ハイスクールB×B 蒼の物語   作:だいろくてん

18 / 86

話が全然進まなくてすいません。
構成って難しいです。
では渚VSステア、始まります。



蒼と白《Blade VS Bullet》

 

「アーシアちゃんは、やっぱり魔術に(ひい)でていますわ」

「あ、ありがとうございます」

 

 朱乃がアーシアの頭をよしよしと撫でる。リアスはそれを満足そうに見守っていた。

 アーシアの目の前には魔力で作り出された球状の光がプカプカと浮いている。やはり彼女は肉体を使う直接戦闘よりも魔力による後方支援が向いているのだろう。

 リアスは読んでいたレーティング・ゲームの本を一旦(いったん)閉じた。ここに来てずっと本の虫だったため悪魔と言えど目が疲れてしまう。

 

「あの、少しお休みになられた方がいいと思います」

「ありがとう、アーシア。でも出来ることはしておきたいのよ」

「戦力も経験も向こうが上。ゲームまで時間がない以上は多少の無理はしないといけませんわ」

「流石に理解できてるわね、朱乃」

「これでも貴女の"女王(クイーン)"ですもの」

 

 既に合宿も二日目に突入している。

 一誠もアーシアも(わず)かだが確実に訓練の成果が出てきており、ライザーとの勝負に(そな)えつつあった。

 だがリアスの胸中(きょうちゅう)に余裕はない。

 ゲームには特例で渚も参加する。味方となれば心強いが今回に限っては複雑だった。

 理由は三つある。

 彼の実力でライザーを倒してもリアスの勝利ではない点が一つ。

 共に戦うとしても渚の戦闘力は突出しているのでリアスたちが足を引っ張ってしまう、これで二つ。

 最後の一つは渚が敵になる可能性。

 レーティング・ゲームは多くの対戦方式が存在する。

 通常の対戦もあれば陣地(じんち)の奪い合いなど様々だ。中には三つの陣営が戦うというルールすらあったりする。

 今回は対戦当日にルールか発表されるのだが()(どもえ)が採用された場合、リアスはライザーだけでなく渚も攻略対象にしなければならない。

 初めてのゲームというのに自分の人生を()けているのだ。何があっても絶対に勝たないといけない。だが不確定要素が大きすぎるのも確かだ。

 

「……部長」

 

 リアスの部屋に小猫が訪れる。

 そろそろ祐斗と変わって一誠の訓練をする筈だ。

 

「どうしたの、小猫?」

「……渚先輩とアリステアさんが戦ってます」

「え、あの二人が?」

「はい。……多分訓練なんですけど止めるかどうか部長の指示が欲しいです」

 

 訓練ならばやらせておけばいいとリアスは思う。

 あの二人なら万が一という事もないだろう。

 リアスがそう思っていると小猫がアーシアの方に早足で近づく。

 

「えと小猫さん、どうしたんですか?」

「……お願いします、アーシア先輩は行ってください」

 

 アーシアを見上げながら小猫は言う。

 困惑するアーシア。

 リアスと朱乃も顔を合わせた。

 模擬線ならば多少の打撲はあれど死に至る怪我はない。三人はそう考えているが、小猫が見透かしたように首を左右に動かす。

 

「……二人とも真剣と実銃で戦っています。正直、訓練には見えません」

 

 

 

 

 ●○

 

 

 

 アリステアの持つリボルバー、"怒れる牡牛(おうし)"の異名を持つトーラス・レイジングブルが()える。大口径のマグナム弾が渚を撃ち抜こうと迫るも刀の剣閃で(はじ)き斬る。

 銃撃と斬撃の応酬が続く。アリステアの撃つ正確無比な銃弾を寸分(すんぶん)(たが)わず斬り落とす渚。それは人という存在が、人の武器を使って戦っている人類を超越した戦い。

 

「音速を越える弾丸は斬れますか」

「的は小さいけど動きが直線的だ。それに祐斗の方が速い」

 

 渚の言葉に戦いを見守っていた一誠は息を呑む。

 祐斗は弾丸よりも速いという。

 

「お前、音速以上で動けんの?」

「速さを売りにしてる騎士だからね」

 

 謙遜した様子の祐斗に一誠は驚くが、その感情を渚とアリステアが吹き飛ばす。

 

「ならば少し趣旨(しゅし)を変えますか」

「何をする気だ?」

「こうするのですよ」

 

 カシャリと機械音が鳴るとアリステアの左手にアサルトライフルが装備される。

 

「ソレ、どっから出した? お前の(ふところ)って四次元か何かか?」

「秘密です。さ、この連続射撃を防げますか?」

 

 腰だめにアサルトライフルを構えると連射を始めた。

 轟音を伴う弾丸の嵐。渚は表情を(こわ)ばらせるも刀を両手に持ち変えて高速でやってくる無数の弾丸への対処を開始する。

 猛撃(もうげき)とも言える弾丸の一切を弾く刀は正に銀閃の結界だ。やがて一斉射が止まるとアリステアがアサルトライフルのマガジンをパージして地面に落とす。渚はその(すき)を逃さない。十メートル以上あった距離を一足(いっそく)()めた。

 

「どうだ!」

「当たりませんよ」

 

 渚の刃をヒラリと(かわ)すアリステア。

 そこから渚が攻め立てながら鋭い斬撃を繰り返す。

 加減はない、本当に斬ろうして振るわれる刃だ。

 

「お、おい木場、ナギもアリステアさんもガチ過ぎないか?」

「渚くんは本気だからね」

「ま、マジか、止めた方がいいんじゃね?」

「今回ばかりは難しいかな」

 

 冷静な祐斗。確かに同意してしまいそうだ。この戦いは竜巻のように周囲を巻き込んでいるのだ、その中に飛び込むなど自殺行為にすら感じる。

 しかし、このままでは血を見るのは明らかだ。

 一誠が声を張り上げようとした時だった。

 

「全くあの二人ったら何してるの?」

「ぶ、部長ぉ」

 

 リアスの登場に安堵する一誠。

 後ろからは朱乃とアーシア、さっき顔を見せた小猫もいる。

 

「あらあら、随分と危なっかしい模擬戦ですわ」

「……はい、アリステアさんも普通に急所を狙ってます」

「はぅナギさんとアリステアさんが戦っています。ど、どうしましょう」

 

 各々が心配を(あらわ)にするが二人の戦いはエスカレートしていく。だがリアスは呆れるばかりで、(あせ)りもしなければ止める素振りも見せない。

 

「止めようと思っても止めらないのだから好きにさせましょう。あの二人の戦いからウチの眷属も学ぶ部分は多いだろうし」

 

 鋭い斬撃は鎌鼬(かまいたち)を連想する突風で周囲の物を吹き飛ばし、苛烈な銃撃は単発ですら大木を軽々と薙ぎ倒す。

 周囲の森が更地(さらち)になってしまいそうな戦闘だ。さながら最上級悪魔同士の争いを見ている気分になる。

 渚は容赦せず本気で戦っていた。これは模擬戦とは名ばかりの実戦である。持てる力の全てをアリステアを斬るために(つい)やしているのは表情からも明白だった。ただ、それは相手がアリステアだからだろう。誰よりもその強さを知っているからこそ手加減をしない。

 アリステアもまた同様で渚なら自分の攻撃を(から)すと思っているから銃弾を撃ち込んでいる。

 模擬戦の範疇(はんちゅう)を超えた死線を()()いながらも双方とも時折(ときおり)不適に笑んでいる。それは互いの信頼が垣間見(かいまみ)える優美な死の舞踊(ロンド)だった。

 

「はは! マジで斬れる気がしない!」

「ふふ、易々(やすやす)と肌に傷を入れるほど甘くはありませんので」

 

 渚が銃弾を()(くぐ)って"輝夜(かぐや)"を放つ。

 超速の抜刀術をアリステアは"眼"で追うと姿勢を低くして刃から逃れる。そしてお返しと言わんばかりに水面蹴りで渚の体勢を崩した。

 地面から脚を離された渚の全身が(かたむ)く。

 

「チェックメイトです、ナギ」

 

 アリステアが右手のリボルバーを渚の額に向ける。

 刀は振り抜かれ、身体は無防備かつ空中。

 もはや剣での防御は間に合わない。

 終わりを告げる指先がトリガーを掛けられた時だ。

 

「まだ終わりじゃない! ──刻流閃裂が崩し、輝夜(かぐや)月影(げつえい)

 

 黒い影がアリステアに襲いかかる。

 それは鉄拵(てつごしら)えの漆黒の鞘。アリステアはその攻撃を鼻先ギリギリで避けた。

 

「輝夜の派生技、隙の生じない二段構え。これが本命でしたか」

「いいや、ここからが本命だ!」

 

 渚が叫ぶ更なる一撃がアリステアを襲った。

 それは同じ軌道から来る()()()

 

「容赦しねぇぞ、吹っ飛べ!」

「──ッ」

 

 刀と鞘を振り抜いて事によって、加速のチャンスを得た渾身の"蹴り"。鋭さと重さを合わせ持った打撃がアリステアの華奢な身体を蹂躙した。

 耐えきれず後方に跳ばされるアリステア。

 

「……よもや三段構えとは驚きました。アストラルコーティング(霊質加工)式のアサルトライフル(SG550)を真っ二つするなんて非常識です、案外高価な銃なんですよ?」

 

 少し()ねた物言い。

 直撃の瞬間に左手にあったアサルトライフルでガードしたのだろう。アリステアに外傷はなかったがライフルは砕けて二つに割れていた。

 渚は苦笑いを浮かべる。倒すまでは行かなくともダメージは与えられると思っていたからだ。

 分かっていたがアリステアは強い。

 

「やっぱり簡単には追い付けないな」

「追い付く? 何にですか?」

「アリステア・メアに。……実はいつか超えてやろうと画策(がさく)していた」

 

 渚がそう答えるとアリステアはポカンとした見たことのない顔をする。

 そして肩を震わせ始めた。

 

「ふふ、あははははは!」

 

 何故か大爆笑だった。

 これには渚はおろか周囲の者達も驚いた。

 クールビューティーを()で行くアリステアが腹を(かか)えて笑っていた。

 あまりにも無邪気だがアリステアと言う少女を知っている人間からしたら異様な光景である。

 しかし本人からは狂喜や怒りを感じない。純粋に面白がっている様子だった。

 

「はぁ~、こんなに笑ったのは久しぶりです」

「いや、うん、よかったね?」

 

 初めて見せる相棒の姿に、そんな陳腐(ちんぷ)な返ししか出来ない渚。

 

「ええ。私を超えるですか。面白い事をいいますね、ナギ」

「む、出来ないと思ってるな」

「……いいえ、全く」

 

 嫌味のない穏やかな笑みだ。

 渚は妙な気分になる。出来ると思ってくれているは確かなのだろう。だがあの爆笑の意味が分からない。

 

「ナギ、笑い疲れたのでそろそろ終わらせますね?」

「……そうか」

 

 渚が本気で警戒する。

 アリステアがリボルバーのシリンダーを開放し、空になっていた薬莢を捨てて再装填を済ませる。

 カチャンとシリンダーを戻したのを見てアリステアの挙動(きょどう)(さぐ)っていると銃声が響く。

 

「──っ!」

 

 渚が(かわ)すも銃弾は(ほほ)(かす)めた。肉の焼ける匂いが鼻孔(びこう)を刺激するなかで渚の思考は別の所にあった。

 

「(銃声よりも早く弾丸が来やがった! しかも見えないぞ!? 弾速を上げてきやがったのか!!)」

「安心してください、貫通力の高いフルメタルジャケット弾ですので肉体の破壊は最小限に留まります」

「あ、安心という言葉の使い方がおかしくないか?」

 

 先程までハッキリと(とら)えていた弾丸が(わず)かにしか見えなかった。なんらかの方法で弾速に手を加えているのは明らかだ。

 

「見えなかったことがそんなに意外でしたか。では一つレクチャーしてあげます。……ナギ、速度には段階があります」

 

 銃口を向けたままアリステアが言葉を紡ぐ。

 

「まずは音速、これは通常の弾丸の速度です。次が光速、物理世界の最速がこれになりますが異能者たちの世界には更に上があります」

「それは初耳だな」

「では教えてあげましょう。今、私が放った弾丸は光速の上を行く"超速"になります、そしてコレがそれすら超える"神速"です」

「あ……」

 

 渚が熱いモノに貫かれる感覚を味わう。

 悲鳴を上げる暇すらない。見れば肩に風穴が空いている。流れ出る血液が渚の衣服を染めていく。

 

「な……?」

 

 気づけば……なんてレベルを()えている。認識したときには傷を受けていると言ってもいい。

 けれどマグナムという大口径の弾丸を受けた割りには傷は浅い。弾が上手く抜けたからだろう。

 弾丸の運動量で肉は裂け、骨まで砕かれたが死にはしない。

 

「これが神の速度。時間と言う概念すら置いていく領域(りょういき)です」

「ぅぐ、恐ろしいな……」

 

 あとからやって来た傷の痛みに脂汗(あぶらあせ)を流す渚。

 

「気づいていますか、貴方のその肩に私は五発の銃弾を撃ち込んだのですよ?」

「ご、五発?」

「上手く通してあげたのでダメージは一発分ですがね」

 

 アリステアがシリンダーを解放し、空薬莢を落とす。

 その数は六発。全ての弾丸が使い切られている。渚の認識では二発しか撃っていない。

 衝撃的な光景だった。

 (いわ)く同じ箇所に五発、傷は一つしかないのにだ。

 神速に驚けばいいのか、アリステアの銃技に感嘆(かんたん)すべきか迷うところである。

 アリステアが銃を仕舞(しま)う。

 

「驚く事でないでしょう。貴方だって神速の使い手です」

「……輝夜だな」

「ご名答。あの技の極致(きょくち)、"貌無(かたなし)"は多元遍在集束現象(たげんへんざいしゅうそくげんしょう)という概念で無限に斬撃を生み出す」

「たげんへんざい……なんだって?」

「多元遍在集束現象です。通常、速度重視の抜刀術である輝夜は鞘走りからの斬撃ゆえに一撃しか刃を振るうことしか出来ない、これは物理世界での絶対法則です。ですが光速を凌駕する神速は時間すら超越します。結果、最初の一撃目という可能性が集束し、斬撃は渚の放てる全ての方向から同時に相手を切り刻むという現象が発生する」

「あ、うん、すごいね?」

 

 やはり分からない。

 渚は専門用語が出てくる会話はどうにも苦手であった。とにかく"神速"は凄く速くて"刻流閃裂(こくりゅうせんさ)"もすごいという事で渚は納得するとした。

 自分でもバカっぽい解釈(かいしゃく)だと思うがどうしようもない。こちとら傷が痛くて思考力も落ちているのだ。

 

「解っていないですね?」

「あ、分かる?」

 

 アリステアにジト目で睨まれた。

 

「専門的な知識が必要ですからね。この辺にしておきましょうか、さっきからギャラリーが目障りなので治療を受けてください」

「助かる、正直倒れそうですらある」

「死にはしませんよ」

「そこは信頼してる」

「そうですか」

 

 アリステアが渚の前より去っていくとアーシアが飛び込んでくるように駆けてくる。

 渚の肩口に手を(かざ)すと当然のように治癒を始めた。

 

「すぐ治しますから」

「なんかゴメンな? 変な気を使わせて」

「お二人にとって必要な戦いなら私も微力ながらお力をお貸しします」

「ありがとな」

「お礼なんて。好きでやらせてもらっていることです」

 

 傷が癒えていく。重傷が数十秒で治った。流石の能力である。

 

「渚」

「リアス先輩? なんですか?」

「やっぱり貴方は強いわね」

「え?」

「改めて思ったのよ、貴方も攻略すべきだってね。これからイッセーと祐斗を交えた訓練をお願い出来るかしら?」

 

 攻略という意味が分からない。だが味方としてなく敵として認識されている気分だ。

 

「俺で良ければ」

「よろしくね、貴方とある程度渡り合えるくらい鍛えてくれると助かるわ」

 

 そう言うとリアスはヒラヒラと手を振りながら去って行った。

 

「えと姫島先輩、リアス先輩の様子が少し変な気がするんですけど……」

「彼女は常に最悪の状況を想定しているのよ。──半年前の失敗があったから」

 

 それはなんなのだろうか? 

 ふと祐斗が言っていた大量の"はぐれ悪魔"が駒王に攻めてきたという話を思い出す。確かアレも半年前だったはずだ。

 渚が心中で首を傾げると朱乃は意味ありげに微笑む。

 

「今回の最悪な状況ってなんなんですか?」

「それはゲーム当日に分かることですわ」

 

 

 

 

 ●○

 

 

 

 リアスが屋敷を目指していると前を歩くアリステアを見つける。

 その背へ追い付くと隣に並ぶ。

 アリステアはリアスを一別すると近くテラスに用意された椅子へ腰を掛けた。

 リアスもまたテーブルを挟んで椅子に腰をおろす。

 

「貴女が渚に弾丸を撃ち込むなんて思わなかったわ」

 

 渚は気づいてないがリアスには解る。アリステア・メアの行動原理は蒼井 渚を中心に回っている。

 きっと彼女が自分の味方でいる最大の理由は渚が居るからなのだ。

 どういう経緯でアリステアほどの存在が一人の男子に尽くしているのかは解らないが……。

 

「意外ですか? 私は必要ならばナギにも銃口を向けますよ。……気分は最悪ですがね」

「顔に出さないのは流石よ。忠臣も大変ね、アリステア」

「好きでやっていることです」

「もう少し渚の前で素直になればもっといい関係になれるわよ?」

「今の関係性で十分ですので」

「いいの? 貴女、彼のことを好いているでしょう?」

 

 リアスの言葉にアリステアは鼻で嗤う。

 

「今の関係性で十分ですので」

「あら、二度目」

「なんですか、その目は……。私がナギを愛してると言えば満足ですか?」

「愛してるとまで言い切るのね。なら聞くけど渚に好きな人が出来たらどうするの?」

「どうも? その女性が蒼井 渚にとって有益ならば何も言うことはありません」

 

 驚くことにアリステアに嘘はない。てっきり物騒な発言がくるだろうと思っていたリアスは意外だった。

 しかし彼女がその気になれば渚は簡単に落ちるだろう。誰もが認める白銀の美女、あらゆる物事を冷静にこなし完遂する完璧超人。それでいて影ながら尽くす世話焼きな一面もある。

 ハッキリ言っていい女だ。性格上、浮気などもしないだろう。

 

「アーシアとあの子にとっては強大な壁だわ」

「簡単に越えることが出来ないから壁というのですよ、リアス・グレモリー」

「それもそうか」

 

 リアスが視線を下に向けて、アリステアの持ち物に目が行く。自分もつい先程まで同じ本を読んでいたからだ。

 

「それ、初期に発行されたレーティング・ゲームのルールブックね?」

「最近の書籍では簡略されてる部分があるので……」

「そんな物を読んでいるという事はやっぱり感付いてるのね」

「貴女もナギをゲームの頭数にいれていないということは悟っているのでしょう?」

「まぁそうなるわ」

 

 アリステアが持っているのは冥界の本だ。

 分厚い広辞苑のような書物は最も初期に発行された物だった。現在では殆どやらないようなゲーム内容が事細かに記されている。パラパラとその本をアリステアは(めく)ると目的のページで手を止めた。

 

「"トライデント"、三つの眷属によるバトルロワイヤル。今の公式戦では滅多に見ないルールだそうです」

 

 要するに三つ巴の戦い。

 ライザーと渚の戦力を(かんが)みて、グレイフィアは間違いなくこのルールを適応するはずだ。

 渚というイレギュラーを組み込んだゲーム、両陣営のパワーバランスを考えたらこの対戦方法がベストなのだ。

 

「複数の陣営と戦うのだから戦術がより多く必要になるわね。特に渚の行動が勝利の決め手となる」

「ナギはライザー・フェニックスを敵として行動するでしょうから漁夫の利を得るのが最適な解でしょう。確かあの男の眷属はフルメンバーだった筈です。グレモリー眷属は三倍以上の数を相手にするのだからナギを利用しない手はない」

「だけど何らかの制限もかかるわ、そうじゃないと渚は私の味方として行動する。グレイフィアもそこは分かっている筈よ」

「グレイフィア・ルキフグス。最強の女王の采配が楽しみですね」

「一つ聞きたいけどいいかしら?」

「どうぞ」

「私が渚に勝つにはどうしたら良いと思う?」

 

 リアスはバカな質問だと思いつつも問う。

 渚の味方に、渚に勝つ方法を聞くなど愚かに過ぎる。

 質問をされたアリステアは本を閉じると立ち上がる。

 やはり教えてくれるはずないと諦めた時だった。

 

「ナギの戦闘力はグレモリー眷属の総合力を上回る、しかし勝ち目がないわけでもありません」

「え? それはなに?」

「聞きますが、戦う場合は木場 祐斗(ナイト)をぶつけるつもりで?」

「加えて朱乃と私がバックアップにするつもりよ」

「それでは負けます。ナギを倒したければ木場 祐斗と共に兵藤 一誠を使いなさい」

「い、イッセーを? 確かに神器は強力だけど経験が無さすぎるわ」

「彼らが攻略の鍵です。そして搭城 小猫も参戦させることをお勧めします」

 

 グレモリーの接近戦担当をぶつけろと言うアリステア。

 しかしそれで勝てる未来は見えない。渚の得意とするのは刀を使った接近戦だ。そんな相手は近づかれる前に仕留めるのがセオリーである。

 だが、あのアリステア・メアの言葉だ。

 

「それで勝てるの?」

「この三人は今の渚にとって難敵になります」

 

 総合力ですら勝てない渚を前に難敵と言い切るアリステア。

 虚偽を言ってないのは確かだろう。彼女は嘘を言う性格ではない。

 

「編成の理由を聞きたいわ」

「神器があるからです、アレは今の渚とは相性が悪い」

「小猫はもっていないわよ」

「彼女は"私と同じ"ですので。……さて塩を送るのはここまでにします、私の言葉を信じるかは貴女次第ですよ」

 

 アリステアはもう話すことはないと一切振り向かずに去っていく。

 そんな彼女を見送るリアス。最後の言葉が胸に引っ掛かった。

 

「小猫とアリステアが同じか。気になる事を言ってくれるわね」

 

 

 

 

 ●○

 

 

 

 

「搭城、そろそろ訓練を再開したんだけど?」

「……何を言ってるんですか? 渚先輩の訓練は禁止です」

 

 自分よりも小さな女の子にピシャリと叱られる渚。

 アリステアとの戦いを終え、アーシアに治療されたのだが、再び刀を握った瞬間に何故か小猫に取り押さえられた。

 小さな戦車である彼女の腕力に勝てるはずもなく、今は黙って隣り合って座っている状況だ。

 因みにアーシアと朱乃は魔力の訓練をするため屋敷に戻り、一誠と祐斗はひたすらに模擬戦を繰り返している。

 

「ほら、ライザー眷属攻略の為に俺も強くならないと━━」

「……渚先輩がこれ以上に強くなったら私たちが何も出来ないので自重してください」

「でも、その方がいいんじゃ━━」

「……これは部長が勝たないと意味がないです。渚先輩が無双したらグレモリー眷属の評価に繋がらないと思います」

「…………はい」

 

 ガクリと項垂れる渚。

 小猫の言い分が正論過ぎる。

 刀を置いて黙って座り続けていると小さな隣人が少し距離を詰めてきた。

 小猫は人見知りな性格だと渚は聞いている。そんな彼女がパーソナルスペースに他人を入れる事はまずない。

 だからいつも渚は困惑する。グレモリー眷属たちから聞いてる小猫と渚の知る小猫に差異があるからだ。

 渚の知っている小猫は少し遠慮がちだが渚の近くに良く依ってくる。

 嫌われるよりはマシだが好かれる事をした覚えもないのだ。

 

「……私、心配したんです」

「ん?」

「……アリステアさんとの戦いです。まるで殺し合いに見えました、実際に先輩は大ケガをしてます」

「ステアは俺よりもずっと強いかならなぁ。……この結果も当然と言えば当然だな」

「……敗北が当然ですか?」

「本気だったら肩じゃなくてココを一撃でやられてる」

 

 トントンと人差し指で眉間をつつく。

 実戦なら額に風穴が空いている。

 悔しさはない、渚はこの勝敗を予測していたからだ。

 今の蒼井 渚ではアリステア・メアには届かない。これは渚の中では絶対の理であり、だからこそ超えたい壁なのだ。

 

「……私は渚先輩がアリステアさんより弱いなんて思いません」

「ありがとな」

 

 慰めの言葉と受け取った礼に対して小猫は首を振る。

 

「慰めじゃないです。私は渚先輩の強さを知っています、先輩は誰よりも強い人です」

 

 渚の言い分に納得してない様子の小猫。

 あまり表情を変えない子だが余程信じているのだろう、声が落ち込んでいた。

 予想以上に想われていた渚は少し悪いことをしたと反省する。

 俯いた頭に自然と手を乗せる。ありふれた慰め方だが、これしか思い付かなかった。

 祐斗辺りならもっと気の利くやり方も出来るかもしれないが渚ではこれが限界である。

 

「信じてくれたのに、ごめんな?」

「……あ」

 

 小さな驚きを見せる小猫。

 不味かったかと渚は手の動きを止めた。

 

「勝手に触られるのは嫌だったか?」

「……こうして頭を撫でられるのは久しぶりで」

「撫でられたのはリアス先輩?」

「……姉です」

「お姉さんがいるんだな」

「……昔の話です」

「そっか」

 

 沈んだ口調。

 あまり語りたくない過去なのだろう。渚はゆっくりと頭から手を退けた、この手が思い出したくない過去を掘り起こしたと考えたからだ。小猫が撫でられた頭に自らの手で触れる。それは名残惜しげな行動にも見えた。

 

「……渚先輩の手は不快じゃないです、優しい感じがします」

「それは初めて言われたよ」

「……アーシア先輩も似たような事を言っていました」

「はは、少し照れるな」

「……だから、その、また触ってもいいです」

 

 顔を背けながら、そんな事を言われた。

 耳が赤いのは恥ずかしかったからかもしない。渚は恥を呑んだ小猫の言葉に報いるため再び頭を軽く手を乗せて撫でた。

 白いサラサラとした肌触りは本当に猫のような気持ちよさがある。

 こうして二人の時間はゆっくりと過ぎていくのであった。

 





データファイル


『神速』

物理法則を無視した領域。
速さと言うより概念に近く、その速度に達した攻撃は時間すら超越する。


多元遍在集束現象(たげんへんざいしゅうそくげんしょう)

本来は重なる筈のない出来事が同時に起こってしまう現象。
渚の場合は『神速』の”輝夜・貌無”が該当。
あらゆる可能性の斬撃が集束した結果、同時に重なり対象を細切れにするという結果が残る。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。