Fate/ Beyond Reverie 〜 月と巨人の原典 〜 作:うさヘル
光。
いつかあの部屋で見た時のような――
いつかあの満月の夜に見た時のような――
いつかあのあたらしい世界を初めて見た時のような――
そんな白い、光が――。
*
「――……っ!」
飛び込んできたその懐かしい光景を見て、眼を覚ます。すると失せたはずの体にはあらゆる感触が飛び込んできた。初めに違和感を覚えたのは目元だった。眠っている間に落涙があったらしく、耳元から頭にかけてまでが仄かに濡れている。湿気を拭うと、わけのわからない感傷に襲われた。胸打つ感覚に浸る間も無く、動かした手のひらと背中から、大地の温もりが伝わってくる。寝転びながら見る空は広く、白と青と薄紅の色彩が入り混じっていた。空気は澄んでいて、風は涼やかな熱を運んでくる。露わになっている顔を、柔らかい風が撫でてゆく。少しだけ乾いた風が頬に残してゆく微熱がなんとも心地よい。
「…………」
体を起こして地面に置いた手を動かすと、さらりとした砂の感触があった。すくい上げてみると、赤銅色の砂が指の間からさらさらと落ちて、手のひらに残った砂を風が攫ってゆく。やがて空になった手のひらには、ほのかな熱だけが残されていた。鼻腔を刺激するのは緑の香りで、聞こえてくるのは風の吹く音だった。体の内側へと染み入ってくるそれらの刺激はもう二度と得る事が出来ないだろうそんな感触で。
「なんで……」
思わず抱いたそんな疑問とともに辺りを見渡すと、そこにはまるで見覚えのない光景が広がっていた。はるか彼方に見えるのは、あまりにも巨大な赤褐色の山だった。その傾斜は緩やかで地平の果てにまで伸びているくせに、その頂きは天を貫くそんな勢いでどこまでも高く聳え立っている。斜度と裾野の広がりから推測するに、おそらくその標高は軽く一万メートルを超えているだろう。
立ち上がり、広大ながらも緩やかな山の稜線を辿ってゆくと、そこにはやがて鮮やかな緑が登場し始める。多くの葉は水のドレスをその身に纏っているのだろう。今まさに姿を現しつつある太陽に照らしあげられた森林はまるで自らの発育を誇るかのように、艶やかな薄青緑の光を周囲に撒き散らしていた。落涙を受け止めたかのように落ちた露に濡れた地面は、その誉れを叫ぶかのように、大地を濃く染め上げている。
だが、そんな彼らの激しい主張は、しかしさらに視線を横へと動かす事で、とるに足らぬものとなる。そうして視線を動かした先にあるのは、先程の山すらも勝るような勢いで天を貫くそんな巨木だった。繁らせた葉を輝かせて若々しさを主張する先程の彼らと違い、彼はそういった主張は所詮、自らの姿に自信の無いものが行う小手先の美に過ぎないと言わんばかりに、雄大な、あまりにも雄大なその長身にて、天と地との間に架け橋を作っていた。
「世界樹――――――……っ!」
太い幹の行方を追って天に聳える樹木の先端にまで視線を届かせると、天蓋を覆うようにして萌える梢には、足元に群がる小さきものたちの努力を嗤うかのように、澄んだ緑が煌めきをばら撒いている。天にまでその身を届かせたものの特権と言わんばかりに、天上にある千切られた雲の端々を衣として身に纏うその姿には、文句のつけようもない完全さがあった。もしも天にまで聳える樹木、という表現をそのまま絵にしようと思ったのならば、目の前のこれをそのまま写す以外にそれを実現する方法などないだろう。
それはまさに概念図だった。微塵ほども誇ろうなどという気がないくせに、存在するだけで他の全ての樹木の価値を自ずと一つ下げてしまう。そんな巨大な樹木の纏う完璧という名の芳香に惑わされるかのよう視線をさらに上へと伸ばしてゆくと、視線がその頂きにまで到達した瞬間、天空に夢幻の如き光景を見つけて、絶句する。
「月が……、二つ……」
思わず、呟いた。微かに赤みがかった空には、大小二つの白円が薄っすらと浮かんでいる。古くは人がまだ猿であった時代から人間の営みを優しく見守っていたはずのそれは今、それらとなりて、星々の煌めき散りばめられた天の座に行儀よく端座していた。覚醒しかけていた脳が再び幻想との狭間へと引き戻されてゆく。
「ここは、いったい……」
うわつくような、地に足つかないような、そんな夢見心地の気分で天に視線を彷徨わせていると、やがて世界樹が身に纏っていた雲に隙間が生まれた。そうして生まれた狭間から落ちた一条の光は、大地に向かって真っ直ぐと伸びてゆき、やがて大地を穿っている。生まれた光の槍に導かれるようにして視線を落としてゆくと、大地に突き刺さった光の中に、それまでの桁外れと比するにはあまりにそぐわない、ささやかな、しかしとても見覚えのある、故に心を落ち着かせるような光景を見つけ、再び思考が停止した。
「街……」
いつのまにか強化していた視線でその場所を眺めると、自然の猛威に負けるかとの思いが意匠されて作られているその建造物の数々が飛び込んでくる。赤褐色と茶色ばかりが目立つその色合いから察するに、建物はおそらくは木材や砂を固めた日干しレンガで作られているのだろう。また、さらに目を凝らせば、大地を開拓し、その隙間を縫うようにして生まれたのだろうそれら建造物と建造物の狭間には、細々と動く線のような存在があることに気が付ける。
「人……」
街の中を多くの人が行き交っている。それは現実の地球という場所であるならば無論、別段、珍しい光景では無い。例えどんな場所だろうと、人というものは群れて協力し合いながら生きてゆく生き物だ。だから、それは別に驚くべき事ではない。――だが。
「獣……人?」
そうして行き交う人々の頭には、獣耳が生えていたり、あるいは背中に翼を生やしていたり、あるいは、頭にツノを生やしたい獣のような見た目の存在が二足歩行で歩いていたりという光景は、間違いなく驚いて然るべき光景であると言えるだろう。往来には他にも、子供としか思えない体躯の、しかし大人びた態度をとる人型の者がいたり、あるいは二足歩行のロボットが平然とそこに混じっていたり、耳だけが尖っているような人間がいたりと、千差万別という言葉を現実にしたかのような光景が広がっている。
「いったい……」
かつてあった幻想のお話をそのまま現実へと持ってきたかのようなそんな光景を前に、だからこそだろう、頭の中にかかっている靄が晴れてくれることはない。故にそれはおそらく、同類を求める人間の本能がさせたことだったのだろう。晴れやかな空の下、しかし幻想の霧中を歩くようにして、体は人の営み行われている場所へと向かってゆく。
*
まるで白昼夢を見ているようだった。
「――!」
「――、――、――――!」
「――!?」
「……――」
街中から聞こえてくる言語はどれも聞き覚えのあるものばかりだ。日本語もあれば、英語もある。中国語特有の間延びしながらもテンポの速い声が聞こえてきたかと思えば、ドイツ語の何処か重苦しいような感じの音声もそこにはあった。もしもこの耳に飛び込んでくる雑多な音声だけを切り取ってこの街の視覚情報一切を持たない自分自身に聞かせたのならば、国際色豊な発展を遂げた都市の何処かと答えたに違いあるまい。
だが平時ならば言っていただろうそんな答えをつまらないと否定するかのように、視界の中には異様としか言えない光景が広がっている。雑踏、行き交う人々の姿は、それこそまさに様々だ。仲良く談笑しながら歩く二足歩行している人型の兎や牛の姿があったかと思えば、兎の耳や犬か猫のだろう耳だけを頭に生やした男女が仲睦まじく喧嘩している姿がある。自らの体躯ほどもある棺桶を二つも自身の周囲へと浮かせているほぼ裸身の顔色が悪い少女がいたかと思えば、その背に寝っ転がった青年を乗っけたパンダが対して広くもない道を悠々と歩いてゆく。
そこはまさに混沌の坩堝だった。もしも周囲の建物に規則正しい法則性がなかったのならば、今自分は、間違いなく夢を見ているのだと思い込んでいたに違いない。だが、そんな混沌とした彼らという存在が集って作り上げたのだろうこの街において、そんな彼らが当たり前のように店前に立ち、商売活動に勤しんでいるという事実が、目の前の現実を夢として片付けさせてはくれずにいる。
何か一つ、自身の身につけている常識で解せるような光景があれば動いてくれるだろう頭は、しかし、いつまでたってもそのきっかけを得られないが故に、未だまともに動かない。だから夢見心地がいつまでも終わらない。そうしていつまでたっても現実感を得られないままに街の中を歩いた。夢見心地に酔う中で、さらに陶酔の心持ちを加速させたのは、街中にいる彼らの目には余さず不屈の光が宿っているという事実だった。
街中はお世辞にも綺麗と言い難い環境だった。街の端の方には環境に過酷な対抗した証なのだろう崩れた建物の多くが手付かずの状態で放棄されている。頻繁に砂嵐でも吹き荒れる環境なのか、街の全体は何処か埃っぽさがあった。井戸に加えて、貯水タンクがあちらこちらにあることから察するに、豊富に水を使えるような環境でもないのだろう。努力を無駄と嘲笑うかのように、舗装路を砂が覆い隠している部分も少なくない。建物は多くの礫を受けたためか細かな傷が目立っている。高台の方まで来ると、街のすぐ近くには砂の海が広がっている。街ゆく人の中には、髪が砂で固まっていて、櫛も通せそうにないような状態の人も少なくなかった。
けれど。
けれど、それでも、街を行き交う人の中に、倦怠や絶望の色はない。生活の端々に不便を強いられた痕跡を見つけられるにもかかわらず、それでも、その瞳のうちに闇のようなものを宿していないのだ。誰もが生きたがっている。誰もがこの過酷な環境下の中で、しかし笑って暮らしている。誰もが迫り来る障害などに負けてたまるかという負けん気を宿している。誰もが生き抜いてやがて何かを成し遂げてやるという、そんな気概にあふれている。まるで、自分にとって夢のような光景が目の前には広がっている。だからこそ未だに、これを現実の光景として自分は受け入れられていないのだ。
階段を登り、細い路地を歩き、高台の公園にあったベンチに腰掛ける変化した世界を眺めながら、改めてなぜと思う。息を吐くと、臓腑の底から吐き出されたような溜息が舗装された道の上に落ちて広がってゆく。見て回った街の作りは中東から東欧、砂漠の乾燥地帯によく見られる家の作りをしていた。纏っている服はまともなものから頭を疑うようなものまでバラエティにこそ富んでいたが、大まかに地球という星の過去において流通していたものや、エトリアという未来の世界において冒険者と呼ばれる彼ら達が纏っていた服の意匠と、多数の共通点を見つけることができる。何より、街をゆく彼らの顔にあるあの希望に満ちた瞳こそが、この場所というものがかつて自らが願いと聖杯を託した世界の人々の手によって生み出されたそんな場所である可能性が高い事を示している。
だが、だとすれば、なぜ自分という存在がそんな世界に存在していられるのかがわからない。人間の歴史というものは模倣と積み重ねの連続だ。だからこそはじめの一歩たる原点に悪意や不信が多く記されてしまっていれば、その後、模倣と積み重ねによって得られる全てのものに、その悪意や不信が受け継がれていってしまう。
人という種族は森から出ていった猿が楽園を求めて平野に進出したが故に生まれた種族である。かつて多くの人は、猿が森を出て行ってたきっかけが、猿が縄張り競争に負けたが故に追い出されたという消極的な理由にあると信じていた。無論、未知を求める自らの好奇心によって突き動かされたが故に、猿は森から自らの足で出て行ったのだという積極説もあった。しかし、多くの人は前者の説の方こそ正しいものであると支持していた。彼らは、そんな猿の気質こそがもっとも人間らしいと主張し、信じていたのである。
思うに、人類の祖先にはどちらも存在していた。そして縄張り争いに負けたが故に平野へと進出した猿であると主張する彼らは、そんな猿たちの気質を色濃く受け継いだ人たちである、そして、後者の説を信じる人々は、自らの好奇心を満たすため、勇気を出して安楽の地から一歩を踏み出た猿の気質を受け継いでいた。平野に出た猿は多くいて、それぞれ個体によって様々な事情はあっただろうが、その多くは多分、消極的理由に追い出された猿だった。自らの足で安楽の土地から出て行ったのは、ほんのわずかな数だけだった。
がその差が。勇気を持って恐怖を克服し、困難を打破した事があるか否かという経験の差こそが、両者の思考の差異を生み、やがて自己と他者を不信する種となってしまう。そしてそれはやがて、自己と他者との間の隔絶となり、戦争を引き起こす火種や、悲しみの連鎖を生む種となりかねない。
だからこそ、全ての人が自分を信じられるよう、はじめの一歩をつまづかないよう、力を貸す存在になろうと、考えたのだ。そうなるための手段は揃っていた。そうなれるための力は自分の中に蓄積されていた。自分がそうして人々を奮い立たせた後、人々が世界を自分たちの思い通りにするための手段だって、用意されていた。
もうこの世に絶対的な力を保有した誰をも助けられる正義の味方など必要ない。だってもうこれからは、全ての人が誰かのことを気遣いながら、しかし自分だけの正義/幸福を追求してゆけるそんな時代がやって来る。少なくとも衛宮士郎は、自らの行動の先にそんな未来が待ち受けているはずだと、そう信じた。だからこそ衛宮士郎は、自らの存在を幻想の中に還す事を選択したのだ。
はじめに自分の力で、自分の体で、何かを成し遂げたという事実こそが、やがて自らが自らの足で生きて行く為の自信となる。そしてまた、誰かの力を借りてそれを成し遂げた人は、必ず自らが受けた恩を他の誰かに返したくなる。人間とはそういう生き物だ。誰かのためではなく、他でもない自分のために、困っている誰かを救い、過去の自分が出来なかった事を自分は出来るようになったのだと、自分の力で自分を救いたがる、そんな生き物だ。
だからこそ自分は……。ああ、なのに、なぜ。
――やめよう
疼痛に気付けば自分がいくら考えようと答えの出ない迷宮に迷い込んでいた事を自覚させられる。痛みを振り払うために頭を振ると、視界が軽く漂白されていった。眩さに耐えかねて閉じていた瞳を一度軽く開いて宙を彷徨わせると、気が抜けたのか息が虚空へと逃げ出してゆく。空気に溶け、やがて沈殿して行った吐息の行方を追って視線を地面に向けてやると、先ほどよりも影がだいぶ短くなっていることに気が付ける。見上げれば空はもう太陽がその頂へと到達しかけていた。どうやら自分は二時間ほども無為に時間を過ごしてしまったらしい。休まらない気と不思議な感覚に急かされるよう立ち上がると、再び目の前に広がる幻想入り混じる雑踏の中へと身を投じてゆく。
結論を出せなかった故だろう、未だに頭は重く、霞がかっているかのような気分から抜け出せずにいる。自分の存在している場所が何処であるのかはっきりとしないという事実が緊張を継続させ、神経を張り詰めさせていた。せめてこれが衛宮士郎という存在が消える寸前に見ている走馬灯の如き幸せな夢なのか、あるいはなんらかの理由で現実に呼び出されてしまったのかがわかれば違うのかもしれないが、あいにくとそれを判断するにはあまりに材料が足りていない。故にその判断材料を探すためにこうして街中を歩いているわけだが、あるけどもあるけども見つかるのは夢現の判断を惑わせる材料ばかりで、判定の助けとなるものは何も見つからない。
ボケた頭で観察と考察を繰り返しつつの作業は集中と精神を削られる。思考を巡らせる程に、外界へと気を配る余裕が失せてゆく。一秒後にこの世界が瓦解してしまうかもしれないなどという不安と戦っているのは、この街でおそらく自分くらいのものだろう。誰も彼もが幸せそうな顔をしてゆく中で、自分だけが眉をひそめて不機嫌顔を浮かべている光景を幻視して、やはりこの世界は自分がいるべき場所ではないのだろうという思いを抱かされる。あれほど焦がれていた心地よいはずの世界に、しかし自分だけが馴染めていないという事実が、進む足の速度をあげさせていた。馴染まぬ自分との接触でこの理想の世界が崩れてしまわないだろうかという気分にすらなってくる。そうして他人と接触を避けるので精一杯だった自分は、やがて人の波に乗せられていることに気がついた。
さて自分はどこへ向かわされているのだろうと考えた途端、自らの足が向かっている場所の情報を鼻と耳で知ることとなる。雑踏の賑わいの中から香ばしい匂いが漂ってきては、鼻腔をくすぐってゆく。朝方から何も腹に入れていないせいだろう、途端腹の虫がざわつき始めていた。このような時でも腹は減るのだな、と、不意に訪れた現実の刺激に苦笑する。そういえばもう、時刻は昼過ぎだ。ならば人の流れがその区画に向かっているのも、そんな人の波の行方に身を任せていた自分がそんな場所にたどり着く事は当然のことだったと言えるだろう。
「飲食街、か……」
あたりには出店や店先で買った品物を咀嚼する人々が多くいた。この脳髄と腹を刺激する匂いはこれらの何処かからやってきた匂いなのだろう。
「……うん?」
はしたなくも鼻をひくつかせていると、気がつけばある店の前で足を停止させられる。それはなんとも覚えのある匂いだった。匂いはどうやら煙に乗ってやってきているようである。意識の一部を掠め取ったものの正体を確かめてやろうと店の方に目をやるも、煙を発しているの正体が何であるかは掴めない。煙は排煙パイプと店外販売用のスペースを隠す遮光カーテンの隙間から漏れ出していたからだ。店の入り口に目をやれば、仕込み中、との文字が書かれている。稼ぎ時の昼に店を開けていないところ見るに、夜にのみ営業する店なのかもしれない。
「……」
などと考えつつ、気付けば閉じられていた扉を押していた。それはほとんど反射だった。カラン、カラン、と、小気味のいい音が鳴り響く。足が店内へと入り込んだ瞬間、己の行為が冷やかしと呼ばれるそれ以外の何者でもないことをすぐに気がついた。だって自分は無一文だ。全身はいつもの格好だが、自分はそれ以外に何も持ち合わせていないのだ。投影魔術を用いれば金銭くらい用意出来なくもないが、そんなズルをするほど自分は落ちぶれているつもりもない。
「飲み屋……、かな」
入り込んだ店はバーと焼き鳥屋を合体させたかのような場所だった。店内は広く、数十のテーブルと、百数十はあろうかという椅子が並んでいる。右手にあるカウンターの奥の棚には酒瓶が所狭しと並び、窓の方まで続いていた。続いた棚の先、入り口近くにある煙窓の方には、酒の劣化を防ぐ光除けなのだろう、黒い遮光カーテンが取り付けられている。煙窓と遮光カーテンの間には少しばかり狭い空間があり、そこはガラスで店内の客と接しないような工夫がなされていた。多分は煙で客を不快にさせないための仕組みなのだろう。
また、ガラスと遮光カーテンとで仕切られたそんな狭い空間には、音を立てる炭の入った箱がいくつか並んでおり、その上には鉄網が並べられている。熱を帯びて多少赤を帯びた網の上には木串に刺さった動物の生肉が数本並べられており、炭による遠赤外線効果にて、弱火でじっくりとその身を燻され続けていた。
――火を使っているのに現場を離れるとは、なんとも不用心な……
「……!」
などと余計な世話を考えていると、ドタドタと店の奥から足音が聞こえてくる。足音は忙しく、焦りが感じられるものだった。ベルの音に営業時間を間違えた愚か者の存在に気付いたのか、あるいは不測の事態で火元から離れざるをえなかった故に急いで戻ってきたのか。あるいはその両方なのかもしれない。
考えている間にも重苦しい音は近づいてきている。その大地を鈍く揺らすような音は、そうして急ぎやってくる誰かの体重が一般よりも重たいという事実を如実に表していた。客に料理を提供する飲食店の店主というものが、気付けば味見と不摂生、そして乱れた食生活という暴挙を繰り返し、結果として見た目も重量もふとましいものとなるのは、決して珍しいことではない。おそらくこの店主もその類の一人なのだろう、と、勝手に想像を膨らませると、恰幅の良い人物がこの店の主人なのだろうと、顎に手を当てて目を閉じながら、さらに勝手に想像の中で店主の姿を更新した。
失礼極まりない推測を重ねていると、足音はもうすぐそこにまで近づいてくる。さて、どうするか。どうせ自分は金を持っていないのだ。ならば彼がくる前に店を出てしまってもかまわないだろう。……とも考えたが、しかしこのまま出て行ってしまえば店の主人がさて先ほどのやつは何の目的だったのだろうかと疑問を抱き、心に不審と余計なわだかまりを抱えてしまうかもしれない。あからさまにこちらの不手際で相手に不快な思いをさせるというのは、いかにも失礼というものだ。ならば店主にこちらの不手際故に余計な手間と苦労をかけさせたことを素直に謝るというのが最も適当な対応というものだろう。
「すまん、待たせ、た……」
対応の方向性を決定すると男はすぐに姿を現した。だが様子がおかしい。出てきた男はこちらの顔を見て絶句しているようだった。
「いや、こちらこそ、勝手に申し訳――」
ともあれ非礼を詫びようと、閉じていた目を開け、顔を正面へと向けると、暖簾を払いのけて出てきた男のその見覚えのある顔と体つきを見て、こちらも絶句させられる。
「な……――」
「な……――」
奇しくも最後に発した言葉はまるで同じものだった。
「へ……、イ……」
「エミ……、ヤ……」
目の前に現れたそれが現実のものとは信じられぬと言わんばかり、互いに視線を上下に動かして相手へと這わせてゆく。動き回り視線は、しかし絡み合うことなく、互いの体の上を動いてゆく。虹彩から入ってくる情報は奔流となり、互いの脳裏を麻痺させ続けていた。
――ぱちん
「あ……」
「お……」
沈黙の払拭は第三者の手によって行われた。音の出どころへと視線を移動させると、加熱された網の上では串に刺さった肉が煙を上げながら滴る血をその身の上で踊らせていた。時を動かす刺激が全ての契機になったのか、煙を逃していた窓からつよい風が吹き込んでくる。開いている入り口と煙窓から飛び込んだ風は煙を巻き込みながら、部屋の中を自由闊達に駆け巡ってゆく。
――ぐぅ
緊迫の解けた空間に、間抜けな音が鳴り響いた。風に撒き散らされた香ばしい匂いが、鼻腔から飛び込み、脳裏を刺激したのだ。互いの視線は同じ場所で合流したのち、やがて真正面からぶつかり合う。目線の交流はしかし、すぐさまヘイという男の動きによって終了した。
ヘイはそして呆然とした表情のまま店内のカウンターに入り込むと奥へと進んでゆく。そして彼は黒の遮光カーテンを潜って小部屋へと入り込むと、適度に焼け終えた木串を皿に移して横の机の上に置いた。ぷちゅん、と、肉が弾けて、汁が皿の上に広がってゆく。ヘイはそして見た目だけで味が良いことを相手に察せさせるその串肉のうちの一本をトングで掴むと、再び遮光カーテンを潜り抜け、カウンターの中の向こう側から木串の持ち手をこちらへと差し出してきた。
「――はいこれ」
既視感のある光景が、夢現の中にあった意識を覚醒させてゆく。
「金はない」
思い出せば、初めてエトリアという街にやってきたときもこんなやり取りをしたものだ。
「いらんよ」
あのとき、彼という人物と出会わなければ、衛宮士郎/エミヤシロウという存在は、エトリアという街で冒険者になることを目指さなかったかもしれない。
「借りでも売る気か?」
互いの間で交わされる言葉はあの時のままだ。
「いや」
けれど、お互い、これまで積み重ねてきた経験が。
「少しでも借りを返したておきたいのさ」
その結末を、かつてものもとは違うものとする。
「――なら、遠慮なくいただこうか」
借りとは何か、などと、無粋なことは尋ねない。生きるということは誰かに借りを作るということと同義だ。そしてたしかに自分は、たしかに彼に多くの貸しを作っている。また、借りを本人に返せないことの辛さというものを自分は痛いくらいに知っている。
「ああ」
差し出されたそれを手に取ると、迷わずかぶりつく。歯を突き立てると肉はするりと噛み切れた。切断面から汁が飛び散り、口の中で跳ね回る。熱を帯びた肉から伝わってくる感触と、肉から漏れ出した煙の微熱が鼻腔を擽ってゆくその連携が、なんともたまらない。
「突撃イノシシの肉だ。樹海牛とは違って多少臭みはあるし、そのまま焼けば暴れ野牛よりも味は劣るが、香草でカバーしてやればエゲツないその香りはなんとも言えない野性味溢れた味になる」
刺激に意識が夢から引き戻されてゆく。彼の腕前はあの時よりも格段に上がっていた。そんな些細な変化が空腹以上に幸福を呼ぶスパイスとなったのだろう。気付けば握っていた串に刺さっていた肉は、全て腹のなかに収まっていて。
「ご馳走さま」
「ああ。お粗末様」
いつぞやのように口について汁を手のひらで拭い、空になった串をくるりと回して先端の向かう先を天井を彷徨わせると、ヘイはトングでカウンター客席側にある小さなペンケースのようなものを叩きながらいう。多分それは串入れなのだろうと判断して、手にしていた空の串をその中へと放り込む。するとからん、と小気味のいい音を立てて、串は長方形の箱の中へと収まっていった。
「さて……」
空腹が収まった途端、現実感が湧き上がってくる。腹の減り具合と血の巡りというのはやはり脳と密接に関係しているのだなと、酷く間抜けな感想を抱きながら店の中へと進むと、レジの向こうにいるヘイへと視線を向けてみた。
「ええと……」
話すべきことはたくさんあるし、聞きたいことも山ほどあるのに、何から聞けばいいのかがわからず固まってしまう。ここはどこなのか。あの後どうなって、君はどんな経緯を辿ってこの飲食店の店主などをやっているのか。他のみんなはどうしたのか。行方を知っているのなら、聞かせてもらえないだろうか。さて、どれから尋ねるのが最も適当だろうかと考えていると――――――
「あ、ちょっと待ってくれ、エミヤ」
こちらの思惑を態度や顔から察したのだろう、カウンターの向こう側にいるヘイが思考を中断するよう告げてくる。彼はカウンターの下から一本のワインボトルを取り出すと、それをカウンターの上においたのち、豪奢な装飾のなされた黄金のグラスをいくつかカウンターの上へと追加した。
「それは?」
ヘイという男のイメージに合わないグラスと酒瓶を前に、浮かんできた疑問を素直に呈する。
「いや、もうそろそろ戻ってくる筈なんだよ」
そして彼が首を傾げた途端――
「あー、もう、ムカつくわね!」
背後で扉が荒々しく開かれ――
「常連なんだから、少しくらいおまけしてくれてもいいじゃない! そう言うサービスの有無が太く長い常連客の有無を生むってのに、これだから商売っ気のない奴は!」
「――」
心を射抜くような叫び声が聞こえてきた。どれほどの時が経過しようと忘れ得ぬその声は心にあった全ての混濁の思いを吹き飛ばして、歓喜と歓喜と歓喜の感情に塗りつぶしてゆく。優先順位が瞬時に書き換わる。先ほどまであれほど消滅を望んでいた思いは、現金なことにもう何処かへと行ってしまっていた。
「って、あら? お客――」
背後から聞こえてくる声が途中にて停止する。息を呑むそんな音が聞こえてきた。彼女がどのような顔を浮かべているのかなんて、振り向かずとも理解ができる。当然だ。なにせ自分と彼女との間には特別なつながりがある。この身の元となった肉体はかつて彼女と夫婦の絆で繋がれていたし、この魂はかつて彼女と主従の絆で繋がれていた。肉体も、魂もが、かつて彼女と共にあったのだ。ならば顔なんてみなくとも、声色一つで彼女の思いを察することが出来なければ嘘と言うものだろう。
「――、―――――、――」
口を開こうとして、しかし閉じ、しばらくしては、また開き。唇を開いては閉じ、閉じては開くその小さな音が、外で聞こえる雑踏の音などよほど大きく聞こえてくる。鼓動は馬鹿みたいにはやくなっていた。彼女は先ほどの私と同じように、言うべき言葉を探して倦ねている。そんな葛藤がなによりも触媒となって、心から溢れ出んばかりの感情を引き出してゆく。そんな極まった感情を抱いているのは彼女も同じらしく、それ故にいつまでたって会話が始まる様子は見せなかった。
「ま、色々と話したいことはあるだろうし、口を挟むのが無粋だってのもわかるんだけどさ」
そんな正面を向き合わないお見合い状態を見かねたのだろう、ヘイはひどく申し訳なさそうな声色でそう告げてくる。
「消えた奴が帰ってきたんだ。なら、最初に言うべき言葉なんて、あれ以外にありえないだろう」
「――そうね。その通りだわ」
そして凛は決心した様子で、ヘイに軽く頭を下げると、向き直って前に進んできた。心臓は壊れそうなくらいに高鳴っている。緊張で神経が潰れてしまいそうだった。すぐに振り向いて彼女の顔を見たい気分になったが、それをするにはまだふさわしくないと自分に必死で言い聞かせる。彼女はきっと、今、目の前の男のために、自らの顔を最高のものへと作り変えている最中だ。なら、それを待つのが、それに相応しい最高のタイミングで最高のものを返すのが、男の甲斐性というものだろう。それを語るに落ちるような無粋で穢すような真似だけは、絶対にできないと思っていた。
「……よし」
やがて準備が終わったのか、小さく彼女が呟く。それだけで鼓動は最高潮に達していた。唇が枉がっていくのを止められない。すぐあと、やがて訪れるその時が、こんなにも待ち遠しい。焦るべきことでも、慌てるべきことでもない。だが、急く思いは、まだかまだかと、その時が来るのをこんなにも待ち望んでいた。
「アーチャー」
やがて聞こえてきた声に、心臓が大きく一度脈動する。鼓動は血管が破れてしまいそうなくらいに早くなっていた。振り向いたその先にある顔を予測して、少しばかり躊躇する。本当にこの身にそれを受け取る資格があるのだろうかというそんな間抜けな迷いが湧き出てきたのだ。だが、そうして過去に培ってきた臆病の中より湧き出てきた身勝手な思いを、背後にて彼女がその時を望んで待っているという事実にて思い切り打ち砕くと、以前とは異なる自分のなったのだということを見せつけるべく、彼女が自分を選ばなかったことを後悔するくらい、彼女が浮かべているだろう顔に負けなくらいの笑みを浮かべて、勢いよく振り向いた。
「ああ――、なにかな」
そして見つけたその顔に、思わず見惚れてしまう。その落涙は美しかった。その枉がった唇は麗しかった。その緩んだ頬は優しかった。その光の中にある笑顔は、これまで見てきたものの中で、最も美しく、無垢で、素晴らしいものだった。
「おかえりなさい」
そのたった一言には、遠坂凛という女の全ての思いが込められていた。世界の全てが衛宮士郎という存在を拒もうが、自分だけは決して貴方を拒まないという、そんな慈愛の思いに満ち溢れていた。それは自分という存在の居場所が世界に存在しているという事実が、こんなにも人間の救いとなってくれるという証明以外のなにものでもなく。
「ああ……、ただいま」
だからこそ衛宮士郎/エミヤシロウは、エミヤシロウという存在が出した答えを肯定するかのような最高の答えをくれた遠坂凛に対して、万感の思いを込めた、今の自分にできる最高の笑顔で彼女の言葉に応答する。
「アーチャー!」
この自らが存在してはいけないはずの世界に、しかし自分の居場所を見つけた男の笑みは、目の前の彼女の顔をさらに美しく彩る材料となり、彼女は最高の笑顔で、泣きながら思いっきり破顔した。
*
「そして最後に切嗣の声が聞こえたと思った次の瞬間、気付けば、この世界にやってきていたと、いうわけだ」
「ふぅん……、なるほどね……」
再開の挨拶を終えたあと、カウンターの前の席に二人並んで座り、そして彼女に自分がこの場所に来るまでに辿った全ての事情を話すと、彼女は神妙、かつ納得したといわんばかりに首を数度縦に振る。
「ふむ……、何かわかったのかね、凛」
どうやら彼女には世界を守る守護者として消えていくはずだった私がこの世界に呼び出された理由を理解したらしい。
「え? アンタはわからないの、アーチャー。――――――ああ、なるほど、うん、まぁ、アンタはそうかもね」
「凛?」
そう判断して尋ねると、彼女は心底驚いたという顔を浮かべた。しかしすぐのちに、つくった拳でもう片方の手のひらを叩くと、意地の悪い笑みを浮かべながら、口を開く。
「ね、アーチャー。貴方、子供って持ったことないでしょう?」
そして突然飛んできたその質問に、思い切り首を傾げさせられた。
「それは……、その通りだが……」
困惑しながらも、当然の答えを返す。そうとも。アーチャーに至ったエミヤシロウに子など存在しない。だってそんな日常の延長線上にのみあるものを、万人にとっての正義の味方などという非日常の存在を目指していたエミヤシロウが手に入れられるはずもない。
「うん、そうよね。だから、まぁ、それはアンタにわからなくてもしょうがないことなのよ」
凛はそして満足したように頷く。そうして凛は、したり顔を浮かべてこちらの方へと視線を送ってきた。そうして彼女が浮かべたその顔はなんとも言えない感情を心の中に呼び起こし。
「凛。その答えがわかるというのであれば、意地悪しないで教えてもらいたい」
気付けばこの口は、そんな質問を飛ばしていた。こちらとしてはその質問の答え如何が、この世界とそこに住まう人々が今後も不自由なくやっていけるかどうかに直結しかねないものである。故にそれは真剣な思いから生み出された質問だった。
「ぷ……、あ、あは、あははははははは!」
だが凛は、アンタがそんな真剣な顔浮かべてこんな問いの答えを聞いてくるからいけないのだと言わんばかりに、腹を抱えると、大きく、明るく笑いだす。
「凛!」
その暗い感情が一切秘められていない太陽のような明るい笑いには、見たものを見惚れさせるほどのものであったが、真剣な思いからでた質問に対して返ってきたその茶化すような態度を流石に見過ごしておくことができず、思わず語尾を強くして彼女の名を呼んでしまう。
「ああ、うん、ごめんごめん……。――、えーっとね、アーチャー」
すると凛は、涙腺に浮かびつつあった涙を指で拭うと、仕切り直しと言わんばかりに大きな咳払い一つ漏らしたのち、柔らかい笑みを浮かべながらいった。
「貴方が今回、命を捨ててまで、この世界の人々のために尽くしたのはなぜ?」
「――何?」
質問の意図が掴めず聞き返す。
「凛。君はいきなり何を……」
「いいから答えなさいよ、アーチャー」
だが凛はこちらに答えを出せと詰めてくる。その態度には有無を言わせないわよ、といわんばかりの迫力があった。
「――私がそうしたかったからだ」
故に、湧き上がってきた答えを素直に口にする。
「それはなぜ?」
「なぜ……、って、それは私が正義の味方を目指していて……」
「困っている人を、死にゆこうとしている誰かを見逃せないから。――そうでしょ?」
そして凛は私の言葉を横取りする。
「凛」
わかっていながら答えを問うた凛の意図がまるで掴めなかった私は、思わず文句を口にしようとする。
「それと同じようなものよ」
「え?」
だが凛は、やはり私の問いなどわかっていると言わんばかりの態度で、さらに言葉を続けた。
「もちろんアンタのそれよりはもっと限定的だけどね。――ねぇ、アーチャー。親ってもんはね。自分の子供には、自分なんかより長く生きていて欲しいし、なんなら自分なんかよりも幸せになって欲しいものなのよ。ましてや、自分の子供が喜んで命を投げ出そうとしているのを、のうのうと笑顔で見守る親なんていやしないわ」
「――」
「そりゃ話を聞く限り、世界が、人類が必要としていたのは、アンタが手に入れた神の如き力だけで、アンタの心とか体とかは不要だったのかも……、とか、いくらでもいろんな理由は考えられるわ。でも、こう考えるのが一番スマートで、一番綺麗で、一番、貴方にとって救いがあるんじゃないかしら?」
凛はそうして先ほどのそれより勝るとも劣らない華のような笑みを浮かべながらいった。
「人類の中にあったという、過去の英霊たちの記憶。それを保有していた人々が溶け込んだという蠱毒の泥の中には、正義の味方になろうとしてでもなれなかった衛宮切嗣という男の記録もたしかに含まれていて、そんな彼は自分の子供である衛宮士郎が世界やそこに住まう人々なんかのために命を投げ出そうとするのが許せなかった」
その小さな口から出てきた言葉はしかし、衛宮士郎という男の体にこれ以上にないくらい染み入ってきて。そんな溢れる想いを受け止めきれなかったせいだろう、気付けば涙が頬を伝い、落ちていた。落涙が机の上を叩き、小さな音が一つ二つと広い店の中に鳴り響いてゆく。木の板に焔よりも熱い想いが染み込んでゆく。カウンターの奥からわざとらしいくらいグラスを磨く音が聞こえてきた。その情けをありがたく思いながら、そして出てくるいつ終わるともしれない滂沱の涙を思う存分垂れ流す。凛は目を瞑ると、唄うようにして続ける。
「衛宮切嗣という男は、たしかに衛宮士郎という存在にとっての正義の味方で、最後まで貴方という自らの子供を助けて、そして逝った。――――――英霊エミヤシロウとなる前に、英雄エミヤシロウとして生を全うしてみろ。死と他人を尊ぶような生き方ではなく、生と自分を大事にする生き方をして欲しい。多分、貴方のお父さんは、そのために、貴方をこの世界に生かして返してくれた。多分、きっと、そういう事なんでしょうよ」
「――っ」
その言葉が引き金だった。両手で抑えようとも抑えきれないものが、両手の隙間から次々と溢れてゆく。止めようなどとは思わなかった。止めようなどとは思えなかった。かつて伽藍堂だった心の中が、暖かいもので次々と満たされてゆく。それが間違いだなんて、決して自分には思えない。だからこそ、自分は恥じる事なく、湧き上がる思いを世界に示しつづけるのだ。そうしてしばらくの間、暗い店内の中には、追悼と限りない感謝とを表す嗚咽と涙の音だけが、静かに鳴り響いていた。
*
「……みっともないところを見せたな」
やがて気分が落ち着いた頃、あたりを見渡す余裕を取り戻した私は二人に視線を送りながらいう。
「うん? ……なぁ、凛さんや。俺たちはなにかみっともないところを目撃しただろうか?」
だがヘイは、その太鼓腹を揺らして笑いながら、そんな言葉を返してきた。
「いいえ、まったく、なにも」
凛はヘイの言葉に、やはり笑いながら応答する。
「誰かを思って流した涙ですもの。みっともないなんて、そんなことあるわけないじゃない。それをみっともないなんていう奴がいたら、私が直々にぶっ飛ばしてやるんだから!」
「……感謝する」
そして返ってきたなんとも彼女らしい言葉に、苦笑した。
「あれ? でも、だとしたら、私はアーチャーをぶっ飛ばさないといけないということになるのかしら?」
そしていつのも調子を取り戻した彼女は、からかうように言ってくる。
「ああ――――――、これは失言だったな。悪いが、勘弁してくれ」
「よろしい!」
凛はそして謝罪を受け取ると、ニッコリと唇を抂げて見目麗しい笑顔を浮かべた。
「さて、そろそろこっちの準備もできた」
一方、カウンターの奥でずっとなにやらごそごそとやってきたヘイは、額に浮かんでいた汗を拭いながら言う。ようやくクリアになった頭で彼の方へと視線を送ると、どうやら彼は凛とのやりとりの間にもずっと料理を作っていたらしく、カウンターの内側の机には所狭しと見目よく調理された料理の乗る皿が置かれていた。
「準備?」
「おう。約束だったからな」
「約束?」
「ああ」
ヘイはそして磨き終えたグラスと料理を乗せ終えた皿のいくつかを、大きな盆の上に乗せながら言う。
「お前らが一緒に協力して戦うようなことになったら、一杯奢る約束だっただろ?」
「――」
その言葉に、あの店で彼と交わした約束を思い出す。
『労働には正当な対価が必要だ。多い分は今のところ、嘆願書の提出代金と思ってほしい。もし君の願いが叶って、彼らと私の対面が果たされて、今渡したそれが正当な対価でなくなったのなら、そうだな――、その時はオススメの酒でも一杯奢ってくれ。それでチャラとしよう』
ヘイの言う約束とは、かつて自分がまだ新迷宮という場所に挑んでいた頃、叶うことなどないだろうと思いながら戯れに述べた言葉のことに違いなかった。かつて発言した己ですらも忘れかけていたそんな口約束を、しかし自らの体を取り戻したヘイは覚えていて、いつかは果たしてやろうと思い続けていたのだ。
「あとはまぁ、このみんなの思いによって形作られた世界に存在している、アンタの事を悪しからず思っていた人たちが、どうしても貴方のことを忘れがたくって、だからこそアンタはそんな小さな、でも、やり残したこと(/居場所)がたくさんあるからこそ、この世界に連れ戻されたのかもしれないわね」
凛はそしてそんなことを言ってくる。最中にもヘイはいくつかのグラスとボトルを乗せたお盆を持つとカウンターから店内へ姿を表し、中央付近にあった一番大きな円卓のテーブルに手にしていたお盆を置き、椅子のある場所へと並べてゆく。
「いつか絶対にこんなような時が来るって信じてたから、まぁ、あのギルガメッシュとか言う人に頼んで、一番いい酒を貰っておいたんだ」
そうして机に九つのグラスを並べ終えたヘイの顔は、肩の荷が降りたと言わんばかりに緩んでいた。
「ちょっと、ヘイ! それ、私、聞いてない!」
「――そうか」
「ああ」
「ちょっと、ヘイったら!」
「いや、言うなって言われてたんだよ……。だってあの人、『ふむ。世界が更新された祝儀代わりにくれてやっても構わんが、あの守銭奴にだけは絶対、我が貴様にくれてやったものだと言うでないぞ。事情を知ればあやつは絶対、それをどうにかして金に変えようとするであろうからな』って……」
「……あんの金ピカやろう!」
そして騒がしい日常が戻ってくる。凛は騒ぎ、ギルガメッシュの悪態をつきながらヘイの手から酒を奪おうとし、ヘイはそれを見た目に反して軽やかな手つきで回避し続けていた。
「ちょっと! なんで避けるのよ!」
「いや、なんでお前さんは、俺の手からこれを奪おうとするんだよ!」
二人の態度は、何処にでもありそうなそんな平穏に満ちていて。
「ムカつくからよ! せめてもの意趣返しに、最初の一口くらい私が口をつけてやらないと、気がすまないのよ!」
「なんだその無茶苦茶な理屈! シンでもまだもう少しまともなものを言うぞ!」
だからこそ、何よりも得難い幸福がその中には含まれていた。
「ただいまー」
「戻ったぞ、ヘイ」
きっとこの先の世界には、どこにでもこんな景色ばかりが広がっている。
「おう、お帰り!」
「あら、おかえりなさい」
繰り広げられる光景は決して珍しいものなんかじゃない。
「おいおい、二人して何を……、って!」
「……エミヤ!? エミヤなのか!?」
そう。誰かと笑い、泣き、叫び、じゃれ合いながら、時には喧嘩をして、時には間違えて、しかしやがては仲直りして、正しくなってゆくなんてことを幾度となく繰り返して。
「ああ……、残念――、ではなく、ありがたいことに、死に損なうことができたよ」
「そうか……、そうか!」
「そりゃぁよかったなぁ、おい!」
そうして互いに間違えながら、支えあいながら、助け合いながら、人類はどこまでも進んでゆく。
「――あ、おい、アイツは?」
「アイツ? ――ああ、彼女なら今、響が宥めて連れてきているはずだ」
時にはひどい間違いを犯して死にたくなることがあるかもしれない。
「アイツ?」
「ああ。――多分、この世界の誰よりも、お前の復活を望んでいた奴のことさ」
時には乗り越えられそうにない壁にあたって、絶望に呑まれそうになることがあるかもしれない。
「ちょっと、響! 馬鹿力で引っ張らないで頂戴! このゴリラ女!」
「ちょ、ゴリラとはなんですかゴリラとは!」
だが、そうして誰かが絶望の淵に追い込められた時、今の人類には彼らを守るための力が存在している。
「あら、私、知っているのよ? 貴方、最近、シンよりも腕とか太ももとかが太くなりそうなんですってね。強くなるほどにシンが褒めてくれるのが嬉しいからってトレーニングに勤しむのはいいけれど、それで愛する人よりも逞しい身体なんかになっちゃ、女としておしまいだとそう思わない? 」
「ぐ、ぐぅ……。なんて人の痛い所を平気で突っついてくる――」
それは人が平穏無事に過ごしているときは、決して何もしようとしない。
「などと言っていますが、シン?」
「強い彼女の方が魅力的だ。それで何か問題があるのか?」
それは人が自らの力で何かを乗り越えようとしているときは、決して何もしてくれない。
「うん、まぁ、お前はそう言う奴だよな、シン……」
「まぁ、響の体が可哀想なことになる前に、俺らで適当に食事と特訓の内容を考え直してやるか……」
だがそれは、人が絶望の淵に立ってしまったとき、何処から必ずやってきてくれる。
「ええい、いいんです! 私はシンにだけ好きでいてもらえれば、ほかの誰にどう思われようと、関係ありません!」
「……ふぅん。――ムカつくわね。つまらないわ」
そしてそれは、人がこれからも自らの足で立って歩いてゆけるよう、ほんの少しだけ力を貸していってくれるのだ。
「うーん、お熱いことですねぇ」
「ほんと、お前みたいな戦闘馬鹿にはもったいねぇ子だよ、あの子は」
そして歩き方を覚えた人々は、やがて進んだ道の先、必ずや自らの正義だけを見つけ出すことに成功するだろう。
「うむ。その通りだ」
「あのなぁ、シン。自覚しているんなら、もう少しそれらしい態度をだな……」
そしてまた、彼らが見つけた正義が独善的になることは決してない。
「彼女が好きになってくれたのは、そんな戦闘馬鹿の私なのだ。ならば私が変わる必要などあるまい」
なぜなら彼らは、自分という存在が正義を見つけられたのは、誰かの助けがあったからだということを知っている。
「あー、もう、くそ、ほんと、お前ら、お似合いだよ!」
彼らは自分という存在の居場所が、誰かの助けによってこの世界にあることを、その魂で理解しているからだ。
「あ、みてください、メルトリリス! もうみんな揃ってますよ!」
彼らは皆、誰かに助けられながら自分だけの正義を見つけたものたちだ。
「あら、本当ね。有象無象があんなに群れて――」
「……、メルトリリス?」
そして自分にとっての理想の正義の味方となった彼らのそうして救うべき対象の中には、自分だけでなく他人も含まれている。
「――まさか、あれは……」
「メ、メルトリリス? どうしたの、急に立ち止まっ――、あっ……!」
誰もが正義の味方となりうる世界。誰もが正義の味方である世界。心に潜む不信と言う名の幻想の巨人を倒してくれる正義の味方を手に入れた人類は、だからこそこれからは、絶対に道を間違えることはない。
「――」
「ちょ、メルトリリス!?」
だって今、この世界においては。
「メ、メルトリリス!? ――って、うん……? ――あれは……、まさか……!」
無限に等しい人と同じ数だけ、誰をも救おうとする正義の味方というものが存在しているのだから。
「アーチャー!」
そんな無限の正義の味方の原典とである男の名前は、衛宮士郎/エミヤシロウ。それがかつてはアーチャーとも呼ばれた人類の掃除屋であった、そして今、人類全ての正義の味方となった男の名前である。
*
「ライドウ、どうした。珍しく自分からコーヒーを入れたいだなんて」
「――ええ。たまには自分らしくないことをしてみようかなと思いまして……」
「へぇ……そりゃまたどうして?」
「――悩みの答えというものは大抵、今まで自分がやってこなかった事の中にある。先の戦いから自分はそれを学ばせてもらいましたので」
「……ふぅん、そうか」
「――ええ」
「……聞かせろよ、ライドウ」
「――え?」
「お前さんが珍しく、悪魔関連の仕事以外にたいして積極的に何かをやろうと思ったっていう、そのきっかけの出来事ってやつを、高いコーヒ―豆を使わせてやる代金としてさ」
「――……はい、鳴海さん」
――葛葉ライドウシリーズより、悪魔召喚師『葛葉ライドウ』
――葛葉ライドウシリーズより、鳴海探偵社所長『鳴海』
*
『やれやれ、今回もなんとかなったか』
「いやはや、まったく、YHVHとの戦いを期待して行ったら、とんだ期待はずれでした」
『いや、じゃが、助かった。主が持たせてくれたあの輪っかというつながりがなければ、いかにあれだけのマグネタイトを秘めた大聖杯といえど、帰還は相当に困難じゃっただろうからな』
「まぁ、よろしいでしょう。あれと決着をつける機会は、あのライドウという彼のそばにいる限り、まだまだありそうですからね」
『ワシとしてはそんな日がこない方がありがたいのじゃがな』
――葛葉ライドウシリーズより、葛葉ライドウお目付役『ゴウトドウジ』
――葛葉ライドウシリーズより、金髪の青年『ルシファー』
*
『しかし、クーフーリン。お主あちらに戻らなくても良かったのか?』
「へっ、受肉や第二の生に興味がなかったといやぁ嘘になるが、こっちの方がいろんな強い奴と槍を合わせる機会が多そうだからな」
『そうか……、感謝する』
「おう、任せとけ!」
「ま、いざとなったらこの狂犬の手綱は私が握るから安心しなよ、ゴウトちゃん」
――Fate/ シリーズより、アイルランドの英雄『クーフーリン』
――葛葉ライドウシリーズより、影の国の女王『スカアハ』
*
「ふぁーはははははははは! 未知なる星! 未知なる場所! 未知なるモノ! そして未知なる敵! それら全てを踏破し、支配し尽くして、再び英雄王の名を世に広め、その座に返り咲く! それは我が我という偉大な存在であるが故に出来なかった事であるが、これほど面白そうなゲーム、そうはないとそうは思わんか、パラ子とやら!」
「えぇ、えぇその通りですとも、英雄王さま! そしてその暁には……!」
「うむ! この世の金銀財宝、全ての秘密、名声、そして、名誉! それらの全てを我が手に入れたその暁には、我に付き従う貴様も多くの富と名声を手に入れることだろう!」
「さすがは英雄王さま! そこに痺れる憧れるぅ!」
「師匠! 何、忠実な配下その一みたいなこと言ってんですか! それに他所様のネタは流石にやばいですって!」
「馬鹿者! 元を辿れば、ペルソナだってあの作品のパ……」
「オマージュ! リスペクトです! 明言してるからセーフです! 」
「それにもっというなら、世界樹だっていろんなSFとゲームのネタを散りばめているわけだし、運命だってタロットだの鳩の戦記だのの……」
「わー! わー! 師匠! まだここ、欄外じゃないです! 最後だからってはっちゃけないでください! 」
「ええい、止めるなメディ子! 竜退治はもう飽きたのだ! 全てのRPGを過去にしてやると、私はそう決めたのだ! 富と名声を求めずして何が人生か! 私は絶対に主役になってみせるぞ!」
「一つは吸収合併したとこだからいいとして、戦車と日本一はまずいですって師匠! 」
「ええい、この馬鹿弟子がぁ!」
「師匠ぉぉぉぉぉぉ! お日様昇るとこもダメェ!」
「よっしゃぁ、ジ・エンドォ!」
「それ打ち切りフラグか、バグ技ぁ! 」
――Fate/ シリーズより、英雄王『ギルガメッシュ』
――世界樹の迷宮シリーズより、普通の冒険者『パラ子』
――世界樹の迷宮シリーズより、普通の冒険者『メディ子』
*
「まったく、あいつらといると、ほんと退屈しないわね」
「はたして……」
「あら、シノビじゃない」
「世界樹の迷宮に求められていた変化は、このようなものだったであろうか……」
「知らないわよ、そんなこと。――けど……」
「む?」
「まぁ、たまにはこういう、はちゃめちゃな世界樹の迷宮の物語が一つくらいあっても、別にいいんじゃないかしら? だって、もともと、世界樹の迷宮って、誰もが好き勝手に物語を紡げる、そういう自由なものでしょう?」
「……そうか」
「そうよ」
――世界樹の迷宮シリーズより、普通の冒険者『ガン子』
――世界樹の迷宮シリーズより、普通の冒険者『シノビ』
*
「エトリアの初代院長ヴィズルに、その御付きのおふたり……。そして生ける伝説、モリビトのシララに、同じく生ける伝説のオランピア! そして天の支配者オーバーロードに……、エトリアの迷宮とグラズヘイムを始めて制した伝説の冒険者に、ハイラガードの迷宮とギンヌンガを攻略した伝説の英雄たち! 初代シリカ道具店の店長に、英雄を天に導いた翼人カナーンに、かなたにある迷宮を制した時の飛行都市の女王に、その時代の忠実な兵士長! いやぁ、生きてた甲斐がありましたねぇ! まさかこうして伝説の英雄たちを目の前でみれる日が来るとは、夢にも思いませんでしたよ!」
「ゴリン……、でよかったかしら」
「はいはい、そうですよ、フレドリカさん」
「彼、大丈夫なの?」
「ええまぁ、あそこまではっちゃけているクーマ様は見たことありませんが、まぁ、多分、大丈夫でしょう」
「エトリアの代表者って変なやつしかなれないってジンクスでもあんのかね」
「こら、アーサー! なんてこというの!」
「いや、ラグーナ。アーサーをかばうわけではないが、あれを目撃させられてしまっては、それもしょうがないのではないだろうか」
「……ノーコメントで」
「サイモンにシギーまで!」
「そんな人がいてもいい。私はこの度の戦いで、それを学びました」
「マイク! お願いだから変なことを学習しないで!」
――世界樹の迷宮シリーズより、エトリア初代院長『ヴィズル』
――世界樹の迷宮シリーズより、ブシドー『レン』
――世界樹の迷宮シリーズより、カースメーカー『ツクスル』
――世界樹の迷宮シリーズより、モリビト『シララ』
――世界樹の迷宮シリーズより、道具屋店主『シリカ』
――世界樹の迷宮シリーズより、天の支配者『オーバーロード』
――世界樹の迷宮シリーズより、翼人『カナーン』
――世界樹の迷宮シリーズより、アンドロ『オランピア』
――世界樹の迷宮シリーズより、マギニアの王女『ペルセフォネ』
――世界樹の迷宮シリーズより、冒険者ギルド長『ミュラー』
――世界樹の迷宮シリーズより、湖の貴婦人亭受付『ヴィヴィアン』
――世界樹の迷宮シリーズより、湖の貴婦人亭飼猫『マーリン』
――世界樹の迷宮シリーズより、ハイランダー『シギー』
――世界樹の迷宮シリーズより、ガンナー『フレドリカ』
――世界樹の迷宮シリーズより、パラディン『ラグーナ』
――世界樹の迷宮シリーズより、メディック『サイモン』
――世界樹の迷宮シリーズより、アルケミスト『アーサー』
――世界樹の迷宮シリーズより、グラズヘイムの人工知能『M.I.K.E』
――世界樹の迷宮シリーズ2次創作より、エトリアの現代表『クーマ』
――世界樹の迷宮シリーズ2次創作より、エトリアの現ギルド長『ゴリン』
*
「なぁ」
「なんだよ、ベルトランのおっさん」
「俺たち、なんかやったっけか?」
「……いうなよ」
「現実逃避は良くない、フラヴィオ。暴れて不覚とってるうちに全部が終わってた」
「いうなって、クロエ! 虚しくなる!」
「このルートでは私たちに大した出番はなかった。それは認めないといけない」
「ルートって何!?」
「まぁまぁ、私たちみたいなロートルが出張るような事態が何もなかったならそれが一番じゃない」
「お嬢様のいう通りでございます」
「アーテリンデさんに、ライシュッツさん……」
「私は貴方とこうしてもう一度直接触れ合えるようになった。それだけで私は――」
「ヴィオレッタ……」
「おっさんが急にラブロマンス始めた……」
「まぁまぁまぁ! 」
「あ」
「ヤベェぞ、お姫様の目が輝きだした! お、おいフレイ! お姫様御付きのファーフニールの騎士として、お前、アリアンナを止めてくれ!」
「……わかった」
――世界樹の迷宮シリーズより、ファーフニールの騎士『フレイ』
――世界樹の迷宮シリーズより、カレドニア王国の姫『アリアンナ』
――世界樹の迷宮シリーズより、ドクトルマグス『クロエ』
――世界樹の迷宮シリーズより、レンジャー『フラヴィオ』
――世界樹の迷宮シリーズより、ファーフニールの騎士『ベルトラン』
――世界樹の迷宮シリーズより、先代ファーフニールのパートナー『ヴィオレッタ』
――世界樹の迷宮シリーズより、ドクトルマグス『アーテリンデ』
――世界樹の迷宮シリーズより、ガンナー『ライシュッツ』
*
「兄さん……」
「兄さん……」
「……おい、なんだ、お前ら。僕は妹を二人も三人も持った覚えはないぞ」
「ですが……」
「えっと……」
「ああもう、イライラする! なんだってお前らそう、揃って昔の桜みたいな感じなんだ!」
「まぁ、サコもモリビトの桜も、どちらも私の分身みたいなものですからねぇ……」
「桜ァ! 僕の手のかかる妹はお前一人で十分なんだよぉ!」
「えっとでも、兄さん……」
「なんだよ」
「……」
「……」
「……ああ、もうそんな目で僕をみんな! わかったよ! 纏めて面倒見りゃいいんだろ! 」
「……!」
「……!」
「ああ、くそ! まったく、お前ってやつは、どこまでも面倒を僕のところに持ってきやがって!」
「でも、見捨てないんですよね」
「当たり前だ! 桜は僕の妹なんだぞ!」
「……!」
「……!」
「あ、こ、こいつら! は、離れろ! くっついてくんな! 子犬かお前らは!」
「ふふ……、――――――ねぇ、兄さん」
「あぁ!? なんだよ、桜!」
「――――――大好きですよ、兄さん」
「――――――ふん。――――――――――――ああ、僕もお前のことを愛してるよ、桜」
――Fate/ シリーズより、間桐家の長男『間桐慎二』
――Fate/ シリーズより、間桐家の長女『間桐桜』
――世界樹の迷宮シリーズ2次創作より、メディック『サコ』
――世界樹の迷宮シリーズ2次創作より、モリビト『桜』
*
「さて、これからどうする?」
「決まってんだろ! パワーアップしたいつものメンツに、強力なメンツが加わったんだなら、やることなんて一つしかないって!」
「……何かまた、力でないと解決出来ないようなことが発生しているのかね?」
「うむ。実は今のこの火星の上に生まれた世界の中では、あちこちに迷宮が出現していてな」
「とりあえずみんなが集まるこの街の周辺のやつだけでも早急に情報が欲しいってんで、腕に覚えのある冒険者たちはあっちこっちに自主的に地図を作りにいっているんだが……」
「まぁ、魔物が強い強い」
「並大抵の腕までは一階層分の地図を作ることすらも難しいときたもんだ」
「私たちも一度迷宮に潜ってみて調査をしてみたのだが、どうやらライドウらの世界の要素が混じってしまった折に、悪魔とかいうやつ成分が混ざったらしくてな」
「天使も悪魔もてんてこ舞い。大安売りのストップ安ってわけ」
「一応、いつも通り、悪魔化した魔物たちは迷宮から出てこようとはしないんだけど、ともかく、そんな魔物の潜む迷宮がなんの情報もない状態で街の周囲にあるって状態が気にくわないってことで、まぁ、早急に地図を作れる奴を探していたんだ」
「いや、迷宮はすごい場所だぞ、エミヤ! なにせ、私のツバメ返しが通用しないような悪魔化した魔物がウジャウジャとしていてだな――」
「はいはい、シンは少し黙っててくださいね」
「ま、まぁ、そういうわけで、腕の立つやつはいればいるほど、いいってわけなのさ」
「……なるほど」
「それで、アーチャー。貴方はどうするの?」
「そんなの、決まってるじゃない。ねぇ、アーチャー」
「……ああ。その通りだ。だって、衛宮士郎/エミヤシロウは――」
――万人を救う正義の味方にして、世界の未知に挑む冒険者でもあるんだから!――
――Fate/シリーズより、サーヴァント・アーチャー『エミヤシロウ』
――Fate/シリーズより、マスター『遠坂凛』
――Fate/シリーズより、マスター『衛宮士郎』
――Fate/extraシリーズより、ハイ・サーヴァント『メルトリリス』
――Fate/extraシリーズより、サーヴァント『玉藻』
――Fate/シリーズより、神父『言峰綺礼』
――Fate/シリーズより、衛宮士郎の養父『衛宮切嗣』
――世界樹の迷宮シリーズ2次創作より、ブシドー『シン』
――世界樹の迷宮シリーズ2次創作より、パラディン『ダリ』
――世界樹の迷宮シリーズ2次創作より、アルケミスト『サガ』
――世界樹の迷宮シリーズ2次創作より、バード『ピエール』
――世界樹の迷宮シリーズ2次創作より、ツールマスター『響』
――世界樹の迷宮シリーズ2次創作より、道具屋店主『ヘイ』
――Fate/シリーズより、衛宮士郎の姉『藤村大河』
――Fate/シリーズより、小聖杯『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』
――Fate/シリーズより、サーヴァント・セイバー『アルトリア・ペンドラゴン』
――Fate/シリーズより、サーヴァント・ライダー『メデューサ』
――Fate/シリーズより、サーヴァント・キャスター『メディア』
――Fate/シリーズより、サーヴァント・アサシン『佐々木小次郎』
――Fate/シリーズより、サーヴァント・バーサーカー『ヘラクレス』
――葛葉ライドウシリーズより、コドクノマレビト『クラリオン』
――世界樹シリーズより、全ての元凶『魔のモノ』
――世界樹シリーズより、宇宙からの飛来者『世界樹』
――Fate/シリーズより、万能の願望器『聖杯』
*
Fate/ Beyond Reverie 〜 月と巨人の原典 〜
完
まずはここまで長らくのお付き合い、本当にありがとうございます。ここに至るまで一年半ほど、お付き合いいただきました皆さまのおかげもありまして、あちこちに不備のあるお見苦しい状態ではありますがなんとか目標としていた令和元年内に本物語の真ルートを終えることができました。以上をもちまして本物語は一旦終幕とさせていただきます。詳細や、謝辞などは後ほど改めて追加予定の後書きにて語らせて頂きますとして、まずは今後の予定だけを簡単に記載させて頂きたく思います。
▪️本物語の誤字脱字の修正、訂正。シナリオ状態である部分の小説化(半年から一年)
▪️年内完成を目標にするにあたって、オミットした二十話ほどを可能であれば実装する
(修正後、一年から二年程度?)
▪️新世界樹ルート(混沌ルート。北欧神話、ケルト神話混合ベース)
▪️fate/ルート(中庸ルート、バビロニア神話、シュメル神話混合ルート)
▪️ライドウルート(秩序ルート、日本神話、中国神話混合ルート)
▪️その他、書きかけのオリジナルをアップして行く(随時)
それではまたどこか、書いたものをアップした時にお付き合いいただければ幸いです。本当にここまでのお付き合い、ありがとうございました。