ハイスクールB×B 蒼の物語   作:だいろくてん

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予告? はは、アレは嘘だ!(ノリで書いたとは言えない……)



不死鳥、来日《Queen of the Maid》

 

 駒王学園が燃えている。

 轟々と広がる紅蓮の炎によって校舎は戦場と化していた。

 戦いの音が轟く学園。鬼神乱舞が如くの戦いの中心にいるのは渚だ。

 自身へ迫る相手に対して油断のない表情で刃を閃かせる。かつては龍と化したレイナーレを切り裂いたモノと同等以上の鋭い斬撃だ。

 

 ──ガキン。

 

 しかし硬い感触が手に伝わる。それは鋼鉄に刃を阻まれたからに他ならない。相手は赤い鎧を全身に纏う者。胴体に斬り口こそ入っているが攻撃が通っていないのは明らかだ。

 

「チッ」

 

 堅牢な鎧に舌打ちする。刀を通すには刃筋を更に立てる必要があった。

 渚は思考を直ぐに切り換えると力任せに大きく刀を振り回した。その遠心力を利用した投げは鎧を纏う者を派手に吹き跳ばす。

 

「まだまだぁああああ!!」

 

 鎧を纏う者が叫ぶ。

 

「これが"赤龍帝"か、厄介だな」

 

 渚が顔を歪ませる。

 相手は赤龍帝となった一誠。決して最弱の悪魔ではない鋼鉄の赤き龍が体勢を立て直すと雄叫びと共に突貫の構えを取った。

 

「行くぜぇ、ナギィ!!」

 

 鎧の背中部分が競り上がる。まるで推進ブースターのような部位が現ると盛大に火を拭く。

 渚に向かって拳を突き出す鎧姿は正に人型のドラゴンだった。

 一誠の闘争心に呼応した"赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)"が光を帯びる。

 

Boost(ブースト)!』

 

 それは力を倍増させる神器。

 十秒ごとに自らの力を二倍にしていく"赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)"を放置しておけば二倍、四倍、八倍と、再現なく力を上昇させ続けるだろう。

 脅威的な異能を持つ一誠に対して渚は躊躇いを捨てた。刀の柄を握り、鎧姿の一誠を斬り払おうと集中する。

 

「……こっちも見てください」

「──くっ!!」

 

 だが真下から鈴のような声と小さな拳が昇ってきた。

 不意を突いた一撃を紙一重で避ける。

 気配を読むことに長けた渚だからこそギリギリ気づけた遮断術による奇襲。

 全力で回避をする。攻撃が重い"戦車(ルーク)"の一撃など受けた時点で意識を奪われる。気配遮断に優れたパワータイプなど冗談が過ぎる。

 冷や汗ものの攻撃から逃げた渚だったが、すぐ背後から風を斬る音がした。

 

「──っと!」

 

 直感だけで横に飛ぶ。先程までいた場所に目を向ければ魔剣を持った祐斗がいる。剣を躱した渚に笑みを送ってくる。

 

「残念。次は当てさせてもらうよ」

「そんな危ないモンに当たって堪るか」

 

 一誠、小猫、祐斗。

 仲間である筈の存在が本気で渚を倒しに来ていた。

 三対一の状況に渚は笑う。

 余裕からくるものではない。こんな状況になった経緯を思い出した苦笑だ。

 そんな渚を前にして三人が戦意を高めた。

 

「流石に強ぇ、でも今の俺ならっ! やるぞ、ドライグ!!」

「……全力で叩きに行きます」

「僕も今回は取りにいかせてもらうよ」

 

 やる気満々のお三方。

 どうやら渚はまだまだ本気を出していないと勘違いしたようだ。

 正直、いっぱいいっぱいである。

 こんな状況なだけに渚はこう思ってしまう。

 

 ──どうしてこうなった?

 

 そう、それは今から十日前のあの日から始まったのだ。

 

 

 

 

 ●○

 

 

 

 

 いつもの放課後のことだった。

 渚はオカルト研究部の部活で、ゆったりとした時間を過ごしていた。

 新メンバーである一誠やアーシアも参加しているので、この部屋にはオカ研の全員がいることになる。

 少しピリついた雰囲気を感じる部室。

 原因は部長であるリアスだろう。机の上で指をトントンと叩いてる彼女は何処か落ち着きがなかった。

 その様子を一誠がチラチラと盗み見ている

 恐らく二人の間で何かあったのだろう。

 

「イッセー、ちょっと」

「ん、なんだよ」

 

 渚が気になって一誠を誘うと部室から出る。

 そして少し離れた廊下で誰にも聞こえないように一誠に聞く。

 

「グレモリー先輩と何かあったろ?」

「わ、分かるのか?」

「主にお前の態度でな……。話し難いことなら無理には聞かないけど?」

 

 その言葉に考え込む一誠だったが一人頷くと渚を見た。

 

「いや、言うよ。……昨日、夜中に部長が来たんだ」

 

 一誠いわくリアスから肉体関係を迫られたという。

 渚は驚くと同時に考える。あのリアスが一誠にそういうことを求めた理由が気になったのだ。

 彼女は悪魔だが身持ちが固い。一誠に対して好意的なのは確かだが、いきなりそんな行為に及ぶ女性ではないはずだ。

 渚の考えを肯定するように一誠もリアスが何かから逃れるために夜這いに来たと説明した。

 そして彼女を追って、謎のメイドまで現れたそうだ。

 

「お前、一晩のうちに凄い体験したな……」

「言うな。童貞を捨て損なって凹んでる」

 

 渚が感嘆(かんたん)すると一誠が悔しそうに視線を逸らす。

 ふと部室の方が騒がしくなった。同時に渚は異質な気配を感じ取る。

 一誠が何事か、と目を合わせてきた。

 

「部室に誰か来た。数は二人……人間じゃないのは確かだ」

「人間じゃない?」

「ああ、これは悪魔だ」

 

 人より魔が濃い雰囲気を(かも)し出す存在などそれしかいない。どうやら部室に知らない悪魔が転移してきたようだ。

 言い争うような声が聞こえ始める。それを耳にした渚と一誠は早足で部室に戻った。

 扉を開くとオカ研メンバーに混じって見慣れない男と女が立っている。

 ゾクリと背筋が凍る。

 

「(……なんだ、この(ひと))」

 

 男の後ろに立って瞑目(めいもく)するメイド服の女性。

 体内に宿す魔力の質と量は今までに感じたことのないほどに濃密で膨大だった。才気溢れるグレモリー眷族の全員を()しても届かない程である。

 驚愕する渚の視線に気づいたのか、メイドが瞳を開いて静かに見返してくる。

 何かを探られているような視線を一身に浴びる中で男の方が渚と一誠へ目を向けた。

 

「誰だ、コイツら?」

「彼らは私の仲間よ、ライザー」

「あ、そ。……じゃあ結婚式場の下見に行くぞ、リアス」

 

 興味なさそうな男の視線がリアスに戻る。

 

「行かないわ。前にも伝えたけれど貴方と結婚するつもりはないの」

「互いの両親が決めたコトだ、諦めな」

「……それでもよ」

「ワガママな女だな。いいから来い」

 

 ライザーと呼ばれた赤スーツの男がリアスの肩を強く掴んだ。

 リアスの顔が苦悶に(ゆが)む。

 渚を含むオカ研メンバーが止めようとしたが矢先に一誠が前に出る。

 

「待てよ! 気安く部長に触れるんじゃねぇ!」

「お前は関係ない、引っ込んでろ」

「あるに決まってんだろ! 俺はリアス・グレモリーさまの"兵士(ポーン)"だ、愛しのご主人様に手を出す奴は許さねぇ!」

「イッセー」

 

 リアスが感激の笑みを浮かべた。嬉しそうにするリアスに対してライザーが苛立つ。

 

「うるさい奴だ。……グレモリー家とフェニックス家の婚姻は互いの当主が望んだコトだ、お前みたいな雑魚の出る幕じゃないんだよ」

「部長は嫌だって言ってんだろ、お前は用無しだからさっさと帰れよ」

「……用無しだと? この俺が? ムカつく野郎だな、燃やし尽くそうか」

「やめなさい、ライザー!」

 

 リアスの叫びを無視して一誠を焼こうと右手を翳すライザー。

 炎が猛り、殺意が高まる。間違いなくライザーは殺す気だ。

 一誠も相手の本気に気付き、慌てて"赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)"を装備しようとするが遅い。

 

「死ね」

 

 炎が荒れ狂う。肌を焼く熱は間違いなく、人の耐えられる温度を越えた領域にある。

 明らかな敵対行動だ。

 祐斗が魔剣を装備し、小猫が拳を構え、朱乃が雷を纏う。

 唯一戦う術を持たないアーシアですら誰かが炎に焼かれた場合を考えて治癒の光を溢す。

 だが誰よりも早く動いたのは渚だった。

 左手に刀を呼び寄せると鯉口を切る。

 鞘より放たれる銀の剣閃。

 ライザーの炎を掻き消した渚の剣は首筋を裂く寸前で停止する。

 

「動くな、出来れば穏便(おんびん)に済ませたい」

「き、貴様!」

 

 炎が霧散(むさん)するのを見てライザーが渚を(にら)む。

 内心で『……やっちまったよ』と渚は思うが後悔はしていない。ライザーは渚の身内を殺そうとしたのだ。刀を抜く理由などそれで十分だ。

 

他人(ひと)の庭で好き勝手やったんだ、相応の覚悟はしてるんだよな?」

 

 渚が冷徹に言い放ち、ライザーの首筋に刀を突き立てる。ライザーという悪魔がどのような(やから)かは知らない。ただ自身の身内に対して何か事を起こそうとするなら許してはおけなかった。

 渚が戦意で牽制する。どうライザーが動くか慎重に見極めていると彼は下を向いてブツブツと独り言を始めた。

 

「……クソ、クソ、一体なんなんだ? 誰も彼も俺の言うことを聞きやしねぇ」

 

 自問自答を繰り返すライザー。

 明らかに普通ではなくなった彼に渚は警戒する。まるで導火線がチリチリと火で焼かれるようにライザーの内にある魔力が燃焼するのが見えたからだ。

 

「……ぶざけやがって、何も知らない(くせ)に俺をバカにしやがる!!」

 

 ライザーが(よど)んだ瞳で渚を睨むと再び炎が放出される。周囲を燃え上がらせる火炎が背中に集まり、翼のような広がりを見せた。

 

「炎の……翼!?」

「俺は、俺こそがライザー・フェニックスだ! この名が何を意味するか、理解しているかぁ!」

「……フェニックス!? 不死鳥か!」

「物知りだな! 褒美だ、身を持って味わえ!!」

 

 ライザーが大きく飛び退きながら背中の炎から火球を放出して渚を攻撃する。本来なら回避すべきだが場所が場所なだけに(かわ)すことも(はじ)くことも難しい。

 やってくる火球を斬り捨てて無効化し続ける。

 (いく)つかのものを上手く消失させると僅かな隙が出来た。

 反撃のシミュレーションを開始する。

 

「(距離を取られた。"輝夜(かぐや)"を使うには遠い、極致(きょくち)の"貌亡(かたなし)"なら……いや(せま)すぎる。迂闊(うかつ)に使えば周囲も細切れだ)」

 

 最適な攻撃手段を算出していると刀からある"技"が伝わってくる。

 

「(これは……。分かった、やってみるよ)」

 

 遠くで譲刃が(うなず)いているのを感じた。

 渚は抜き身の刀を水平に倒すと弓のように刀の(つか)を引く。

 

「おいおい、なんだその構えは? 投擲か? まさかこの距離で"突き"とは言わねぇよな?」

「ご名答だ。──刻流閃裂(こくりゅうせんさ) 雷霆(らいてい)!!」

 

 轟音が如くの踏み込みと刹那の輝きを体現する刃先。

 雷光を思わせる突進は距離を無意味にし、真っ直ぐな突きがライザーの肩に命中する。

 

「がぁ!」

 

 ライザーが痛みに顔を(ゆが)ませた。

 鋭い突進力を(ともな)う渚の技は部室の壁を軽々と突き破って教室を三つばかり越えていく。

 黒板に張り付けになった状態でやっと止まるライザー。

 爆発的な突進による突きは間違いなくライザーの肉を貫き、骨を砕いた。

 

「──ッ!」

 

 しかし渚はすぐに距離を取る。

 肩から流れる筈の血液はなく、炎が傷口から吹き出ているためだ。

 

「クソ人間が。痛ぇじゃねぇか」

「……傷が消える?」

 

 深傷(ふかで)だった傷がみるみる塞がって行く。

 

「俺はなぁ、由緒正(ゆいしょただ)しきフェニックスの血を引く悪魔だ。不死鳥の名の下に、どんな傷だろうとこんな風に治んだよ!!」

 

 悪い冗談だ。

 つまり生半可な攻撃は無駄だということ。

 渚が距離を置くと炎の翼を生やしたライザーが攻撃を開始した。

 炎による猛攻は旧校舎を揺るがす。 

 

「チ、派手に燃やしやがる! 時間を掛けるとロクなことにならないってのに!」

 

 渚は自身の被害よりも未だ新校舎に残る生徒を心配する。いくら旧校舎が離れた場所にあるといっても同じ敷地内だ。百歩譲って目撃されるのは良い。だが人知を越えた悪魔との戦闘に巻き込んだりさたら最悪だ。

 選択肢は二つだ。

 ライザーに勝つか負けるか。

 渚は冷静に相手を測る。再生能力は脅威だが攻撃に関してはそうでもない。直撃は危ういが直線的な攻撃は避けるのは容易(たやす)い。既に思考が戦闘モードに移行している渚は相手を打倒する方法を模索(もさく)する。そして、この何ヵ月かで培われた戦闘経験が答えを導き出す。強靭な再生能力を持つ存在を殺す方法は大体決まっている。

 心臓を潰す、首を跳ねる、そして塵一つ残さず消滅させる。

 この三つが主な手段だ。

 アーシアなどには見せたくないが、幸いオカ研の部室からは離れている。

 

「……仕方ない、首を()ねるか」

 

 自分でもゾッとするような声だった。

 それでも躊躇がないのは、渚の本質がこういう事に慣れてしまっているからだろう。

 かつての自分が相当にヤバイ奴だったという予想が真実を帯びてきた。

 渚は頭を振って切り替える。今はライザーの処理が先だ。

 刀でライザーの首を狙う。戦闘技術という点では渚の方が数段勝っている。──落とすのはそう難しくはない。

 

「それは困ります、どうぞ再検討を」

 

 静かで冷淡な声が渚の耳に届く。

 瞬間、全身が巨大な物体に弾かれた。旧校舎を破壊しながら転がる渚だったが腕をバネにして飛び起きる。

 

()ぅ……」

 

 口の中で鉄の味がすると激しい鈍痛(どんつう)が肉体全体に広がる。

 何事かと視線を上げてライザーの方を見れば、彼を庇うようにメイド服の女性が立ちはだかっていた。

 彼女の魔力弾が直撃したのだろう。

 

「急な無礼を謝罪します、ライザーさまを任された身として介入させて頂きました。私の名はグレイフィア・ルキフグス、以後お見知りおきを」

 

 優雅(ゆうが)に一礼する。

 ライザーも彼女の背後で呆気(あっけ)に取られている。渚は痛みに耐えながら唇から流れた血を乱暴に拭き取る。

 巨大な魔力と存在感を秘める謎のメイド。戦えばどうなるか分からない強者だ。

 だが渚は心の中の恐怖を怒りで()()えた。

 

「貴方が何者かは知らない。けど、そこの男は俺の友人に害を()そうとした。それに加勢するのなら……斬るぞ」

 

 グレイフィアが構えを取ると背後より魔方陣が展開した。濃密な魔力の本流を身に受けながら渚は刀を納めて腰を低くする。

 相手は格上。手加減など考えてはいけない。渚は自身の霊力と刀をシンクロさせて力を解放する準備をする。

 繰り出すは最強の一つ、輝夜(かぐや)貌亡(かたなし)

 

「この力の奔流(ほんりゅう)は……。貴方は何者です?」

 

 厳しく問い詰める口調になるグレイフィア。

 

「ただの学生……のつもりだ」

「ただの学生が何故、あの者と同じ気配を(まと)っているのです」

 

 渚が意識を刀に集中するとグレイフィアの目が見開く、明らかに何かに驚いている様子だった。

 だが今は無駄な思考している余裕はない。ただひたすらに斬る事だけを考える。

 

「……問答は無用ですか、随分と好戦的なのですね」

「好戦的? ここまで好き勝手されたんだ、嫌でもそうなる」

「他人の危機になると力を振るうタイプの方ですか。……確かに礼を()いたのはライザーさまですね」

 

 魔方陣が消失すると戦意も消えた。

 

「やらないのか?」

「不確定要素も多いので退()かせてもらいます」

 

 グレイフィアが背後のライザーへ視線を向ける。たじろぐライザーは彼女の圧力に呑まれているのだろう。

 

「ライザーさま、リアスお嬢さまの眷族を亡き者にしようとしたのはやり過ぎかと」

「……ちっ、わかった。あなたに逆らうほど愚かじゃないつもりだ」

「ご理解頂き感謝します。……ですが婚姻の件は重要事項です」

 

 そう言って渚とライザーから離れたグレイフィアはコツコツと靴を鳴らしてオカ研の部室へ歩いてくとリアスの前に立つ。

 

「リアスお嬢さま。この件は悪魔らしい解決方法で決着をつけてはいかがでしょうか?」

「どういうこと?」

「悪魔の間で行われる"レーティング・ゲーム"です」

 

 その言葉を聞いて大きく反応したのはリアスだけではなかった。

 

「俺にリアスとゲームをしろと言うのか、グレイフィア殿」

 

 ライザーが妙に食いつく。まるでゲームに対して乗り気ではないと言いたげだ。

 だがグレイフィアは頷く。

 

「フェニックス家も同意なさるでしょう」

「……し、しかし」

「ご安心を。結果がどうあれ敗者を愚弄(ぐろう)することは私が許しません」

 

 敗者を馬鹿にした者は自らが誅するとグレイフィアは言う。その姿を見たライザーは顔を歪ませつつも頷く。

 

「……いいぜ、やればいいんだろ。リアスはどうなんだ?」

「グレイフィア、このゲームに勝ったら結婚の話は無くなるのね?」

「貴女が望むのならば、このグレイフィアが責任を持って」

「なら、やるわ」

「結構。では試合会場の用意などは私が進めておきます。なお敗者は勝者の言い分に対して絶対服従となりますが、よろしいですね?」

 

 試すような口振りにリアスは同意する。

 そしてライザーは渚を睨み付けた。

 

「お前はどうするんだ?」

「何?」

「お前が悪魔じゃないのは分かってる。だからこそフェニックスの悪魔が()()野郎(やろう)にコケにされたと知られたら評価が下がる、潰してやるから参加しろ」

 

 渚がどうしようか迷う。

 ライザーは渚をリアス側に付けてもいいと言っているのだろう。

 こればかりは采配者であるグレイフィアの判断に委ねるしかない。

 

「残念ですが、それではパワーバランスが(いちじる)しく(かたむ)いてしまうので許可は出来ません」

「な! グレイフィア殿、俺よりもコイツが強いと(おっしゃ)るのか?」

「はい。青井さまはライザーさまを倒せる領域にいます」

「……バカな、俺は上級悪魔だぞ?」

「事実よ、ライザー。渚は強いわ、人間だからと言って下に見ない方がいい」

 

 リアスの言葉にライザーが驚愕する。

 

「こんな野郎が俺よりも上だと? あり得ないだろ」

「ご納得いかれないようですね。……彼と戦いたいのですか、ライザーさま」

「無論ですよ、俺はこんな野郎に負けん」

「委細承知しました。──蒼井さま」

「なんですか?」

「リアスお嬢さまの関係者として、貴方にもゲーム参加して頂きます」

 

 丁寧な口調だったが、有無を言わさない圧力を感じる。

 端的(たんてき)に言えば(ことわ)ればあとが怖い。この女性は物静かだが怒らしたらダメなタイプの人物だと優れた第六感が告げてくる。目を付けられたのが運の尽きだ。渚は渋々であるものの了承することにした。

 

「……わかりました」

「では、詳細は後日お伝えいたします」

 

 こうしてライザーとグレイフィアが転位陣を使い去っていく。

 またとんでもない事に首を突っ込む羽目になる。

 二人の背中を見送った渚はそんな予感を抱えながら深い溜め息を吐いた。

 

「絶対にあのメイドさんには逆らわないことにしよう、少しステアに似てるところあるし……」

 

 

 

 

 ●○

 

 

 

 

 人間界より冥界に帰還したグレイフィア・ルキフグスはライザーと別れを済ませて一人廊下を歩く。

 自らの主であり夫でもあるサーゼクス・グレモリーに報告するためだ。

 魔王が使う執務室の前でノックをするとドアを開く。

 

「戻りました、サーゼクス。早速、例の件の報告を──」

 

 グレイフィアが夫が座っている筈の机に目を向けて言葉を失う。

 見慣れた場所に見慣れない者が居たからだ。

 机の前に出て、珍妙なポーズを取っている珍妙な存在。

 簡単に言えば特撮戦隊に出てきそうなタイツとフルフェイスメットを着けた真っ赤な"何か"。

 グレイフィアは無言で攻撃用の魔方陣を展開する。

 それに気づいた真っ赤なタイツ男が両手を大きく振って叫ぶ。

 

「待て、待ってくれ! 私だよ、グレイフィア!?」

「何を慌てているのですか? 大丈夫、理解してますよ、サーゼクス」

 

 極めて冷静に、全身真っ赤なタイツ姿となっている夫に言葉を返す。

 どうという事はない、サーゼクスは大事な魔王の仕事を怠けて特撮のコスプレに走っているのだ。

 ならばお仕置きも兼ねて一発お見舞いしてあげようと思っただけだ。

 更に魔法陣を増やすグレイフィア。

 

「誤解しないでくれ。こ、これも仕事だ!」

「これの何処が?」

「ほら、アレだ。人間界と比べて冥界には娯楽が少ない。だからこういうキャラクター性の濃いマスコットを作って反映させてはというアイディアだよ」

「素晴らしいですね」

「わかってくれるかい!」

「ええ、その考えは同意です。今の冥界は娯楽と言えばレーティング・ゲームに集約される。ですがこれはあくまで大人の娯楽、これから生まれてくるだろう子供たちから見れば理解できない物でしょう」

 

 グレイフィアの言いようにサーゼクスは大きく首を縦にする、全身タイツで……。

 

「そう、それなんだ。これからの事を考えればこれは必要なファクターだ。だからセラフォルーの真似をしてだな」

「全身タイツに走ったと?」

「カッコいいだろう? ──魔王戦隊サタンレンジャー、見☆参」

 

 全身を使った決めポーズが炸裂する。

 瞬間、爆発がサーゼクスを襲った。

 

「何故だ、グレイフィア!?」

 

 素で驚くサーゼクス。

 攻撃した意味はない。ある意味サーゼクスの言い分も合っている。だが自らの夫が全身タイツで決めポーズをする姿を見て、耐えられなかったのだ。

 

「魔力が滑りました」

「魔力って滑るのかい!?」

「はい、滑ります」

「聞いたことないのだが……」

「滑ります」

 

 笑顔で凄まじい威圧感を出してくるグレイフィア。

 サーゼクスがコクコクと同意する。逆らえば更に魔力が滑るだろうことが理解できたからだ。

 

「とりあえず着替えてください」

「この姿、結構気に入ってるのだけど……」

「着替えなさい」

「ハイ」

 

 有無を言わさずに魔王の正装へ着替えさせる。

 それから数分してから見慣れたサーゼクスが席に着く。

 その表情は些か落胆が見え隠れしていたがグレイフィアは無視した。

 

「リアスお嬢さまをライザーさまに会わせるおり、蒼井 渚さまと接触してきました」

「そうか。直接会ってどうだった?」

「駒王の残留する戦力としては優秀です。内面も仲間想いで好感を持てます、リアスお嬢さまの協力相手としては申し分ないかと。……ですが」

「何か思うところでもあるのかい?」

 

 サーゼクスが隠された真意を問う。

 グレイフィアは数秒だけ瞑目し、口を開く。

 

「……渚さまとライザーさまの間に小競り合いが起きたので止めたのですが、一瞬殺されると思いました」

 

 サーゼクスが顔をあげてグレイフィアを真っ直ぐ見た。

 自分の妻は強いという信頼があるからこその驚き。

 最上級悪魔の中でも更に上位に位置する戦闘者がグレイフィア・ルキフグスという女性なのだ。彼女に"殺されると思った"などと言われる存在などそうはいないだろう。

 

「蒼井 渚くんとは、そこまでの強さなのか?」

 

 サーゼクスの質問にグレイフィアがゆっくりと首を振って否定した。

 

「強さは最上級悪魔の手前といった所です」

 

 おかしな話だった。確かにあの若さで最上級悪魔に届くのは凄まじいだろう。

 だが、それでは格上であるグレイフィアに敗北はあり得ない。彼女は慢心などという言葉から遠い場所に立っている悪魔だ。相手を侮らず、常に己の全霊で対処する性格である。団体戦ならまだしも一対一で渚に殺されるなど想像できない。

 

「つまり潜在能力の高さが驚異という事かな?」

「少し違います。潜在能力も高そうですが、私が"死"を予感したのはもっと違う部分になります。……彼の持っていた剣……いえ刀ですね。あの刀が帯びていた気配を私を知っているのです、大分昔ですが貴方も感じたことがある」

「……刀?」

「ええ、あれは"聖書の神"が纏っていた気配によく似ている」

「それは事実かい?」

「感じたのは刀を抜こうとした一瞬ですが……間違いない。私が"聖書の神"の力を忘れるはずがない。あの圧倒的な暴力を……」

 

 グレイフィアが顔を歪ませる。

 彼女は歴戦の猛者だ。かつて起こった三大勢力の戦争にもサーゼクスと共に参加していた。

 だから知っているのだ。

 "聖書の神"の恐ろしさを……。

 未だに何故死んだのかが謎な天涯の怪物。

 数ある神の中で"最強"と言われるのが"インド神話のシヴァ"ならば"最凶"は間違いなく"聖書の神"だ。

 

「敢えて聞きたい。それは"神 器(セイクリッド・ギア)"だからではないのかな?」

「確かに"神 器(セイクリッド・ギア)"からも似た気配がするのは知っています。それでも蒼井 渚さまの刀から溢れていた物は更に濃い神氣です、いえ神格とも言える」

「そんな武器を所持している彼は何者なのかな」

「……以前、徹底的に素性を調べましたが"蒼井 渚"という人間は何処にも実在していませんでした」

「そして彼自身にも記憶がないときている、か。グレイフィアが警戒するものわかるね」

「はい。なので次はアリステア・メアさまという方に接触しようと思います」

「あまり無茶はしないように、これは魔王としての命令だよ?」

 

 真剣な口調のサーゼクスにグレイフィアが頷く。

 蒼井 渚という半年ほど前、急に駒王に堕ちてきた男。

 その時に大ケガを負っていたようだが理由は不明。

 彼の片隅にいるアリステア・メアという女性は凄まじい戦闘力を所持していると報告がリアスより上がっている。

 どうにも謎の多い二人組を警戒するなというのは無理な話だ。

 しかし駒王の為に尽くしてくれているのも事実である。

 サーゼクスは大きな興味に惹かれた。

 

「早く会ってみたいものだ。その少年と少女に……」

 

 まだその時ではないと自覚しつつも、紅の魔王は冥界の空を眺めながら人間界へ想いを()せるのだった。

 





データファイル


刻流閃裂(こくりゅうせんさ)』又は『刻流』。

渚が扱う戦闘式で主に刀を使った戦闘方法。
別名、”対霊決戦術零式(たいれいけっせんじゅつぜろしき) 千叉(せんさ)”とも言う。
剣の技術に合わせて霊氣と呼ばれる異能も操る必要がある超高難易度な異能剣術。
しかし渚は無自覚に霊氣を使っている。
極致と名称された奥義は概念を無視した攻撃を繰り出すため魔法じみた現象をも起こす剣である。


輝夜(かぐや)

超速の抜刀術。
”刻流”の中でも最も速く鋭い技の一つ。
極致は”輝夜(かぐや)貌無(かたなし)”。


雷霆(らいてい)

”刻流”の技の一つ。
脚力に霊気を纏う事で爆発的な突進を繰り出す。
貫通力に優れており、ちょっとやそっとじゃ止まらない豪快な技。
迅雷が如くのスピードにより、破壊力は”輝夜”を上回る。
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