ハイスクールB×B 蒼の物語   作:だいろくてん

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特訓、始まります……。
なお渚は放置な模様。



力への意思《Fight and Mind》

 

 ライザーとのレーティング・ゲームが十日後に決まり、リアス一行はその戦いに勝利するため、連休を使った合宿訓練を実行する事になった。レーティング・ゲームへの参加が義務づけられた渚も合宿への参加は当然の流れとも言える。

 合宿先は駒王からは離れた山奥の別荘になるらしく、渚は数日分の着替えと日用品をバックに入れて準備万端で集合場所に赴く。男の日用品など高が知れているので荷物は多くない。

 そう思っていたのだが……。

 

「重すぎる!! なんでだよ!?」

 

 リアスたちとは別行動で目的地に向かう最中、渚が遂にツッコミをいれた。自然溢れる山道で自分の体積を越える大荷物を(かつ)いでいたからだ。

 自身の荷物など、この中の一割程度にも満たないだろう。隣では渚と共に行動しているアーシアが心配そうにオロオロとしている。彼女の荷物も、渚の巨大すぎるバックの一部と化しているからだ

 しかしアーシアはまだいい。渚と同じく最低限の物しか持参していない。(むし)ろ女の子なのに少なすぎて渚が昨晩に詰め込んだくらいだ。

 問題はもう片方の荷物である。

 

「ナギ、ペースが落ちてますよ?」

 

 容赦のない言葉は勿論アリステアである。

 渚とアーシアとアリステア。たった三人で目的地に向かっているはずなのに荷の量がおかしい。明らかに渚の持つバックは三人分をオーバーしている。

 一歩進む(たび)、固い土の道に足の裏が数センチ沈むという重量は苦難の一言に尽きた。

 脂汗(あぶらあせ)を流しながら渚はアリステアを見る。この荷物の大半は彼女が持参したからだ。

 

「……お前、なに持ってきた?」

「本を七冊、着替えと日用品」

 

 そこまでは許容の範囲だ。アリステアも女子なのだ、お泊まりに必要なものが少々多くても文句は言わない。

 しかしそれだけでは、この量にはならない。

 そして次の言葉を聞いて渚は唖然(あぜん)とする。

 

「──加えて無使用の空薬莢と弾頭をそれぞれ1000、ガンパウダーを数種類、プレス用の機械、リサイジングオイル、パウダーメジャー、シャルホルダー、プライマートレー、ケーストリマーとタンブラー、ダイスセット、雷菅、SIG SG550、トーラス・レイジグブルくらいですよ」

「え、なんだって?」

 

 アリステアの言葉を聞いた渚は酷い立ちくらみに襲われた。

 この白雪の美少女は何を言っている?

 最初らへんの物は分かるが、後半になるにつれて聞いたことのない単語のオンパレードだ。こんな知らない単語が出てきた場合はロクなものじゃないのは理解している。……というか何故、山にプレス機? それに新品の空薬莢と弾頭? ガンパウダーって火薬じゃない? コイツは山奥で何をしようとしているのだろうか……。

 

「補充と研究です」

 

 渚の思考がパンクしそうになる。……なので考えるのをやめた。アリステアの方からアーシアに目を向ける。

 

「だ、大丈夫ですか? やはり私もお持ちします」

「──大丈夫だ、問題ない」

 

 この台詞を言うときは大体の場合が大丈夫じゃない。

 それでも華奢なアーシアに弾丸製造用プレス機なんて持たせれないし、よく分からない物も預けたくない。

 渚はアーシアの心配を受けながらも一歩一歩、山の奥へ進んでいく。

 土肌の山道はそれなりの坂道だ、いい訓練にもなる。

 そんな時だ、人影が見えた。

 

「ぜー、ぜー……」

 

 後ろより肩で息をした一誠が歩いてくる。どうやらグレモリーの眷属たちもやってきたようだ。

 

「うわ……」

 

 自分に勝るとも劣らない量の荷物を抱えている友人を見た渚はなんとも言えない気分になる。

 その両隣ではメイド服を来たレイナーレとミッテルトが渚と似たような顔をしながら並んでいる。

 ふとミッテルトが渚たちに気づいて大きく手を振った。

 

「おぉ! ナギサにアーシア、ウチも来たぞ!!」

 

 満面の笑みのミッテルト。

 どうやらピクニック気分を大いに楽しんでいるようだ。

 

「よ、ミッテルト」

「おはようございます、ミッテルトさん」

「オス! あはは、イッセーとおそろとか超ウケる! 何持ってきたんスか?」

「プレス器とか火薬とかが入ってる」

「え? なんに使うんス、ソレ?」

「さぁ、ステアに聞いてくれ」

「あぁー、イッセーがトロいんで押してこよう」

 

 そそくさと逃げるミッテルト。そして少し離れた場所でフラフラしている一誠の影に隠れた。

 

「嫌われたものですね」

 

 そんな事を言いつつもクスクスと笑うアリステア。

 

「お前な、笑うとこじゃねぇだろうに」

「面白いじゃないですか、小動物のように逃げる姿が」

「少しは歩み寄ろうぜ……?」

「彼女次第でしょう? 私は別段、どちらでもいいのですから」

 

 自分からは歩み依る必要がないと断言するアリステア。

 彼女は人に好かれる気がないのだろう。だから他人が自分をどう思うが関係ないのだ。

 

「あ、あの、私はアリステアさんとミッテルトさんに仲良くして貰いたいです」

 

 控えめに手を挙げるアーシア。

 元々、争い事が苦手で優しい性格だからなのだろう。

 共通の知り合いの仲が悪いというのに思うところがあるようだ。

 

「貴方がどうこう出来る問題ではないでしょう、これは私と彼女の問題なのですから」

「うぅ、やはり皆で仲良くというのは我が儘なのでしょうか」

「善意の押し付けですね」

 

 断言するアリステアに意気消沈するアーシア。

 渚がフォローしようとするが、その前にアリステアが一息ついて口を開く。

 

「──私に対する恐怖を克服(こくふく)させるのが初めにすべき事です」

「え?」

「ミッテルトと私の仲を改善する為の方法です。今のままでは、まとも対話が成立しない」

 

 アリステアの助言に表情を明るくするアーシア。

 

「は、はい、頑張ります!」

 

 トコトコとミッテルトの場所へ走り出すのを見送ると一誠を置いてきたのかレイナーレがやってくる。

 

「聞こえたわよ、アンタはもっと冷血なヤツかと思ってたわ」

「貴方に冷血と言われるほど親しんだ覚えはありませんが?」

「普段の態度に加えて色々聞いてるのよ、大体は察せるっての」

「そんなにやんちゃをした覚えはないですよ、私は」

「よく言うわ、クラフト・バルバロイとカラワーナとの戦闘、聞く限りじゃ容赦なく弾丸を撃ち込んだそうじゃない」

「頭や腕を破壊した事ですか? あの程度で冷血とは心外ですね」

「ふん、冷血な上に傲慢(ごうまん)とはムカつく女ね」

「ダメですよ? 冷血で傲慢な人間にそんな挑発をしては……。その達者な口を閉ざしてしまうかもしれません」

 

 不機嫌な顔の女と冷笑を張り付けた女が(にら)み合う。

 中々どうしてレイナーレは度胸がある、いや有りすぎる。

 明らかに"力"では負けているアリステアに反発している。アリステアがその気になればレイナーレの命など簡単に刈り取るだろう。

 

「俺を(はさ)んでの睨み合いは止めてくれ」

 

 二人の視線を断ち切るように前に出る渚。

 すると両者から殺伐とした雰囲気が消えた。

 

「少し大人げなかったですね」

()えたわ」

「レイナーレさん、一誠との同棲は慣れた?」

 

 レイナーレとミッテルトは一誠の家で暮らしている。

 色々と問題はあるがリアスが上手く根回しをして今に至っているのだ。

 

「慣れる訳ないっつの。なんで私が人間と悪魔が住む家で同棲しなきゃなんないのよ」

「それは貴方が"赤龍帝"の眷属だからでしょう。また勝手に暴走して龍にでもなられたら迷惑なのですよ」

 

 詰まらない質問をするなというニュアンスを含めたアリステアの言葉。

 レイナーレの中には"赤龍帝"の力が残留している。魂と完全に溶け合っているので切り離す事が出来ない。だからこそ親に当たる一誠の側に置いておく必要があった。

 真の"赤龍帝"と共にあれば力は安定し、暴走の危険性がなくなる。

 本来なら一般家庭にレイナーレを在住させるなど馬鹿な選択だが一誠の中にいるドライグの意思一つで無力化が出来るので今の状況で落ちついている。

 

「ご主人様の残りカスのせいで酷い日常になったわ」

「顔色は良くなったと思うぞ、前よりは暮らしやすい生活になった証拠じゃないか?」

 

 口では文句を言いつつも、レイナーレの見た目は変わっている。倒れそうだった歩調はしっかりしており、青ざめた顔も今は健康そのものだ。

 アリステアの施術で神器を剥がされたおかげである。

 自分では気づいてなさそうだが心の底から嫌悪している様子もない。

 

「……うっさいわね、刺し殺すわよ」

「うん、元気そうでなにより」

「会話が成り立っていませんよ、ナギ」

 

 そんな会話をしていると背後の一誠が渚たちに追い付いた。渚に勝るとも劣らない量の荷物を背にした一誠へ苦笑を浮かべる。

 

「大丈夫か? つかなんだその荷物は?」

「お、お前こそ」

「ステアの分が多くてな」

「お、俺は木場以外のオカ研メンバーの荷物」

「ん? リアス先輩たちが見当たらないが?」

「転移で行った。俺は訓練がてら歩きだとさ。……とほほ」

「まさに悪魔だな……」

「部長って、いつもは優しいけどたまに鬼になるから……」

 

 渚と一誠が互いの荷物を見合わせて言う。

 積載オーバーな二人組、なんというか言葉が見つからない。笑い合うには辛く、苦しみを愚痴る気にもなれなかった。

 

「……行くか」

「……おう」

 

 渚と一誠は黙ったまま山道を登り始める。

 それから的地に着くまで一時間以上も掛かったのだった……。

 

 

 

 

 ●○

 

 

 

 

 今回の強化合宿の狙いはライザーとの戦いに勝利することに集約される。

 渚はグレモリー陣営として戦うつもりなので各部員との連携が訓練の基礎になると思っていた。

 しかし始まってみれば一誠のシゴキがメインで拍子抜けだった。朱乃から魔力操作の基礎を学び、祐斗とは竹刀で打ち合い、小猫に至っては怪力の打撃から逃げる鬼ごっこだ。

 何故か渚は訓練をせずに一誠が鍛えられるのを眺めているだけの時間が過ぎていく。

 

「ステア」

「どうしたのです」

 

 合宿先の敷地で一誠が祐斗と竹刀の打ち合いをしてながら渚はアリステアに話をは振る。

 アリステアは外だというのに隣で本を読んでいた。日本語ではない文字が並ぶので詳細は不明だ。

 

「俺、訓練してないけど大丈夫か?」

「他の部員がアーシアと兵藤 一誠に付きっきりなんで寂しいのですか?」

「確かにあの二人の訓練は必要な事だけど、俺を組み込んだ連携も重要になると思うんだよ」

 

 渚は個人での戦いに慣れすぎている。

 だから他人に合わせるのが極端に苦手だ。それを補うため、連携の訓練を学ぶ必要があるのだがリアスからは一向にその誘いが来ない。正直、無言の戦力外通告を受けている気分である。

 

「リアス・グレモリーもバカではないという事ですよ」

「どういう事だ?」

「彼女が貴方を訓練に参加させない理由は三つでしょうね」

「そんなにあるのかよ……、聞かせてくれ」

「一つは自らの力でフェニックス家の者に勝ちたいからですよ。貴方、単独で勝利を掴んでも意味はない。これは本来リアス・グレモリーの問題であってナギは関係ないのですから」

 

 突き放した言い方だが理解は出来る。

 渚はオカルト研究部の部員であるがリアスの眷属ではない。本当ならばレーティング・ゲームに参加する事も許されないイレギュラーである。

 そんな者を使ってもリアスの勝利とは言えないのだ。

 

「前提条件として俺が強いって事で話が進んでるな」

「ナギは自分がどれくらいの実力と自覚していますか?」

「自己評価は苦手なんだが……。少し自惚(うぬぼ)れが入るけど中級から上級悪魔の間くらいだと思っているぞ」

 

 龍すら斬り裂く実力を所有しながら下級悪魔レベルでは通らない。

 最近になって自分の戦闘力が高めだと気づいたからこその評価だ。

 

「そうですか。……木場 祐斗!」

 

 アリステアが急に本をパタンと閉じると祐斗の名を呼ぶ。

 何事かと一誠は渚たちの所を見た。

 呼ばれた祐斗は素早く反応して渚の前に直ぐ様やって来る。

 

「僕に何か用かな、メアさん」

「ええ。兵藤 一誠との訓練を一旦中止してナギと模擬戦をお願いします」

 

 祐斗が面を食らうような顔をする。

 

「いいのかい、渚くん」

「いや、良いも何も……」

「構いませんよ。ナギ、竹刀を受け取ってください」

 

 妙に強く出るアリステア。

 渚も断る理由もないので受けることにした。

 

「分かったよ。イッセー、それ貸してくれ」

「お、おう」

 

 アリステアと一誠が見守る中で渚と祐斗が竹刀を片手に向き合う。

 

「そういえば何だかんだで剣を合わせるのは初めてだな」

「そうだね、手心は無しで頼めるかい?」

「元からするつもりはねぇての」

「嬉しいよ」

 

 笑顔だった祐斗の表情が引き締まる。

 正眼に構える祐斗に対して渚は構えを取らずにいる。

 

「ルールは?」

「無しでいこう。けど一つだけ」

「なんだ?」

「実戦と思ってやってほしい」

「了解だ」

「じゃあ、早速始めよう」

 

 風が吹き、周囲の木々が揺れた。

 木の葉が舞う。その一枚が渚の視界を遮った瞬間に祐斗が忽然と消えると目の前に現れる。

 ──右だ!

 そう直感的に感じると、自らの右側を竹刀でガードする。

 同時に衝撃が手に伝わる。

 

「やっぱり見えてるんだね」

「いんや、けどここに来るのは分かっていた」

 

 祐斗は速い。

 騎士の特性を十全に活かすスピード特化型の剣士だ。その素早さは正に一陣の風であり、常人ならば肉眼で捉える事すら不可能だ。

 しかし渚には見えている、いや見えているというより"来る"という事が分かるのだ。

 それは一般的には"見切り"という。

 姿は見えなくとも気配が祐斗の位置を教えてくれる。

 どんなに速かろうと攻撃が来る場所が分かっていれば先回りして竹刀を設置できる。

 渚の強みは"刻流閃裂"という異能じみた技ではなく、この異常な危機回避能力と無駄を削り落とした身のこなしにある。

 祐斗が攻勢に出るが渚は冷静に全て(さば)き切った。

 

「速度でも勝てないと少し落ち込むね」

「何言ってんだ? 明らかにそっちが速いっての」

「それは違うよ、君はあらゆる攻撃に対して竹刀を先に設置している。それは見切りの速さと身体の速さが僕を大きく上回っていないと出来ない芸当だ。……はっきり言って神業だよ」

 

 全て止められる事を予期していたのか祐斗に焦りも落胆もない。

 渚も竹刀だからと気を(ゆる)めなかった。

 本気でやると言った以上は自身の全力で応えなければと渚は思うからだ。

 

「なら、これでどうだい!」

「……っと!」

 

 祐斗の力任せの剣撃で正面から交差する竹刀。

 

「このまま押し斬らせてもらうよ」

「そいつは……勘弁だ!」

 

 渚は手首を使って竹刀を返す。

 すると祐斗の竹刀が巻き上げられるように宙を舞った。

 

「竹刀を!?」

「ああ、取らせて貰った。……隙ありだ」

 

 渚の胴切りが祐斗を(とら)える。

 豪快な打撃音と共に吹き飛ばされた祐斗だったが危なっかしい足取りで着地する。

 

「ははは、これで僕の胴体がまっ二つかな」

「苦しそうな顔で笑うなよ……」

「ふふ、ごめん。でもこうまで実力差があるとね」

 

 その瞳にあるのは憧憬(どうけい)だ。

 祐斗のそんな視線に渚は戸惑(とまど)っているとアリステアが勝負アリと言いたげにパンっと両手を鳴らす。

 

「ここまでですね。どうですか、ナギ?」

「どうって何がだよ」

「少しは自分の強さが知れたでしょう。鈍感(どんかん)な貴方は気づいていないようですが、本来グレモリー眷属を全員相手にしても問題ないレベルなのですよ」

「全員は()りすぎだろうに……」

 

 流石に誉めすぎだろうと渚は断言しようとしたが、祐斗がアリステアの言葉に頷く。

 

「メアさんの言う通り、君の実力は最上級悪魔に比肩する。であれば僕が勝てる道理はない」

「いやいや俺が最上級悪魔に比肩(ひけん)する? それはないだろ」

「ううん、事実だよ。ここ半年で君が"僕たちの代わり"に相手してきた"はぐれ悪魔"は今のオカルト研究部の面々じゃ手に終えない者だったからね」

 

 祐斗の言葉に渚が呆けた。

 

「"代わり"? どういう事だ?」

「え? 聞いてないのかい?」

 

 祐斗が目を丸くしているのを見た渚は()まし顔のアリステアに視線を向けた。

 

「そう言えば話してなかったですね。私たちが相手をしていた"はぐれ悪魔"の大半はAランクを越える者達です」

「え"」

 

 衝撃の事実だった。

 今まで相手していた"はぐれ悪魔"の(ほとん)どがリアスたちの手に追えない怪物だったのだ。

 そして何故、自分がオカ研の者たちから信用されているかもここで初めて理解した。

 命の危険を伴う強敵との戦いを請け負っていた渚は文字通り命の恩人に等しい。

 

「し、信じらんねぇ。知らず知らずの内に上級悪魔クラスを斬りまくってのかよ、俺……」

「そんなに強くなかったでしょう?」

「いやいや! 何回か、妙に強いの混じってたよな?」

 

 渚の記憶では五回ほど殺されてそうになった事があった。アリステアの介入で助かったのが二回、死ぬ気で倒したのが三回、(にが)い記憶だ。

 

「確かに五体ほど最上級悪魔クラスの"はぐれ悪魔"もいましたね」

「やっぱりかよ!?」

 

 数が合うので間違いない。

 特に一回目と三回目の奴は強かった。アリステアがいなければ死んでいただろう。

 自分が危険な敵の相手役をさせられていた事に不条理さを感じる。

 

「ステア、なんで言わなかった?」

「必要が無かったので……」

 

 恐ろしい事をさらっと言う相棒。

 渚は顔をしかめるが怒りはない。

 彼女がなんとかなると思ったら大体の問題はことなく終わるのを知っているからだ。

 それに渚も、なんだかんだで自身の力で切り抜けている。これも計算の内なのだろう。

 だが、ふと思う。

 

「けど高ランクの"はぐれ悪魔"ってそんなにホイホイ居るもんなのか? 俺、数えるのも億劫(おっくう)なほど"はぐれ"を斬ってるんだが?」

 

 あまりにも数が合わない。渚は毎晩のように"はぐれ悪魔"と戦ってきた。多い日は三~四体は相手をしている。ランクの高い悪魔があまりにも多いのだ。

 

「リアス・グレモリー曰く、半年前に現れた存在からの置き土産だそうです」

「半年前?」

「うん。その時、駒王は大規模な"はぐれ悪魔"の集団に襲われたんだ」

「あれ? 祐斗、"はぐれ悪魔"って群れないよな?」

「本来はね」

 

 渚は多くの"はぐれ悪魔"と戦ってきた。

 しかしどれもが単独あった。複数の時もあったが、それでも二~三体が限度である。

 そんな渚の疑問に答えたのはアリステアだった。

 

「洗脳し、統率していた輩がいたようです。その者は冥界と駒王を直接繋げて大量の"はぐれ悪魔"を用意したとか……。その時に使われた出入り口は早急に閉じたとの事ですが道自体は残っているそうです。"はぐれ悪魔"達はそれを利用してやって来ているのでしょう。今の駒王は世界で最も冥界に近い場所なのかもしれませんね」

「"はぐれ悪魔"は居たんじゃんなくて来てるって訳か。奴等に比べたら人間は弱くて襲いやすいから流れてくるのにも納得だ。というか冥界と人間界って簡単に繋がるものなのか?」

「繋げた者が優秀だったのでしょう。両方の界域を(また)げる道を造るには相応の力量がないと不可能です」

「ソイツはどうなった?」

 

 祐斗に話をふると渚を真っ直ぐ見据えた。

 意味深な視線だ。

 何か言いたそうに口を開くも再び閉じて吟味(ぎんみ)するように言葉を放つ。

 

「死んだ……と僕は思う」

「思う?」

「うん。死体は見つかっていないんだ、でもアレで生きているとも思えない」

「どんな死に方したんだ?」

「地形を変えるほど攻撃を受けたんだよ」

「……そんな事が出来る奴がいたのか、駒王は魔境だな」

「……たまたまね」

 

 返答に困った笑み浮かべる祐斗。

 渚からしたら、まさにクレイジーな存在だ。

 きっと魔王の眷属を借りて戦ったのだろう。

 渚はそう決めつけると竹刀を一誠に返却する。

 

「しかしなぁ、あんまり釈然(しゃくぜん)としない」

 

 一誠と祐斗が再び剣を合わせ始めたのを見ながら渚は一人(つぶや)く。そんな渚の言葉をアリステアが受け止めた。

 

「何がですか」

「あ、いや、自分の強さがね」

「強いという事はそれだけで価値があるのですよ。ナギには力がある、それは喜ばしい筈です」

「嬉しいっちゃ嬉しいんだけど俺って何もしないで強くなってるだろ? 今、一誠がやっているような努力なしで最上級悪魔クラスって言われても違和感しかない」

 

 渚は自分の強さを自覚する。

 誰もが厳しい修業を経て辿り着く場所に自分は立っている。それは喜ばしい事なのだろう。天才という奴かもしれない。けれど実感のない強さが渚に与えたのは高揚ではなく戦慄だった。

 マトモではない、強すぎる。

 自分の戦闘力は一朝一夕で手に入るものなのだろうか……。自分は果たして何者なのだろうか……。自分はこんな技術を何者に対して振るっていたのだろうか……。もしかしたらこの力で悪を()したかもしれない。

 忘れた過去が渚を執拗(しつよう)に駆り立てる。緊張と焦燥(しょうそう)が込み上げるのを(おさ)え切れない。

 

「ナギ、失った過去に翻弄(ほんろう)されるのはやめなさい。貴方はどうしようもない善人です。私が誘った"はぐれ悪魔"との戦いがその証拠でしょう」

「それのどこが善人の証拠なんだよ?」

「では聞きますが貴方はどうして、この半年間を戦いに抜いたのですか?」

「俺には何故か力があった。だから成り行きで戦っただけだ」

「私の誘いを心から否定すれば無理には誘わなかった。きっと貴方にも成り行き以上の理由があった筈です」

「理由……?」

 

 脳裏に浮かぶのは知った面々だった。

 オカルト研究部のメンバーや友人たち、もしもそれらが不条理に亡くなってしまったら……。

 そう考えると全身が身震いする。

 渚は"死"が怖いのだ。自分の"死"もそうだが、もっと怖いのは置いていかれる事だ。

 大切な存在が手の届かない遠くに()ってしまうのが恐ろしくて(たま)らない。

 それは異常なまでの忌避感(きひかん)だった。

 

「今、貴方の脳裏に過った物が理由ですよ、きっと」

 

 見透かしたようなアリステアの言葉。

 

「善人どこか臆病者じゃないか、それじゃあ……」

「何故そうなるのです。真の臆病者は戦わないですよ。自分の為に戦い、その過程で誰かが助かる。不都合があるのですか?」

「むぅ」

 

 言い返せない。

 自分の知る限り、誰かに迷惑を掛けている訳でもないのだ。

 

「そもそも思い出せもしないで前の自分がどうだったなどと悩むのも馬鹿げています。過去に何があったとしても今を生きて未来に進むしかない。自分が異様に戦闘慣れしているのが怖い? そこは『俺って強いじゃん、ラッキー』ぐらいに思っておけば良いのです。どうして貴方は妙な所で真面目なのですか? うじうじ考えても仕方ないのですよ」

 

 アリステアが(まく)し立てるように言葉を紡ぐ。

 きっと慰めも入っているのだろう。

 

「ステアってさ、たまにすげぇ優しくなるよな?」

「失礼な人ですね。私はいつも貴方には優しいでしょう」

「そうかもしれないな」

 

 肯定したのは身に覚えがあるからだ

 だから渚もその慰めに甘える事にした。

 もっと気楽に考える。

 

「んじゃ、強くてラッキーな俺は不死鳥をサクッと倒すかなぁ」

「当然です。負ける要素など在りはしないのですから」

 

 確信を乗せたアリステアの言葉。

 やる気にスイッチが入り、覚悟を決める。

 どんな障害があろうとライザー・フェニックスは倒す。そう覚悟を決めると立ち上がる、今出来ることをするために……。

 

「ステア、自分の実力をもっと知っておきたい。……頼めるか?」

 

 渚の申し出に目を丸くするアリステア。

 余程、珍しかったのだろう。

 そしてポーカーフェイスを崩したことに気づいたのか、すぐに表情がいつものクールフェイスになると笑みを浮かべた。

 

「構いませんよ。こちらとしても試作品の弾丸が出来上がったので試し撃ちをしたかった所です」

「大荷物の原因は弾丸造りのためだったってか」

「ご明察。ここ数日は細かい作業が多かったので体を動かすのもいいでしょう」

 

 アリステアが眼鏡を納めて懐から銃を召喚する。服には銃を隠し持った膨らみはなかったのだが何処(どこ)から出しているのだろうか。

 ともせずリボルバー銃だが以前見た物と比べれば小さい。あくまで比べたらであるが……。

 

「……ていうか銃なんて持ってきてのか」

「当然でしょう。銃のない弾丸はただの鉛に等しい。トーラス・レイジングブルがある事は合宿初日に言いましたが忘れたのですか?」

「…………トーラスなんたらってのが銃だって今知ったよ」

 

 荷物の説明で最後ら辺に似たような単語があったのを思い出した渚が口を引く付かせる。

 

「では"譲刃"を装備してください」

「あいよ」

 

 渚が左手に集中して彼女(譲刃)を呼ぶと刀が装備される。

 それを見たアリステアが優雅に一礼する。

 

「では始めましょう。──全力で手加減してあげるので本気で掛かって来てください」

 

 同時に彼女の持つトーラス・レイジングブル(リボルバー)が火を吹くのだった。

 





データファイル


『トーラス・レイジングブル』

ブラジル製の大型リボルバー拳銃。
マグナムなどといったハイパワー弾仕様の銃であるが特殊素材をグリップなどに使用する事で他のハイパワー銃と違い、比較的撃ちやすいのが特徴。
レイジグングブルとは”怒れる牡牛”の意味である。


『SIG SG500』

スイス製のアサルトライフル。
数あるアサルトライフルの中でも高い耐久性と命中精度を誇り、特に発砲時の反動が少ないと言われており精密射撃に対するアプローチが行われた銃。


*アリステア・メアが使用する全ての銃は彼女によりカスタマイズされており、アストラルコーティングと言う霊的付与がされている。
その影響で強度も精度も純製とは比べ物にならない性能を叩き出す。
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