無事に着地を終え、オズピンの指示通り、北を目指しながら森の中を歩いていた僕は今何をしているのかというとだ。それは━━━
「ブォォォォォォォ!!」
絡んできたボーバタスクと絶賛イチャつきタイム中だ。
「おいおい、情熱的なキスは嫌いじゃないが、DVは御免だぜ?」
クラレント・ブラックローズを展開。スコープを覗き、トリガーを引いて銃弾を放つ。しかし銃弾は甲高い音を立てて目標から逸れる。
「相変わらず堅いな猪野郎。だからお前嫌いなんだよ」
ボーバタスクは体を丸め、高速回転しながら突っ込んでくる。
「あぁもう。本当にお前面倒くさい!!」
ポーチから黒色の弾を取り出して装填。再びスコープを覗いてトリガーに指をかける。
「サービスだ。消し飛べ」
バンッ!と銃声が鳴り響く。黒色の煙を撒き散らしながら弾は真っ直ぐ目標に向かっていき、着弾。空間が収縮され一気に弾ける。爆風が地面を抉り、木々は斜めに傾き、ボーバタスクの肉片が辺りに飛び散った。
グラビティ・ダストの効果を応用した特別製の銃弾。生産が少しばかり難しく、所持数も多くない為、あまり使用を控えていたのだがいつまでも使わないのもアレな故に使用した。効果は絶大。雑魚程度なら一撃で殺せる。
「さて、引き続き北を目指しますかね」
と、思ったのだがそうはいかないらしい。
「グルルルルルルッ」
「グォォォォォォッ」
どうやら先程の戦闘で他の奴等も呼び寄せてしまったらしい。集まったのはベオウルフとアーサの群れ。
「ハーイ、野獣達。ちょっと質問なんだがこの辺に寺院見なかったか?」
「グルルルルルルッ」
「それか僕と同じような少年少女達。実は今訓練中でね、教えてくれると助かるんだが━━━」
「グォォォォォォォ!!」
「知らないみたいだな」
バク転して振り下ろされてきた巨大な爪を避ける。そしてブラックローズを二つに分解して腕に装着する。
「グォォォォォォォ!!」
「遅い」
右手で捌き、左手でベオウルフの顔面を掴む。
「グアッ?」
「ウェルカム♪」
銃剣のような形状で装着されたナックルのギミックをオン。すると収納されていた刃が回転して飛び出し、ベオウルフの顔面を切り裂く。
「ヘイ、ワンモア」
今度は真正面から突き刺し、トリガーを引いて弾を連射。一瞬の内にベオウルフの顔面が蜂の巣と化していき、遂にはピクリとも動かなくなった。
「まずは一匹」
死体となった獣を投げ捨て、僕を囲んでいる獣達を見回す。ざっと数えて二十くらいか。
「カモーン♪死にたい奴から前に出な。心を込めて相手してやるよ」
「「「「オォォォォォ!!!」」」」
「ハッハー!いい雄叫びだ。じゃあ僕もちょっと本気を出そうかな」
ポーチから赤や青等々カラフルな宝石を取り出してナックルにセットする。
「さっきよりも効くぜ?」
両手を合わせ、二つ目のギミックを起動。ナックルから刀型に変形させて、鍔のレバーを引く。すると刀身が虹色に輝き出す。
「はい皆様。お気をつけ」
「「「「??」」」」
「火、水、風等々のたっっくさぁんの属性が交じったベリーベリーカオスでクレイジーで巨大な刃が皆様を三枚下ろしに致します。なりたくないお方は~え~っと………まぁどうにか頑張って?」
刀身がギュンッと伸びる。天を貫くのかと思える程長くなった刀身をグリム達は揃って首を傾げながら見上げる。
「そ~~れっ!」
自分を中心に円を描くように力一杯振り回した。グリム達は瞬く間に虹色の刃の餌食になり、真っ二つに裂けて全滅した。
「戦闘終了。お疲れ~っす」
もう一度レバーを引いてダストを取り出してポーチにしまい、クラレント・ブラックローズを収納する。
「やっぱ刀は良いぜぇ。狙撃銃は兎も角、ナックルはどうも慣れん。折角設計して貰っておいてなんだけど、ナックルはいらなかった気がするな」
かと言いつつ、何だかんだついつい使っちゃうんだよなぁ。最初は全く使わなかったのに。何でだっけ?確か、初めて使った時にカッコいいって言われて、それが嬉しくて使い始めたんだっけか?懐かしいなぁ。
━━ ドカァァァァァン!! ━━
いきなり何処かで爆発音が鳴った。見回せば北部から黒煙が巻き上がっていた。
「おぉ、やってるやってる。じゃあ僕も行きますかねえ」
フードを被り、マントで体を覆って、北部に向かって高スピードで駆け抜けることにした。
「げっ!?」
前方に男女の二人組を発見した。男の方はジョーン。女の方はまさか━━━、
「ん?あっ、ハーイ!ノエル!」
「やっぱ君か………ピュラ……」
美しいスマイルをこちらに向けながら手を振るのは、昔馴染みのピュラ・ニコス。まさかここで彼女に出くわしてしまうとは……なんたる不運……。
「お久し振りね」
「ピュラも彼と知り合いかい?」
「えぇ」
「僕は知らないね。じゃあお二人さんごゆっくり」
「ストップストップ」
「ぐえっ」
彼女の横を通りすぎようとしたらフードを掴まれた。
「名前まで言っておいて知らないは無理じゃないかしら?」
「うっさい。僕は君が苦手なんだ。さっさと離してくれ」
「折角会ったのに冷たいわ」
「シャラップ」
「まぁまぁ落ち着いて。ピュラも離してあげよう」
ジョーンのフォローでピュラの手がフードから離れた。サンキュージョーン。この訓練が終わったら何か奢ってやるよ。
「それで、君とピュラはどういう関係なんだい?」
「彼とは地区大会で良く戦ったの」
「全部君に優勝取られたけどな」
そう、僕と彼女は地区大会で何度も剣を交えている。いつも決勝まで行っては彼女に負け、準優勝止まり。彼女は周りから称えられ、僕は同情をかけられるばかり。あまりの扱いと立場の差に僕は嫌でも劣等感を感じてしまう為、彼女の近くはあまりいたくないのだ。
「へぇ~。じゃあ君も強いんだね」
「彼女を前に言われても嫌みにしか聞こえねぇ」
「そんなにピュラが嫌かい?」
「嫌というか、苦手なんだよ。ザ・エリートなところとかお手本のような戦闘スタイルとか、何もかもが僕とは正反対で接しにくいんだよ」
「あら、ありがとう」
「褒めてねぇ」
ニコニコと嬉しそうに笑う彼女を見ているとムカムカしてくる。だから嫌なんだ。こっちばかりストレス溜まるから!
「いいか!僕はこれから金輪際君と関わるつもりはない!だから君も僕に話しかけるな!」
「あら、ノエル。貴方髪に葉っぱついてるわよ」
「話を聞け!えぇい!触るな!」
「折角綺麗な白銀色なんだから汚れたら勿体ないわ」
「やめぃ!あとどさくさに紛れて頭撫でるのも止めろ!僕は犬か!?」
「どちらかと言えば弟かしら?」
「ムキー!!」
「ピュラ、流石にそれ以上は止めてあげないかな?」
ちっくしょう、馬鹿にしやがって。誰が弟だ。ピュラに弟扱いされるとか死んでも嫌だ。
「ふふっ、可愛いわね」
「ファ○ク!!ファ○クファ○クファ○ク!!」
「オウ……ノ、ノエル?女の子にそんな事言っちゃ駄目だ」
「離せ!この戦闘狂!デカパイ!そのデカ乳揉んだろかコラ!!」
「私に勝てないのにそんな事が出来るのかしら?」
「腹立つ~~!いつか絶対に泣かす!」
「さっきもう関わらないって言ってなかったかしら?」
「あぁ言えばこう言うなこの野郎!!」
「ノエル!ストップ!殴るのはいけない!」
「離せジョーン!僕はこの女にやらなければいけないんだ!!」
「君が返り討ちにあう!」
「心配してんのそこかテメェ!!さてはテメェも僕を舐めてんなコラ!!あっおい!持ち上げるな!くっそ!テメェら背高ぇな!!そこもムカつく!!」
「「そういうノエルは小さいね」」
「死ネ!!!!(怒)」
何でレリックを取りにいくだけでこんな惨めな扱い受けなきゃならんのだ。てか小さいってこれでも十七歳男子の平均身長です~!テメェらがデカすぎるだけです~!このトーテムポール共が!
「ともかく!僕はもう行く!あとは二人でイチャイチャしてればいいじゃんか!!あばよ!!バーカバーカ!!ゲロリアンとデカパイゴリラ!」
舌を出して渾身の悪口を放って僕はそそくさと彼女達から離れた。
「げ、ゲロリアン……」
「私ってそんなに胸大きいかしら?どう思う?ジョーン」
「し、知らないよ!!」
二人と別れた後、ひたすら寺院に向かって走り続けていた。道中、何度かグリムに出くわしたが問答無用で蹴散らした。軽いもんだぜ。
すると一つの洞窟を見つけた。最初はグリムの巣かと思ったがどうもそんな感じではない。僕の頭の少し上くらいしかない低さで、しかし入り口付近は綺麗で明らかに人工的に手を加えられたであろう装飾がされていた。洞窟自体も、ただ野ざらしにされていたわけでなく、木々が重なって微妙に見つかりにくいようにされていた。
念のため、ブラックローズを構えながら中に入っていく。火のダストで明かりをつけて洞窟内を進んでいく。
「見つけた」
奥に設置された台の上にはチェスの駒が一つ。
「レリック、ホワイトキング。これで任務完了だ」
早速レリックを取った。するとカチッと何かスイッチが押される音が微かに聞こえた。
ヤバイ。すごく嫌な予感がする。
すると洞窟内が揺れだし、ゴゴゴゴと不吉な地鳴りがし始めた。
これ絶対に崩れ出すパターンや!!
「クソッ!」
レリックをポーチに入れてブラックローズの引き金を引く。発砲の反動で吹っ飛び、ギリギリのところで洞窟内から脱出する。すると洞窟はたちまち崩れだし、先程僕が入っていった入り口は瓦礫の山に埋め尽くされた。
「あぶねぇ。間一髪。ったく、小癪な仕掛け施しやがって。生き埋めになるところだった」
だが、本来の目的は果たせた。あとはこれを持ちかえるだけなのだが━━━、
「そうも行かないわな」
近くで戦闘が始まっている音がした。しかもかなり激しい。恐らく皆集合して集まってきたグリム達とやりあっているのだろう。
「結局こうなるのか。神様ってのは意地悪だぜ」
で、来てみたのは良いものの………、
「あの馬鹿ずきん!」
ルビーがデスストーカーに追いかけられていた。
くそっ、来るのが少し遅かった。あのままだと確実にルビーは殺される。
僕は急いでルビーの元へ走る。だがそれでも距離は一向に縮まらない。
「ルビー!」
ヤンが助けに向かう。だが最悪な事にデスストーカーだけでなく、ジャイアント・ネヴァーモアまでルビーを狙いだした。
「あぁ冗談だろ畜生!!」
ネヴァーモアが上空からルビーに向かって鋭い羽根を飛ばす。ルビーは何とか躱すが、内一本の羽が彼女のマントに突き刺さった。ルビーはマントに引っ張られ、立ち往生になった。あれじゃあ狙ってくれと言っているようなものだ。
「ルビー!早く離れて!」
「やってる!!」
ヤンが叫ぶが、ルビーはマントを外せず悪戦苦闘。
そんな彼女の前にデスストーカーが近づき、自慢の針を彼女に突き立てる。
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ルビー!!」
センブランスを発動してデスストーカーの目の前に移動し、ルビーを庇うようにブラックローズを構えた。巨大な針が僕に迫ってくる。だが次の瞬間━━、
━━ ビキィィィィンッ!━━━
「貴女本当に子供ですね」
凛とした声が耳に入ってきた。
恐る恐る閉じた瞼を開けると、目の前には白いドレスを纏った雪のような少女と氷付けにされたデスストーカーの尻尾があった。
「「ワイス……?」」
「それに馬鹿で落ち着きもない」
ワイスは地面に突き刺したレイピアを抜いて僕達に振り向く。
「戦闘スタイルについては言いたくもない。それに私も確かに少しは……」
「「…………」」
「気難しいかも。でもパートナーになるなら力を合わせなければ。そちらが目立ちたがるのを止めるなら、私も…協力します」
えっと、助けてもらって有り難いんだが、この人、僕のこと無視してルビーと話してない?そうだとすると結構ツラいんですが。
「目立ちたいんじゃないの。私がちゃんと戦えるってわかってほしくて…」
「もうわかってます」
ワイスは優しい声色でルビーにそう言って、皆の元へ戻っていった。
ルビーは安心したように息を吐いて小さく「普通でよかったんだ……」と呟いた。
「仲直りってか。そりゃあ良かった良かった。僕の行動は何だったのやら……」
「あっ!貴方は!」
「どうもお嬢さん。こんな出来損ないの紳士をどうか笑わないでやってくれ」
「えっと、もしかして庇ってくれたの?」
「一応そのつもりだったんだが、あのツンデレスノーエンジェルさんに良いとこ持っていかれて無駄になったんだがな。はぁ、ダッサ……」
「そ、そんなことない!あの、ありがとう……」
「へいへい。御気遣いどうも」
羞恥でおかしくなりそうだからさっさとこの場から離れようとしたら腕を掴まれた。
「何?」
「やっぱり、友達になれない……?」
「……………………ノエル」
「えっ?」
「ノエル・アートルムだ」
「~~ッ!!ルビー!ルビー・ローズ!!」
「よろしく。ルビー。ほれ、さっさとここから離れるぞ。この氷もいつまで持つか分からん」
立ち上がり、ルビーに手を差し伸べる。ルビーはキョトンとして差し出された手と僕を交互に見た。その反応に僕は少しムッと来てしまった。
「何だよ。僕の手を触るのは嫌ってか?」
「ち、違うよ。ただ少し意外で……」
「意外?」
「ほら、初めて会った時もそうだったけど、結構突き放されたから……」
「まぁ、付き合い出来ちゃったら普通に接するしか無くなるわな。それとももう友達関係解消かい?レディ?」
「……フフッ、喜んでお手を拝借いたしますわ。紳士様」
「君にその言葉使いは似合わないな」
「酷い!?」
ルビーを立たせて氷の壁から出る。壁の向こうにはデスストーカーが必死に尻尾を抜こうと頑張っていて、後方からはヤンが走ってきてルビーを抱き締めていた。
「無事で良かった!」
「感動の瞬間に水を刺して悪いがさっさと作戦会議だ」
「「オーケー!」」
デスストーカーに警戒しながら三人で皆がいる寺院へと戻る。上空にはネヴァーモアが円を描くように浮遊しており、地上にはデスストーカー。戦力的にまともに戦うには少し厳しいか。
「皆、アレが戻ってくる。どうすれば?」
ジョーンが焦ったようにネヴァーモアを指差しながら言う。
しかしワイスがその後ろから策を提示する。
「ここにいても仕方ありません。目的は目の前にあります」
ワイスは寺院の台に置かれたレリックを見る。すると今度はルビーが口を開く。
「その通り。任務は遺産を手に入れて崖に戻ってくること。やりあう必要はない」
ワイスとルビーは互いに目を合わせて頷いた。どうやら、不仲は多少マシになったようだな。
「走って生き延びる。それは良い作戦だね!」
「良いか悪いかは兎も角、今の状況としては妥当だな」
皆賛成し、それぞれ好みのレリックを台から取る。
僕はその間周りを警戒する。そしたら肩をトントンと叩かれた。
「ルビー?」
「貴方は良いの?」
「心配なくても僕はもう持ってるよ」
「そっか。じゃあ安心だ」
「わざわざそんな事聞く為に僕に話しかけたのか?」
「そうだよ。だって、折角お友達になったんだもん。失格なんて嫌でしょ?」
「変な奴……」
「皆さん、もう持ちません」
レンの言う通り、デスストーカーの尻尾を固定した氷にヒビが入っていた。
「ルビー」
「うん。行こう!」
ルビーを先頭に、メンバーが一斉に走り出す。その後ろ姿をヤンはジッと見つめていた。そんな彼女にブレイクは「どうかした?」と問う。ヤンは何処か嬉しそうに「何でも」と答え、走り出した。
走ってたどり着いた先は、先程よりもずっと大きな遺跡。僕達は柱の影に隠れて、ネヴァーモアの様子を伺う。ネヴァーモアは前方の塔の頂上に降りたって、僕達を見下ろして雄叫びを上げる。まるで獲物を狙う鷹のようだ。
「ぼさっとしてる暇は無いぞ!デスストーカーが来る!」
後方から木々を薙ぎ倒してデスストーカーが向かってくる。
「あぁやばい走れ!」
「ノーラ!陽動を!」
「加勢する!」
ノーラと二人で左右からネヴァーモアに向かって発砲する。ノーラの弾はまるでグレネードのようでネヴァーモアの顔面に直撃するとネヴァーモアは仰け反りながら怯んだ。うわぁ、あれ食らいたくねぇ。
「さて、戦闘開始と行こうか!ワイス!ノーラを回収だ!」
「分かっていますわよ!」
「あと僕も回収して?」
「はぁ!?もう!仕方ないですわね!」
「ラッキー♪」
ワイスに抱えられ、デスストーカーの巨大な爪を寸でのところで回避。ワイスってば、細身の癖に結構力持ちなんだから。惚れちゃいそう。
「貴方のような男性はお断りです!」
「心読まれた上にフラれたんですけど。心折れそう~」
石の橋のところで下ろされ、僕は構えを取って発砲。並んでピュラもトリガーを引く。
「助太刀は頼んでないが?」
「私が勝手にやっているだけよ」
「君は相も変わらずお人好しだな」
「お互い様じゃないかしら?」
「はん。ほざけ!」
「キャッ!」
いくら弾を当てても止まらないデスストーカーに僕は無駄だと察し、ピュラを抱えて回れ右して走る。
「もう少し優しく抱えて欲しいものだわ」
「んなもん僕に求めんなよ……」
「フフッ、そうね」
「そういえばネヴァーモア何処行った?」
「あら?ッ!?皆!横!」
「横?ゲッ!?」
横を見ればネヴァーモアが突っ込んできていた。お陰で橋は壊され、思いっきり二つに分断されてしまった。皆はギリギリ橋の上に残れたようだが、ピュラを抱えた僕は奈落の底へと落ちかけていた。
「チィ!ピュラ!投げるぞ!」
「オーケー!」
クラレント・ブラックローズをナックルモードに変形。そして発砲の勢いでピュラをぶん投げる。彼女は鮮やかな身のこなしで無事橋の上に着地することに成功。で、落ちている瓦礫を足場にして次々に乗り移りながら何とか僕も橋に戻ってこれた。
「ふぃ~。あぶねぇ~」
いや割りとマジで危なかった。冷や汗ダラダラ。早く帰って風呂入りたい……。てかコイツらの他にも訓練生いたろ。アイツら何してんの?どうせもうレリック持ち帰ってゆっくりしてんだろうな。うっわ殴りてぇ。
「向こうを助けないと!」
「やってやろうよ!」
「あぁでも……ここは飛べないよ」
ジョーンが底が見えない橋の下を見てるとノーラがガンハンマーでジョーンを転かした。そしてハンマーに変形させ、大きくジャンプ。
「ん?あっちょっ、それは待て!まだ僕がここにいる!!」
お構いなしにノーラは橋を力一杯ぶっ叩いた。梃子の原理が発動し、柱を支点にして橋が傾き、作用点側にいたジョーンはデスストーカーと殺り合ってるピュラ達の元へ飛んでいく。
「だめだめだめ!」
「ウィ~!」
そしてノーラも一緒に飛んでいった。一方僕はギリギリ原理の発動圏内から脱しており、ジョーンと共に飛んでいくことは無かった。
「ノーラ滅茶苦茶するな……」
「あっ!」
「あん?っておぉぉぉぉぉい!!ブレイクさん落ちてらっしゃるぅぅぅぅぅ!!?!」
何故か落下していたブレイクに僕はつい声をあげてしまった。だがブレイクは冷静に鞭のような武器を柱に固定し、ターザンロープにして優雅に宙を舞う。パネェッス。ブレイク姉貴マジパネェッス。
そしてネヴァーモアの背中に降り立ち、何度も剣で斬り付けていき、最終的にルビー達の元へと降り立った。
「見た目より硬い!」
「なら全力でやるしかない!」
「さっき殺り合う必要ないって言ってませんでした!?」
「貴方も男性ならけじめを付けては如何?」
「僕面倒な事避けたいんですけど!」
「来るよ!」
「ああぁもうやりますよ!やればいいんでしょう!」
ワイス、ヤン、ブレイク、ルビー、僕と並んで一斉に攻撃開始。ネヴァーモアは弾丸を受けながらも真っ直ぐ突っ込んできて僕達がいた塔を粉砕した。
四人はそれぞれ自分の得意なやり方で落下を免れる。僕はそんなやり方持ち合わせてなく、ただがむしゃらに先程と同じように瓦礫から瓦礫へと乗り移りながら上るしかなかった。
「全く効いてない」
「見りゃあ分かりますがな。一々声に出さないで。やる気失せる」
「貴方という方は……」
「で、どうするよ?」
「作戦がある。援護して!」
「貴方はどう致しますの?」
ルビーは何処かへ行き、ワイスと二人で残された。ワイスはレイピアを構え、横目に僕にそう問いかけた。
どうするって聞かれても、答えは決まってるでしょ?
「ぶっ飛ばす。ただそれだけだ」
「では、お手並み拝見と行かせて貰います」
「あの鳥頭を綺麗に削いでやるよ」
ワイスがフッと笑うのを見てから僕はクラレント・ブラックローズを刀に変形。チラッとピュラ達の方を見れば、落下していくデスストーカーが目に入った。どうやら向こうは決着がついたらしい。だったら尚更、頑張るしかねぇよな!
「しゃあ!行くぜオラァ!」
ネヴァーモアは高度を下げ、高台にいるヤンに狙いを定める。口を開き、彼女を喰おうとするが、ヤンは寧ろそれを利用してネヴァーモアの口の中にゼロ距離から弾を何発もぶちこむ。僕も同時にネヴァーモアの背中に乗り移り、背中に刃を走らせる。
「これでも食らえ!!」
「ハッハー!ノッて来たぜ!」
散々ダメージを与えてからネヴァーモアから降りる。ネヴァーモアは崖に背中から崖にぶち当たる。
「「イエェーイ!」」
ヤンとハイタッチを交わす。そして今度はワイスの番。レイピアを構え、ジャンプ。ネヴァーモアの尻尾と遺跡の間に狙ってレイピアを突き刺し、巨大な氷を生成してネヴァーモアの動きを固定。
こっちではブレイクとヤンが二本の柱とブレイクの鞭を使って巨大なパチンコ台を作り、ルビーがクレセント・ローズと一緒に鞭に乗り、引っ張る。そしてワイスがダストの効果を使って固定し、狙いを定める。
「なるほど。なら、僕も!」
ポーチから黄色のダストを取り出してクラレント・ブラックローズに装填し、レバーを引く。すると刀身が白く輝きを放ち、バチバチと電気を放つ。
「いかにも貴女らしい作戦ですね」
「できると思う?」
「ふん、できるかって?」
「……でき━━」
「できるに決まってます!」
ルビーは弾をリロード。そして発砲。同時にワイスも固定を外してルビーを一気に吹き飛ばす。勢いに乗ったルビーは大釜の刄でネヴァーモアの首を捕らえて崖に叩きつける。
「ワイス!」
「分かってますわよ!」
ワイスの魔方陣がルビーの進行方向にいくつも展開される。そして僕の方にも。
「ワイス?」
「サービスです。貴方もやるのでしょう?」
「流石お姫様。よくご存じで」
「やるなら確実に。この私の手を煩わせたのです。失敗は許しませんよ」
「ナメんなよ。僕だってな………」
両足に力を込める。ベキッと音を立て、足元の橋が砕ける。
「やられっぱなしはゴメンなんだよ」
そして力を解放した。風をきり、一瞬で崖の真下にまで移動。
「行くぜオラァ!」
崖を上り、ルビーと同じように刀の刀身でネヴァーモアの首を捕らえる。
「ルビー!」
「ヤァァァァァ!!」
同時にネヴァーモアを引き摺りながら壁を突っ走っていく。ルビーは発砲の勢いで更に加速していく。僕はセンブランスを使ってスピードを上げる。
「「ハァァァァァァァァァ!!!!」」
「オラァ!!」
「ヤァ!!」
ズバンッとネヴァーモアの首が吹っ飛んだ。
二人で崖の上に着地し、辺りには赤と黒の花びらが舞っていた。
首無しとなったネヴァーモアの体はピクリとも動かず、そのまま下に落下していった。それは戦闘が終わった事を皆に確かに示したのだ。
「まぁ、こんなものだろ」
「うん!ありがとう!」
「何で礼を言うんだ?」
「手伝ってくれたから!」
「あっそう。もう君の言動にはあまり突っ込まないでおくよ」
◆◆◆
「ラッセル・スラッシュ、カーディン・ウィンチェスター、ドーヴ・ブロンズウィング、スカイ・ラーク。以上四名はブラックビショップの駒を持ち帰った。この日を以て諸君らを…チーム
まず、戦いに微塵も参加しなかった奴等のチームが決まった。やっぱりアイツら先に駒持って崖の上に戻ってやがったな。狡い奴等だ。
拍手が起き、次にピュラ達が舞台に上がる。
「ジョーン・アーク、ライ・レン、ピュラ・ニコス、ノーラ・ヴァルキリー。以上四名はホワイトルークの駒を持ち帰った。この日を以て諸君らを…チーム
「へ?率いるって…?」
バリバリのチームリーダーって事だよ。おめでとうジョーン。色々あるだろうけど、きっと上手くいくさ。頑張れよ。
「おめでとう、若き戦士よ。そして次」
ジョーン達が退場し、次にルビー達が舞台に上がっていく。その際にルビーが僕に向かって手を振ってきたので、取り敢えず手だけは振り返しておいた。何故手を振ってきたのかは謎だが。
「ブレイク・ベラドンナ、ルビー・ローズ、ワイス・シュニー、そしてヤン・シャオロン。以上四名はホワイトナイトの駒は持ち帰った。この日を以て諸君らを…チーム
だろうね。そうじゃなきゃ、オズピンを殴りにいってたところだ。ルビーこそリーダーに相応しい。僕は精一杯の祝福と敬意を乗せて拍手を贈った。
ルビー達が舞台から下りた。これで終わりかと思われたがまだ終わりじゃない。
「そして最後に、このビーコン・アカデミー初めての異例。エメラルド・フォレストに別に隠されたレリック、ホワイトキングの駒を持ち帰った生徒がいる。その生徒を御呼びしよう。ノエル・アートルム」
ざわつくギャラリーを無視し、僕は何事もないように舞台に上がった。疑惑と訝しげな視線が僕を貫く。
「彼はホワイトキングの駒を持ち帰った。この日を以て彼を……」
「チーム
拍手は当然起きない。それどころかブーイングさえも起きた。
「おめでとう。若き戦士よ。そして諸君、様々な感情が諸君らの中に渦巻いていることだろう。だがしかし、実際に彼は前者達と同じように訓練を乗り越え、課題をクリアした。この戦績は公平に評価しなければいけない。異議がある者は口頭ではなく、戦績で表したまえ。以上だ」
オズピンの言葉でブーイングが止まる。そして彼は僕を見て意味深に微笑んだ。
「今年はどうやら…面白い一年になりそうだ」
To Be Continued...