ハイスクールB×B 蒼の物語   作:だいろくてん

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ウチの渚さんは謎が多い。
というわけで長かった合宿は今回で終わりです。



合宿の終わりに《Bad or Good Hapuningu》

 

「終わったわ。ササッと立ちなさい、クソご主人様」

「痛ってぇ!」

 

 バチンと軽快な音が一誠の背中に響く。メイド姿のレイナーレに強く叩かれたからだ。

 一誠の腕には真新しい包帯が巻かれていた。

 これは渚に模擬戦を挑んで負傷した傷である。

 結果は惨敗(ざんぱい)だった。勝負にすらならない。いつも身近に感じていた友人は自分よりも高み立っている。

 リアスの眷属として一誠は一番役に立たないという現実を見せつけられる。戦闘力は低く、魔力も皆無。"赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)"という神を超える"神器(セイクリッド・ギア)"の所持者であるも(いま)だに(にな)い手とは言い(がた)いのだ。

 

「はぁ~」

 

 酷く落ち込む一誠。

 周囲との歴然とした差が(あせ)りを生む。

 恩人であり、憧れの存在のリアスにとって大事な戦いが始まろうとしているのに、なんとも無力な自分が嫌になる。

 

「うざ」

「あっちぃ!!」

 

 首筋に熱を感じて跳び跳ねる一誠。

 レイナーレが光の槍をソフトに押し付けたからだ。

 悪魔にとって毒にも等しい光を受けた一誠は首をゴシゴシと手で(こす)る。驚きと抗議が混じった視線をレイナーレへ向けるが鼻で(わら)う彼女。

 

「ハンッ! 何よ、文句あるの?」

「あちちち! 俺、悪魔! 光に弱いの! 下手したら消滅だっつの!」

「……(ちり)に帰ればいいのに」

「夕麻ちゃん、ボソッと酷い事いうのやめてよ!?」

 

 一誠は涙目になる。

 最近、いつもに増してレイナーレが自分に攻撃的だ。身の回りの世話は『敗者だから……』と渋々(しぶしぶ)態度(たいど)(よそお)いつつもやってくれる彼女だったが少し前から妙に不機嫌な様子が続いている。

 思い当たる(ふし)がない訳じゃない。

 リアスが夜這いに来た日からだ。

 アレにはレイナーレも気づいている。次の日の朝に唇を引き釣らせながら青筋を立てていたのだ。正直怖かったが同時に嬉しくもあった、これは嫉妬されていると分かったからだ。少なくとも自分は好意的に思われていると自覚できた。

 

「何、笑ってんのよ」

「うわ! だから槍を(かま)えるのはやめない!?」

 

 過激な愛情表現。

 もしも仮に「嫉妬してるの?」などと言えば反骨精神(ツンデレ)のレイナーレは勢い余って一誠を殺してしまうかもしれない。嫌な愛の到着点である。

 素直に謝ろうにも一誠とレイナーレの関係は普通じゃない。今さら彼氏彼女といった物になるには色々と複雑すぎる、だからこそ簡潔な主従関係に留まっている状態だ。

 

「……あんた、リアス・グレモリーが好きなの?」

 

 急な質問に一誠はどう答えていいか少し考える。

 

「好きだよ、ずっと憧れていたし……」

「あ、そ」

 

 淡白に言うとレイナーレは光を納めた。

 気の多い男だと呆れたのだろうか……と一誠が彼女の表情を覗き見る。

 

「人の顔を盗み見る真似をやめろ」

「あ、ごめん。怒ってるかなって思って」

「そうね。アレだけ私を好き好き言ってた男に実は本命がいた。つまり私は二番手だった、腹が立つわ」

「そいうわけじゃ……」

「構わないわ。……不快だけどリアス・グレモリーがいい女ってのは分かってるし」

 

 リアスが他の悪魔と違うというのを身を持って味わっているのはレイナーレ自身だ。

 本来なら処刑されているはず彼女が一誠とこうして会話できていること事態が異常なのだから。

 

「今でも夕麻ちゃんの事は好きだ」

「レイナーレよ。……安っぽい告白ありがとう」

「……うっ」

 

 確かにリアスが好きだと言った後ではそう取られても仕方のない事だ。

 

「そんな事より立ちなさいな」

 

 ぐいっと腕を引っ張られる。

 一誠がよろめくが関係なしにレイナーレが距離を取って光の槍を装備する。

 よくわからない行動に一誠は困ってしまう。

 

「え、何?」

「あんたは雑魚よ、成り立てだから当然といえば当然ね」

「き、気にしてるのに」

「事実でしょ。つまり居眠り男は勿論、木場 祐斗にも手加減されている。だからわたしが相手をしてあげるわ」

「えと夕麻ちゃんが相手になる意味は?」

「わたしはあの二人と違って殺す気でやる。あんたに足りないのは技術だけじゃない、経験もよ。今の内に殺意のある攻撃に慣れておきなさい」

 

 槍を低く構えて先端を一誠に向けてくるレイナーレ。光を宿す槍には間違いなく殺気が(こも)っていた。

 

「殺意って、俺、死なねぇ?」

「中にいるドラゴン様がなんとかしてくれるでしょう」

「そんな適当な」

「うっさいわね、行くわよ」

 

 こうしてレイナーレとの模擬戦を始める一誠。

 悪魔に光の槍を平然と突き刺してくる彼女に対して改めて思う。自分の元カノのは恐ろしい堕天使なのだと……。

 

 

 

 

 ●○

 

 

 

「はぁ~、良い()だぁ」

 

 アリステアとの模擬戦を終えた渚は一日の疲れを癒すため風呂に入っていた。グレモリーの別荘とあって立派な大浴場である。

 天井を見上げていた視線を隣にいる一誠へ向ける。

 

「それで?」

 

 渚は本題に入る。

 一誠は生傷だらけで風呂に浸かっている。風呂に向かう途中で会ったのでアーシアの所に行くよう言った筈なのに何故か渚に付いてきて汗を流しているのだ。

 何か相談事があるのは間違いない。

 渚のそんな予想を肯定するように一誠が立ち上がった。

 

「俺を死ぬ気で鍛えてくれ」

「……急にどした?」

 

 余裕のない表情と声に思わず聞き返す。

 

「ここ来て分かったんだ。俺は弱い、それもとんでもなく。このままじゃライザーとの戦いで役に立てる自信がないんだ」

「そんな焦る必要もないぞ? イッセーはまだ悪魔に成り立てだ、弱くても仕方がないんだ」

「夕麻ちゃんにも似たようなことを言われたよ」

「あの人がねぇ」

 

 (はげ)ますつもりで言ったのだろうが刺々(とげとげ)しい性格だからもっと過激な言葉を(おく)ったのだろうと想像できる。

 

「夕麻ちゃんとも戦ったけど負けた」

「そうか」

「それでより強くなるには格上と戦い続けなければならないんだって気付いたんだ」

 

 確かに一誠の言うことは一理ある。

 ゲームじゃないが格上との戦闘はより多くの経験値を貰える。ただ相手が上過ぎると逆に何も得られない場合も多い。結局は一撃でやれてしまうパターンになるからだ。一誠にとって渚も祐斗も上過ぎる相手になる。

 渚はどうするかと頭を悩ませるも、すぐに良い方法を思い付いた。それは自分で実証済みのレベルアップ方法だ。

 

「イッセー、今から死ぬ気で修行するにしても期日が短すぎて身体を壊すだけで終わると思う」

「で、でもさ!」

「だから、とっておきの秘策を教えておく」

「あるのか、秘策!?」

「勿論。答えはソレだ」

 

 渚がピッと指をさす。

 それは一誠の左腕だった。

 

「左手?」

「そこには"赤い龍(ウェルシュドラゴン)"がいる、彼と話すのが一番いい」

「あ、あのドラゴンと喋るのかよ」

「話したことはあるだろ? レイナーレさんがドラゴン化した時に……」

「あるけどよ」

 

 一誠から恐怖が伝わってくる。無理もない相手は伝説のドラゴン、渚だって面と向かって喋れと言われればお断りしたい。

 だが強くなりたいと言うのなら、これは絶対に必要な事だ。渚が千叉 譲刃(せんさ ゆずりは)との邂逅(かいこう)で"刻流閃裂(こくりゅうせんさ)"に目覚めたように一誠にも何か得られるものはある。

 

「大丈夫だって。お前とドライグは(そろ)って赤龍帝だ、つまりアチラさんからしても仲良くしておきたい筈だ」

「本当か……?」

「信じろ。ドライグだってお前が強くなる事を良しとする。宿主が死ねばいつ目覚めるか分からない眠りに付く羽目(はめ)になるからな」

「そこまでいうならやってみる。……けどどうすれば会えるんだ?」

「眠る前に呼べば答えてくれる。俺の場合は……だけどな」

「わ、分かった。早速やってくるぜ!」

 

 怯え半分、期待半分と言った感じで一誠が(あわ)ただしく大浴場を出ていく。

 本当に強くなりたいのだろう。

 どうか良い結果になりますようにと心で祈りながら風呂を満喫していると浴室の扉が再び開く。

 ペタペタと足音が近づくの聞いた渚は浴槽(よくそう)にもたれ掛かった状態で首を後ろに倒す。

 

「なんだイッセー、まだ聞きたいことが……」

「え、ナギさん?」

 

 反転した世界で飛び込んできたのは一誠ではなく金髪の美少女、つまり全裸のアーシアだった。

 渚は視線を上から下にゆっくり移動させて彼女の肉体をガン見する。キュッと引き締まった腰。小ぶりなお尻。太くもなく細くもないふともも。極めつけは小さ過ぎず大き過ぎない程よいサイズの胸。

 

「……素晴らしい」

 

 思考回路がショートした渚は思わずプロポーションについて口に出してしまう。

 きょとんとしたアーシアの表情がみるみる赤くなっていく。下から見上げる状態なので大事な部分もしっかり見えてしまっている。

 渚は不味いと直感的に思うも下手には動けない。健全な男子にとってアーシアのヌードは刺激的すぎて体が反応してしまう。

 とりあえずゆっくりと首を起こして彼女に背を向ける。自制心を前回にして下半身に血が行かないように努力する。

 

「す、すいません!」

 

 アーシアに謝られる。

 はっきり言って悪いことなんて一切ない。謝りたいのはこっちだ。神聖な物を汚した気分ですらある。

 

「気にするな。次からは誰が入ってるか確認した方がいい」

 

 心臓がバクバクいっているが懸命に冷静を装い立ち上がる渚。

 そして風呂場から出るため歩き始める。出来るだけアーシアを見ないように真っ直ぐ出口に行こうとした時だ。

 三度目の扉が開く。

 そこに立っていたのは小猫だった。

 白い肌に小さな体。幼いと思っていた小猫は渚の思っていた通り細い体をしていた……とは言っても肉付きが悪い訳でなく、身長とのバランスは取れているので健康的である。……小さいながも胸もあった。

 

「な、なぎさ……せんぱい?」

 

 金色の瞳が全開になると視線が下に行く。

 渚は神に祈りたくなった。今、そこには女子に見せてはいけない凶悪なモンスターが空を見上げているのだ。

 

「にゃあ~」

 

 刺激が強すぎのかボンッと顔を真っ赤にして倒れ込む小猫。思わず渚は受け止める。全裸同士の抱き合いになるので小猫の感触を直に味わう。

 

「小猫さん! ──きゃ!」

 

 アーシアが慌てて小猫に駆け寄るが背後で聞こえた声に渚は嫌な予感がした。

 ぽよんと心地よい二つの膨らみが背中に当たる。柔らかさの中に小さな突起を感じた。理性が昇天しかける。前後から襲う美少女の裸体。もうどうすればいいか分からない。

 

「ご、ごめんな……ひゃう!」

 

 再び足を滑らせて渚を後ろからガッチリとホールドするアーシア。更に押し付けられる(ふく)らみ。脱出不可能な迷宮入りを果たした気分である。

 さまようアーシアの白い指が棒状の物に触れた。

 

「あ、あれ? これはなんでしょう?」

「クッ!! アーシア、落ち着いてゆっくりと立ち上がってくれ」

「え、あ、はい」

 

 欲望と理性の狭間で美少女二人を介護する。

 二人をキチンと介抱した渚は逃げ出すように浴場を後にする。

 全力で走りながら渚は顔を手で覆い心の中で叫ぶ。

 

 ──見られた、触られたぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

 

 ○●

 

 

 

 お風呂騒動の次の日の朝。

 渚は(あて)がわれた自室にアーシアと小猫を呼び出した。三人は床に正座して1対2で向かい合う。

 

「まず昨日件について謝ります。アーシア・アルジェントさん、搭城 小猫さん、本当に申し訳ありませんでした」

 

 渚が深々と謝罪した。

 介抱するためとはいえ無作法(ぶさほう)に裸へ()れてしまったのだ。

 これについてはキチンと謝っておきたかった。

 二人は頬を赤くさせつつも黙って(うなず)く。

 

「あの、昨日の件は何もなかった事ですし、私も怒ってません」

「……そうです。ちゃんと確かめなかった私も悪いと思います」

 

 優しいお言葉に甘えたくなるがアレは非常に不味い出来事だ。

 一歩間違っていたら取り返しがつかなかった。

 アーシアと小猫のような美少女があんな姿になって男の前に出たら襲われてもおかしくないのだ。

 渚は首を振って二人の言い分を受け流す。

 

「二人ともそんな優しくしてはダメだ。……俺もあと一歩で理性が吹っ飛ぶところだった」

「ど、どうしましょう」

「……私に対してもですか?」

「当然だ。搭城だって立派な女子だ」

「……あ、ありがとうございます」

 

 アーシアが両頬に手を当ててリンゴのように赤くなり、小猫も白い肌を薄くピンク色に染める。

 予想外のリアクションだった。もう少し怒られると思っていたのに何やら嬉しそうですらある。

 渚はこれに危機感を覚えた。もしかしたら二人の貞操概念(ていそうがいねん)は渚が思ってるよりも低いかもしれない。

 アーシアは分かる。ずっと教会で隔離(かくり)生活を()いられていたのだから仕方(しかた)がない。

 だが小猫は意外だった。てっきりリアスが教育しているものだと思っていたからだ。……いや、彼女自身が一誠に夜這いをした事からも性的な方面では放任主義かもしれない。

 あまりにも無防備な二人に渚は男の危険性を教え込むことを決意する。

 

「いいか、二人とも男ってものは危険な生物だ」

「き、危険なのですか?」

「……はぁ」

 

 アーシアは目を丸くして驚き、小猫が首を(かし)げて気の抜けた返事をする。

 

「俺ぐらいの十代の男子は女の子に興味津々(きょうみしんしん)なわけ。かわいい女の子と話したいし触れたい。(しま)いにはエッチな事もしたいんだ」

 

 アレ、俺って何言ってんだ?

 物凄く恥ずかしいことを暴露(ばくろ)してないか?

 そんな疑問が脳内に()()うが、あくまで一般論だと強引に言い聞かせる。

 

「えっちなことですか?」

「そうだ、特にアーシアみたいな純粋な子を言葉(たく)みに丸め込んで襲うやつだっている! ……と思う」

「こ、怖いです」

「そう! 怖いんだっ!! アーシアは人を疑わないからもっと警戒心を持った方がいい」

「……すごい熱弁ですね、渚先輩」

「勿論、搭城もだぞ。外見が可愛らしいから物陰に連れ込もうとするヤツもいるかもしれない」

「大丈夫です、そんな人は天誅(てんちゅう)です」

 

 軽くシャドウボクシングをする小猫。

 小さな拳だがコンクリートを砕く力を持っているので問題ないだろう。ひとまず小猫よりも自衛手段が(とぼ)しいアーシアだ。

 渚が更に男の怖さをレクチャーしようとした時だ。

 

「ナギさんも興味津々なのですか?」

 

 思わぬ純真カウンターが()んでくる。渚は一瞬(おく)したが()えて(かわ)さず正面から受ける。

 

「…………うん」

「お、女の子に、え、ええ、えっちな事を、し、したいのですか?」

「えと、あのね、アーシアさん、これは一般論といいますかね」

「……渚先輩、焦り過ぎです」

 

 アタフタする渚に小猫が冷静にツッコミをいれてくる。だがこれでアーシアや小猫に欲情しないと言えば逆に失礼ではないだろうか?

 小猫は犯罪な感じだが魅力的な部分もある、アーシアに関しては立派な女子だ。

 色々と観念した渚は(なな)め上に吹っ切れた。

 

「したいさ! だって男子だからな!!」

 

 (あらた)めて女の子を前にして自分は何言ってんだと頭を(かか)えたくなる。嫌われてもおかしくないがアーシアにはちゃんと教えなくてはならない。

 ここまで来たら変な使命感が()いてくる。もう気分は松田、元浜、一誠と同様のオープンエロだ。

 ──だが一向に構わん! こうなったらやれる所までやらなきゃならない。しかし、どうしてこうなった!?

 

「な、なら、えっちな事をしたくなった、わ、わわわ私に言ってください!」

「「…………は?」」

 

 渚と小猫の声がハモる。

 どうしてそんな答えに辿(たど)り着いたのだろうか。

 果てない疑問だった。

 

「な、ナギさん。勝手に女の人に触れるのは日本では犯罪だと聞きました。私、ナギさんが警察に捕まるのは嫌です」

「う、うん?」

「なので、どうしても我慢できなくなったら私の体を好きに使ってください」

 

 恐ろしいパワーワードだ。

 金髪碧眼の純真美少女から『私の体を好きに使ってください』などと言われたのだ。

 男殺しのアーシアと名付けよう。渚はそんな下らない事を考えていた。

 

「いやいやいや! ダメだろ、そんなこと言ったら!! もっと自分を大事にしよ、な?」

「私はそれ以上にナギさんの事が大事です!」

 

 言い切るアーシア。

 その瞳は純粋で渚は何も言い返せないほどだ。聖女パワーが色欲(しきよく)(おぼ)れ掛ける男を助けるために己を(ささ)げようとしている。

 

「……わお」

 

 なんとも棒読みな驚き方をする小猫。

 渚も困り果てる。まさかこんなことになるなど夢にも思わなかった。

 自分が思っている以上に好意的なアーシアに渚は戸惑(とまど)う。命の恩人に対して借りを返したいだけかもしれないが好意を向けられるのは嬉しいものだ。

 ふと眠そうな瞳の小猫と目が合う。

 

「ど、どした?」

「……(した)われてますね、すごく」

 

 フラットな口調に少しだけ(とげ)がある。何故か不機嫌な小猫に渚は更なる戸惑いを見せる。

 その後アーシアの問題は発言は渚の説得によりナシになった。純真な彼女を手込(てご)めにするほど鬼畜(きちく)ではない。

 アーシア自身は若干(じゃっかん)残念そうだったのだが……。

 

 

 

 ●○

 

 

 

 アーシアたちと別れた渚は一誠に誘われて別荘の外に出た。しばらく二人で歩いていると人気のない森の中で一誠の足が止まる。

 ここでやるのかと渚は刀を呼び出す。

 

「あ、悪い。今日はちょっと違うんだ、話いいか?」

「話?」

 

 てっきり模擬戦を頼まれると思っていたが違うようだ。

 一誠が"赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)"を装備する。渚は黙ってそれを見守っていると籠手を前に差し出す。

 

「昨日の夜、ドライグと少し話をしたんだ」

「上手く言ったのか?」

「自分でもビックリするぐらい協力的だった」

「そうか。それで話ってのは?」

「ドライグがな、ナギと話がしたいって」

 

 まさかの一言である。

 あの伝説の天龍から対話を求められた。意外すぎる展開だ。

 

「赤龍帝ドライグが俺に?」

「なんか少し聞きたい事があるみたいだ」

「……まぁいいけど」

 

 "赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)"が(あわ)く光ると手の甲辺りにある碧の宝玉が光を放つ。

 

『よう、初めましてになるか』

「そうですね、初めまして赤龍帝ドライグ」

『クク』

 

 天龍が苦笑する。

 

「何かおかしなことでも?」

『敬語を使われると背筋がゾクッとしてな。ため口でいい』

「そうですか。なら一体、俺に何のようだ?」

『単刀直入に聞く。蒼井 渚、お前は何者だ?』

 

 変な質問だ。

 渚は天龍に興味を持たれるほどの事をした覚えがない。だが聞かれたのなら答えるのが礼儀だろう。

 

「自分でもよくわからん。半年前から記憶が跳んでるからな」

「え? ナギ、お前って記憶喪失だったのか」

「まぁな。あんまり言いふらすなよ?」

「お、おう」

 

 騒ぎにしたくないので基本的に記憶の事は黙っている。知ってるのはグレモリーに関わりがある人物とアリステアぐらいだ。

 ともせず渚は思考をドライグに切り替える。

 

「俺の正体を知りたがった理由を聞きたい」

『目覚めたての俺は力が制限されている。普通は宿主の成長と共に時間を掛けて解放されるものだ。しかし今回はその制限が恐ろしく緩い。全てとまでは言えんが俺が力を貸せば直ぐにでも兵藤 一誠を禁手化(バランス・ブレイク)へ誘える。──これは異常な状態だ』

「な!」

 

 驚きの発言だった。

 禁手化とは"神器"の奥義のようなものだ。

 その領域に手を伸ばした担い手は通常の何十倍もの力を手にすると言う代物である。だが達するまでには多くの鍛練を積まないといけない。

 

禁手化(バランス・ブレイク)ってなんだ?」

「神器の力が進化した先だ。それを使えるようになったら今の一誠でも上級悪魔と正面から戦える」

「ま、マジか!」

 

 一誠が歓喜に震える。"神滅具(ロンギヌス)"の禁手化ならば間違いなくソレぐらいには(いた)れる。

 無力だと思っていた自分へ急に舞い降りた力だ。はしゃぎたくなる理由も分かるが懸念(けねん)もある。

 

『残念だが相棒、あまり喜んでもいられないぞ』

「へ? なんでだよ?」

「イッセー、禁手は修行の果てにたどり着くモノらしい。今のイッセーが使えば制御は勿論、肉体が持たない。違うか、ドライグ?」

『ああ、普通に考えれば10秒で限界だ。それ以上は相棒が中から破裂する』

「うそ……」

『本当だ』

 

 落胆(らくたん)する一誠だが成り立て悪魔が禁手化を10秒も維持(いじ)出来る時点で奇跡だ。

 しかしドライグから更に驚きの言葉が放たれる。

 

『だが時間を増やすことが出来るかもしれん』

「ど、どうやって?」

『蒼井 渚、宝玉に触れてくれ』

「宝玉に? 何故だ?」

 

 訝しげに渚が籠手を見る。

 

『お前が近くいると神器が活性化する。実際、龍化した堕天使(レイナーレ)との戦いで相棒は普段の数倍の力を発揮していた』

「そんなバカな。俺がいるだけで神器が強くなるってか?」

『まず触れてみろ』

 

 ドライグの言われるまま半信半疑で宝玉に触れる。

 

「うお! なんだ、これ!?」

 

 籠手から何かかが入ってくる感覚に見舞(みま)われた。そして渚との間にパスのような繋がりが出来る。

 

『やはりな』

「これはどうなってる、ドライグ?」

 

 渚が質問するがドライグも答えを持ち得ていないようだった。

 

『それはこちらの台詞(せりふ)だ。可能性としては特異体質か、お前が神器と深い関係にあるか。そのどちらかだろう』

「特異体質ね。それで神器の具合は?」

『予想以上だ。これなら3分ぐらいなら相棒を神器の負荷から守ってやれる』

「どこかの光の巨人みたいだな」

 

 懐疑的な渚に対して一誠は喜びの声を上げる。

 

「よっしゃあ! 10秒から3分ってかなり()びだぞ。サンキューな、ナギ」

「俺はなんもしてないけどな。お礼はドライグに言ってくれ」

 

 繋がりは一時的なものだったのか、今は感じられない。それにしても妙な異能を持ったもんだと渚は思う。

 あとでアリステアに相談しておこうと決めて刀を構える。

 

「早速、(ため)すか?」

「お、いいのかよ」

「ついでだからな」

「なら頼むぜ。ドライグ、行けるか!?」

『誰に言ってる? 気分のいい目覚めだ、跳ばせ相棒』

 

 瞬間、一誠が真っ赤に染まる。

 そのオーラの光の中で渚は見た。

 

「ヤベ、想像以上に凄いな」

 

 不敵(ふてき)(わら)う渚。

 赤い光に包まれる影は人の形をしたドラゴン。前に戦った龍化したレイナーレを超える龍気に戦慄(せんりつ)する。

 あの伝説の赤龍帝が相手だ、(ふる)えない訳がない。圧倒される渚だったが少しばかり安堵(あんど)もした。制限はあるが一誠は自衛(じえい)できる力を得た。もう誰も彼を雑魚などと呼べないだろう。

 そんな渚に応えるように巨大なオーラを宿した龍の拳が(とどろ)き、大地に激震(げきしん)が走る。

 

 

 

 ●○

 

 

 

 合宿、最後の夜。

 渚は山道から満天の空を(なが)めていた。

 (いま)だにチーム戦が苦手な自分に不安を覚えていると足音が近づいてくる。木々の間から出てきたのはアリステアだった。

 

「ナギ、何をしているのですか?」

「ステア」

「明日は帰宅です、準備は?」

「終わってるよ」

 

 当然のように渚の隣に立つアリステア。

 

「今日の昼、貴方と出掛けた兵藤 一誠が禁手化(バランス・ブレイク)(いた)りましたね」

「気づいたか」

「兵藤 一誠に関して今回で至ると確信があったので」

 

 言い切るアリステア。一誠の劇的な成長は予想済みだったみたいである。

 しかし一誠が至った禁手化(バランス・ブレイク)は"赤龍帝の籠手(ブーステッドギア)"本来の禁手(バランス・ブレイカー)より性能が劣る。

 ドライグ(いわ)く時間を()けて到達するはずの力を裏技みたいな方法で手に入れたのだから仕方ないとの事だ。(もっと)も一誠の成長で(いく)らでも神器は強くなるらしいので、いつか真の性能に近づくとも言っていた。

 

「いきなり禁手化(バランスブレイク)するとかデタラメすぎる」

「要因はありました」

「その要因ってのは俺か?」

「ドライグ辺りに聞きましたか」

「俺が近くにいると神器が活性化するとか言ってたよ」

「そうです。貴方は神器に干渉(かんしょう)してしまう体質……いえ能力を所持(しょじ)しています」

「干渉ね。ステアは俺がなんなのか知ってるんだよな?」

「蒼井 渚。それ以上の何者でもないでしょう」

「相変わらずの秘密主義な返事か。だけど、それでいいかもな」

 

 自分が何者かと知ったところで何も変わらないし、変えたくもない。今の渚は駒王の学生で、オカルト研究部の部員で、グレモリー眷属の協力者。

 普通とは違うが最近はこれでも(かま)わないと思いつつある。

 

「少し話題を変えても?」

「ああ」

 

 アリステアがそう言うと一枚の紙を渡してくる。

 月明かりを頼りに見ていくと何かの資料だと分かった。

 

「これは"トライデント"というレーティング・ゲームのルールになります」

「トライデント?」

「三つ巴の戦い。……高い確率で今回はこのルールが適応(てきおう)されます」

「待て、俺はライザー・フェニックスだけじゃなくてグレモリー先輩とも戦うかもしれないのか」

「ええ」

「納得した。これってグレモリー先輩も知ってるな?」

 

 それなら今回の合宿で渚との連携に重きを置かなかった理由も納得できる。リアスの言った『攻略対象』という意味もだ。

 

「それでどうしますか?」

「とりあえずライザー陣営へ仕掛けるのは決定事項だな」

「確かに理想系ではありますが……」

「何かあるのか?」

主催(しゅさい)が貴方にペナルティを()すかもしれません」

「ベナルティか」

 

 あり得る話だ。

 例え三つ巴とはいえ普通に考えれば渚はライザーの方から攻撃する。ならば構図的にはライザー対リアスのままだ。

 

「詳細が分からない事には対策も立てられない。当日、せいぜい頑張ってください」

「そうだな、せいぜい頑張るさ」

 

 考えても仕方がない。

 どうせ本番にならないと開示されないのが今回のルールだ。ならば待つしかないだろうと渚は覚悟を決める。

 ライザーとの戦いは(すで)にそこまで迫っているのだ。

 





思ったよりも長引いた合宿も終わり、ライザーとの戦いが始まります。
素人ながらも、もう少しスピーディーに話を進ませたいと思う作者だったりします。
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