日本が誇る世界的に有名なトップヒーローと言えば誰を思い浮かべるかという質問をされたとしよう。
この世界に生まれ落ち血の繋がりがない育ての親から道具として扱われた俺は、テレビや雑誌などを見る機会も無く、残念ながらこの質問に推測以外で答える事は出来ない、だがそれでも俺は答えるだろう。
それは原作を知る転生者だからだとか、しょっちゅう話題にあがるからだとか、そんな話じゃない。
あの時、俺を救い、だけども俺の存在を否定したアイツを、俺はきっと忘れられないから。
鮮烈に記憶に焼き付いたパワー、絶対強者の振る舞い、そして…
これは俺が両親の殺害に挑む話で、アイツの存在を通してこの世界を初めて実感として認識した話だ。
∀∀∀∀∀∀∀∀∀∀
スライムとは何か、その質問への答えは簡単だ。
一番弱い敵、旨味の無い敵、可愛いだけの敵、つまりは対して強くないモンスターの代名詞、それがスライムだ。
勿論例外は存在する。
ドルアーガの塔とか、ウィザードリィだとかの古いゲームはTRPGの流れを組み、スライムが厄介な敵として描写される。
ただかの国民的ゲーム『ドラゴンクエスト』シリーズのイメージが強すぎて、大多数の人間がスライム=弱いの方程式を持っている。
かく言う俺もスライムなんざ雑魚の中の雑魚、雑魚の王様、キング・オブ・雑魚だと思ってた。
しかし実際はどうだ?スライムは完全武装(N装備)の俺とギリギリの接戦を繰り広げた。
これで雑魚だとどうして言えよう。断言しようか、スライムは強い!
そんなつおいつおーいスライムさんにどくばりを渡し、作戦を伝える。
作戦の第一段階は両親の帰宅を待つ事だ。
殺害対象がいなけりゃやるに殺れないからな、ただしボーッと待つだけじゃない。
待機してる間スライムさんにはこの部屋の天井、それも入り口付近に貼り付いていてもらう。
両親は基本この部屋には一日一回しか入ってこないし、チャンスは自分で作るしか無い。
だから俺は両親帰宅に合わせて適当に『ひのきのぼう』で暴れまわり、両親を呼び寄せる。
そこで作戦の第二段階、部屋に両親が入ってきたらスライムさんが父親に背後から奇襲、背中にどくばりをブスリ。
残りの母親は無個性のただのクソなので、楽に始末出来るだろう。
問題は父親の個性だが、まぁ涙腺から尋常ならざる涙を流す没個性だし、大した驚異にはならないさ。
さてさて、そこまで決まればスライムさんには待機してもらって、俺は今装備している装備の限凸と強化をしてしまおうかね。
ムムムと念じて装備品のパラメーターを確認する。
名称
ひのきのぼう
分類
武器(刀剣)
限界
☆☆
級類
N(ノーマル)
LV1
HP20
攻撃50
※図鑑未登録※
名称
なべのふた
分類
防具(盾)
限界
☆☆
級類
N(ノーマル)
LV1
HP50
防御20
※図鑑未登録※
名称
ぬののふく
分類
防具(服飾)
限界
☆☆
級類
N(ノーマル)
LV1
MP10
防御60
※図鑑未登録※
全部の武器を現段階の最高レベルである20まで一括強化、それから限界突破する。
なにせこのクソ個性は一回レベルMAXまで強化しないと限凸出来ないクソ仕様なのだ。
図鑑埋めに苦労するったらもうね………お陰で実績クリアも捗らない捗らない。
ムムムーと念じて3つとも強化するが、『ぬののふく』だけ素材不足でレベル14止まりになってしまった。
まぁ、『ぬののふく』は限凸素材足りないし後回しも仕方無いよね。
『ひのきのぼう』と『なべのふた』を限凸し、ある程度の強化も終了させた現段階の俺の装備品パラメーターが 此方。
名称
ひのきのぼう
分類
武器(刀剣)
限界
★★
級類
N(ノーマル)
LV31
HP170
攻撃200
※図鑑登録済み※
名称
なべのふた
分類
防具(盾)
限界
★☆
級類
N(ノーマル)
LV30
HP195
防御165
※図鑑未登録※
名称
ぬののふく
分類
防具(服飾)
限界
☆☆
級類
N(ノーマル)
LV14
MP75
防御125
※図鑑未登録※
今までの装備品とあまり変わらない強さだけども、あの国民的ゲームの装備というだけでこの高揚感。
両親の帰宅は日中のお昼時、十二時から午後一時の間が慣例だ。
働けクソニート夫婦とか思っちゃうが、声には出さない、まぁ声に出しても両親のご機嫌取りで染み付いた陽気な喋り方しか出来ないし迫力もないけどな。
さてさて、現在時刻は十時半、残り一時間半は有効に時間を活用出来る。
ならこの時間で何をするのか、決まってる。ソシャゲ廃人恒例のあれだ。
デイリーミッション消化作業。
デイリーミッションとはかなりの確率でソシャゲに実装されている機能で、これをコンプするとゲームによっては石が貰えたりと恩恵の大きな要素だ。
無課金族最後の砦とも呼ばれるこれは、ログボ族や廃課金族からは軽視されやすいが、金を使えない俺みたいな存在にはなくてはならない存在だ。
俺の個性におけるデイリーミッションは全部で五つ。毎日ランダムで内容が変わり、クリアボーナスにガチャ石が貰える。
本日のデイリーミッションは。
デイリークエスト一回クリアしよう
レイドバトルに勝利しよう
キャラクターを強化しよう
所属ギルドに寄付しよう
フレンドに挨拶しよう
ガーッデム!
よりにもよって一つしかクリア出来ない。
デイリークエストは仲間がスライムのみだから無理だし、レイドバトルも同じ理由で無理。
所属ギルドってもさ、ギルドへの入り方が解らないんですがそれは。
フレンドいない。ぼっちちゃうわ。いやぼっちだけど。
キャラクターを強化はスライムさんに不思議空間の肥やしになってる難敵をぶちこめば良いのだが、アレは現状二体しかいないキャラクターの内の一体。餌にするのは躊躇われる。
それに報酬も拠点EXPと現状くその役にも立たないものだし…ん?
つまり今日はデイリーノークリア?
マジか、確かに今までデイリーミッションフルコンプした事無いけど、それでもノークリは流石に初だぞ。
いや、大丈夫だ。今日このクソみたいな境遇から脱出出来たらフルコンプも夢じゃないさ。
それにそもそもストーリークエストだって未だに進められてない、ていうかどうやって進めるのかも…
『プロローグ∀四畳半の大脱出』
ん?
いきなりストーリークエストの情報が解禁されたぞ?
しかも何だか不穏なタイトルだ。
念じて詳しく理解しようとすると、プロローグのラスボス以外の情報が表示された。
『ステージ1∀ボス∀スライム』
『ステージ2∀ボス∀両親』
これは、なんというか、凄い返答に困るんだが、取り敢えず一言。
「人の人生をソシャゲにすんじゃねーっての」
いや、憤る場面なのは分かるよ?分かるんだけど、こんなん見たら両親の殺害が予定調和みたいでさ、何と無く釈然としない気持ちに襲われるんだよね。
いや、いやいや、逆に考えよう。
メインストーリーに組み込まれている以上、両親の殺害はどっちみち成さねばならない出来事なんだと。殺さなきゃ俺の人生がスタートしないって事なんだと。
それにあれだ。イベント充実してるソシャゲだとメインストーリーとかもはや飾りだし、そこまで気にする事は無いだろう。
うん、気にしない、気にしないったら。
にしてもあれだ、プロローグのラスボスのシルエット、どこかで見たことあるような…いや!!気にしないってば!!
色々考えてるウチに両親ももうすぐ帰ってくるような時間になっちゃったし、スライムさんもやる気満々だし。
俺も殺る気満々だ。
いつでも来い。
等と気合いを入れていたら、アパートの鉄製の階段を上る硬質な足音が聞こえてきた。
カンッ…カンッ…カンッ…カンッ…
次第に大きくなる足音は不意に止まり、玄関のロックを解錠する無機質な音が鳴る。
帰ってきた。
両親の気配を居間に感じた瞬間、手に握りしめていた『ひのきのぼう』を振り上げ………一気に振り下ろした。
普段の俺であったなら逆に手を痛めそうな勢いで振り抜かれた一撃は、それなりに頑丈に見える床を叩き、反動で『ひのきのぼう』が跳ね返る。
下の階に住む住人の怒号を耳にしながら、振るう手は決して止めない。
壁に、窓に、床に、柱に。
目茶苦茶に暴れまわる俺に両親は直ぐに気付いたのだろう。
扉の向こうに気配を感じる。
心臓がバクバクと早鐘を打つように鳴り響き、胸が痛くなる。
内開きの扉を開き、父親が鬼の形相で駆け込んできた。
「オイごらぁ!!ポチ手前何やってやがん」
怒鳴るように声を荒げるが、この部屋に数歩でも入った段階で勝負は決まってる。
父親の背後に降りたスライムさんが『どくばり』を無防備な背中に一突き。
父親は最後まで言葉を喋りきる事も出来ずに白目を向いて、前のめりに倒れこんできた。
ピクピクと痙攣していたがそれもやがて止まり数秒もせずに動かなくなる。
俺は育ての親をひとり………殺した。
ソシャゲに苦しむ読者がこの小説で更に苦しむ、書いてる作者も苦しむ
Win‐Winな愉悦だね