思考が追い付かなくなった。
目の前には所狭しと散らばる棒っきれと鍋の蓋、それからピキピキ此方を威嚇する青いニヤケ面と、その中でも異彩を放つドクドクしい色の針が二本。
……………え?
何だか素手で触ったら不味そうな液体が付着してる二本の針を、取り敢えずひのきのぼうで突っつく。
「………うーわ♪マージかー♪」
液体が付着したひのきのぼうの先端が煙を吹いている。致死率高そうなドクドクしさだ。
流石にそのまま持つのも躊躇われ、念じて全部不思議空間に仕舞う事にした。
さっきからピキピキうっさい青いジェルも序でに仕舞えば、辺りには静寂が戻ってくる。
さて、さてさて、これはどうしようか、どうするべきか。
先ずは今回の友ガチャの内容だが、明らかにドラクエの装備及びモンスターだった。
一応言っとくと、今回俺は例のピックアップガチャとやらは引いていない、いつも通りの友ガチャだ。
推測になるが、イベントが起こる度にガチャ内容が拡張されるのかもしれない。
流石にポップアップに出て来たようなイベント専用品はともかくとして、それ以外のNからR、もしかしたら一部のSRとかSSRとかも排出されるようになるのでは?
いや、友ガチャだしSRは無いな、我が個性ながらかなりコスイ課金クレ運営だしな。
因みに、このソシャゲ個性のレアリティーは五段階に分けられる。
N、主に友ガチャや無料ガチャのメイン、弱い。
R、友ガチャ排出率8%、プレミアムのメイン。そこそこ使える。
HR、友ガチャ排出率3%、プレミアム排出率8%、使える。
SR、友ガチャでは出ない、プレミアム排出率3%、かなり使える。
SSR、友ガチャは出ない、プレミアム排出率1%、もはや無敵。
ははっマジでふざけんな。
言っとくけどね、ソシャゲガチャの排出率は基本的に十連ガチャで考えた確率何だよ。
わかりやすく言えば、倍率三百倍の学校に落ちたから次の年受けたとしても、変わらず倍率三百倍何だよ。確率は持ち越し出来ないんだよ。
石三百のプレガチャだって、十回引いてもRのみとかざらだろう?
だが十連なら?そう!!確率がダイレクトに反映されやすいんだ!!
………まぁ、それでも、3%だの1%だと、明らかに誤差になっちまうんだけどな。
本当にクソゲー待ったなしな個性です。
まぁ、今回はそんな個性に助けられた訳だし、たまには素直に感謝しようか。
「ふっふっふっー♪今宵のどくばりは血にwayてーるー♪」
だが、確殺するなら二人どうじに仕留めたいところだ。五歳児のリーチでそれが可能だろうか?
答えは否、Nキャラのみで高難度イベントに挑むようなものだ、ほらあれ、イベントレイドの難易度欄にラグナロクだとかウルティメイトだとか書かれてるような。
ではどうするか?
ふっふっふ。我に秘策あり。
敵は二人、どくばりは二本、ならば仲間を用意すれば良い。
幸い今回出て来たスライムは様々なドラクエ世界で確かな知性を見せつけ、更には主人公の仲間になったりするようなまさしく『可能性の獣』と読んでも強ち間違っていないような存在だ。
前回呼び出した奴は明らかに人類に敵対的な種族だったから、思わず不思議空間に没シュートしてしまったが、スライムなら……いける!!(確信)
というわけで不思議空間からスライムを召喚しようか。
手順は簡単、念じて不思議空間に収納されたスライムをデッキに編成するだけ。
ついでに『なべのふた』と『ひのきのぼう』と『ぬののふく』を自分に装備。
今付いてるジョブが『欠食童子』なせいで、全パラメーター常に10%ダウンだからね。「買ったものは装備しなきゃ意味ないぞい」って奴だ。
デッキに編成されたスライムが目の前に現れる。
目線が合った瞬間ハンドボール選手が参加したドッジボールレベルの速さで突っ込んできた。って、え?
「はぐぉ!?」
そのままお腹にシューーーっ!!!!超エキサイティン!!!
スライムの奇襲に録な食事取れてない身体が反応出来る筈も無く、俺は勢い良く壁まで弾き飛ばされた。
ドダン!とけたたましい音を鳴らして壁に激突すると、壁の向こうからもドダン!と音が返ってくる。
おとなりさんはきょうもげんきでうれしいなー(棒)
クソっふざけんなよ、ソシャゲなら手に入れたキャラは問答無用で戦いに駆り出されて、用済みになったら売却されるのが常だろ。
残されるのはお気に入りのキャラぐらいでさ、Nごとき後半だと資金繰りの一環でしか無いんだぞ?
そんなNが、ストーリークエストで無限ポップする雑魚が………
「ふざけけんな………仲間になりたそうな目にさせてやるよ」
ひのきのぼうを握りしめ立ち上がる。
ふふっ、まさか初のバトルがヒロアカ世界のヴィランでも、ましてやクエストの敵でも無く、自分のデッキメンバーとはね、くそったれ。災いあれ。
くそっやってやる、コイツを屈服させて、両親殺して、俺はこの世界ではのんびりイキイキ暮らすんだ。
五年だぞ?五年も耐えたんだ。もう十分だ。
「かかってこいよスライム。ジェルの備蓄は十ぶぐぼあぁ!?」
まぁ、それと実力に関係は無いよね!!
決め台詞的なものを言う暇も無くスライムの殺人体当たりをまたもや腹に食らう。
無理無理無理、これ『ぬののふく』無かったら死んでるよ?
良く考えてよ、ジョブが『欠食童子』になるような虚弱ボーイだぜ?
それがいくらマスコット扱いされてるとは言え、いまだ現役で敵役張ってるモンスターに勝てるわけないって。
でもやるしかない、ああ嫌だ嫌だ、めげたい、投げたい、辛い辛い。
でも、俺みたいなクソみたいな境遇の奴が生き残るには無理を通して無茶を叶えるぐらいじゃないと。
「怖い怖い♪ほんとーにやだなー、でも、うん、もう当たらな……いっ!!」
また話してる最中に襲いかかってきたけども、なんとか『なべのふた』で受け流す。
がら空きになった背中に『ひのきのぼう』を振り下ろすと、スライムは床にバウンドし壁に激突した。
コイツ倒しても経験値1何だよな、そんなのに苦戦する俺って………
いや、考えまい!!
今はただひたすら、両親が帰ってくるまでにコイツを倒して本当の仲間に!!出来ればスラリンやスラぼうみたいな強者スライムになってくれよ!!
「ピキー!!」
まさかの反撃に、壁にベチョリと貼り付いていたスライムが怒りの声を上げる。心なしかニヤケ面も怒ってるような。そーでもないような。
「うるせー……歯向かう奴は悪いスライムだ、従順な奴は訓練された悪いスライムだ♪」
つまりは皆悪いスライムだぁ!!!
今度は此方から飛び掛かり、スライムの上に乗っかる。
バッシュだ!!バッシュだ!!要は『なべのふた』での乱打だ!!
額に珠のような汗を浮かべながら、一心不乱にスライムの上で腕を振るう。
どーでも良いが、今の俺ってば見た目スライムナイトだよな。
などなど、益にもならない考えは限界が近いからか、それとも気分の高揚からか。
俺知ってる、これ人が廃課金ユーザーに堕ちてく時の感覚だ。これ。
何か脳内から怪しい何かが分泌されて、後戻り不能地点も飛び越えるようになっちゃう奴。
自制が大事!抑えて抑えて!
とか色々な思考が脇道にそれてる間に、気付いたらスライムがぐったりしていた。
あからさまにぺけ印にバンドエイドを貼ってる。あざとい。
因みにバンドエイドは地方によって呼び方が変わるよ。
バンソーコーだったり、カットバンだったりね。
俺の前世はバンソーコーちほーだった。
「ピキィ」
疲労からかフワフワする思考があっちにこっちに行き来してたら、下のスライムから非難の声(おそらく)が挙がってきた。
もう襲われないだろうなとドキドキしながらスライムの上から降りると、元気良く跳び跳ねて俺の頭の上に着地する。
そのまま何をするでも無い様子から、どうやら無事に仲間だと認めて貰えたようだ。
良かった良かった。これで心置きなくあのクソ両親を殺害出来るよ。
それどころか、このスライムと一緒ならあの不思議空間に封じた難敵(Nキャラ)も、力付くで従わせる事ができりのでは?
いやいや、欲を出すのは良くない、今は確実にあのクソ両親を殺さなきゃ、そうしないと俺の自由は一生手に入らないのだから。
頭の上に鎮座したスライムを持ち上げ、目の前の机に降ろす。
スライムとの死闘で部屋の中は滅茶苦茶に荒れてはいるが、どうせ両親が死んだら二度と戻って来ない場所だしね。知ったこっちゃないね。
不思議そうに此方を見上げるスライムに、真面目な顔を作り話し掛ける。
「さぁーさぁー、楽しい楽しい悪巧みの時間だよー♪」
そう言って、不思議空間から『どくばり』を二本取り出してスライムの目の前に置いた俺は、きっとこの上無く悪どい顔をしていた事だろう。
実はこの作品、全話を3500字で終わらすようにしてる。
帰りのバスとかで気軽に読める文量がそれぐらいかなって
あと繰り返しになるけど、エタラ無かった、褒めよ(尊大)