ハイスクールB×B 蒼の物語   作:だいろくてん

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赤龍帝の目覚め。



第一の目覚め《The First Awakening》

 

「あれ……?」

 

 暗い意識が覚める。

 ぼやっとする視界と何処か嗅ぎ慣れた緑の仄かな香り。

 戦場の匂いとは程遠い優しさに違和感を渚は覚える。

 体を起こすと自分が芝生の上に寝ていたと気づく。

 妙だ……と渚は目を細めた。自分はクラフト・バルバロイに敗れて気を失った筈だと自問する。

 記憶と情景が合わないという謎が解けない。ここは瓦礫と化したマンションも、はぐれ神父などの敵も一切なくなった場所なのだ。

 柔らかな芝生から立ち上がる。すぐ側には大きな日本屋敷があった。古いが立派な造りの家だ。

 渚はその広大な屋敷の広い庭で寝ていた。

 何故、こんな所にいるのか……という疑問もあったが屋敷を見ていると心を打たれる懐かしさが胸を通り過ぎる。

 背後から風が吹く。その流れに誘われてた白梅の香りが渚の鼻を(くすぐ)った。

 

「起きた?」

 

 不意に声を掛けられた。白梅の香りが流れてきた方向だ。

 

「……君は?」

 

 見れば日本屋敷の縁側にいつの間にか座っている人物がいた。

 それは目を奪われる和服を着こなした黒髪少女。綺麗な顔をしているのに表情がないので人形のようだ。

 

「私の名前は譲刃」

「譲刃……」

 

 反射的に自分の中の何かが反応する。見た覚えのない顔、聞き覚えのない声、それでも自分は彼女を知っていると確信にも似た感覚があった。

 

「私は"蒼の少女"の代わりにキミに会いに来た者よ」

「"蒼の少女"?」

「その子の事は今は気にせずともいいわ。まず、ここが何処だかは分かる?」

「分からない、な」

「当然か、いきなり連れてこられて驚いているでしょ? ここは魂の座、キミの精神世界よ」

「…………うん、余計に分からない」

 

 自分の精神世界に何故、武家屋敷があるのだろうか……と渚は思う。

 そんな疑問に譲刃は「ああ」と頷いた。

 

「きっとキミと私の精神が干渉しあって形付いたのだと思うわ、この家は私たちにとって思い出深い場所なの。ともかくここは貴方の世界と認識していおいて」

「俺の世界かぁ……」

 

 少女が優雅に縁側から立ち上がると渚へ近づく。

 胸が高鳴る。彼女の端正な面持ちと雅な雰囲気は異性を虜にする魅力を持っているが、渚のソレは少し違う。

 

「泣いているの?」

「……え?」

 

 和風少女が渚の目元に触れる。

 本当に涙を流していた。渚は目から出て来る水滴に驚く。自分は何に対して涙をこぼしているのか分からない。ただ彼女を見ていると切なくて嬉しいという複雑な感情に苛まれるのだ。

 和服少女の無表情だった顔が変化した。困ったように眉を八の字に下げたのだ。

 

「もう涙することもないと言うのに。……でも嬉しい、ありがとう」

「……やっぱり俺を知ってるのか」

「そうね、キミのことはよく知っているのよ、ナギくん」

「ナギくん……か」

 

 親しみの籠ったあだ名はすんなりと受け入れられた。いや、どうしてか彼女からはそう呼ばれていたかった。

 

「色々と話して上げたいけど今は時間がない。……突然だけどキミには強さを取り戻してもらうわ」

「強さを取り戻す?」

「そのままの意味よ。今までは不要と思っていたから技術を返す真似をしなかった、けど私が思っている以上にナギくんの置かれた状況は切迫してると判断した」

「えーと技術を返すって意味が理解できないんだが……」

「キミは記憶と共に"蒼"を初めとした多くの戦う術を失っている。けど私の刀を通せば剣技だけは甦らせる事が可能なの」

 

 和風少女が胸の前に両手を持ってくると刀が現れる。

 いつも使わせてもらっている愛刀だった。この刀の本来の持ち主が彼女なのだろう。

 

「性能を引き出すための調整はステアちゃんが終わらせている。今のキミでも問題なく使えるわ」

「ステアの事も知ってるのか」

「大切な友だちよ」

「じゃあ俺との関係は?」

「同じ流派の同門。けど今の私は刀に宿る残留思念というのが正しいかしら」

「残留思念……。本物の君は死んでるのか?」

「その話は関係ないと思うのだけれど?」

 

 この懐かしさの源泉は何なのかが知りたかった。

 刀だけが残っていると言うことは死んだと考えるのが普通だろう。

 胸にある焦燥が記憶と結び付かない。彼女が自分にとって特別なのは漠然と分かるが忘却の霧が思い出を隠してしまっているのだ。

 

「刀は形見という事か」

「そんな悲しそうにしないで。これは選別の品よ、今ごろ本物の私は新たな人生を謳歌してるわ」

「本当に?」

「私、嘘は付かないわ」

 

 言葉には信憑性があった。直感が訴えてくる、譲刃という少女は嘘を付けないと。

 安心する。きっと本来の彼女は今も何処かで生きているのだろう。

 

「受け取ってくれる?」

「ああ、悪い」

 

 渚が刀を受けとると周囲の光景はボヤけた。

 何事かと渚が驚く。

 

「そろそろ起きた方がいいわ、外は思っている以上に大変のようだから」

「大変?」

「ええ、龍種が出てきたわ。それにキミが守ろうとした金髪の子もかなり危ない状況ね」

「アーシア!?」

「大丈夫、すぐ目覚める。そしたら剣を振るい方を……"刻流閃裂"を思い出しているわ」

「こくりゅうせんさ?」

「かつてキミが修めた剣術よ。今まで勘で使っていた技を完全に扱えるようになる分、戦闘力も増大するわ。──頑張って、ナギくんなら龍ぐらい容易く斬り倒せるわ」

「頑張る。それと……上手く言えないんだけど会えて良かったよ、譲刃」

「そう? なら出てきた甲斐があったというものね。……最後に一つ聞いていいかしら?」

「なんだ?」

「今、幸せ?」

 

 急な質問に考え込む。

 幸せというのは、どういった状況を表せばいいのか困る。

 昼は付いていけない勉学に勤しみ、夜は"はぐれ悪魔"との戦闘で命を懸ける日々。

 端から見たら幸福とは言えないだろう。それでも渚は笑った。

 

「幸せかは分からない。──でも、うん、楽しいよ」

 

 その答えに譲刃は満足そうに微笑んだ。

 

「その言葉を聞けて良かった」

「じゃあ行ってくるよ」

「はい、行ってらっしゃい」

 

 

 

 

 ○●

 

 

 

 

 渚が去り、一人残った和服の少女。

 そんな彼女が背後を振り返る。

 

「ここまで来たのなら会っていけばいいと思うのだけど?」

 

 屋敷の柱に話しかける。するとその裏から小さな影が出てきた。

 

『……否定。どのような顔で会えばいいか、答えが見つからない』

 

 譲刃の言葉を返したのは小さな少女だった。

 まだ十代になったばかりの体に、足元まで伸ばされた蒼髪と同じ色の瞳。

 "蒼の少女"は弱々しく、柱にもたれ掛かって体育座りする。

 譲刃が少女の隣まで歩を進める。

 

「ところで"蒼"の起動は出来そう?」

『まだ。"炉"の修復は23,1%しか終了していない』

「それだけあれば充分に廻せる。大抵の事はなんとかなるわ」

『否定。ナギサには完全な状態で使わせる』

「頑固ね。でもそれが良いかもしれないわ、"蒼"は間違いなくナギくんの日常を破壊する」

『そう、危険。あの者たちを滅ぼすには完全でないと不安。だからしばらくナギサには会えない』

「嘘ね。怖いんでしょう、ナギくんに会うのが」

『……なぜわたしがナギサに恐怖する』

「眠りを望んでいた彼を再創造したから」

 

 "蒼の少女"が下を向く。

 図星を突かれて落ち込んでいるのだろう。

 

『……わたしはナギサの意思に逆らった、全てを終えた者に生を強要した』

「私は悪い事とは思っていないわ。だって蒼井 渚はやっと自分の人生を再開出来たのだもの」

千叉 譲刃(せんさ ゆずりは)、これからどうすればいい? このまま奥に沈んでいた方がいい? わたしはナギサの人生に邪魔?』

「ナギくんが再び"蒼"を必要とする時は来るわ。だから望まれたら"力"を貸してあげて」

 

 譲刃が諭すように言うと"蒼の少女"が顔をあげる。

 

『承認。既に"蒼"の使用権限はナギサに委譲されている。私の役目は力と成して授けること。……"炉"の修復作業に戻る』

 

 "蒼の少女"が意気揚々と屋敷から姿を消す。

 少女は単純に存在を肯定されたかったのだろう。本来なら渚に言われたかった筈の言葉を譲刃が代弁したのだが、予想よりも効果があったようだ。

 

「昔は機械みたいだったのが嘘みたいな献身ぶりだわ、彼女。さてと私も帰ろうかな」

 

 譲刃もまた歩き出すも最後に屋敷を見上げた。

 

「ナギくんが幸せそうで良かった。もう死に向かうような生き方はしないでね」

 

 そう静かに言葉を紡ぐと千叉 譲刃もまた霧のように消える。

 

 

 

 

 ●○

 

 

 

 

 渚が目を開けると同時に感じたのは胸に乗る小さな(ぬく)もりと全身を襲う大きな圧力だった。

 温もりの正体は自分に持たれ掛かるようにして倒れるアーシアのものだ。

 眠る彼女と密着しているからこそ緊張が走った。心音と呼吸音が途絶えている。間違いなくアーシア・アルジェントは死んでいた。

 暖かみの残る華奢(きゃしゃ)な体を強く抱き締める。これは誰のせいでもなく彼女の近くにいた自分の責任なのだと強く後悔した。

 だから、いつもなら震えているだろう巨大な気配に(ひる)まず(にら)みを付ける。

 巨大な赤黒い龍。圧倒的な生命力と霊力を撒き散らす災厄。今まで戦ってきた"はぐれ悪魔"を鼻で笑ってしまうほどの脅威。ちっぽけな人間では相手にならない存在だ。

 渚はアーシアを抱いて立ち上がると白い頬を撫でる。自分の傷が消えているのは彼女が懸命に治癒をしたからだろう。優しい女の子に、こんな仕打ちをした奴に怒りが()く。

 

「大丈夫、すぐに起こすからな」

 

 比較的安全な物陰にアーシアを下ろす。

 周囲に敵らしき存在が一つしかいない。アリステアやリアスたちの尽力(じんりょく)で神父やクラフトは退散したのだろう。

 アーシアの死因は分からないが生き返らせる方法はある。

 リアス・グレモリーの"悪魔の駒(イーヴィル・ピース)"だ。アレは死者すらも蘇生が出来るアイテムだと聞いている。アーシアの力はリアスにとって大きな力になるので使ってくれる可能性が高い。でなくても渚はリアスに頼み込むつもりだ。

 その為なら彼女の眷属になってもいい。

 だが全てを上手く進めるためには龍の排除は絶対だろう。

 地面に落ちていた愛刀を手に取る。

 

「"刻流閃裂(こくりゅうせんさ)"だったか?」

 

 自らが(おさ)めたという剣術の名を言葉にした。

 未だにその記憶はない。しかし譲刃という少女が嘘を付いているとも思えない。

 渚は目を伏せる。

 考えてもしょうがない。

 今の目的は障害の排除だ。余分な思考は切り捨てて走り出す。

 巨龍が迫る。人間など一噛みで潰す牙に鳥肌が立った。振るえば人体など容易くバラバラにするだろう爪が怖い。それでも刀を握る手が熱くなっていく。()()づく心を叱咤激励(しったげきれい)するような熱だった。

 そして想うがままに堅牢な龍の翼へ刃を立てる。

 渚が思っている以上に翼がすんなり切断される。先日まで同じ刀を使っていたのに切れ味に大きな違いがあった。

 

「やれる!」

 

 すぐに龍から距離を取る。

 ダメージが与えれるのなら勝てる可能性がある。

 再び攻めようとした時だった。

 龍が地に転がる片翼を取ると切断面に押し付ける。

 いったい何を……と渚が観察していると傷口に淡い光が灯り再生した。

 渚が驚愕していると龍が息を大きく吸い込む。

 こんな動作でしてくる攻撃などアレしかない。

 渚は大きく距離を取った。

 同時に龍が火炎放射器の要領で馬鹿げた総量の炎を撒き散らす。首を無造作に動かして周囲を炎熱の地獄に変える様は正に災害である。

 なんとか直撃は避けた渚だったが肌を()く豪熱は立っているだけで体力を奪う。

 

「火力もだが一番の厄介物は再生力だな」

「"聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)"ですね」

「ステア」

 

 炎熱地獄の中にいても涼しそうな顔でアリステアは渚の隣にやってくる。

 

「ご機嫌よう、ナギ。あの太刀筋からして譲刃とは話せたようですね」

「彼女については色々と分からん事だらけだけどな」

「でしょうね。さて、起きたばかりの貴方に情報を与えても?」

「頼む」

 

 アリステアが簡単に状況を説明してくれる。

 生きていたカラワーナが場を描き乱しクラフトと共に撤退。あの龍がレイナーレのなれの果てであり、アーシアの神器を喰らったという。

 寝ている間に様々な事が起きていた。だが思ったよりも悪くない状況でもある。

 要するにあの龍を止めれば、この一件はとりあえず片が着くのだ。そう思っていた矢先にアリステアから重大な情報が伝えられた。

 

「あの龍は赤龍帝の力を所持しています。放っておけば力は増し、手に追えなくなるでしょう。お早い討伐をお奨めします」

「は!? 赤龍帝ってアレだろ、徐々に力が倍加するヤツ。神器の中でも特にヤバイ、確か"神滅具(ロンギヌス)"だったか」

 

 アリステア・レポートの内容を思い出す。

 特にそこら辺は赤い字で書かれていたので目を痛くしながら読んだものだ。

 

「はい。よく覚えていますね、撫でてあげましょうか?」

「いらんわ。なんでレイナーレが赤龍帝の力を持ってんだよ」

「元々、"赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)"は兵藤 一誠に宿っている神器です。アレはその一部を奪った結果のなれの果てですよ」

「イッセーが"赤龍帝"……? クソ、アイツ、とんだ大当たりを引きやがった」

「ええ、これからの人生がハードモードになるのが目に見えます」

 

 二人がそんな会話をしていると龍に雷が落ちる。

 朱乃の雷である。それを皮切りにリアスの眷属が攻撃を開始する。

 祐斗が一撃離脱を繰り返し、隙ができた所を小猫が拳で打つ。

 バランスを崩した龍にリアスの"滅び"を宿した魔力が直撃した。

 着弾の影響で噴煙があがる。

 渚が慌ててリアスの元へ駆け寄った。

 

「グレモリー先輩!」

「傷は大丈夫そうね」

「はい、アーシアのおかげで……」

 

 その名を口にした時、リアスの顔が曇った。

 

「渚、私たちグレモリーはアレを全力で排除するわ」

「それはつまり……」

「ええ、堕天使レイナーレの身柄は諦めて。アーシアの神器は回収を試みるけど優先順位は龍より下がる」

「それじゃあ戦争が……」

「今、やらないと町の人間が大勢死ぬわ。そしてあの龍は更に被害を広める。私は町の管理者として止めなければならないの」

 

 悲痛な覚悟だ。

 この選択が間違いだと思わない。戦争と言う大きな戦いは始まっていないが駒王もしくは日本の人々の命は今は脅かされている。

 無責任に「ダメだ」とは言えないだろう。

 渚は手にある刀を強く握る。

 

「待ってくれっす」

 

 声と共に駆けてきた人物が渚の袖を強く引っ張る。

 ミッテルトだ。その後ろには一誠もいる。

 

「部長、夕麻ちゃんを殺すんですか?」

「……ええ」

「そ、そんな……」

 

 いつもは凛としているリアスが視線を逸らした。

 

「お願いっす、何でもするからレイナーレ姉さまを助けて!」

 

 縋り付くミッテルト。敵味方などもはや関係は無いのだろう。がむしゃらにレイナーレの救いを求めている。

 涙混じり声を聞いているだけで胸にトゲが刺さったような痛みが走る。

 誰もが正しい。間違いなんかない。ただ自らが想う大切なものが違うだけ……。

 悔しさが渚を締め付ける。こんなにも無力な自分が腹立たしい。

 

「ナギ」

 

 重苦しい雰囲気の中、一人だけいつも通りのアリステアに名を呼ばれる。

 

「……なんだ?」

「暑いので、さっさと終わらせて下さい」

「終わらせる?」

「何を(ほう)けているのですか。レイナーレとアーシアを助けるのでしょう。……まさか出来ないとか言いませんよね?」

 

 まるで「貴方なら楽勝でしょう?」と言いたげな口調だ。

 無力だと感じていた感情に熱が宿る。その熱は心臓へ巡り、四肢へと伝わった。

 そうだ、何を諦めているのだろうか。

 手も足もまだある。やるべきことは何一つしていないのに諦めるなど()骨頂(こっちょう)だ。

 

「リアス先輩、一度だけ俺にチャンスをください」

「何をする気……って聞くのは野暮ね」

「俺なりのやり方で挑んでみます。やれることはやっておきたいので」

「許可できないわ。何があったかは分からないけど貴方は劇的に強くなったわ。けど……」

「いいじゃないですか、リアス・グレモリー。やらせてあげましょう」

「あ、アリステア、貴方まで……」

 

 何を言っているという顔をするリアス。アリステアは愉快だったのかクスリと笑った。

 

「ナギ、なんなら成功報酬の話もしておきましょう」

「そうだな。グレモリー先輩」

「え、な、何?」

「アレを倒したら"悪魔の駒(イーヴィル・ピース)"を一つ恵んでください」

「もしかしてソレで」

「アーシアを生き返らせます」

「それはいいけど、やれるの……?」

「絶対とは言い切れません。だから保険は懸けておきます」

 

 渚の言葉にアリステアが頷く。

 

「問題ありません。最悪の場合は私が綺麗に後始末をしますので。……ついでにそこの彼も参加させてはどうです、ナギ」

「イッセーをか、何かあるんだな?」

「最弱が時として強大な敵を打ち倒す切り札になる……と言うことです」

 

 一誠を指すアリステア。

 この中で一番弱いであろう彼は意外そうな顔をした。

 

「お、俺?」

「アレに限っては貴方との相性は抜群です。ここで見事な働きを見せればレイナーレの命を報奨にする事も考えてくれるでしょう、ねぇリアス・グレモリー?」

「無茶よ、イッセーにアレと戦えと言うの?」

「あの龍のオリジナルである彼は間違いなく急所になりますよ。……兵藤 一誠」

「は、はい」

「左手を貸しなさい」

「こ、こうですか」

 

 恐る恐る差し出された一誠の左手をアリステアは取ると文字を描くように手の甲をなぞる。

 

「ここに意識を集中してください」

「手の甲に何が……?」

「貴方にとって今必要な物です。さぁ早く」

「わ、わかった。……集中……集中……」

 

 言われた通りにすると、一誠の手が光る。

 光は手の平から肘までを多い尽くし、やがて刺々しくも荒々しい真っ赤な籠手となった。

 

「おわ! なんじゃこりゃ!!」

「"赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)"という神器です。能力は時間経過による力の倍加になります」

「す、すげぇ」

「レイナーレを助けたいなら神器に()いなさい。()れは貴方にだけ尽くす最強の武器、宿主の為なら(いく)らでも力を貸すでしょう」

 

 一誠が「俺だけの……」と呟くと決心したように右手で籠手を掴む。大きく深呼吸すると自らの願いを神器に込めた。

 

「頼む、"赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)"! 俺に夕麻ちゃんを助ける力を貸してくれぇえええ!!」

 

 力の限り叫ぶと籠手の甲部分に設置された碧い宝玉が光り出す。

 

『──Dragon Booster(ドラゴンブースター)!!』

 

 籠手から発せられた声と共に宝玉の中で紋様が描かれる。

 力がみなぎる。一誠は今まで感じたことない溢れる活力に驚きを隠せない様子だ。

 その様を見守っていた渚は一誠の肩をバシンっと叩く。

 

「やれるな、イッセー」

「ああ、行こう、ナギ」

 

 二人は同時に走り出す。

 迷いのない疾走でリアスの眷属たちと合流する。

 

「蒼井くん!? それに兵藤くんも!?」

「姫島先輩、この一瞬で勝負を決めます」

 

 渚の言葉に朱乃はすぐに状況を飲み込む。

 

「お気を付けて。既に何度か倍加している状態です、力の総量なら()の五大龍王に迫りますわ」

 

 ──龍王。

 強靭なドラゴンの中でも強力と言われる個体。

 天龍と称される本物の赤龍帝には劣るが、それでも国一つは滅ぼせる力を持つ存在だ。

 そんな(やから)に手が延びる龍。

 普通は戦いは避けるべきなのだが、渚は迷わず朱乃に言った。

 

「大丈夫。──斬って見せます」

 

 龍が馬鹿正直に真正面からやってきた二人を見下ろす。

 伝説にある五大竜王に迫る怪物が大きく口を開く。炎熱ブレスで焼き殺す気なのだろう。

 

「ナギ、ヤベェのが来るって俺の中の誰かさんが言ってる!」

「それは多分、神器に宿る赤龍帝さんの魂だ。ちゃんと挨拶しとけ」

「お、おう。……じゃなくてだな!!」

「攻撃は全部俺が(さば)く。お前は真っ直ぐ龍まで走れ。アレはお前の神器から生まれた子供みたいなもんだ、だから上位互換であるお前の攻撃は通る可能性が高い」

「なんか俺の中の赤龍帝さんも同じ事を言ってた。──力を貸すからとにかく殴れってさ!」

「心強いね。じゃあ炎の道をクリアするぞ!」

 

 全てを焼き尽くす炎が放たれる。広範囲に及ぶ火炎の回避は不可能だ。

 真っ赤な熱が死を運ぶ。

 死に際だからこそ心を落ち着かせる。思考を空に肉体を無へ……。そして刀の鯉口(こいぐち)を切る。あとは身体が勝手に動いた。

 俗に言う、居合い斬り。鞘から抜いた刀を横一閃に薙ぎ払う剣撃。炎なぞ斬れる筈もない一撃だ。

 しかし抜いたと思った渚の刀は次の瞬間には鞘に納まる。カチンと金属音が鳴ると炎が微塵に切断されて霧散した。

 広範囲の炎を斬り崩したのは(おり)を思わせる巨大な斬撃の乱舞。

 

「──刻流閃裂 輝夜(かぐや)貌亡(かたなし)

 

 自然と出たのは、その技の名称。炎を()(くぐ)った一誠もまた突進するが龍も静かに待っている訳ではない。その巨大な爪で矮小(わいしょう)な人間を潰そうとした。

 だが凄まじいスピードで鋭利な刃が飛翔する。

 

「簡単に取らせるかよ!」

 

 渚が龍の手の平に突進して刃を突き立てた。

 苦しみの咆哮が響く。渚は一誠に叫んだ。

 

「イッセー、狙いは分かるな!!」

「胴体一択! 夕麻ちゃんはそこにいる!」

 

 レイナーレがいる場所に狙いを済ませて一誠が左腕を構える。

 絶好の勝機と思った時だった。

 

 ──グオオオオオオオオオオ!!

 

 龍が翼を広げて天空へ舞う。

 一誠の拳を翼の羽ばたきによって邪魔をされ、(くう)を切った。

 悪足掻(わるあが)きだろう。直感的に一誠の左手に触れるのは危険だと判断したかもしれない。

 渚は舌打ちをする。ここで逃げられたら洒落(しゃれ)にならない。

 龍の手に刀を突き立てていた渚も振り落とされそうになった。

 

「くそ、落ちる!」

「僕らを忘れてもらっては困るよ、蒼井くん」

 

 龍の眼球に黒い魔剣が突き刺さり、動きを止める。

 

「祐斗か!」

「初めて下の名前で読んでくれたね」

 

 爽やかな笑みのイケメンが龍の肩に降りる。

 

「片方を頼めるか!」

「僕は君みたいに斬れないけど阻害は出来るよ」

 

 その言葉と同時に、龍の両翼を渚と祐斗が攻撃した。

 渚が切断し、祐斗は氷付けする。

 龍が落ちる。

 視線を下に向ける。映ったのは砲丸投げのような体勢で一誠を持ち上げている小猫だった。

 

「……先輩、発射します」

「くそぉ、やってくれぇ!」

 

 涙目の一誠を小猫が戦車の力で投げ跳ばす。

 龍が怒りの形相で一誠を睨み、ブレスを吐こうとする。

 

「そう何度も撃たせませんわ」

 

 朱乃が特大の雷を呼び出し、龍だけに落とす。

 ブレスを放とうとしたタイミングに鬱ち込まれた雷撃は火炎を暴発させた。

 口内で起こった爆発には、流石の龍も耐えきれないといった様子で苦しんでみせた。

 その隙に凄まじい勢いで龍の前まで飛翔した一誠が叫ぶ。

 

「これで終われぇええええええ!!」

 

 "赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)"が龍の胸部を打つ。

 強固な表皮がまるで薄い氷のように脆く砕かれた。

 解き離れたようにレイナーレが一誠の胸に倒れ込んだ。

 

「やった! やったぞ、ナギィ!! ……って落ちる落ちるぅ!!」

 

 落下する一誠を拾ったのは朱乃だった。

 

「もう本当に無理をするんだから……」

 

 それは恐らく渚と一誠に向けられた言葉だろう。

 龍が派手に地面に落下し、レイナーレを抱いた一誠はゆっくりと朱乃に下ろされた。

 誰もが安堵し、勝利を喜ぶ。

 

「イッセー、まだ終わってないわ!」

 

 リアスの言葉に一誠が反応する。

 胸に大穴を空けた龍が最後の力と言わんばかりに牙を向けたのだ。

 這いずるような動きで一誠へ迫る。

 その牙が届こうとした時だった。

 

「悪いがこっちも返してもらう」

 

 渚が割り込んで龍の首を絶つ事で一誠を助ける。

 龍が動かなくなったのを確認してから渚は迷わず遺体に刃を入れる。解体というより慎重かつ丁寧に切り分けていく作業だった。

 探し物はレイナーレが居た場所の近くにあった。

 

「良かった、見つかった」

 

 淡い光を放つのはアーシアの神器、"聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)"だ。

 渚は安堵したようにその場に座り込んだ。

 

「び、ビビったぁ。神器が無傷で良かったぁ。それにしても龍って怖ぇな」

「いや、普通に首斬ったお前も大概だぞ?」

 

 一誠が思わずツッコミを入れる。

 

「なんか身体が勝手に動いてなぁ。……俺は思っていた以上にヤバイ人間かもしれん」

 

 遠い目で呟いているとアリステアがやってくる。

 

「お疲れさまです」

「ホント疲れた」

「見事な輝夜(かぐや)でした」

 

 渚が放った人の技とは思えない絶技を褒めるアリステア。自分でもあんな馬鹿げた剣を使えるなど夢にも思わなかった。

 

「アレ、知ってるのかよ」

「何度か拝見したことがあるだけです」

「なぁ俺ってさ、なんなの?」

「なんなの、とは?」

「あの龍がすっげぇ強いのは肌で感じた。でも戦ってみたら割りとアッサリ勝てた」

 

 そう、渚はこの勝利に疑問を感じていた。

 もっと苦戦すると思っていた。確かに簡単では無かったが予想よりも遥かに龍が弱く感じたのだ。

 

「それは単に貴方が強かったというだけ。自覚は無いようですが間違いなく貴方は強者の部類です」

「俺が強者かぁ」

 

 釈然としない。

 自分が強いなどと今まで思ったことはない。むしろ三下辺りが妥当だとすら思っている。

 

「確かに初見では雑魚の骨ですからね」

「おい、雑魚の骨ってなんだよ」

 

 百歩譲って雑魚は許すが、その骨となると存在価値が無いのではないか?

 

「ですが良いと思いますよ、変に凄みを出すよりは親しみやすいじゃないですか。貴方の国の言葉にもあるでしょう? 能ある"雑魚"は爪を隠す、とね」

「"(たか)"な? たく雑魚キャラだったり強キャラだったり、ブレ過ぎだろ俺……」

 

 渚が背から地面に倒れる。

 全身が悲鳴を上げている。骨と筋肉が軋み、関節にも鈍い痛みが広がっていた。

 原因は(さっ)しているので痛みに身を任せる。

 

「疲れたな」

「急に刻流閃裂の大技を使ったんですから当然ですね」

「お見通しか、少し休んでいてもいいか」

「ええ。アーシア・アルジェントはお任せを」

「うん、任す」

 

 渚が神器をアリステアに託すと一足先に眠りに着く。

 きっと明日まで目を覚ます事はないと思いながら夢の世界へ旅立つのだった。

 





渚はレベルが一気に20くらい上がった。
そんぐらい強くなってます。
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