!!」
グラファイトは、その身体から細かいブロックが怒涛のように溢れだしていた。それはまるで竜巻の様にねじれながら空中へ吹き出していく。
そして彼は懐から物体を取り出し、それを上へ向けた。
「来いッ!」
その言葉がきっかけなのか、空中へ飛び出したそれは途中で向きを変え、グラファイトが持っている物体に吸い込まれていく。この際にも衝撃が発生しており、その激しさからノイズは近づけない状況になっていた。
そしてそのすべてが吸い込まれ、辺りが静寂に包まれる。グラファイトは手に持つ何かを確認し、それを今度はノイズに向ける。
「……さて、随分と待たせたな。度重なるお前たちの戦いにおいて、俺はさらなる高みに至ることができた!」
そしてその道具――――ガシャットの起動スイッチを押した。
『ドラゴナイトハンター、Z!』
「培養……!」
その言葉と共にガシャットの向きを変え、彼の鎖骨部付近に差し込む。すると接触したところから細かいブロック状の粒子が雷撃と共に発生し、グラファイトを覆い尽くす。
そして変身が終わった時、再び彼の姿が変わっていた。緑色の鎧は黒色となり、右腕部分は赤色から黄色へと変化していた。また負っていた傷は消え、今までよりもはるかに存在感が増している。
それを確認した彼は双刃を振りかざし、ノイズに向かって駆け出した。
「龍戦士グラファイトの新たな力、とくと見るが良い!!」
――――そして数分後。フェイズXが終了して元の部屋に戻った時、彼は無傷で立っていた。
「本当にすみません!!」
「…………何がだ?」
目的を果たし、満足して部屋から出てきたグラファイトを迎えたのは、涙目で謝罪するセレナの姿だった。
「まさかあんなにノイズが出るとは思わなくて。けど、なぜかシミュレータは止めれなくて……!」
「落ち着け、俺は別に気にしていない」
「ですが……」
「俺はこの鍛錬に満足している。何も問題はなかろう?」
「え、あの。そうなんですか……?」
あぁ、と彼は懐からガシャットを取り出す。その持ち手には【ドラゴナイトハンターZ】という文字と色合いがモノクロなロゴが刻まれていた。
グラファイトの姿が初期状態になった前、彼からは二つのガシャットが生み出されていた。ここに自分の力が封じられていると予想した彼は度重なる鍛錬により自身のレベルアップを画策。結果的にレベルXというぶっとび難易度により、彼の経験値は爆発的に上昇。条件を満たし、ガシャットの封印が解放されたのだろう。
未だ最強の姿であるグレングラファイトではなくダークグラファイトだが、グラファイト自身の予想が当たっていることが確認できたので、今回の鍛錬の結果に彼は大満足だった。
「それは?」
「今回の目的だ。あと一歩のところまでは来たのだが、最後の一押しが弱くてな」
最後のあれが良い一押しとなった。とグラファイトは嬉しそうに言う。いつになく上機嫌な彼を見てセレナも穏やかな笑みを浮かべる。
「そうですか。力になれてよかったです!」
「あぁ…………ッ、んん!……もう朝が近い。俺は行く」
ようやく落ち着いてきたのか、咳払いをして元のテンションに戻るグラファイト。シミュレーションルームから出ていこうとする彼をセレナはしばしキョトンと見つめ、慌ててシミュレーションルームの電源を落として彼の後を追った。
≪See you Next game……≫
※黒いガシャット……グラファイトの力が封印されているガシャット。グラファイトが強くなり条件を満たすことで解放され、レベルアップ(?)することができるようになる。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
sevenblazespowerさん、無銘さん、ゆっくりさん。感想ありがとうございました!
シップスさん、jishakuさん。評価ありがとうございます。
とまぁそんなわけで、弱体化(?)の一部解除回でした。
弱体化しておいていきなり強化かよ……なんて思った皆さま。なぜこんなことをしたのかというと、作者はグレングラファイトも好きなのですが初期グラファイトやダークグラファイトも好きなんです。そこですべての形態を自由に選べるようにしたいなーと考えて思いついたのがこの設定になります。