リリカルなのは×仮面ライダー 未来2010   作:タキ

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実はなんども書き直していまに至る。

最初はリリカルなのは無印で2004年を舞台にしようかと思ったんですが、どうにも魔法戦に介入するイメージが湧かず……あんまりピックアップされないA'sエピローグ及び漫画版StS序盤で描かれていた中学時代を取り上げることに。


第1話/接近する者たち

 2010年4月。

 

 日本の某県に位置する海鳴市。

 うららかな日差しと咲き誇る桜が、この街にのどかな春を与えていた。

 年度が新しくなると、ひとびとの生活には変化が訪れる。新生活や新学期、さまざまだ。

 

「それじゃあ母さん、行ってきます」

「ええ、行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃーい」

 

 海鳴に存在する高級マンションの一室。

 大切な家族に挨拶を交わし、彼女――フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは茶色のブレザーを着こなして、家を出た。

 見送るのは彼女の母親、リンディ・ハラオウンと、オレンジ色の毛並みをした子犬――フェイトの使い魔である――アルフだ。

 時刻は午前七時。

 友達と合流し、彼女の通う私立聖祥大学付属中学校に通学する。そんな、いつもの、ありふれた日常。

〈魔導士〉であるフェイトが謳歌する、平和な日常だ。

 

「それにしても、フェイトってなんだかすっかり大人びちゃったよね」

 

 アルフが感慨深げに言う。

 それもそのはず、フェイトは今年で15になる。

 それに、ただ歳を重ねたからこその成長ではない。

 今まで経験してきた〈PT事件〉、〈闇の書事件〉。それが彼女を大きく成長させてきた。

 今では〈時空管理局〉に正式に所属し、若くして優秀な執務官として活躍している。

 故に、彼女は強くなった。大人に近づいた。

 だが――。

 

「……けれど、まだ、“大人”ではないもの。あの子は……あの子に、何事もなければいいけれど」

 

 

◆◆◆◆

 

 

「おはよう、なのは、はやて」

 

 家を出てすぐ、フェイトはふたりの友人と合流した。

 高町なのは。八神はやて。

 ふたりとも同級生で、親友で、〈時空管理局〉でともに切磋琢磨する〈魔導士〉である。

 

「おはよう、フェイトちゃん」なのはとはやてが同時に挨拶する。

「今日は暖かいね。こんな日は管理局からの仕事が入らなければいいけど」

「そうやね。最近は結構忙しくしてたし……いつもアリサちゃんとすずかちゃんにノート取ってもらってばかりだと申し訳ないわ」

「うん、今日こそはしっかり勉強しなくちゃ」

「ふふっ。その言い方だと普段はサボってるみたいな感じだね」

「せやかて、学業と仕事の両立は厳しーもんなあ」

 

 くすくすと笑い合いながら三人は歩く。

 しかし実際、はやての言う通りで中学校に通いつつ、〈管理局〉の激務をこなすのは非常に大変なことである。

 命懸けの仕事だってしょっちゅうだ。

 だからこそ両立するのが難しくとも、友達と会い、談笑し、笑い合うことができる学校生活がかけがえのないものである。

 

「それで今日――」

「すみません、ちょっといいですか?」

 

 なのはが言いかけたとき、ひとりの男が声をかけた。

 外見は二十代後半に見える。デニムジャケットを着込んでいるが、服の下からでもよく鍛えられた肉体が主張していた。

 

「あまり時間は取らせませんので……道を聞きたいんですが、いいですか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「ここなんですけど」男が女性雑誌をパラパラめくり、お店の紹介記事のページで手を止めた。「喫茶翠屋っていう……どの辺りですか? GPS使ってみたんですけどね、あれは苦手で。この雑誌の地図はわかりづらいし」

「喫茶翠屋は私の家の店ですよ!」なのはが嬉しそうに声を張り上げた。「この本にわたしが詳しい道の案内書いてもいいですか?」

「ええ。お願いします」

 

 なのはがすらすらと雑誌に案内を書き記す。「助かりました、ありがとうございます。登校中にすみません」男はなのはに礼を告げると、じゃあ、と手を挙げて立ち去った。

 

「なのはちゃんのお店は男の人にも人気なんやねぇ」

「翠屋のメニューはどれも美味しいもんね」

「あはは。でもあの男のひと女性雑誌持ってたし、恋人に買ってあげるとかじゃないかな?」

「その可能性もあるなぁ。と、そや、あんまりゆっくりしすぎるとホントに遅刻してまうわ」

「あっ、そうだね。行こうか」

 

 三人がペースを上げて中学校へ向かう。

 そのとき(んっ――?)フェイトはふと視線を感じて振り向いた。

 しかし背後には、誰もいない。路上に緑川物産と書かれたトラックが一台止まっているのみだ。

 運転手の女性は突っ伏して寝ているのが見える。助手席の男性は漫画雑誌に熱中している。

 

「フェイトちゃん?」なのはがどうしたの、と声をかけた。

(気のせいかな)考えすぎだ。「ううん。なんでもない」そう思い、足早にその場を離れた。

 

 

◆◆◆◆

 

 

「気づかれちゃった?」

 

 助手席の男性が雑誌から目を離し、そーっと視線を前に向けた。

 三人の女子中学生たちはそそくさと学校への道を急いでいった。

 

「これで気づかれたら隊長のせいですねぇ。ひとを騙すのができないっていうのはどう考えてもこの仕事に向いてませんよ」

 

 運転席の女性が突っ伏したまま返す。

 

「〈拾番〉おまえな、隊長に向かってバカとはなんだバカとは」

「だってバカじゃないですか。なんで隊長になれたんだか。大隊長の人選ミスですよ」

「あーっ!? そんなことないって! つーかおまえはどうなんだよ。おまえは嘘得意なのかよ」

「そりゃあアタシ、元詐欺師ですもーん。結婚詐欺とかよくやってましたから血の一滴まで嘘で出来てますよ」

「ああ、そう……」

 

 呆れた表情を見せてまた隊長と呼ばれる男は雑誌に目を落とす。

 彼らはもちろん、貿易業で有名な緑川物産の正式な社員ではない。あくまで、表向き、の話ではあるが。

 

「〈五番〉です。隊長、おやじさんが戻りました」コンテナ側から無線が入る。

「ん、わかった」隊長が助手席を出る。「じゃ、俺おやじさんのところ行くから。なんかあったら連絡しろよペテン師」

「あーい」

 

 コンテナの中に入り、敬礼をする。「お疲れ様です、第二小隊隊長〈弍番〉ミーティングに参りました。本当なら〈九番〉を行かせるつもりだったんですが。よかったんですか? なにも……おやじさん自ら行くことは」

「いや、部外者だからな、俺は。だから部隊に貢献したかったんだよ」

「ははは……別に気にすることないですよ、そんなの」

 

 おやじさんと呼ばれたその男は、先ほどなのはたちに翠屋の案内を頼んだ男である。

 

「それにしても、あの子たち〈芽〉だと思いますか?」

「そうだな……実際に話しかけてみて感じたが、あまりにも警戒心がなかった。よっぽど力に慣れたのか……5、6年前だったか。彼女たちが異能を持っていると初めて観測されたのは」

「ええ。高町なのは、フェイト・テスタロッサが6年前。八神はやては5年前。いずれも不審な点が目立ちます。ああそうだ――〈六番〉。モニター出してくれるか。〈九番〉は資料をピックアップして表示してくれ」

 

 隊長こと〈弍番〉の指示で部下がそれぞれ動く。

 狭いコンテナの中が小規模の会議室に早変わりした。

 

「おやじさんは急遽今回の作戦に参加することになったので、海鳴市に確認されている〈芽〉と思しき少女たちについて、我々第二小隊で説明をします」

 

 隊長の補佐を務める〈五番〉が口を開き、〈九番〉へ手で合図を送る。彼はタブレット端末を操作し、モニターに資料を映す。

 最初に映し出されたのは、茶色の髪の少女。まだ小学生だった頃の画像と、現在の画像が2枚。

 

「まず高町なのは15歳。私立聖祥大学付属中学校に通う女子中学生。経歴については特に不審な点はありませんが、彼女は6年前に海鳴市で多発した不審な破壊事件に関与していた可能性があります。ですが確証に到れるような画像はなく、あくまでも事件現場に必ずいた、というのみです。

――ですが。彼女は空を飛ぶことができます」

 

〈九番〉が解像度の粗い画像と数秒程度の動画を映し出す。

 

「飛行能力と破壊能力は結びつきませんが……自由自在に空を飛ぶ、というだけでも目を見張る超能力の所有者であるかと」

「そのステッキは?」〈弍番〉が指をさして尋ねる。

「残念ながら、不明です。しかしながら、かなり特殊な形状をしているため、これが彼女の正体を掴む鍵になるかと思われます」

 

 話を一旦区切り、〈五番〉は〈九番〉に向けて二本指を見せる。

 画像が切り替わり、別の少女の画像が表示される。

 金色の髪の毛を持つ、西欧系の少女。

 

「フェイト・テスタロッサ。いまは養子に入ったらしく、フェイト・T・ハラオウンと名乗っています。歳と学校は高町なのはと同じです。彼女もまた6年前の海鳴市の破壊事件に関与していた可能性があります。前述した高町なのはと同様に空を飛んでいることも確認されています。

また、彼女について特筆すべきなのは、戸籍が偽造であることです。

経歴も不明で、6年前海鳴市に突如現れていることが確認されています。そしてすぐ、一年間姿をくらまし、また現れました。そのとき、リンディ・ハラオウンと言う母親のもとで生活を始めています。補足ですが、この女性も戸籍が偽造で、日本および世界のどこを探しても存在しない人間です」

 

 モニターにはフェイトの飛行を映した映像と画像、海鳴市での彼女の親類の画像、そして彼女のでたらめな身元の羅列がモニターを埋める。

 

「突如現れた、ってどういうことだ?」〈六番〉が挙手して尋ねる。「その……いままで世界中どこにもいなかった人間がぱっと現れたっていうのか。神隠し……は逆だから違うな。ええと、そうだ……例えるなら、“魔法”みたいに」

「それに関しては断言できるような情報もなく、憶測も立てられません」

「実際に調べるしかないってことか」

「あなたは宇宙人かなにかですか? とでも訊くか?」

「隊長、それはさすがに……」

「冗談だよ、鵜呑みにすんな」

 

「んっ!」と、〈五番〉が咳払いをした。「説明に戻ります」

「最後に八神はやて。年齢、学校は前述したふたりと同じです。彼女もやはり、飛行能力を有しています。彼女については、両親に先立たれてはいますが、高町なのはと同様に経歴自体は普通です」

 

 モニターに茶のショートカットの少女が表示される。車椅子に乗っている姿と、回復し元気に歩き回れるようになった姿が。

 

「しかし、天涯孤独の身であったはずの彼女に5年前急に同居人が三人――全員女性――現れています。彼女たちの戸籍はなく、経歴もなにひとつ存在しません」

 

 はやてとともに三人の女性が暮らす姿が映された。

 桃色の髪をした女性、薄い黄色の髪をした女性、赤色の髪をしたはやてよりも幼く見える少女。そしてペットらしき青い犬も映っている。

 

「また、彼女は治る見込みのなかった脚の麻痺が回復に向かったことが確認されています。

この件に関しては出現した三人の女性の存在が関わっているかと推測されます。これに加え、彼女は存在しない人間から財産管理と資金援助を受けていました。これが誰なのかは残念ながら掴めていませんが、彼女を知る上で重要なことではないかと思われます。

――説明は以上です」

 

 ふぅ、とひといきついて、〈五番〉はペットボトルの水を喉に流し込んだ。

 

「ありがとう〈五番〉」おやじさんは軽く手を挙げ、礼を告げる。

「しかしなんだな」〈弍番〉は頭をかいた。「いくらなんでも、こんなに不明なことがある人間がいるか? それに三人同じ飛行能力を持つ、そんな偏ったことがあるのか?」

「……この6年間、”ヤツら“に狙われなかったというのも不思議な話だな」

「そうですね……とにかく、なにかありますよ、絶対」

「ああ。手当り次第調べてみるか。第一小隊、第二小隊全員で調査に当たればなにかしら掴めるだろう」

 

 そのとき、運転席で待機していた〈拾番〉から無線が入った。

 

「たいちょお。さっき第一小隊から連絡がありましたよぉ。海鳴市での作戦基地が確保できたってぇ」

「あ、ホントに?」

「はいー。大隊長もドクターも、あと〈博士〉ちゃんもすっかり根を下ろしたーって〈七番〉が言ってました」

「そうか。ならひとまず移動するか……その前に〈拾番〉。ひとつ言っておくぞ」

「ふぁい?」

 

 すう、と息を吸ってから〈弍番〉は声を張り上げた。

 

「任務中に寝るんじゃねぇ!」

 

 

◆◆◆◆

 

 

 午後5時。

 日も傾き始め、徐々に外は暗くなってくる。

 聖祥中学もすでに放課後を迎え、女学生たちが下校していた。

 フェイトもそのひとりだ。

 今日は任務で呼び出されることはなく、最後まで授業を受けることができた。

 しかし、なのはとはやては〈管理局〉から任務を受け、捜査官としてこことは異なる世界であるミッドチルダへ。いまはふたりは任務中のはずだ。

 かといって、フェイトには仕事が回ってこなかったわけではなかった。

 

「海鳴市に“怪人”か……」

 

〈管理局〉の新人執務官であるフェイトは、こちら側の世界で目撃された謎の怪人の正体を探り、必要であれば撃退を命じられていた。

 もしこの怪人が違法な〈魔導士〉に関わりのあるものだとすれば、〈時空管理局〉としては見逃せない問題である。

 

「うん。今日は仕事で遅くなるから。大丈夫、ムリはしないよ。うん。うん。それじゃあ、また後で」

 

 フェイトは仕事で帰りが遅くなると母に連絡を入れ、さっそく目撃情報のあった海鳴の港に出た。

 情報では、昨夜午前1時ごろ、微量の魔力反応とともに、異形の存在が確認されたという。

 そこで執務官であり、管理世界地球で手の空いていたフェイトに調査が任されたということだ。

 彼女はいつなにが起きてもいいように警戒しながら、虱潰しに港一帯を歩き回る。

 そのとき目に留まったのは、シャッターの開いた一棟の倉庫。

 その倉庫は開き方が明らかに異常であった。

 ひとがひとり通れるほどのちょうどいい高さで綺麗に切断されていた。

 ……異様な雰囲気がする。

 フェイトは身構えながらその倉庫に脚を踏み入れた。

 

「……」じりじりと音を立てないよう注意しながら少しずつ進んでいく。

「う……」

「あっ……!」

 

 そのとき、小さな呻き声が耳に入った。

 声の方向を見れば、〈魔導士〉らしき男性が暗がりの中縮こまってがくがく震えていた。

 

「大丈夫ですかっ」なるべく声を潜めながら駆け寄る。そこで彼女は気づいた。「……これ、は?」

 

 男性は縮こまってなどいなかった。ただ、縛りつけられ、体を“畳まれて”いただけにすぎなかった。

 全身に細い白い糸が巻きついており、それが男の体を締め上げ、小さくしていたのだ。

 おそらく、あちこちの骨が折れているはず。

 まだ生きているのが不思議なくらいだ。

 

(――ここに長居するのはいけない。とにかく、急いで出ないと)

 

 フェイトの直感がそう告げる。糸を切って男を助け出そうと試みた。

 

「助けようとしても無駄よ」

 

 ふいに背後から声をかけられた。女性の声。

 咄嗟に振り向くがフェイトが入ってきたシャッターに人影はない。

 

「そのひと、なんでそんなぐちゃぐちゃになってるのに生きてるのかしら?」

 

 声の主は見えない。

 男は「あ……あ……っ」と呻き声にも悲鳴にも聞こえる声を漏らした。

 

「私がね、薬を打ってあげたの。首筋に、針をぷすっ。そうすると、体が一生懸命生きようとして、なかなか死ななくなるの。ふふふっ。でも……そろそろ薬が切れる」

 

 刹那、耳をつんざく絶叫がフェイトを殴りつけた。

 フェイトは必死にこらえ、辛うじて目を開いて絶叫の主である男を見た。

 

 ――フェイトは驚愕するしかなかった。

 

 男は白目を向いて小刻みに痙攣し、鼻血を吹き出し、口からはぶくぶく泡を吐き出していた。

 そして息絶えた。

 男は静まり返った。

 死んだ。

 殺された。

 死んだ。

 

「うあああっ!」

 

 フェイトは叫んだ。一瞬にしてバリアジャケットを展開し、金色の雷を周囲に放つ。

 着弾した場所からもうもうと煙が上がる。「乱暴ね」平然とした、冷たい声が降りかかる。

 フェイトは上を見上げた。

 ……いた。

 白い清潔なドレスに身を包んだ女性は逆さまになりながら悠然と腕を組んで降りてくる。

 

「私のコレクションが傷ついたらどうするの?」

「コレ……クション?」

「ええ。ほら、周りをよく見てみなさい」

 

 フェイトは促されるまま周囲に視線を配った。

「な――」フェイトは激しい吐き気に襲われた。

 先ほど目の前で殺された男性と同じような死体が並べられていた。

 折り畳まれ、人の形を留めていない――だが苦痛に歪んだ顔が痛ましい――死体が、何人も

 陰惨な光景に苦しむフェイトを見て、女はけたけた笑った。

 

「私ね、ひとが苦しむ姿が好き。特に、死にそうだけどなかなか死ねない。そんな風に焦らされて、焦らされて……遂に死ぬ。その瞬間がもっと好きなの」

 

 女性は語る。誇らしそうに、胸を張って。

 

「バレないように“趣味”を充実させてたんただけど、この前ね、バレちゃったの。通りがかったひとに。捕まるかと思ってわんわん泣いたわ。ああ、もう殺せない。って」

「……やめろ」

「でも、あるお方が助けてくれたの。君はまだひとを殺していいって。その方はすぱっと、包丁で野菜を切るように綺麗に目撃者を始末してくれて……すごく美しかった。そして彼は、私に力を与えてくれた」

「やめろ……」

「それからもっとひとが殺せるようになったの! もう楽しくて楽しくて楽しくて……自慰するよりずっと気持ちいいし、なにより殺し方に工夫が効くようになったし……ふふふふふふっ。ああ、ああ! 神様がこんな私を愛してくれてるのがそのときすごくわかったの!」

「やめろ!」

 

 フェイトは怒鳴った。そして目の前の狂人を睨みつける。「もう、やめろ」

 

「……そう。つまらないわ。私の話に共感してくれないのね。せっかく、変わったひとに会えたのに。空を飛んだり、光弾を飛ばしたり……同業者かと思ったのに。私に怯える。拒絶する。さっきの男もそうだった」

 

 女性の顔から表情が消える。

 その代わり……。

 

「追われている、逃げているから助けてくれって。そう言ってきたから助けてあげようと思ったのに。この美しいコレクションを見た途端、嫌がって……私傷ついたわ。だから殺してあげた。教えてあげた。私のコレクションにして貰えるのがどんなに気持ちよくて至福なことか」

 

 女の顔に裂け目が走り、ぱっかり割れた。

 そこにはもう女性の美しい顔はなかった。

 ――等身大の蜘蛛。拡大された蜘蛛の顔に“変身”していた。

 顔だけではなく、全身も、細長い白い蜘蛛の姿に。

 

「……あなたにも教えてあげるわ」

 

 彼女の正体は人間と蜘蛛のキメラ――〈蜘蛛女〉である。

 

「……っ!?」

 

 フェイトは目の前に現れた謎の怪人に驚くより先に、〈バルディッシュ〉を咄嗟に構え、本能的に横へ飛び退いた。

 フェイトの勘は正しかった。先ほどまで立っていた場所に弾丸のように速く――いやそれよりも速いかもしれない――白い糸が飛んできていた。

 糸はフェイトの横を掠め、倉庫の壁に激突し激しい音を立てた。

 

「おまえはいったい……!」

 

 なんなんだ。そう問う言葉を出すことは出来ず、すぐさま回避運動をとった。二発目の糸がフェイトを狙った。

 これを避けつつ、フェイトは〈蜘蛛女〉に反撃を仕掛けるべく接近した。

 

「〈バルディッシュ〉!」

『Yes,Sir』相棒は応じ、サイズフォームに変形、金色の刃を発する。

「な……速い……!」

 

 フェイトは一瞬で間合いを詰める。彼女は〈魔導士〉の中でもずば抜けたスピードを誇る。

 故に、巨体を持つ〈蜘蛛女〉がすぐに反応できるはずがなかった。

 サイズフォームによる強烈な斬撃、「サイズスラッシュ」が〈蜘蛛女〉へ肉迫する。

〈蜘蛛女〉は咄嗟に四本の腕を振り回す。〈蜘蛛女〉の腕には鋭い切っ先を持つブレードが備えられていた。

 それをフェイトはいなし、〈バルディッシュ〉を振るう。

「ぎっ……!」腕が一本宙を舞った。鮮血が飛び散り、フェイトの顔と黒いジャケットを赤く汚した。

 怪人に彼女の攻撃は有効だった。ならば続いて二撃目を……!

 だが、そうはいかなかった。「あ……!?」フェイトの体に糸が巻きつく。

〈蜘蛛女〉が口から吐き出した糸が彼女の自由を奪う。

 

「よくも私の腕を!」

「がっ……!」

 

 フェイトは〈蜘蛛女〉に殴り飛ばされ、倉庫の壁に叩きつけられた。

 華奢な腕だというのに、信じられないほどの威力だ。

 フェイトの肺から空気が吐き出され、苦痛に喘ぐ。

 

「あなたは私のコレクションに向かないわ。私はもっと……大人しい子の方が好きだもの」

 

 怒りで興奮した〈蜘蛛女〉が、ゆっくりと身動きのとれなくなったフェイトに迫る。

 

「く……」しかし諦めるわけにはいかない。「プラズマ……ランサーッ!」

 

 フェイトの掛け声のもと、金色の槍が出現し高速で放たれる。

「ちっ」〈蜘蛛女〉は巨体からは信じられない機敏な動きを見せてこれをかわしていく。

 

「ターン……!」だが、外れた魔力弾は向きを変え、もういちど〈蜘蛛女〉を襲う。

 しかし……。

 

「こんな豆鉄砲で」飛来する魔力弾をすべて腕のブレードで切り裂き、消す。「私はやられない」

「っ……!」

 

 射撃魔法による抵抗はすべて回避された。だが、これでいい。うまく誘導はできた。

 あとはそのまま前進してくれれば……。

 

「もちろん、あなたがなにか仕掛けておいたこともわかってる」

「なっ!?」

 

 ひょい、と軽く跳躍し倉庫の天井すれすれを行く。そして〈蜘蛛女〉はフェイトの眼前に着地した。

「残念だったわね」〈蜘蛛女〉は顔を近づける。その醜い怪物の顔を。

 ぎちぎちと嫌な音を鳴らし、口からは異臭がする。

 複眼にはフェイトの引きつった顔が並ぶ。

 

「あなた普通じゃないもの。よくわからない芸当ばかり使うし、警戒はするわ。あんな誘導されたら尚更。いまいち狙いがこちらへ向いてなかったものね……まぁとにかく、これで終わりよ」

 

 本来ならば、あのまま設置しておいたバインドまで誘導し捕縛、サンダーレイジで攻撃するつもりだった。

 だが、失敗に終わった。

〈蜘蛛女〉の長い手が伸び、フェイトの首を掴んだ。

 軽々と彼女の体は持ち上がる。「はな、せ……!」脚をばたばたと動かすが、どうにもならない。

 

 ――死ぬ。

 

 自分が先ほどの男性のように惨たらしく殺される光景が頭に浮かぶ。

 

(……嫌だ)

 

 あの陰惨な光景、怪人の言うところのコレクションに対する憤りが沸き起こる。

 

(まだ死ねない……)

 

 なのは、はやて――笑顔をくれたたくさんの友人たち。

 リンディ、クロノ――自分に生きる場所を与えてくれた家族。

 そして、プレシア、リニス、アリシア――大切な、大切な想い出。

 

 いま生きている自分の命は、大切なひとたちのためにも、ここで終わるわけにはいかない。

 

 フェイトは〈蜘蛛女〉をきっ、と睨みつけ叫ぶ。「私はまだ……生きる!」

 

 そのとき。

 倉庫が揺れ、激しい音が鳴り響いた。

「……!」〈蜘蛛女〉は短い悲鳴をあげる。

 フェイトは地面に落ち、膝をつく。そして咳き込んだ。

 なにが起こったのか。

 助かった。それはわかる。

 では誰が?

 

「あなた、は……?」

 

 顔を上げて乱入者の姿を捉える。

 そこにいたのは、彼女のよく知る友人や仲間ではなかった。

 

「……俺は」

 

 フルカウルの白いマシンに乗って現れたその存在。

 彼の全身を覆うのはシームレスな黒い装甲。腰に備えるベルトの、大型のバックルには、縦に三つ並ぶ風車がある。

 首には深紅のマフラーが巻かれており、それは燃え盛る炎のように揺らめく。

 特徴的なのは身につける仮面である。髑髏、いや飛蝗を思わせる異形の顔。一対の複眼が暗がりで桜色に鮮やかに発光する。

 

「――〈仮面ライダー〉だ」




書いてて自分の力不足を痛感。反省、そして精進を心がけました。

あ、あと〈弍番〉たち第二小隊(第一小隊はまだ出てませんが同様です)には元ネタがあります。
オリキャラだとちょっとあれかな?って思ったので。〈拾番〉とかわかりやすいですよね。
某なのは×仮面ライダーの小説を読んでたら、彼女を当てはめることに決めました。
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