あたしはゲームが好きだ。ゲームのために人生の半分を消費してきたといっても過言ではない、と自負してる。そんなあたしがゲームと同じくらい入り込んでしまったのが――――――――――――――
――――――アイドルだ。
[夏のゲームセンターにて]
「いよっし!!」
画面に勝利を告げるテキストが現れ、瞬間的にガッツポーズをしてしまう。隣に座っていた対戦相手はため息とともに、握手を求めてきた。
「すごいなぁ、これで4連勝?」
「5連勝だよ。お兄さんも強くて、楽しかったよ!」
なんて、会話をしていると次の挑戦者が挑んできた。そんなことがおよそ1時間ほど続いた。そろそろやめようとして、
「次で最後だよ!挑戦者はいる?」
と周りに声をかける。すると--
「はい。俺やります!」
その元気な声の方向に目を向け、あたしは少し驚いた。だって、夏休みの昼時のゲーセンにスーツを着た男がたっているのだ。こんな時間にサラリーマンは普通いない。よっぽどゲームが好きなのだろう、と思ったあたしは未知の相手に大きな期待を向けていた。
男が席に座り、よろしく、と声をかけてくる。あたしも同じように返して、対戦が始まった。まずは実力の見極めだ。あたしに挑んでくる人には、申し分なく強い人と油断と慢心だらけの人がいる。男は前者だった。実力はあたしよりも上だった。なんとか必死に食らいつくが、巧みなガードとコンボでいなされる。結果は---
---完敗だった。3試合中2勝を先取され、負けた。
今日のあたしは間違いなく絶好調で、最高のコンディションだったのに。悔しかったが久しぶりに強敵に遭遇した高揚感で、心臓がバクバクと暴れている。
「あたしの完敗だよ。お兄さんつよいね。」
「君もすごかったよ。こんなに楽しかったのは久しぶりだ。」
男も相当白熱していたのだろう。握手のために差し出された手が震えている。握手をすると、回りから拍手をされた。少し照れくさくて、席から立って男に別れの挨拶をしてその場を去ろうとすると、
「ちょっと待ってくれないか。君に話があるんだ。」
普通だったらこんな風に誘われても、危ないだろうと断るのだが、この人はいい人だと直感的に思ってしまった。そうして、男につれられゲームセンター横のカフェへと入った。テーブル席に座りメニューを眺める。ドリンクメニューの大半はコーヒーだったけど、はしっこにいくつかのジュースと紅茶が載っていた。コーヒーが飲めないあたしはオレンジジュースを注文した。男は紅茶を注文した。
「えーと、名前を教えてもらってもいいかな?」
「三好紗南。紗南でいいよ。」
「わかった。俺はPっていうんだ。呼び止めてごめんな。何か用事があったりするのか?」
「ううん。大丈夫だよ。」
「そうか、よかった。実は―――」
言いながら男が取り出したのは――
「君をアイドルとしてスカウトしたいんだ。」
CGプロダクションと書かれた名刺だった。
[三好家にて]
先日の出来事からすでに一週間程たっていた。あの日は結局、名刺を受け取って答えは返さずに帰宅した。あたしはアイドルなんてよく分からないし、興味もなかったが、彼の真剣な目と情熱的な言葉によってアイドルというものに引かれていた。あんな風に誘われてしまってはやってみようと思って当然だ。だが、気持ちだけではどうにもならない。もらった資料を読んで、CGプロダクションについて調べる。
CGプロは大手の芸能事務所だ。さまざまな部署があるが、あたしはアイドル課にスカウトされた。そのような大手ならば、当然田舎ではなく東京にある。
「東京ね…」
香川県生まれ香川県育ちのあたしは、四国から出たことなんて修学旅行や家族旅行をいれても、両手で数えられるほどしかない。そんなあたしがいきなり上京なんてできるのだろうか。そもそもスカウトされたことを両親には言っていないし、アイドルになりたいかというと微妙なところだ。
「難しい顔してどうしたの、珍しいわね。」
「なんでもないよ。」
母に尋ねられて少しドキッとして、アイドルのことを話しそうになったが、まだ言わないでおこうと思い黙っていた。
ふと、家のチャイムがなった。バタバタと母が玄関に向かう。
「どちら様ですか。」
「突然すみません。わたしはこういうものです。」
声を聴いてハッとする。この声はまさか。
「紗南さんをスカウトしにきました。」
数分後・・・・・
「・・・というわけだよ。」
「へー、まさかあんたがね。」
「紗南さんはルックスもいいですし、性格も明るく、アイドルの素質は十分にあると感じています。」
「まあ、本当ですか。」
母は最初のうちは驚いていたが、男の話を聞いていると娘が褒められるので、満更でもない様子だ。アイドルになることについても、否定的ではないらしい。
「というか、何でPさんが訪ねてきたの?」
「たまたま、この近くでロケがあったんだよ。んで、住所もこの前聞いてたからさ。」
そういえば教えていたなと思った。が、
「連絡も無しにくるのは、どうなの?」
「いや、申し訳ない。でも本気で君をスカウトしたいんだ。」
そこまで言われてしまうと、恥ずかしくて何も言えない。だが、問題はたくさんあった。あたしはまだ中学生だから、学校や住居の問題もあるし、東京で生活するならばお金だって必要だ。そういった問題に関しては、プロダクションがサポートして、こちらの負担がほとんどなくなると男が説明した。しかし、一番の問題は父の方だった。やはり一人娘を独り立ちさせ、しかも芸能界という素性の知れない業界に入れさせるというのは、親としてはいい気がしないのだろう。
「紗南、お前はどうしたいんだ。」
「え?」
突然、父が問いかけてきた。
「お前がアイドルになりたいのか、そうじゃないのか。やる気があるのなら、好きなようにしていいんだぞ。」
「えーと・・・」
父の質問に考え込んでしまう。あたしはどうしたいのだろう。いままでアイドルなんて全く興味がなかったし、自分がなるなんて想像もしたことがない。
しばらく黙り込んでいたらPさんが突然立ち上がったと思えば、床に座って、土下座をした。
「どうか紗南さんを私に預けてください!絶対に素晴らしいアイドルに、トップアイドルにします!」
「ちょっ・・・、何やってんの!?」
「確かにアイドルというのは危ないこともあります。けれど、それ以上にキラキラ輝いて、夢にあふれた世界なんです。紗南さんの楽しそうにゲームに入り込む姿を見て、アイドルとしての素質を、輝きを感じたんです。」
キラキラ。夢。アイドルとはそんなにも魅力的なものなのだろうか。
ふと、付けっ放しになっていたテレビから歌が聞こえてきた。映っていたのは、綺麗な衣装で歌って踊って、光に包まれているアイドルの姿だった。まるでゲームの世界みたいにまぶしくて。
「ねえ、Pさん。アイドルって楽しい?」
「もちろんだよ。」
「ゲームみたいに?」
「ああ、きっとな。」
ふと、チャンスなんだと思った。ゲームに没入して、外の世界を知らないあたしがゲーム以外に夢中になれるものを手にいれるチャンスなのだと。そんな風に考えたら途端にワクワクが、ドキドキが湧き上げってくる。
「お父さん。あたし、アイドルやってみたい。まだアイドルがどんなものかとか、全然わかんない。でも、知りたいんだ、もっと楽しいことを。」
「・・・そうか。なら止めはしないよ。Pさん、紗南をよろしくお願いいたします。」
「はい。ありがとうございます!」
かくして、あたしはアイドルになった。
[一か月後]
「あー、つかれた・・・。」
「お疲れさん。調子はどうだ?」
「まあまあかな。」
アイドルになってから一か月。こっちでの生活に慣れ始めてきた。が、アイドルとしてやっていることは、レッスンしかなかった。
(わかっていたんだけどね。)
あたしはボーカル、ダンス、ヴィジュアル、その他の面でもまだまだ未熟だ。だから今はとにかくレベリングが必要なんだ。
(レベリングって一番大変なんだよね・・・。だけど・・・)
だけど、昨日できなかったステップができるようになったり、今日上手く歌えなかった歌が上達するかもしれなかったり、自分の可能性が広がる一番やりがいのある作業なんだ。
「なあ、紗南。アイドルは楽しいか?」
「んー、まだ分かんないや。でも・・・」
「楽しくなる予感がするよ!」
Part.1 終
一応続編を考えていますが、どうなるかわかりません。