Fate/ Beyond Reverie 〜 月と巨人の原典 〜   作:うさヘル

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第二十話 世界樹の迷宮 −the phantom atlas− (八)

 

天の闇はすべて道

 

 

黒々とした呪いの泥に飲まれつつある月下の元、そんな月へと続く泥の上を足早に突き進む集団がある。集団は四人の人間と一匹の黒猫から構成されていた。また、集団が進む泥の地面にはところどころに亀裂があり、裂け目があり、時には液状化している箇所がある。集団はそんな悪路を、しかしまるで整備された舗装路であるかのようにすいすいと素早く駆け抜けてゆく。

 

「おっと……」

 

やがて集団の先頭を突き進んでいた青色基調の軽鎧をまとった女性――パラ子は足を止めると、さっと左腕を上げた。先頭を行く彼女の挙動に応じて、後列に続く三人と一匹――ライドウ、メディ子、ガン子にゴウトも足を止め、視線をガン子の顔が向けられている先へと移す。

 

「うわ、また……」

 

そうして移した視線の先におそらくはパラ子の足を止めさせた原因――呪いを凝縮して作り上げたかのような頭部には巨大な二本の角となびく紫髪を持ち、顔面には七つの目を携えた、まるで悪夢を具現化したかのような魔物を見つけて、メディ子が小さく声を漏らした。声色からは、メディ子が目の前の魔物に対して、うんざりだ、という感情を抱いていることがうかがえる。それもそのはず、メディ子らはすでにこの魔物と先ほど交戦したばかりであるのだ。故にメディ子は、この悪夢のような見た目をした魔物が、この月の迷宮の中をうろつく魔物たちの中でも最上位に位置する厄介な敵であることを理解している。だからこそメディ子は、そんなめんどくさそうな声を漏らしたのだ。

 

「……あてっ」

 

そしてメディ子は、再び声を漏らす。声はガン子が片手でメディ子の背を叩いたことによって発生させられたものだった。メディ子は反射的に視線を自らの背を叩いた存在へと向ける。

 

「……ガン子?」

 

ガン子の視線には非難の意思が含まれており、それがメディ子を困惑させた。

 

「――……!」

 

メディ子は一瞬眉をひそめたが、瞬時に彼女をそうさせた原因に思い至ったらしく、自らの口を固く結ぶと己の両手で覆い隠した。やってしまった、という後悔の表情浮かびあがってくる。やがてメディコはそろりそろりと視線を魔物へとむけなおした。そうして再び魔物へと視線を移動させメディ子は――、

 

魔物の持つ七つの瞳が自らたちへと向けられているのを目撃する。

 

「や……、っば……」

 

メディ子は再び声を漏らした。額からはわずかに汗が一滴、顎下へと垂れ落ちてゆく。

 

「ゲギャ!」

 

応じるかのようにして、魔物は唇の端を吊り上げて三日月の形に歪ませる。魔物の態度からは狩るべき獲物を見つけたと喜ぶ悦楽の感情がにじみ出てきていた。

 

「……ごめんなさいっ」

 

己の失態が魔物の注意をひいてしまったのだと悟ったメディ子が、謝罪の言葉を発する。

 

「ギ……!」

「……くるぞ!」

 

もはや静寂を保つに意味はないと察したのか、魔物が声を発すると同時、パラ子は大きな声で自らの後列にいる全員に注意を促した。そして次の瞬間――、

 

「ギギ……!」

 

不気味な姿をした魔物の前方には、魔物とまるで同じ姿をした魔物が出現する。ライドウらは先の戦闘の経験から、その増殖した分身体が悪夢のような姿を持つ魔物自身となんら変わらぬ攻撃性能を持つことを知っていた。

 

「パラ子!」

 

魔物が自らの分身体を呼び出したのを目撃した途端、ガン子は先頭に立つパラ子へと声をかけた。

 

「あぁ!」

 

どうするのか。ガン子の呼びかけが己に対する行動の方針を訪ねる問いであると瞬時に悟ったパラ子は視線を魔物から外すと、素早く周囲を見渡した。パラ子の動きに戸惑いの様子はない。ライドウはそしてパラ子とガン子のそんなやり取りがこれまで何度も繰り返されてきたものであるのだろうことを悟った。やがてぐるりと眼球を動かして視線を左から右に至るまで動かし終えたパラ子は、一瞬だけ硬直したのちに口を開くと――、

 

「こっちだ!」

 

そう述べたのち、真横に体を向けなおして走り出す。パラ子の動きには一切の躊躇いがない。その行動は確信的だった。故にライドウらは彼女の後ろに無言のまま追従する。

 

「ギィ……!」

 

そんな四人と一匹の動きを見た魔物の分身は、同じようにして体の正面を真横――ライドウらと同じ方角へと向けると、ライドウらに遅れながらも疾走を開始した。

 

「師匠! 敵が――」

 

集団の中において最も後列に位置していたからこそ真っ先に気づけたのだろう、自分らに劣ることのない速さで疾走する分身体の方の魔物の姿を視界の端にとらえたメディ子は注意喚起の声を上げる。

 

「大丈夫だ! 心配ない!」

 

だがパラ子はメディ子の声に対して威勢の良い言葉で応じると、分身体の魔物やメディ子の方を振り返ることもなく疾走し続ける。パラ子の一連の動作や言葉は、自信というものに満ち溢れていた。

 

「……はい!」

 

故にメディ子はパラ子を信じた。メディ子は視線をパラ子の方へと向けなおすと、カバンの端からこぼれる糸が絡まないようすることだけに気を付けながら、疾走を再開する。そしてやがて集団と魔物が不安定な泥の足場を数十メートルも駆け抜けたころ――、

 

「ギーー」

 

パラ子らと距離を置いて並びながら疾走していた魔物は、突如としてその姿を消した。気配だけで魔物消失の事態を察知したのだろう、ライドウとゴウトは疾走しながら、視線を魔物の分身体が消えたあたりへと向ける。するとライドウとゴウトは自らたちと離れた部分、すなわち魔物が消えたあたりの位置が固まらずにある状態であることに気がついた。

 

「――これは……」

「いまだ蟲毒の呪いの固まっていない――、いわゆる毒沼のようになっている箇所、か」

「その通り!」

 

彼らの言葉を耳にしたパラ子は振り向くこともなく続ける。

 

「さっきの戦いのさなか、あの魔物の増殖した方の分身体は、能力こそ本体に劣らないけれど、なぜか動きが鈍かった! そこで私はずっと考え、そしてあの魔物の分身体が、あの毒の沼みたいな場所を避けて戦っていたことに気が付いた! だから私は思ったのだ! 詳しい理屈はわからんが、あの魔物はきっと、泥の溶けている部分が苦手であるに違いないとな! ……っと、曲がるぞ!」

 

解説しながら全力疾走するパラ子はやがて大きく体を傾けて左に曲がると、姿勢を正した後、再び疾走を開始した。追従して彼女の後ろを走るライドウらは、横目に分身体が失せたことを認識した魔物の本体が再び己の分身体を生み出す場面を目撃した。ガン子が口笛を鳴らし、メディ子は感心の声を上げた。二人が立てる音を耳にしたライドウはそして、彼女らの流儀に従って進むという選択が間違っていなかったことを確信し、喜びに口元を緩めた。

 

 

光の代弁者

 

 

一人先行して敵を殲滅するよりも、パラ子らの知恵と力を借りて迷宮を進む方が安全かつ効率が良いと気が付いたライドウとゴウトは、彼女らの力を借りながら突き進む判断を下し、彼女らとともに泥の迷宮を突き進んでいた。実際にしてパラ子らという冒険者たちは迷宮探索するにあたって、敵の察知に優れ、弱点を見抜くに長け、迷宮をうろつく魔物の中でも特に危険と思わしき敵の移動の法則性を瞬時に見抜くという、魔物うろつく迷宮を突き進むにとても優秀な手腕を持っている。

 

「お、この爛々と輝く宝石っぽいのがこの魔女っぽいのの条件ドロップっぽくないか、メディ子」

「ライドウさんが普通に一撃でぶっ倒した方は何にも落とさなかったのに対して、こっちのライドウさんとガン子さんが属性弾ぶっぱなして倒した方のは、落としましたからね。たぶんそうでしょう。魔法杖剣の柄の部分の結晶体が放ったスキルの魔力を吸い込んで輝きを増しましたから――、さしずめ充足の魔力晶ってところですかね」

「充足の魔力晶――、いいわね。いいセンスしてるわ、メディ子」

「ありがとう、ガン子」

「では恒例の――」

「じゃんけんですね!」

 

彼女らの迷宮の進み方は、ライドウが異界の迷宮の最奥に潜む悪魔を討伐するために進むやり方とあまりに違っていた。その違いはおそらく、ライドウが魔を討滅する悪魔召喚師という存在であり、パラ子らが冒険者であるという点にあるのだろう事を、彼女らが倒した魔物から素材を剥ぎ取る場面を見守るライドウは予測する。

 

「「「じゃーんけーん」」」

「ほい!」

「ほいっ!」

「……!」

 

悪魔召喚師であるライドウにとって、このように襲い掛かる魔物が潜む迷宮とはすなわち悪魔の生み出す『異界』に他ならない。ライドウが元の世界において挑む子の『異界』という名の迷宮は、異界の最奥に潜む悪魔の手によって生み出されるものだ。そうとも『異界』とは、人間の世界を居心地悪いと感じる悪魔たちが少しでも良い環境を求めて作り出す、魔の領域なのだ。そして悪魔は人間と異なる論理、倫理を持っている。故に悪魔の生み出す異界という迷宮は放置しておけばやがて現世に住まう人間にとって悪影響となるものが多く、だからこそ帝都の守護者であるライドウは、多くの場合において、基本的に異界を排除するように動く。

 

「あっ」

「お、師匠の一人負けで決まりですね」

「じゃ、今回のこれは私たちのものってことで」

「あ、あぁ、あぁぁぁ……! 私の宝石ー!」

 

無論、迷宮の主たる悪魔は自らにとって居心地の良い場所である『異界』を壊されたくない。だから迷宮の主である悪魔は多くの場合において討伐の意志を秘めてやってきた侵入者であるライドウを排除する方向で動き、ライドウが『異界』という名前の迷宮に足を踏み入れた途端、『異界』内の悪魔たちをライドウへと向かわせるのだ。

 

「うぅ……、これでもう十連敗……。――不公平だと思わないのか、お前らっ……!」

「いいじゃないですか。F.O.Eからの特殊ドロップはほとんど師匠が勝ち取ってるんですし」

「そうよ。貴女、あの、『増殖する悪夢』からとれた『悪夢の後髪』も、『栄耀の潜航者』からとれた『ひずみの球核』だって自分のものにしたじゃない。」

 

ライドウにとって『異界』という名の迷宮に存在するほぼ全ての悪魔たちは、大抵の場合においてライドウに対しての殺意と排除の意志を秘めている敵である。だからこそライドウは、迷宮の中において目に見える存在をすべて自らの命を脅かす危険な要素として判断し、そんな自らの命を脅かす要素を減らす為、基本的には見敵必戦と逢著便殺を常として心がけて行動するのだ。

 

「それはそれ。これはこれ、だ。どんなにいいもの手に入れたとしても、ほかの誰かが手に入れているのであれば欲しくなるし、私だけ手に入らない状態が続くとなれば悔しくなるのが人情というものだろう」

「うっわ、わがまま極まりない」

「度し難いわね、ほんと」

 

逢佛殺佛、逢祖殺祖、逢羅漢殺羅漢、逢父母殺父母、逢親眷殺親眷、始得解脱、不與物拘、透脱自在(/仏に逢うては仏を殺し、祖に逢うては祖を殺し、羅漢に逢うては羅漢を殺し、 父母に逢うては父母を殺し、親族に逢うては親族を殺して、 始めて解脱を得て仏となり、自由を得る)。すなわちライドウが迷宮を突き進む際の心構えは臨済が弟子に解いた教えに近いものがあるといえるだろう。ライドウにとって迷宮とは撃滅すべき対象であり、そこに存在するすべては敵に他ならないのだ。

 

「さ、阿呆なこと言ってる師匠はほっといて、さっさとしまっちゃいましょうか、ガン子」

「そうね。そうしましょう、メディ子」

「うう、傷ついた心にきつい言葉が染みる……。いいもん、私はほかの魔物から適当に素材を剥ぎ取ってくるから……」

 

だが冒険者であるパラ子らにとって、迷宮とは命のやり取りのみが全てを支配する決闘場ではないのだ。無論、それはパラ子たちが踏み入れる迷宮が、命を失う危険のないような場所でないという意味ではない。それはすなわち、パラ子たちの踏み入れる世界樹の大地の上にある迷宮――、すなわち『世界樹の迷宮』が、彼女たちにとって、あって当たり前の、生活圏であるということを意味している。

 

「この杖剣……はかさばるか。ううん、こっちの鉤爪も嘴もボロボロで大した値が付きそうにないし……、――――――――お……」

 

そう。すなわちパラ子ら冒険者という存在にとって迷宮とは、立合の場であると同時に、居合の場でもあるのだ。彼女たちは生きるために必要だから、あるいは、自らの好奇心を満たすために迷宮へと侵入し、迷宮の中を探索し、ある時は踏破にまで至る。冒険者である彼女たちにとって、迷宮を探索することこそが目的であり、踏破というものはその結果に過ぎないのだ。

 

「おーー、こ、これは……、ぎ、銀の……」

「ししょー。こっちは終わりましたよー」

「お、おぉ! そうか! 終わったか!」

「……なに、その不自然な態度。ねぇ、パラ子。貴女何か隠して――」

「さ、さぁ、ゆくぞ! これ以上一応これは世界の平和がかかった探索だからな! さっさと迷宮を突き進んで、迷宮の踏破を目指すぞ!」

 

ライドウは迷宮の踏破こそを目的し、彼女たちは迷宮の探索こそを目的とする。彼女たち冒険者にとって、迷宮の探索とは自らの人生を彩る香辛料に過ぎないのだ。だからこそ彼らは、迷宮より生きて帰ることを何よりも優先して行動する。だからこそ彼らは、こうも迷宮を効率的に探索する方法に長けており、未知なる状態に対する精神的耐性が高く、迷宮内での行住坐臥のすべての場面において常と変わらぬ態度を貫けるのだろう。

 

「あ、逃げた」

「あからさまね……。ポケットにしまい込んだ銀の棒みたいなのが怪しいけど……、まぁ、いいわ。確かに残された時間が少なそうのも事実だし、追及は後にしてあげましょう」

「しっかり追及はするんですね……。――あ、お待たせしました、ライドウさん、ゴウトさん!」

 

自らの名が耳朶を打った事に反応したライドウは、思考を中断させると足踏みをやめ、伏せていた顔を上げた。視線の先ではメディ子が先ほどまでのライドウの考察を肯定するかのような常と変わらぬ微笑みを浮かべている。

 

『なに、戦闘後、息と気持ちを整えるにはちょうど良い塩梅の休息であったよ。なぁ、ライドウ』

「――はい」

 

そんなゴウトとライドウの返事を聞いたメディ子は笑みを深めると、前方、パラ子の進んでいった方を指さして口を開く。

 

「ではいきましょうか。目指すはあそこ――」

 

メディ子の腕が上げられてゆく。指先はやがて泥に覆われつつある月を指さした時点で止まった。

 

「迷宮の最奥です」

 

ライドウは無言で首肯する。見届けたメディ子はにこりと笑うと、踵を返して先行して進んでいったパラ子のあとを追う。ガン子はすでにパラ子の後を追って走りまじめていた。ライドウとゴウトはパラ子、ガン子、メディ子に続き、疾走を開始する。ライドウらに倒された魔物は泥の中へと還ってゆき、後には静寂ばかりが残されていた。

 

 

限りなく希望に近い航路

 

 

やがてパラ子らの先導の下、泥の迷宮を順調に進んだライドウが数十回もそんなやり取りを重ね、もはや月の表面の寒々しい荒涼とした光景や地形の凹凸やまでもが肉眼ではっきりと判別できるようになったころ――

 

「――これは」

 

これまでずっと泥と毒沼ばかりが続いていた迷宮のさなかに突如として現れた人工的な造りの壁と扉を目撃して、驚きの態度を露わにした。常に固く結ばれている口元は珍しくぽかんと開かれている。

 

「たぶん、番人部屋ですねー」

 

そうしてライドウが知らない知識をさも知ってて当然であるかのように告げたのは、メディ子だ。

 

「――番人部屋?」

「はい。迷宮を進むと、だいたい――、五階おきくらいに階層の地形が一変するんです。例えば穏やかな森林の光景が突然樹海の光景になったり、あるいは突然海の中みたいな光景になったり、枯れた森みたいな光景になったり、そして――」

 

メディ子は前に進むと、部屋の扉の表面を軽く叩きながらライドウの方を向く。

 

「そんなまるで違う階層と階層を区切るかのように、階層の終わりにはこんな感じの部屋があって、その中には大抵番人と呼ばれる、その層の魔物の親分みたいな奴が潜んでいるんです」

『なるほど。異界でいうところの、主のような奴に相当するということか』

「えーっと……、たぶん……、そう、なの……、かな?」

「――はい。おそらくは」

 

ライドウはゴウトとメディ子の言葉を肯定した。そうしてライドウの脳裏には、これまで倒してきた異界の主の情報が浮かんでは消えてゆく。

 

「――メディ子さん。番人がその迷宮の階層の親分のような存在であるというのは本当ですか?」

「ええ。私の知る限りでは、たぶん、間違ってないと思いますが――」

「例えば、エトリアの迷宮一層、モグラや蝶みたいな森林に住まうような魔物が出現する階層の番人は狼みたいな魔物だったわ」

 

そうしてライドウの質問に答えたメディ子の言葉を継いだのは、ガン子だった。

 

「ハイラガードの迷宮の二層、炎を吐くトカゲや小型のドラゴンみたいのが多いところは、炎の魔人という、ぽっちゃり系のデカブツだったな!」

 

引き続きパラ子が答える。

 

「え、あ、そういう流れ……? えーと、って、私、アーモロードの迷宮の第三層の番人、知りませんよ!?」

 

どうやら彼女らの語った順番には何か法則性があったらしく、それに気づいたらしいメディ子は二人に続こうとしたが、しかし己が持つ情報では彼女らの話した基準に則った話ができないと気付いたらしく、メディ子はヒステリックな叫び声をあげた。パラ子とガン子はそれを見て笑うと、ライドウへと顔を向けてそれぞれに口を開く。

 

「ま、とにかく――、この月に続く泥の迷宮も、地上にある迷宮と同じような造りをしている……。魔物がいて、F.O.Eがいて、倒した魔物はそのうち消え、進んだ先にはこうして人工的な造りの壁と扉があり、行く手をふさいでいる。なら――」

「おそらく、この階層の親分的な番人が部屋の中にいるだろうことは間違いないはずだ。それがどんな魔物であるのかはわからないが、少なくともそいつを倒した先に月の最奥へと続く通路があるはずだ」

「――なるほど」

『敵を倒した先にしか道はない、と、つまりはそういうことか』

 

ゴウトはため息を吐くと、しかしすぐ様真剣な表情を浮かべなおし、口を開いた。

 

『まぁ、いつものことか。なぁ、ライドウ』

「――はい」

 

交戦を意識したことがそうさせたのだろう、言いながらライドウは帽子を深くかぶりなおした。そしてライドウはそのまま腰にぶら下げた刀へと手をやると、刀の位置を直し、さらには腰の反対側に装着されている銃のホルスターをなで、やはり位置を調整し、ついでに弾丸の装填を確認する。続けて胸や腰のベルトにある、いつもとは異なり、空っぽとなっているホルスターを撫で――、少しばかり残念そうな様子で、ため息を吐く。

 

『ライドウ……』

 

ライドウの心に湧き出た不安がどのような原因から生まれているのかを正しく理解できたのは、彼とともにこの世界にやってきたゴウトのみだった。

 

「――いえ、問題ありません」

 

しかしライドウはすぐ様に気を取り直してゴウトの問いかけに平気の返事を返すと、再び帽子の鍔を持ち、その位置を整え、パラ子ら三人を見渡して言う。

 

「――行きましょう」

 

三人は静かに首肯する。やがて扉の前にいたパラ子とメディ子は顔を見合わせると、その大きな扉を押す。二人の動きに呼応して、扉が開かれてゆく。やがて二つの扉の全面が完全に互いを見合わせるようになったころ、四人と一匹の集団は部屋の中へと足を踏み入れた。しばらくすると見計らったかのように、番人のいるという部屋の扉が閉じてゆく。そうして集団が部屋の中心に向けて少しだけ歩を進めたころ、扉は元の通りに閉じてしまい、ライドウらの退路を完全に断ち切った。

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