Black Like Roses   作:五十嵐葉月

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2話【始まり】

  あれから数日。

  僕はビーコン・アカデミー行きの飛行船に乗り込んだ。勿論密輸とかみたいな野蛮な方法じゃない。僕は歴とした生徒としての入学が許可されている。

  因みにルビーは二年の飛び級らしいが、僕は飛び級なんてしてない。極々普通の入学だ。そもそも飛び級なんてのが珍しい。てかルビーが初じゃないかな。グリムという化物と戦う事になる、つまりは命を賭けることになるのに、まだ教育が不十分な少女を二年もおまけして入学させるなんて、オズピンの考えは相変わらず読めない。

  飛行船の隅で本を読んで時間を潰していたら、明るい声が聞こえてきた。その声の主はとても喜んでいるようだ。まぁ、誰なのかは予想付くがな。

  ルビーの姉『ヤン・シャオロン』。金の長髪、紫の瞳、歳に似つかわしくないグラマスなボディとボーイッシュな雰囲気が特徴的な元気な女の子。

  彼女はどうやら妹ルビーと共にビーコンに入学出来るのが嬉しかったようだ。二人の美少女が抱き合ったり、楽しくお喋りしている様は見ていて心底心地が良い。

  隣で吐きそうになっている金髪の男『ジョーン・アーク』がもっとマシだったらな………。

  全く、船酔いするなら薬くらい飲んでおけ。男として情けないとは思わないのかね。

 

「ウエッ……気持ち悪い……」

 

  仕方ない。手を貸してやろう。

 

「おい」

「な、何だい……?」

「薬だ。無いよりマシだろ。飲んどけ」

「い、良いのか?」

「隣で吐かれる方が困るっての」

「あ、ありがとう………」

 

  ジョーンは薬を受け取ると、水と一緒に胃へと流し込んだ。まぁ、本当に軽い薬だ。効き目はあまり期待はできない。恐らく持って数分。それ以降はひたすら吐き気との戦いだろう。

  呻くジョーンを横目に僕はまた本を開き、均等に並べられた文字列に目を通していく。大した本じゃない。主人公がハッピーエンドを目指して努力する王道的なストーリーだ。そう、誰もが笑っていられるハッピーエンドを目指して。

  最初はくだらないと思った。有り得ないと思った。けど妙に惹かれた。何故か?それは、僕も昔、同じ理想を夢に見ていたから。正義のヒーローになって、世界中の人々の幸せを守りたいと願った事があった。だから惹かれたのだろう。この主人公に、昔の自分を重ねたのだ。我ながら恥ずかしい奴だ。こんなの、他の奴等が聞けば爆笑ものだな。これは自分の中だけに留めておこう。

  さて、そうこうしている内にビーコンが見えてきたな。ジョーンも薬を飲んだすぐはマシな顔色だったが、効き目が切れた今ではまた吐きそうな顔をしていた。そして口元を抑え、離れていく。その進行方向にはヤンとルビー。あっ、ちょっと溢れてヤンの靴に付いた。ドンマイ。

  喧しい少女達の声を聞きながら飛行船を降りた。目の前には立派な塔が聳え立っていた。

  ここがビーコン・アカデミー。グリム討伐部隊『ハンター』の養成学校。今日からここが僕の家になる。いや、正確には今日からも、なのかな。

 

 ━━ ドカンッ!!━━

 

  今何か凄い音したな。だいたいの予想はつくけど。

  音の発信源思われる地点に視線を向けると、案の定言い合ってる赤色の少女と白色の少女がいた。

  赤色の少女は言わずもがな、白色の彼女は『ワイス・シュニー』。左目の瞼に傷痕、ティアラで結った白髪のサイドポニーと沸点の低さが特徴で、レムナント世界最大手のダスト企業『シュニー・ダスト・カンパニー』のご令嬢。辺りに散らかったアタッシュケースを見る限り、ルビーがぶちまけたのだろう。そしてあのケースの中には大量のダストが入っている筈。ワイスが怒るのも頷ける。

  そして後からやって来た黒色の少女は『ブレイク・ベラドンナ』。波打った黒い長髪と頭につけた大きなリボンがポイントのちょっとクールな女の子。

  よし、これで一先ず一番の重要人物達は見つけた。残りは後で見つけることにして、僕も舞踏場に向かうとしようか。

 

 

 ◆◆◆

 

 

  舞踏場に着いた。

  中には沢山の入学生と思わしき少年少女達が集まっていた。中にはルビーやヤン達の姿もある。

  そして目の前にはちょっとしたステージとマイクが一本。奥の部屋から杖をついて、白髪の男性がやって来た。あれがビーコン・アカデミーの校長オズピン教授だ。オズピンはマイクにスイッチを入れ、キィィンと音が反響して、それを合図にざわついていた生徒達は口を閉ざす。

  オズピンはマイクがついた事を確認し、ゆっくりと口を開いた。

 

「えー…手短にいこう」

 

  オズピンの演説が始まった。

 

「君達は知識を求めてここに来た。己を磨き、新たな技術を得る為に。そして卒業し、人々を守る為に人生を捧げるつもりだろう」

 

  ここにいる殆どがそんな正義感溢れる者達ばかりだろう。中には例外もある。家の名誉の為に戦う者もいれば、ただ戦いたいだけで来たという者もいる。

  僕は違う。僕はただ繰り返したくないだけだ。あの悲劇を、惨劇を。もうあんなのは沢山だ。それを変える為に僕はやって来た。もう一度、やり直す為に……。

 

「だが、その熱意は今無駄になっている。目標や方向性が必要だ。知識がそれを解決すると思っているだろうが、学校での時間は知識ではそこまでしか到達できないと証明するだろう。一歩を踏み出すかどうかは君達次第だ」

 

  オズピンの演説が終わった。その頃には最初の軽い空気は消え去り、この場にいた生徒全員が緊張と戸惑いの表情を浮かべていた。まぁそうなるわな。僕もなったから。

 

「皆さんは今夜舞踏場に泊まります。明日から訓練が始まるので準備すること。では解散」

 

  グリンダの合図で生徒達は各自行動をし始めた。

  僕はルビー達に目をやった。彼女達も動き出したようだ。僕も同じように行動を始める。と言っても、今夜寝る場所の確保だ。こんな人ばかりでむさ苦しくなりそうな舞踏場の下で一夜明かすなんて御免だ。もう少し人気の無いところを探すとしよう。

 

 まっ、結局見つからず、皆と同じ場所で寝ることになったんだけどな!ファ○ク!!

 

 

 ◆◆◆

 

  皆揃ってパジャマパーティーってか。男と女が一つ屋根の下とか、部屋くらい分けろよ。問題があったらどうするんだよ。まぁ僕が問題なんて起こさせないけどな。

 

「しかしまぁ、男ってのは馬鹿しかいねぇのか?」

 

  お前も男だろってツッコミは今は無しの方向で。

  どいつもこいつも、夜だからって半裸で彷徨き回るんじゃねぇよ。誰もお前らの体なんて見たくねぇっての。それに女もいるんだよ。あっ、だからか?「俺の体イケテんだろ?」アピールか?おん?言っとくけどな、気づいてる女共揃って嫌な顔してるからな。ちゃんと回り見ろ露出狂共。

 

「お前もそう思わないか?『クラレント・ブラックローズ』」

 

  床で黒光する愛銃を撫でる。これはある人物と一緒に作った僕の宝物。これを使う度にあの人の事を思い出す。制作している時によく見せてくれたあの人の笑顔が鮮明に思い出される。

 

「会いたいなぁ……」

 

  もう二度と会えない。会う手段がない。寂しさと空しさが脳裏を埋め尽くす。心が苦しくなる。いっそのこと死んでしまえば良いと思えるぐらいに。

 

「はぁ…………」

 

  疲れた。今日はもう寝よう。明日は訓練あるし体を休ませるか。

  布団を頭まで被って、瞼を閉じ、襲ってくる睡魔に身を任せた。

 

 

 

 

 

 

「…………」

「ルビー?あの上の男の子が気になるの?」

「ちょっとね。でもいいや。明日の為にも早く寝よ」

「だね」

「おやすみ。お姉ちゃん」

「おやすみ。ルビー」

 

 

 

 

 

 

 

  朝が来た。日光がカーテンの隙間から入ってきて僕の意識を呼び覚ましてくれる。

  下を覗けば、他の生徒達も着替えを終え、武器の点検をしていた。

 

「お前も点検いるか?」

 

  クラレント・ブラックローズに問いかける。喋る筈が無いのに、コイツはどうしても生きているように感じてしまう。そのせいだろう。「問題ない」と訴えかけてきたように感じたのは。

 

「そっか。そりゃそうだ。お前はいつでも完璧だもんな。愚問だったよ」

 

  僕もいつもの戦闘服に着替え、ブラックローズを腰にセットする。大きく背伸びを一回してから階段を降りて舞踏場を後にする。その際に、ルビーと目があった気がした。彼女は僕を一瞥して、ニコリと微笑んだ。僕も微笑み返しても良かったんだが、乗り気がしなかったので小さく会釈だけしておいた。

  それに、どうせ後で会うんだ。今関係を深めておかなくてもよいだろう。

 

 

 ◆◆◆

 

  訓練が始まる少し前。皆各自のロッカーに荷物を入れて訓練の準備をしていた。体の一部とも言える己の武器の最終調整を終え、仲の良い友を作ろうと必死だった者もいた。

  何故ならこの訓練でこれからこのビーコンで一緒に行動するチームメイトが決定するからだ。四人一組で分けられ、家族のように過ごす仲間。決まったメンバーに変更はない。故に、出来るだけ戦力になりそうな人材を先に確保しようと奮闘していた。

  僕は別にそんな事はない。強い人材が欲しいわけでもなく、メンバーなんてどうでもいい。僕自身も大して飛び抜けて優れている物なんて無いし、誘われることもない。だから今回のチーム決めなんて重要じゃない。

  そう思っていた。

 

「ヘイ」

 

  背後から明るい声で話しかけられた。ロッカーを閉め、振り向くと赤と黒が基調の少女ルビー・ローズが立っていた。

 

「何か用?」

 

  僕はぶっきらぼうに返した。ルビーは少したじろいだが構わず話を続け出した。

 

「貴方の事昨日から気になってたんだ」

「へぇ、それは嬉しいな。入学早々、君のような素敵な女の子から告白されるとは思いもしなかった。でもすまない。僕は君の気持ちに答えられない」

「告白!?違う違う!!そういう『気になる』じゃないよ!!」

「ジョークだよ」

「も、もう!!」

 

  素敵な女の子ってのは本当だがな。てか今年の入学生の女子皆顔面偏差値高過ぎない?目移りしそうだよまったく。

 

「で、何か用?」

「えっと、良ければ、お友達になれないかなって……」

「そりゃあいきなりだな。お姉さんに何か言われたか?」

「何でお姉ちゃんがいるって知ってるの?」

「あれだけ一緒にくっついていたら嫌でも分かるさ。あの金髪で胸デカい人だろ?確か、ヤン・シャオロン」

「よ、よく知ってるね」

「それとだ、友達って僕じゃなくても良くないか?あの白い人に頼めよ」

「ワイスはちょっと……」

「爆発させてしまった相手だからな。そりゃあ気まずい」

「ど、何処まで知ってるのさ……」

「さぁね。兎も角、友達は他を当たってくれ。僕は誰ともつるまない。悪いね」

「あっ………」

 

  ヒラヒラと手だけ降って彼女と別れた。

  本当に悪いことをしたとは思う。けど、もう、大事な人は作りたくない。深い関わりは持ちたくない。失うツラさはもううんざりだ。

 

『一年生はビーコンクリフに集合すること。繰り返します、一年生は至急ビーコンクリフに集合』

 

  スピーカーから集合の合図がかかった。早く行くとしよう。

  何か隣をジョーンが凄い勢いで飛んでいったが、面倒くさいし気にしないことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君達は何年も戦士になるために訓練を積んできた。そして今日、エメラルドフォレストでその実力を測らせてもらう」

 

  退屈だ。集合したのは良いものの、オズピンの堅苦しい挨拶を聞いていると眠くなってくる。あっ、ヤバイ欠伸が………。

 

「そこ。しっかりと聞きなさい」

 

  グリンダに怒られてしまった。いや仕方ないじゃないですか。眠いんですもん。

 

「まったく。さて、クラスをチームに分けると聞いた人もいるでしょう。混乱させて申し訳ありません。皆さんのチームメイトは、今日決まります」

「そんな……」

 

  ルビーが隣でボソッとそう溢した。

 

「今日決まったチームメイトとビーコンにいる間ずっと一緒になる。だから今後うまくやっていける相手とチームを組めるか気がかりだろう」

 

  いえ、全く。全然そんな事無いですね。

 

「ああぁー………」

 

  隣はそうじゃないみたいですけどね。

 

「それはそうと、着地して最初に"目が合った"者が四年間の相棒となる」

「えぇ!?」

 

  じゃあ目を瞑ってればいい話ですね。ヤッター。

 

「ペアっになった後、森の最北部へ向かうこと。敵との遭遇もあるだろう。倒すのには躊躇しないこと。さもなくば死ぬだろう」

「ははっ……ごくっ……」

 

  ジョーンがひきつった笑いをする。心配しなくても誰も死にはしない。僕がそうさせない。絶対に。

 

「この訓練はモニターにされている。ただし教師は介入しない。最深部に寺院の遺跡があり、いくつかのレリックが置いてある。ペアで一つ取り、ここに戻ってくること。持ってきた物と君達の様子を見て成績をつける。質問は?」

「はい先生」

「よろしい。では姿勢をとれ」

 

  ジョーンが手を上げるもオズピンはスルーした。せめて聞いてやれよ。無視してやるな可哀想だろう。

  ジョーンを除いた全員が武器を持って構える。

 

「あー先生?質問が…」

 

  ワイスの足元の土台が跳ね上がり、森の中へ向かって飛んでいく。

 

「その着地って何ですか?ど、どっかで降ろしてくれるってことですか?」

「いや、落ちていくことになる」

 

  続いて次々にメンバーが飛んでいく。少しずつ僕の番が近づいてくる。

 

「あーなるほど…じゃあ、パラシュートが配られたりしました?」

「いや、各自工夫して着地するように」

「あーあぁ…でも、じゃあどうやって着地したらいいんですかーーーーーーぁ」

 

  ジョーンの土台が跳ね上がり、綺麗に飛んでいった。強く生きろよ、ジョーン。

 

「最後に君だ」

 

  オズピンは手に持ったコーヒーカップを啜りながら僕を見た。僕の土台はまだ跳ね上がらない。それを機に、僕は質問を投げ掛けた。

 

「じゃあ僕からも質問」

「どうぞ」

「もし、僕が誰ともペアを組まず、一人でレリックを取ってきた場合、どうなるんです?」

「有り得ません。今回の訓練は必ず四人一組になるようにされています。一人なんて有る筈がありません」

 

  オズピンの代わりにグリンダがキッパリと否定した。だが僕はオズピンから視線を外さない。彼も同様、僕をずっと見ている。

 

「本当にそうですか?校長?」

「……………幸運を祈る」

 

  そして僕の土台は跳ね上がった。宙を舞いながら、僕はもう一度、離れていくオズピンを見た。その時の彼は、笑っていた。その顔を見て、僕も不思議と笑っていた。

 

「ははっ、じゃあ僕は僕のやりたいようにやらせてもらうことにするよ。オズピン教授」

 

  僕はフードを被り、皆の後を追うようにしばしばの空の旅を楽しむことにした━━━。

 

 

 

 

 

 

「━━あぁ、楽しみにしているよ。ミスター『ノエル・アートルム』」

 

 

 To Be Continued...

 

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