夢で見た話です。

胸がぎゅうってするんです。

何処かで生きているとは言えど、

その人が無くなってしまったら、貴方はどう思うでしょうか。

1 / 1
15歳で生まれ変わりを果たす僕たちの話。

「皆さんも、もうすぐ生まれ変わりを迎える時期ですね。」

 

まるで、もうすぐ卒業ですね、とでも言うように先生は言った。

僕達は、もうすぐ生まれ変わりを果たす。

僕等が住む世界では、15歳になると、誰もが生まれ変わりをする。

一度生まれた場所から、綺麗さっぱり消えて、もう一度人生をやり直す機会を強制的に得るのだ。

今年15歳になった僕達は、3月9日に生まれ変わりを迎える。

もう既に生まれ変わりを迎え、もうその必要が無い者たちは、翌日もきちんと登校し

生まれ変わった友達の、第二の人生が良きものとなるように、お祈りをする。

何千年、何万年も前から変わっていないらしいその風習が、僕はどうも嫌いだった。

生まれ変わりと名付けているものの、実質「死」と同等ではないのかと考えてしまう。

子が生まれ変わりを迎えた親は、親友が突然いなくなった同級生は、一体どんな気持ちなのだろうか。

僕にはまだわかりもしない。

生まれ変わりを迎えた訳でも、自身が親になったわけでもないのだから。

そんな事を考えていた僕の肩を叩くものが居た。

「美月…。」

「まーすみ!また難しい事考えてたろ。」

眉間にしわ寄ってんぞ、とぐいと眉間を押されて、思わず仰け反った。

彼とは小学校からクラスが一緒で、親同士も仲が良く、この何年間か一緒に居た。

美月はどう思っているかなんて知らないけれど、僕からしたらこいつは親友以外の何者でもない。

「…お前は、どー思う?」

生まれ変わりについて、という事だろうか。

「…肯定的には考えられない、だって、ほとんど死ぬようなもんじゃないか。」

すると、ふっふっふ、と美月は笑った。

「ばっかだなぁ!死ぬのは未来がねぇだろ?でも、生まれ変わりはすぐにどこかでまた生まれて、二回目の人生を歩めるんだ!夢があっていいじゃねぇか!」

それからも美月は、次の名前はもっと男らしい名前だといいなとか、母ちゃんはもっと優しいといいなとか、

まるで自身の夢を語るようにそう言っていた。

 

いよいよ生まれ変わりまであと数日となった。

美月は相変わらず、自分の理想を語っていた。

「お前はねぇのかよ、次の人生への期待とかさ、ほら!」

筆箱をまるで取材用のマイクのように持ちながら美月は僕に聞いてきた。

「…、ない、ないない。そんなの。」

僕は首を横に振った。

教室内はざわめいていて、どこもかしこも生まれ変わりの話ばっかり。

何がそんなに楽しみなんだろう。

だって、生まれ変わるという事は、今の自分を捨てなきゃいけない。

今までの記憶も、経験も、友達も、家族も、全て捨てて、強制的に前に歩いて行かなきゃいけない。

全部全部、水みたいに掌から落ちていって、一粒たりとも残したくないのに、落としたくないのに。

気が付いたら僕は泣いていた。

その時、一番焦っていたのは美月で

「なんだよ、どっか痛いのか?」「まさか病気!?」とか、

その姿を見たら、なんだか余計に悲しくなって、涙の量は増えるばかりだった。

 

クラスでは、友達と、手紙を交換するのが流行った。

今まで言えなかった事を、生まれ変わりを目前にした今、伝え合う、というのが目的らしい。

美月は女子からのラブレターの様なものを何通も貰っていた。

お返しが面倒臭い、と言っていたのはここだけの話。

美月は背が高くて、顔も整っているし、モテる条件は充分に揃っている。

だから、「真澄」なんて名前をしているのに地味で背が低い僕はよく、名前負けなんて言われる。

けど、いつだって美月は否定してくれる。

真澄を知らないからそんな事が言えるんだって、話したらよく分かるぞって。

けど、そんな僕らは手紙の交換なんてしなかった。

美月相手にそんな小っ恥ずかしいこと出来る訳ないし、

男同士でやっている同級生なんてごく少数だったし。

それに、僕らは何でも口に出して言い合っていると思えたから。

だから、生まれ変わりが近づいて来ようと、僕らは変わらずに話したり、遊んだりしていた。

 

「真澄、今日の夜、家抜け出してこねぇ?」

そんな事を言われたのは、いよいよ生まれ変わりの当日であった。

いつの間にかそんなに日が過ぎていたんだな、と実感する。

学校は休みだったが、美月がわざわざうちに来てそう提案したのだ。

「いやでも…美月んちも今日は…送る会やるんだろ?」

「やるけどさ、最後まで家族と居るのもいいけど、なんか勿体ない気がしねぇか?」

それから美月は満面の笑みで、僕の目を見て言った。

「…最後くらい、友達と居たって怒られやしねぇよ。」

あまりに真剣に、そういうものだから、僕は頷く他無かった。

僕達は、送る会が一段落した後、いつも遊んでいた河川敷に集合という事になった。

両親を騙して家を出て行くなんて少し気が引けるが、

僕は美月との約束を破る方が胸が痛んだ。

その日の夜は、僕の好きな食べ物ばかりが食卓に並んだ。

誕生日じゃないと食べられないケーキまで出た。

「おめでとう、もうそんな年になったのね。」という母の目は少し涙ぐんでいて

僕は少しだけうしろめたさを覚えた。

もう少ししたら、ここを出て、美月に会いに行く。

もう何も取りこぼさなくて良いように、僕は両親にすべて預けることにした。

今までありがとう、僕を産んでくれてありがとう、ここまで育ててくれてありがとう。

感謝の気持ちを、思いつく限り、全て伝えた。

両親ともに馬鹿みたいに泣いていた。

一番泣きたいのは、僕の方だったのに、どうにも泣くことができずに戸惑った。

それから少しして、僕はトイレに行くと言って、そのまま家を出た。

後ろから呼び止められそうな気がして、河川敷まで走った。

最後くらい、運動が苦手な僕も、風になれた気がした。

 

河川敷に来ると、美月はもう既にそこに居た。

「おっせぇ!」

いつもみたいにそう言い放つと、手に持った紙をひらひらと揺らして見せた。

美月の隣に座り込んで、何それ、というと

「後でな。」と話を濁された。

河川敷から見下ろした川には、色んな家の明かりが映り込んでいた。

「こんな日に、夜遊びしてんのは俺達だけだろうな!」

「夜遊びじゃないし…言い方が悪い。」

「夜遊びだろ、最後のな。」

あぁ、確かにな。と思って、口をつぐむ。

僕が僕でいるのも今日が最後なんだ。

それから他愛もない話をして、あそこの家は田村の家、あそこは水井の家だなんて言い合ったりした。

昔やったごっこ遊びを、もう一度やって、馬鹿らしくなって笑い転げた。

しりとりして、川に足だけ入れて「つめたっ」なんて言って。

全て最後、最後だ、と笑いながら。

「生まれ変わりって、どうなるか知ってるか?」

「さぁ?」

突然話を振られて、僕は首をかしげる。

「あのな、眠ったら、体が融けて、空に昇るんだ。」

なんだよそれ、と笑った。

「ほんとだからな。聞いたんだ。」

誰に、とは聞かなかった。

空に融けるなんて素敵な響きだと思ったから。

「夜空に融ける…綺麗だなぁ。」

ボソリと呟いた言葉に、美月が笑う。

「…真澄みたいだな。」

「どういうこと?」

僕が聞き返すと、美月は「あぁ」と言って続けた。

「真澄って、なんか夜空に融けるって感じだ。」

「なんだよそれ…。」

「綺麗なんだよ…、単純に。」

「何それ、告白?」

「馬鹿か、ちげぇよ。」

苦笑した美月は、突然ごろんと寝転がった。

「美月?どうした?」

「あ~…なんか急に眠くなってきた。」

僕も美月にならって、横になった。

目の前いっぱいに星空が広がる、綺麗だ。

「…ここで融けよう。」

目を瞑りながら美月が言った。

「そんで、な…生まれ変わったら、またどっかで会おう、絶対…俺、お前の事わかるから。」

そうだ、また、どこかで会おう。

ぼやけていく視界の隅で、美月が笑った気がした。

「…僕も、見つけよっかな、美月を。」

「…」

もう、返事は返ってこなかった。

きっと眠ってしまったんだろうと思って、僕も意識を手放した。

夜空に融けていく感覚を、じわじわと感じながら。

 

 

周りが明るい。

鳥の鳴き声が聞こえる。

僕はのそりと身を起こした。

長い夢を見ていたような、体のだるさを感じたのは

昨日、芝生の上で眠ってしまったからだろう。

体が冷え切っているが、不思議と凍えそうな感じはしなかった。

「みず、き…」

ふと、無意識に名前を呼んだ。

だが、返事はどこからも聞こえなかった。

僕の隣に居たはずの美月は、手紙へと変貌していた。

あぁ、もしかしたら一人で家に帰ってしまったのかもしれない。

…違う。

脳みその冷静な部分がそう言った。

昨日は生まれ変わりを迎える日だったはずだ。

僕は生まれ変わったか?

昨日までの僕だ、記憶も、風景も、何も変わってなんていない。

なら、美月はもしかして…。

そうか。当然か。

とりあえず、学校へ行こう。

もしかしたら居るかもしれないから、そう思っていたのに。

期待は簡単に裏切られた。

どこにも美月の姿は無い。

クラスメイトのほとんどは生まれ変わりを果たして、旅立って行った。

僕等はお祈りをさせられて、家へと帰された。

帰った時、目を真っ赤にした母に抱きしめられた。

「帰って来てよかった。」と。

美月は、融けてしまったよ。母さん。

それでも、「いいの、いいの…。」って。

 

…何が良かったんだろうか。

僕が生まれ変わらなかったこと?

美月の母親がうちに来て「息子の最後を見れなかったのはあんたのせいよ!」と怒鳴り散らしたこと?

美月が無事に、生まれ変わりを迎えたこと?

部屋で一人考えていた。

そのうち、僕は手紙の事を思い出してそれを読んだ。

内容は少なかった。

今までありがとうとか、そんな台詞はどこにもなかった。

『また会おう。』って、それだけだった。

美月らしいと言えば美月らしい。

それしか書いてないはずなのに、どこからともなく美月の声が聞こえてくるようだった。

もう、どこにもいないんだ。

どこかで生まれ変わったとしても、昨日の美月はもう、どこにも居ないんだ。

そう思うともう、止まらなかった。

真澄、と呼んでくれる美月はもういない。

僕の名前を綺麗だと言ってくれる美月はもういない。

戦隊モノのごっこ遊びで、一緒に笑った美月はもういない、いない…いない!

「っ…、ぅ…。」

もうどこにも居ないんだよ。

生まれ変わりなんて綺麗に見せても、もういない。

美月の自我はもう、どこにもない。

机をこれでもかというほど力任せにつかんで投げる。

がしゃあんと音がして、両親が心配して見に来た。

僕は泣くことしかできなかった。

せめて一緒に生まれ変われていたなら。

少しは変わっていたのかもしれないのに。

胸に穴が開いて閉じてくれない、痛くて痛くて仕方ない。

また会いたい、名前を呼びたい。

一緒に、なんだっていいから、遊びたい。

もういちどだけ、お願いだから。

美月に会わせてほしい、昨日までのあいつに、会わせてほしいんだ。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。